コスチュームを受け取った戦慈達は更衣室に向かう。
ちなみに更衣室はA組とB組は別である。
戦慈はトランクを開けて、中の物を取り出して着替える。
アンダーシャツを脱いで上半身裸になると、周囲から息を呑む気配を感じた。
「……拳暴……お前、その体……」
「あん?あぁ……暴れりゃあ怪我くらいする。まぁ、これはガキの頃に『個性』を鍛えようとして付いた傷ばっかだけどな」
「いやいや、どんな鍛え方だよ」
「ガキだったからな。無茶苦茶なことばっかしてたんだよ。ケンカしたり、崖から飛び降りたり、車に飛び込んだりした」
「半端ねぇな!?」
「よく生きてたな……」
「体は頑丈なんだよ」
戦慈は答えながら黒いタイツのアンダーシャツを着て、紅い長袖で体にフィットする短丈ジャケット。両手には黒の籠手を身に着ける。そして黒いズボンにブーツ、紅い腰マント。
昔、自分を助けてくれた人の格好だった。赤の仮面と合うとも思ったのもある。
手を離握手したり、肩を回して動きにくさを確認する戦慈。
「こんなもんか」
着替え終えて演習場に向かう戦慈。
他の男子も着替え終えて、ゾロゾロと後に続く。
「戦闘訓練かぁ。でも実技入試とは違うよな?」
「実技入試って何したんだ?」
「ロボットとの戦闘だよ」
「強かったのか?」
「そこまでではなかったな。ビルくらいデカいロボットが1体出たけど」
「拳暴と巻空はそれを吹っ飛ばしたんだろ?」
円場が腕を組んで考えていると、骨抜が首を傾げる。それに泡瀬が答えて、骨抜が再度尋ねる。それに首を傾げながら泡瀬が答え、円場が後ろにいる戦慈を振り返って尋ねる。
それに戦慈が頷く。
「まぁな」
「でも、他にも誰か殴り飛ばしたって聞いたよ?」
「ああ、A組にいるらしいぜ」
「あれを壊せるのが3人もいるのかよ」
「あの程度大したことねぇだろ。人間の方がたちが悪ぃ。あれがポイントあったら全員狙ってただろ?」
『もちろん!』
戦慈の言葉に全員が頷く。
そして演習場に入ると、女子陣はすでにやって来ていた。
「お!拳暴」
「……悪役」
「うるせぇよ。おめぇも人の事言えねぇだろうが」
一佳は青いチャイナ風のコスチュームに黒のマスク。
里琴は紅いフードコートに黒のミニワンピース、その下には黒のショートパンツ。腕と脚には黄色のプロテクターを身に着けている。そして戦慈とそっくりの黄色の仮面を着けている。
互いのコスチュームで盛り上がっていると、ブラドとセメントスが現れる。
「さて!全員揃ったな!」
「皆、かっこいいじゃないか」
「先生!戦闘訓練って入試と同じロボット相手ですか?」
「そんなわけはない。すでに入試で行ったことを今更やることに意味はないだろう」
「今回の戦闘訓練は……対人戦闘訓練だよ」
「それも屋内での戦闘だ」
ブラドとセメントスの説明に目を見開く一佳達。
初めてにしてはかなり過激であると思ったのだ。基礎訓練もせずに、しかも屋内での戦闘は屋外での戦闘とは勝手が違う。それをいきなりやるのはかなり無茶ではないかと考えている。
「いきなりのように思えるが、屋外での戦闘については入試である程度感覚は掴んでいるだろう。しかし、屋内での戦闘はほとんど経験したことはないだろう?」
ブラドの問いに頷く鉄哲達。
セメントスが人差し指を立てて、説明を引き継ぐ。
「君達やメディアが多く目撃しているのは屋外での戦闘ばかりだと思う。けどね、一番大事なのは
「そして現在はヒーロー飽和社会と言われている。実際、街では常に多くのヒーローが巡回しているだろう?そんな中で暴れる奴は少ないだろう。つまり恐ろしいヴィラン程、闇に潜んでいるということになる。そうなると凶悪ヴィランの捕縛は屋内への突入・戦闘が絶対条件となるんだ」
「と、いうことでまずは君達に屋内での戦闘を実体験してもらい、その上で今後の課題や『個性』の活かし方を把握してもらうというわけさ」
「なるほど!」
2人の説明に頷く一同。
「では!これからお前達には2人1組になってもらい、ヒーローチームとヴィランチームに分かれて戦ってもらう!」
「生徒同士での戦闘!?」
「そうだ!ここでクラスメイトの『個性』や戦い方も分かる!」
「なるほど」
「では、簡単に設定を伝えるよ。ヒーローチームにはヴィランチームのアジトに隠してある核兵器を処理するために乗り込んでもらう。あぁ、もちろん核兵器はハリボテだよ」
(((当たり前だろ!!)))
「勝敗条件は以下の通り!ヒーローチームは制限時間内に『核兵器を確保する』か『ヴィランチームを捕縛する』こと!ヴィランチームは制限時間までに『核兵器を守る』か『ヒーローチームを捕縛する』こと!」
伝えられた設定と勝敗条件に戦略を考え込む一同。
それに笑みを浮かべながらブラドは手元の箱を持ち上げる。
「チーム決めと対戦相手の決定はくじで決める!」
「……現場では誰と組むかは分からない…か」
「本格的だな」
「では、くじを引け!!」
出席番号順にくじを引く戦慈達。
戦慈はGチームで中国からの留学生、鱗飛竜とのコンビになった。鱗はキョンシーのようなコスチュームを着ている。
「よろしく」
「おう」
里琴は鎌切と組んでAチーム。一佳は骨抜と組んでDチームになった。
「……よろ」
「おう」
「頑張ろうな!」
「お手柔らかに」
「では、最初の対決はこいつらだ!ヒーローはEチーム!ヴィランはGチーム!」
「他のチームはビルの地下のモニタールームで観戦だよ」
「よっしゃあ!!勝たせてもらうぜ!拳暴!鱗!」
「いきなり難敵ですな」
Eチームは鉄哲と宍田。
拳同士を打ち合わせて気合を入れて、戦慈達に宣戦布告する鉄哲。
「いきなり面白い組み合わせになったな」
「そうですね」
「では、ヴィランチームはビルに入って準備をしろ!ヒーローチームは5分後に外からスタートだ!」
ブラドの言葉に移動を開始する一同。
五階建てのビルに入って、戦慈達は作戦会議をする。
「あの2人は近接型だったな。鱗、てめぇは?」
「俺の《鱗》は飛ばすことも出来る。お前も近接型だよな?」
「基本はな」
「どうする?俺が先行するか?」
「それについて提案がある」
戦慈は鱗に作戦を伝える。それに目を見開く鱗だが、すぐに頷いて笑みを浮かべる。
そして2人は準備に入った。
鉄哲と宍田はマップを覚えながら、作戦を練る。
「私が索敵ですな」
「ああ、けど俺らはどっちも近接タイプだ。2人で移動するべきだな」
「そうですな。問題はヴィランチームのどちらが前に出てくるか……」
「鱗の『個性』がはっきりとしてねぇからなぁ。でも実力を考えたら鱗が出てくるはずだ」
そろそろ5分という時、
ドオォン!!
「「!?」」
ドオォン!!
ビルの中から音が響いてきた。それも2回。
「……何か仕掛けたってことだよな?」
「でしょうな」
「……ああ!!考えても分かんねぇ!!どうせ突っ込むしかねぇんだ!!行くぜ!宍田!」
「おう!」
『では!!STARTだ!!』
開始の合図が告げられる。
鉄哲は迷うことなく扉に向かい、鍵がかかっている扉を殴って吹き飛ばす。
「っしゃあ!行くぜぇ!!」
「力押しですなー」
宍田が少し呆れながら付いて行く。
その様子をブラド達は地下で観戦していた。
「どっちも力押しだな」
「まぁ、『個性』的にはそうなるよな」
「それに力押しでも拳暴達のは結構いやらしいよな」
骨抜達を筆頭に感想を語る。
その横で一佳達もモニターを眺めていた。
「大半が近接タイプか~。ヴィランチームがどう出るかだよね」
「……決まってる」
「だよなぁ」
切奈が腕を組んで呟くと、里琴がそれに答えて一佳は苦笑しながら頷いている。
「というと?」
「すぐに分かるよ」
「……ん」
「ん」
「だからややこしい」
鉄哲と宍田は2階に上がり、階段を探す。
2階はかなり入り組んだ間取りとなっており、死角が多い。
「……宍田、どうだ?」
「いますな!いますな!近づいてきてますなぁ!!」
宍田の《ビースト》は獣化し、体格筋力聴力嗅力視力を大幅にアップさせる。しかし獣化中はとってもハイになる。
そのため静かに声を掛けても、宍田は大声で返答してしまう。
「まぁバレてるからいいか!!で?誰が来てんだ!?」
「俺だよ」
「「!?」」
戦慈が壁を蹴り跳ねながら、奥から現れた。
「あれだけ大声で吠えりゃ位置くらい分かるわ」
「お前か拳暴おおおお!!」
「ガアアアア!!」
鉄哲と宍田が拳を構えて飛び掛かる。
戦慈は鉄哲の額に右ストレートを叩き込む。
ガギィン!!
鉄同士がぶつかった音が響き、鉄哲が反り返りながら後ろにたたらを踏む。
その隙に宍田が爪を振るうが、戦慈はしゃがんで躱し、左拳をアッパー気味に宍田の胸に叩き込む。
「づぁ!?」
「ぐふぅ!?」
「……硬化……いや、《鉄》か。それに獣化」
戦慈は冷静に分析して通路を遮るように立つ。
鉄哲と宍田は体勢を立て直して、戦慈と向かい合う。
「痛くねぇ!!」
「まだまだですぞぉ!!」
「なら、行くぞ」
ドン!と強く踏み込んで一瞬で2人に詰め寄る戦慈。それと同時に2人に拳の乱打を浴びせる。
「おらららららららららららららら!!!」
「があ!?ご!?ぎっ!?」
「ぬぅ!?おおおお!?ごぁ!?」
高速で放たれる拳の連打に鉄哲と宍田は防ぐことで精一杯だった。
戦慈の連打は止まるどころか、更に激しくなっているように感じる2人。
(とっ!止められねぇ!?)
(獣化しても……見切れないとは!)
「どうしたぁ!!この程度かよぉ!!」
「づあ!?」
「ぐぅ!?」
遂に吹き飛ばされて後ろの壁に叩きつけられる鉄哲と宍田。
戦慈は追撃せずに拳を構えて、2人を見据えている。
「2人がかりで情けねぇなぁ。サービスだ。教えてやるよ。4階と5階に上がる階段は砕いてある」
「「!?」」
「お前らは俺を倒して、登れねぇ階段を上がって、鱗を倒すか核を取らねぇといけねぇぞ?その体たらくでいいのか?」
「くっそぉ!!宍田ぁ!!先に行け!拳暴は俺が止める!!」
「承知ですぞおおおお!!」
鉄哲が飛び出し、その後ろに宍田が続く。
鉄哲が戦慈に殴りかかると同時に宍田が飛び上がって、先ほどの戦慈同様壁を蹴って飛び越えようとする。
戦慈は宍田を止めようと上を見上げる。
そこに鉄哲の右拳が戦慈の腹に突き刺さる。鉄哲はそれで油断せずに先ほどのお返しとばかりに連続で殴り続ける。
「おおおおお!!行っけえええ!!宍田あああ!!」
「おおおお!!」
「甘ぇよ」
2人が意気込んだと同時に、戦慈が右手で鉄哲の横顔を掴んで壁に叩きつける。
「ぐぅ!?」
戦慈はすぐさま振り返って駆け出し、階段に迫っていた宍田の左横に猛スピードで迫る。
その速度に宍田やモニターを見ていたブラド達は目を見開く。
戦慈は走りながら腰を捻って左アッパーを宍田の腹に叩き込む。宍田は一瞬息が止まるが、腹筋に力を入れて耐え、なりふり構わず両腕を振るった。
「ごあああああ!!」
まさに獣の如く叫びながら全力で振るわれる宍田の両腕。
モニターで見ていたブラド達は吹き飛ばされる戦慈の姿を思い浮かべる。
しかし、戦慈は右腕で右から迫る腕を防ぎ、左から迫る腕はガードもせずに左脇腹で受け止めた。
「な……!?」
「驚いてる場合か?」
戦慈は右脚を振り上げて、宍田の顎を蹴り上げる。
「ぶぅ!」
戦慈は右脚を勢いよく振り下ろし、そのまま右後ろ回し蹴りを宍田の胴体に叩き込む。宍田はくの字に体を曲げて吹き飛んで、鉄哲の横を通過して床に転がる。
「宍田!!」
「よそ見してる場合か?」
「っ!?」
ガガガガガガァン!!
鉄哲は宍田を振り返るが、一瞬で戦慈が鉄哲に迫り、鉄哲の頭部に高速で拳の連打を叩き込む。
鉄哲は鉄化を意識していたが、想像以上の衝撃で意識が飛びかけ、その場で膝をついてしまう。
「っ!?」
『拳暴!!状況はどうだ!?』
「おう。問題ねぇ。体も温まってきたしな。もう負けるこたぁねぇ」
「っ!ちっくしょぉ……!」
『……流石だな。油断はするなよ』
「おう」
鱗からの通信を終えて、戦慈は未だ起き上がれない鉄哲達を見下ろす。
戦慈の体は膨れ上がっており、湯気のようなものが噴き出している。
モニタールームでは戦慈の姿を見ながら冷や汗を流していた骨抜達。
「……圧倒的すぎるだろ」
「何か体デカくなってない?」
「煙みたいのも出てるしな」
「……あそこまでパワーが上がるのか」
「拳暴ってどんな『個性』なんだ?」
切奈が里琴と一佳に顔を向けて尋ねる。
「……《戦狂》」
「《戦狂》?」
「拳暴の『個性』だ。あいつは体が《強靭》で、ある程度《自己治癒》が出来て、アドレナリンが出る程《パワー》が上がるんだ。それで筋肉が膨れ上がるらしい」
「「「……」」」
「つまりあいつは動けば動くほど、攻撃を受ければ受けるほど力を増す。だから、ああなる前に勝たないとダメだったんだ」
「……無理ゲー」
「「「ホントだよ!?」」」
里琴の言葉に頷いて叫ぶ骨抜達。
「まぁ、普段ならあそこから衝撃波ぶっ放して元に戻るんだけど……」
「……屋内……無理」
「ってことだな」
「しかし、その代わり恐ろしい筋肉の鎧とパワーは維持されるということだ」
「限界はないのか?」
「……後3倍」
「ん?」
「……あの3倍まではいけるってことだな?」
「……ん」
一佳達の説明をブラドが補足する。
泡瀬が里琴に尋ねて、里琴が答えるが意味が通じずに唯が首を傾げる。それを一佳が顔を引きつかせながら通訳して、里琴が頷く。
その内容に骨抜達はもはや顔を引きつかせることしか出来なかった。
その頃、モニター内では鉄哲がふらつきながら立ち上がっていた。
「まだ……負けねぇ……!」
「もう俺にはさっき程度の攻撃は効かねぇ。俺に勝つなら一撃で倒すしかねぇぞ?」
「くっ!っ!?」
戦慈の言葉に歯軋りする鉄哲だが、気づくと目の前に巨大な手が迫っており、避けようとする前に顔を掴まれる。
「が!放せぇ!」
「いいぜ」
「!?」
戦慈は右腕1本で軽々と鉄哲を持ち上げて、右横の通路に放り投げる。
鉄哲は体に物凄くGを感じ、はっきりと状況が分かった時には体が浮いており、遠くに右手をこちらに伸ばしている戦慈の姿が見えた。直後、背中に衝撃を感じて意識が飛ぶ。
「が……あ……!?」
「ちっ!力が入りすぎた。まぁ、まずは宍田を抑えるか」
戦慈は宍田に近寄り、捕獲テープを巻きつける。
「これで1人。後は鉄哲だな」
戦慈は鉄哲に近寄る。
すると、鉄哲が立ち上がろうと両腕に力を入れていた。
「……」
「ぐ……が……負…けねぇ……」
意識は朦朧としているようで、戦慈が目の前にいるのも気づいていない。
「……その鉄みてぇな根性は認めてやるよ」
戦慈は鉄哲の胸元を掴んで持ち上げる。
それによって意識がはっきりと戻る鉄哲。
「ぐ……!」
「だから……歯ぁ食いしばれやぁ!!」
振り返って右拳を握り、振り被る。
そして鉄哲の左頬に右ストレートを叩き込む。
「ぶがぁ!!」
鉄哲は無抵抗で殴られ、体を2回転ほど捻りながら吹き飛んでうつ伏せに床に倒れる。
そして起き上がることはなかった。
『……もう無理だな。ヴィランチームの勝利だ!!』
「おう。終わったぞ」
『……お疲れ。……なんもしてねぇ~』
「まぁ、悪りぃとは思うがよ。わざと行かせるわけにいかねぇだろが」
『分かってるさ。お前と組んだことが幸運であり、不運だっただけだよな』
「ふん」
『拳暴、鱗。地下に降りてこい。鉄哲と宍田はハンソーロボで保健室に運ぶ』
ブラドの声が響き、鉄哲と宍田に目をやると担架を作っている小型ロボに運ばれていく姿が目に入り、「金掛けすぎだろ」と呆れる戦慈。
鱗も降りてきて、地下に降りようとした時、
「あぁ、いけね。先行っててくれ」
「拳暴?」
戦慈は何かを思い出し、外に向かう。鱗は首を傾げて、何となく後をついて行く。
外に出た戦慈は道路の真ん中に立つ。
「?」
鱗は改めて首を傾げると、戦慈は左脚を前に出して、右腕を振り被る。そして全力で右アッパーを空振りする。
ドッッッパアアアァァァン!!!!
「ひぃ!?」
恐ろしい音と共に、恐ろしいほど巨大な衝撃波が上空に向かって放たれる。
鱗はビクゥ!と驚いて、尻餅をつく。
そして戦慈に目を向けると、体が萎んで元に戻っていた。
戦慈は右腕の籠手やコスチュームを確認する。ヒビや破れたりは一切していなかった。
「へぇ、本当に耐えやがった」
戦慈は感心するように頷いて、ビルに戻る。
座り込んでいる鱗を見て首を傾げる。
「何してんだよ?」
「いや……ちょっと驚いただけ」
『おい。何をしてるんだ?』
「ちょっと発散してただけだ」
『……ああ、そういうことか。終わったなら早く降りてこい』
「わかってんよ」
そして地下のモニター室に降りる2人。
戦慈の体が戻っているのを見て、一佳がジト目を向ける。
「なんか凄い音したと思ったら。拳暴、お前か?」
「力溜め込んだまま終わりまでいれるわけねぇだろ。力加減ムズイんだよ」
「それもそうか」
「……圧勝」
「相性が良かったからな」
里琴の言葉に肩を竦める戦慈。
そこにブラドが声を上げる。
「さて、鉄哲と宍田がいないが、一応講評するぞ」
「と言っても拳暴が暴れただけじゃ?」
物間が首を傾げる。
「結果はそうだな。だが、それ以外では最初に階段を砕いたのが見事だ。それを踏まえて鱗が5階に残ったのもな」
「え?」
「鱗は鱗を飛ばすことも出来る。つまり崩れた階段の上で待機しておけば、登ってくる前に射撃で攻撃することが可能だった。だから拳暴が抜かれたとしても、足止めをする手段は十分に講じられていた。そうだな?」
「はい」
「鉄哲は身体能力が上がるわけじゃねぇからな。宍田に抜かれても、すぐに鉄哲を放置して追いかけて、挟み撃ちにする予定だった」
「ということだ」
ブラドと戦慈の説明に得心したように頷く一同。
戦慈の身体能力なら階段などなくても飛び上がれる高さだった。なので階段を砕いて一番厄介そうだったのが宍田だったのだ。
「鉄哲達も宍田を行かせようとする判断は間違っていなかった。拳暴の実力を測り損ねたのと、捕縛が意識から抜けていたのが大きな敗因だな」
「鱗君も活躍は出来なかったかもしれないが、役割に徹することも大事なことだよ。今回は2対2と分かっていたから、あそこから動いても問題はなかったかもしれないが、本番だったらいつ援軍が来るか分からないからね」
「ありがとうございます……!」
セメントスのフォローに鱗は頷きながらホロリと涙を流す。
「MVPは文句なく拳暴だ。戦闘技術も見事だった」
「流石にあれ以上殴られてたらヤバかったけどな」
「え?里琴は後3倍はいけるって言ってたけど?」
戦慈の言葉に切奈が首を傾げ、それに一佳達も頷く。
「力を溜めるだけならな。あれ以上だと力加減したつもりでも衝撃波が出て、壁吹き飛ばしちまう。鉄哲達の体も打撲とかじゃすまねぇ」
「……バケモンじゃん」
「パワーが上がるのもいい事ばかりじゃないのか」
「贅沢な悩みだねぇ」
肩を竦めて話す戦慈に、切奈や一佳は苦笑し、物間が嫌味たっぷりに両手を広げる。
「そこらへんは考えねぇといけねぇな」
「だったら一度サポート科の工房にでも聞いてみなさい。コスチュームのライセンス持っている先生もいるから、相談に乗ってくれるよ」
「ああ……そんなんあったな。分かった」
「拳暴、敬語」
セメントスのアドバイスに頷いていると、一佳がジト目で注意する。それに再び肩を竦める戦慈。
「よし!階段が壊れたこともあるし、2回戦はビルを変えて行う!移動するぞ!」
「その前に、次の対戦チームを決めましょうか」
「おっと、そうだな。では、くじ引きだ!」
ブラドが箱に手を入れて、ボールを取り出す。
「ヒーローチームはFチーム!ヴィランチームはAチームだ!」
「巻空とか~」
「全力を尽くすのみです」
「……やる」
「ヒャヒャヒャ!斬り刻んでやるぜぇ!」
「……鎌切って、こんな奴だったっけ?」
「初めて知った」
「ん」
Fチームは円場と塩崎だった。
それに無表情ながら気合を入れる里琴に、突如ハイになり物騒な言葉を叫ぶ鎌切。
やや不安になりながらも、次の戦いに向けて移動を開始する戦慈達であった。