ようやく駆けつけたNo.1ヒーロー、オールマイトの姿に緑谷やメリッサは自然と笑みが浮かぶ。
その横に里琴が降り立ち、無表情でオールマイトを見上げる。
オールマイトは体が落ちるのを感じて、体を丸めて力を籠める。
「親友を返してもらうぞ!ヴィランよ!」
叫びながら体を大の字に開くと、後ろに衝撃波が飛び、その勢いでヘリに向かって飛び出す。
オールマイトは拳を突き出しながらヘリを猛スピードで貫通する。
直後、ヘリが爆発して火に包まれる。炎上しながら墜落を始めると、更に大爆発を起こす。
緑谷とメリッサは唖然と炎を見つめていると、炎の中からデヴィットを抱えたオールマイトが降り立った。
オールマイトはデヴィットをゆっくりヘリポートの床に降ろし、手足の拘束を壊していく。
メリッサはデヴィットに駆け寄り、声を掛ける。
「パパ……パパ……!」
「う……メリッ……サ……」
デヴィットは出血と痛みで顔を歪ませながらもメリッサの呼びかけに答えようとする。
それにオールマイトは笑みを浮かべて力強くメリッサに言う。
「もう大丈夫だ」
その言葉にメリッサは微笑み、緑谷は左肩を押さえながら近づきホッとする。
里琴はその更に後ろで入り口を眺めていた。
オールマイトがデヴィットに声を掛けようとして口を開こうとした時、
ヘリが墜落した炎の中から1本の鉄柱が飛び出してきて、オールマイトを吹き飛ばした。
オールマイトは吹き飛ばされる直前にデヴィットを放していたので、デヴィットは無事だった。
「オールマイト!!!」
転がっていくオールマイトを見て、緑谷が叫ぶ。
すると、地面から鉄のコードが飛び出してデヴィットの体に巻きついて行く。そして、炎に向かって吸い寄せるように引っ張っていく。
「がぁっ!」
「パパ!」
「博士!」
「……っ!!」
メリッサと緑谷が叫び、里琴が再び足裏から勢いよく竜巻を放出してデヴィットを追う。
しかし、更に地面が割れて鉄板や鉄パイプ、鉄の瓦礫が浮かび上がり、里琴の飛行を阻害してくる。鉄柱も出現し、里琴はデヴィットを追いかける事が出来なかった。
「……浮かぶ鉄?」
里琴は先ほどまでのウォルフラムの力と比べ物にならないことを訝しむ。
先ほどまでは触れている金属だけを操っていた。しかし、今は明らかに空中に浮いている金属までも操っているし、その量も異常なほど多い。
浮かび上がった金属は炎の中に飛び込んでいき、凄まじい勢いで山のように大きくなっていく。それによって炎も掻き消される。
デヴィットも山の中に呑み込まれて姿が見えなくなる。
そして、その金属の怪物とも言える山の頂点にいたのは、ウォルフラムだった。
「サムめ……。オールマイトは『個性』が減退して、往年の力はなくなったとか言ってたくせに……!」
ウォルフラムは仮面が外れており、頭にはフックのような機械が取り付けられている。更に目つきもまるで何かに憑かれたようになっていた。
緑谷はその姿を見て、歯軋りをする。
「あいつ、博士の……!」
ウォルフラムはオールマイトの姿を確認してすぐにデヴィットの発明した装置を身に着けたのだ。
緑谷はウォルフラムを睨みつける。
メリッサは地面に座り込んで、デヴィットが捕まっているであろう場所を見つめていた。
里琴は接近を諦めて、メリッサの横に降りる。
「……離れる」
「でも……!」
メリッサは涙目で里琴を睨みつけるように見上げる。
しかし、里琴は一切表情を変えずに言い切る。
「……これ以上は私達じゃあなたを守れない。……そこの馬鹿もボロボロ」
「っ……!」
「巻空さん……」
里琴の言葉は真実だった。
ウォルフラムは80階にいたヴィランとは違う。しかも、今はデヴィットの発明を使っている。オールマイトにすら匹敵しかねない強大な敵である。
緑谷はすでにボロボロだ。飛んでいるヘリからクレーターが出来る程の衝撃で落ちたのだ。しかも、保管室での戦いもある。
里琴も同じく80階での戦闘、保管室でのダメージ、そして先ほどのヘリを止めるための戦いで限界に近い。
ただでさえ普通のウォルフラムにすら勝てなかったのに。
オールマイトがいるとはいえ、メリッサを守って、デヴィットを救って、ウォルフラムを倒すのは今の里琴達ではほぼ不可能だ。
それでも戦うならば、メリッサをここから遠ざけることが絶対条件なのだ。
自分を守るので精一杯なのだから。
メリッサもそれを理解して、ただただ悔しさに唇を噛む。
緑谷も両手を握り締めて、オールマイトを見る。
オールマイトは咳込みながら立ち上がる。口元を押さえた手の甲には血が付いていた。
更には体から蒸気が立ち上がる。
「シィット……!時間が……!」
ただでさえ今日はマッスルフォームを何度も使用している。しかも、先ほどの解放されるまででもかなりの時間と体力を使った。
オールマイトはすぐにいつもの笑みを浮かべて、拳を構えて飛び出す。
「往生際が悪いな!テキサス・スマーッシュ!!」
気迫を込めて、渾身の力で拳を振り抜くオールマイト。
しかし、その拳はウォルフラムに届くことはなく、一瞬で鉄壁が出現して防がれてしまう。
しかも鉄壁は壊れることなく、小さいクレーターが出来るだけでオールマイトの攻撃を受け止めてしまった。
「なに!?」
驚き、目を見開くオールマイト。
緑谷達も目を見開いて驚く。鉄壁は特別なもののようには見えない。オールマイトならば簡単に砕けるはずだ。
しかし、それが出来なかった。
「なんだぁそりゃ!?」
ウォルフラムは鼻で笑いながら手を振る。
鉄壁のクレーターから鉄柱が突き出し、オールマイトを押し飛ばす。吹き飛ばされたオールマイトは、ヘリポートの床に叩きつけられて、床が砕けてタワー上部の壁に亀裂が入る。
すると、砕けた瓦礫を吸収したり鉄板をめくって取り込んでいく。
ウォルフラムがいる金属の塊の下から青い静脈のようなものがタワー上部に広がっていく。風力発電のプロペラや壁の鉄板、停止していた警備マシン達も吸い上げていく。ドンドンとウォルフラムの金属の塊が大きくなっていく。
「流石、デヴィット・シールドの発明。『個性』が活性化していくのが分かる。ははは!いいぞ、これは!いい装置だ!」
ウォルフラムは満足げに笑いながら、次々と金属を取り込んでいく。
その様子を体から蒸気を出しながら立ち上がったオールマイトは、唖然と見上げている。
「これがデイヴの……」
「さぁて、装置の価値を吊り上げるためにも、オールマイトをブッ倒すデモンストレーションといこうか!」
ウォルフラムは高慢に言い放ちながら手を振り、金属を操り始める。
勢いよく飛び出して、オールマイトに襲い掛かる鉄塊やプロペラ。それを紙一重で躱しながら、オールマイトはウォルフラムに殴りかかる。
ウォルフラムは笑みを浮かべたまま軽く手を振る。直後、高速で鉄柱がウォルフラムの根元から飛び出して真正面から食らわせる。
オールマイトは両腕で受け止めるも圧し負けて、床に叩きつけられる。それでも鉄柱は止まらずに圧し続ける。
その衝撃で周囲の床も割れて波のように隆起していく。
メリッサや緑谷達のところにも襲い掛かり、里琴はすかさずメリッサを抱えて飛び上がる。緑谷もそれに続いてジャンプして、オールマイトを振り返る。
オールマイトは両腕で必死に鉄柱を押さえ込んでいた。その体からは蒸気が上がっており、顔を俯かせて咳込んでいた。
(オールマイト……!やっぱりそうだ。活動限界なんだ!)
緑谷はオールマイトの様子に焦るが、周囲の状況から中々手が出せそうになかった。
しかも、鉄柱が緑谷達にも襲い掛かり始めた。
「くっ!」
「……抱えるの代われ」
「え?え!?わぁ!」
「きゃあ!?」
緑谷が顔を顰めると、里琴が突如緑谷にメリッサを投げる。メリッサは悲鳴を上げ、緑谷は慌てながらも受け止める。
直後、里琴は高速で飛び出し、オールマイトに襲い掛かっている鉄柱に竜巻を放つ。
しかし、鉄壁が何枚もせり出し、竜巻を防いでいく。
「……っ!」
里琴は連続で竜巻を放つが、それも防がれる。さらに鉄のチューブや鉄柱が里琴に向かって襲い掛かる。
紙一重で躱して、オールマイトを救ける隙を狙う里琴だが、周囲から次々と鉄柱や鉄チューブが飛び出してくる。
「……うぷっ」
しかし、遂に限界が訪れる。強烈な吐き気に襲われて、足裏の竜巻のコントロールが崩れる。
その隙を逃さずに鉄柱が真横から襲い掛かり、里琴を突き飛ばす。
里琴は床に叩きつけられる。
「……うぷっ!」
里琴は痛みと酔いで起き上がることが出来ず、口元を押さえて呻く。
「巻空さん!」
「マイトおじさま……!」
緑谷はメリッサを抱えたまま鉄柱を躱しながら叫ぶ。
メリッサは今も必死に鉄柱を耐えているオールマイトを見つめている。
「ぐっ……がはっ!」
オールマイトは血を吐きながらも必死に耐え続ける。
それに苛立ちを覚えたウォルフラムはトドメを刺そうと大量の鉄柱を出現させて、オールマイトに向ける。
「さっさと潰れちまえ!!」
そして勢いよく飛び出し、オールマイトへと向かう。
「オールマイト!!」
「マイトおじさま!!」
緑谷やメリッサが叫ぶ。
その時、空気が妙に冷たくなったのを感じた。
直後、オールマイトに向かっていた鉄柱が一気に凍り付く。
「なに……!?」
突然の氷結に目を見開くウォルフラムの耳に、小さな爆発音が聞こえてきた。
その方向に目を向けると、ウォルフラムに手の平を向けて飛び上がっている爆豪の姿があった。
「くたばりやがれ!」
爆豪の連続爆破に、ウォルフラムは舌打ちしながら手を振って鉄壁を生み出して攻撃を防ぐ。
両手に鋭い痛みが走り、顔を顰める爆豪。爆豪も里琴同様ヴィランや警備マシンとの戦闘で限界を迎えていた。
「ちぃ!……あんなクソだせぇラスボスに、何やられてんだよ!えぇ!?オールマイトォ!!」
それでも爆豪は不敵な笑みを浮かべてオールマイトに叫ぶ。
「爆豪少年……!」
そしてヘリポートの入り口に目を向けると、肩で息をした体におりた霜を炎で溶かしている轟がいた。轟もすでに体温調節をしても限界が近かった。
「今のうちに……ヴィランを……!」
その後ろから飯田達や一佳達も駆けつける。
「轟君!みんな!」
緑谷は頼もしい仲間の登場に顔を輝かせる。
一佳は周囲を見渡す。
「拳暴と里琴は……!?」
「里琴いた!!あそこ!!」
「拳暴さんはいませんね……」
「里琴!」
一佳達は里琴の元に走ろうとするが、鉄柱が出現する。
「くっ!」
「私にお任せを!」
一佳が顔を顰めると、茨がツルを伸ばして里琴を包み込んで引き寄せる。
「里琴!大丈夫か!?」
「……骨は拾って」
「冗談は言えるみたいだね」
「でも、顔色悪い」
「ん」
里琴は一佳の腕の中でぐったりとして、なんとか呟く。切奈達はホッとするも、明らかに顔色は悪くてもう戦えそうになかった。
その横で切島と飯田が前に出る。
「金属の塊は俺達が引き受けます!」
「八百万くん!ここを頼む!」
「はい!」
両腕を硬化した切島とエンジンを吹かした飯田が駆け出し、伸びてくる鉄柱を砕く。
それを見た一佳は切奈に里琴を渡す。
「私も行く!里琴を頼んだ!」
「了解!」
一佳は両手を巨大化して鉄柱を殴り砕き、瓦礫を投げつける。
ポニーも角砲を発射して援護する。
「我が正義の鉄槌を……!」
茨が両手を上げて、ツルの全てを真上に伸ばして纏めていく。
まるでツルの巨大樹のようになり、鉄柱にも太さは負けていない。
「はあああああ!!」
上半身ごと振り回して、ツルの樹を薙ぎ払う様に振る。
爆豪や轟も爆破や氷結を放って、鉄柱を砕いていく。
その限界を超えても戦おうとする生徒達の姿にオールマイトは再び体に喝を入れる。
「教え子達にこうも発破をかけられては……」
体からあがる蒸気が消え、筋肉が再び膨れ上がっていく。
「限界だのなんだの言ってられないな。限界を超えて、さらに向こうへ……!」
オールマイトを押さえ込んでいた鉄柱にビキィ!と亀裂が入る。
そして力強く踏み込むと、鉄柱は容易く砕けてウォルフラムに向かって飛び出す。
「そう!プルスウルトラだ!!!」
ウォルフラムは手を振り、更に鉄柱を出現させ、さらに凍り付いていた鉄柱も氷を砕いてオールマイトに向かわせる。
それをまとめて砕き、次々と襲い掛かってくる鉄柱を砕きながらオールマイトは猛烈な勢いで突き進む。
どれだけ押し飛ばされても、回り込んで砕きながら、鉄柱を足場にしながらウォルフラムに迫っていく。
ウォルフラムは腕を振り、3方向から鉄柱を伸ばして襲い掛かる。
オールマイトは両腕をクロスさせて力を溜めて、当たる直前で開放する。
「カロライナァ・スマーッシュ!!」
激しい音と衝撃波が飛んで鉄柱が砕け、爆風が吹き荒れる。
「観念しろ!ヴィランよぉ!」
勢い衰えずウォルフラムに突撃するオールマイト。
しかし、拳を振り上げて殴りかかろうとした瞬間、周囲から金属のワイヤーが伸びてきてオールマイトの四肢を拘束してウォルフラムの目の前で止まってしまう。
「この程度……!」
オールマイトはすぐさま振り解こうとするが、その前にウォルフラムの左手がオールマイトの首を掴む。
するとウォルフラムの腕が膨れ上がり、さらにウォルフラムの筋肉が服を破って膨れ上がる。熱を帯びたように肌が赤くなり、更に力が増す。
「観念しろ……?そりゃお前だ。オールマイト」
不敵に不気味に笑みを浮かべるウォルフラム。
(な、なんだ……このパワーは……!?)
オールマイトが戸惑っていると、ウォルフラムは右手でオールマイトの脇を掴む。そこにはオールマイトの古傷があり、ウォルフラムはそれを的確に抉っていた。
「ぐっ!ぐうううがああああああ!!!」
オールマイトは吐血しながら叫び、体から再び蒸気が上がり始める。
それに緑谷が駆け出すが、左肩の激痛で膝をついてしまう。
爆豪や轟達もオールマイトの状況には気づいたが、鉄柱の対処で精一杯だった。まるで生き物のように襲ってくる鉄柱に限界が近い、限界を迎えている爆豪達は悔しさに顔を歪ませることしか出来なかった。
「くそがああ!!」
爆豪が悔しさに叫ぶ。
その時、爆豪の脇を鉄柱がすり抜けて、八百万や切奈達がいる場所に迫る。
更に他の方向からも鉄柱が襲い掛かる。
「っ!?しまっ!!」
八百万は出来る限りの《創造》でバリケードを創るも到底防げる気はせず、轟や一佳達も破壊するが次々と鉄柱が向かっていき間に合わない。
ポニーと茨は別方向の鉄柱を壊した直後の為、残りの鉄柱の破壊に動けない。
誰もが直撃を覚悟した。
「逃げろぉ!!」
一佳が叫ぶ。
里琴が切奈の腕の中で両腕を振ろうとすると、真上を影が飛び越え、暴風が舞う。
「オォラァ!!」
飛び出した影はまるでオールマイトのように鉄柱を軽々と砕いて行く。
次々と襲い掛かる鉄柱を高速で移動して砕いていく。殴り壊す度に衝撃波が飛び、周囲の鉄柱や床を砕く。
もちろんそんなことが出来るのは、現状唯1人。
里琴や八百万達の前に守る様に降り立ったのは、傷だらけの大きな背中。
それに一佳や切奈達は笑みを浮かべる。
「拳暴!!」
「わりぃな。遅くなった」
戦慈はウォルフラムや鉄柱の群れを睨みながら、軽く謝る。
一佳や飯田達は戦慈の元に駆け寄り、一度息を整える。
「……おそ…すぎ」
里琴が切奈に抱えられたまま、辛そうにしながらも戦慈に文句を言う。
戦慈は顔だけ里琴に向ける。
「だから、わりぃって言ってんだろ。警備マシンが邪魔で、壁や施設を壊さねぇようにしてたから全力で動けなかったんだよ。1回警備マシンごと非常階段砕いて、落ちちまったしな」
「……おばか」
「うっせぇよ。……随分と暴れたみてぇだな」
「……ん」
戦慈は一佳や爆豪達、少し離れたところにいる緑谷にメリッサ。そしてオールマイトを見る。
「……ホントに大遅刻しちまったみてぇだな」
戦慈はゆっくりと前に出る。
「俺が少し変わる。テメェらは少し体を休めてろ」
「拳暴……!」
「しかし!」
「っ!来ますわ!」
戦慈の言葉に一佳と飯田が言い返そうとすると、八百万が叫ぶ。
鉄柱の群れが再び戦慈達に向かってきていた。
それに飯田と切島が構えるが、
「オオオオォララララララララララララララララァ!!!」
戦慈が叫びながら拳の乱打を放ち、その拳全てから衝撃波が飛び、衝撃波の壁となって鉄柱の群れを砕いて土煙をあげる。
戦慈の両腕と肩からは白い煙が上がり始めるが、それでも鉄柱の全てを砕くことは出来ず、まだまだ鉄柱が飛び出してくる。
それを戦慈は勢いよく駆け出し、鉄柱を殴り壊していく。
「ちっ!キリがねぇ。オールマイトは何してやがる……!」
戦慈は舌打ちして顔を顰めながら鉄柱を砕いて行く。
オールマイトにも救けが必要のようだが、流石に今の里琴や一佳達を放置するわけにもいかない。
オールマイトは後ろで激しくなる戦闘音を、激痛と首を絞められた苦しさで意識が遠のきそうな中で聞いていた。
(この力は《筋力増強》……『個性』の複数持ち……!)
金属を操る『個性』と力を増す『個性』。複合型としても絶対にかみ合わない『個性』だった。
つまりウォルフラムは2つの『個性』を持っていることになり、その事実に嫌な予感がするオールマイト。
そして、その嫌な予感は1つの答えしか導き出さない。
「ま、まさか……!」
「ああ……この計画を練っている時、あの方から連絡が来た。是非とも協力したいと言った。何故かと聞いたら、あの方はこう言ったよ」
『オールマイトの親友が悪に手を染めるというのなら、是が非でもそれを手伝いたい。その事実を知ったオールマイトの苦痛に歪んだ顔を見られないのが残念だけどね……』
ウォルフラム、そしてオールマイトの頭に、穏やかだが不気味な声が響く。
オールマイトの、《ワン・フォー・オール》の宿敵の言葉に、オールマイトは愕然とする。
「オール・フォー・ワン……!」
「ようやくニヤケ面がとれたか」
「ノォオオオオオ!!」
怒りと苦しみに叫び、ワイヤーを引き千切ろうとするオールマイト。
ウォルフラムはそれを愉快そうに見下ろしながら手を放して、正面から鉄柱を叩き込む。
ワイヤーに四肢を引っ張られてもがくオールマイトの左右から、四角い大きな鉄の塊が勢いよく挟み込む。
「……!!」
緑谷とメリッサが愕然と目を見開く。
さらにウォルフラムが鉄の塊を生み出し、それらは磁石のようにオールマイトを挟み込んだ鉄の塊に次々と勢いよく突っ込む。
「オールマイト!!」
八百万や一佳達も目を見開いて叫ぶ。
戦慈も歯軋りをして鉄柱を砕きながらウォルフラムを睨む。
「さらばだ!オールマイトォ!」
ウォルフラムが叫びながら腕を振り上げる。
床から先が尖った鉄柱が何本も飛び出し、オールマイトが閉じ込められた鉄の塊を貫く。
「マイトおじさまぁ!!!」
メリッサが悲痛に叫んだ直後、鉄の塊に向かって2つの影が飛び出した。
緑谷と戦慈である。
緑谷は《ワン・フォー・オール》の力を全身に漲らせて、ただただオールマイトを救けたい一心で拳を振るい、戦慈も力を左腕に籠めて振り抜く。
(デトロイトォ・スマーッシュ!!)
「オォラァ!!」
2つの巨大な力が、巨大な鉄の塊を打ち砕く。力を出し切ってしまった緑谷は飛んで来た鉄の破片にぶつかり落下する。それを追いかけるようにボロボロになったオールマイトが飛び出す。
戦慈は体がリセットされたが、飛んでくる鉄片を両腕で殴り壊しながらウォルフラムの隙を探る。
「ガキ共がぁ……ぐぅ!?」
ウォルフラムは忌々しそうに吐き捨てるが、2人が砕いた鉄片がウォルフラムや足元の金属の塔に叩き込まれていく。
ウォルフラムが痛みに顔を顰めると、コントロールが乱れたのか塔が更に崩れて、中にいたデヴィットの姿が露わになる。
「あれは……!」
戦慈はそれを見逃さなかった。
そしてオールマイトがてこずっていた理由を悟る。それは戦慈にとっても厄介なことだった。
「あいつがいたんじゃ、吹き飛ばすわけにはいかねぇか……!くそ!」
戦慈は舌打ちする。そして、まだ飛んでくる鉄片を砕いて、躱しながら一佳達の近くに戻る。
一佳達の前に降り立つと同時に、また体がフルパワーまで膨れ上がる。
「拳暴!大丈夫か!?」
「他の2人に比べりゃな」
戦慈は軽く答えるが、全身から自己治癒を示す白い煙が上がっている。
明らかに戦慈も限界に近づいていることに、一佳や唯達は顔を顰める。
「どうすれば……!」
「でも、オールマイト達なら思いっきりぶん殴れば壊せるんじゃねぇのか!?」
一佳が歯軋りし、切島が叫ぶ。それは爆豪や轟達も内心思っていたことだった。
「あの中に人質がいる。下手すりゃ、そっちが先に死んじまう」
「そんな……!?」
戦慈の言葉に八百屋や一佳達が目を見開く。
戦慈は爆豪と轟に目を向ける。
「まだいけるかよ?」
「あぁん?誰に言ってんだ。殺すぞ!!」
「出来るかどうかじゃねぇ。やってやるさ」
爆豪は顔を顰めてイキり、轟は力強い眼差しを戦慈に向けて答える。
それに戦慈は僅かに口を吊り上げると、仮面を外して一佳に投げ渡す。
「え!?け、拳暴?」
「暴れる。壊れると面倒だから持っててくれや」
「……戦慈」
一佳に背中を向けたままで答えると、里琴がふらつきながら前に出てくる。
「これ以上やると吐くぞ?」
「……それでもやり返す」
そうじゃないと気が済まない。
真っ白な顔かつ無表情で死人にすら見えそうな里琴だが、その声と瞳にはかなりの怒りが込められていた。
「……なら、好きにしな」
「……ん」
戦慈は里琴に言うと前に出ながら爆豪と轟に言う。
「あいつを倒すにはピンポイントで倒さねぇといけねぇ。それには周りが邪魔だ。少しでもこっちで引き付けるぞ」
「俺に指図すんじゃねぇ……!」
「オールマイトも緑谷も限界だ。これで決めさせる」
「そういうこった」
「……殺す」
再び戦慈、里琴、爆豪、轟の4人が前に出る。
戦慈は両手を握り締めて脇を締める。そして両足を開いて腰を屈める。
「おおおおおぉ……!」
そして体に力を籠めていく。
これが最後。
ならば、今までの鬱憤を全てここで吐き出して叩き込む。
ボロボロになった里琴や一佳達、そしてメリッサの姿を思い浮かべる。
自分が最初に行くと言っておきながら、この体たらくである。
もちろん誰も無傷でいるとは思っていなかったが、ここまでボロボロにさせるつもりはなかった。
その役目は自分だったはずなのに。
その自分が一番最後に来たという事実に、戦慈は自分にすらも苛立っていた。
その怒りも力に変える。
「ううううぅルルルルルラァ……!!」
戦慈の唸り声が変わる。
それに気づいた一佳達は声を掛けようとするが、戦慈は更に変化する。
皮膚が赤くなり、体が更に一回り膨れ上がる。
髪も更に硬く鋭く逆立ち、紅黒く染まっていく。
「あ、あれが……!」
「広島で見せた力……!」
一佳達は目を見開いて、その変化を見守る。
爆豪や轟も僅かに目を見開く。
そして、戦慈は空に向かって吠える。
「ヅゥウルルルルルルルラアアアアァ!!!」
戦慈から衝撃波が吹き荒れる。
「拳暴……!」
「なんてパワーだ……!」
「体育祭よりもすげぇ……!」
「……でも、あれって暴走するんじゃ?」
切奈が首を傾げて不安を呟く。
それに一佳達も「そう言えば」と改めて戦慈に目を向ける。
戦慈はズン!と右足を踏み出して、ウォルフラムを睨みつける。
「……標的は1つ。……それ以外興味ない」
里琴が安心させるように言う。あんまり安心出来ないが。
「それでもいい!奴の邪魔が出来るならな!」
轟が左手を構えながらウォルフラムを睨む。
爆豪も「ふん!」と言いながら、右手で小さく爆破をしながらウォルフラムを睨む。
里琴も目だけはウォルフラムを鋭く見つめている。
「俺達もやれることをやろう!」
「だな!」
「里琴!無理するな!援護は任せろ!」
飯田達も気合を入れ直す。
「行くぞ!雄英ヒーロー科!」
『おう!』
最後の戦いが始まった。