戦慈と共にオールマイトを助けた緑谷は、鉄片に当たり地面に落ちた。
そこに更に大きな鉄片が緑谷の上に迫る。
押し潰されるかと思った時に、影が飛び込んできて鉄片を受け止める。
それはボロボロで体から蒸気を出すオールマイトだった。
オールマイトは背中に乗った鉄片をのけて、緑谷の前にしゃがみこむ。
「緑谷少年!そんな体で……なんて無茶な!」
自分同様満身創痍なのに飛び出してきた緑谷に、オールマイトは叫ぶように声を掛ける。
緑谷は少しふらつきながら顔を上げて、痛みに耐えながらもぎこちない笑みを浮かべる。
「だって、困った人を救けるのがヒーローだから……」
自分の行動に一切疑問を感じていない緑谷の言葉と力強い瞳に、オールマイトは一瞬胸をつかれた。
相手が誰であろうと救けが必要な人がいるならば、迷わず飛び出す少年。
ボロボロで今にも倒れそうだが、それでも安心させようと笑みを浮かべるその姿はまさしくヒーローだった。
オールマイト自身、心掛けているヒーローとしての在り方だった。
その姿にオールマイトは再び力が湧き上がるのを感じた。
「……ハッハッハッ!ありがとう。確かに、今の私はほんの少しだけ困っている」
オールマイトは笑い、そして緑谷に手を差し伸べる。
「手を貸してくれ。緑谷少年」
「……はい!」
オールマイトの手をしっかりと握り返して頷く。
そして、オールマイトは緑谷を引き上げるように起こして、ウォルフラムを見上げる。
その時、
「ヅゥウルルルルルルルラアアアアァ!!!」
背後から雄叫びが轟き、さらに猛烈な風が吹き荒れる。
「あれは……!」
「拳暴少年のようだ。……彼にも救けられてしまったな」
自分達の後ろにはまだ心強い仲間がいる。
それだけで緑谷とオールマイトは力が湧いてくる気がした。
そして緑谷は右手のフルガントレットを見つめる。もう何度も普段以上の力を籠めた。
もうこれも限界が近いだろう。どうか最後まで保ってくれと願いながら、緑谷は正面を見据える。
「……行くぞ!」
「はい!」
気合を込めて、2人はウォルフラムを目指して駆け出す。
それを痛みに耐えながら見ていたウォルフラムは怒りで叫びながら両腕を振り上げる。
「くたばりぞこないとガキがぁ……!ゴミの分際で往生際が悪いんだよぉ!!」
宙に浮いていた小さな鉄片が集まって無数の塊になり、2人に飛び掛かる。
「そりゃ、てめぇだろうがぁ!!」
「ヅゥラアアアァ!!」
爆豪と戦慈が飛び上がり、爆豪は両手を突き出して激痛に耐えながら最大火力の爆破を放つ。
戦慈も叫びながら、両腕を振り回して衝撃波を吹き荒らす。
爆炎と暴風に一掃される鉄の塊。
戦慈はまだ残っている鉄の塊に突っ込んで、ピンポン玉のように次々と鉄の塊へと飛び跳ねながら破壊していく。
その中をオールマイトと緑谷は一切足を止めずに走り続ける。その速度はドンドン上がっていく。
今度は鉄柱の群れが矢のように飛び掛かる。
「させねぇ!!」
轟が叫びながら右手を地面につけて、すくい上げるように振り抜きながら氷結を全力で放つ。
鉄柱の前に巨大な氷壁が出現し、ぶつかり合って砕け合う。
その隙にオールマイトと緑谷は更に突き進む。
氷結で壊せなかった鉄柱は、戦慈が猛烈な勢いで飛び掛かって殴り壊していく。
「ヅゥルルルルァ!!!」
戦慈は右腕を振り、そのまま流れるように左脚を振り上げる。
衝撃波が飛び、また集まろうとしていた鉄の破片を吹き飛ばす。
止まらないオールマイトと緑谷、そして邪魔をする戦慈達に苛立つウォルフラムは、さらに激昂しながら両腕を振る。
「邪魔だあぁ!!」
地面のあちこちから鉄柱が飛び出し、八百万達や一佳達がいる地面の近くがめくり上がる。
「きゃあ!?」
「うわっ!?」
「ん!?」
地面ごとひっくり返りそうになった八百万を、茨がツルを伸ばして受け止める。
「下がりましょう!」
「メリッサさんは!?」
茨が八百万を降ろしながら叫び、切奈がメリッサを探そうとするが、さらに地面が割れて足場が崩れる。
「里琴!!」
「……」
一佳が里琴に呼びかけるが、里琴は顔を俯かせて突っ立っている。
直後、里琴のすぐ横で鉄柱が飛び出す。
一佳は慌てて片手を巨大化して掴もうとするが、里琴は突如足裏から竜巻を放出して飛び出す。
里琴は炎を出して体の霜を溶かす轟の後ろに飛ぶ。
「……火ぃ貸せ」
「あぁ!?……分かった!!」
轟は一瞬意味を考えるも、すぐに理解して左の炎を強めて前に放出する。
「……スパイラル・ツイスター」
里琴は残っている力を全て乗せて両腕を交えるように振り、炎にスパイラル・ツイスターを放つ。
螺旋の竜巻は炎を巻き込んで、さらに炎の勢いと竜巻の威力を高める。威力と速度を上げた炎の竜巻は、鉄柱や鉄の塊を容易く抉りながら突き進み、ウォルフラムの少し下の金属の塔を抉る。
「……外れた。……うぷ」
里琴は無表情ながら悔し気に呟き、頬を膨らませて口を押さえながら後ろに倒れる。
一佳が慌てて駆け寄り、里琴を抱き上げる。
さらに顔が真っ白になった里琴は口を両手で押さえたまま、大人しく一佳に抱っこされる。
「里琴はもう駄目だな……」
一佳はため息を吐いて、まだ氷結を放っている轟に目を向ける。
その先では戦慈が激しく動き回って鉄柱を砕いていた。
「ヅゥルルアアアアアアアァ!!」
叫びながらラリアットで鉄柱をへし折り、他の鉄柱を踏み砕きながら跳び上がって鉄の塊を蹴り砕き、腕を振り抜いて衝撃波を飛ばして鉄柱や鉄の塊を砕き散らす。そして、さらに暴れまわる。
しかし、その間にも背中から鉄柱が叩き込まれて地面に勢いよく落ちたり、左右から鉄の塊が襲い掛かり挟まれるなど攻撃を浴びている。
それでも獣の如く叫んで、再び飛び出していく。もはや体から出ている白い煙は汗の蒸気なのか、自己治癒のものなのか判断できない。
「拳暴……!」
間違いなく無理をしている。でも、それを制御できるわけではない。
助けに行きたいが里琴も限界で、一佳も鉄柱を殴り続けて、両手の甲側の指の付け根に血が滲んでいる。
茨もポニーも体力的に厳しくなっている。
飯田や切島は麗日や八百万のカバーで手一杯だ。
「オールマイト、緑谷……!」
一佳は1本の鉄柱の上を猛烈な勢いで共に駆け上がっていくオールマイトと緑谷の背中を見つめる。
2人も全力で走りながら鉄柱や鉄塊を躱したり砕いたりして突き進んでいる。その背中は力強いも余裕はない。
それでも願わないわけにはいかない。
勝ってくれと、倒してくれと。
オールマイトと緑谷の姿に希望を感じながら、一佳は願う。
しかし、ウォルフラムも全力で抵抗する。
「ぐぐぐおおおお!!」
ウォルフラムは戦慈同様獣のように叫びながら両腕を高く上げる。
もはやその姿からは当初の理知的な印象は消え失せている。
ウォルフラムの真上に大量の鉄片や鉄塊が猛スピードで舞い上がり、1つに集まっていく。
それはどんどん大きくなっていき、先ほどまで襲い掛かってきた鉄塊すらも豆つぶのように見える程の大きさになる。
巨大な鉄の塊はもはやタワーすらも潰せそうな大きさになる。それでもまだ大きくなっていく。
「ててて……。え……なに、あれ……?」
「……あれ、落とす気?」
崩れた鉄の破片の中から体を起こした麗日と柳が唖然とそれを見上げる。
飯田や爆豪達も顔を顰めて、巨大な鉄塊を見上げることしか出来なかった。
例え全快状態であっても、あれを壊すのは至難であると感じてしまったからだ。
しかし、その巨大な鉄塊に怯まず突き進む者達がいた。
オールマイトと緑谷だ。
オールマイトは左拳を、緑谷はフルガントレットの右拳を構える。
「目の前にあるピンチを!」
「全力で乗り越え!」
「人々を全力で!」
「救ける!」
「「それこそがヒーロー!!!」」
2人は叫びながら全ての想いと力を拳に籠める。
その姿を集まった一佳や八百万、爆豪達が固唾を呑んで見つめる。
「タワーごとぉ!!潰れちまえぇ!!」
ウォルフラムが怒号と共に両腕を振り下ろす。
巨大な鉄塊が2人に向かって落ち始める。
オールマイトと緑谷はそれをしっかりと見据えて、全力で拳を叩き込む。
「「ダブルデトロイトォォ!!スマーッシュ!!」」
凄まじいパワーが宿った2つの拳が、巨大な鉄塊の落下を止めた。
それどころか押し返され始めるのをウォルフラムは感じた。
「ぐ!?ぐぐ、ぐ……!」
ウォルフラムは僅かに目を見開くも、押し返そうと力を籠める。
「「ぉぉおおおお!!」」
オールマイトは吐血しながらも、緑谷はフルガントレットにヒビが入りながらも、力を緩めずに拳を押し込んでいく。
ウォルフラムはさらに力を籠めようとした時、
「ヅゥルルルルルラアアァ!!」
「「「!!」」」
獣如き叫び声と共に、オールマイトと緑谷の背後に新しい影が現れる。
2人は目だけを後ろに向ける。
そこには、両腕を振り被った戦慈がいた。
その姿に一佳や唯達は目を見開く。
「拳暴!!」
「いつの間に……!」
「ん!」
その時、一佳の腕の中から声がする。
「……やっちゃえ、戦慈」
里琴は掠れた声だが力強く呟く。
それが聞こえた一佳は、里琴の言葉に自然と笑みが浮かんだ。
そして、思わず叫ぶ。
「拳暴ーー!!ブッ飛ばせーー!!!」
「ん!!」
「信じています!!」
「やっちゃえー!」
「行けー!!」
「スマーッシュ!!」
唯、茨、切奈、柳、ポニーも戦慈に向かって叫ぶ。
それに応えるように、戦慈は全てのパワーを両腕に流して、オールマイトと緑谷の拳の真上に両拳を全力で叩き込む。
「ヅゥラアアアアアア!!!」
オールマイトと緑谷と遜色ないパワーが巨大な鉄塊に叩き込まれる。
鉄塊にエネルギーの波が走ったように見え、それはウォルフラムにフィードバックする。
「ぐぉお!?ガハッ!」
耐えようとした瞬間、後頭部に装着していた『個性』増幅装置がオーバーワークで異常をきたす。
それによって抑える事が出来なくなり、ウォルフラムの両腕が大きく弾かれる。
直後、巨大な鉄塊に亀裂が一気に走り、轟音と土煙を巻き上げて爆発するように崩壊する。
「……さっさと……決めてこいや」
戦慈は体が元に戻り、苦し気に顔を歪めながらオールマイトと緑谷に言い、そのまま下に落ちていく。
オールマイトと緑谷は目だけで頷き、一気にウォルフラムへと迫る。
その姿に麗日が叫ぶ。
「いけぇええ!!」
「「オールマイト!!」」
「「緑谷!!」」
「緑谷くん!!」
「「ぶちかませぇ!!」」
八百万と耳郎も、切島と峰田に飯田も、そして轟と爆豪も叫ぶ。
緑谷とオールマイトは体からパワーを漲らせて、再び拳を構える。
「さらにぃ!!」
「向こうへぇ!!」
「「プルスゥウルトラァ!!!」」
2人に魂の叫びが合わさり、限界という概念を超えた拳が放たれる。
ウォルフラムは無我夢中で鉄壁を出して自分を囲む。
2人の拳はウォルフラムの真下に突き刺さり、金属の塔に衝撃波が走る。
連続での限界突破の拳にフルガントレットが遂に砕け散る。
しかし、それでも緑谷はただただ歯を食いしばり力を振り絞って拳を突き出す。
「うううううう!!」
「おおおおおお!!」
そして2人の拳はウォルフラムの鉄壁を吹き飛ばす。同時に装置から閃光が漏れて爆発する。
ウォルフラムは声にもならぬ絶叫を上げて衝撃波に呑み込まれる。
それと同時に金属の塔全体が砂のように崩れ始める。
デヴィットは拘束していたコードのおかげで鉄片から身を守られていた。
朦朧とする意識の中でデヴィットは眩しさを感じて、薄っすらと目を開ける。
感じた光の中に、若き日のオールマイトが見えた気がした。
思わず目を見開くと、オールマイトの姿は消え、目に映ったのは拳を振り上げた少年。
親友と共に来た少年。
(……あぁ……ヒーローだ……)
かつて自分と共に駆け抜けていたヒーローと同じ者が、そこにいた。
その姿を目に焼き付けたデヴィットは、どこか心も救われたように感じたのだった。
崩れていく塔を見ながら、飯田は呆然と呟く。
「やったのか……」
「やったんだ……ヴィランをやっつけたんだぁ!」
峰田が拳を振り上げて歓声を上げる。
その声に八百万達に笑顔が浮かび始める。
轟もその横で小さく笑みを浮かべる。爆豪に目を向けると、爆豪も笑みを浮かべていた。轟に見られているのに気づいた爆豪は「ケッ」とそっぽを向く。
しかし、一佳達はそれどころではなかった。
「拳暴は!?」
「ここからじゃ見当たらない!」
「ん!」
戦慈が瓦礫の山の中に埋もれた可能性があったからだ。
特に戦慈は暴走状態になっていたので、動けなくなっている可能性が高い。
一佳達は慌てて瓦礫を掘り返し始める。
喜んでいた麗日達も駆けつけて手伝い始める。
その頃、里琴は少し離れた所でぐったりと仰向けに寝転んでいた。ちなみにすでに1回盛大に吐いている。
すると、一佳と唯が掘っているところから少し離れた瓦礫の山が盛り上がる。
一佳と唯はヴィランの可能性も考えて警戒する。
そして、ボゴッ!と瓦礫から頭を出したのは、戦慈だった。
「拳暴!」
「ん!」
「……おう。……終わったみてぇだな」
胸から下がまだ埋まっていた戦慈は、気だるげに一佳達に答える。
一佳達を確認した戦慈は、気が抜けたように体から力を抜く。
一佳達の声に切奈や飯田達が駆けつけて、掘るのを手伝ってくれる。
掘り出されて瓦礫の座り込んだ戦慈は、全身から白い煙が出ている。
「体はどうだ?」
「やっぱ上手く力が入らねぇな。まぁ、少し休めば歩くのは問題ねぇだろ」
「それは良かった」
一佳の質問に戦慈は肩を竦める。
それに飯田も笑みを浮かべて安心したように頷く。
「オールマイト達は?」
「確かめに行きたいけど、鉄柱と瓦礫のせいで向こうに行けないんだ」
一佳達はオールマイト達がいると思われる方向に目を向ける。
地面が大きく捲り上がって壁のようになっており、瓦礫も積もり積もってとても登れそうになかった。
「里琴の奴は?」
「あっちでぐったりしてる」
「ん」
「そうかよ。はぁ~……ただの観光だったはずなのに、なんでボロボロになってんだよ……」
「あはは……」
戦慈のボヤキに一佳達は苦笑する。
空は薄っすらと明るくなり、夜明けを迎えていた。
「あ!!デクくん!!」
「メリッサさんもいる!」
麗日と耳郎の声が響いた。
2人が指差している方向を見ると、瓦礫の山の上に同じく上半身裸の緑谷とボロボロだが怪我はなさそうに見えるメリッサがいた。
「デクくーん!!メリッサさーん!!」
「怪我はないか!?」
「やったな!緑谷!」
麗日が両手を振り、駆けつけた飯田と切島が声を張り上げる。
それに緑谷も笑顔で手を振り返す。
「大丈夫ー!オールマイトも博士も無事だよ!」
「皆は大丈夫ー!?」
メリッサが笑顔で麗日達に向かって声を張り上げる。
緑谷達の少し離れた所では、オールマイトがデヴィットの応急処置をしていた。その姿はトゥルーフォームに戻っていた。
「メリッサから大体の話は聞いたよ」
「……私は……君と言う光を失うのが、築き上げた平和が崩れていくのが怖かったんだ」
デヴィットは傷の痛みと自身の後悔に眉を顰めながら話す。
静かに聞いてくれているオールマイトに、デヴィットは目を向ける。
やせ細り、今にも倒れそうな姿。
デヴィットはその姿が夜明けで消えていく星の輝きのように見えていた。
太陽のように眩しかったオールマイトが、星のように消えていく。その先に訪れるであろう深い闇が、デヴィットはとてつもなく怖かったのだ。
だから、今回の過ちを犯した。正しい事なのだと信じて。
しかし、ようやく目が覚めた。
「だが私の考えも、装置も、所詮は現状維持の産物でしかない。永遠に輝く炎などない。未来が、希望が、すぐそこにあると言うのに、私はそれに気づかなかった……」
デヴィットは顔を動かして、緑谷とメリッサを瞳に映す。
オールマイトも2人を捉えて、僅かに微笑む。
「メリッサが私の後を継ごうとしているように……ミドリヤ・イズク。彼が……君の後を継ぐ者なんだな」
デヴィットの言葉にオールマイトは小さく頷き、想いを正直に語る。
「まだまだ未熟さ。しかし、彼は誰よりもヒーローとして輝ける可能性を秘めている。それに……彼には多くの仲間がいる。彼らもまた多くの可能性を秘めている。だから……恐れることばかりじゃないのさ」
「……そうだな。ようやく私にも見えたよ、トシ……。君と同じ光が……」
デヴィットはもう一度緑谷の姿を焼き付ける。
決して忘れないように。もう怖がらなくてもよくなるように。
緑谷とメリッサが麗日達の元に駆けつける。
それを眺めながら、戦慈は寝転んでいる里琴の頭元に座る。
「生きてるか?」
「……ギリ」
「だから、大人しくしとけって言っただろうが」
「……むぅ」
里琴は真っ白から真っ青に顔色が戻ってきていた。それでも未だに苦しいのは変わらないが。
「……オールマイトに……謝罪させる」
「まぁ、程々にしとけよ」
そこに一佳が歩み寄る。
「拳暴。仮面」
「おう、わりぃな」
一佳から仮面を受け取って着ける。
そして、改めて戦慈は一佳や唯達を見る。
「せっかくのドレスがボロボロだな」
「……言うなよ。弁償が怖いんだからさ」
「それに拳暴ほどじゃないよ」
「ん」
一佳と切奈はため息を吐き、唯も頷く。
戦慈は肩を竦める。
「俺はジャケットとかは脱いでるからな?シャツとズボンと靴くらいだ」
「そういえば……」
「ってか、ヒール探しに行かなきゃ……」
切奈は自分達が脱いだヒールの事を思い出して、うんざりする。
その後、I・アイランドの警官が駆けつけて、全員一度病院に行くことになった。
オールマイトとデヴィットはヘリで病院に向かうことになった。これはデヴィットの護衛とオールマイトの姿を隠すためである。
ウォルフラムは警察に捕縛されたが、まるでオールマイトのトゥルーフォームのようにガリガリになっていた。
意識も朦朧としており、回復には時間がかかると考えられている。ちなみにヘリに乗っていた眼鏡の男と操縦をしていた部下も無事だった。どうやらウォルフラムの足元で匿われていたらしい。
戦慈は入院が必要と言われたが、
「飯食えば治る」
と言い放って無理矢理退院した。
里琴も少し休んで、すぐに復活した。
そして、戦慈達が戦ったことはオールマイト、デヴィットがI・アイランドの責任者に頭を下げて、公表されないことになった。
功績ではあるが、無免許である以上は何かしら処罰を受けなければならない。なので、将来に配慮して貰えることになったのだ。
戦慈達が暴れたことが、限られた者達しか知らないことが功を奏した形である。
こうして事件の後始末から戦慈達は解放されたのであった。
戦慈と里琴は病院を出て、ホテルに向かう。
一佳達はヒールの回収と八百万達が泊まってる部屋にコスチュームを取りに行っている。
里琴は戦慈の背に背負われている。
戦慈も今回は特に不満は言わず、大人しく背負っている。
「……戦慈」
「あん?」
「……オールマイトのこと」
「あ?」
突然オールマイトの名前を上げた里琴に、戦慈は思わず顔を向ける。
里琴はまっすぐ戦慈と目を合わせる。
一切冗談を感じさせない里琴の目に、戦慈は更に訝しむように顔を顰める。
「……なんだよ?」
「……オールマイトの『個性』は消えかけてる。……博士が言ってた」
里琴の衝撃的な言葉に、戦慈は足を止める。
「『個性』が消えかけてる、だと?弱まってるとかじゃなくてか?」
「……ん。……時間がないとも言ってた。……だから、あの装置を取り戻したかったって」
顔を顰めて言葉の意味を推測する戦慈。
さりげなく聞き逃せないことも言ったが、それよりもオールマイトの方が重要だった。
「……妙にやられてたのはそのせいか?」
「……途中明らかにパワーが落ちてた」
戦慈はその言葉に盛大に顔を顰める。
(つまり戦える時間に制限があるってことか……?それなら授業や学校で見かける機会が妙に少ないことに納得がいく)
それと同時にある事実にも思い至る。
「敵連合はその事実を知ってる可能性があるな。だから、オールマイトを標的にし始めた……」
「……面倒」
「里琴。今のは拳藤達には黙ってろよ。敵連合に狙われちまう。オールマイトの人質にでもされたら面倒だ」
「……ん」
「オールマイトに聞きてぇところだが……あいつは言わねぇだろうな」
戦慈はため息を吐いて、ホテルへと向かう。
戦いが終わったばかりなのに、憂鬱な気分にさせられるのだった。
ホテルに戻って、しばし里琴の面倒を見ていると、チャイムが鳴る。
ドアを開けると、私服に着替えた一佳達がいた。
「里琴はどうだ?」
「もうほとんど回復してる」
「……ん」
戦慈の後ろから里琴が現れる。
ちなみに里琴はまだドレス姿である。
「で、やっぱりだけど一般公開は延期だって」
「そりゃな」
「そこでオールマイトがお詫びってことでバーベキューを開催してくれるってさ。良ければ来てくれって」
「そこらへんは任せる。俺はどっちでもいい」
「……食べ放題?」
「そこは分からないけど」
「まぁ、この事件でほとんどの店が閉まってるからいいんじゃない?」
里琴の言葉に一佳が首を傾げ、切奈が苦笑して肩を竦める。
「……じゃあ行く」
ということで戦慈達もバーベキューに行くことになった。
そして里琴を一佳に渡して、少しでも仮眠をとることにした戦慈。
こうして、戦慈達の長い夜の戦いは幕を閉じたのであった。
本当に戦闘描写って難しいですね(-_-;)
映画のクライマックスシーンを言葉で表現するのは限界でした(__)
次回で劇場版編終了です。