夜が明けて、事件は収束を迎えた。
当然のことながら、本日のエキスポ一般公開は延期とされた。
デヴィットとサムは現在入院中である。
デヴィットは駆けつけた警察に全てを話した。
しかし、今は治療のため病院に見張り付きで入院となった。面会はメリッサとオールマイトのみ認められており、今はメリッサが付きっきりで看病をしていた。
サムも同じく入院中だが、面会は許されていない。サムはデヴィットも騙し、ウォルフラム達が本物のヴィランであることを知っていたからだ。当然、その罪は重い。しかし、サムも警察には協力的で、デヴィットやメリッサに対して謝罪の言葉を繰り返しているそうだ。
そして、オールマイトや緑谷達が何をしているのかと言うと。
I・アイランドの中にある湖のそばのテラスで、バーベキューをしていた。
美味しそうな肉や野菜が鉄板グリルで焼かれ、ソーセージやパエリアなどもある。
「さぁ!!食べなさい!」
『いっただきまーす!!』
マッスルフォームで私服のオールマイトが周囲にいる生徒達に声を張り上げ、今か今かと我慢していたA組の生徒達は飛び上がる様に叫んで食べ始める。
オールマイトは戦闘の労いと一般公開延期の代わりにと、バーベキューを開催したのだ。
そこには戦った緑谷達はもちろん、一般公開を待っていた他のA組陣も参加していた。
「肉だ肉ー!!」
切島と上鳴が串にささった肉を手に取り、齧り付く。
「はーはっはっ!たくさんあるからね!」
オールマイトは笑いながら肉をドンドン焼いていく。
その集団に近づく影があった。
近づいてくる者に気づいた緑谷は、誰かを確認して笑みを浮かべる。
「あ!拳暴君!拳藤さん達も!」
現れたのは戦慈達だった。
オールマイトも戦慈達に気づいて、声を掛ける。
「来たねぇ、少年少女!さぁ!君達も遠慮しないでタップリ食べなさい!」
「はい!」
一佳達は頷いて、テーブルに近づく。
戦慈と里琴はさっそく皿にてんこ盛りに焼けた肉やら野菜やらを乗せる。
その様子に飯田がビシ!と腕を伸ばして声を張り上げる。
「拳暴くん!巻空くん!そんなに一度に取っては他の人に肉が行き渡らないだろう!それにそんなに一度にとっては肉が冷めてしまうぞ!」
「このくらいならすぐ食い終わる」
「……食う」
戦慈と里琴はあの後からあまり食べていなかった。深夜であり、事件があったので店が開いていなかったのだ。
そのため、2人はかなり腹ペコだった。
そして、2人は猛烈な勢いで食べ始める。
その様子にA組の者達は唖然とし、一佳達は苦笑して自分達の肉を食べ始める。
一佳は見渡して、残りの肉の量を確認する。その結果、ある確信を持ち、オールマイトに声を掛ける。
「オールマイト」
「なんだい?拳藤少女。いやーあの2人の食いっぷりは凄いなぁ!はーはっはっ!」
「肉ってまだ追加あります?」
「ん?まだ注文できるが、これだけあれば十分じゃないかい?」
オールマイトは肉を鉄板グリルに追加しながら、首を傾げる。
それに一佳は首を横に振る。
「足りないです」
「……え?」
「拳暴と里琴だけで、今ある肉や料理の倍は食べられます。しかも暴れ回った後なんで、もっと食べると思います」
「……え?」
オールマイトはいつもの笑みのまま固まり、ギギギ!と戦慈達に顔を向ける。
それと同時に戦慈と里琴は皿に盛っていた肉と野菜を全て食べ終わった。
「ん」
「どうぞ」
そこに唯と茨が再びてんこ盛りの皿を2人の前に置く。
「わりぃな」
「……
「ん」
「いえ、お2人は頑張られたので」
唯と茨に礼を言って、2人は再び猛烈な勢いで食べ始める。
その光景にオールマイトは未だ固まっており、一佳は真剣な顔をオールマイトに向ける。
「ということで、もっと肉の注文をお願いします」
「……はーはっはっ!分かったよ!ちょっと待ってなさい!…………はぁ~」
オールマイトは笑いながら肉の追加注文に向かう。少し離れた所で財布を開けて、残金を確認してため息を吐くのだった。
戦慈達の食べっぷりを見たA組の面々は呆れながらも肉に舌鼓を打つ。
「すっげぇな!?」
「巻空まで食えるのかよ……」
「俺達も負けてられねぇ!」
「いや、勝たなくていいよ」
瀬呂が目を見開き、上鳴が顔を引きつかせ、切島が謎の対抗心を出して肉を食べ始めて、尾白が冷静にツッコむ。
ちなみに他のテーブルでは八百万も大食いを披露していた。
常闇が「……無限」と唖然としながら見つめ、轟はマイペースに食べながら口を開く。
「そんなに腹へってたのか」
「ええ、昨日随分と脂質を使い果たしてしまいましたので補給しないと!あっ、このラムもいけますわ!ソーセージも頂かないと!」
さらにテラスの端で爆豪が不貞腐れたように座りながら肉を頬張っており、切島や上鳴が突撃してキレさせる。
戦慈達の近くで一佳達もマイペースで肉を焼いて、食べながら盛り上がる。
「それにしてもA組は全員来てたんだな」
「B組って来てないの?」
「骨抜とか泡瀬は好きそうだけどね」
「ん」
切奈が不意にスマホを見ると、メールが届いていたことに気づく。
「あ、骨抜からだ。やっぱりあいつも来てたみたい」
「ん?」
「なんて?」
「『巻き込まれたんじゃないか?』ってさ。それに骨抜や他のB組連中はもう帰りの飛行機らしいよ」
「まぁ、公開延期だから長々といる理由はないしな」
「残念デース」
他のB組の者達もやはり来ていたようだと頷きながら、肉を食べて戦慈達の肉を皿に盛って持っていく一佳達。
戦慈と里琴の前には、それぞれ10枚以上の皿が積まれている。
肉の注文を終えたオールマイトはひたすら肉を焼いていた。
「オールマイト~。拳暴達の肉が無くなりそうなんですけど、まだあります?」
「え!?は、はーはっはっ!じゃ、じゃあこの肉達を持っていくといいよ!」
「あざま~す」
切奈がヒョイヒョイと皿に盛って持っていく。
それを見送ったオールマイトは小さくため息を吐きながら、新しく肉を焼き始める。
戦慈と里琴は未だにガツガツと食べ続けていた。
「……まだ食べれるのか?」
障子は複製腕で肉を焼き、食べたりしながら、戦慈達を呆れるように見ていた。
蛙吹や麗日達も頷きながら肉を食べていた。
あまりの食べっぷりに自分達の方がお腹いっぱいになりそうだった。
それに一佳は苦笑する。
「食べ放題やバイキングだと、これくらいは普通だな。大抵店の人に頭を下げられるくらい食べるぞ」
「……わぁ」
「それは凄いわね」
「しかも昨日は暴れたからな。腹も空いてただろうし」
そんな会話がされている間も、戦慈と里琴はひたすら肉を食べている。
相変わらず里琴はリス状態である。
今日は一佳達が世話をしてくれているので、戦慈もひたすら食う側である。
「ここまでの食べっぷりだと逆に感心するね……」
「っていうか、巻空さんは一体どこに消えてるんだ?そんなに食べてて、よく太らないな」
耳郎と尾白も肉をかじりながら呆れる。
「毎日ここまで食べてるわけじゃないよ。学食だと私達と同じくらいの量しか食べてないしね」
「あくまで制限がないときだけ」
「ん」
切奈は苦笑して答え、柳と唯も頷く。
すると一佳が八百万に近づく。
「八百万」
「はい?」
「ドレスとスーツの弁償のことなんだけど……」
「それなら大丈夫ですわ。I・アイランドの方が払ってくださることになりましたの」
「え?」
「事件解決のお礼だそうですわ。と言っても、公には言えないので事件に巻き込んだ謝礼と言う名目になるそうですが……」
I・アイランドの責任者は真相を公表しないことで、ただの被害者になった緑谷達へのせめてものお礼にと、戦いでボロボロになったドレスやスーツの弁償をすることにしたのだ。
それにホッとした一佳は改めて礼を言い、談笑を始めた。
その間にも戦慈と里琴はどんどんと空の皿を積み上げていく。
そこに肉串を手にした轟が近寄ってくる。
「もう体は大丈夫なのか?」
「あん?……これだけ食べれば体力も回復する。今日の夜には完全に回復してるだろうよ」
「そうか。あの最後の力はもう使いこなせるのか?」
轟のその言葉が聞こえたのか、少し離れた所にいた爆豪がピクッとして目を戦慈達に向ける。
「いや、まだまだだな。記憶は薄っすらあるが、結局暴れてただけだ。反動もデケェしな」
「でも、広島の時よりはマシなんじゃないの?」
「……ん」
ソーセージを食べていた切奈が首を傾げながら里琴に顔を向け、里琴もリス頬のまま頷く。
緑谷は考え込むように腕を組む。
「使えば使うほどってことなのかな?」
「それもあるだろうけどな。多分、その前から長い間フルパワーでいたからかもしれねぇ」
「……なるほど」
「ブツブツすんのはやめろよ」
「ご、ごめんなさい!?」
「グッジョブ!」
戦慈の推測に緑谷がまた考え込み始めた瞬間、戦慈がツッコむ。
緑谷は反射的に謝り、芦戸が親指を立てて戦慈を褒める。
その後も戦慈と里琴はひたすら食べ続ける。
緑谷はオールマイトに顔を向ける。
「……大丈夫なんですか?オールマイト」
「は、はーはっはっ!なぁに!これくらいはノープロブレムさ!」
明らかに強がりだと分かってしまった緑谷。
その時、里琴がモキュモキュしながらオールマイトに顔を向ける。
「……
「巻空くん!口に食べ物を詰めたまま話すのは行儀が悪いぞ!」
「里琴。食べながらはやめろ」
「……ん」
ダブル委員長に同時に怒られて、大人しく頷く里琴。
それに芦戸が首を傾げる。
「で、なんて言ってたの?」
「これは慰謝料、らしいぜ」
戦慈が答える。
それにオールマイトは顔を引き締めて頷く。
「……そうだね。君達には危険な目に遭わせてしまったからね」
「と言っても、私達は自分から首を突っ込んだんですけどね」
切奈が茶化す様に肩を竦めながら言う。
それに一佳達も若干申し訳なさそうに頷く。
オールマイトは逃げるように忠告してくれていた。今回は単純に緑谷や戦慈達の目論見が間違っていただけだ。
と言っても、デヴィットとサムが共犯でなければ、そしてヴィランの狙いが増幅装置でなければ、すぐに鎮圧出来ていただろうが。
「里琴は今回だけじゃなくて、敵連合のことも合わせて言ってんだよ」
「……んぐ。……よく巻き込まれる」
オールマイトがいたおかげで事態は最悪を免れたが、オールマイトのせいで事態は悪化したとも言える。
里琴は敵連合の事も含めて、そこを根に持っているのである。
それに関しては一佳達も何も言えずに、オールマイトを見る事しか出来ない。
「……本当にね。君達には色々と迷惑かけてしまったと思うよ」
「まぁ、もうオールマイトのこと関係なく、俺は恨みを買ったみてぇだけどな」
オールマイトは神妙に頷いて、謝罪する。
それに戦慈は肉を食べながら肩を竦める。
「ところでオールマイト。デヴィット博士は大丈夫なんですか?」
一佳は話題を変えようとオールマイトに質問する。
オールマイトは1回咳をして頷く。
「治療も問題なく終わったよ。今はメリッサが看病してくれている」
「そうですか。良かった」
「……けど、博士はもう……」
「……そうだね。もう研究に携わることは出来ないだろうね」
オールマイトの言葉に一佳はホッとするが、柳が眉尻を下げる。
オールマイトも柳の懸念に頷き、それに緑谷達も少し顔を俯かせる。
しかし、戦慈が声を上げる。
「でも、メリッサにはお咎めはねぇんだろ?」
「それは当然さ!」
「だったら博士のアイデアをメリッサが実現すればいいだけだろ。あいつなら作ったものを正しく使えるように考えるだろうしな」
「……そうだね。拳暴少年の言うとおりだ!はーはっはっはっ!」
戦慈のメリッサを信頼する発言にオールマイトや一佳達は笑みを浮かべて頷く。
「拳暴……」
「『無個性』で最後まで戦い抜いたんだ。博士にも説教したって里琴から聞いたしな」
「……あ」
一佳が何やら感動しており、戦慈は肉を食べながら理由を答える。
その内容に緑谷は、里琴もオールマイトの『個性』が消えかかってることを聞いていたことを思い出して固まる。
緑谷の声に轟が気が付き、首を傾げる。
「どうした?緑谷」
「う、ううん!な、何でもないよ!?」
緑谷は明らかに動揺していたが、轟はそれ以上ツッコまなかった。
すると、戦慈が突然歩き出す。
「拳暴?」
「トイレだよ。肉も焼けるまで時間かかるみてぇだしな」
焼いた肉を全て食べて、今は新しく焼いているところだった。
その事実にオールマイトは「もう!?」と内心で驚いていた。
トイレを済ませ外に出ると、少し腹を整えようとテラス近くの公園に足を進める。
そこには緑谷と誰かがセントラルタワーを眺めながら立っていた。
緑谷の隣にいるのは金髪で骸骨のような男。しかし、戦慈はその男を何度か見かけたことがあった。
雄英高校で。
そして、その男が今、来ている服に見覚えがあった。
さっきまでNo.1ヒーローが着ていたからだ。
その2つの事実と、里琴から聞いた話からその男の正体に辿り着くのは容易だった。
戦慈はその2人に歩み寄る。
すると緑谷と男も戦慈に気づいて、誰が見ても分かるほどに慌て出す。
「け、拳暴君……!?」
「どうしたんだよ?」
「い、いや!な、なんでもないよ!?」
ダラダラと冷や汗を掻いている緑谷が両手をバタバタしてパニックになっていると、男はそろりと背を向けて去ろうとする。
「どこ行くんだよ?オールマイト」
「っ!?!?だ、誰のことですか?わ、私はオールマイトなどと言う者では……」
「雄英にもいて、さっきまでのオールマイトと全く同じ服装しといてか?馬鹿にしてんじゃねぇよ」
「うぅ!?」
戦慈の追及に、トゥルーフォームのオールマイトも冷や汗ダラダラで後退る。
緑谷も必死に言い訳を考える。
「け、拳暴君!こ、これはね!?」
「わりぃが里琴から博士の話は聞いてる。オールマイトの『個性』が消えかけてるってな」
「「!!」」
オールマイトと緑谷は顔を強張らせて固まる。
戦慈は両手をポケットに入れたまま、2人を見据える。
「安心しな。俺以外は聞いてねぇし、里琴にも口止めしてある。言いふらしたところで面倒でしかねぇからな」
戦慈の言葉に少しだけホッとする2人。
「バレたくねぇなら、もう少し注意しろ。どこで誰が見てるか分からねぇんだぞ」
「「ご、ごめんなさい……!」」
「それにしても、思った以上に貧相な見た目してやがんな。そりゃあ博士が焦るのも仕方ねぇか」
「っ……!」
戦慈の言葉にオールマイトは言葉に詰まり、悔し気に顔を俯かせる。
戦慈は緑谷に目を向ける。
「お前はどこまで知ってんだ?」
「えっ!?そ、それは……」
緑谷は目を逸らして、またオドオドする。
それに戦慈はため息を吐く。
「隠し事下手だな、お前ら……」
「「うっ……」」
「まぁ、そこまで聞く気はねぇ。ただ……それは博士にまで黙ってねぇといけなかったことなのか?」
「「!!?」」
オールマイトと緑谷は目を見開いて固まる。
「深い関係がある様に見えねぇ緑谷が知ってるのに、あんたの相棒だった博士が知らねぇってのには違和感がある。まぁ、『個性』に関係することなんだろうがよ」
更に目を見開くオールマイトと緑谷。
「どんな秘密かは知らねぇが、それは相棒だった奴にまで黙ってねぇとダメなのか?そのせいで今回の事件が起きたんだろ?」
「それは違うよ!」
戦慈の言葉に緑谷が即座に叫んで否定する。
「オールマイトは博士達を巻き込みたくなかっただけなんだ」
「……何に巻き込まれるのかは知らねぇが、だったら余計に話しておくべきだったんじゃねぇか?博士ほどの奴なら対策を講じられただろ。アメリカでは相棒と呼ぶまで一緒に戦ってたのに、なんで急にそこだけ突き放してんだよ」
戦慈は妙に苛立ちを感じながら反論する。
今度はオールマイトが声を上げる。
「とても危険なんだ。私の恩師も命を落としてしまったからね。だから、メリッサという守るべき者がいたデイヴを巻き込むわけにはいかなかったんだ……」
「……だったら緑谷が知ってることが余計におかしいだろ」
しかし、戦慈は逆に違和感が強まるだけだった。
特に緑谷という存在が。
「まだヒーローじゃねぇ、しかもまともに全力を出せねぇガキが、巻き込まれて死ぬ危険性があっても知ってて、ヒーローじゃねぇけど戦闘以外で緑谷を上回ってる博士が知らねぇのは筋が通らねぇ。本当に巻き込みたくなかったなら、そもそも博士を相棒にすること自体が矛盾してるぜ。相手がオールマイトを狙ってるなら、相棒だった人間をほっとくわけがねぇ」
「ぐぅ……!?」
「敵連合だって、その相手のもんなんだろ?脳無みてぇなバケモン生み出す連中なら、あんたの巻き込みたくねぇって想いも理解出来る」
「ぐぅ……!?」
戦慈の鋭い指摘にオールマイトはドンドン追い詰められていく。
緑谷もフォローしたいが、自分のせいで説得力を失わせてしまっているので下手に口を開けない。
《ワン・フォー・オール》のことは話せない。だから、どうにかして乗り切るしかない。
「けどよ、『個性』が消えかかってる今、むしろ信頼できる奴は積極的に頼るべきだ。なのにあんたはむしろ遠ざけてる。その結果が雄英襲撃に保須と広島じゃねぇのか?……俺はもうあんたらだけの問題じゃなくなってる気がするんだがな」
「……それは……」
「……なぁ、オールマイト。あんたは本当に周りを信頼してんのか?俺にはどうにもあんたから『自分より弱い奴と戦う力がない奴はお呼びじゃない』って言われてるように感じる」
オールマイトは頭を鈍器で殴られたような感覚に襲われる。
《ワン・フォー・オール》の秘密を話さなかったことでデヴィットを追い込んでしまった。
その事実が戦慈の言葉と共に重くのしかかる。
しかし、それでも話せない。話すわけにはいかない。それだけは譲れない。
「確かにあんたの力に並べる奴なんていねぇ。そんなあんたが危険に感じる奴なら、確かに大抵の奴は力不足かもしれねぇがよ」
「そんなつもりはない!」
オールマイトは慌てて否定する。
戦慈はまっすぐオールマイトを見据える。
「……そう思ってんなら、それでいいけどよ。けど、俺はやっぱ納得出来ねぇ」
戦慈はそう言って、2人に背を向ける。
「け、拳暴君……!こ、このことは……!」
「話さねぇっつってんだろ。……最後に1つ……いや、2つ聞かせろ。オールマイト」
「……何かな?」
戦慈は顔だけオールマイトに向ける。
「全力で戦える時間はどれくらいだ?」
「……あの姿を保つだけなら数時間は大丈夫。ただ戦うとなると1時間もないだろう」
「ちっ。……それを敵連合も知ってんだよな?あんたが弱ってんのはよ」
「……ああ」
「……ちっ」
オールマイトの答えに再び舌打ちをする戦慈。
想像以上に深刻な状況だった。
ならば必ずまた敵連合は来るとも確信した。脳無は更に強くなっているだろう。
今回の勝利に喜んでいる場合ではない。
戦慈は今度こそオールマイト達の前から去る。
テラスに戻ると、里琴が再び頬をリスにしていた。
「あ、拳暴。遅かったな」
「ちょっと散歩しててな」
「散歩ぉ?お前が?」
「うるせぇよ」
「残念だけど、焼けた肉はもう里琴の口と胃の中」
「ん」
一佳が首を傾げて、それに戦慈がぶっきらぼうに返事する。
そこに柳が呆れて里琴を見ながら言い、唯もやや呆れながら頷く。
戦慈は鉄板グリルに目を向けると、綺麗に肉が消えていた。
戦慈はため息を吐いて、一佳達を見る。
「この後はどうすんだ?」
「どうするって……もういいのか?」
「十分食ったしな」
戦慈は肩を竦める。
それに一佳達は顔を見合わせて、眉を顰めて考え始める。
「エキスポはもちろん行けないし……」
「ホテルは明日まで」
「ん」
「ショッピングしたいデース!」
「お土産買ってないしね」
「しかし、お店は開いてるのでしょうか?」
ここに来るときはやはりシャッターが目立っていた。
そこに八百万が声をかける。
「ショッピングセンターは今日の夕方から再開するそうですわ。警備システムの点検が必要だそうで」
「なるほど」
「じゃあ、一回ホテルでゆっくりしてから、また出かけようか」
「ん」
切奈の提案に唯達が頷いていると、上鳴と峰田がすぐさま反応して一佳達に詰め寄る。
「「俺達もいいですか!?」」
「やだ」
「ん」
「……くたばれ」
「「ぶへぇああああ!?」」
ドッボオオオォン!!
柳と唯に一瞬で拒否され、里琴に竜巻で吹き飛ばされて湖に落とされる。
一佳達はただ呆れるしかなかった。
「こりないな、あいつら……。それに里琴もやりすぎだぞ」
「……変態は死すべし」
「うん。あいつらにはこれくらいでいいよ」
「「「うんうん」」」
里琴の言葉に耳郎も同意し、麗日達A組女性陣も頷く。
ちなみに水面で必死にもがいている上鳴と峰田は、瀬呂と障子達によって救助中である。
「とりあえず一度ホテルに帰るんでいいんだな?」
「だな」
「じゃあ、オールマイトに挨拶して戻ろ~」
その後、戦慈達は少し雰囲気が暗いオールマイトに挨拶して、テラスを後にする。
ホテルに戻って少しのんびりすることにした一佳達。
「……ん。……すぅ……すぅ」
里琴はベッドに寝転んで数秒で寝息を立てる。
「早いな……」
「ん」
同室の一佳と唯は呆れるしかなかった。
事件後休んだ時もそうだったのだが、里琴は横になるとすぐに寝る。
互いの部屋で寝泊まりしたこともなかったので、一佳もここまで寝つきがいいのは初めて知った。
そうして、しばらくのんびりした一佳達は、テレビでショッピングモールが再開したのを見て里琴を起こして外出する。
もちろん戦慈も連れていかれて、付き合わされる。外はすでに夜になっていた。
一佳達はショッピングを楽しみ、その後ろを面倒そうだが戦慈が付いて行く。
途中、峰田と上鳴が偶然を装って近づいてきたが、一佳達は予約していた料理屋に入って2人を躱す。
店で食事をしている間に、八百万に連絡して回収をお願いした。
その後も買い物を楽しみ、ホテルに帰るころには戦慈の両腕には紙袋が大量にぶら下がっていた。
戦慈は今回の事件に一佳達を巻き込んだと思っているので、不満も言わず大人しく荷物持ちに徹していた。仮面の下の眉間に皺はずっと寄っていたが。
それを感じ取っていたのか、一佳達は最後にコーヒーショップに行き、戦慈に好きなだけコーヒー豆や機材を見させる。
その間、一佳達は備え付けの喫茶で休憩していたのだが。
それでも戦慈の機嫌は回復し、一佳達も満足してホテルに戻る。
翌日は特に買い物はせず、チェックアウトまでのんびりすることにした。
しかし、その朝に一佳と唯は驚きの光景を目にする。
一佳と唯はすでに起きており、お茶を飲んでのんびりしていた。
「……ん~」
そこに里琴がフラリと起き上がる。
無表情の里琴に珍しい寝ぼけ眼の顔である。
「おはよ、里琴」
「ん」
一佳と唯が挨拶するも、里琴はフラリとベッドを降りて冷蔵庫に向かう。
そこには里琴が入れていた戦慈のカフェオレがあった。里琴はちゃんと多めに用意させて持ってきていたのだ。
一佳は流石にそこまではお願いできなかった。
里琴はカフェオレを一口飲む。
「……んふ~」
そして、満足げに目を閉じて笑みを浮かべる。
里琴の初めて見る笑みに一佳と唯は目を見開いて唖然とする。
「……今、笑った……?」
「……ん」
里琴は冷蔵庫にカフェオレを戻して、再び布団に戻ろうとする。
その衝撃から戻った一佳は里琴を抱えて部屋を飛び出して、切奈達がいる部屋に走る。
チャイムを連打して、少しすると困惑の表情を浮かべた切奈が扉を開ける。
「どうしたのさ?」
「里琴が……里琴が笑ったんだよ!ほら!」
「……なんじゃい」
一佳は切奈の目の前に里琴を持ち上げる。
里琴はすでに目が覚めて、いつも通りの無表情に戻っていた。
「いつもの里琴じゃん」
「でも、さっきは笑ってたんだよ!な、唯!」
「ん」
切奈は首を傾げるが、一佳は唯に顔を向けて、唯も力強く頷く。
その後もカフェオレをもう一度飲ませてみたり、色々試したが笑わなかった。
一佳と唯はまだ納得していなかったが、朝食の時間になったのでとりあえず着替えて店に下りる。
戦慈も合流したので、朝食を食べながら里琴の笑顔について話した。
「里琴は起きた直後なら笑うぜ。まぁ、すぐにいつも通りの顔になるがな」
「……スケベ」
「何がだよ」
その内容に一佳達も納得して、里琴笑顔騒動は幕を閉じた。
そして戦慈達はチェックアウトをして、空港へと向かう。
「ん~!……終わったねぇ。あれ?何しに来たんだっけ?」
「あはは……結局最初だけだったなぁ」
「何にも見つからなかったね」
「ん」
切奈が伸びをして、感慨深げに思い出に浸ろうとしたが本来ここに来た理由を思い出せず首を傾げる。
それに一佳が頬を掻いて苦笑して、柳が戦慈に顔を向けながら首を傾げ、唯も頷く。
戦慈は肩を竦めて、
「まぁ、仕方ねぇだろうよ。次、開催されるときはまた新しいアイテムが出来てるかもしれねぇしな」
「……メリッサに期待」
「そうですね。あの方なら必ずや素晴らしい発明をしてくれるでしょう」
「私達もファイトデス!」
「帰ったら、今度はすぐに林間合宿だもんねぇ」
切奈は少しうんざりし、それに一佳達も頷く。
今回の戦いは一佳達にとって雄英襲撃以上の経験だった。戦慈と里琴はそこまででもないらしいが。
なので、もう少しゆっくりしたいと思うのは当たり前のことである。
「でも、今回あんまり活躍出来なかったし、頑張らないと」
「ん」
「だよねぇ」
柳の言葉に唯と切奈が頷く。
そして、一佳達は少しうんざりしながらも飛行機に乗り込む。
空へ飛び立って、離れていくI・アイランドを戦慈以外の全員で眺める。
思い浮かぶのは結局あの夜以降会えなかったメリッサの姿。
「……メリッサさん、大丈夫だと思うか?」
一佳が戦慈にボソリと尋ねる。
「あん?……まぁ、しばらくは風当たりは強いだろうな」
「だよな……」
戦慈は腕を組んだまま答える。
一佳は僅かに顔を曇らせ、切奈達も眉尻を下げる。
「でも、あのヴィランと戦うよりは楽だろ。あの戦いを『無個性』で最後まで現場で乗り切ったんだしな。俺らよりよっぽど肝が据わってる」
「……だよな……!」
励ますような戦慈の言葉に、パァ!と笑みを浮かべて頷く一佳。
メリッサならば、きっと乗り越えていく。
そう信じて、自分達も更なる成長を誓う。
こうして、戦慈達の初めての旅行は終わりを迎えたのであった。
これにて劇場版編は終了です。
思ったより長くなってしまいました(-_-;)
次回は申し訳ありませんが、もう1話夏休み日常編を書かせてください!
次々回から、いよいよ林間合宿編です!