いよいよ、林間合宿当日。
戦慈達は校内にあるバス停に集まっていた。
近くにはA組もいた。
「諸君!いよいよ林間合宿当日だ!ヒーローを目指すお前達に悠長な夏休みなど過ごす暇はない!この林間合宿も、もちろんPlus Ultraの精神で臨んでもらいたい!」
『はい!』
ブラドの言葉に力強く頷く鉄哲達。
「いよいよだな」
「ん」
「どんな無茶振りされるんだろうね。ウラメシい」
「でも、あのバトルを乗り越えた私達ナラ、きっとノープロブレムです!」
「私達ならば必ずや乗り越えられるでしょう」
「まぁ、I・アイランドより怖い事はそうそうない……よね?」
「俺に聞くな」
一佳も気合を入れるように拳を握り、唯も頷く。柳が少し不安そうに首を傾げ、ポニーがI・アイランドの戦いと比べて励まし、茨も両手を組んで頷く。
それに切奈も苦笑しながら頷こうとして、戦慈に顔を向けて尋ねて切り捨てられる。
「けど、本当にどこ行くのか、まだ教えてもらえないんだね」
「それなぁ。流石に不安だよな」
「引率も今のところ担任の先生方だけですな」
「その気になりゃ、どこでも修行は出来るぜ!」
「無茶言うなって。この人数だぞ?」
庄田が不安そうに顔を歪め、回原も同意する。宍田が周囲を見渡して、相澤とブラド以外の姿が見えないことを確認する。
鉄哲が拳を握り締めて気合に燃えているが、骨抜が冷静にツッコむ。
結局、当日になっても目的地や詳しい日程などは伝えられていない。
しかも教師も最低限のみということで、流石に不安を感じずにはいられない。
「お前達ばかりに人員を割くわけにはいかん。2、3年にもヒーロー科はいるからな」
「まぁ、それもそうですよね」
「安心しろ。すぐにそんな不安を感じる余裕はなくなる」
(((何をする気なのブラド先生……!?)))
ブラドの言葉が聞こえた全員が戦慄するが、もう逃げ場はない。
すると、物間がA組に近づいて、
「ええ!?A組にも補習いるの?つまり赤点取った人がいるってこと!?」
と、何やら揶揄い出す。
「これで物間も赤点じゃなかったら、まだカッコつくのにな」
「B組唯一の赤点だから尚更滑稽だよな」
骨抜や泡瀬が呆れながら、物間を見つめる。
そして、そこに一佳が近づいて、素早く手刀を叩き込む。
「ごめんな」
A組の者達に謝って物間と物間のトランクを引きずりながらバスに向かう。
その様子をA組の者達もただ苦笑して眺めることしか出来なかった。
たた、1人だけ違う反応をしている者がいた。
峰田である。
峰田はジュルリと涎を腕で拭いながら、唯達B組女性陣を眺めていた。
隠す気もない欲望の視線に、唯と柳は戦慈を壁にして、ポニーと切奈は呆れて、茨は顔を顰めている。
そして、里琴は、
「……成敗」
細めの竜巻を飛ばして、峰田を吹き飛ばしてバスに叩き込んだ。
「ぐっはぁ!?」
吹き飛んだ峰田にA組の者達も誰も駆け寄らず、ため息を吐くばかりである。
そして八百万が心底申し訳なさそうに頭を下げる。
「本当に申し訳ありません!」
「……ん」
「まぁ、こっちも物間ッてのがいるからね」
「ん」
「ただ、あれを成敗する人がA組内に欲しい」
「バス内で議題にさせてもらいますわ」
里琴も八百万の謝罪を素直に受け入れ、切奈も物間がいるため苦笑するのみで、唯も頷く。
そして柳が一佳的存在を作ることを進言する。
八百万は真剣な顔で頷く。
「皆~、バス乗るよ~」
『は~い』
物間をバスに放り込んだ一佳が、クラスメイトに呼びかける。
切奈や骨抜達は子供のように返事して、ゾロゾロとバスの下に荷物を入れて乗り込んでいく。
「席は?」
「自由でいいだろ。酔う奴は前に座るようにね」
回原が一佳に訊ねて、一佳が肩を竦めて答える。
その答えに回原達は特に戸惑うことなく、席に座っていく。
戦慈はもちろん里琴に引っ張られて、隣に座る。里琴は窓側に座り、戦慈が通路側に座る。
その反対の席に一佳と唯が座り、一佳達の後ろに柳と切奈。戦慈達の後ろに茨とポニーが座る。
そして、バスが走り出す。
「なんかB組全員で遠出って新鮮だな」
「それな~」
「ポテチ食べる?」
「もらうぜぇ」
「回原、またカメラ持ってきたのか?」
「いいだろ別に。I・アイランドで使えなかった分、ここで使うんだ!」
「だからって気絶してる物間でいいのか?」
泡瀬が前の席に乗り出して周囲を見渡してワクワクしており、それに隣の骨抜が頷く。
凡戸が隣の鎌切とポテチを食べたり、回原が買ったばかりのカメラを取り出して隣で気絶している物間を撮り、反対の列にいる円場が呆れる。
鉄哲は「ぐが~」といびきをかいて寝ている。
「寝るの早っ!」
「楽しみで寝れなかったから、夜通し筋トレしてたんだと」
「この漫画面白いよ!こうズバッ!としてガガガン!って手に汗握るんだ!」
「全く伝わらないですぞ」
吹出はお勧めの漫画を宍田に紹介していたが、吹出の表現のせいで全く伝わっていなかった。鱗と庄田はボクシング試合の動画で盛り上がっていた。
里琴は相変わらず窓にへばりついて外の景色を眺め、戦慈は腕を組んで目を閉じている。
一佳と唯は談笑し、柳と切奈はスマホのネットニュースで盛り上がり、茨とポニーはイヤホンを共有して洋楽を聞いていた。
すると、一佳は戦慈に顔を向ける。
「そういえば、拳暴は今回はコーヒーとか持ってきてないのか?」
もちろん朝には作ってもらっている。
そして、職場体験の時は器材や豆を持って行っていた。
今回も一週間なので持ってきている可能性が高いと考えていた。
戦慈は肩を竦めて、
「一応鞄には入れてるぜ。まぁ、流石に使えねぇと思うけどな。朝は大分早いみたいだし」
「そうかぁ」
流石のコーヒー好きではあるが、確かに今回は難しいかもしれない。
スケジュールも夜明け直後から活動するのもあったので、毎朝作るのは厳しいかもしれない。冷蔵庫まで借りるのは流石に厳しいとは思っているので、作り置きすればいいというのも無理だ。
一佳は悩まし気に唸る。
「……そこまで悩むことか?」
「いやぁ実はさぁ……」
一佳は苦笑いしながら、隣を指差す。
戦慈が目を向けると、そこにはタンブラーを顔の前に掲げる唯がいた。
「ん」
「……お前もかよ」
「ん」
戦慈は呆れるが、唯は堂々と頷く。
すると、戦慈の後ろから茨が声を掛けてきた。
「私も拳暴さんのコーヒーを飲んでみたいです」
「……」
意外な茨の要望に一佳達は僅かに驚き、戦慈もまさかの茨からの言葉に唸るしか出来なかった。
その話が聞こえていた骨抜達は顔を見合わせる。
「拳暴のコーヒーってそんなに美味いのか?」
「拳藤も毎日貰ってるくらいなんだし、美味いんじゃねぇの?」
「塩崎が欲しがるって珍しいよな」
そして、その声はもちろんブラドにも届いていた。
ブラドはやや呆れた表情で戦慈に顔を向ける。
「宿泊場所は雄英で貸し切りだから、今回お世話になる方々の許可が出れば構わんぞ」
「……いいのか?」
「まぁ、もちろんスケジュールに影響が出ない範囲での話だぞ。毎日その余裕があるかどうかは分からんしな」
「まぁ、そりゃあな」
ブラドからお許しを得て、一佳は内心ガッツポーズをする。もちろん自分も飲みたかったからだ。
ふと里琴に目を向けると、里琴が窓から一佳に顔を向けて、グッ!と親指を立てる。
もちろん里琴も戦慈のカフェオレが飲めるからである。
「さて、ついでに伝えておくか。お前達!1時間後、一度バスを止める!着いたら速やかに降りられるように準備しておけ!荷物はバスにそのままでいい!」
一佳達はブラドの連絡事項に頷くも、すぐに首を傾げる。
「休憩ってことか?」
「それにしちゃあ、わざわざ荷物はいらないなんて細かくない?」
「ん」
後ろの席にいる切奈の声に唯も頷く。
しかし、いくら悩んでも答えなんて出るわけもなく、一佳達はすぐにまた談笑を始める。
そこに鉄哲と物間が起きた。
「お、起きたか。もう少しで一度バス降りるってよ」
「了解だぜ!サンキュな!」
「ありがとう。あ~……首が痛いなぁ」
鉄哲は起きてすぐにいつものハイテンションで礼を言い、物間は礼を言いながらも首を揉みながら一佳に聞こえるように言う。
それに一佳は呆れるだけで特に反論はしなかった。
どうせ、反省しないのだから。もう一佳は諦めていた。
「それにしても、今どこら辺なんだい?」
「そういや、そうだな。え~っと……長野あたりだな」
「結構移動しましたな」
物間の質問に泡瀬がスマホで位置情報を確認する。
長野と聞いて宍田が思ったより遠出していることに内心驚き、他の者も同意する。
すでに窓の外は広大な森と山しかない。
「……もしかして、かなり山奥での合宿なのか?」
「……ありえるな」
「A組も合わせてだしね。しかも『個性』を使えるところとなると場所は限られる」
円場の疑問に鱗と庄田も同意する。
すると、先を走っていたA組のバスが突如、道を逸れて何もない場所に停まった。
「あれ?A組のバスが……」
「ん?」
「どうしたんだ?」
切奈と唯、泡瀬が首を傾げる。
他の者達も不思議そうに首を傾げるが、その間にもB組のバスは進み続けてあっという間に見えなくなる。
「ブラド先生。A組のバスは一体……」
「安心しろ。トラブルじゃない。すぐにわかるさ」
ブラドの答えにますます不安が大きくなる一佳達。
一佳達は顔を見合わせるが、答えが出るわけもなくバスの中は重苦しい雰囲気に変わっていく。
ブラドは背中で生徒達の戸惑いを感じていた。
(甘いぞ、お前達。もう合宿は始まっている。いつ事件や事故が起こるか分からないヒーローは不安を覚えても、ドンと構えられるようにならなければな!)
そう思いながら、ブラドはこの後の予定を考える。
(かなりハードだが、もう仮免試験までは時間がない。I・アイランドの事件の事もある。やはり今回の仮免試験を逃すわけにはいかん)
I・アイランドの事件のこともある程度は伝えられていた。
ただし、戦慈達が思いっきり戦ったことまでは伝わっていない。オールマイトと校長でそこは伝えないことにしたのだ。
相澤とブラドは「あいつらが戦わないわけがない」と見抜いていたが。それでもI・アイランドの責任者やオールマイト達の配慮を無駄にしないようにと、黙っていることにした。
しかし、それ故に生徒達の仮免試験合格は急務であると確信もした。
そのため、相澤達は少しでも時間を有意義に使うことを心掛けた。
そして、B組のバスも道を逸れて停車する。
「着いたぞ!全員、速やかに降車しろ!」
ブラドはそう言ってさっさとバスを降りる。
一佳達も不安を顔に表出したまま、速やかに降りる。
バスを降りた先はやはりパーキングなどはなく、建物もない。
少し先に見えるのは森と山だ。
「……トイレ休憩って感じじゃないよな、やっぱ」
「何するんだぁ?」
「怖ぇ~」
回原が顔を顰め、鎌切は周囲を見渡しながら訝しみ、円場は不安に耐えきれなくなってきた。
戦慈はズボンのポケットに手を突っ込んで、バスの傍に立っていた。里琴はその横で無表情で立っている。
一佳達もその近くで他のクラスメイト同様、不安げに周囲を見渡す。
「なんでここなんだろうな?」
「ん」
「この先に何かあるのでしょうか?」
「この先って……崖と森と山しかないけど……」
茨の言葉に切奈は眉尻を下げて、眼下に広がる森と遠くに見える山に目を向ける。
降りる場所もなく、ただ車を停めるだけの場所。
こんなところで何をするというのかという疑問が絶えない一同。
しかし、何よりも気になるのは、
「このタイミングで停まってる車ってことは……」
「まぁ、林間合宿の関係者だろうね」
ポツンと端っこに停まっている1台の乗用車。
このタイミングで停まっているなんて怪しさしかない。
すると、それを証明するかのようにドアがバタン!と開く。
「あははは!!やっと来たー!!」
明るく笑う声にブラドは頭を下げる。
「お待たせした。よろしく頼む」
「うむ!」
ブラドの言葉にザッ!と前に出ながら野太い声が返ってくる。
「じゃ、自己紹介!」
すると現れた2人は突如ポーズを取り始める。
「猫の手手助けやって来る!!」
「どこからともなくぅやって来るぅ……!!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」
猫耳を思わせるヘッドセットと猫の手形グローブ、さらに尻尾を付けたコスチュームを付けた2人組。
大きな目をして常に笑っている黄色のコスチュームを着た女性と、筋骨隆々でスカートコスチュームを身に着けた男性。
見た目とポージングのインパクトに唖然とすることしか出来なかった一佳達。
特にスカート姿の男のインパクトは強烈だった。
「彼女達が今回お世話になるプロヒーロー【プッシーキャッツ】の『ラグドール』と『虎』だ」
「あははは!あちきがラグドールだよ~!よろしくね、キティ達!」
「我が虎だ」
『よ、よろしくお願いします』
なんとか挨拶を返す一佳達。
「プッシーキャッツって確か……」
「ヒーロービルボードチャートJP、32位の4人で連盟事務所を構えるヒーロー集団だね」
「結構なベテランだよな、確か」
吹出が思い出そうと首を傾げると柳が答えて、骨抜が腕を組んで補足する。
ラグドールは崖縁の柵まで近づいて、B組一同を手招きする。
それに従い、一佳達は柵に近づく。
「今回キティ達が合宿するのはここだよ!」
ラグドールが森と山を手で示す。
「え!?ここから見える森と山がですか……!?」
「そうだ。ここら一帯は我らの所有地なのだ」
「マジかよ……!」
「はは……流石プロヒーロー」
泡瀬が目を見開いて驚き、虎の説明に鉄哲が何やら感動しており、物間はスケールのデカさに笑うしかなかった。
「そして、貴様らが使う宿泊場はあの山の麓だ!」
虎がビシ!と指差したのは、数キロ先の山の麓。もちろん建物なんて見えない。
「え?……あそこ?」
「遠っ!?」
「全然見えないデス!」
一佳が唖然として、鱗が目を見開き、ポニーも目を凝らせながら驚く。
そして、この状況にますます不安が強まってくる。
というか、もはや一同はある確信を抱いていた。
「ブ、ブラド先生?ま、まさか……」
円場が顔を引きつかせながら、ブラドに顔を向ける。
すると、ブラドとラグドール達がいつの間にか柵から遠ざかっていた。
「……え」
「あははは!ポチッとな!」
円場が固まっていると、ラグドールが笑いながら手元のスイッチを押す。
すると、戦慈達が立っている地面が崖側に向かって跳ね上がって、戦慈達は投げ出される。
『はああああっ!?』
突然のことに円場達はただただ叫ぶ。
戦慈はすぐ再起動して、隣で飛んでいた里琴に叫ぶ。
「っ!里琴!骨抜を掴んで下に先に降りろ!」
「……アイアイサー」
里琴は竜巻を生み出して飛び出し、骨抜を背中から脇を掴んで地面に急降下する。
「おおっ!?なんだよ!?」
「……地面を柔らかくせい」
「そういうことか!」
里琴の言葉に頷いて、骨抜は地面に手を触れる。
それを見ていた戦慈は近くにいた一佳と茨に手を伸ばして両脇に抱える。
「け、拳暴!?」
「拳藤は手をデカくして届く奴掴め!塩崎はツルを伸ばせ!」
「わ、分かった!」
「はい!」
戦慈の指示に2人はすぐさま動いて、一佳は唯と柳をキャッチする。
茨もツルを蠢かして、吹出や庄田、鎌切、凡戸を絡めていく。
円場は近くにいた宍田に呼びかける。
「宍田!背中貸せ!」
「了解ですぞ!」
宍田はビースト化して上着を弾き破る。その背中に飛び乗った円場は強く息を吐いて、下に斜めの足場を作る。
宍田はそれを使って勢いを殺さずに横に跳ぶ。さらに円場が空気を固めて、また宍田がジャンプする。
その先には回原がいた。
宍田は回原をキャッチして、また円場が空気を固めていく。
物間は途中で円場に触れて、自分で足場を作っていた。
ポニーは自分の角で飛び、切奈は手足を切り離して浮かぶ。
鱗は両手をウロコで覆い、茨のツルを掴んでぶら下がる。
そして、鉄哲は、
「うおおおおおお!?」
鉄化したことで重くなり、猛スピードで柔らかくなった地面に落ちる。
そして、戦慈達は、
「塩崎!拳藤もツルで縛れ!他の連中もしっかり持ち上げろよ!」
「は、はい!」
「里琴!!塩崎を抱えろ!」
戦慈は茨と里琴に指示を叫ぶと、一佳と茨を上に放り投げる。
「え!?」
「拳暴さん!?」
一佳と茨はもちろん慌てるが、すかさず里琴が茨に飛びついてお姫様抱っこして茨を抱えた状態で浮かぶ。
そのまま戦慈は鉄哲同様柔らかくなった地面に落ちる。
茨はツルで抱えている者達を怪我がない高さから降ろし、里琴と共に地面に降りる。
宍田達や物間も問題なく地面に降り立つ。
「拳暴!」
「鉄哲~大丈夫か~」
一佳や茨、骨抜は柔らかくなった地面に潜り込んだ戦慈と鉄哲に声を掛ける。
すると、戦慈の腕が地面から飛び出す。
それを見た茨がツルを伸ばして、戦慈の腕に絡めて引っ張り上げる。
「ふぅ……」
小さく息を吐いて、茨の横に降り立つ戦慈。
「大丈夫ですか?」
「ああ。助かったぜ」
「いえ、私も助けて頂きありがとうございました」
「あんまり無茶するなよ」
「してねぇだろ。ちゃんと骨抜に地面柔らかくさせたから、出来たことだぞ」
戦慈は茨に礼を言い、茨も戦慈に礼を言う。
一佳は腰に両手を当てて文句を言うが、戦慈は肩を竦めて反論する。
「ぶっはぁあ!!」
「お、出てきた」
「大丈夫か~?」
「おう!俺は頑丈だからな!助かったぜ、骨抜!」
「おう」
鉄哲が地面から土を吐き出しながら飛び出してきて、骨抜や泡瀬が引っ張り上げる。
骨抜は地面を戻して、全員が無事か改めて確認する。
すると、上からラグドールと虎の声がする。
「おーい!ここからは私有地だから『個性』使っていいよ~!もう使ってたけどね!あははは!」
「今は午前9:45!12:45までに施設に辿り着け!来なければ昼飯は抜きだ!」
虎の内容に戦慈達は顔を顰める。
「……3時間で着けってか」
「微妙な距離だぜぇ?」
「それに本当にただ目指すだけなのかって感じだよな」
回原の言葉に頷く一同。
それを後押しするように上から再び声がする。
「もたもたするな!のんびりできる程甘くはないぞ!この【絡繰りの森】はな!」
『絡繰りの森……?』
不穏で、ゲーム染みた名称に戦慈達は改めて森に目を向ける。
今の所、見える範囲内では普通の森だ。
「絡繰りってことは……罠とかがあるって考えるべきだよね?」
「そうですな。先ほど落とされたようなものがあると考えるべきでしょうな」
「ってことはポニーや里琴みたいに飛んで進めばいいってのも怪しいね」
「……むぅ」
「まぁ、流石に山の麓まで飛び続ける体力なんざねぇだろ」
「……むぅ」
吹出が腕を組んで不安そうに言い、宍田も頷く。
切奈が里琴達に顔を向けて顔を顰めて、里琴も唸る。しかも、戦慈にそもそもずっと飛べるほど容量もないとツッコまれて、また里琴は唸るしかなかった。
そこに鉄哲がネクタイを緩めて、大股で森へと足を踏み入れる。
「行くしかねぇんだ!このままじゃ昼飯抜きだぜ!」
鉄哲の言葉に一佳達も頷いて、森に足を踏み入れようとした直後、
鉄哲の姿が一瞬で消えた。
「え!?」
「鉄哲!?」
全員が鉄哲が消えた場所に駆け寄ると、地面に穴が空いていた。
「落とし穴かよ!」
「鉄哲ー!!」
「……お、おう……」
回原が顔を顰めて、泡瀬が穴に向かって叫ぶ。
鉄哲は穴の底でうつ伏せで倒れていた。穴は思ったより深く、5mほどの高さがあった。
茨がツルで引っ張り上げて、鉄哲は顔を押さえて立ち上がる。
「いっつ~……!流石に『個性』使う暇がなかったぜ……!」
「……なるほどな。体育祭で露呈した機動力の低さを想定してるのか」
一佳の言葉に全員が納得の表情を浮かべる。
しかも今回は視界が悪く、罠が見えない状況だ。さらに進む速度は遅くなる。
「これじゃあ3時間はますます厳しいね」
庄田の言葉に一佳も頷く。
「そうだな。気を付けて進もおおおおお!?」
「一佳!?」
「ん!?」
一佳が注意を促しながら一歩踏み出した瞬間、右足首に何かが絡まって逆さまに引っ張り上げられる。
近くにいた柳と唯が驚き、骨抜達も声に目を向ける。しかし、すぐさま目を背けた。
理由はもちろん一佳のスカートが捲れかけているからだ。一佳はギリギリでスカートを押さえ込んだが、もちろん完璧に隠し切れるものではない。
「茨、ツルで壁作って!ポニーと私で解く!」
「はい!」
「イエス!」
切奈がすかさず指示を出して、茨達も迅速に動く。
一佳はすぐに降ろされるが、顔を真っ赤にして荒く息を吐く。
骨抜達はどう声を掛けるべきか悩んでいたが、戦慈が呆れて声を掛ける。
「注意促すなら、ちゃんと足元見とけよ」
「う、うるさいな!!」
「……恥ずかしがるな」
「恥ずかしいだろ!里琴は見られてもいいのか!?」
「……私は問題ない」
一佳は顔を真っ赤にしたまま戦慈に叫び、里琴の言葉にも全力で反論する。
しかし、里琴は首を横に振り、スカートを捲る。
それに一佳達は慌てるが、里琴のスカートの下にスパッツが見えたことから、すぐに脱力して呆れる。
「……そうか。そうじゃなきゃ拳暴に飛びつけないもんな」
「……イエイ」
「イエイじゃねぇよ」
一佳はすぐさま理由を悟り、里琴は無表情のままピースして、戦慈にツッコまれる。
それに骨抜が露骨な咳払いをして、話を切り替える。
「とりあえず、どこに罠があるか分からねぇから、バラけずに進もうぜ」
「だな。男子が先に行って、女子はその後に進めば、拳藤みてぇなことにはならねぇだろ」
「……悪い」
「感謝」
「ん」
骨抜の提案に戦慈が追加して、鉄哲達はそれに頷く。
流石に毎回女子のパンチラを見ないようにするのは手間だ。
一佳は顔を赤くしたまま、男子の心遣いに謝罪して、柳が礼を言う。
もちろん女性陣とて、状況が状況なので見られても文句を言う気はないが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。
「宍田。匂いとかで分からねぇか?」
「全部は無理ですなぁ。罠が多いからなのでしょうが、匂いの区別が……」
「分かるのがあるだけで十分っしょ。とりあえず宍田と拳暴先頭で行くか。宍田は罠検知、拳暴は漢解除」
「しゃあねぇな」
「了解ですぞ!」
嗅覚や視覚などが強化され身体能力も高い宍田と、多少の怪我ならば全く問題にならない戦慈を前に出すことを提案する骨抜。
それに2人は頷き、その後に鎌切や鉄哲、円場、物間が続くことになった。
里琴も出来る範囲で飛んで偵察を行うことになった。
「じゃ、行くか。鉄哲、気合頼んだ」
「おっしゃあ!!力を合わせて昼飯までに着くぞ!ヒーロー科B組ぃ!!」
『おう!!』
骨抜が軽い感じに鉄哲に気合入れを頼む。
すぐさま叫んだ鉄哲の掛け声に、一佳達も力強く答える。
こうして林間合宿は波乱の幕開けを迎えた。
実際原作では何してたんでしょうね?結構気になってるんですよ。ピクシーボブはA組でしたしね。