『拳』のヒーローアカデミア!   作:岡の夢部

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拳の五十五 飯!風呂!寝る!

 A組も戦慈達が部屋に入った頃に到着したらしく、すぐに夕飯になるとのこと。

 戦慈達は制服が破れた者達が多かったため、先にジャージに着替えることにした。

 

 そして、食堂に降りると、

 

「「「おお~!!」」」

 

 テーブルには大量の料理が並んでいた。

 それを見て、腹が減っている鉄哲達は目を輝かせて、涎が流れそうになる。

 戦慈と里琴も空腹なので、いつもの大食い時の目つきになってきていた。

 それを見逃さなかった一佳はブラドと配膳をしていた赤いコスチュームを着ている『マンダレイ』に声を掛ける。

 

「すいません」

「ん?」

「どうしたんだい?ご飯はもう少し待ってね」

「それなんですけど、この食事ってどれくらいおかわりとか出来るんですか?うちのクラス、2人ほど異常な大食いがいるんですけど……」

「「異常な大食い?」」

 

 一佳は戦慈と里琴に目を向ける。

 それにブラドとマンダレイは首を傾げる。

 

「巻空もか?」

「男子の方はイメージできるけどね」

「どっちかって言うと里琴の方が食べます。……今並んでいる料理なら2人で楽に食べ切れます。焼き肉食べ放題やバイキングでも、いつも店の人に頭下げられるほど食べるので……」

 

 ブラドとマンダレイは唖然とテーブルに並んでいる大量の料理を見る。どう見ても2人で食べ切れる量ではない。

 ただでさえ全員昼飯抜きで空腹状態。全員がいつも以上に食べるだろう。

 それを予測しての量だが、それを2人で食べ切れると言う。

 

「……白飯はともかく、おかずは限界があるね……」

「分かりました。拳暴!里琴!バイキングじゃないからな!2人で食べ過ぎるなよ!」

「……分かったよ」

「……むぅ」

 

 戦慈と里琴は明らかに不満オーラを噴き出す。仮面と無表情だが、全員が2人の不満オーラを感じ取った。

 2人の大食いを知っている切奈達は2人の様子に苦笑して、鉄哲達は2人の大食い度合いを知らないので首を傾げる。

 

「え?拳暴達ってそんなに食べれんの?」

「今並んでる分なら食べ切るよ。全部のテーブルの料理をね」

「「「マジで!?」」」

「巻空も?」

「今の所、里琴の方が食べるね」

「凄まじいですな~」

 

 切奈の言葉に男子陣が感心するやら呆れるやらだった。

 そこにA組も下りてきて、全員が席に着く。

 A組陣は目の前の料理に喉を鳴らす。

 

「うまそー!」

「お腹減ったよー!」

 

 その時、ふと八百万が戦慈と里琴を視界に捉える。

 

「……拳暴さんと巻空さんにはこの量は少ないのでは?」

「え?あ、確かに」

 

 麗日がそれに気づいて、A組の者達も戦慈と里琴に目を向ける。

 その様子に切島の背中側にいた鉄哲が切島に声を掛ける。

 

「なんだ、切島?お前らも拳暴達の大食い知ってんのか?」

「おお、I・アイランドでな。オールマイトが事件でエキスポ中止になったお詫びでバーベキュー奢ってくれてよ。そこに拳暴達も来てたんだ」

「オールマイトの奢りで!?」

「えええ!?それって不公平じゃないかい!?僕達だって諦めて帰ったのにさぁ!」

「物間、それ以上騒ぐなら止めるぞ。飯抜きになるかもな」

「あははは!」

 

 切島の言葉に円場が驚いて、聞こえていた物間が騒ぐ。しかし、一佳が手刀を構えて注意すると、高笑いをしたまま顔を背けた。

 

「で?そこで拳暴と巻空はどれくらい食べたんだ?」

「お、おう。あ~……少なくとも2人で50人前は食べたんじゃないか?オールマイトが最後の方、財布を眺めて顔真っ青だったしな」

「あ~、だっただった。明らかに顔引きつってたよな」

 

 円場が平然と切島に続きを促して、切島もすぐに思い出しながら答える。

 上鳴も思い出したように頷き、他のA組の者達も頷いていた。

 一佳はオールマイトに内心謝罪しながら、戦慈達を呆れたように見る。

 その話を聞いていたブラドやマンダレイも、呆れながら戦慈と里琴に声を掛ける。

 

「ここの料理はプッシーキャッツが調理してくれたものだ。あまり迷惑はかけるなよ」

「材料も無限じゃないから、我慢しておくれ。まだ後6日もあるんだからね」

「分かってんよ」

「……むぅ」

 

 戦慈は少し苛立ちながら頷き、里琴は未だに不満げだった。

 それを見たブラドはため息を吐く。

 

「……コーヒーについては許可を貰った。それで我慢しろ」

「だから分かってる」

「……仕方ない」

 

 そもそも足りないとも我慢出来ないとも言ってないと戦慈は思っていたが。

 そして、何故か里琴はそれで納得した。自分がコーヒーを淹れるわけでもないのに。

 

 なんやかんやあったが、戦慈達は食事を開始した。

 

「うめぇ!胃に染み渡る!」

「米うめぇ~!」

「肉も野菜もうめぇ!」

「全部美味しい!」

 

 全員が勢いよく料理を掻き込んでいく。

 その勢いは戦慈と里琴にも負けておらず、今の所2人の異常さが目立つことはなかった。

 

 それでも30分もすると……。

 

「拳暴!巻空さん!食べるの速いよ!?もうおかず無くなるじゃないか!?」

「噛んでんのかぁ?」

「多分……」

 

 庄田達の声に鉄哲達が顔を向けると、里琴と戦慈の前の山のように盛り付けてあったはずのから揚げや肉団子にサラダなどの皿が、ほぼ空になりかけていた。

 それはつまり出席番号順のため隣に座っていた庄田や一佳達のおかずもほぼ消えたということだ。

 里琴はいつも通りリス頬になって、苦情を無視してひたすら白米を口に運んでいる。

 戦慈は特に頬が膨らんではいないが、明らかに食べるペースは速い。

 

「もう!?」

「相変わらずだねぇ……」

「負けるかぁ!!」

「鉄哲、張り合わないでくれ。俺らは食いてぇ!」

「モリモリだね!」

 

 戦慈と里琴のペースにマンダレイ達はため息を吐きながら、新しいおかずを置く。

 

「ここまで速いとはねぇ……」

「……すいません」

「あんたが謝ることじゃないよ。それにしても彼女は一体どこに消化されてるんだい?」

「私達も分かってないです」

「……むふん」

 

 マンダレイに一佳が謝るが、マンダレイは苦笑しながら里琴に目を向けて首を捻る。

 里琴については一佳も未だに分からず、首を横に振る。

 それに何故か里琴が胸を張る。頬を膨らませたまま。

 

「里琴。だから食べながらはやめろ」

「……ん」

 

 一佳がジト目で注意する。里琴は頷いて、また猛スピードで食事を再開する。

 その後も2人は食べ続け、最後には他のテーブルで残された料理も完食して、テーブルの上には綺麗な空の皿が並んでいた。

 

「……最終的にはありがたかったかな?」

「皿洗い的にはね」

 

 綺麗に食べ尽くされた料理を見て、マンダレイと青いコスチュームを着た『ピクシーボブ』が呆れながら頷く。

 

「……ケプッ」

「ふぅ」

「……まぁ、満足したならいいけど」

「食べ過ぎ」

「ん」

 

 里琴が無表情ながら満足げに腹を擦っており、戦慈も満足げに息を吐く。

 その様子に一佳達ももう呆れるしかなかった。

 鉄哲達やA組の者達は唖然と2人の食べっぷりを眺めていた。

 

「一体何人分食べたの?」

「さぁなぁ」

「食べ物を無駄にしないのは素晴らしい事です」

「それはそうですがな」

 

 凡戸と鎌切が首を傾げ、茨が微笑ましそうに戦慈と里琴を見つめて食べ切ったことを褒める。それに宍田が呆れる。

 

 そして、食事が終了し、A組が入浴となった。

 その間に戦慈達は私服に着替えて待機する。

 正直、寝転びたいがまだ汚れている体で布団に寝れないと思い、なんとなく全員で食堂にて待機していた。

 トランプで遊んだり、スマホで遊んだり、もはや眠気に負けてコックリしている者など様々に時間をつぶす。

 

 戦慈はタンブラーのコーヒーを飲みながらのんびり座っており、里琴は戦慈の隣で背中を預けてボケーっと座っている。おそらく眠いのだろう。

 その隣で一佳達はトランプをしており、隣のテーブルでは鉄哲と宍田が腕相撲をしていたり、泡瀬や円場などはスマホゲームで盛り上がって、凡戸や鎌切、骨抜などはウトウトしていた。

 

「明日、朝早いって言ってたな」

「夜明けには始めるって言ってたね」

「起きれる自信ねぇ~」

「誰かが起きるだろぉ」

「何するんだろうねぇ」

「そりゃプルスウルトラだろ」

「「早朝からはキツイって!!」」

 

 ぼんやりと会話する骨抜達。

 

「そういえば寝相悪いとか、いびきヤバイ奴とかいる?」

「僕はスヤスヤだよ!」

「今日は自信ねぇ」

「疲れ切ってるしね」

「寝相もなぁ……布団でなんてめったに寝ないし」

「今日は蹴られても起きない自信はある」

「俺は斬り返すかもしれねぇなぁ」

「よし、鎌切。お前は廊下だ」

「ざけんなぁ」

 

 一緒の部屋で寝るので、それぞれの寝方が気になるのは仕方がないことだろう。

 しかし、今日は疲れ切っており、全員が爆睡する自信があったため、注意しようがない。

 

 話を聞いていた一佳が戦慈に顔を向ける。

 

「拳暴って寝相はどうなんだ?」

「……知ってどうすんだよ」

「いや、お前の寝相が悪いと結構被害出そうだなって」

「寝てるときは体はデカくなんねぇよ」

「それもそうか」

 

 寝ている時にアドレナリンが増えるなんて普通ではない。

 一佳はそう言えばと思い出して頷く。

 一佳達はI・アイランドである程度それぞれの寝方は理解しているので、特に話題にならない。

 

 すると、緑谷が腰にタオル1枚巻いた姿で、誰かを抱えて廊下を走っていった。

 

「緑谷?」

「どうしたんだろ?」

「危ねぇ格好で走っていったな」

「あと誰か抱えてましたな」

 

 円場達が首を傾げる。

 一佳達はトランプに集中していて、足音に振り向いた時はもう緑谷の姿はなかった。

 

 そして、A組が出たとのことなので、B組一同も風呂に向かう。

 

 

カポーーン

 

 

 風呂は露天風呂だった。

 戦慈達は体を洗って、ゆったりと湯船に浸かる。

 

「あ゛~……生き返るわ~」

「露天風呂ってのがいいよな~」

「宍田って毛が濡れると、細く見えるな」

「それに体ザブザブ洗うの大変そうだよね」

「さっき体が泡で覆われてたぜぇ」

「そうですな。だからボディソープの消費が酷くてですなぁ」

「吹出も頭どうあって洗ってるんだい?」

 

 戦慈も湯に浸かっていた。ちなみに仮面はしたままである。

 

「なんで仮面外さねぇんだ?」

「痕がピリピリすんだよ。湯気のせいかどうか知らねぇがな」

「あ~……」

 

 戦慈の言葉に骨抜が納得の声を上げる。

 すると、物間が小声で話し始める。

 

「で、誰が女子風呂を覗きに行く?」

 

 もちろん冗談ではあるが、様式美として言い出したようだ。

 それにほぼ全員が女子風呂方面の壁に目を向ける。

 数人が想像したのか顔を赤くする。

 しかし、それと同時にバレたときのことも思い浮かべる。

 

「……俺は拳藤に殴り飛ばされたくないな」

「俺も」

「塩崎のツルとかポニーの角も来そうだしな」

 

 ヒーロー科にいる女子が悲鳴を上げて、恥ずかしがるだけではないはず。

 どう考えても反撃を喰らうイメージしか浮かばない。

 

「そもそも覗きなんて情けねぇ真似出来るかよ!」

「しぃー!鉄哲、声デカい!」

「お、おう」

 

 鉄哲が正義感を燃やして思わず大声を出してしまい、泡瀬が慌てて咎める。

 戦慈や骨抜は呆れたように、それを眺めていた。

 物間は肩を竦める。

 

「そう言われちゃ仕方ないね」

「こういうのって言い出しっぺが行くべきじゃね?」

「え」

 

 骨抜がここで悪ノリを始めた。

 物間は笑みを浮かべたまま固まる。

 

「そうだよな。言い出した奴が手本を見せるべきだよな」

「骨は拾ってやるぜぇ、物間ぁ」

「その後、埋めるけどな」

 

 円場、鎌切、泡瀬が乗っかって、ニヤニヤと物間を見る。

 物間は口端をピクピクと引きつかせる。

 その時、

 

「言っとくけどさ~」

 

『!!?』

 

 聞こえるはずのない女性の声が男子風呂に響く。

 その声に物間達は弾かれたように、声がした方向を見る。

 

「聞こえてっかんね~」

 

 女子風呂側の壁の上に、笑みを浮かべている口が浮いていた。

 

 間違いなく切奈の口である。

 更にその周囲にポニーの角と風呂桶が何個か浮いていた。

 しかも風呂桶の2つほどは明らかに船に出来そうな程大きい。柳と唯の『個性』だと考えられる。

 

「「「「……」」」」

 

 明らかに攻撃態勢が整っている光景に、物間達は顔を青くして固まっていた。

 

「冗談だとは思ってるけど~……ホントに来たら分かってるよね?」

 

「「「「イエス!リザーディ!!」」」」

 

 最後の笑みが消えた口と抑揚のない声に、物間や泡瀬達が軍隊のようにビシッ!と返事をする。

 そして切奈の口や角やらが壁の向こうへ消えていく。

 

 それを見送った物間達は体の力が抜けて、口元までブクブクと温泉に体を沈める。

 

「……元気だな」

 

 徹頭徹尾、他人事のように眺めていた戦慈は呆れていた。

 その横でさり気なく避難していた庄田や吹出、宍田も頷いていた。

 

 

 

 そして女子風呂では、一佳達が小さくため息を吐いて湯に浸かっていた。

 

「全く……」

「まぁ、あれだけ脅せば大丈夫っしょ」

「ん」

「なんと罪深き所業でしょう……!鞭で打たねばなりません」

 

 髪をいつものサイドテールではなく後ろで束ねている一佳は腕を組んで呆れており、同じく髪を上げてタオルで包んでいる切奈が苦笑しながら宥める。

 唯は折り畳んだタオルを頭の上に乗せて切奈の言葉に頷き、切奈同様タオルで髪を包んでいる茨が目を閉じながら嘆いている。

 その隣でポニーは一佳のように後ろで結って温泉を堪能しており、里琴と柳は唯と同じように頭にタオルを乗せて、目を閉じてポケ~としている。

 

「A組だと峰田がマジで覗こうとしてたんでしょ?それに比べれば、うちらはマシマシ」

「ん」

「……そりゃあなぁ」

 

 風呂に入るときに八百万が頭を抱えていたのを思い出すと、確かに遥かにマシかもしれないが、それでもマシであるだけで頭が痛いのは変わらない。

 

「あ~……それにしても、露天風呂に入れるってだけで頑張れる気がするね~」

「ん」

「……ごくらく」

「溺れるなよ」

「ジャパニーズ温泉!気持ちいいデス!」

 

 全員でポケ~と温泉を味わう。

 時間一杯まで温泉を堪能した一佳達は、頬を赤らめて部屋へと向かう。ちなみに一佳は髪を下ろしたままである。

 しかし、食堂の前を通った時に、嗅ぎ慣れた香りが届いた。

 

「これは……」

「コーヒーだね」

 

 その瞬間、里琴が物凄いスピードで食堂に飛び込んでいく。

 一佳達も後に続くと、

 

「やっぱり拳暴か……」

「あん?」

「って、ブラド先生?それにプッシーキャッツの皆さんも……」

「おう」

 

 戦慈がコーヒーを淹れており、テーブルにはブラドに相澤、虎、ラグドールがコーヒーを飲んでいた。

 

「先生達まで……」

「最初に俺達が飲んでおけば、拳暴も淹れやすいだろ」

「しかし、思ってたより美味いな」

「私はカフェオレだけどね!」

「飲みたいならば、そこのコップを使うといい」

 

 相澤が呆れている切奈に答えていると、ブラドが感心しており、ラグドールは笑いながらコップに口をつける。そして虎がキッチンに並んでいるコップを指差す。

 里琴は戦慈の横に立っており、何かを待っている。

 

「里琴?」

「……待ち」

「ん?」

「こいつは最初から自分のタンブラーを俺に渡してたんだよ」

「……当然」

 

 一佳と唯が首を傾げると、戦慈が呆れながらタンブラーを里琴に渡す。

 里琴は自信満々に頷き、一佳達に振り向いて自慢するように掲げる。

 それを見た瞬間、一佳と唯が駆け出す。

 どうやら部屋にタンブラーを取りに行ったようだ。

 そして、茨達はコップを持って、キッチンカウンターの前に並ぶ。

 

「……はぁ」

 

 戦慈はため息を吐いて、コップを受け取る。

 

「ブラックでいいのか?」

「……カフェオレ」

「お前はタンブラーのがあんだろうが」

「……それはそれ、これはこれ」

「……はぁ」

 

 なんだかんだでカフェオレを作る戦慈に切奈達は苦笑する。

 その間に一佳と唯も戻ってきて、タンブラーを渡す。

 

「……あいつら、いつもコーヒーをもらってるのか?」

「みたいだな」

 

 相澤が少し呆れたように戦慈達の様子を見て呟き、ブラドも少し呆れながら頷く。

 

「それにしても、拳暴準備早くない?」

「お前らが物間達に忠告して、すぐだな」

「早いね」

「長湯は好きじゃねぇんだ」

 

 ようやく全員のコーヒーとタンブラーを淹れ終えて、一息つく戦慈。

 一佳や里琴以外は初めての戦慈のコーヒーである。

 

「おぉ、ホントに美味しい」

「ん」

「香りも素晴らしいですね」

「飲みやす」

「グッドテイストデース!」

 

 切奈達は想像以上の味わいに自然と笑みを浮かぶ。

 

「コップは自分達で洗えよ。明日も早いし、さっさと寝ろ」

「コーヒー飲んだけどね!あははは!」

 

 教師陣はさっさと引き上げていった。

 戦慈もさっさと飲んで、器材を洗い出す。

 一佳達もコップを洗って、満足気に部屋に戻る。

 

 女子部屋は和室で布団と荷物でほとんど埋まっていた。

 一佳達はすぐに明日の着替えと寝る準備を始める。

 茨は温泉同様頭をタオルで覆う。これは枕などに穴を空けないようにするためである。

 ポニーも角に布のカバーを付けて、刺さらないようにする。

 

「じゃ、寝よっか」

「……ぐぅ」

「はやっ」

「ん」

 

 そして、一佳達は眠りにつく。

 

 戦慈達もすぐに眠りにつき、周囲のいびきや寝相など気にならないほど熟睡したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 とある倉庫にて。

 

「集まり悪いねぇ。これだけ?」

「いや。何人かは現地集合だとよ」

「まぁ、でも子供を狙うなら十分な気もするがね」

 

 木箱の上に座っているマスタードが他の者達を見渡して首を傾げる。

 その言葉に黒髪で顔や手がツギハギだらけの男が気だるげに答え、天井に張り巡らされた鉄骨の上に座っている黒いハットに仮面を着けた男が肩を竦めて答える。

 

「早く行きてぇなぁ……!あの仮面野郎をぶっ殺したいぜぇ!」

「どんな子がいるのでしょうか?お友達になりたいです!」

 

 地面に横たわる鉄骨に腰かけているマスキュラーは戦慈を思い浮かべて笑みを浮かべて、セーラー服を着た女子も楽しそうに笑っている。

 

 ここにいるのは敵連合の新メンバーだ。

 

 ツギハギ男が『荼毘』。

 ハットの男が『Mr.コンプレス』。

 女子高生は『トガヒミコ』。

 

 ステインが捕縛された保須事件をきっかけに、敵連合と接触した闇ブローカーの『義爛』の紹介で集まった者達だ。

 他にもいるようだが、これから行おうとしている計画の現場で落ち合う予定らしい。

 

 すると倉庫の扉が開き、複数の人影が入ってくる。

 先頭にいたのはディスペだった。その横には広島と同じくらいのグラマラス美女になっているエルジェベートもいた。

 

「ずっと待たせてて悪いな。もう少しで装備が届く。それを受け取ったら現場に向かってくれ」

「……その後ろの連中が残りの奴らか?」

 

 荼毘が目を細めて品定めするように初めて見る者達に目を向ける。

 

「いや、他にもいる」

「エルさーん!!」

 

 ディスペが首を横に振ると、トガがエルジェベートに飛びつく。

 

「ああ、もう!!なれなれしく触るんじゃありませんわ!小娘!」

「い~や~!!」

 

 エルジェベートは顔を顰めて振り払おうとするが、トガは意地でも離さなかった。

 エルジェベートもトガが戦力の1人であるため、全力で振り払うことが出来ない。

 

「血が好きな者同士仲良くしましょう!」

「喧しいですわ!」

「はぁ。話を進めるぞ。で、荼毘。リーダーがお前さんにだとよ」

「あ?」

 

 ディスペが親指で示したのは灰色の皮膚に頭部がヘルメットで覆われている男。頭頂部からは脳みそが見えており、上半身は裸だった。

 

「……保須や広島で暴れてた脳無って奴か?」

「そうだ。で、これはお前さんの指示に従う様に調整してるそうだ。好きに使ってくれ」

「俺の指示に?」

「ほれ。これがこいつのコントロールキーだ」

 

 ディスペが荼毘に小型の機械を渡す。

 それを受け取った荼毘は脳無を見て、肩を竦める。

 

「ま、適当に暴れさせる」

「それで構わんさ。で、最後にこいつだ」

 

 ディスペが最後に示したのは、全身鎧を身に着けた者だった。腰が細いことから女性と推測できる。

 

「こいつの名は『アイアン・メイデン』。荼毘やコンプレスなら聞いたことあるか?」

「……こいつが?」

 

 メイデンの名前に荼毘は首を傾げるが、コンプレスは唖然とした。

 

「有名なのか?」

「日本では噂程度だけどな。外国では超有名な傭兵さ」

「ふぅん。なんでそんな傭兵が敵連合なんかに?」

 

 荼毘の質問にコンプレスが答え、傭兵と言う言葉にマスタードが首を傾げる。

 それにディスペが答えた。

 

「こいつはゲストだ。死柄木の後ろ盾との関係による参加だ」

「……」

 

 メイデンは一切話に参加もせず、反応も見せない。

 

「……そいつも脳無みたいだな」

「まぁ、あんまり喋るタイプじゃないみたいだな。けど、実力は確かだ」

「どんな『個性』なんだ?」

「金属を操る『個性』だ」

「……現場は山だろ?どうすっ!?」

 

 荼毘は本当に戦えるのか疑問を言おうとしたが、突如地面から剣が生えてきて荼毘を囲む。

 

「……っ!」

「どうやら地面に含まれてる鉄分も操れるみたいでな」

「……なるほどな」

 

 荼毘が納得すると、剣が地面に消える。

 

「じゃあ、俺らはもう一度作戦を確認したら直接現場に向かう。お前さん達は装備を受け取って、脳無の性能を確認したら現場に向かってくれ」

 

 ディスペはそう言って、エルジェベートとメイデンを連れて倉庫を出ていった。

 

「……脳無にアイアン・メイデン。思ってたより闇が深いねぇ。敵連合って」

 

 マスタードがお道化たように言う。

 

「全くだ。まぁ……そのくらいじゃなきゃ……」

 

 荼毘はユラリと脳無に近づいて行く。

 

「虚ろに塗れた英雄達とこの社会を崩すなんて、夢のまた夢だろうがな」

 

 荼毘は薄っすらと笑みを浮かべる。

 

 闇はゆっくりと忍び寄って来ていた。

 

 

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