ビルを変えて、準備をする里琴達。
「俺が前に出るかぁ?」
「……行ける?」
「きひゃひゃ!塩崎のツルは斬りがいがあるぜ。円場の奴も砕けねぇわけじゃねぇ」
「……ん。……任せる」
鎌切の『個性』は《刃鋭》。体から刃を生み出すことが出来る。
円場は《空気凝固》。吹いた空気を固めることが出来る。そして茨は《ツル》。髪の毛をツルのように伸ばして、操作することが出来る。
戦慈達はモニタールームで作戦を練っている里琴達を眺めながら、各チームの作戦を推測する。
「里琴達はどう出ると思う?」
「鎌切は塩崎……だったか?塩崎のツル相手には強いように見えるが量に制限がないなら、塩崎が有利だな。しかもツルや空気を固めて足場に出来るなら、いきなり5階に現れかねねぇ。相手が動かねぇ限り、作戦が決めれねぇだろうな」
「やっぱ、そうだよな。塩崎と円場もどちらかと言えば防衛向き。攻める以上正面突破か、奇策かのどっちかだよな」
「だから基本的には鎌切が前に出て、里琴が防衛だろうな」
戦慈と一佳の推測に唯達も頷きながら聞いている。
その頃、円場は茨との作戦会議で困惑していた。
「いや、だからさ。俺が足場固めて、塩崎のツルで一気に5階まで行けば、速攻じゃん?」
「そのような謀……穢れに通じます。裁きが下ります」
茨は両手を胸の前で組んで祈りながら、円場の作戦を拒否する。それに円場は頭を抱える。
「作戦だぜ?相手は核兵器を持ってるんだ。正面から行っても危険だぜ?」
「私は裁かねばいけません。悪と同じ道は歩けません」
聞く耳を持たない茨に、円場はどう説得したものかと必死に考える。
しかし、無情にも開始の合図が告げられる。
慌てる円場を横目に、茨は入り口の前に立ち、ツルを動かして扉を突き破って建物内に伸ばしていく。
「正面突破だな」
「なんか円場の奴、慌ててないか?」
「……まさか塩崎があそこまで頑固だったとは」
「意外というか何というか……」
泡瀬が円場が妙に慌てている様子を見て、首を傾げる。その横では小型無線機で会話を聞いていたブラドとセメントスが茨の言動に呆れていた。
ツルはドンドン伸びて、建物内を蹂躙していく。しかし、その途中でツルが何かに斬り裂かれた感触を感じ取った。
「見つけました。3階あたりでしょうか。恐らく鎌切さん」
「くそ!塩崎はそのまま鎌切を引きつけてくれ!俺が上から行く!」
円場は息を吹いて足場を作り、それに乗って5階を目指し始める。そして3階まで登った時、5階の窓から影が飛び出してきた。
「はぁ!?」
「……やー」
もちろん飛び出してきたのは里琴。
目を見開いている円場を捉えた里琴は、左腕を振って竜巻を発生させて、円場に襲い掛かる。
円場は真上の空気を固定して壁を作るが、里琴の竜巻の方が大きかった。竜巻は円場をすり抜けるように通り過ぎた。
「え!?って、しまった!」
円場は一瞬唖然とするが、すぐ下にいる茨が狙いであることに気づいた。
茨は上から迫る竜巻に気づいて、周囲を覆う様にツルを張る。それにより鎌切に伸ばしていたツルが切り離さぜるを得なくなってしまう。
「……成功。……3階窓」
『了解ぃ!』
里琴は右手で細めの竜巻を放ち、円場の空気壁に叩きつけて円場の注意を引く。左手はクルクルと回して、茨への竜巻を維持しており、両足裏に竜巻を生み出して空中に浮かんでいる。
その光景を骨抜達は腕を組んで唸りながら、見つめている。
「3つの竜巻をあそこまで細かく制御出来るのかよ」
「大きさまで変えられるのか」
「塩崎が入り口に入って、ツルを発動していれば円場だけで済んだのだろうが……」
「そうですね。少し油断したようですね」
すると、里琴が左手でコントロールしていた竜巻を解除する。
それに円場やブラド達は訝しむが、ビルの窓から鎌切が円場に向かって飛び出してくる。
「斬り刻むぜぇ!」
「げ!?」
円場は慌てて壁を作り出して、鎌切の両腕の刃を防ぐ。
その隙に茨が鎌切にツルを伸ばそうとしていたが、猛スピードで里琴が上空から円場達の横を通り過ぎて、茨に迫ってきた。
「!!」
「……ていやー」
両腕を振って2本の竜巻を生み出し、茨を挟み込むように操作する里琴。茨はツルを地面に突き刺して、左右から壁のようにツルを生やす。さらにツルを束ねて里琴に伸ばす。竜巻はツルで防がれてしまい、里琴はツルを避けながら体をスピンさせ、自身の周囲に竜巻を生み出してツルを引き千切る。
そして、そのまま茨の元へ突撃する。
「半端ねぇな!?」
「っていうか、もはや屋外戦闘になってますけど。いいんですか?」
「……よくはないが……そういう作戦を仕掛けたのがヒーローチームだからな」
「それに対応したヴィランチームを責めるのも、止めるのもお門違いだねぇ。よくはないけど」
「あ、円場が捕まった」
切奈の言葉にブラドとセメントスは顔を顰めるが、そうなった原因は茨と円場の作戦が原因なので今更注意するのもおかしな話だと判断する。
その時、鎌切が円場の壁を破り、捕縛テープを巻きつける。
「ヤバイこと言ってたけど、なんだかんだしっかりしてんな」
「これで塩崎だけだな」
「里琴は大丈夫なのか?」
「問題ねぇだろ。鎌切が来たしな」
鎌切が茨に斬りかかり、ツルを斬り裂いて行く。それを確認した里琴は、すぐさま竜巻で飛び上がり5階まで戻る。そして核を確認して、再び窓際に戻る。
下では鎌切が全身から刃を生やして、ツルによる拘束を防いでいた。
「……入り口」
『了解!』
「……やー」
上半身だけ窓から乗り出して、気の抜けた掛け声で竜巻を放つ里琴。それと同時に鎌切はビルの入り口まで下がる。
茨は再び周囲をツルで覆い、竜巻を防ぐ。しかし、それを見た鎌切が再び飛び出して、ツルを斬り裂く。
「ひゃひゃ!斬られろぉ!」
「くぅ!」
茨が鎌切にツルを伸ばそうと囲いを解除した瞬間、ズダン!と真後ろに里琴が降りてきた。
「っ!?」
「……ててぇい」
「くぅうう!?うあ!」
ツルが伸びる前に里琴は両手からそれぞれ小さな竜巻を放ち、茨を吹き飛ばして壁に叩きつける。衝撃と痛みに呻いた茨は崩れ落ちて、膝をつく。その隙に鎌切が近寄り、捕獲テープを巻きつける。
『ヒーローチーム捕縛!ヴィランチームの勝利だ!』
「……ブイ」
「よっしゃあ!」
勝者が告げられて、無表情でピースする里琴と叫ぶ鎌切。円場と茨はガックリと肩を落とす。
地下に降りた里琴達は講評を受ける。鉄哲と宍田もリカバリーガールにより治療されて、戻って来ていた。
「塩崎は搦手が嫌なのは構わんが、状況に応じて我慢することも学べ。あれが本当に核兵器なら時間がかかる戦い方は相手を下手に刺激するだけだ。それに屋内に入らなかったのは油断したな。あれがなければ、間違いなく結果はもっと変わっていただろう」
「……はい」
「円場はフォローしようとしたのは見事だが、もう少し塩崎の暴走を活かすべきだったな。2人揃って外にいたのでは、的にしかならん。塩崎が駄目なら、お前が屋内に入って鎌切や巻空を引っ掻き回すべきだった」
「……はい」
「鎌切は言葉は荒っぽいが、よく巻空の意図を理解して動いていたぞ」
「はい」
「そして巻空。竜巻の使い方や飛び出すタイミングは見事という他ないな。2人を外にくぎ付けにして、注意を引いたのはリスクもあるが、あの場面ではベストタイミングだった」
「……ブイ」
「ただし……屋内訓練なのに、屋外になったのは授業の観点からは減点だ。ちゃんと授業の趣旨を理解して、動くように」
「「「「……はい」」」」
ブラドの言葉に頷く里琴達。それを一佳達は苦笑しながら見つめている。
「ま、里琴は『個性』的には外で戦いたかっただろうけどな」
「だろうな。だから飛び出したんだろ。あのタイミングなら円場達の作戦のせいに出来るかんな」
「やっぱりか」
ビルには一切損壊はないので、そのまま3回戦目へ。
ヒーローチームは一佳と骨抜。ヴィランチームは回原と切奈となった。
「よし!行ってくる!」
「……行ってら」
「ま、頑張りな」
「ん!」
一佳はパン!と手のひらに拳を合わせて、外へと向かう。それに戦慈達は軽い声援で送り出す。
鉄哲は骨抜と回原に声を掛けて、切奈もポニーと柳に声を掛けられて外に向かう。
「さて、今度は推薦入学者同士の戦いだな」
「楽しみが多いですね」
外に出た一佳と骨抜はさっそく作戦会議を始める。
「回原は《旋回》、切奈は《トカゲのしっぽ切り》。体力テストの様子からすると、やっぱり厄介なのは切奈だな」
「だな。俺の《柔化》じゃ取陰を押さえ切れないし、核の確保時には使えねぇ。っていうか、屋内ではあんまり使えない」
「あいつらは偵察に切奈を使うはず。厄介なのは手だけで捕獲テープを持っている場合だ。でも、それを切奈が理解してないとは思えない。だから、どこかで必ず回原が前に出てくるはずだ。切奈の部位の方が核を動かすには向いてるしな。……よし!拳暴の作戦をもらおう!」
「?」
一佳の言葉に骨抜は首を傾げる。一佳から作戦を聞いた骨抜は、少し考え込んで頷く。
そして開始が告げられる。
一佳と骨抜はビルの壁を柔らかくして侵入する。
「ぷは!」
「行けるか?」
「問題ないよ。周囲は?」
「今の所、何も見えないな。やっぱ、1階は避けてるみたいだな」
「やっぱ床を柔らかくされるのは嫌だよな。まぁ、ここは地下があるから出来ないんだけど」
本来なら1階では床を柔らかくするのに戸惑いは少ない。なので切奈達からすれば、1階で戦いを避けるのは当然の選択である。一佳達はそれは予測済みなので、特に落ち込んだりはしない。
2人は2階に上がる。常に周囲を確認し、角を曲がるときも必ず上下左右を確認してから曲がる。
3階に上がろうとしたところで、足を止める。
上がった先に人の手だけがテープを持って、ふわふわと浮いていたのだ。
一佳は骨抜に声を掛ける。
「どう思う?」
「罠だろうけど……あの先に回原がいるかどうかだな。まぁ、いるだろうけど」
「どっちを狙ってるかだよな」
「だな」
「……ここは力業で行くか。私が行くよ」
一佳がダン!と走り出して階段を駆け上がり、両手を巨大化し突き出して階段一杯に手を広げる。重ねた手の隙間から前を見ながら、切奈の手を巻き込んで壁に叩きつける。壁は砕けて、穴が開く。
そして、すぐさま両腕を広げて左右へ牽制する。
「うわ!?」
「回原!一気に行くよ!」
「おっけー」
一佳は巨大な手のまま、回原に一気に殴りかかる。回原は腕を回転させるも、一佳のパワーの強さに耐え切れずに後ろに飛ばされる。
「でっ!?な、なんてパワーだよ!?トラックかぁ!?」
「骨抜!」
「了解!」
回原が吹き飛ばされて転んだのを確認して、一佳は階段を目指して走り出し、骨抜が回原に近づく。
回原は全身を回転させて跳ね起きる。しかし、直後に足場が沈む。
「!?」
「じゃあな」
回原は何も出来ずに下の階に落ちる。
「いって!ちくしょう!」
回原はすぐさま走り出して、階段に向かう。そして、階段に足を掛けた瞬間、また足が沈み込む。慌てて指を回して壁に突き立てようとしたが、壁も柔らかくて突き立てられず、下に落ちていく。
「うぇ!?」
「あ、悪い。階段とその壁も柔らかくしといた」
「なあああ!?」
回原はどうすることも出来ず、1階まで落ちていった。
鉄哲達がその光景を見て、唸っていた。
「床も壁も柔らかく出来るのか!」
「……俺達の時の真似か」
「それにしても拳藤のパワーすげぇな」
「あいつは手がデカくなった分、力も上がる。体力テストじゃ、計測器が小さくて発揮出来なかったみてぇだけどな。それが上手く作用したみてぇだな」
「それにしても骨抜も拳藤もお互い判断が早いな」
「ですね」
一佳達は一気に駆け抜けて5階を目指す。
「時間も大分使った!一気に行く!」
「了解!」
そして最後の階段を上り始めた瞬間、
「ハイ、しゅーりょー」
「「!?」」
突如、上から大量の何かが降り落ちてくる。一佳達はそれを振り払おうとしたが、それは意志を持っているように躱した。そして一佳達に体当たりしてくる。
「くっ!」
「鬱陶しい!」
「悪いねー。一佳みたいなパワーなんてないからさ」
切奈が階段の上で顔だけ浮かして、ニヤニヤしながら一佳達を見下ろしている。ただ、その顔には左目だけが無かった。
そこに、
「悪ぃ!遅くなった!」
回原が現れた。
「な!?どうやって?」
「私の体だよ。それを足場にさせたのさ。骨抜が階段を崩すのは予想してたからね。だから回原の近くに潜ませておいた」
「ちぃ!」
一佳は右手を巨大化して、腕を振るう。そのパワーと起こされた風で切奈の部位が壁に叩きつけられる。
「おぉっと!想像以上のパワーだねぇ!」
「よし!」
「拳藤!足元!」
「っ!?」
一気に距離を詰めようとした一佳だが、骨抜の声に下を見る。そこには捕獲テープを持った切奈の両手が浮かんでいた。
すぐさま足を蹴り上げて、両手を払う。
「あらら。残念」
「厄介だな!」
骨抜は回原の相手で精一杯だった。足元を崩しても、切奈の体を足場にして飛び上がってくる。
「いってぇ!」
「悪い!取陰!捕まえるまでは出来そうにない!」
「いいよいいよ。時間までもう少しだし」
「くそっ!……ん?」
一佳は顔を顰めるが、ふと切奈の体に部位が戻っていくのを見つける。それに違和感を感じた一佳。
(確か切奈の体って再生するんじゃ……戻す意味はなんだ?……そうか!)
違和感の正体に気づく一佳。すぐさま両手を巨大化して、腕を振るって切奈の体を叩き続ける。体に戻ろうとしていた部位にも手を伸ばして掴み取る。
「げ!?」
「体の再生なんて体力使うに決まってるよな!だから体に戻して再生を節約してる!」
一佳は体の部位をどんどん掴み取りながら、切奈に走り迫る。すでにテープを持っていた手も掴み取っている。
切奈は慌てて離れて一佳の拳を躱すが、手足もないので反撃が出来なかった。
一佳は腕を振るうと同時に手に掴んでいた切奈の部位を、切奈に向けて投げつける。
「ひどっ!?ぎゃん!?」
顔に当たり、よろける切奈。一佳はその隙に奥に行き、核兵器を探し出して駆け寄る。
そして掴み取る。
「掴んだ!」
『そこまで!ヒーローチームの勝利だ!』
ブラドの声が耳に響いて、戦いをやめる骨抜達。
切奈はため息を吐いて、上半身を床に横たえる。
「はぁ~……負けた~。皆さ、私の体の扱い雑過ぎない?」
「ごめんごめん。でも、それくらいしないと勝てなかったんだよ」
「悪い!取陰!大丈夫か?」
「まぁ、あんまり痛みはないからね。いい気分ではなかったけど」
話してる間にもポコポコと体が再生していく切奈。
一佳が巨大化した手に乗せて、地下に降りていく。
「取陰。大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。もうすぐ全部再生しますから」
「そうか。では講評後、新しいビルに移動する。と言っても、今回はあまり注意することはないがな」
「そうですね」
ブラドとセメントスの言葉に一佳達4人は笑みを浮かべる。
「拳藤と骨抜は、役割分担が見事だったな。ビルの倒壊を考えて柔化する範囲も限定的にしていたし、戦闘の見極めもうまく出来ていた。最後は少しごり押しだったが、取陰の『個性』を観察して攻め時を見極めていた。今回はまぁ、及第点だな」
「取陰さんも骨抜君達の作戦を見事に推測して、作戦を練りました。『個性』を晒し過ぎたかもしれませんが、あそこで姿を見せないと拳藤さん達に威圧は与えられないですからね。仕方がないことでしょう」
「それを少しでも目を逸らすために回原を呼び戻せる策を考えていたし、回原もその役割はしっかりと果たしていた。後は相手を抑えられるように精進することだな」
教師陣の言葉に頷く4人。
そして次のビルに移動する一同。
「……おつ」
「ん」
「ありがとな」
一佳を労う里琴と唯。切奈も完全に再生を終えて、女子は女子で固まる。そこに戦慈が護衛のように立っている。里琴が隣にいることと一佳も里琴の所に近づくせいで、必然的に戦慈の近くは女子で溢れる構図である。
「拳暴の周りは華やかで羨ましいねぇ」
「俺が連れてるわけじゃねぇよ」
物間が揶揄う様に声を掛けてきたが、戦慈は適当にあしらう。それでもしつこく揶揄っていたが、一佳の手刀で沈められる。
「なんでこいつはケンカを売るんだ?」
「……精神崩壊」
「怖」
「ん」
「醜き心は堕落を招きます」
「もう遅くない?」
「カワイソウな人デースね」
女子全員から辛辣な言葉を掛けられる物間。そんな物間を何故か戦慈が抱えることになり、鉄哲達から不憫な目で見られる。
「物間に目ぇ付けられて、女子からは荷物持ち扱いされてんな」
「女子に囲まれるのもいいことばかりじゃないってことだな」
「雄英ヒーロー科にいる女子がお淑やかってのも珍しくねぇか?」
「次の試合を始めるぞ!気を引き締めろ!」
ブラドの声でピン!と背筋を伸ばす一同。地下に降りて、物間はポイ!と壁際に捨てられる。
その後もそれぞれの戦闘を観戦する戦慈達。
こうして最初の戦闘訓練は無事に終了した。
戦慈は更衣室で着替えていると、鉄哲に声を掛けられる。
「拳暴!」
「あん?」
「今日は負けたけどな!次は負けねぇぞ!」
「まぁ、頑張れや」
「おう!」
「余裕そうだねぇ。拳暴」
「……またかよ」
物間が戦慈に声を掛けてきて、うんざりと顔を顰める戦慈。
「本当に周囲なんて眼中にないんだねぇ」
「物間!お前、いい加減にしとけよ!」
「僕は感じたことを言っているだけさ」
「だからって言い方ってもんがあるだろ!」
物間に詰め寄る鉄哲。物間は両手を上げながらも、はっきりと言葉を続ける。
「やめろ。鉄哲」
「拳暴……!?でもよぉ!」
「事実だしな。周りがどうでもいいのは」
戦慈の言葉に目を見開く鉄哲達。
それに物間も一瞬目を見開くが、すぐに笑みを浮かべる。
「へ、へぇ~。それはそれは……」
「ここで1番やら2番やら張り合えば、人を救えんのか?」
「え?」
戦慈は立ち上がって、正面から物間と向き合って見下ろす。
それに物間は一歩後ずさる。
「俺は人を救うために、ここに来た。周りと張り合えば誰かが救えんのか?ヴィランは現れねぇのか?」
「……っ!」
「……拳暴……」
「順位だなんてどうでもいい。ライバルなんてどうでもいい。俺は手の届く誰かを確実に救える力を得るためだけに雄英に来た。それだけだ」
そう言って戦慈は更衣室を後にする。
その背中を追える者は誰もいなかった。
HRは妙に重苦しい雰囲気で終える。
それにブラドや一佳達女性陣は首を傾げる。
「なぁ、拳暴。他の奴らはどうしたんだ?」
「俺のせいだろな」
「は?何したんだよ?」
「さぁな。俺は思ったことを言っただけだかんな」
戦慈は鞄を担いで教室を出ていく。里琴もそれに続く。
一佳はさらに首を傾げ、鎌切に声を掛ける。そして鎌切から更衣室での出来事を聞く。それが聞こえていた他の女性陣は顔を顰めて、物間を見る。ブラドも聞こえていたようで、腕を組んで物間を見る。
それに物間は顔を引きつらせながら笑みを浮かべるが、流石にやらかしたと反省していた。
「あいつがそんなことを……」
一佳は顔を俯かせて考え込む。
結局の所、一佳は何故戦慈があのようなヴィジランテ活動をしていたのかは聞けていない。聞いてもはぐらかされてきた。なので戦慈がヒーローを目指す理由は知らない。
それでも戦慈の普段のトレーニングなどを見ていると、生半可な理由ではないことは想像がついていた。だからこそ、戦慈のことを尊敬していた。
「……聞いても答えないだろうな。あいつ」
「まぁ、物間。明日、しっかりと謝罪するように。初日から仲間割れはしてほしくはない」
「……はい」
一佳は考え込みながら、帰宅する。
台所にタンブラーが置かれているのを見つける。
「……よし!私は度胸!」
やや意味不明な言葉を叫んで、戦慈の家に向かう。そして部屋の前で深呼吸して、チャイムを鳴らす。
扉を開けたのはもちろん里琴。
「……おかわり?」
「うん……まぁ……」
「……上がる」
「へ!?い、いいのか?」
「……ん」
里琴に促されて、恐る恐る部屋に上がる一佳。
中はシンプルな家具でまとめられており、娯楽物はなかった。
戦慈はベッドの上で横になっており、寝転びながら教科書を読んでいた。
「あん?なんで拳藤がいんだよ」
「……コーヒー」
「ああ……なんか言ってやがったな」
「悪いな」
里琴の言葉に思い出した戦慈は起き上がって、キッチンに向かう。
一佳は里琴に促されてクッションに座る。
「……このクッションは」
「里琴が自分の部屋から持ってきたのと、あの警察の婦警が買ってきたもんだ」
「あぁ……そういえば警察の人とかが家具を工面してくれたって言ってたな」
戦慈がクッションを買う性格とは思えなかったので、首を傾げるとキッチンから戦慈の声がする。
それに鞘伏達のことを思い出して、納得する。
キッチンからコーヒーの香りが届き、楽しみになる一佳。
「そういえば……物間が項垂れてたぞ。まぁ、自業自得っぽいけどさ」
「あ?あ~……まぁ、俺の言い方もケンカ売ってたしな」
「そうか?まぁ、お前の本気にビビっただけだろ?実際、下手に張り合ったって仕方ないんだしさ」
競うのはいい事だが、張り合い過ぎるのは駄目だと一佳も思っている。
いつかは共に人を救うために活動するのだ。張り合い続けて、それが卒業後も続けば、ただの足の引っ張り合いになる。そう考えていた。
戦慈がタンブラーとコップを持って部屋に戻ってくる。
一佳の前にタンブラーとコップを置く。
それに首を傾げる一佳。
「ん?」
「部屋にあげといて、タンブラーだけ渡すのもな」
「それは私がっていうか、里琴だけど……」
「里琴のコーヒーがいいのか?濃いなんてレベルじゃねぇぞ?」
「悪かった」
「……むぅ」
「お前は何で料理は出来るのに、コーヒーや紅茶とかは駄目なんだよ」
「……秘密」
「「何がだ!?」」
里琴の言葉にツッコむ2人。
その後、一佳はコーヒーを飲んで、気分良く帰宅する。
「……あ。話聞くの忘れた。……まぁ、いいか」
まだまだ時間はある。
いずれ聞かせてもらえる機会もあるだろうと考える。
夕食を食べ終えた一佳は、さっそくとばかりに戦慈のコーヒーを飲む。
「ふふ。やっぱり美味いな」
笑みを浮かべて、味と香りを楽しむ。
明日も頑張ろう。
一佳はそう気合を入れるのだった。