『拳』のヒーローアカデミア!   作:岡の夢部

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お待たせしました(__)
ようやく振替連休をちょっと貰えたので、少し遊んでました。


拳の六十 女子会

 時は少し戻り、男子達が腕相撲で盛り上がっていた頃。

 一佳達は入浴の時間となり、脱衣所を訪れる。

 しかし、そこには、

 

「あれ?A組?」

「どうしたの?」

 

 八百万を始めとするA組女性陣が揃い踏みだった。

 風呂上がりの湯気を体から立ち上げながら、どこか真剣な表情で露天風呂の方を見ていた。

 特に耳郎は床にプラグを刺している。

 

「すいません、拳藤さん」

「いや、いいけどさ。どうしたんだ?」

「峰田ちゃんよ」

 

 蛙吹がどこか呆れた表情で答える。

 一佳達は首を傾げる。

 

「峰田って……昨日怒られたばっかだろ?それにもう男子の風呂の時間は終わってるし……」

「峰田がそれくらいで諦めるとは思えないんだよね」

「けど、私達は警戒してる事は分かってるだろうからね!だったらB組女子の方に来るって思ったんだ!」

「この時間は男子の方は誰もおらんしね。忍び寄るのが簡単やと思うんよ」

「峰田ちゃんが大人しく腕相撲を見学するなんて思えないもの」

 

 芦戸、葉隠、麗日、蛙吹が確信しているかのように力強く言う。

 それに一佳達は呆れるやら感心するやらだ。

 その時、

 

「……来たっぽい」

「準備しますわ」

 

 八百万と麗日が箱を抱えて内湯に入っていく。

 他の者達も後に続き、露天風呂に続く引き戸の前で集まる。

 

「これ……ドリル?」

「そこまで!?」

 

 耳郎は露天風呂の方からギュルルルと削るような音が聞こえてきた。

 峰田の用意周到さに流石の麗日も驚く。

 

「この中にはドライアイスが入ってますわ。この後は煙をうちわで扇いで視界を塞ぎます。申し訳ありませんが拳藤さん達は気づいていないふりをしていただけないでしょうか?その間に私達で穴を見つけて成敗しますので」

「分かった」

「ん」

「……殺す」

「里琴。お仕置きはあぶり出してからだよ」

 

 ここまでくれば誰も戸惑いはしない。

 峰田が一番学ばないところは、相手が自分よりも秀才であることと、この施設は『個性』が使える場所であるということだ。

 

 八百万が音を立てないように半分ほど引き戸を開けて、ドライアイスが大量に入っている箱を開ける。

 白い煙が立ち上がり、切奈、柳、ポニー、蛙吹がうちわでゆっくり、されど大きくうちわを扇いで壁周囲を白い煙で覆っていく。

 そして、一佳、唯、茨が今度は音を立てて引き戸を開けて、演技を始める。

 

「あー、やっぱ露天っていいな」

「疲れがとれますね」

「ん」

 

 白々しいかもしれないが、流石に演技の練習はしていないので仕方がない。

 すると、壁を覆う白い煙の一部が勢いよく流れた。

 それを確認した耳郎と芦戸がゆっくりと近づいていく。

 

「あー……こんなところに穴が……塞がなきゃ」

「その前にお仕置きでしょ」

 

 芦戸がわざとらしく声を上げると、耳郎がプラグを操って穴に差し込み、その奥にある不埒者の目に突き刺す。

 そして、直後に

 

ドックン!!!

 

「ぎゃああああああ!?」

 

 不埒者の体の中に爆音が流れ込まれる。

 露天風呂に悲鳴が轟くが、芦戸は手を緩めずに穴に《酸》を流し込んで壁を溶かす。

 爆音に呻いていた不埒者に更に《酸》が降りかかる。

 

「うぎゃああああ!?」

 

 不埒者こと峰田はたまらず広がった穴から飛び出す。

 そこには女性陣が全員峰田を蔑んだ目で見下ろしていた。

 

「警戒しておいてよかったですわ」

「助かったよ、ありがとな」

 

 八百万が頭痛に耐えるように顔に手を当てながら嘆く。

 その肩を一佳がポンポンと叩いて、礼を言うことで慰める。

 

「峰田くん、覗きはあかん!」

「いつか捕まるわよ」

「あ、本当にドリル持ってきてるよ!」

「あと、あのポケットに入ってるのってピッキング道具じゃない?」

「クレイジーですネー」

「……成敗」

「ぎゃあああ!」

 

 里琴が竜巻を生み出して、峰田を真上に打ち上げる。

 さらに里琴は竜巻で飛び上がって峰田の上に回り込み、両手を組んで振り上げ、峰田の腹に叩き込む。

 

「……くたばれ」

「ぶごえっ!!……ごばっ!?」

 

 更に竜巻を放って追撃し、峰田はくの字に体を曲げて地面に叩きつけられて気絶する。

 里琴は峰田の横に降り立って、腹に足を乗せてグリグリする。

 

「……悪は死すべし」

「里琴、そこまで」

「今のうちに縛ってしまいましょう」

 

 八百万が縄を創造して素早く体を縛り、目隠しをする。

 

「私達は峰田さんをプッシーキャッツのところに運んで、事情を伝えてきますわ。拳藤さん達は時間もないので入浴してくださいまし」

「頼むよ。ホントにありがとな」

「ん」

「いやいや、うちのバカが迷惑かけてごめんよ」

「じゃ、ごゆっくり~」

 

 麗日が無重力にして峰田を運び、八百万達は去っていく。

 一佳達は悪を撃退したことでホッとして残った時間で温泉を味わうのだった。

 

 

 

 

 風呂からあがった一佳達は、八百万達にお礼を言いに行こうということで、お菓子を集めてA組女子の部屋へと向かう。

 お礼を言われた八百万は原因が原因なので丁重に断ったが、芦戸と蛙吹がせっかく持ってきてくれたのに失礼だと言い、受け取ろうとするが八百万はそれでもためらう。

 そこに葉隠が、

 

「だったら皆で食べようよ!女子会しよー!女子会!」

 

 と提案し、男子も男子で集まってるからということで、一佳達も頷いた。

 女子の部屋はそこまで広くはないが、入れないわけではないので、全員で布団を動かして場所を作る。

 車座に座り、お菓子を広げてジュースで乾杯をする。

 合宿というシチュエーションもあり、気分は盛り上がる。

 八百万は何やらソワソワして周囲を見渡している。

 

「実は私、女子会は初めてなんですけど……どういうことをするのが女子会なんでしょうか?」

「女子が集まって、食べながら何か話すのが女子会じゃないの?」

 

 芦戸が首を傾げながら答える。

 そこに葉隠が意気揚々と声を上げる。

 

「女子会と言えば……恋バナでしょうがー!!」

 

 葉隠の姿は見えないが、雰囲気的に腕を振り上げて叫んでいるように感じた。

 恋バナと言うキーワードに他の女性陣もそれぞれ反応を示す。

 

「恋バナー!」

「うわぁ~」

「恋ねぇ」

「えー……」

「こ、恋!?そんなっ、結婚前ですのに……!」

 

 芦戸も盛り上がり、麗日と蛙吹が頬を赤くして、耳郎は戸惑うような声を上げて、八百万は戸惑いながらもまんざらでもない感じだった。

 

「いやいや結婚前だから恋なんでしょ?」

「結婚というのは神の御前での約束で……」

「あー、そう言うノリか」

「鯉バナナ?」

「んーん」

「楽しそうデース」

「……お菓子くれ」

 

 切奈は呆れながら八百万に声を掛けて、茨は両手を組んで言い、一佳は苦笑するが文句は言わない。

 柳はとぼけたように首を傾げ、それに唯が首を振りポニーも盛り上がる。そして、里琴は興味なさげに菓子に手を伸ばす。

 

「それじゃ、付き合ってる人がいる人ー!」

 

 先ほどから言い出しっぺの葉隠が見えない腕を上げて、音頭を取る。

 里琴を除いた全員が少し楽し気に周囲を見渡すが、誰も名乗り出ない。10秒ほどして全員が困惑を顔に浮かべ、そして全員が無意識に里琴を見る。

 里琴は相変わらずモキュモキュとお菓子を頬張っている。

 

「……誰もいないの!?」

「ねぇ、巻空って結局拳暴とはどうなの?」

 

 葉隠が驚愕の声を上げて、芦戸が思い切って質問する。

 里琴に再び視線が集中する。

 里琴はゴクンとお菓子を飲み込んで、口を開く。

 

「……別に付き合ってない」

「そうなん?」

「でも、大事にされてそうだけど?」

「……10年近く一緒にいれば普通はそうなる」

 

 あっけらかんと言うが、全員は懐疑的だった。何故ならA組に十数年いがみ合っている幼馴染コンビがいるからだ。いがみ合っていると言って、ほぼ一方的にであるが。

 切奈が一佳に顔を向ける。

 

「一佳は拳暴の家によく行ってるんでしょ?里琴と拳暴って普段どんなふうに過ごしてんの?」

「どうって……学校と変わらないぞ?拳暴がコーヒーを出してくれるくらいで、話しながらも好き勝手してる感じだな」

 

 戦慈の家に娯楽は一切ないので、里琴や一佳が持ち込んでのんびりとしているだけだ。戦慈は基本的にコーヒーを淹れるか、教科書や小説を読んでいる。

 それに芦戸が頬を膨らませる。

 

「え~。つまんない!」

「でも、拳暴の事は好きなんでしょ?」

「……ん」

「「「おお!!」」」

 

 切奈の質問にはっきりと頷く里琴。

 それに芦戸や葉隠達は色めき立つ。

 

「どこ!?どこが好きなの!?」

「……全部」

「ありきたり!」

「何がきっかけで惚れたの!?」

「……助けてもらったから」

 

 芦戸と葉隠の質問になんだかんだ答えていく里琴。

 助けてもらったという言葉に一佳達も前のめる。

 

「助けてもらったというのは?」

「……秘密」

「え~!ここまで来て、それはないでしょ!」

「……戦慈の昔話と同じように盛り上がる話じゃない。だから止めといた方がいい」

 

 戦慈の昔話と言うと顔面の火傷痕と両親の話である。

 流石に今のテンションで話せる内容ではないと里琴は判断した。

 それに芦戸達も納得して追及を止め、葉隠が気分を変えて新しい質問をする。

 

「じゃあ、好きな人がいる人ー!!」

 

 今度こそと期待を込めた目が右往左往する。

 しかし、誰も手を上げない。

 すると麗日が顔を赤くしていく。

 

「あら。どうしたの?お茶子ちゃん」

「その反応はいるな!!」

 

 蛙吹が首を傾げると、葉隠も見逃さずに追及する。ちなみにB組女性陣は一佳に目を向けていた。

 麗日は更に顔を真っ赤にして、ブンブン!と首を横に振る。

 

「お、おらんよ!?おるわけないしっ!」

「その焦り方は怪しいな~」

「ねぇ、誰!?誰!?ここだけの秘密にしとくから!」

 

 しかし、芦戸と葉隠は逃さんとばかりに詰め寄る。

 麗日の肩を掴んで顔を近づける2人。

 麗日はさらに両手をブンブンと振って、必死に否定する。

 

「いやっ、これはそういうんと違くて!」

「ほらほら~吐いちゃいなよ~。別に悪い事じゃないんだからさって、わぁ!?」

「きゃあ!?」

「あ、ご、ごめん!!」

 

 麗日が振り回してた両手が芦戸と葉隠に当たり、《無重力》が発動してしまう。

 2人は浮かび上がり、それを見た麗日は慌てて解除する。2人は布団の上にポスンと落ちる。 

 

「でもほんまそういうんと違うから!これは……そ、そういう話が久しぶり過ぎて動悸がしたというかっ」

「どんだけ久しぶりなんだ」

「久しぶりで動悸って……」

 

 麗日の無理がある言い訳に耳郎と切奈が呆れる。

 芦戸と葉隠もそれ以上の追及を止めて、新しい標的に目を向ける。

 

「じゃあ、次は拳藤だ!」

「え、わ、私か!?」

 

 一佳はいきなりの名指しに目を見開いて肩を跳ね上がる。

 すると、切奈の首と両手だけが一佳の背後から現れ、一佳の肩を掴む。

 

「そーそー。もういい加減に白状しようよ、一佳。拳暴の事どう思ってるのかをさ」

「せ、切奈!?」

「そうですわね。職場体験でも随分気にしてらっしゃいましたし、拳暴さんの家にもよくお邪魔しているようですし……」

「八百万!?」

 

 切奈と八百万の裏切り?に顔を赤くして慌てる一佳。

 お菓子に夢中な里琴と、クールダウンに必死な麗日を除く全員の視線が一佳に集中する。

 特にポニーと八百万の目がキラキラと輝いているように見える。

 

「男子達は気づいているかどうかは知らないけどさ、もう私らはある程度察してるんだよ?ここで白状しといた方が、楽になるよ」

「……そうかぁ?」

 

 一佳は顔を赤くしたまま眉間に皺を寄せる。

 どう考えても乗せられてる気しかしない。しかし、麗日のように逃れられる気もしない。

 

「里琴はもう当然としてさ。それにしても一佳の拳暴への関わり方は同級生ってだけには見えないよ」

「ん」

 

 切奈は苦笑しながら首を戻す。しかし、両手は一佳の肩を軽く揉みながら緊張をほぐしている。

 一佳はしばらく黙っていたが、小さくため息を吐く。

 

「……そりゃあ、好きか嫌いかって言われれば好きだけどさ」

「お!」

「けど……う~ん……今は恋愛って言うよりかは……あいつが普通に笑うところを見てみたいってのが一番、だな」

 

 正直に話し始めた一佳に切奈達は麗日も加わってテンションが上がるが、続いた言葉に全員が戦慈の顔を思い浮かべる。

 

「……確かに戦闘に関わること以外で笑ったところ見たことないかもねぇ」

「ん」

「里琴の方が無表情だから、気づかなかったかも」

「そうですね。それに戦いに関しても体育祭の時のイメージが大きいですね」

「一緒に遊んだ時モ、笑ってなかったと思いマス」

「確かに笑うイメージはないわね。拳暴ちゃんは」

「「「け、拳暴ちゃん……」」」

 

 切奈達も、戦慈が里琴と同じくらい笑わないことに今更ながらに気づいた。

 クラスが違う蛙吹も顎に指を当てながら言い、一佳達は戦慈の呼ばれ方に戸惑う。蛙吹は基本同級生などはちゃん付けで呼ぶことを教えてもらいすぐに納得したが。

 

「けど、A組も轟とか障子とかあんまり笑わないメンバーも多いけどね」

「障子君は口元覆ってるし」

「轟君は……最近は表情柔らかくなったと思うよ?」

 

 耳郎が他の者達の名前を上げると、葉隠と麗日が首を傾げて戦慈とは違うのでは?と口にする。

 そこに芦戸が口を開く。

 

「実際、拳暴ってどんな奴なの?女子といつも一緒にいるし、遊びにも行ってるんでしょ?まぁ、プールの時も少し聞いたけどさ。巻空や拳藤はともかく、他のメンバーも受け入れてるじゃん」

 

 芦戸の質問にB組メンバーは再び考え込む。

 

「う~ん……ぶっきらぼうな感じだけど、なんだかんだで人付き合いはいいんだよね」

「悪漢から守ってくれますし、嫌な視線を向けてくる人から遠ざけようともしてくださいます」

「ん」

「面倒見はいい」

「ショッピングも付いてきてくれマース!」

「そうだな。似合うか?とか聞くと、しっかり答えてくれるんだよ。それに常に同じ雰囲気だから付き合いやすいんだよな」

「ん」

 

 正直、悪目立ちすることくらいしか文句はない。

 しかし、付き合って何か変わるのかという期待もあまり湧かない。

 

「彼氏っていうのが嫌なわけではないけど、早く告白しなきゃっていう焦りも湧かないねぇ」

「そうだな。付き合っても、今まで通りな感じもする。まぁ、今私達はヒーローになるのが一番だからってのもあるんだろうけどな。あいつもヒーローになるまで誰かと付き合うなんて考えないだろうし」

「後はやっぱり里琴が今後どうするかってのもある。やっぱり拳暴と里琴はセットってのが当たり前だから」

「ん」

 

 切奈、一佳、柳の言葉に唯達も頷く。

 地味にB組女子全員が、里琴次第で戦慈を狙う可能性があると自白したのだが、B組女子陣は誰も気づいていない。

 一佳達の言葉に八百万を除くA組女子達は、

 

「「「「「ごちそうさまです」」」」」

 

 と、言ったのだった。

 

 

 

 意外なB組陣の甘~い話を聞いたところで、芦戸が話題を変える。

 

「じゃあ、妄想でキュンキュンしよ!A組とB組男子で付き合うなら誰!?みたいな。あ、拳暴はなしね」

「それ、面白そう!」

 

 結局恋バナからは離れない。

 それに葉隠が飛びついたことで、話題は決定した。

 しかし、

 

「……いざ彼氏って考えると、誰もピンと来ないねぇ……」

 

 と、言い出しっぺの芦戸が眉間に皺を寄せて唸り、他の者達も同じように唸る。

 買い物する気で行ったのに、いざ商品を見ると微妙に違って、欲しいと思えない。そんな感じだ。

 

「そもそも、そう言う気持ちで今まで見たことないしなぁ」

 

 一佳が同意する様に言う。ただし一佳の場合は、雄英入学前から戦慈を意識していたというのもある。

 

「つーかさぁ……彼氏にしたい男がいないっていうのが一番大きいんじゃ?」

「それを言ったらおしまいよ、響香ちゃん」

「……そういえば」

「どしたの、ヤオモモ」

「耳郎さんなんですが……」

「は?ウチ?」

 

 耳郎が目を見開く。

 八百万はどこか照れて、かつ戸惑ったような雰囲気を纏いながら続ける。

 

「耳郎さんは、よく上鳴さんと仲良くお話しているなと思い出しまして……。上鳴さんはいかがですの?」

「ちょ、やめて!まぁ、そりゃああいつは話しやすいけどさ、チャラいじゃん。絶対浮気するって」

 

 耳郎はまさか自分が話題に上がるとは思わず、恥ずかし気に顔を顰めて否定する。

 そこに蛙吹が首を傾げて、

 

「そうかしら?上鳴ちゃんって付き合ったら意外と一筋になりそうよ」

「え!?梅雨ちゃん、上鳴君がタイプなん!?」

「いいえ、全然。でも上鳴ちゃんは基本女の子には優しいでしょ?」

「う~ん?ただの女好きってだけじゃない?」

「だねぇ。付き合えるかもって思ってたら優しくするでしょ」

 

 耳郎と切奈の言葉に全員の頭にふと不埒者の顔が浮かび上がる。

 

「……まぁ、峰田に比べればマシか……」

「ん」

「流石に峰田さんと比べるのは可哀想では……」

 

 全員が苦笑する。

 芦戸が一佳に顔を向ける。

 

「B組には峰田みたいなのいるの?」

「いないいない。うちの男達はわりと硬派だよ。まぁ、物間みたいなのはいるけど」

「うちは拳暴が私らに連れ回されてるし、物間が一佳の手刀で倒されるの見てるからねぇ。私らの前では盛り上がりにくいかもね」

「ん」

「物間はなー……物間だなー……」

「ん」

「それに男性方の中心にいる鉄哲さんがあまりその手の話をされませんから」

「鉄哲、バンチョーみたいデス!」

「なるほど」

 

 戦慈と鉄哲はB組では硬派男子トップ2と言え、クラスの中心人物になっている。

 その2人がいると自然とその手の話はしなくなるのがB組男子の暗黙の了解のようになっている。一番の理由は『鉄哲は基本声がデカい』かつ『戦慈と話して、もし女子に伝わったら恥ずい』からである。

 

「物間君って顔はイケメンなのに、心がちょっとアレって言うのが残念だね!」

 

 葉隠があっけらかんとトドメを刺す。

 イケメンと言うキーワードに芦戸が「そう言えば……」とある人物を思い出す。

 

「イケメンと言えば、轟は?」

 

 その言葉に全員が轟の存在を思い出す。

 ややマイペースで黄昏ている雰囲気はあるが、間違いなくイケメンだ。

 マイナスポイントはあまり思いつかないが、

 

「I・アイランドでも頼りになったしねぇ」

「体育祭の時は近寄りがたかったけどね」

「でも、拳暴とは仲直りしたみたいだしなぁ」

「ん」

「……エンデヴァー()嫌」

『…………確かに……』

 

 お菓子に夢中だった里琴がポロッと放り投げた言葉に、盛り上がっていた全員が思考停止する。

 全員の脳裏に体育祭で妙に興奮しながら叫んで、戦慈に黙らされたシーンが思い浮かぶ。

 そして、プールで聞いた轟の家庭環境を思い出して、

 

「……無理!」

「だねぇ」

「ん」

 

 強面で、歪んだ親バカは彼女受けしない。

 とてもではないが、仲良く出来る気がしなかった。

 その時、茨が両手を組んで、

 

「ああいう気性の激しい方こそ、心が傷ついているかもしれません。そんな傷を癒して差し上げたい……」

「え!?茨ってエンデヴァー!?」

「いえ。癒して差し上げたいだけでタイプではありません。全ての生き物は、皆愛される資格を持つのです」

「びっくりさせんな」

「ん」

 

 切奈達が目を見開いて驚くが、茨は冷静に首を横に振って意図を説明する。

 柳が少しげっそりしてツッコみ、唯も心持ちジト目で頷く。

 

「けど、エンデヴァーって拳暴に似てない?」

「「「「似てない」」」」

「……ごめん」

 

 耳郎がふと口にして、一佳、切奈、柳、そしてなんと唯がすかさず否定する。

 あまりの力強さに耳郎は若干引きながら謝罪する。

 

「飯田ちゃんは真面目ね」

「お~、委員長君ね」

「飯田さんは間違いなく浮気はしないでしょうし、真面目にお付き合いしてくださると思いますが……」

 

 八百万は頷きながらも徐々に眉尻が下がっていく。

 一佳達も飯田のことを思い浮かべるが、

 

「なんか……付き合うイコール結婚になりそう」

「あ~……確かにね」

 

 柳の言葉に切奈が同意し、他の者達も頷く。もちろんA組のメンバーも。

 

「純粋ハイパー真面目はちょっときついね」

 

 芦戸の言葉に全てが集約されて飯田の選択肢も消える。

 

「骨抜とか回原はどう?」

 

 今度は切奈がB組男子の名前を上げるも、

 

「骨抜ってあの骸骨顔の?う~ん……ちょっと夜に会うのが怖い」

「回原って……どの子?」

 

 と、悲しい結果に終わって、切奈は心の中で「ごめん2人とも。頑張りなね」と呟いた。

 その後も何人かの名前が上げるが、結果は言わずもがな。

 あまり交流がなかったからこそ、お互いに印象がないのだ。

 

「鉄哲は?」

「うちの切島と同じ感じじゃない?う~ん……あの暑苦しさは友達でいいや」

 

 B組一番の硬派、鉄哲は芦戸に切島と共に切り捨てられる。

 もしその場にいたら、2人で暑苦しく慰め始めるのが簡単に想像できたので、誰も同情しなかった。

 

「じゃあ……緑谷は?」

 

 緑谷の名前に麗日が一瞬体が強張るも、周りは考え込んでいて気づくことはなかった。

 一佳が困惑の表情を浮かべて首を傾げる。

 

「緑谷って、いまいちよく分からないんだけどさ……」

「というと?」

「学校とかI・アイランドのエキスポやバーベキューの時はさ、おっとりしてたり、キョドってたり、ブツブツ言ってたり、どっちかって言うと引っ込み思案なイメージなのにさ。体育祭とかI・アイランドでの事件の時とかじゃ、ボロボロになっても先頭で突っ込んでいくだろ?なんか両極端でなぁ……。いい奴なのはもう分かってるんだけどさ」

「ん」

 

 唯や切奈達B組陣も同意するように頷く。

 戦慈との絡みもあって、一佳達の緑谷に対するイメージは非常にあやふやなのだ。

 その言葉に八百万や耳郎も頷く。

 

「そうですわね。私達でさえ、時々驚かされてますから」

「スイッチが入ると凄いんだよね。妙に目が離せないし、引っ張られるんだけどさ」

「そうねぇ、緑谷ちゃんは凄く努力家だと思うわ」

「うん。デクくん見てると私も頑張ろうって思えるんだ」

「そこは鉄哲に似てるかもだね」

「ん」

 

 蛙吹と麗日の言葉に切奈と唯が納得するように頷く。

 そこに再び里琴がポツリと、

 

「……あのブツブツするのは嫌」

『……確かに……』

 

 これには麗日も同意する。

 怖いものは怖いのだ。

 

「あ、そんですんごいオールマイトオタク」

 

 芦戸が思い出したように付け加える。

 それに八百万達も頷く。

 

「デートとオールマイトの握手会だったら握手会選びそう!」

「容易に想像できますわね」

「……そこまでなのか?学校で会えるだろ?」

 

 一佳が首を傾げる。

 

「それが緑谷と言う男」

「というか、デートでオールマイトの握手会に行きそう」

「ですわね。ああ、エキスポでブラスタのことを聞いた時の3倍のテンションを思い浮かべて頂けたら」

「ああ、うん。ないな」

「ん」

 

 これで緑谷も消える。

 麗日は少し仕方ないような納得出来なような複雑な気持ちに襲われるが、自分も時々引くこともあるので黙っていた。

 

「じゃあ、爆ご」

「「「「「「ない(デス!/ですね)」」」」」」

「……くたばれ」

「ごめん」

「嫌われてますわね……」

「まぁ、仕方がない気もするけどね」

 

 葉隠が爆豪の名前を言おうとしたが、一佳達が被せ気味に切り捨てる。

 そして、里琴が全く表情が変わらないのに雰囲気だけが剣呑になり、葉隠が即座に謝罪する。

 あまりの嫌われっぷりに八百万と耳郎は呆れるしかなかった。

 

 そして、遂に男子達(戦慈除く)は全滅を迎えた。

 

「うぅ~!不完全ねんしょー!このまま補習に行くなんて嫌だー!!」

 

 芦戸が頭を抱えてうつ伏せに寝転んで足をバタバタする。

 その姿に周囲は呆れたり、同情したりする。

 

「それにしてもA組は恋には程遠いねぇ」

 

 耳郎が背中の布団にもたれ込んで言う。

 

「私達だって遠いと思う」

「キュンキュンしてる時点で差があるんだよ!」

 

 柳の言葉に芦戸が叫ぶ。

 

「と言っても、もう恋バナのネタは思いつかないよ」

「タイプの話でもする?」

「B組は拳暴じゃん」

「だったら芦戸は?」

 

 切奈が苦笑しながら、芦戸に振る。

 

「う~ん……まず強そう!でもね、たまに子供っぽい一面があるといいなー。やんちゃな感じで~、それでずっと傍にいてくれるの!」

「……うん?」

 

 聞いていた耳郎が首を傾げる。

 他にも蛙吹や麗日達、A組メンバーも首を傾げる。

 

「どうしましたか?」

「いや……誰かいたような……」

「……それって黒影ちゃんみたいね」

「「「それだ!」」」

 

 耳郎、麗日、葉隠が納得の声を上げる。

 一佳達はキョトンとして首を傾げる。

 

「黒影って……確か常闇の『個性』の?」

「そうそう!って、人じゃないじゃん!!」

 

 芦戸も思わず納得していたが、ノリツッコミのように声を荒らげる。

 

「あら、でも黒影ちゃん強いわよ。お昼に常闇ちゃんが訓練してた洞窟覗いたのだけど、暗闇だと黒影ちゃん、とっても勇ましいの。常闇ちゃんもすっごく苦労してたわ」

「でも、明るいときは可愛いよね。アイヨ!とか返事するし」

「それに期末の時もエクトプラズム先生のことを常闇ちゃんが万能『個性』って言ったら、『俺もダヨ!』って拗ねてたの」

 

 麗日もほんわかて頬を緩ませる。

 蛙吹も笑みを浮かべながら、更に続ける。

 

「かわい」

「ん!」

 

 柳と唯も思わずほっこりする。

 一佳も頷きながら芦戸に顔を向ける。

 

「いいじゃん、黒影」

「……アリ……かも?」

 

 あまりにも褒めるので、芦戸も受け入れ始めてしまう。

 

「で、『個性』だからいつも一緒」

「ちょい待ち!いつも一緒なのは常闇じゃん!」

「じゃあ、黒影を抱える常闇君がタイプってことで!」

「ってことでじゃない!!」

 

 耳郎と葉隠の言葉に芦戸が正気に戻ってツッコむ。

 そのままの勢いで、現役のヒーローや芸能人のタイプに話が変わって盛り上がる。

 

 そして、芦戸が補習の時間になり、お開きにしようとなったが、その時ブラドの怒号が響く。

 なんだなんだと全員で部屋を出て、声がした男子の部屋へと向かい、説教されてる男子達の姿を見つける。

 切島や戦慈達から事情を聴いた一佳達は呆れていたが、戦慈の「コーヒーは下」発言にB組女子は食堂に向かう。

 その後ろ姿を見送った八百万達は、

 

「……恋、してますわね」

「「「うんうん」」」

 

 そして、せっかくなので八百万達もコーヒーをもらうことにして、食堂で女子会の続きをすることにした。

 途中でマンダレイ達も合流して、戦慈はずっと給仕係になっていた。

 コーヒーだからか、文句も言わずに給仕している戦慈を見て、八百万達は「確かになんだかんだで面倒見がいい」と実感したのだった。

 

 ちなみにブラド達の説教は就寝前まで続き、巻き込まれ芦戸の泣く声が聞こえたのだが、誰も助けることは出来なかった。

 

 こうして合宿2日目も波乱の終わりを迎えたのだった。

 

 

 




里琴と戦慈の出会いの話は、もう少し先で。
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