戦慈が姿を消して、数時間。
神野区ではオールマイト達が爆豪・ラグドール奪還作戦の準備を整えていた。
警察はもちろんのこと、日本トップクラスのヒーロー達が呼び集められていた。
炎を纏う巨漢。
No.2ヒーロー、エンデヴァー。
上下全てデニム生地の服で統一されている長身の男。
No.4ヒーロー、ベストジーニスト。
忍者スタイルの男。
No.5ヒーロー、エッジショット。
シャチ顔に白スーツを着た巨漢。
No.10ヒーロー、ギャングオルカ。
そして、世界に名を轟かせる平和の象徴。
No.1ヒーロー、オールマイト。
日本トップ10ヒーローの半分が集結していた。
その他にもシンリンカムイ、Mt.レディ、虎、そしてマントを羽織った小柄な古豪『グラントリノ』などが集結していた。
それだけ警察も今回の事件を重く捉えており、戦力で早期解決に力を入れていることが窺える。
オールマイト達は現在2か所に分かれて集結しており、警察の敵連合対策本部所属の塚内が無線を使って、最終確認を行う。
「雄英生徒の機転と我々の調べで、拉致被害者が今いる場所は分かっている。主戦力はそちらへ投入し、被害者奪還を最優先とする。同時にアジトと思われる場所を制圧し、完全に退路を断ち一網打尽とする!」
塚内の言葉に気合を入れるヒーローと警官達。
「それと、これはあくまで頭の片隅に入れといて欲しい。敵連合のターゲットとされていたであろう雄英生徒の拳暴戦慈が病院とホテルから姿を消したそうだ」
「なっ!?」
オールマイトが目を見開いて驚く。
「拳暴……」
『あの仮面の少年か』
『少年って言えます?あの子』
エンデヴァーは体育祭での事を思い出して顔を顰め、ベストジーニストが思い出しながら呟き、Mt.レディがそれにツッコむ。
虎も腕を組んで顔を顰めている。
「襲われた形跡はないようなので、ここを目指していると考えられる。詳しい場所までは分からないだろうが、戦闘が始まれば介入してくる可能性は高い。今までの経歴からすれば、そう簡単に遅れは取らないだろうが、それでも彼は仮免すら持っていない。見かけた場合、彼も最優先で保護してくれ」
「面倒な……。オールマイト!貴様、自分の学校の生徒くらい、しっかりと言い聞かせんか!」
エンデヴァーがオールマイトに八つ当たりをする。
「……彼は自分の正義というものを明確にしている少年だ。今回の襲撃で倒れたクラスメイト達を目の当たりにして、我慢出来なかったのだろう。彼と特に仲のいい巻空少女もガスで倒れているしな」
『ふむ……。大人びていると言っても、まだ高校1年だ。抑えきれなくても仕方がないかもしれんな』
オールマイトの言葉に、ギャングオルカは戦慈の心境に同情の念を覚える。褒められたことではないが。
オールマイトはその言葉を聞きながら、別の事を考える。
(……比較的冷静な拳暴少年が動き出したということは、もしや緑谷少年も?……その可能性は大いにあり得る)
幼馴染の爆豪を目の前で連れ去られた悔しさは、戦慈と比べられるものではない。
そして、それは緑谷だけではなく他のA組の者達もだ。
はたして彼らが爆豪を攫われているこの状況で大人に任せて大人しく出来るだろうか?
オールマイトは一抹の不安に襲われる。
(……私が知っている緑谷少年なら……必ず来るだろう。飯田少年や麗日少女が止めてくれることを願おう……)
オールマイトは緑谷と仲が良い2人を思い浮かべて、そう願う。
しかし、その願いはすでに届かない。
何故なら、緑谷や飯田はすでに神野区にいるのだから。
緑谷、飯田、轟、切島、八百万の5人は、すでに神野区にいた。
あの襲撃の最中に八百万は泡瀬と協力して脳無に発信機を仕掛けていたのだ。
それを頼りに緑谷達は神野区までやってきた。
正直なところ飯田と八百万は今すぐにでも引き返したかったが、緑谷、轟、切島はそれでも助けに行くだろうことも理解出来たので、ストッパー役として同行することにした。
5人は神野区に着いて、まずは変装をすることにした。
神野区は夜の繁華街でもあるため、クラブのホステスやその関係者を意識させる格好に着替えた一同は発信機の元へと向かう。
そして、辿り着いたのは古びた廃倉庫だった。
正面から入るのは目立つので、塀とビルの隙間に入り込んで中を窺うことにした。
そして、覗けそうな窓を見つけて、切島が持ってきた暗視鏡で中を覗き込み、無造作に並べられた脳無を発見する。
どうやって戦闘にならないように潜入するか相談していると、表が騒がしくなる。
首を傾げていると、突如廃倉庫の正面が衝撃と共に崩れる。
身を屈めて衝撃をやり過ごし、収まったところで中を覗き込んだ緑谷達の目には、脳無達を捕縛するベストジーニスト、虎、Mt.レディ、そしてラグドールを抱えた虎の姿があった。
「ヒーロー達だ……!」
「No.4ヒーローのベストジーニストに、ギャングオルカまで……!」
「虎さんもいますわ」
「ヒーロー達は俺達よりもずっと早く動いていたんだ!」
「……スゲェ」
「さぁ、すぐに去ろう。ここで俺達がすべきことはもうない」
「かっちゃんは……」
「話が聞こえましたわ。オールマイトも動いていると。恐らく爆豪さんはオールマイトの方にいるはず。オールマイトがいるなら尚更安心です。さぁ、早く――」
ドオオォン!!!
飯田と八百万が緑谷達を急かして、この場を去ろうとした時、先ほどよりも数倍の衝撃が廃倉庫から発生し、廃倉庫どころか周辺のビルをも吹き飛ばした。
運よく、緑谷達が隠れていた場所は僅かに塀が崩れた程度の被害で済んだため無傷だった。
しかし、それを喜ぶ余裕は一切ない。
「せっかく弔が自身で考え、自身で導き始めたんだ。出来れば邪魔はよして欲しかったな……」
その声が聞こえた瞬間、緑谷達の脳裏に死が過ぎる。
緑谷達は金縛りあったように動くことが出来なくなり、冷や汗と吐き気を必死に耐える。
逃げなくてはいけない。
しかし……バレた瞬間に殺される。
その恐怖が5人の脚を縛り付ける。
一瞬で全てがひっくり返された。そして、合宿地でのヴィラン達とは比べる気にもならない圧倒的存在感。
声の主は怒っているわけでも、興奮しているわけでもない。
淡々と語り、No.4ヒーローとNo.10ヒーローをまるで虫けらのように吹き飛ばした。
その事実が緑谷達の心に重くのしかかる。
(なんだよ、これ……!冗談だろ、オールマイト……!まさか、あれが……オール・フォー・ワン……!?)
緑谷は『弔』という名前とオールマイトにも匹敵する存在感から、声の主がオール・フォー・ワンであることに気づく。
《ワン・フォー・オール》の所有者が戦い続けてきた巨悪。
《ワン・フォー・オール》を生み出したオリジンの1人。
宿命の相手が、今そこにいた。
すると、オール・フォー・ワンが突如拍手を始める。
「流石No.4!ベストジーニスト!!僕は全員を消し飛ばしたつもりだったんだ!!」
相手を褒めながら、さらりと恐ろしいこと言う巨悪。
「皆の衣服を操り、瞬時に端へ寄せた!判断力、技術力……並みの神経じゃない!!」
オール・フォー・ワンの目の前には、仰向けに倒れて荒く息を吐くベストジーニスト。
その周囲にはボロボロで倒れているギャングオルカやMt.レディ達の姿があった。
「はっ…はっ…はっ……こいつ……!」
敵連合の背後には強大なブレーンがいる。
それは聞いていた。
しかし、同時に狡猾で用心深いとも聞いていた。己の安全が確保できない限り姿は現さない。さらにはオールマイトと戦って深い傷を負っている可能性が高いとも。
話が違う!
堂々と表に出て来ている!傷を負っているようにも見えない!
何をされたのかも分からなかった。
しかし、今はそんなことなどどうでもいい。
ベストジーニストは『個性』《ファイバーマスター》で体を起こし、オール・フォー・ワンを捕縛しようとする。
(異常事態などヒーローの常! 一流はそんなもの失敗の理由――!!)
気迫と共にオール・フォー・ワンに繊維を伸ばした瞬間、ベストジーニストの鳩尾に小さな衝撃と風穴が開く。
「相当な練習量と実務経験故の強さだ。君のは……いらないな。弔とは性に合わない『個性』だ」
その言葉を塀越しに聞く緑谷達は、何が起きているのかは分からないが、それでも最悪の状況が更新されたのは本能的に理解した。
恐怖で体が震えて動けず。どうすればいいのか思考が麻痺してきていた。
その時、
バシャア!
「ゲッホ!!くっせぇ……!んっじゃこりゃあ……!」
緑谷達の耳に探し求めていた声が届く。
「悪いね、爆豪君」
「あ!!?」
オール・フォー・ワンが爆豪に優しく声を掛ける。
爆豪がオール・フォー・ワンを訝しみながら睨みつけると、背後からバシャバシャと音が聞こえてきた。
背後を振り返ると、黒い液体から死柄木やディスペ、敵連合の面々が姿を現した。黒霧と荼毘は気絶しているようで、そのまま地面に倒れる。
「また失敗したね、弔」
「……」
「でも、決してめげてはいけないよ。またやり直せばいい。こうして仲間も取り戻した。この子もね……君が『大切なコマ』だと考え、判断したからだ。いくらでもやり直せ。そのために僕はいる」
オール・フォー・ワンは優しく言い聞かせるように言いながら、死柄木に右手を差し伸ばす。
「全ては君の為にある」
あまりに異様な光景に爆豪は背中に怖気が走る。
その時、
「……やはり……来てるな」
『!?』
緑谷達の背筋が凍る。
しかし、それは緑谷達に向けられたものではなく、
上空から現れたオールマイトに向けたものだった。
オールマイトが両拳で殴りかかり、それをオール・フォー・ワンは両手で受け止める。
「全て返してもらうぞ!オール・フォー・ワン!!」
「また僕を殺すか。オールマイト!」
2人の足元が衝撃で弾け飛び、オール・フォー・ワンがオールマイトの両手を弾いた瞬間、クレーターが出来て周囲に衝撃波を吹き荒らす。
「うおお!?」
近くにいた爆豪や敵連合の面々が吹き飛ばされる。
「随分と遅かったじゃないか。バーからここまで5kmあまり……。僕が脳無を送り、優に30秒は経過しての到着。衰えたね、オールマイト」
「貴様こそ、なんだその工業地帯のようなマスクは?随分と無理してるんじゃあないか!?」
オールマイトは準備体操をするように軽く跳び跳ねて、拳を構える。
「5年前と同じ過ちは犯さん。爆豪少年を取り返す!そして、今度こそ貴様を刑務所にぶち込む!貴様の操る敵連合と共に!!」
オールマイトが勢いよく飛び掛かる。
「それは……やることが多くて大変だな。……お互いに」
オール・フォー・ワンが左腕を上げる。すると、左腕が歪に膨れ上がり、オールマイトに左手を向ける。
「!」
直後、オール・フォー・ワンの左手から空気の塊が発射されて、オールマイトはくの字に吹き飛ばされる。
オールマイトは数百mほど吹き飛ばされ、その間にあるビル群を薙ぎ倒し崩していく。
「『空気を押し出す』+『筋骨発条化』『瞬発力』×4『膂力増強』×3。この組み合わせは楽しいな。もう少し増強系を足すか」
「オールマイトォ!!」
「心配しなくてあの程度じゃ死なないよ。だから……」
爆豪が叫び、オール・フォー・ワンが冷静に言い放つ。
オール・フォー・ワンは右手を掲げると、右手の指先から赤黒い枝のようなものが伸びる。
「ここは逃げろ、弔。その子を連れて」
赤黒い枝はずっと地面に倒れている黒霧の胴体に刺さる。
「皆を逃がすんだ、黒霧」
「ちょ!?あなた!彼、やられて気絶してんのよ!?よくわかんないけどワープ持ってるなら、あなたが逃がしてちょうだいよ!」
「僕のはまだ出来立てでね、『マグネ』。転送距離は酷く短い上、黒霧の座標移動と違い、僕の元へ持ってくるか、僕の元から送り出すしか出来ないのさ。ついでに、送り先は人。僕となじみ深い人物でないと機能しない」
すると、黒霧の頭の靄が大きく膨れ上がる。
「《個性』強制発動》。さぁ、行け」
「先生は……」
死柄木が子供のように縋る声を出す。
その時、遠くから何かが飛び出すのを視界の端で捉える。
オールマイトが瓦礫を砕きながら、オール・フォー・ワンのすぐ傍に下り立つ。
「逃がさん!!」
「常に考えろ、弔。君はまだまだ成長出来るんだ」
オール・フォー・ワンはそう言いながら、オールマイトの拳を片腕で受け止める。
その様子を唖然と眺めるしか出来ない死柄木。
「行こう、死柄木!あのパイプ仮面がオールマイトを食い止めてくれている間に!」
コンプレスが地面に倒れている荼毘に手を触れて、ビー玉に封じ込める。
そして、爆豪に目を向ける。
「コマ、持ってよ」
「……めんっ…ドクセー」
爆豪は状況が切迫したことを感じ取り、冷や汗を流す。
コンプレス達が爆豪に飛び掛かり、攻撃を仕掛けてくる。
爆豪はコンプレスに特に注意して、《爆破》で応戦する。しかし、7対1の状況では逃げる隙が中々見つけられなかった。
「爆豪少年!今行くぞ!」
「させないさ。そのために僕がいる」
爆豪の救出に向かおうとするオールマイトを、オール・フォー・ワンが赤黒い爪で妨害する。
オールマイトは爆豪がいるから全力で戦えず、爆豪はそれに気づいているが逃げ出す隙が見つからない。
緑谷はその状況に気づいて必死に打開策を考える。
(どうすればいい!?戦わずにかっちゃんを助けられる方法は……!?)
この状況で緑谷達が出て行ってもオールマイトの足を引っ張るだけだ。緑谷は満足に戦う力はないし、爆豪を逃がせても自分達が捕まれば意味はない。
必死に何か策がないか考える。
その時、
ドパアアァン!!!
どこか離れた所から、何かが弾ける音がした。
その音に爆豪や死柄木達も思わず動きを止める。
直後、死柄木達の真上に影が現れる。
「「「「!?」」」」
「オォラァ!!!」
現れた影は雄叫びを上げながら、コンプレスに殴りかかる。
コンプレスは躱すことも防ぐことも出来ず、仮面に拳が突き刺さり、後頭部から地面に叩きつけられる。
「Mr.!!」
トカゲ顔の『スピナー』が目を見開いて叫ぶ。
コンプレスを倒した影は、爆豪のすぐ傍に下り立つ。
「ふぅー……。随分と派手にやってるじゃねぇか。探す手間は省けたが、来るまで時間がかかっちまった」
「てめぇは……!?」
「な、なんでここにこいつが!?」
現れたのは、赤いヴェネチアンマスクを付けた巨漢。
髪が硬く逆立ち、着ているタンクトップが今にもはち切れそうになっている。
「拳暴戦慈……!」
フルパワー状態の戦慈は周囲を見渡し、オールマイト、オール・フォー・ワンを見る。
「……オールマイトとやり合ってんなら、脳無みてぇに『個性』複数持ちか?」
そして、死柄木に目を向ける。
「ってこたぁ……てめぇが死柄木って奴か」
「……」
死柄木は戦慈の登場に頭が混乱して口を開けない。状況の変化に頭が追いついていないのだ。
「随分好き勝手やってくれたじゃねぇか。えぇ?」
戦慈はゴキゴキと拳を鳴らす。
「拳暴少年……!やはり来てしまったか!」
「へぇ……」
オールマイトはオール・フォー・ワンと殴り合いながら、戦慈の姿を見て顔を顰める。
戦慈は爆豪に顔を向ける。
「おい、怪我はねぇか?」
「……あぁ?どこに目ぇ付いてやがるクソ赤仮面!こんな連中相手に怪我なんざするわけねぇだろ!」
「ならいい。これから暴れる。隙を見て離れろ」
「あ?」
戦慈の言葉に訝しむ爆豪。
「いかん!!逃げるんだ、2人とも!!」
オールマイトが叫ぶ。
「逃げるために暴れんだよ。まぁ、全員ブッ倒してから逃げるつもりだけどな」
戦慈はまっすぐ死柄木を睨みつける。
「てめぇらの相手をすんのも、もううんざりでよ。これ以上あいつらに手を出される前に――!」
戦慈が一瞬屈んだかと思った次の瞬間、立っていた地面を吹き飛ばしてスピナーの前に拳を構えて現れる。
「ここで叩き潰す!!」
「なっ!?がほっ!?」
スピナーの頭頂部に拳骨を叩き込んで沈める。
「てんめっ!」
トゥワイスが手首からメジャーのようなものを伸ばし、戦慈に飛び掛かる。
戦慈は指を弾いて衝撃波を放ち、トゥワイスを吹き飛ばす。
「マズイ!マグネ、トガ!コンプレス達をワープの中に放り込め!!」
「あの子供は!?」
「諦めろ!!あいつのパワーを抑え込める奴がいない!このままじゃマジで全滅だぞ!?」
「あぁん、もうっ!!」
ディスペの言葉にマグネは舌打ちをしながら、スピナーとコンプレスを抱え上げる。
トガはトゥワイスに駆け寄り、ディスペと死柄木が前に出る。
戦慈は再び指を弾いて衝撃波を放つも、ディスペが《無効》で死柄木を庇う。
「ちっ!」
(確か『個性』由来の攻撃が効かねぇんだったな。そして、死柄木の奴は触られたらアウト!厄介だな!)
戦慈は顔を顰めながら、連続で拳を振るい衝撃波を放つ。
ディスペは死柄木を背中に庇い、衝撃波を《無効》にしていく。しかし、それにより足止めされてしまう。
「今のうちにさっさと離れろ!!」
「っ!!くっそがぁ!」
戦慈の叫びに爆豪は顔を顰めて、脱出経路を確認する。
その時、突如塀の一部が吹き飛び、巨大な氷塊が出現する。
『!!?』
その氷塊の上から何かが飛び出してくるのを確認する戦慈達。
それは切島を抱えて、猛スピードで飛び上がる緑谷と飯田だった。
「あいつら……!?」
緑谷達は戦慈達の真上を飛び越えて行く。
その時、切島が爆豪を見て手を伸ばす。
「来い!!」
切島の叫びに、戦慈が爆豪の襟首を掴んで思いっきりぶん投げる。
「っ!?て……めぇ……!!」
「とっとと逃げろ」
爆豪は歯を食いしばりながら、爆破で体勢を立て直して切島に手を伸ばす。
切島の手を掴んだ爆豪は、そのまま勢いよく反対側のビルに向かって飛んでいく。
(あの氷!まだ轟がいる!)
戦慈は氷結を生み出したのが轟であることに、すぐに思い至り敵連合の注意を引くために再び暴れ出す。
「オォラアアアァ!!」
「っ!ちぃ!」
衝撃波を放って、ディスペ達の足止めをする。
「拳暴君!!」
緑谷の呼ぶ声が聞こえる。
それを無視して、戦慈は拳を振る。
「くっ!やっぱ厳しいか!もう限界だ!行くぜ、死柄木!」
「なっ!?おい!?」
ディスペが死柄木を抱えて走り出し、黒霧のワープへと向かう。
「逃がすかよ!!」
「いや……こっちも逃がさせてもらうよ」
「拳暴少年!!」
「!!」
逃がすまいと駆け出した戦慈だが、オール・フォー・ワンとオールマイトの声がして目を向ける。
すると、オール・フォー・ワンの腕から空気の塊が発射され、戦慈の目の前に飛んで来た。
戦慈は両腕を交えて空気の塊を受け止めるが、耐えきれずに大きく吹き飛ばされる。
最初にオールマイトが吹き飛ばされたビル群に再び戦慈が突っ込む。
「拳暴少年!!」
「全く……一気に形勢逆転だな……。ディスペ、悪いけどしばらく頼むよ」
オール・フォー・ワンはワープに飛び込む直前のディスペに声を掛ける。
ディスペは頷くだけで答え、死柄木は両手をオール・フォー・ワンに伸ばす。
「駄目だ……!先生、その身体じゃ……!」
「弔、君は闘いを続けろ。大丈夫、君は1人じゃない」
「先せ――!!」
ディスペと死柄木がワープに飛び込むのと同時にワープが閉じる。
黒霧の姿もなく、他の敵連合の者達も先にワープに飛び込んでいた。
「悪い!遅くなった!!」
「グラントリノ!」
「……志村の友人か……」
ワープが閉じるのと同時にグラントリノが現れる。
「さっき吹き飛んだのは例の小僧か!?」
「はい……!」
「ったく!!それと、あいつ!!緑谷!!っとに、益々お前に似てきとる!!悪い方向に!!」
「ぐっ……!もしやと思ってはいたが。保須の経験を経ても、本当に来ているとは……十代……!!しかし……情けないことにこれで……」
オールマイトは緑谷や戦慈達に色々と思うところはあるが、それでも今はやるべきことがある。
「心置きなくお前を倒せる!!オール・フォー・ワン!!」
一方、吹き飛ばされた戦慈は、瓦礫を押しのけて立ち上がっていた。
「くそ……!あの状況で俺を狙えるのかよ……!?」
体から白い煙を上げて歯を食いしばる。
所々痛むが、それでも戦闘に支障はないと判断する戦慈。
「爆豪達は離れただろうし、敵連合も逃げられたと考えるべきか……。結局、誰も捕まえられなかったか……!」
戦慈は顔を顰める。
再び戦場に戻ろうかと考えたが、
「……これ以上は俺も邪魔になっちまうか。だが、オールマイトにも活動限界がある……。あれだけの相手にそう長く保つのか?」
ウォルフラムや脳無とは桁が違う。
そんな相手に短期決着は難しいだろうと戦慈は推測する。
とりあえず、少し離れた所から様子を窺おうと決めたその時。
「きゃああああああ!!」
「!!」
悲鳴が聞こえ、顔を向ける。
そこには15,6人ほどの一般人が集まっており、頭上から大きな瓦礫が落ちて来ていた。
戦慈は反射的に走り出す。
その集団はどうやら逃げようにも倒れているケガ人が多くて、すぐには動けないようだった。
それを無意識に確認した戦慈は、
(まだ周囲に人がいやがるのか!?)
直感的に瓦礫を吹き飛ばすのは悪手だと判断する。
「全員、伏せろおおおお!!」
『!!』
戦慈が叫び、立っている一般人達はすぐさま屈み、知り合いであろうケガ人の上に被さる。
戦慈はギリギリのところで巨大な瓦礫の下に滑り込み、両手を掲げる。
そして、巨大な瓦礫を受け止める。
しかし、その重さと勢いは簡単に受け止め切れずに、腰を屈めながら瓦礫を背中で受け止める。
その時に後頭部に衝撃を感じ、一瞬意識が飛ぶ。
「ぐっ……!?」
それでも戦慈は耐え、巨大な瓦礫は止まる。
しかし、その上から更に大量の瓦礫が落ちてきていた。
そのまま戦慈と負傷者達は瓦礫に呑み込まれ、その姿は消えてしまうのだった。