『拳』のヒーローアカデミア!   作:岡の夢部

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拳の六十七 伝説の終わり

 爆豪を救出した緑谷達は安全な場所まで一気に駆け抜ける。

 

「ここまでくれば大丈夫かな!?」

「そのはずだ。衝撃波もここまでは飛んでこないらしい」

「轟達は逃げ切れたかな?」

「電話してみる」

「……けっ」

 

 緑谷は轟に電話をする。轟は八百万と共に逃げているはずだからだ。

 

「あ、轟君?」

『緑谷、そっちは無事か?』

「うん!轟君の方は?逃げられた?」

『多分な。奴の背面方向に逃げてる。プロ達が誘導してくれてる』

「よかった!僕達は駅前にいるよ!衝撃波も圏外っぽい。奪還は成功だよ!ところで、そっちに拳暴君いる!?」

『いや、いない。そっちにいるんじゃないのか?』

「……いや、僕達が逃げる時もまだ戦ってた……」

 

 戦慈はまだあの現場にいる。

 その事実に緑谷は顔を顰める。

 

「……拳暴君なら大丈夫だと思うけど……」

「あいつの連絡先知らねぇのか?」

「うん……。どうしよう……」

「拳暴なら自力で逃げて、自分で帰れるんじゃねぇか?」

「だといいけど……」

 

 無事に脱出していることを願う緑谷。

 その頃既に戦慈は瓦礫の下にいることなど、緑谷達は知る由もない。

 

 

 

 時は少し戻って、オールマイトとオール・フォー・ワンは闘いを再開した。

 

 オールマイトが飛び掛かって殴りかかるが、オール・フォー・ワンが『個性』を発動して、グラントリノの口から黒い液体が噴き出して体を覆う。

 そして、オール・フォー・ワンの目の前に《転送》される。

 さらに、オールマイトの構えている拳に《衝撃反転》を発動する。

 

 オールマイトは目の前に現れたグラントリノに気づいたが、拳を止めることは出来なかった。

 グラントリノの頬に拳が突き刺さり、《衝撃反転》で自分のパワーが拳に跳ね返り、大きく弾かれる。

 

「すいませんっ!」

「僕は弔を救いに来ただけだが、戦うと言うなら受けて立つよ。なにせ僕はお前が憎い」

 

 オール・フォー・ワンはゆっくりと左腕を上げる。

 

「かつて、その拳で僕の仲間達を次々と潰して回り、お前は平和の象徴と謳われた」

 

 グラントリノの背後でオール・フォー・ワンの左腕が膨れ上がる。

 それに気づいたオールマイトは、グラントリノを引っ張り出して入れ替わる様に右拳を全力で振るう。

 

「僕らの犠牲の上に立つその景色。さぞやいい眺めだろう?」

「DETROIT SMASH!!」

 

 そう言った直後、オール・フォー・ワンの左腕から衝撃波が放たれ、それをオールマイトが拳で強引に打ち消す。

 それでもオールマイトの体には衝撃が走り、口から血を吐く。

 

「心置きなく戦わせないよ。ヒーローは多いよなぁ。守るものが」

 

 オールマイトの背後には崩れたビル群。そして、そこにはまだ逃げ惑い、救助を待つ人々がいる。

 オール・フォー・ワンはそこを狙うと言っているのだ。

 

「黙れ」

「!!」

 

 オールマイトが凄みながら、右手でオール・フォー・ワンの左腕を掴む。

 

「貴様はそうやって人を弄ぶ!壊し!奪い!人につけ入り支配する!日々暮らす方々を!理不尽が嘲り嗤う!!私はそれが――」

 

 左手で掴んでいたグラントリノを放り投げて、左拳をオール・フォー・ワンの仮面に叩きつける。

 

「許せない!!!」

 

 オール・フォー・ワンは仮面を砕きながら、地面に押し倒される。

 

 オールマイトは荒く息を吐きながら、オール・フォー・ワンを見下ろす。

 オールマイトの体からは白い蒸気が上がり始め、顔の半分がトゥルーフォームに戻り始める。活動限界だ。

 

「いやに感情的じゃないか。オールマイト」

「!!」

 

 オール・フォー・ワンは淡々と口を開く。

 オールマイトが目を見開き、そこでようやく手応えがおかしいことに気づく。

 

「同じようなセリフを前にも聞いたな。《ワン・フォー・オール》先代継承者、志村菜奈から」

 

 オール・フォー・ワンの肌がブニュリとスライムのように柔らかかった。

 USJで戦った脳無の《衝撃吸収》だ。

 

「理想ばかりが先行し、まるで実力の伴わない女だった……。《ワン・フォー・オール》の生みの親として恥ずかしくなったよ。実にみっともない死に様だった。……どこから話そうか……」

「Enough!!」

 

 オールマイトは動揺して黙らせようと拳を振り上げる。

 しかし、その隙を狙ってオール・フォー・ワンは素早く衝撃波を放ち、オールマイトを空高く吹き飛ばす。

 

 上空には報道ヘリが飛んでおり、ぶつかりそうになったところをグラントリノが救出する。

 

「落ち着け!そうやって挑発に乗って、奴を捕り損ねた!腹に穴を空けられた!」

「……すみません!」

「前とは戦法も使う『個性』もまるで違うぞ!正面からは有効打にならん!虚を突くしかねぇ!まだ動けるな!?限界を越えろ!ここが正念場だぞ!!」

「……はい!」

 

 オールマイトは口元の血を拭って立ち上がる。

 オール・フォー・ワンもふらつきながら立ち上がり、オールマイトを見る。

 

『悪夢のような光景です!神野区が突如として半壊滅状態となってしまいました!現在オールマイト氏が元凶となるヴィランと戦闘中です!信じられません!ヴィランはたった1人!街を壊し、平和の象徴と互角以上に渡り合っています!!』

 

 ようやく報道のヘリが神野区の惨状を捉える。

 

 その光景はテレビで伝えられ、ホテルでも一佳、唯、柳、ポニーは部屋に集まって、そのニュースを見ていた。

 

「……これ、爆豪救出作戦……だよな……」

「……ん」

「ってことは……」

「拳暴サン。ここにいるデスか?」

 

 ヒョウドルからオールマイトは爆豪救出作戦に参加していると聞いていた。

 そのオールマイトが戦っているということは、あのヴィランは敵連合ということだ。

 そして、戦慈は神野区にいるはず。

 

「……くそ。映像が遠すぎて、オールマイト以外に誰がいるのか分からない……!」

 

 一佳達は必死に目を凝らして、戦慈の姿を探す。

 しかし、余りにも遠く、動いているオールマイト達以外の姿はよく分からなかった。

 

 戦慈のスマホは電源が切られており、一切連絡がつかない。

 

「頼む……。無事でいてくれよ……!」

「ん」

 

 もし、これで戦慈に何かあったら、里琴にどんな顔で会えばいいのか分からない。

 戦いも気になるが、今はただただ戦慈の無事を願う一佳達だった。

 

 

 

 戦場ではオール・フォー・ワンが両腕を広げて語り出す。

 

「弔がせっせと崩してきたヒーローへの信頼。決定打を僕が打ってしまってよいものか」

 

 オールマイトは咳込みながら、オール・フォー・ワンを睨みつける。

 

「でもね、オールマイト。君が僕を憎むように、僕も君が憎いんだぜ?僕は君の師を殺したが、君も僕の築き上げたものを奪っただろう?だから君には可能な限り醜く惨たらしく死んでほしいんだ!」

 

 オール・フォー・ワンの左腕がまた膨れ上がる。

 それを見た瞬間、グラントリノが飛び上がる。

 

「デケェのが来るぞ!避けて反撃を――」

「避けていいのか?」

 

 グラントリノの後に続こうとしたオールマイトの耳に、背後からガラリと物音がする。

 目を向けると、瓦礫の隙間に人影が見え、オールマイトは足を止める。

 

「おい!?」

 

 グラントリノが慌てて戻ろうとするが、その前にオール・フォー・ワンが今まで以上の衝撃波を放ち、オールマイトを呑み込む。

 

「君が守ってきたモノを奪う」

 

 グラントリノは暴風に煽られて、吹き飛ばされる。

 

「まずは怪我をおして、通し続けたその矜持。惨めな姿を世間に晒せ。平和の象徴」

 

 オール・フォー・ワンの目の前には、体が完全にしぼんだトゥルーフォームのオールマイトの姿があった。

 

 オールマイトは左腕を突き出して、血を流しながら立っている。

 

 変わり果てたオールマイトの姿に、報道ヘリのカメラを通した戦いを見ていた全員が唖然とその姿を見る。

 

『え……あ?な、何が?み、皆さん、見えますでしょうか?オールマイトが……萎んでしまっています……』 

 

 一佳達も目を見開いて固まる。 

 

「……オールマイト……?」

「……ん」

「……この人……雄英にいた……」

 

 一佳は雄英で今テレビに映っている男を見た覚えがあった。

 緑谷によく声をかけていて、ヒーロー科の教師と会話している姿を何度も見た。逆にオールマイトの姿を授業以外で見た覚えはない。

 ずっと不思議に思ってはいた。わざわざ口には出さなかったが。

 その疑問がようやく解けたが、喜ぶことなど出来はしない。

 

「これ……ヤバイ……よね?」

「……ん」

 

 柳の言葉に唯は頷き、ポニーは両目に涙を溜めて見つめている。

 その時、一佳がハッとする。

 

「……拳暴。そうだ。……あいつが今のオールマイトの姿を見て、我慢出来るわけない……!」

 

 一佳の言葉に柳達も目を見開く。

 一佳は再び電話を掛けるも、やはり電源が切られていて通じない。

 

「くそ!もし、ここで飛び出れば、もう誰も庇えないぞ!?どうすれば……!どうすればいい……!?」

 

 必死に考えるも、ここから出られない自分に出来ることなどありはしない。

 飛び出したいが、ミルコ達にこれ以上迷惑はかけられない。

 その時、

 

ダァン!!

 

『ちょっとミルコ!?』

 

 外から聞こえた轟音とヒョウドルの声。

 慌てて窓に駆け寄ると、表にヒョウドルが立っていた。

 その目の前の地面は亀裂が入っており、先ほどのヒョウドルの言葉から推測すると……。

 

「ミルコが跳び出していった……?」

「いいの?それに……間に合うの?」

「ん」

「でも、No.7ヒーローデス!」

 

 一佳達はミルコが跳んで行ったであろう夜空を見つめ、身勝手だと分かっていても「戦慈のことを頼む」と願ってしまう。

 そして、テレビの前に戻り、オールマイトの戦いをまた見つめる。

 

 画面の向こうでは、オールマイトの右腕が再び膨れ上がって拳を握り締める姿が映っていた。

 

「オールマイト……!」

「頑張れ……!」

「ん!」

「ファイトデス!!」

 

 姿が変わろうと、彼はNo.1ヒーロー。

 

 姿が変わる程度で、その事実と、彼の心意気まで変わるわけではない。

 

 一佳達はそれを、身近な同級生でよく知っている。

 

「勝ってくれ……!」

 

 

 

 オールマイトは右腕に力を籠めながら、再び笑みを浮かべる。

 

「ああ……!多いよ、ヒーローは……!守るものが多いんだよ、オール・フォー・ワン!!」

 

 衝撃的な事実を聞かされた。

 心が折れかけた。

 体も上手く力が入らない。

 

 それが何だ。

 

 自分は何だ。

 

 何のためにここにいる。

 

「だから……負けないんだよ!」

 

 自分は『平和の象徴』。

 全ての人が笑って暮らせる世の中にするために。

 

『どんだけ怖くても、自分は大丈夫だって笑うんだ。世の中、笑ってる奴が一番強いからな』

 

 己の平和の象徴としての原点をくれた人の言葉。

 

(私の限界など知ったことか!今、私の後ろに苦しんでいる人が、恐怖と戦っている人達がいる!!私は……その人達のために『希望の力』を引き継ぎ、そして託した!!!こんなところで負けて、死ぬわけにはいかんのだ!!)

 

 ギン!!とオール・フォー・ワンを睨みつける。

 

「渾身。それが最後の一振りだね、オールマイト」

 

 オール・フォー・ワンはフワリと浮かび上がる。

 

「手負いのヒーローが最も恐ろしい。はらわたを撒き散らし、迫ってくる君の顔。今でも夢に見る。後、二、三振りは見といた方がいいな」

 

 その右腕がまた膨れ上がる。

 

 その時、オール・フォー・ワンに向かって、炎が襲い掛かる。

 オール・フォー・ワンは右腕から衝撃波を放って炎を吹き飛ばし、炎が飛んで来た方向を見る。

 

「なんだ貴様……。その姿は何だ、オールマイトォ!!!」

「エンデヴァー……」

 

 現れたエンデヴァーとエッジショット。

 

「全て中位とは言え……。あの量の脳無をもう制圧したか。流石はNo.2に上り詰めた男」

 

 オール・フォー・ワンはエンデヴァーを称賛するが、エンデヴァーはオールマイトの姿を受け止めるのに精一杯だった。

 エッジショットが体を細くしながら飛び上がり、オール・フォー・ワンに迫るも躱される。

 

「大人しくしててくれないか?」

「抜かせ破壊者!俺達は救けに来たんだ!」

 

 エッジショットが言い放ちながら、オール・フォー・ワンに攻めかかる。

 戦場の端では、シンリンカムイがベストジーニストやMt.レディ達を救助していた。

 更にオールマイトの背後の瓦礫にいた女性を虎が救助に向かう。

 

「虎……!」

「我々には……これくらいしか出来ぬ。あなたの背負うものを少しでも……」

 

 エンデヴァーとエッジショットがオール・フォー・ワンに攻撃を続けているが、オール・フォー・ワンは軽やかに躱す。

 

「皆、貴方の勝利を、願っている」

 

 その時、報道ヘリの横を猛スピードで何かが飛び抜ける。

 その何かは猛スピードでオール・フォー・ワンに迫っていった。

 

「!!」

 

 

ぶっ飛べやあああああ!!!

 

 

 ミルコが叫びながらドロップキックを繰り出す。

 オール・フォー・ワンは上半身を大きく反らして紙一重で躱す。

 

「ミルコ!?お前、東京で雄英生の護衛だったはずじゃ……!?」

「はっ!この状況テレビで見てて、我慢出来るわきゃねぇだろうがっ!!全力で跳んで来たんだよ!!」

「はぁ!?」

「それに一番護衛しなきゃいけねぇ奴が、この辺にいんだよ!そいつを探しに来たってことにしてくれ!!そのついでに、あいつを蹴っ飛ばしに来たってことで!!」

 

 エッジショットはミルコの無茶苦茶な言い分に唖然とするしかなかった。

 ミルコはオールマイトに目を向ける。

 

「ボロボロだな、オールマイト!」

「……ミルコ」

「もちろんまだやれんだろうなぁ!?スサノオだったら、ぜってぇまだ諦めねぇぞ!!あいつの教師してるテメェが、その程度で諦めたりしねぇよなぁ!?」

「……ああ、もちろんさ」

「はっはぁ!!なら、とっととブッ飛ばすぞ!!じゃねぇと……!!」

 

 ダン!とミルコが跳び上がって、足を振り被る。

 

「スサノオが『だらしねぇ』って殴り込んでくるぜ!!」

 

「……またうるさいのが来たね」

「うっせぇ!!蹴っ飛ばす!!」

 

 オール・フォー・ワンは両腕を交えて、ミルコの蹴りを受け止める。

 ミルコはそのまま弾け飛ばされ、オールマイトのすぐ傍に下り立つ。

 

「ちっ!」

「ミルコ、拳暴少年は……」

「ああ!?まだ見つかってねぇよ!けど、あいつがここに来ねぇはずがねぇ!」

 

 そうではなく、すでに来た後なのだ。

 そう伝えたかったのだが、ミルコは興奮状態のようで聞く耳を持たない。

 

「ミスについては、後でいくらでも罰は受けるがよ!けど今は、そんなことよりこれ以上スサノオに手ぇ出させねぇように、大人がさっさと終わらせねぇといけねぇだろうが!!」

「……」

「いくら強かろうがあいつはガキだ!!広島みてぇに情けねぇカッコ出来るかってんだ!!」

 

「ああ……その通りだ。私達が、彼らを守り、叱り、導かなければいけないんだ……!」

 

「さっさとブッ飛ばすぞ!!それに私だってなぁ……あいつら傷ついてんの見てムカついてんだよおおお!!よくも私の可愛い後輩殺そうとしやがったな、目無し野郎おおお!!!」

 

 目を血走らせ、額に青筋を浮かべ、両太ももに血管が浮かぶ程の力を籠めて、叫びながら跳び上がるミルコ。

 

 

「煩わしい」

 

 

ドオオォォン!!!

 

 

 オール・フォー・ワンが真下に衝撃波を放ち、地面に叩きつけられた衝撃波が巻き上がって周囲に暴風が吹き荒れる。

 跳び上がっていたミルコやエッジショットは堪え切れずに吹き飛ばされ、エンデヴァーも炎が掻き消されて後ろに吹き飛ばされる。

 オールマイトは必死に踏ん張って耐える。

 

「精神の話はよして、現実の話をしよう」

 

 無感情に言うオール・フォー・ワンの右腕が歪に膨れ上がり始める。

 

「《筋骨発条化》《瞬発力》×4《膂力増強》×3《増殖》《肥大化》《鋲》《エアウォーク》《槍骨》。今までのような衝撃波では体力を削るだけで、確実性が無い。確実に殺すために、今の僕が掛け合わせられる最高・最適の『個性』達で――」

 

 右腕が膨れ上がり、何本もの腕が重なり、そこに突起や石のようなものが散りばめられていた。

 

「君を殴る」

 

 そう言って、勢いよくオールマイトに向かって右腕を振り被って飛び出す。

 オールマイトも右腕を構えて、オール・フォー・ワンを見据える。

 

「緑谷出久。譲渡先は彼だろう?」

 

 オールマイトにだけ聞こえるように告げる。

 

「資格も無しに来てしまって、まるで制御出来てないじゃないか。存分に悔いて死ぬといいよ、オールマイト。先生としても君の負けだ」

 

 オールマイトはその言葉に答えず、左脚を大きく振り上げながら踏み込み、右腕を振り被る。

 

 そして、2つの拳がぶつかる。

 

 直後、噴火したかのように土煙と衝撃が巻き上がる。

 その中心ではオールマイトとオール・フォー・ワンが拳を突き合わせていた。

 

「《衝撃反転》。君の放った力は、全て君に跳ね返――」 

 

「そうだよ」

 

 オールマイトの右腕から血が噴き出し、骨が砕ける音がする。

 更には煙も噴き出す。

 

「!」

 

「先生として……叱らなきゃ……いかんのだよ!私が叱らなきゃいかんのだよ!!」

 

「……成る程。醜い……」

 

 オール・フォー・ワンが右腕に力を籠めて、オールマイトを押す。

 その時、オールマイトが左手を握り締めて、右腕と入れ替わる様に膨れ上がる。

 

「そこまで醜く抗っていたとは……誤算だった」

 

 オールマイトは右腕を弾き飛ばされる勢いを利用して、左クロスカウンターをオール・フォー・ワンの右頬に叩き込む。

 オール・フォー・ワンの口元に付いていたマスクが吹き飛び、顔を背ける。

 

 しかし、

 

「らしくない小細工だ。誰の影響かな?」

 

 オール・フォー・ワンは何でもないように口を開き、左腕を上げて膨れ上がらせる。

 

「浅い」

 

「そりゃあ……!!」

 

 その時、オールマイトの左腕が萎み、ボロボロのになった右腕が再び膨れ上がり、右手を握り締める。

 

「腰が!!入ってなかったからなあああ!!!」

 

 歯を食いしばり、全力で腰を捻って右腕を振り抜く。

 

「おおおおおお!!」

 

 拳をオール・フォー・ワンの左頬に叩き込みながら叫び、地面に叩きつけるように振り抜いていく。

 

 

「UNITED STATE OF SMASH!!!

 

 

 地面にクレーターが出来、再び衝撃と土煙が巻き上がる。

 報道ヘリが必死に吹き飛ばされないように耐え、カメラを向け続ける。

 

 全員が息を呑んで、画面を見つめる。

 ミルコやエッジショット達も衝撃を堪えながら、結末を見届けようと目を凝らす。

 

 クレーターの中心にいたオールマイトがゆっくりと体を起こす。

 

 体を震わせながら左拳を天へと突きあげる。

 

 そして、全身を膨らませて、No.1ヒーローの勝利を表現する。

 

 

『オールマイトオォ!!!』

 

 

 思わず報道記者も感情のままに叫ぶ。しかし、見届けていたほとんどの者達も同じく叫んでいたので気にする者は誰もいなかった。

 

『ヴィランは……倒れたまま動かずぅ!!勝利!!オールマイト!!勝利のスタンディングです!!!』

 

 オールマイトはよろけながらも、必死にスタンディングを続ける。

 その後、ミルコ達が駆けつけ、オール・フォー・ワンの捕縛に取り掛かる。

 

 その間も日本中から歓声が上がっていた。

 

 この日、正義と悪、2つの伝説が終わりを迎えたのだった。

 

 

 

 

 一佳達もオールマイトの勝利を見届けて、全員が体から力が抜けてへたり込む。

 

「か、勝った~……」

「ん……」

「……やっぱ凄いな、No.1ヒーローは……」

「グレイトデェス!」

 

『うおおおおお!!オールマイトオオオオ!!!』

 

 鉄哲の雄叫びがホテル中に轟く。

 それに一佳達は顔を見合わせて、苦笑する。

 

「まぁ……しょうがないよな」

「こればっかりはね……」

「ん」

「今なら拳暴サン、テレフォン繋がるのでは?」

「あ、そうだな」

 

 ポニーに言われて、一佳は改めて戦慈に電話を掛ける。

 しかし、やはりまだ電源は切られたままだ。 

 

「やっぱり駄目か……。メールだけでも入れとこ」

「ん」

「あ、一佳。ウワバミだよ」

 

 テレビには必死に救助作業を行っているウワバミやヒーロー達の姿が映されていた。

 戦闘が終了し、本格的な救助活動が始まっていたのだ。

 ウワバミは汗を流し、汚れる事も気にせずに感知した負傷者の存在を周囲のヒーロー達に伝えていた。

 その顔には一切余裕はなく、職場体験で見せていた顔とは違うものだった。

 

「……私達も、いつかあんな現場に立つのかな?」

 

 柳が独り言のようにテレビを見つめたまま呟いた。

 その言葉に一佳達もテレビを食い入るように見つめる。

 

 ぐったりとしてヒーロー達に抱えられて運ばれる負傷者達。

 アナウンサーも言っているが、死者だってかなり出ているはずだ。

 

「……立たなきゃいけないんだよ」

「ん……」

「林間合宿のような現場も、神野区みたいな現場も、ヒーローになったら逃げちゃいけないんだ」

 

 そこに救けなければいけない人がいる限り、ヒーローは決して見捨ててはいけない。

 

「もちろん怖いけど。でも……やっぱり里琴達のあの姿を見たらさ、何もしない、何も出来ないのが……一番辛いよ」

「ん……」

「……だね」

「仲間が倒れてるのに、何も出来ないのはもう嫌デス!」

 

 自分が無事でも、仲間が無事じゃないなら意味はない。

 むしろ、自分が傷ついた時より心が苦しい。

 

 だから、ここで逃げたくない。

 

 次は誰かを救えるようになりたい。

 

 一佳達はそう思っていた。

 

 その時、オールマイトがカメラに向かって指を差す。

 

『次は……君だ』

 

 短く告げられた言葉。

 

 それは一見、まだ見ぬ敵への警鐘。例え、どんな姿になっても平和のために戦うという強固な意志の表明。

 

 しかし、一佳はオールマイトの姿と言葉に妙な寂しさを覚えた。

 

 そして、その姿が何故か戦慈と重なった。

 

 一佳は涙が溢れそうになる。

 

『あそこ!!あの下!!かなりの人が閉じ込められてるわ!!』

 

 その時、ウワバミの声が聞こえる。

 

『どうやら生き埋めになっている負傷者が発見されたようです!!』

 

 カメラがオールマイトから瓦礫の山に向く。

 ウワバミやヒーロー達が必死に瓦礫をどける。

 カメラが救助現場に近づき、一佳達も改めて注目する。

 

『聞こえる!?無事なら返事をして!!』

ヒ、ヒーローですか!?

 

 瓦礫の向こうから小さくだが声が聞こえた。

 声が聞こえたことでヒーロー達の瓦礫撤去速度が上がる。

 

『全員無事なの!?』

 

『お、男の人が!()()()()()()()()()()1人で瓦礫を支えてるんです!!』

 

「え?」

 

 聞こえた内容に、一佳は目を見開いて体が硬直する。

 唯、柳、ポニーも目を見開いてテレビを食い入るように見る。

 

『こ、この瓦礫を1人で!?』

 

 ヒーロー達の目の前にある瓦礫の山は、高さ3mは楽に超えている。

 それをたった1人で支えているというのだ。一体どれくらいの間、そうしていたのだろう。

 

『まだ支えてくれているけど……全然返事がないんです!!急いで!!彼を早く!!』

 

『分かったわ!まずは脱出できる人を出すわ!!とりあえず、出口を作って!!それともっと応援を!!』

『分かった!!』

『頑張れ!!すぐに救けてやるからな!!』

 

「……拳暴?……返事が……ない?」

 

 呆然と呟く一佳。

 

 戦慈は未だに連絡がつかない。

 居場所も分からない。

 

 もし……ずっと瓦礫を支えていたのであれば?

 

 戦慈ならばありえる。

 しかし、返事がないとは何だ?

 

 剣に刺されても、骨が折れてもすぐに治っていた戦慈が、返事が出来なくなる状態とは何だ?

 

 一佳達は状況が理解出来ずに、ただただ呆然とテレビ画面を見入る。

 

『必死の救出作業が続いています!果たして中の人達は無事なのでしょうか!?』

『開くぞ!崩れないように注意しろ!』

『分かってる!』

『おい!!担架、大量に持ってこい!!』

『おーい!こっちだ!動ける人は悪いが重傷者からこっちに渡してくれ!!』

『あ!!どうやら道が開いたようです!!』

 

 瓦礫の山に人一人通れるくらいの穴が出来上がった。

 すぐに救急隊が担架を抱えて、穴から引っ張り出された負傷者を乗せて運んでいく。

 

『どれくらいいるんだ!?』

『う、動けない人は後6人で!自力で動ける人が11人です!それと瓦礫を支えてくれてる人!』

『雄英の子だ!体育祭で優勝した1年生!!』

 

「っ!!拳暴!!!」

 

 やはり戦慈だった。

 一佳は思わずテレビにしがみつき、唯達もテレビに詰め寄る。

 

『まさか、拳暴戦慈君!?』

『な、なんと!今、この瓦礫の山を支えているのは、雄英ヒーロー科1年の拳暴戦慈とのことです!!』

『なっ!?拳暴少年!?』

『スサノオ!?』

 

 アナウンサーの声はオールマイトやミルコにも聞こえたようで、ミルコは猛スピードで瓦礫の山に駆け寄り、オールマイトはふらつきながらも近づいてくる。

 

『ミルコ、待って!無理に動かしたら、一気に崩れるかもしれないわ!』

『この程度、全部蹴っ飛ばせる!』

『馬鹿言わないで!まだ周りに人がいるかもしれないのよ!?』

『ぐっ!?くっそぉ!!おい、スサノオォ!!聞こえるか!?返事しろ!!』

『重傷者は出したぞ!さぁ、出て来てくれ!!』

 

 重傷者を全員運びだし、続いて自力で動ける者達が次々と救出される。

 

 一佳達は早く!と心の中で叫ぶ。

 電話が鳴っている気がするが、全員がそれどころではない。

 

『お、俺で最後です!』

『よく頑張ったな!さぁ、あっちへ!』

『おし!おい!!スサノオ!!』

『拳暴少年!!』

『急いで周りの瓦礫退けるぞ!ウワバミは周囲にまだいないか探してくれ!』

『分かってるわ!!』

 

 オールマイトは怪我してるからと遠ざけられ、ミルコやヒーロー達は全力で、かつ細心の注意を払って瓦礫をどけて行く。

 

 そして、遂に戦慈の姿がカメラに捉えられた。

 

 戦慈は直径7mはある巨大な瓦礫を、両腕、後頭部、背中で背負う様に支えていた。

 

 今にも倒れ込みそうなのに、それでも両足を前後に広げて立っていた。

 

「拳暴!!」

「ん!!」

 

『スサノオ!!』

『拳暴少年!!』

『なんて子だ……!このデカさと量の瓦礫をたった1人で……!』

『み、見えますでしょうか、皆さん!あ、あの巨大な瓦礫をたった1人で、ずっと支えていたのです!!あの瓦礫を埋め尽くすほどの瓦礫を上に乗せても、それでも彼は耐えていたのです!!』

 

 ミルコが駆け寄り、戦慈が支える瓦礫を蹴り砕く。

 戦慈はそれでも立ち続けており、リアクションはない。

 

『おい!スサノオ!』

『拳暴少年!!』

 

 オールマイトも戦慈に駆け寄る。

 そして、ミルコとオールマイトは目を見開いて足を止める。

 

『……気絶、してやがる』

『君と……いう子は……!』

 

 戦慈は気を失っていた。

 

 身体も元に戻っていた。

 

 それでも瓦礫を支え続け、瓦礫を失っても、未だしっかりと立ち続けている。

 

『気絶!?気絶したまま、あの瓦礫を支えていたのか!?』 

『な、なんと!彼は……気を失いながらも、瓦礫の山を支えていたようです!』 

 

「……拳暴……」

「……ホント、凄いね……」

「ん……」

 

 ミルコとオールマイトが戦慈をゆっくりと横にする。 

 

 一佳はテレビから手を放して、ぺたりと座り込む。

 唯や柳が一佳を支えるように肩に手を乗せる。

 

『担架です!』

 

 戦慈が担架に乗せられて、運ばれていく。

 

 オールマイトも救急隊に声を掛けられて、連れて行かれる。

 

「大丈夫だよ、一佳。すぐに手当てして貰える。拳暴ならすぐに元気になるよ」

「ん」

「拳暴さんはとっても強いデス!」

「……ああ、そうだよな……。きっと……大丈夫だよな」

 

 一佳は小さく笑みを浮かべるが、どう見ても無理をしている。

 唯達はここまで弱っている一佳を初めて見た。

 

 というより、こんな時は必ず戦慈か里琴がいて、いつも通りの雰囲気で一佳に声を掛けてくれていた。

 けど、その2人が今はいない。

 一佳の支えがいないのだ。

 

 それだけ戦慈と里琴の存在は、一佳にとって大きいものだった。

 唯達は「しっかりしろ」と言ってやりたいが、流石にこの状況でそれを言うのは酷だと思ってしまい、ただ見守ることしか出来ない。

 自分達も戦慈や一佳に頼り過ぎていたことに気づいたからだ。

 

 困った時も、大変な時も、辛い時も、戦慈や一佳が引っ張ってくれていた。安心させてくれることを言ってくれていた。

 

 それに甘えていたことに気づかされた。

 そんな自分達が一佳に何が出来るのか、分からないのだ。

 

「……今は少し休もう、一佳。里琴達もまだ守ってあげないと。拳暴もミルコもいないから、私達で守らなきゃ」

「私達が頑張る」

「イエス!」

「……レイ子、唯、ポニー」

 

 一佳は3人を見渡して、ポロポロと涙があふれ始める。

 

 唯が一佳の顔を胸元に抱き寄せる。

 

「大丈夫」

 

「っ!……う……うああ……!ああああぁ!」

 

 一佳は完全に感情が決壊して、涙が堪え切れなくなった。

 唯は一佳の頭を優しく撫でて、柳やポニーも一佳の背中を擦る。

 

 

 2つの伝説の終焉は、世界はもちろん、一佳達にも大きな影響を与えることになるのだった。

 

 

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