里琴が目覚め、戦慈の叫びを聞いた翌日。
雄英教師陣はさっそく行動を開始した。
「全寮制か……」
「まぁ、仕方ないんじゃねぇか?拳暴に、爆豪が狙われて、俺達も襲われたんだし」
「だよなぁ」
泡瀬が難し気に顔を顰め、骨抜が雄英の行動に理解を示し、円場も頷く。
戦慈、里琴を除くB組一同はホテルの宴会場に集められていた。
幸運なことに毒ガスにやられた全員が翌日には退院許可を出してもらえた。
もちろん、まだ体力が戻りきってはいないが、家で療養しても問題ないだろうと判断されたのだ。今は精神面での療養の方が重要視されたのもある。
「里琴、拳暴にちゃんと会えたかな?」
「鞘伏さんが大丈夫って言ってるし、大丈夫だよ」
「ん」
柳が少し不安げに呟き、一佳が元気づけるように言い、唯も頷く。
里琴は昼過ぎに鞘伏に連れられて、戦慈がいる病院へと向かった。
一佳達も行きたかったが、
「お前さん達には悪いが……流石に状況的に里琴の面会が限界だ。俺も今後は面会に制限がかかるからな。それにお前さん達にも今後について、色々考えなきゃいけないことがあるしな」
「考える事?」
「すぐに分かるさ」
鞘伏は肩を竦めて、里琴を連れて病院を去っていった。
そして、その後すぐに一佳達の家族がやって来て、ホテルで『全寮制についての説明会がある』と告げられる。
一佳達はホテルに戻って、説明会が行われる宴会場に集まっていた。
「この説明会が終われば、家に帰れるらしいね」
「まぁ、寮に入る準備もあるしな」
「ん」
時間になり、それぞれの家族で席に座る生徒達。
そこにスーツ姿の根津校長とブラドが現れて、正面の席の前に立つ。
根津がマイクを持ち、
「今日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。本題についてお話しする前に……我々の慢心・怠慢でお預かりした子供達を危険に晒してしまったことを、改めて心よりお詫び申し上げます」
根津とブラドが腰を直角に曲げて、謝罪する。
それに鉄哲が立ち上がって止めようとするが、鉄哲そっくりの父親が押さえ込んで黙らせる。
「我々も痛感した未熟さを承知した上で全力で見直しを行い、今度こそやれること全てをやっていきたいと思っております。その一つが、今回の全寮制の導入であります」
「ちょっといいかよ?」
根津が本題に入ろうとしたところで、鉄哲の父親が手を上げる。
「はい」
「あんたらの反省や全寮制どうのこうのはともかくよ。まず先に聞きてぇことがある。拳暴戦慈の処遇についてだ」
鉄哲パパの言葉に、隣に座っていた鉄哲や一佳達が目を見開く。
ブラドも僅かに目を見開いている。
「拳暴については息子から色々とよぉ~く聞いてる。俺だって体育祭や広島の事件、そして林間合宿や神野区でのニュースも見た。その上で聞きてぇ。
腕を組み、鉄哲そっくりの目つきでギン!と教師陣を睨みつける鉄哲パパ。
その迫力はブラドにも負けていない。
しかし、戦慈を庇うような言葉に、生徒はもちろん親も教師陣を注視する。
事実、今回の事件では戦慈のおかげで助かった部分が大きいというのを、無事だった者達から聞いている。
親達もそれを子供達から聞かされている。
悔しい思いをしたことも。
鉄哲パパは息子の頭に手を置いて、言葉を続ける。
「正直、俺は徹鐵がやる気なら、全寮制だろうがなんだろうが雄英に行かせてやるつもりだ」
「……親父ぃ……!」
「けどよぉ、こいつが雄英に行っても、拳暴がいなかったら納得出来ねぇだろ?こいつはずっと拳暴を尊敬して、必死に追いかけて、今回も仲間が倒れた姿を見て、悔し涙を流して俺に言ったんだよ。悔しいってなぁ……!」
「……」
「だから、俺はこいつを拳暴と一緒にヒーローを目指さしてやりてぇんだよ。けど、神野区に行ったことは問題なんだろ?それに……拳暴は少なからず暴れたんじゃねぇのか?だから、今も警察に保護されてんだろ?それにあんたら雄英はどうする気なんだ?」
根津が答えようとすると、ブラドが手で制止して、代わりにマイクを握った。
そして、一歩前に出て、口を開く。
「今からする話はここだけのことにしていただきたい」
ブラドの言葉に、全員が耳を傾ける。
「我々は昨日、拳暴に会いに行きました。何故、抜け出したのか。そして……何故敵連合達の前に姿を見せて、戦ったのかを聞くためです」
予想はしていたが、やはり交戦したと聞くと動揺せずにはいられなかった一佳達。
それでも声を荒げず、必死にブラドの言葉を待つ。
「彼は我々に向かって、こう言いました。『俺はあんた達を信頼していない』『戦うなと、守ると言っておきながら、林間合宿で友が倒れている時に、ヒーローは何をしていたのか』『敵連合が自分を狙ったせいで、友を巻き込んだ』『だから、例え雄英を除籍にされようとも、友がこれ以上襲われることなく雄英でヒーローを目指せるなら、それで構わないと思っていた』と……。『俺は誰一人救けられなかった』と……」
一佳や鉄哲達は両手を握り締めて、湧き上がる激情に耐える。
悔しさ、悲しさ、怒り、様々な感情が一気に溢れそうになった。
「それを聞いた我々は……私は……己が如何に愚かで、怠慢で、彼を見ていなかったことを、ようやく気付きました」
「……先生」
「彼の強さばかりに目を捕らわれていた。彼の強さに無意識のうちに頼ってしまっていた。彼を支えるつもりが、私こそが彼に教師として支えてもらっていた……!彼の言う通り、私は生徒達のために血を流さねばいけなかったはずなのに!!私は……救けに行かなかった!!」
ブラドは今にもマイクを握り潰しそうなほど手に力が籠り、歯が砕けそうなほど歯を食いしばっている。
「今回の彼の行動は……我々教師の未熟さと怠慢が原因と判断しております。故に……現段階では拳暴については除籍や停学、謹慎などの処罰を課すつもりはありません!今回は厳重注意に留め、今後我々を含めて、同じ轍を踏まないように努力していく所存です……!!」
そして、ブラドはその場に膝をついて土下座をする。
「なので、今一度!!もう一度だけ、我々に任せていただけないでしょうか!!子供達の後悔を、苦しみを、我々と共に乗り越える機会をいただきたい!!」
マイクを通さずとも全員に伝わる声。
根津もその隣で再び深く頭を下げる。
「私の心血全てを注いで、立派なヒーローへと育ててみせます!!その結果、子供達には今まで以上に厳しい訓練を課すことになるやもしれません!!それでも子供達が強く、戦い抜き、人々を守れるヒーローになれるよう、出来る限りの全てのことをしてやりたいと思っています!!」
「よぉく言ったぁ!!」
ブラドの宣言に鉄哲パパが同じくらい声を張り上げて言う。
「そこまで言い切るなら、俺に文句はねぇ!!このバカ息子を徹底的に叩っ鍛えてやってくれや!!」
「親父ぃ……!!」
「いいダチと先生に恵まれたなぁ、徹鐵!!羨ましいくらいだぜ、ガハハハハ!!」
「……鉄哲の親父さんだなぁ」
「すっげぇ似てる」
豪快で暑苦しいが、どこか心地いい。
まさしく『この親にして、この子あり』であった。
クラスでの鉄哲同様、重苦しい雰囲気を一瞬にして変えた。
ブラドは立ち上がって、また頭を下げる。
「ありがとうございます!」
「おう。だが、他の家までは知らねぇぞ?息子はまだ意識不明じゃなかったから、俺はそう言えるってだけだ」
「それについてですが。この後、一度各ご家族ごとに面談をさせていただきたいと思っております。また、今日に回答をしていただく必要もありません。ご家族でしっかりと話し合って、結論を出していただきたいと思っています」
ということで、全寮制について説明を受けた生徒とその家族達は、出席番号順に面談を行うことになった。
泡瀬の場合。
「洋雪。お前はどうしたいんだ?」
ブラドと根津、そして泡瀬と父母がホテルの一室で向かい合っており、父親が泡瀬に訊ねる。
「俺は……雄英に行きたい」
泡瀬は覚悟を決めた顔で両親に向かって言う。
「俺……情けなかったんだよ。八百万…A組の女の子が頭を殴られて、出来たのは抱えて逃げるだけだったんだよ」
「何を言ってるんだ、泡瀬。お前がヴィランに発信機をつけなかったら、爆豪は救えなかったんだ。お前は情けなくない」
「情けないっすよ……!俺、逃げるので精一杯で……!」
「それが当然なんだ。誰だって襲われれば怖い。それをお前は八百万を決して見捨てず、咄嗟に渡された発信機をしっかりと付けた。それは凄い事なんだぞ」
泡瀬は俯いて、後悔を口にする。
ブラドの言う通り、泡瀬の功績は八百万と同じくらい大きい。しかし、泡瀬はそれ以外はずっと逃げ回っていただけで、結局仲間を救うどころではなかった。
それが泡瀬の心に重くのしかかっていた。
「ここで逃げたら、俺もう駄目になっちまう。もうあいつらの友達って言えない。それだけは……絶対に嫌だ」
「洋雪……」
「拳暴に戦って勝てるようになるとまでは言わない。でも、救ける事が出来る人は救けれるようになりたい。拳暴や鉄哲が安心して戦えるようになりたい!」
B組の仲間に『救けられなくて悪い』と言われることほど、辛いことはない。
同じヒーローを目指す仲間の足手纏いになるのだけは、絶対に嫌だ。
隣で戦えなくても、背中を守れるようになりたい。
「……分かった。なら、もう弱音は言えないぞ?」
「分かってる」
「……なら、私達はお前と先生達を信じるだけだ」
「そうね」
「ありがとう!」
「感謝致します」
回原の場合。
「もちろん、まだ通います。ここで辞めたら、無茶した拳暴に悪いじゃないですか。俺が成績悪かったり、自分のミスで除籍されるなら受け入れますけど。拳暴や鉄哲達が命かけて戦ったのに、救けられた俺が『怖いから辞めます』なんて言えないですよ」
回原も覚悟を決めた顔ではっきりと言う。
両親は少しまだ不安そうだったが、回原が説得したのだろう。何も言うことはなかった。
「だから、お願いします。俺をもっと鍛えてください」
「……ああ。一緒に頑張ろう」
「はい!!」
鎌切の場合。
「俺はヒーローを目指すぜぇ。それに敵連合の連中もこのまま逃がす気はねぇ」
「鎌切。それは……」
「もちろん、拳暴みてぇに飛び出す気はねぇよ。ヒーローになったらって話だ。あんな連中みたいなヴィランを許すわけにはいかねぇ。こんな目に遭うのは俺らで最後にしてやるってことだよぉ」
「……そうか」
「俺だって前衛だぁ。拳暴や鉄哲ばっか切り込み隊長させてたまるかよぉ……!」
目をギラギラさせて己に言い聞かせる様に言う鎌切。
自分もあの2人と同じ戦場に立つ。
そうすれば、戦慈達が無茶をする機会も減るし、無茶しても自分も共に戦える。
斬ることしかできない鎌切には、意志を貫く覚悟を固めるのだった。
一佳の場合。
「今まで済まなかった」
「え?せ、先生?」
ブラドがいきなり一佳に謝罪をした。
「お前に拳暴や巻空のことを押し付け過ぎていた。もっと俺達大人があいつらを支えてやるべきだった」
「……私も同じです。私も……あいつらに甘えていたんです」
「……甘えていた?」
「あいつらの傍にいれるのが嬉しかった。あいつらを支えようと頑張ってると思ってました。でも、結局私はあいつらにここぞという時には頼っていてばかりで……支えられているのは私の方でした。今回、里琴が倒れて、そして神野区での拳暴の姿を見て、いとも簡単に心がやられて……唯や切奈達に励まされて……。拳暴と里琴がいなくなっただけで、私は凄く弱いことが分かりました」
普段、どこか抜けている戦慈と里琴の面倒を見ていると思っていたから。
最初は一緒の戦場にいる事も出来なかったから。
少しずつ自分も成長していると思っていた。
けど、この数日で自分があまりにも脆いことを実感させられた。
「だから……そんな自分とは決別したいです」
「拳藤……」
「強くなりたいです。本当の意味であいつらを支えて、無茶しそうになったらちゃんと止められるように。それでも駄目なら……あいつらがもう入院しなくて済むように、一緒に戦うために。中学が同じだからとか言う理由じゃなく、あいつらと対等になりたい。だから……私は雄英でヒーローになりたい」
里琴の思いも、戦慈の思いも、受け止めたからこそ、もう間違えたくはない。
置いて行かれたくはない。
もう里琴にあんな顔をさせたくない。
「拳暴達は……やめないんですよね?」
「ああ。もう寮に入ることは返事をもらっている」
「じゃあ、私もやめません。不純かもしれないですけど、私はまずあの2人を救けられるヒーローになりたいです」
「……不純じゃない。十分立派だ」
一佳は母親に顔を向ける。父親は仕事で来られなかった。
「いいよね?」
「ええ。あなたが決めたなら、私は何も言わないわ。お父さんも許してくれると思うわよ」
「ありがと」
「頑張るのは貴女だもの。……大変よ?最後まで頑張れる?」
「……うん!」
力強く頷く一佳。
そして、ブラド達が退室した後、突如一佳ママが、
「で?拳暴君に告白するの?」
「うえっ!?あ、へ!?はぁ!?」
一佳は顔を真っ赤にして、慌てふためく。
一佳ママはクスクスと右手を口に当てて笑う。
「な、なに言うんだよ!?」
「だって、気になるんだもの」
もちろん一佳ママは、一佳の恋心にとっくに気づいていた。
なので、あのニュースを見て、一佳ママも娘が大丈夫か不安になっていたのだ。
その結果がさっきの言葉だった。
「す、するわけないだろ。そんな場合じゃないし……」
「里琴ちゃんもいるしねぇ」
「……」
「まぁ、焦らなくてもいいとも思うけど。あんまりのんびりしすぎると、あっという間に周りを埋め尽くされちゃうわよ?」
「う……」
「あら……。もうライバルは多いのね。クラスの女の子達?」
「……うぅ」
一佳は顔を真っ赤にして、顔を背ける。
一佳ママは優しく笑みを浮かべて、一佳の頭を撫でる。
「今は大変な時だからね。彼も大変みたいだし」
「……そうだよ」
「けど、本当に大事なら、時には思い切るのも大事よ。今回は里琴ちゃんについてかしら?」
「……なんで分かるのさ……」
「貴女の母親だからね~」
「うぅ……」
「周りに敗けちゃ駄目よ!ファイト!」
両手を握り締めて、フンス!と応援してくる一佳ママ。
それに一佳は右手で顔を覆って項垂れるのであった。
唯の場合。
「では、小大も引き続き雄英に通うのだな?」
「ん」
「ご家族もそれでよろしいですか?」
「はい」
「ええ」
無表情親子が並んで座っている。
両親も唯に敗けず、言葉少なめだった。
「お前が一番理解しているだろうが、小大の『個性』は戦闘向きじゃない。訓練は大変だぞ?」
「ん」
唯は一切の迷いなく頷く。
そして、
「ヒロインは嫌」
「……そうか。そうだな。お前も拳藤と想いは一緒か」
「ん」
ただ後ろにいるのは嫌だ。
ならば、ブラド達に否はない。
茨の場合。
「私は期末で拳暴さんにヒーローとして目指すべき目標を教えてもらいました。そして、林間合宿やI・アイランドでも助けてもらいました。その恩も返さずに、逃げるなど許されません。鞭で打たねば」
「いや。そこまで思い詰める事はないと思うが」
「いえ、これだけは許されてはいけないのです」
「ということでして……」
「この子はこうなると、私達の言葉でも譲らないので……」
「分かりました……」
茨の両親はすでに諦めていたのだった。
宍田の場合。
ライオンかと思えるほどの鬣を持つ高級スーツを着た宍田の父が、腕を組んでブラドと向かい合う。
「吾輩は心配なのですよ」
「その思いはごもっともです。しかし――」
「寮の設備は我が屋敷に匹敵するのかと!」
「は?」
「メイドや執事は何人まで許されるのですかな?シェフは?サロンやサウナなどは?」
宍田が右手で顔を覆って、天を仰ぐ。
「流石に学生の領分を越えているかと。一般家庭の子もいるわけですし、自立を目的としていますので……」
根津が何とか返答するも、宍田パパは渋い顔をする。
「むぅ!それでは――」
「父上!!私はヒーローになりに行くのですぞ!別荘に行くわけではないのです!!」
「しかし、それでは宍田家として――」
「大事なのは私の気概です!!ここで宍田家の力に頼れば、それこそ宍田家の息子は親の力がなければヒーローになれないと言われてしまいますぞ!!」
「おぉ!!それは確かに!!」
「はぁ~……。というわけですので、先生。私も粉骨砕身、仲間達と共に頑張らせていただきます」
「わかった」
庄田の場合。
庄田の両親もまた、息子と同じくふくよかだった。
「うちの子は幸運にも被害はなかったので、今後気を付けて頂けるのであれば特に息子を引き留める気はありません」
「ありがとうございます!」
「それに息子も仲間が倒れて、何も出来なかったことを悔いていました。ここで辞めさせれば傷は癒えることはなく、二度とリングに上がることは出来ないでしょう」
庄田パパもボクシング好きだった。
「先生。よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ」
円場の場合。
「うちの子も鍛えてやってください」
「お願いします」
「……あれ?俺が言うことじゃないのか?」
両親の方がブラド達に息子のことを頼み、円場は首を傾げる。
「このまま辞めさせたところで、どうせ後悔するに決まってます」
「しっかりと守って頂けるなら、このまま雄英で頑張ってもらった方がまだ安心できます。頼もしい友達もいるようですからね」
ということで、円場は特に決意表明することなく終わった。
ポニーの場合。
「一人暮らしを続けサセールよりぃ、安心出来マァス!」
「是非お願いしマース!!」
「ダディ!マミィ!」
「ポニー、ファイトですヨ!!」
「イエス!!」
となった。
鉄哲の場合。
鉄哲パパがニカッ!と笑みを浮かべて、
「さっきも言ったが、俺はこいつがやる気でいる限り、あんたらを応援するぜ!」
「感謝いたします」
「よせよ、水くせぇ!元々ヒーロー目指すって言った時点で、ある程度覚悟なんざ決まってる!こいつの性格と『個性』なら尚更な!!」
「親父……!」
「こいつは馬鹿で単細胞だが、筋は意地でも通す奴だ!!そんなこいつに拳暴や切島っつぅ友人が出来て、俺ぁ感謝こそすれ文句を言う気はねぇ!!」
本当に似た者親子に、ブラドは感動すら覚え始めていた。
ガシィ!と鉄哲パパの右手を握り、
「お任せください!!必ずや息子さんを最高のヒーローに育て上げてみせます!!」
「おう!!期待してるぜ、先生!!」
「これからもお願いします、ブラド先生!!」
「ああ、任せろ!!」
(う~ん。暑苦しい3人なのさ)
似た者が揃い過ぎていた。
切奈の場合。
「もちろん、私も残りますよ」
「ご両親は……」
「大丈夫大丈夫!説得します」
「切奈、お前な……」
「せっかく推薦で雄英入ったのに、ここで辞めるなんてもったいないっしょ。それに、今のメンバーも気に入ってるしねぇ」
「……はぁ。お転婆娘が……」
「お転婆じゃなきゃヒーローなんて目指さないよ」
ケラケラと笑う切奈に、切奈パパは頭を抱える。
「拳暴もそうだけど、里琴や一佳も結構心配なんで。今の状況で一抜けするのは嫌なんですよ」
「……すまんな」
「いいんですよ!女友達だからこそ出来る事ってのがありますからね。私がやりたいんですから。それに一佳は委員長だし、鉄哲や物間の制御もしないといけないですからね~。拳暴や里琴に手一杯にさせるわけにもいかないですし。戦闘ではあまり手伝えない分、サポートで頑張りますよ」
あっけらかんと言うが、その言葉と滲み出る雰囲気は慈愛そのものだ。
「その意気込みは嬉しいが、無理をするんじゃないぞ?ミッドナイトにでも構わないから、相談できることは相談するようにな」
「もちろん」
吹出の場合。
「僕も頑張ります!グワァッと燃えてるんです!!ガガガッと頑張りたいと思います!!」
「……そうか」
「頑張れ漫我!お前の成長を俺はいつか漫画にする!!」
吹出パパは漫画家だった。
骨抜の場合。
「まぁ、ここで辞めれないですよね。他の連中だって辞める気ないでしょ?」
「ああ。だが、仲間に流れされずに――」
「俺って推薦入学で、副委員長なんですよね」
「……」
「今まではあんまり拘ってなかったですけど。でも、結局拳暴や鉄哲、拳藤に面倒なこと押し付けてただけなんだなぁって。いっつも大事なところで役に立ってないって。それでヒーロー目指してたとか、ちょっと情けないですよね」
別に今もオールマイトや戦慈のように、前に出て目立ちたいわけじゃない。
それでも、ヒーローとして負けたいわけじゃない。
「いきなり前には出れると思わないですけど。せめて拳藤の代わりくらい務められるようになって、鉄哲や男子達のサポートを出来るようにはなりたいです。拳藤は、拳暴や巻空達で精一杯だと思いますし。鉄哲の隣にいるのは、嫌じゃないんで。ここであいつらを見捨てられるほど、柔軟にはいられないです」
「……そうか。分かった。だが、無理はするなよ。困ったことがあったら、遠慮なく俺に言え」
「はい」
骨抜は静かに決意を固め、やる気に燃えていた。
凡戸の場合。
「確かに怖かったですけどぉ。それがヒーローの世界ですしぃ。これで辞めたら、何のためにみんなと一緒に頑張ってきたのか分からなくなるんでぇ。やっぱりもうちょっと頑張りたいですねぇ」
「のんびりした子ですが。言ったことを途中で投げ出す子でもありません」
「この子が頑張りたいというのならば、私達も覚悟を決めて応援しなければ。それがヒーローの親になる、ということなのでしょう」
「ありがとうございます!全身全霊でその覚悟を無駄にしないよう、指導させていただきます……!」
親の子に対する信頼。
それを感じてきたブラドは、自分は本当に生徒に恵まれていると実感した。
物間の場合。
「辞めませんよ。ええ、辞めてなんかやりませんよ。だって、理由がないですからね」
「理由がない?」
「そうじゃないですか。だって、僕は……戦ってもいないし、傷ついてすらいないのですから。ヴィランは偽物でしたけど、先生方が守ってくれましたし。B組で唯一、僕だけが安全圏にいた。そんな僕が何に怖がって、雄英を辞めなきゃいけないんですか?」
飄々と語る物間だが、ブラドにはそれが唯一何も出来なかった自分を責めているように見えた。
「僕は1人ではヒーローになれないですから。ここで雄英を辞めても、どこのヒーロー科に行こうとも同じですよ。だったら、気心知れた友達といたいじゃないですか」
「……そうだな。仲間が倒れた時、自分に何が出来るのか。一緒に考えよう、物間」
「嫌ですね、先生」
物間は肩を竦める。
「そんなこと……あの日からずっと考えているに決まってるじゃありませんか」
柳の場合。
「私は戦う力は弱いですけど、もっと『個性』が伸びていれば、あの時誰か1人でも運べたかもしれません。何かできる事があったかもしれません」
「レイ子……」
「拳暴君が倒れるのを何度も見ました。里琴や一佳が泣くのを初めて見ました。切奈が、唯が、皆がそれを励まそうとして、自分も辛いのに必死に我慢してる姿を見ました。ここで逃げたら、もう友達を作る資格なんてないです。せめて友達だけでも助けられる力が欲しいです」
「……分かった。一緒に頑張ろう」
「はい」
大事な友のために、柳も覚悟を決める。
鱗の場合。
「もちろん俺も残ります。ヴィランにやられたから辞めますなんて言うなら、最初からヒーロー目指してません。最初に雄英で襲われた時から、自分もやられるかもしれないって覚悟はしてました。俺は拳暴みたいに派手で強い『個性』じゃないですから」
「馬鹿を言うな。鱗の『個性』は十分強い。活かせる場所が違うだけだ」
「はい。だから、そこでちゃんと力を発揮できるように、もっと力をつけたいと思います」
「分かった!これからもよろしく頼む」
「はい!よろしくお願いします!」
これで全員が雄英に残ることになったのだった。
ブラドは全ての面談を終えて、生徒達の強さに涙するのであった。
だからこそ、今度こそしっかりと向き合い、出来ること全てをしてやろうと改めて誓うのであった。
そして、八月中旬。
入寮日を迎えたのだった。
家族の姿は皆様のご想像にお任せしますw