『拳』のヒーローアカデミア!   作:岡の夢部

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遅くなり申し訳ございません!


拳の七十二 必殺技を考えろ!

 午後。

 戦慈達は昼食を終えて、体育館γに集まっていた。

 

 ブラド、エクトプラズム、ミッドナイト、セメントスが並んでおり、体育館の中は山のようなものが作り上げられていた。

 

「お~……すっげぇ~……」

「ここは俺が考案した施設でね。俺の『個性』で生徒達に合わせた地形や物を用意できる」

「ソシテ、私ノ『個性』デ生徒達1人1人ニ専属デ指導スル」

「私はその手伝いよ」

 

 セメントス、エクトプラズム、ミッドナイトの順番に言う。

 それに頷いた一佳達に、ブラドが改めて説明を開始する。

 

「必殺技の必要性は午前に話した通りだ。ここでは林間合宿の続きである『個性』伸ばしつつ、更に必殺技を完成させる圧縮訓練となる!」

「技の構想がある人は積極的に試しなさい。私達がそれを評価して、改善点を指摘するわ」

「僅カ10日足ラズダガ……少シデモ完成度ヲ高メヨウ」

「午前の反省も含めて、考えていけ!それじゃあ、準備運動を終えた者から始めていけ!」

『はい!!』

 

 一佳達は力強く返事をして、各々準備運動を始める。

 

「里琴は午前中も新しい技使ってたよな」

「っていうか、入学前からもう作ってたよね」

「……頑張った」

「拳暴も体育祭でなんか使ってなかった?」

「あれは両腕へのダメージがデケェから、あんまり使う気はねぇな」

 

 体育祭で使った『ギガント・ブロー』は両腕に衝撃波が襲い掛かるので、ダメージが大きい。

 

「衝撃波が抑え込めるようになった今ならいけるんじゃないか?」

「あれは全力で撃つ技だからな。あんま意味ねぇよ」

 

 戦慈は肩を竦めて、歩き出す。

 一佳達もそれぞれの位置について、特訓を始めるのだった。

 

 

 

 里琴は林間合宿同様、『個性』伸ばしに力を注ぐことにした。

 すでに必殺技を一定数持っているので、『個性』の向上をメインとすることにしたのだ。

 【八岐竜巻】の威力、操作性を上げるのが一番の目的である。

 

 切奈、柳、唯、ポニー、茨も『個性』伸ばしに集中していた。

 

 切奈は分裂、再生速度の向上。

 柳は操る重量の向上。

 唯は小さくした物を状況に応じて、素早く選択する特訓をしている。

 ポニーは角に乗った状態での攻撃練習。

 茨もツル1本1本の操作性の向上を目指していた。

 

 一佳は必殺技の構想を試していた。

 

「はっ!!」

 

 手を巨大化させて壁を殴りつける。

 壁は抉れて、亀裂が入る。

 

「ふぅ~」

「ウム。マダタイミングガズレテイルナ」

「ですよね……」

 

 一佳は手をプラプラさせながら、小さくため息を吐く。

 一佳はインパクトの瞬間に手を巨大化させて攻撃する技を考えていたが、全力で腕を振ると中々タイミングが難しかった。

 

「タイミングガ完璧ニナレバ、攻撃ノ幅ガ広ガルダロウ。練習アルノミダ」

「はい!!はっ!!」

 

 一佳は頷いて、再び壁に向かって拳を振るう。

 

 

 鉄哲はやはり竈での修行だった。

 

「アヂイイイイィ!!」

「君ノ『個性』ハ切島君同様、シンプル故ニ『個性』ソノモノガ必殺技ト言エル。下手ナ技ヲ考エルヨリモ、『個性』ト体術ノ向上ヲ目指ス方ガイイ」

「オイッスウウウウゥ!!アッチイイイィ!!」

 

 前回よりも温度が上がっている。

 鉄哲は体に熱が籠るのを感じながら、周囲に設置された鉄製のサンドバッグに殴る蹴るを繰り返す。

 外ではエクトプラズムが倒れないように監視をしながら、声を掛けていた。

 

 物間と鱗も林間合宿と同じく互いに殴り合いを行っていた。

 しかし今回、物間は《ウロコ》《ツインインパクト》《旋回》をコピーした状態での殴り合いだった。

 

「このっ!」

「あははは!!そらそら行くよ!!」

 

 物間は高笑いを上げながら、腕を回転させて鱗に殴りかかる。

 鱗はウロコを展開してガードするが、ウロコが弾かれる。

 物間は回転させたり、普通に殴ったり、ウロコを展開させて、鱗を殴り続ける。

 

「あははは!解放(ファイア)ー!!」

「ぐぅ!!」

 

 キーワードを言って、鱗の両腕に衝撃が走って後ろに吹き飛ばされる。

 後ろに転がって、鱗はすぐさま立ち上がる。

 

「っつぅ~!」

「ウロコデノガードニ頼リ過ギテイルナ。受ケ流ス方ガ、ウロコヲ逆立テタ時ニ効果ガ上ガル」

「はい」

「物間君ハ今ノ調子ヲ継続スルヨウニ」

「分かってます」

「タダシ、アマリ調子ニ乗ルナ」

「あははは!」

 

 物間はコピーした『個性』を使い、同時発動や発動時間延長を目指し、更に様々な『個性』をコピーした場合の動き方を考えていく特訓をしていた。

 今回は直接攻撃系の『個性』だったが、唯や柳の『個性』をコピーした場合など、コピーした『個性』で戦略を考えなければいけない。

 

「恐ラク試験デハ相手ノ『個性』ヲ《コピー》スル事モアルダロウ。相手ノ『個性』ヲ分析スル余裕モ持タナケレバナラナイ。課題ハ多イゾ」

「分かってますよ」

 

 物間は肩を竦めて頷く。

 

 泡瀬は引き続き素早い『個性』の発動の特訓。

 宍田と回原、庄田は体術、体力向上の特訓。

 凡戸も『個性』の分泌量の向上を目指していた。

 

 そして、鎌切はエクトプラズムとの模擬戦をしていた。

 

「ちぃ!」

「動キガ腕ヤ足ノ延長線デ読ミヤスイナ。モット周リヲ見テ、『個性』ヲ活カセ」

「やってやんよぉ!!」

 

 鎌切は跳び上がって、壁に向かう。

 手のひらと足裏に刃を生やして体を固定し、トカゲや蛙のように壁を移動する。

 そして、飛び出して上からエクトプラズムに迫る。

 

「マダ甘イゾ!」

「まだだぁ!!」

 

 エクトプラズムは蹴りを放とうとした時、鎌切は背中から刃を伸ばして壁に突き刺してブレーキを掛ける。

 

「!!」

 

 更に両足裏から刃を生やして、地面に突き刺し、竹馬のように移動してエクトプラズムに迫る。

 

「ヒャッハァ!!」

 

 鎌切はエクトプラズムに斬りかかり、エクトプラズムは後ろに下がって躱す。

 

「フム。今ノハ良カッタナ」

「けど、これじゃあ壁とかがねぇと使い辛ぇ」

「ソコハ特訓アルノミダ。普通ノ地面デモ、先ホドノヨウニ足裏カラ刃ヲ出シテ跳ビ上ガレバ、相手ノ虚ヲ突ケルダロウ」

 

 鎌切はエクトプラズムの言葉に頷いて、特訓を続けるのであった。

 

 骨抜は壁を大量に作ってもらい、素早く《軟化》ですり抜け、体が抜けると同時に解除する特訓をしていた。

 少しでも早く仲間のところに移動するため、そして敵を撹乱するための特訓である。

 

 円場は《空気凝固》をもっと戦闘に活かせないかを考えていた。

 

「う~ん……ただの壁だとあんま意味ないっすよねぇ」

「ソウダナ。狭イ場所ナラバ有効ダロウガ、開ケタ場所デハ向コウガ突ッ込ンデ来ナイ限リ、アマリ障害ニハナラナイナ。特ニ仮免試験ハ多数トノ戦闘ガ予想サレル。ソウナレバ、四方ヲ囲マレレバ厳シイモノガアル」

「ですよね~……ん~」

「君ノ『個性』ハ固メルタイミングハ決メラレルノカ?」

「え?はい。ある程度の距離なら……」

「フム……。デハ、私ヲ覆ウ様ニ固メルコトハ出来ルカ?」

「へ?……ああ、なるほど!」

 

 円場はエクトプラズムの意図を理解して、早速試すことにした。

 エクトプラズムに向かって、勢いよく息を吹きかける。

 エクトプラズムを覆う様に空気が固まっていくが、背中までは固まらなかった。

 

「駄目か~……」

「イヤ、イイ線ハ行ッテイタト思ウゾ?アプローチヲ変エテミヨウ」

「アプローチ?」

「ソウダ。君ノ『個性』ハ放出スルタイプト言エル。ツマリ、手ヤ指デ噴出口ヲ作レバ勢イガ上ガリ、囲エルヤモシレン」

「なるほど……」

 

 円場は頷いて、何度も試行錯誤を行い、手を四角にして息を強く吹き出すことで相手を閉じ込めることに成功するのだった。

 

 吹出は引き続き発声練習と作りだせる《擬音》の確認する特訓。

 

 そして、戦慈はフルパワー状態まで体を膨らませた後、静か突っ立ったまま考え込んでいた。

 

「……拳暴はどうしたんだ?」

 

 離れた所で見守っていたエクトプラズムに、ブラドとミッドナイトが声を掛ける。

 

「彼ノ場合、アノ状態ガスデニ必殺技ト言エル。ソレニ午前中デハ、衝撃波ハカナリ抑エラレルヨウニナッタノダロウ?」

「ああ」

「ダカラ技ヲ考エタリ、『個性』ヲ伸バスヨリモ、広島ヤ林間合宿デ見セタトイウ姿ヲ引キ出セナイカ試シタイソウダ」

「なるほどね。確かにあの力がきっかけで衝撃波が抑えられるようになったみたいだしね」

「広島や期末で見せたパワーが数分でも引き出せれば、更に衝撃波を抑えられる可能性はあるか……。問題は暴走する可能性もあるということだが……」

「けど、期末試験では少しだけでも引き出せてたわよね。まぁ、オールマイト相手で極限状態だったからかもだけど」

 

 ブラドは悩まし気に腕を組んで戦慈を見つめ、ミッドナイトも首を傾げながら戦慈を見る。

 

 戦慈は目を閉じて、自分の中に漲っているパワーを感じ取り、まだ引き出せるものがないかを必死に探る。

 

(……やっぱはっきりとは感じ取れねぇか)

 

 しかし、あまり上手く行っていなかった。

 

(そもそも俺の《戦狂》はアドレナリンの量に影響されてる。広島でも林間合宿でも、怒りがきっかけだったのは間違いねぇ)

 

 しかし、毎回怒るわけにもいかない。

 それに怒りでアドレナリンを出せば、暴走するわけにもいかない。

 なので、今の状態でどうにかあの力を引き出せるようにならないといけない。

 

(……とりあえず、やれるだけやってみるか)

 

 戦慈はI・アイランドの時のように、林間合宿での里琴や一佳達の様子を思い出す。

 

(怒りを向ける相手は俺自身……!!)

 

 自分の未熟さに対して怒りを向けろ。

 

 ギリ!と歯軋りをして、両手を握り締める。

 力が溢れるのを感じ、その奔流に意識が呑み込まれないように必死に耐える。

 

『!!』

 

 ブラド達も戦慈の様子が変わったことに気づく。

 戦慈の体が一回り膨れ上がり、目に見える素肌が赤くなっていく。髪も硬く逆立ち、赤黒くなる。

 

「っ!!ヅゥ……!!ガァ……!!」

 

 ズン!と戦慈の体から軽い衝撃波が飛ぶ。

 戦慈は脚を広げて、僅かに腰を屈め、更に両脇を締めて必死に抑えこもうとする様子が見られていた。

 

 セメントスも駆けつけ、ミッドナイトももしもの時のために腕のタイツを掴む。

 里琴や一佳達も衝撃波を感じ、戦慈の様子を見に来た。

 

「拳暴……!」

「おいおい……あれって暴走するんじゃなかったのか?」

「大丈夫か?かなり苦しそうだぞ?」

 

 回原や鱗が心配そうに戦慈を見つめる。

 ブラドは集まって来ている生徒達を見て、

 

「お前達、もし拳暴が暴走した時はすぐさま避難出来るように備えておけ!」

「けど……!!」

「駄目だ!!ここでお前達が手を出して、それで怪我をしたら拳暴が傷つくだけだ!!」

「う……!!」

 

 一佳や唯達は顔を顰める。

 里琴は無表情で戦慈を見つめている。

 

 戦慈は歯を食いしばって耐え続ける。

 

「ヅゥア……!ヅゥウルアアアアァ!!」

 

 しかし、意識が呑み込まれそうになった瞬間に、右腕を振り被って全力で振り抜く。

 巨大な衝撃波が放たれ、体育館γの窓ガラスや壁が吹き飛んだ。

 

「おおお!?」

「相変わらずハンパねぇな~」

「って、大丈夫なのか?」

 

 円場が慌てて、泡瀬が呆れ、骨抜が戦慈に目を向ける。

 

 戦慈は体が元に戻り、片膝をついて息を荒げていた。

 

「はぁ!……はぁ!……はぁ!……くそっ……!」

 

 右腕に目を向けると、手甲が砕けていた。

 続いて体の調子を確認すると、気だるさはあるものの痛みなどはなかった。

 

「時間が短かったからか……?」

「拳暴、大丈夫か!?」

 

 ブラドが駆けつけ、セメントスは被害状況を確認しに行った。

 戦慈はゆっくりと立ち上がって、

 

「俺は問題ねぇ。悪い。壊した」

「それは構わん。セメントスの『個性』ですぐに穴は塞げる。修復も明日までには終わる」

「体は問題ないの?」

 

 呆れた表情を浮かべたミッドナイトが戦慈に訊ねる。

 戦慈は頷いて、

 

「暴れてねぇしな。まぁ、コスチュームが壊れたくらいだ」

「なら、いいけど……。あの状態を会得するのは時間がかかりそうねぇ。それと被害もハンパなさそうね……」

「言われなくても、しばらくこれについては止めておく。とてもじゃねぇが、まだ抑えられる気がしねぇ」

「ふむ……期末試験や林間合宿からすれば、行けそうだと思ったのだがな」

「他にもやり方があるのかもしれねぇがな。それでも被害は出る可能性はデケェ。俺の『個性』はオールマイトや緑谷みてぇにコントロール出来るもんじゃねぇしな」

「アドレナリンだものねぇ。鉄哲君や鱗君みたいに、栄養素とかで決まるわけじゃないし」

 

 ホルモンをコントロールするのは無茶な話である。

 なので、別の方法を見つけない限り、あの状態の特訓は控えるべきだと戦慈は判断する。

 

「とりあえず……先にあの姿に名前つけない?そろそろ呼び辛いわ。間違いなくあの姿は必殺技になるしね」

「……名づけは苦手だ」

「まぁ、ゆっくり考えろ。時間はある」

 

 戦慈はミッドナイトの言葉に顔を顰めて、ブラドが苦笑しながら言う。

 そして、ブラドは一佳達に訓練に戻る様に告げる。

 

「拳暴、お前は一度衝撃波がどれだけコントロール出来るようになったのか確認しろ。ただし、全力で放つときはセメントスに声を掛けて、一度空けた穴の方に放つように」

「……分かった」

 

 戦慈は頷いて、【ドラミング・ドープ】で再びフルパワーまで体を膨れさせる。

 

「セメントス。悪ぃが、壁を大量に入り乱れるように作ってくれねぇか?」

「構わないよ」

 

 セメントスは戦慈の希望通りに大量の壁を造り出す。

 迷路のように見える並んだ壁から、少し離れた場所に戦慈は立つ。

 エクトプラズムとセメントスはすぐにフォローできるように、近くで控える。

 

「ふぅー……」

 

 戦慈は両腕を構えて、壁を睨みつける。

 そして、両肩を勢いよく回転させて、壁に向かってラッシュを放つ。

 

「オォララララララララララァ!!!」

 

 拳から衝撃波が放たれ、ショットガンのように壁を砕いて行き、背後にあった数枚の壁も砕けるが広範囲に衝撃波が飛ぶことはなかった。

 

 両肩から白い煙を上げた戦慈は、息を整えながら結果を見る。

 

「……肩の回転に力を入れれば、連打はそこまで被害は出なさそうだな」

 

 同じく結果を見ていたエクトプラズムとセメントスも頷いていた。

 

「フム。確カニ衝撃波ニ指向性ガ出テキテイル」

「そうですね。彼の場合、普段の状態から衝撃波が放出されるのが問題でしたから、これはかなり進歩したと言えるでしょう」

 

 全力で放ったものが広範囲に被害が出るのは、当然のことだ。

 オールマイトやエンデヴァーとて、完全にコントロールできているわけではない。

 

 戦慈の課題はあくまで、普通に移動するだけでも衝撃波を振り撒くことだ。

 

 なので、ある意味最大の課題は達成したと言えるだろう。

 

「次は……」

 

 戦慈は僅かに腰を屈めて、直後勢いよく飛び出す。

 ドパン!!と音を響かせ、地面が少し抉れる。しかし、依然と違い、クレーターが生まれて強い衝撃波が周囲に吹き荒れることはなかった。

 

 戦慈は猛烈な勢いで前方に飛び出るが、両足を踏み込んで右に方向転換する。

 そして、壁の間をすり抜けるように移動し、壁を蹴って方向転換する。それを何度も繰り返し、まさに迷路のように壁と壁の間を移動し続ける。

 

 流石に蹴り飛ばした壁は砕けるが、横を通り過ぎただけ壁は触れなければ砕ける事はなく、最悪でヒビが入る程度だった。

 30cm以上離れていれば、砕ける事はなさそうだとエクトプラズムとセメントスは推測した。

 

「あの速度であれならば、問題はないでしょう」

「ソウダナ。アレナラバ、オールマイトト大シテ変ワラナイダロウ」

 

 戦慈は真上に跳び上がって、真下に向かって右ストレートを振るう。

 午前の訓練のように衝撃波は大砲のように飛び、壁を数枚抉り壊す。

 そこから更に左脚を振り抜く。

 衝撃波は刃のように飛び、地面を縦に抉る。

 

 それを見ていた宍田や回原、庄田は頬を引きつらせる。

 

「マジでハンパねぇな……」

「あれでも直撃すれば大ダメージですぞ……」

「しかも直接殴られて、衝撃波の追撃……。大ダメージの2連撃かよ。オールマイトが規格外だった理由がよく分かったぜ……」

「僕の《ツインインパクト》の存在意義が……」

「やめろよ、庄田!お前だけじゃねぇんだからよ」

「ですなぁ。私のスピードとパワーも拳暴氏の前では……」

 

 庄田と宍田がため息を吐いて、肩を落とす。

 普通に殴られるだけでも半端ないのに、そこから衝撃波で吹き飛ばされるなど、卑怯にもほどがある。

 庄田の《ツインインパクト》はタイムラグや物にも加えられる利点があるが、一番ダメージを当たえられる使い方は戦慈と同じである。

 宍田も人並み外れた身体能力を駆使しての強襲が最もいい戦闘スタイルだ。嗅覚や聴覚は宍田の方が上なので、使いどころが違うが、それでもパワーやスピードも自慢だったので、落ち込むのも仕方がないだろう。

 

「本当に一撃一撃が必殺技だよね」

「普通のパンチでも何枚壁いるんだろうなぁ」

「そこらへん確認しといたほうがよくね?俺も確かめたいことあるし」

 

 吹出が感心するように言い、円場と骨抜は戦慈のようなパワータイプの『個性』との戦闘を想定するために、戦慈に声を掛けに行く。

 

「拳暴」

「あん?」

「俺の《空気凝固》で壁を重ねて作るからさ。壊してみてくれねぇか?何枚いるのか知っときたい」

「構わねぇよ」

 

 戦慈は頷いて、円場は素早く4枚ほど壁を重ねるように生み出す。

 円場が頷いたことを確認して、戦慈は空気の壁を思いっきり殴りつける。

 

バッキャアアァン!!

 

 4枚の壁は簡単に砕けてしまった。

 円場は肩を落として、

 

「……倍重ねても駄目そうだな」

「最後の1枚は衝撃波だと思うぜ。まぁ、衝撃波がなくても怪しかったけどな」

「だよなぁ~」

 

 骨抜は円場の肩を軽く叩いて、慰めながらもトドメを刺す。

 円場はため息を吐いて、戦慈に声を掛ける。

 

「どんな感じに壁置いたら、嫌がらせになるんだ?」

「……やっぱ振り抜く前に止められたら、流石にすぐには砕けねぇだろうな」

「なるほど。けど、振り抜かれる前に何枚も壁を造れっかな~」

「次は俺もいいか?お前ほどパワーの奴をどれくらい沈めればいいのか、知っときたい」

「……まぁ、いいけどよ」

「じゃあ、まず両脚からな。膝下まで沈めるぜ」

 

 骨抜が言い終わると、戦慈の地面が柔らかくなり、膝下まで沈む。

 地面が完全に固まるのを確認した戦慈は、右脚に力を入れると簡単に砕いて引っこ抜くことが出来た。

 

「全然駄目だな。腰まで埋めてもいけそうか?」

「まぁ、腕が動くなら行けると思うぜ。二の腕辺りまで沈んだら、少し手こずるだろうな」

「……少しか?」

「姿勢次第だがな。力が入れやすいなら、行ける可能性がある」

「……そうか。姿勢か……」

「上に力を出しやすいなら、地面を吹き飛ばせるだろうぜ。顔も完全に埋めるなら別だがな」

「流石にそれは無理だな。サンキュ。参考になった」

「ああ」

 

 骨抜と円場は礼を言って、自分の特訓に戻る。

 戦慈も2人を見送って、自分の特訓に戻る。

 

「ちょっと試してみるか……」

 

 戦慈は体を捻り、勢いよく回転しながら壁に飛び掛かる。

 そして、右フック気味に拳を繰り出して、壁に叩き込む。

 

 衝撃波が螺旋状に放たれ、壁がドリルに抉られたように砕けた瞬間竜巻のように風が吹き荒れる。

 

「……まぁ、牽制にはなるか」

「……凄まじいですね」

「貫通力マデ付加出来ルノカ……」

 

 セメントスとエクトプラズムは唸る様に言う。

 今の技を見ていた一佳や切奈達も呆れるしかなかった。

 

「半端ないねぇ」

「どこまで凄くなるんだ……」

「ん」

 

 そして、その日の訓練は終了し、戦慈達は着替えて寮に戻る。

 

 一佳達女性陣はソファに座ってくつろぎ、もちろん戦慈も無理矢理参加させられる。

 テーブルの方には骨抜達もおり、今日の反省点やらを話し合っていた。

 

「それでは!!拳暴の必殺技名を考えてあげようのコーナー!!」

「わー」

「……わー」

「イエーイ!」

 

 切奈が声高らかに叫び、柳と里琴がノリで拍手し、ポニーはノリノリで両手を上げる。

 唯と茨も拍手し、一佳と戦慈は呆れていた。

 テーブルにいた骨抜、回原、物間、鎌切、円場も顔を向ける。

 

「なんでそんなノリなんだよ……」

「普通に決めてもつまらないから」

「……はぁ」

「拳暴が自分で決められないって言ったんじゃん。誰かに適当に決められるよりいいっしょ?」

「……まぁな」

「じゃあ、1つずつ行ってみよっか~」

 

 切奈に言いくるめられて、戦慈はため息を吐いて諦めた。

 切奈は意気揚々と進行していく。

 

「最初はどれから行く?っていうか、まず必殺技っぽいの何?」

「そこからかよ」

「うっさい回原!」

「まぁ、あの恐ろしいラッシュに、恐ろしいタックルみたいな移動、あのパンチと蹴りの衝撃波、回転しながらのパンチ……。で、あの姿か?」

「パンチと蹴りの衝撃波はいいんじゃねぇかぁ?」

「だな。3つもあれば十分だろ」

 

 骨抜が候補を上げ、鎌切と円場が意見を出す。

 

「じゃあ、あの衝撃波付きの乱打!!思いついた人から!!」

「ん~……【殲滅連撃】」

「【キリング・ラッシュ】はどうだぁ?」

「【地獄連突き】」

「【クラッシュ・ラッシュ】、かな?」

 

 回原、鎌切、円場、物間が思いつくままに名前を出す。

 

「……【空破連拳】」

「【ラッシュガン】は?」

「【バーストフィスト】デース!!」

 

 引き続いて里琴と柳、ポニーが名前を言う。

 すると一佳と唯がポニーの挙げた名前に反応する。

 

「ポニーの奴いいな。言いやすそうだし、拳暴っぽい」

「ん」

「他の皆は~?と、拳暴は~?」

「……ここまで来たらお前らの決めた名前でいい」

「回原達のは流石になぁ。俺も角取か柳のがいいな」

 

 戦慈はもう『なる様になれ』精神になっていた。

 骨抜は流石に男子の殺伐とした技名に呆れ、ポニーと柳の案に一票を入れる。

 

「じゃあ、ポニーの【バーストフィスト】で決定!!」

「イエーーイ!!」

 

 ポニーは両手を上げて喜ぶ。

 

「じゃ、次はあのタックルみたいなダッシュ!」

「……【バスターチャージ】」

「あ、それいいね」

「砲撃のような突進って感じか」

「しっくりくんなぁ」

「……駄目だ。もうそれよりいいの思い浮かばねぇや」

 

 里琴の挙げた名前に全員がすぐにしっくり来てしまい、【バスターチャージ】で決定した。

 

「じゃあ、あの回転パンチ!」

「……【昇竜け――」

「そらだめだ」

 

 回原が思いついた名前を言おうとして、骨抜が止める。

 一佳が戦慈に顔を向けて、

 

「っていうか、あれって別に蹴りでも出来るんだよな?」

「多分な」

「じゃあ、パンチに拘らない方がいいってことだね」

「ん」

 

 切奈の言葉に唯が頷く。

 一佳は腕を組んで唸る。

 

「ん~……難しいな」

「単純でもよろしいのでは?」

「というと?」

「ん?」

 

 茨の言葉に柳と唯が首を傾げる。

 

「純粋に【トルネイヴ】などはいかがでしょうか?」

「おお!アリだな!ってか、俺が欲しい!!」

「言いやすいし、パンチでも蹴りでも使えるな」

「だな」

 

 回原が自分の《旋回》にも合いそうということで悔しがり、円場と骨抜は納得するように頷く。

 里琴は親指を立てて、両足をパタパタしていた。自分の《竜巻》と同じ名前が嬉しかったようだ。

 ということで、【トルネイヴ】で決定した。

 

「じゃあ、最後!!」

「あははは!!僕の出番だね!!」

「「「は?」」」

 

 物間が高笑いしながら立ち上がり、一佳達女性陣が訝しむような目を向ける。

 物間はそれに全く怯むことなく続ける。

 

「ふっ!忘れたのかい?拳暴のヒーロー名は僕が考えたということを!!」

「……ああ、そういえば……」

「あの姿は『スサノオ』に合わせるべきだと思うんだよね」

「まぁ、攻撃技じゃあねぇしなぁ」

 

 骨抜がそう言えばと思い出し、鎌切も物間の言葉に頷く。

 

「僕の提案は【(たける)スサノオ】さ!!」

 

 物間はビシィ!と戦慈を指差しながら告げる。

 意外とまともな名前に一佳達は眉間に皺を寄せて考え込む。

 

「バーサーカーとかよりもいいだろ?コントロール出来るようになれば、失礼な話だしね」

「名前とも合ってるっちゃあ合ってるなぁ」

「思ったよりカッケェな」

「ってゆうか似合ってるんだよね」

「ん」

 

 鎌切と円場は思ったよりしっくり来て、切奈と唯も意外と似合っていることに頷く。

 一佳は里琴を見て、里琴が特に文句も言わずに頷いたのを見て苦笑する。

 

「里琴もオッケーみたいだよ」

「じゃあ、決定だね!覚えた?拳暴」

「流石に考えてもらって、適当に流す気はねぇよ」

 

 戦慈は肩を竦めながら言う。

 

 こうして、戦慈の必殺技の名前が決まったのだった。

 


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