水曜日。
本日はマスコミはいなかった。
「流石にあれだけやらかしたらなぁ」
「静かでいいだろ」
「……気楽」
校門をくぐって、教室に向かう戦慈達。
「……あ」
「どうした?」
「……これ」
「え?」
何かを思い出した里琴。それに一佳が首を傾げると、里琴が鞄からタンブラーを取り出して、一佳に渡す。それにポカンとする一佳。
「……コーヒー」
「なんで?昨日の夜も貰ったぞ?」
「……お裾分け」
「いいのか?拳暴」
「良いも何もタンブラー用意したのは里琴だ。だから誰に渡そうが俺には関係ねぇよ」
戦慈は言いながら肩を竦める。
それに一佳は少し悩むが、里琴はずっとタンブラーを掲げている。
「里琴がそこまでするなんて、俺は初めて見るぜ?受け取ってやったらどうだ?」
「……分かったよ。ありがとな。里琴」
「……ん」
一佳は苦笑しながらタンブラーを受け取る。それに里琴は無表情で頷く。
タンブラー代を払う代わりに昼食を奢ることになった。
そしていつも通り午前中は普通の授業を受けて、昼休みになる。
ついにB組女子全員が揃った。
「……」
「……逃がさん」
戦慈は顔を顰めてひっそりと先に行こうとしたが、里琴にズボンを掴まれる。
それに戦慈は肩を落として諦める。
その様子を切奈は苦笑しながら見ていた。
「毎回、あれなんだ?」
「まぁ、確かにあいつには悪いけどな」
「いいじゃんいいじゃん。女子独り占めじゃん。内心では嬉しいんじゃないの?」
「んなわけあるか」
「下心は人を堕落をさせます。いけませんよ」
「でも拳暴サンはガールズはべらせぇるタイプチガウと思いマス」
「ん」
切奈がケラケラ笑いながら、戦慈の背中をペシペシ叩く。それに戦慈が機嫌悪げに答え、茨が手を組んで戦慈に向かって説教し、ポニーがそれを否定して、それに唯と柳が頷く。
そして昼食を摂る。
「今日のヒーロー基礎学は何だと思う?」
「昨日みたいなのは嫌」
「ん」
「熱かったデース」
「流石にちょっと堅実な授業が良いよね。戦闘訓練の反省も覚えてる間に直したいし」
「……平和が一番」
「無理なこと望むんじゃねぇよ」
「この願いは神には届かないのですね」
午後の授業のことで盛り上がる戦慈達。
昨日の避難訓練は記憶に新しすぎるので、若干トラウマだった。特にオールマイトがやらかしたのも更に拍車をかけていた。
食事を終え、教室に戻ろうと廊下を歩いていると、
「あ、A組だ」
「コスチューム持ってるな。午後の授業にしては早くない?」
A組の男子達がコスチュームが入ったトランクを持って、更衣室に向かっていた。
向こうも戦慈達のことに気づく。
「あ。B組の……」
「入試トップ2じゃん」
「女に囲まれてやがるだとぉ!?」
「うるせぇよ、峰田」
「けっ……!」
戦慈と里琴は特に反応することなく、横を通り過ぎようとする。
「女侍らせて優雅なイケメン生活かよ?仮面野郎」
「おい、爆豪……!?」
「昨日も随分と格好つけてたじゃねぇか?あぁ?」
先日、ケンカを売ってきたベージュ髪の男、爆豪が戦慈を睨みながら声を掛ける。
それに隣にいた赤い尖った髪の男子生徒が慌てて制止する。
もちろん戦慈と里琴は一切反応しない。
「っ!無視すんなやぁ!」
爆豪がキレて叫びながら、横を通ろうとした戦慈に腕を伸ばす。
服が掴まれる直前に、爆豪の腕を戦慈が素早く掴む。そして爆豪は腕を捻られて、背中を向かされ関節を決められる。
『!?』
「づぅ!?」
余りの早業に目を見開くA組の面々。
爆豪は顔を顰めて、外そうと動こうとするが、その前に戦慈は腕を放す。
「っ!てんめぇ!!」
爆豪は完全にキレて、振り返って再び殴りかかろうとする。
しかし振り返った瞬間、爆豪の目の前で拳が寸止めされる。
「な……!?」
「……そこまでにしとけ。入学早々問題児扱いされてぇのか?」
「あぁ!?」
「やめなよ!かっちゃん!」
「そうだぜ!爆豪!」
拳暴の言葉にハッとして、2人の男子生徒が爆豪の両腕を掴んで抑え込む。
戦慈は拳を下ろして、ため息を吐く。
「ダルいことさせやがって……」
「……うざ」
「てめぇも抑えろ、里琴。この程度、いつものことだろうが」
「……ん」
戦慈は里琴の頭に手を置いて、声を掛ける。
それに里琴は小さく頷いて、左手に小さく生み出していた竜巻を消す。
「俺らはもう行くぜ」
「わ、悪かったな!女子達も!」
「私らは大丈夫だよ」
爆豪を抑えている赤髪の男子生徒が戦慈や一佳達に頭を下げる。
一佳は苦笑して、パタパタと手を振る。
そして歩き始めた戦慈達に続く。
「……はぁ~……勘弁してくれよ。拳暴」
「俺のせいじゃねぇだろが」
「凄いケンカ腰の奴だったな」
「物間といい勝負」
「ん」
「荒れた心の持ち主のようですね」
「さ、流石に物間サンもあそこマァデじゃないと思いマス」
「なんで拳暴何だろうな?1位は里琴でしょ?」
「知るかよ」
「……うざ」
「ほら、里琴。戻ってカフェオレ飲も」
「……ん」
「ん」
「「だからややこしい」」
すぐにいつも通りの雰囲気に戻る一佳達。
その後ろ姿を見送るA組男子達。
「ふぅ~……焦らせんなよ。爆豪」
「……うっせぇんだよ!放せや!」
掴まれてた腕を振り払う爆豪。そして戦慈に掴まれてた腕を見つめて、盛大に顔を顰める。
「……それにしても、爆豪を簡単に抑え込むなんてな」
「ああ。それに最後の拳。ほとんど見えなかった……」
「入試2位は伊達ではない…か」
「1位の奴も『個性』待機させてたの気づかなかったぜ」
「ガチになってたら、俺らじゃ止められなかったかもな」
戦慈と里琴の動きに冷や汗を流す一同。
それに眼鏡を掛けた男子生徒が悶えるように腕をカクカクブンブン!と振り回しながら、全員に向けて叫ぶ。
「ああ!全く!!言いたいことがたくさんあるが!!今は急いで着替えるぞ!皆!相澤先生を待たせてはいけない!」
「やっべぇ!」
「爆豪のせいだかんな!」
「うっせぇ!殺すぞ!」
「その前に相澤先生に殺されちまうだろ!」
「こら!廊下は走るな!」
「無茶言うなよ!?飯田!」
その言葉に慌てて走り出すA組であった。
そして昼休みが終わる。
戦慈達はコスチュームに着替えて、住宅街エリアに集まっていた。
ブラドとエクトプラズムが並んでいる。
「今回は住宅街に逃げ込んだヴィランの追跡・捕縛・逃走を学ぶ【捕縛訓練】だ!」
「戦闘訓練ノヨウニ逃走班ト捕縛班ニ分カレテ競争シテモラウ」
「では、今回もクジだ」
ブラドが箱を出して、生徒達が動き出した時、少し離れた大きめの一戸建ての屋根の上に黒い靄のようなものが出現する。
それに気づいたのは宍田だった。
「おや?あれは何ですかな?」
「え?」
その言葉に全員が宍田の視線の先を見る。
それと同時に靄の中から、たくさんの人が現れる。
「な!?」
「アレハ!?」
「え?チーム分けなんですよね?」
「全員動くな!あれは……ヴィランだ!!」
『!?』
ブラドの言葉に泡瀬達は目を見開いて固まる。
その間も靄からはどんどんヴィランが出現していた。
「……ここが雄英か?」
「住宅街のようですわね?」
「ここは雄英の訓練施設の1つですよ。では、私は本番の方へ行くので。ここはお任せしますよ」
黒い靄が消える。
大量に現れたヴィランの中で異質な気配を放つのは、最後に現れた3人。
短く逆立った茶髪に髑髏が描かれた仮面を被り、灰色のラバースーツの上から黒のコートを着ており、下は紅い袴を履いている190cmほどの男。
ロングストレートの金髪にサングラスを掛けた赤いゴシックドレスを着た160cmほどの女性。
そして脳が露出している上半身裸の巨漢の黒い肌の男。
最初に出て来ていたヴィラン達は下に降りて、ゆっくりとB組に近づいてくる。
「くそ……!数が多い!」
「生徒ガ逃ゲル時間クライナラバ稼ゲヨウ……!」
「逃げるって……!?」
「これは訓練じゃない!お前達を危険に晒せるか!」
「そこの赤仮面!!」
『!?』
ブラドとエクトプラズムが生徒達を逃がす算段を相談していることに、鉄哲が目を見開く。
それにブラドが怒鳴り、逃がそうとすると、髑髏仮面の男が突如戦慈を指名した。
「……なんだよ?」
「相手をしてもらうぞ。そこにいる奴らはお前目当てでな。捕まった連中の復讐がしたいそうだ」
「……まだいやがったのかよ」
「逃がしたければ逃がしてもいいぞ?教師共。ただし、間違いなくそいつらはその赤仮面を追いかけるがな」
「くそ!」
「で?てめぇらの目的は?」
髑髏仮面の言葉に顔を顰める戦慈とブラド達。
戦慈は髑髏仮面達に声を掛ける。
「俺はこいつのテストと時間稼ぎだ」
「わたくしは見学ですわ」
髑髏仮面は脳男の腕をポンポンと叩き、サングラス女は首を傾げながら宣う。
「時間稼ぎだと……?」
「ああ。USJだったか?そこにオールマイトがいるんだろ?」
「!? 向こうにもヴィランが……!?」
「そういうことだ。ここで暴れれば救援の手が割かれるし、時間がかかるだろう。
髑髏仮面の言葉に目を見開いて固まるブラド達。
あまりにもサラリと出てきたとは思えない内容だった。しかし、だからこそ本気なのだとも理解する。
これだけの事を仕掛けておいて、冗談だとは考えられない。
「ということだ。出来れば……頑張って足搔いて死んでくれ」
「かかれぇ!!」
「ひゃっはーー!!」
「死ねやァ!!!」
ヴィラン達が叫び声を上げて、走り出す。
それにブラドが構え、エクトプラズムが分身を吐き出す。
「逃げろお前達!今の話を他の教師に伝えてくれ!拳藤!骨抜!急げ!」
「は、はい!」
「あ!?け、拳暴!?」
「「!?」」
戦慈は逃げ出すどころかブラド達よりも前に出て、ヴィランに右拳で殴りかかる。
「ふ!」
「べげ!?」
「兄貴の仇イイイイ!!」
「無理だ」
殴り倒したヴィランの後ろからナイフを振り上げて飛び掛かってくるヴィラン。
戦慈はそれに腰を捻って、左フックを脇腹に叩き込み、振り抜いた勢いで回転して右裏拳を他のヴィランに叩き込み、その向かい側のヴィランの顔に右ストレートを叩き込む。
「ごぇ!?」
「ぎゃふ!?」
「ぼ!?」
「しゃおらららららららら!!」
『ぎゃああああ!?』
動きを止めずに高速で両拳の乱打をヴィラン集団に叩き込む戦慈。
有象無象のヴィラン達は全く抵抗出来ずに一瞬で10人近くが倒される。
「ふううぅぅ……!」
「つ、強えぇ!?」
「雑魚がいくら集まろうが雑魚だ。俺が殴り倒した奴らより強くねぇなら、今すぐ諦めろ」
「拳暴!下がれ!」
息を整える戦慈にヴィラン達は慄いて後ずさる。
そこにブラドがヴィランを相手にしながら戦慈に声を掛けるが、戦慈は首を横に振る。
「俺が狙いなんだ。少なくとも、この雑魚共は倒さねぇと他の連中に迷惑がかかんだろうが」
「くっ……!」
「それに……暴れた方が俺には好都合だ……!」
指名され、逃げれば追いかけると言われた以上、逃げることは出来ない戦慈。それに暴れた方がむしろ安全になる可能性もあるので、このままのほうがいいと判断する。
それにブラド達は顔を顰める。
「しかしだな!」
「それに暴れる気なのは俺だけじゃなさそうだぜ?」
「は?」
「敗けるかあああ!!」
「斬り刻むぅ!!」
「仲間が戦っているのでは逃げられませんなああ!!」
「「!?」」
鉄哲、鎌切、宍田がヴィランに飛び掛かる。ブラド達はそれに目を見開くが、その周囲ではさらに動く者達がいた。
「悪しき者達へ裁きを……!」
「気合入れてるねぇ!皆!あ、ポニー!2時と3時の方向!2人!」
「了解デース!」
「ああ、もう!!」
「ん!」
「がんばろ」
「……やー」
茨がツルでヴィランを縛り、その隙を一佳と里琴が倒し、切奈は体を切り離して空から指示を出す。
その反対側では庄田、回原、鱗が前に出て、吹出、凡戸、骨抜達が鉄哲達も含めてカバーする。
「お前達……!」
「全員でやりゃあ早く終わるぜ!」
「ですなぁ!!」
「ここで勝てば、先生達もオールマイトの方に行ける!そうですよね!」
鉄哲と宍田がヴィランを殴りながら叫び、後ろでサポートをしていた泡瀬も叫ぶ。
それにブラドは唸る様に顔を顰めて、諦めて顔を振って叫ぶ。
「……えぇい!!無茶はするなよ!!身を守ることが最優先だ!!」
『はい!!』
「……私ノ分身ガ連絡ニ行ッタ。私ハ生徒達ノフォローニ集中スル」
「すまない!」
「タダシ、携帯ガ使エヌ。センサーモ反応シナイ事カラ、時間ガカカルダロウ」
「ちぃ!拳暴は……」
エクトプラズムの言葉に舌打ちしながらヴィランを倒すブラド。戦慈の様子を確認すると、体が膨れ上がり腕の一振りでヴィラン2人を吹き飛ばす姿があった。
「しゃ、射撃組!!う、撃て!早く次を撃てぇ!」
もはやパニックになっているヴィランの男が、後ろにいる集団に怒鳴る。
そして返事とばかりに炎や氷、鉄球、針、礫など様々なものが放たれて、戦慈に向かって飛び迫る。
戦慈は避けようとしたが、近くにいた男が腕を伸ばして戦慈の脚を掴んだ。戦慈はそれを振り払うが、すでに目の前に攻撃が迫っており、避けることは出来ず直撃を浴び、爆煙が充満する。
「拳暴!?」
「いかん!」
「……モーマンタイ」
「だろうな」
ブラドや鉄哲達が慌てるが、里琴と一佳は目を向けても心配はしていなかった。
髑髏仮面やサングラスの女ヴィラン達は、爆煙に包まれた戦慈を見て、期待外れとばかりにため息を吐く。
「なんだ。聞いていたより弱いな」
「ですわねぇ。その脳無を出すまででもないのでは?」
「まぁ、そこのプロヒーロー相手でも少しはテストになるだろう」
その時、煙の中から何かが高速で飛び出し、髑髏仮面に迫る。
髑髏仮面は目を見開いて固まっていると、脳無が髑髏仮面の前に腕を伸ばして庇う。
その隙に里琴が竜巻を飛ばして、煙を払う。
煙が晴れたそこには戦慈が両腕で顔を庇って立っていた。その体はコスチュームが破れている程度で、ほぼ無傷だった。そして先ほどよりも体が膨れている。
戦慈の姿に目を見開くヴィラン達。
戦慈は地面を砕きながら飛び出し、ヴィラン達を殴り飛ばす。
『ぎゃああああ!?』
「この程度でやられるなら、俺はここまでてめぇらに恨みを買わねぇよ」
「「「「ひぃ!?」」」」
戦慈のパワーと姿に、ヴィラン達は完全に恐怖に飲まれて後ずさる。
すると里琴が竜巻で飛び上がり、戦慈に迫る。
「里琴!?」
「……戦慈」
一佳や切奈達が目を見開いて驚く。
その声に戦慈は右脚を下げて半身になり、右腕を後ろに回して手のひらを上に向ける。
里琴は足の裏に小さな竜巻を生み出したまま、戦慈の右手の上に降りて、しゃがんで体を捻る。
そして戦慈は左脚を踏み出して、右腕に力を籠める。
「ま、まさか!?」
「おおおおおおおお!!」
何をする気か理解したブラド達はさらに目を見開く。
そして戦慈が吠えながら、里琴を砲丸のように投げる。
里琴は投げられる瞬間、足裏の竜巻を強く吹き出しながら両足を押し出す。更に体を回転させて体の周りに竜巻を発生させながら、髑髏仮面達の元に高速で飛び迫る。
「「!?」」
「……マグナム・トルネード」
「ちぃ!」
「きゃあ!?」
髑髏仮面は脳無に抱えられて、横に飛んで躱す。
サングラス女は避けようとしたが、風に吹き飛ばされて上空に打ち上げられる。
里琴は上空で竜巻を纏ったまま旋回し、再びサングラス女に襲い迫る。
「……やー」
「きゃあう!?」
ドォン!!
サングラス女の上から竜巻を叩きつけて、サングラス女は一軒家の屋根に穴を開けて落下する。
それを見届けた里琴は再び足元に竜巻を生み出して飛び、一佳の近くに降り立つ。
「……ブイ」
「ああ、うん。凄いよ」
ピースをする里琴に、一佳は唖然としながら称賛する。仮面で分からないが、恐らくいつも通りの無表情だろう。
髑髏仮面は他の家の屋根に降り立ちながら、里琴を唖然と見つめる。
「なんだ、あいつは……!?あんな奴がいるなんて聞いてないぞ……!?」
「あ、あんた!は、早く助けてく、ぶべあ!?」
「ごぼ!?」
「っ!下もほぼ全滅か……」
気づけば戦慈の周囲にいたヴィラン達も立っているのは20人足らず。
それに髑髏仮面はため息を吐く。
「はぁ。予定よりだいぶ早いが……仕方がない」
パチン!と髑髏仮面が指を鳴らした瞬間、髑髏仮面の真横にいたはずの脳無が腕を振り被った状態で戦慈の真横にいた。
「な!?」
戦慈は目を見開きながらも対応しようとするが、その前に脳無の腕が戦慈の脇腹に突き刺さる。
「づぅ!?な、めんなぁ!!」
戦慈は歯を食いしばりながら体を捻じり、脳無の顔面に左フックを叩き込む。
しかし、脳無はケロリとしていた。
「効いてねぇ……!?」
戦慈は手応えの無さに目を見開く。
そこに脳無が高速で腕を振り、戦慈の腹部に拳を叩き込む。
「がぁ!」
ズドン!と音を響かせながら、戦慈の体をくの字に曲げる。そして腕を振り抜いて、戦慈を殴り飛ばした。
戦慈は住宅を破壊しながら20m近く吹き飛ばされる。
「拳暴!?!?」
「……っ!?」
これには流石に一佳や里琴も目を見開いて固まる。
他の者達も目を見開いて動きを止める。
鉄哲が戦慈の元に走り出そうとするが、ブラドが止める。
「拳暴ぉ!」
「っ!?動くな!!」
「けど!?」
「気持ちは分かるが、奴はあまりにも脅威だ!目を離すな!他にもまだヴィランはいるんだぞ!」
「ちっくしょおおお!!」
鉄哲が怒りに叫びながら、まだ周りにいるヴィランに顔を向ける。
それを髑髏仮面は笑いながら見下ろす。
「ふははははは!いいぞ脳無!流石は対オールマイト用の改造人間だな!まぁ、お前は失敗作だが、それでもそこらへんの輩では手も足も出んか!」
「改造人間!?」
「対オールマイト!?」
「そうだ。そいつには《衝撃吸収》《筋力増加》の2つを組み込んである。残念ながら《超再生》は組み込めなかったがな。それでも十分そうだな。脳無。奴らも殺せ」
「っ!?いかん!!逃げろぉ!!」
ブラドが生徒達を振り返って叫ぶ。
その一瞬で脳無はブラドの真後ろまで迫っていた。
「っ!!おおおお!!」
ブラドは血を放出して脳無に絡ませるが、脳無の動きは止まらない。
脳無はブラドに拳を叩き込もうとしたが、その前に竜巻が襲い掛かり、後ろに吹き飛ぶ。
「巻空!すまん!助かった!」
「……足止め変わる」
里琴は腕を何度も振り、大量の竜巻を放つ。大量の竜巻は脳無に襲い掛かり、脳無は風圧に耐えようと腰をかがめる。その間も里琴は次々と竜巻を放ち、威力を維持する。
「……うぷっ」
「里琴!大丈夫か!?」
「……ん」
「手伝います」
茨がツルを伸ばして地面に潜らせる。そして脳無の足元からツルが飛び出し、脳無の体を縛っていく。
さらに、
「失礼するよ」
物間が里琴の肩にタッチをして、里琴同様竜巻を連続で放つ。
「交代だよ。少し休むんだ」
「……感謝」
「気にするなよ。ここで死ぬのは嫌だからね!それに5分が限度だよ!」
「……ん」
「けど、これじゃあ足止めしか……!」
「僕がやる!!」
「吹出!?」
「ゴンッ!バンッ!スドン!え~っと、ドガン!」
物間と交代した里琴の横で一佳が顔を顰めて打開策を考えていると、吹出が『やる!!』と顔に表示しながら前に出て、擬音を叫ぶ。
すると吹出の口元から叫んだ擬音が巨大な岩のように具現化して、竜巻を突き破って脳無に襲い掛かる。
脳無は受け止めるも耐えられずに後ろに押し飛ばされる。
「すげぇぜ!吹出!」
「うん!ドワァってのが、ズババン!って出た!」
「やっぱ分からんけど、すげぇ!」
「今ノウチニ周リノヴィランヲ倒スンダ!!」
『はい!』
吹出の攻撃に勢いを取り戻すB組一同。
それに髑髏仮面は腕を組んで、仮面の下で顔を顰める。
「やはり入学したてでも雄英にいる卵か。厄介な……。しかし……その程度で脳無の足止めが出来たとでも思うのか?」
ドオオォン!!
擬音を模った岩が突如砕かれる。
その音に目を向けたブラド達の前に、脳無が上空から飛び降りてきた。
「な!?」
「あれでも無傷かよ!?」
脳無が再び駆け出そうとした時、
ドオォン!!
再び何かが吹き飛ぶ音が轟き、脳無の上に人影が現れる。
「オォラアァ!!」
ドッバアアアァァン!!
ドドオオォォン!!
現れた人影は脳無の顔面を蹴り上げる。そして巨大な衝撃波を巻き上げて、住宅を壊しながら脳無を吹き飛ばした。
『!?』
突如現れ、脳無を吹き飛ばした人影に一佳達や髑髏仮面すらも目を見開く。
ズン!と音を立てて地面に降り立ったのは、赤と黒のコスチュームを着た赤仮面の巨漢だった。
「拳暴!?」
「無事だったのか!」
「け、けどあの体なんだよ……!?」
戦慈と理解した一佳や鉄哲達は驚き、ホッとするもあまりの変貌に慄く。
戦慈の体は、オールマイトや獣化中の宍田よりも大きく膨れ上がっており、髪も棘のように硬く鋭く逆立っていた。
「オオオオォォ……!」
戦慈は一佳達に振り向くことなく、俯いてゆっくりと息を吐いている。
「け、拳暴……?」
一佳は戦慈の様子に違和感を覚えて駆け寄ろうとするが、コスチュームが引っ張られて足を止める。
振り向くと引っ張っていたのは里琴だった。
「里琴?」
「……危険」
「え?」
「……キレてる」
「え?」
里琴の言葉に首を傾げ、キレているという言葉に目を見開きながら戦慈を見る。
「オオォ……オオオオオオオオオォォ!!!」
戦慈は顔を上に向けて、咆哮を上げる。
その咆哮だけで周囲に衝撃波が飛び、戦慈の足元にヒビが入り、一佳達は吹き飛ばされないように腕で体を庇って踏ん張る。
「さ、叫んだだけで!?」
「なんてパワーだ……!?」
「……バーサーカー」
「え?バ、バーサーカー?」
「……最大まで力を溜めてキレた戦慈」
「それって大丈夫なのか!?」
「……駄目。……周りが分からなくなる」
「「「「はぁ!?」」」」
里琴の言葉に一佳達は声を上げて顔を引きつらせる。
「……けど、もう負けない」
しかし里琴は絶対の信頼を込めて、はっきりと言葉にする。
その言葉に一佳達も不思議と安心感が湧き上がってきた。
「……やっちゃえ」
「オオオオオオォォ!!」
狂戦士が、暴れ出す。
『某伝説のスーパーサイヤ人』in『某アインツベルンのバーサーカー』
最強の組み合わせではないでしょうか(笑)