『拳』のヒーローアカデミア!   作:岡の夢部

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拳の八 倒せ敵!

 暴走した戦慈を見て、髑髏仮面も流石に顔を引きつかせる。

 

「な、なんて奴だ。あれが1年生だと?……冗談じゃない……!本当に奴だけは殺さないといかん!脳無!!全力で奴を殺せ!!」

 

 髑髏仮面の叫びに、脳無が応えるように吹き飛ばされた先から飛び出してくる。

 それを戦慈も視界に捉える。

 

「オオオオ!!」

 

ドバン!

 

 吠えて、地面にクレーターを作って脳無に飛びかかる戦慈。

 そして同時に腕を振り被って、拳をぶつけ合う。直後に2人の間に衝撃波が走り、地面に亀裂が走る。

 今度は互いに吹き飛ばされることはなかった。

 

 戦慈はすぐさま脳無の顎に左アッパーを振り上げる。脳無は仰け反ることなく顎で受け止め、戦慈の左脇腹に右フックを叩き込む。

 戦慈はそれに何のダメージを負うことはなく、脳無の右腕を左手で掴んで引き寄せながら左膝蹴りを腹に放つ。

 ズドン!と音がして脳無の体がくの字に曲がるも、今度は脳無が戦慈の右上腕を左手で掴んで、戦慈の腹に膝蹴りを叩き込む。

 

「ガアアア!!」

 

 戦慈は歯を食いしばって膝蹴りを耐えると、叫びながら脳無の首を右手で掴んで、脳無を振り回して背中から地面に叩きつける。

 その衝撃で更にクレーターが出来る。

 戦慈は左手を放して脳無の顔に殴りかかろうとするが、今度は脳無が戦慈の腕を掴んでいる左腕を引いて、戦慈を投げながらフリーになった右腕で再び戦慈の脇腹に拳を叩きつける。

 体勢が崩れていた戦慈は耐えることが出来ずに、殴り飛ばされて家に突っ込む。

 

 しかしすぐさま家を吹き飛ばしながら飛び出して、立ち上がった脳無に左ラリアットを叩き込んで、腕を振り抜く。

 今度は脳無が後ろに吹き飛んで、衝撃波の追撃で更に住宅街を突き抜けながら飛んでいく。

 

「っ!?まずい!!」

『ぎゃあああああ!?』

 

 髑髏仮面は慌ててその場を離れて避難する。直後、吹き飛ばされた脳無が立っていた家を崩壊させて、最初に戦慈達が戦っていた通りに飛び出す。

 そこには雑魚ヴィラン達が痛みに呻きながら倒れていた。しかし容赦なく飛んできた脳無と衝撃波が襲い掛かり、巻き込まれて悲鳴を上げる。

 

 

 

 

 その光景に鉄哲達に倒されて、捕縛されているヴィラン達が顔を真っ青にして引きつらせる。

 もちろん鉄哲達も顔を引きつかせて、唖然と戦いを見つめていた。

 

「ハンパねぇ……!」

「な、なぁ……里琴。あの状態って、いつまで保つんだ?」

「……もう限界過ぎてる」

『はぁ!?』

 

 里琴の言葉に全員が目を見開いて驚く。

 

「……あの衝撃波。……あれは抑えきれない力が漏れてるから」

「っ!?そうか!つまり拳暴の体の中ではとんでもないエネルギーが暴れまわっているのか!」

 

 里琴の言葉にブラドがハッとする。

 それに里琴は頷いて補足する。

 

「……ん。……それを《強靭》と《自己治癒》で無理矢理抑え込んでる」

「それってマズくない?」

「……ん。……でも、勝てるのは戦慈だけ」

 

 切奈が冷や汗を流しながら、戦慈を見る。

 里琴はそれに頷くが、それでも戦慈を信じて見つめ続ける。

 

 

 

 通りに出た脳無は両手足を地面に突き立てて地面を滑りながら止まり、立ち上がる。

 直後に戦慈が右肩を突き出してソニックブームを起こしながら、タックルを浴びせる。強大なパワーと、踏み込む度に足から放たれる衝撃波により恐ろしい速度になっていたため、まさしく人間砲弾と言えるほどの威力だった。

 しかし脳無はそれを腕を交えてガードし、足を踏ん張ることで5m程滑り下がったが、倒れることはなかった。

 

「オアアアア!!」

 

 戦慈は叫びながら右手を伸ばして、脳無の左腕を掴んで引き寄せながら飛び上がり、脳無の顔面に左拳を突き刺して地面に叩きつける。

 

「カアアアア!!」

 

 すぐさま戦慈は右拳を脳無の顔面に叩き込み、そして左拳も次いで叩き込む。

 それは徐々に速度が上がっていく。

 

ドォン!ドォン!ドン!ドン!ドドン!ドドドン!ドドドドドドドドドドドドドドドド!!!

 

 もはや地震と言えるほどの衝撃が地面に走る。

 脳無の顔面は確認できず、抵抗をしているようにも見えない。それどころか脳無は少し仰け反っているように見えた。そこから考えられるのは、顔面が地面にめり込みつつあるということだ。

 

 それでもまだ戦慈は殴り続ける。

 戦慈の周囲では衝撃波の嵐が吹き荒れる。

 

「も、もうよくないか!?」

「で、でもどうやって止めるんだよ!?暴走中なんだろ!?」

「それにあんな衝撃波の中、行けねぇよ!?」

「里琴!どうしたらいいんだ!?」

「……こう」

 

 鉄哲達がどうやって止めようかと慌て始める。

 一佳が里琴に尋ねる。

 すると里琴は唐突に竜巻を放ち、戦慈の背中に当てる。

 

 竜巻が当たった衝撃に戦慈は腕を止める。

 そしてギロリと里琴達を睨む。

 戦慈の殺意マックスの視線に一佳達は顔を引きつかせる。

 

「り、里琴?そ、それで?これからどうするんだ?」

「……こう」

 

 里琴は足裏に竜巻を生み出して、上空に飛び上がる。そして竜巻を放って、戦慈の注意を引く。

 戦慈は顔を上げて、里琴に視線を向ける。

 

「な、何する気だ?」

「あ!?まさか空に衝撃波を撃たせようと!?」

「はぁ!?」

「今の状態での衝撃波ってヤバくねぇか!?」

 

 切奈が里琴の狙いに気づく。

 それは流石に無茶だと全員が目を見開く。

 あの巨大ロボを吹き飛ばした衝撃波だけでも脅威であったのに、最大状態での衝撃波などもはや台風も吹き飛ばしそうである。

 

 しかし、上空に新しい影が現れる。

 

「……!?」

「やってくれましたわねぇ!!小娘ぇ!!」

 

 サングラス女が背中に蝙蝠のような黒い翼を広げて、飛んできていた。

 サングラスは完全に割れており、フレームだけが残っていた。

 

「わたくしの服を!わたくしの髪を!よくも汚してくれましたわねぇ!!殺してやりますわ!!この『エルジェベート』様が!!」

 

 赤い瞳の目を血走らせて、口から牙を伸ばして、叫びながら里琴に飛び掛かるエルジェベート。

 即座に竜巻を飛ばして牽制する里琴だが、空中を縦横無尽に飛び交うエルジェベートには効果がなかった。

 

「その血を吸い尽くしてやりますわ!」

「……邪魔」

「わたくしのセリフですわああ!!」

 

 その時、

 

オアアアアアアアアアァァ!!!

「……!!」

「な、なんですの!?」

 

 下から恐ろしい叫び声が轟く。

 エルジェベートはそれに動きを止める。

 

ドッッッパッアアアアアアアァァン

 

「ひぃ!?」

 

 戦慈が右腕を振り抜いて地面を砕きながら、上空にハリケーンかと思うほどの巨大な衝撃波が()()()()()()()()向かって放たれる。

 しかし巨大すぎるため、里琴も巻き込まれそうになり、予測していた里琴は慌てて竜巻を放ち急降下する。

 

「なんですの!?なんなんですのおおお!?」

 

 エルジェベートはもはや縦にも横にも逃げられず、叫びながら全力で翼をはためかせながら後ろに逃げる。しかし、もちろん衝撃波は容赦なくエルジェベートを追いかけてくる。

 

「い、いやああああ!?ぶっ!べごぶばああああ!?」

 

 そして衝撃波に飲み込まれて吹き飛ばされると思い、目を瞑った瞬間に全身にトラックが衝突したような衝撃を感じ、錐揉み状態で無様な悲鳴を上げながら上空に打ち上げられて行き、姿が見えなくなった。

 

「はぁ!……はぁ!……はぁ!……はぁ!」 

 

 戦慈は荒く息を吐いて両膝をつく。

 衝撃波を放った戦慈の右腕はコスチュームや籠手が弾け飛んで破れており、体は元に戻っていた。

 里琴が横に着地し、一佳達が駆け寄ってくる。

 

「拳暴!!」

「大丈夫か!?」

「はぁ!……はぁ!……大……丈夫だ……はぁ!……奴ら……は……?」

 

 ブラドは倒れて動かない脳無に近づく。

 脳無は顔が地面にめり込んでおり、覗き込むと歯が全て砕かれており、白目で気絶していた。

 そして周囲にいた雑魚ヴィラン達も完全に気絶していた。

 

「大丈夫だ。塩崎。すまないがツルで縛ってくれないか?」

「お任せを。悪に裁きを」

 

 ブラドの言葉に茨が頷いてツルを伸ばして、脳無や雑魚ヴィラン達を縛っていく。

 戦慈は立ち上がろうとするが、脚に力が入らずに尻餅をついてしまう。

 それに一佳が慌てて背中を支える。

 

「拳暴!大丈夫か!?」

「力が上手く伝わらねぇだけだ。しばらくすりゃあ治る」

「他には?」

「あちこち痛むが、この程度ならすぐに治る」

「……本当に規格外だな」

「全くだな」

『!?』

 

 戦慈の言葉に一佳は苦笑しながら呟くと、聞きなれない声が聞こえ、戦慈を除く全員が素早く構える。

 一佳の視線の先には、服が所々汚れている髑髏仮面が家の屋根の上に立っていた。

 

「てめぇ……!」

「もう仲間はいない。大人しくしろ!」

「まさか脳無を完膚なきまで叩きのめすとは……。それにエルジェベートまで吹き飛ばされたか。完敗だな」

「余裕ぶってるけど、まだ何かあるの?」

 

 骨抜の言葉に髑髏仮面は肩を竦める。

 

「ないな。出来れば脳無は回収させてもらいたいところだが……」

「させると思ってんのかよぉ!」

「だよな。どうやら向こうはまだやり合ってるみたいだし。困ったもんだ」

 

 ガリガリと後頭部を掻く髑髏仮面。

 言葉のわりにどこか余裕を感じて、攻めあぐねる鉄哲達。

 すると、突如髑髏仮面の袴から地面に向かって火が噴き出す。袴の下にはブースターのような機械が両脚に取り付けられていた。

 

「な!?」

「壊れてなかったか。助かった。じゃあな、雄英」

 

 ゴォウ!と更に火の勢いを増して、空を飛んでいく髑髏仮面。

 里琴が追いかけようとするが、

 

「やめとけ、里琴。あいつ、徹底的に『個性』使わなかった。厄介な可能性がある」

「……ん」

「ふぅ~……乗り切ったぁ」

 

 戦慈が制止して、里琴も大人しく従う。

 すると緊張の糸が切れたのか、泡瀬も尻餅をつくように座り込む。それに他にも座り込む者が続出する。

 

「……よく頑張ったな」

「アア、見事ナ戦イダッタ」

 

 ブラドとエクトプラズムが労う様に声を掛けると、鉄哲達は満足げに笑みを浮かべる。

 すると座り込んでいた戦慈が仰向けに倒れる。

 

「拳暴!?」

「……ちっ。ちと暴れすぎたみてぇだな。痛みが引かねぇ」

「はぁ!?お、おい!?大丈夫か!?」

「……お馬鹿」

「うるせぇよ。そこのバケモン作った奴に言え。ってぇか、オールマイトの方行かなくていいのか?あっちにはここよりやべぇ奴がいるんだろ?」

「……そうだが……お前達やここのヴィラン達も放置出来ん。そろそろ誰か救援に来てもよさそうだが……」

 

 10分後、エクトプラズムの分身と数名の教師が駆けつける。

 戦慈はエクトプラズムが連れてきたハンソーロボに運ばれて保健室へと連れていかれる。里琴と一佳、怪我をしている他の生徒達も付いて行き、無事な生徒達は着替えて教室で待機となった。

 

 保健室でリカバリーガールに診察してもらう戦慈。

 

「まぁ、事情が事情だから仕方がないけどね。ボロボロじゃないか。右腕と肋骨は骨折。残りの手足もヒビが入ってるじゃないか。よく動けたもんだよ。それにどれだけ無茶をしたら、そんなに傷だらけになるんだい?」

 

 一佳や先に治療してもらった他の面々は目を見開いて、戦慈を見る。戦慈はコスチュームを脱いでおり、全身に包帯が巻かれていた。

 戦慈は肩を竦める。

 

「多分手足は暴れまくった反動だな。肋骨はあいつに殴られたからだと思うが。あの状態になると筋肉だけで動いてるもんだかんな」

「まぁ……かなり荒れてたしな。拳暴」

「あれ、荒れてたって言うの?」

 

 鉄哲が腕を組んで唸る。それに庄田が首を傾げる。

 

「さて、一気には無理だけど、歩けるくらいまでには治すよ」

「十分だ。体が落ち着きゃ夜には治ってる」

「ああ、あんた自己治癒出来るんだっけね。助かるよ」

 

 その後、歩けるまでに治癒してもらった戦慈。

 更衣室に向かい、制服に着替える。

 

「仮面が無事だったのが奇跡だな」

 

 戦慈は呟いて、誰も見ていない隙をついて仮面を予備の物と交換する。ちなみにロッカーや鞄に常に予備を入れている。この赤仮面はタングステンで出来ている。これはデザイン会社に依頼して多めに生産してもらったものだ。

 つけていた仮面を見ると、端が欠けており、目元にはヒビが入っていた。いつ割れてもおかしくはない状態だった。

 

 着替え終えて鉄哲達と教室に戻ると、他のクラスメイト達も揃っていた。

 

「お、拳暴。大丈夫なのか?」

「ああ、夜には治ってる」

「……改めて凄い『個性』だな」

「その分、昔は苦労したがな」

「あぁ、じゃあ体の傷って……」

「コントロール出来なくて暴走しまくったからな。焦って馬鹿な事試し続けたってことだ」

「……それで不気味がられた」

 

 泡瀬が怪我の状態を質問すると戦慈は肩を竦めながら答える。それに円場が感心するように呟く。

 戦慈はそれに苦笑しながら返すと、鱗が思い出したように声を上げる。それに戦慈は頷きながら説明し、さらに里琴が補足する。

 それに傷を知っている一佳や男子陣は納得の表情で頷いている。あの傷の量は高校生で出来るものではない。プロでもあそこまでの傷が刻まれている者はいないかもしれない。

 しかし逆に言えば、無茶苦茶なやり方だったしても、それだけ努力をしてきたということだ。

 あの化け物染みた戦い方は、化け物染みた努力による生まれたのだと実感した一佳達。

 

「それにしてもオールマイトや先生達は大丈夫かな?」

「あとさぁ、もしかして襲われたところってA組がいるところじゃない?」

「まだA組は誰も戻って来ていない。可能性はありそうだね」

 

 吹出が『大丈夫かな?』と表示して腕を組むと、切奈も腕を組んで首を傾げる。その言葉に一佳は早くに移動をしていたことを思い出す。

 それを裏付けるように庄田が話す。

 

「ヒーロー科1年が同時に襲われるってどんだけ」

「ん」

「A組の方にはオールマイトもいるけど、あの脳みそ野郎よりもヤバい奴が行ってるんだろ?」

 

 柳がうんざりしたように呟き、それに唯も同意するように頷く。

 鱗も腕を組んで呟き、戦慈と脳無の戦いを思い出して身震いする。それに鉄哲達も顔を顰めて呻く。

 

「オールマイトだけ戦ってるわけじゃねぇ。雄英にいるプロヒーローが揃えば、殴り倒さなくても抑えることも出来るだろ。雑魚だったらA組連中でも勝てる程度だろうしな」

「それにエンデヴァーの息子の轟って奴は氷を使えるし、拘束に適してる『個性』持ちも数人いるだろ」

 

 戦慈と骨抜が安心させるように声を掛ける。

 それに一佳達は笑みを浮かべて頷く。

 

 

 そしてしばらく待機していると、ブラドが教室に入ってきた。その後ろにはなんと鞘伏の姿があった。

 

「鞘伏さん!?」

「なんでてめぇが?」

「まぁ、待て」

 

 鞘伏の姿に一佳が目を見開いて、戦慈が訝しむ。

 それにブラドが手を上げて制止する。

 

「先ほど全てのヴィランの捕縛と撤退が確認された。残念ながら主犯格達には逃げられてしまったが……。それでもお前達の勇気と奮戦のおかげで、大きな被害なく乗り越えることが出来た!よく頑張ったな!俺はお前達の事を誇りに思う!」

「「「ブラド先生……!」」」

 

 ブラドの言葉に鉄哲を始めとする数人の生徒が感動する。

 それにブラドは力強く頷く。

 

「まずは今日の授業はもちろん中止だ。後程警察の護衛の下、帰宅してもらう。そして明日は調査とセキュリティ修理、そして強化のため、休校となる。明後日は登校してもらう予定だが、休校の必要性が出た場合は追って連絡する。気になることや不安は多いだろうが、まずはゆっくり休んでほしい」

「で?鞘伏がいる理由は?」

「拳暴のことだ」

「……俺を狙った連中か?」

 

 ブラドの言葉に頷く生徒達。それに戦慈が鞘伏のことを尋ね、ブラドの返答に理由を思い浮かべる。

 それに鞘伏は頷いて、申し訳なさそうに頭を掻きながら話を引き継ぐ。

 

「今回、戦慈、そしてB組の皆を襲った連中を俺達はマークしてた。お前に復讐にでも行かれたら、たまらんかったからな」

「出来てねぇじゃねぇか」

「おい、拳暴」

 

 鞘伏の話に戦慈が容赦なく突っ込む。それを一佳が注意する。

 戦慈の言葉に鞘伏は顔を顰めて、ため息を吐く。

 

「はぁ。……だから説明と謝罪に来たんだよ。まさかあんなワープ持ちがいる連中と組むなんて思わねぇだろ?路地裏から出れそうもねぇ小物連中だったんだぞ?」

「謝罪に来たんじゃねぇのかよ。その小物にてめぇら何回出し抜かれてんだよ。結局俺()が尻拭いじゃねぇか。俺は久々に全開で暴れたぞ?」

「……そこまでの奴がいたか?」

「ワープ持ちの仲間だろうがな。おかげで今も回復待ちだ」

「……お前がそこまで追い詰められたか」

「……狂戦慈(きょうせんじ)になった」

『ぶふぅ!?』

 

 重苦しい雰囲気で鞘伏と戦慈が話していたが、それを里琴がぶち壊す。

 狂戦士と戦慈を合わせた言い方に、直前までシリアスな雰囲気だったせいもあり、妙な破壊力を周囲に与えた。

 泡瀬、円場、切奈を筆頭に数名が噴き出して、腹を抱えて悶える。

 

「……おめぇは話の腰を壊すなよ。それに何だよ、その言い方は」

「……ブイ」

「なんの自慢だ!?」

「あははは……」

 

 戦慈と里琴のやり取りに苦笑いする一佳。

 ブラドも呆れて、鞘伏も苦笑いする。

 

「相変わらずで何よりだな。まぁ、ということで、連中が消えたということで慌てて俺が雄英に来た。そんで案の定だったってわけだ」

「で?まだ残ってんのか?」

「いや、署に連絡して、雄英に来た連中とかかわりがある奴らは根こそぎ逮捕した。もうほとんど残ってねぇはずだ」

「……ならいいか。ああ、そうだ」

「あん?」

「エルジェベート。それに髑髏の仮面に赤袴を履いた男は知らねぇか?逃げた主犯格だ」

「……エルジェベートは聞いたことがある。神出鬼没の殺人鬼だ。殺害方法は失血死。髑髏の方は知らん」

「そうかよ」

「失血死か。確かに吸血鬼っぽい感じだったよな」

「……ん」

 

 エルジェベートの情報に一佳は思い出しながら呟き、それに対峙した里琴が頷く。

 そこにブラドが口を開く。

 

「まぁ、これで拳暴関連は解決しただろう」

「もっと面倒な奴に睨まれた気もするけどね」

「ちょっと黙ってようぜ、物間」

 

 無理矢理に話を締めたブラドの言葉に、物間が水を差す。それに円場が突っ込んで黙らせる。

 

「確かに逃げた者達もいるが、ほぼ全員に手傷を負わせているし、手下もほとんど捕らえた。すぐにまた攻めてくることはないだろう。警察やヒーローも調査を始めてくれている。ここからはプロの仕事だ。諸君には今回の経験を糧にプロを目指すことに、また集中してほしい!」

 

 ブラドの言葉に頷く一同。

 こうして本日は解散となり、家が近い者同士でパトカーで送られる。

 戦慈、里琴、一佳は鞘伏の車で送られることになった。

 

 そして、何故か焼き肉屋にいた。

 

「……いいんですか?こんな所に」

「まぁ、お前さん達には特に迷惑かけたしな。謝罪と……まぁ、後見人として飯くらいはいいだろ。せっかく来たしな」

「ここで食べ放題じゃなけりゃあ、決まってるのにな」

「……残念」

「馬鹿言え!お前達2人相手に普通の焼き肉屋なんか行けるか!!破産するわ!」

 

 申し訳なさげに眉を顰める一佳に、鞘伏は苦笑してパタパタと手を振る。

 それを戦慈と里琴がメニューを開きながら茶化して、鞘伏が怒鳴り返す。

 鞘伏の言葉に一佳は首を傾げる。

 

「? 里琴もですか?」

「あ?ああ……お前さんもまだ知らんのか。俺が言えることは……お前さんは肉の注文はせんでいいってことだ」

「??」

 

 鞘伏の言葉に更に首を傾げる一佳だが、その答えはすぐに判明した。

 

 戦慈と里琴が頼んだ大量の肉がテーブルに所狭しと置かれる。1皿だけでも5人前はある。それが現在6皿ある。

 その肉を戦慈と里琴は黙々と焼き、黙々と…されど物凄いペースで平らげていく。

 一佳と鞘伏は2人が並べた肉を分けてもらいながら食べ、一佳は2人の食事風景を唖然と見つめる。

 

「……お前らってそんなに大食いだったんだ……」

「肉、というか奢りだった場合はな。最初に普通の焼き肉屋連れていって酷い目にあった」

「食堂ではそんなに食べないのに」

「そりゃあ金がかかるからなぁ」

 

 鞘伏は苦笑しながら、マイペースで肉を焼いていく。もはや見慣れた光景だからだ。

 一佳は戦慈はイメージ通りだと思うが、里琴までもとは思わなかった。

 里琴は今もリスのように頬を膨らませて、肉と白米を口に運んでいる。というか、頬がへこまない。ずっと膨らんでいる。

 あっという間に6皿食べ終える。

 そして新たに5皿注文する。

 

「まだ食べれるのか!?っていうか、拳暴は怪我してるのにそこまで食べて大丈夫なのか?」

「あん?もう治ってるに決まってるだろ」

「早いな!?」

「こんだけ食べりゃあ体力も戻る」

 

 一佳は呆れながらも戦慈の怪我を心配する。戦慈は白米を食べながら答える。すでに回復していることに目を見開く一佳。

 戦慈は肩を竦めて、再び食事に戻る。

 里琴はその隣で変わらずリス状態で食べ続けていた。

 

 2人のその姿を苦笑しながら見つめる一佳と鞘伏。

 

 こうして戦慈と里琴は2人で30人前近く平らげた。あまりにも日常的な雰囲気に、昼に襲われたことなどなかったかのように感じた一佳は思わず笑みが浮かんでしまう。

 鞘伏に送られて、家に帰る前に戦慈のコーヒーをもらい、それを飲みながら家に帰った一佳。

 

 大変だったはずなのに、怖い目にあったはずなのに、何故か……とても温かく、いつも通りの帰宅と変わらなかった。

 

 

 

 

 

 ヴィラン撤退後。

 どこかのビルのバーを思わせる一室。

 

 黒い靄が現れ、ズルリと吐き出されるように人が現れ、地面に横たわる。

 顔や体中に『手』を身に着けた男だった。

 

 その隣に黒い靄を体中に纏うバーテンダー服を着た男と思われる人物が立つ。

 

「ってぇ……」

「大丈夫ですか?死柄木」

 

 死柄木と呼ばれた男は手足から血を流して横たわっている。

 

「両腕両脚撃たれた……完敗だ……脳無もやられた。手下共も。子供も強かったし、平和の象徴は健在だった……!」

 

 死柄木は痛みに顔を顰めながら、独白するように喋る。

 

「話が違うぞ……!先生」

『違わないよ。ただ見通しが甘かったね』

『ウム。敵連合とか言うチープな団体名で良かったわい。ところで、ワシと先生の共作の脳無達は?回収してないのかい?黒霧』

「申し訳ありません。オールマイトの相手をさせた脳無は吹き飛ばされて、位置座標が把握できなければ回収は出来ません。そのような時間はなかった。もう片方も同様です。あちらは脳無どころか他の者達もどうなったのかさえ……」

 

 カウンターの端に置かれたテレビから2つの声が聞こえる。

 その内の老人のような声が脳無のことを尋ね、黒霧と呼ばれた黒靄の男が謝罪して、事情を説明する。

 その時、死柄木達の後ろの扉が開く。

 

「「!!」」

「あ~、いたな。全く……帰って来てるなら、回収に来てくれよ」

 

 現れたのは髑髏仮面だった。袴は脱ぎ捨てており、黒いズボンになっている。

 

『おかえり、ディスペ。おや?エルジェベートはどうした?』

「あの仮面のガキにぶっ飛ばされて、どっかに飛んでいった。まぁ、死んではいないだろ」

『脳無は?』

「やられた。同じく仮面のガキにフルボッコにされた。あいつはヤバいな。あのパワー……オールマイトにも負けてないんじゃないか?」

「パワー……そうだ。こっちにも1人、オールマイト並みの速さを持つ子供がいた」

『……へぇ』

 

 ディスペと死柄木の言葉に、テレビの向こうの者は一瞬考え込むような間を空けて反応する。

 ディスペはうんざりとしたように吐き捨てる。

 

「冗談だろ?オールマイトみたいな奴が2人も卵にいるのかよ。他のガキ共だって、かなりのやり手だったぜ?」

「そうですね。実際、子供達がいなければ勝てたでしょうからね。彼らは今後脅威となるでしょう」

 

 黒霧も同意するように頷く。

 

『不安がっても、悔しがっても仕方がない!今回だって決して無駄ではなかったハズだ!精鋭を集めよう!じっくり時間を掛けて!』

 

 テレビの向こうから威厳たっぷりに声が響く。 

 

『死柄木 弔!!次こそ君という恐怖を世に知らしめろ!!』

 

 ヴィランの脅威は、まだ消えてはいない。

 

 それどころか、これこそが長い戦いの始まりであった。

 

 

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