私はまだ死ぬわけにはいかない。
意識が朦朧とする。
もう、ダメかもしれない。
でも、私は―
霙が幻想郷から消え、数日が経ったある日。迷いの竹林に藤原妹紅はいた。両手には抱えられない程のタケノコを抱えている。
「今日は多く取れたな。これで少しの間は食材に困らないだろうな。」
―ガサッ―
突然の物音に妹紅は歩みを止める。
「何者だ!」
返事はない。不審に思い、音のした竹やぶの中を進むとそこには傷だらけの1人の女性が倒れていた。妹紅は彼女を知っている。彼女はつい最近まで寺子屋で教師をしていたのだから。違う所と言えば、巫女服でないことと、首のチョーカーが無く無理やり外されたかのように痣になっていることだろうか。
「霙!?」
妹紅は両手にあったタケノコを放りすて、慌てて彼女に駆け寄り抱きかかえる。
「おい、しっかりしろ!」
すると、霙は薄く目を開けたが、それは弱々しいものだった。
「も、こうさん…?。」
「そうだ、妹紅。藤原妹紅だ!」
「おね……しま、す。れ…むさ、んたち…を。」
「分かった。霊夢だな。待ってろ、今永遠亭に連れて行く!」
かろうじて霙の小さな声を聞き取った妹紅は、彼女を抱えると一目散に走り出した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
妹紅の連絡を受けて、永遠亭に霊夢と魔理沙、咲夜、早苗がやってきた。
「それで、霙はどうなの?」
そこには永琳もいて、彼女の診察をしていた。診察が一通り終えたところで霊夢が彼女に話しかける。
「ひどいわ。身体的にも精神的にもの限界ギリギリといったところでしょうね。」
「目を覚ます?」
「それは彼女次第よ。」
霙はベッドに寝かされ、静かな寝息を立てている。
「それにしても、どうやったらここまでひどい状態になるのかしらね。」
「そうだぜ。霙はフラン並に強いはずだぜ。それがこんなになるなんて想像できないぜ。」
「あら、意外に早いお目覚めね。」
霙はいつの間にか薄くだが目を覚ましていた。―と言っても、身動きが取れる程ではない。しかし、ここまで急速な回復を見せることができたのは、永琳の薬のおかげか、はたまた彼女自身の力のおかげか。永琳が部屋を出て行くと霊夢から話し始めた。
「霊夢さん…。久しぶりですね。」
「そうね。ところで、どうしてそんなに傷ついているか、説明してくれる?」
「…いいのですか?私は異変を起こした本人ですよ?」
「なぁに、過ぎたことに悩んでても仕方がないぜ。」
「そうね。今はあなたのことよ、霙。」
皆が心配してくれる。そんなことが嬉しく思う霙。あぁ、最初から彼女たちに相談していれば、こんなことにならなかったのかもしれない。
「私は外にいる間、ある女の子と一緒に暮らしていました。」
「ある、女の子?」
「誰なんですか?その子は?」
「彼女の名前は“呪利 殺女(じゅりあやめ)”。負の意思の集まりによって生まれた神霊です。彼女はある廃寺に住んでいました。その寺にはある噂があったんです。」
「噂?」
霙は頷き、話を続ける。
「呪いの神木というものです。その樹は立派に太く大きな木でした。しかし、その木は普通と違うのです。」
「まぁ、呪いなんて言われている時点でそうでしょうね。」
「その木には呪いに使われる器がたくさん打ち付けられていました。例えば、藁人形ですね。そしてある日、その数が増え続け、呪いの念が積もりに積もって生まれたのが、呪利殺女です。」
「呪い、ねぇ…。」
霊夢は少し考えると早苗に問いかけた。
「そういうのは早苗が詳しいんじゃない?」
「私ですか?」
「だって“呪う”って言葉は“祝詞”が語源らしいじゃない。」
「そうですけど、守矢はそんなことしませんよ。」
「でしょうね。そんなことしてたら潰してたもの。」
咲夜は咳払いをして2人の話を止めると、霙に異変について問いかけた。
「霙は何故、異変を起こしたの?その呪利殺女って娘と関係あるのかしら?」
答えは肯定だった。霙は頷き話を進める。
「私の目的は幻想郷を歪めた空間に閉じ込めることでした。殺女ちゃんが幻想郷を自分の楽園にするのを阻止するためです。」
「楽園…?」
「はい。あの娘は“殺す”が“遊ぶ”に変換されています。そして、外の世界ではそんなこと許されるはずもありませんでした。そこで幻想郷の存在を知った殺女ちゃんはそこでなら“遊べる”と考えるようになったのです。」
「随分歪んだ奴だぜ、そいつは。」
「結局、私の目的は失敗に終わりました。外で殺女ちゃんを止めようとしましたが失敗し、今に至ります。」
「止めようとしたってことは、戦ったってことですか?」
「そうです。」
「霙はフラン以上の力を持つんだぜ。そいつはどんな能力を持ってるんだ?」
魔理沙の疑問はもっともなものだ。霙はここまでボロボロになるには相当の力を持ってなくてはならない。
「殺女ちゃんの能力は“壊せなくする程度の能力”です。」
「壊せなくする…?」
「物事には始まりと終わりがあります。あの娘はその終わりを強制的に引き伸ばすことができるのです。しかし、それは彼女以外が最終的に干渉した場合に解除されます。」
「なんだ、大したことないじゃなにの?」
霊夢のつぶやきに霙は呆れてため息を漏らした。
「な、なによ。」
「いいですか、霊夢さん。殺女ちゃんは殺す=遊ぶと考えているのです。彼女が遊び終えるとすればそれは壊れる時、つまり遊び相手が生き物なら死ぬ時とも言えます。それに加え、遊び相手を壊せなくすれば、彼女は永久に遊び続けること―殺し続けることが可能です。」
「……。」
静寂が辺りを包み込む。とその時だった。
―霙ー!ドコー?もっと遊ぼうよー!―
声は遠いが幼い女の子の声が聞こえてきた。瞬間、霙は身体を抱きしめ震えだした。
「霙!?大丈夫!?」
「………来ました。」
「え?」
「殺女ちゃんが…。幻想郷が…皆の幻想が…壊れてしまう。」
「大丈夫だぜ、霙。」
顔をあげると皆が霙に笑顔を向けていた。
「幻想郷じゃ、こんなこと当たり前だ。すぐに終わらせてパパァっと宴会しようぜ。」
「そうね。霙の時の宴会はまだだったし。」
「宴会の時は寺子屋の子供たちも呼びましょうか。」
「それじゃあ、たくさん買わないといけませんね。」
眩しい…。なんて眩しい人たちなのだろうか。霙は素直にそう思った。彼女は4人に頭を下げる。
「よろしく、お願いします。」
「任せなさい!行くわよ、皆!」
「「「おー!!」」」
皆が病室から飛び出していった。霙は皆が出て行ったことを確認すると、虚空に向けて話しかける。
「紫さん。いるのでしょう?」
「あら、バレてたの?」
虚空が裂け、八雲紫が現れた。
「最初からいたでしょう?」
「そうね。ところで私に何か用かしら?」
少し間を置くと霙は口を開いた。
「今の私は能力を使えないほど貧弱になっています。そこで境界を超えられるあなたに相談です。」
「内容は?」
「私を魔界に連れて行ってください。」
「なぜ?」
「“彼”の力を借ります。」
「…それは“占城霙”としてかしら?それとも“古城霙”?はたまた―」
扇子で口元を隠しながら、紫が霙の瞳を射抜く。
「―“麗夢”としてかしら?」
「懐かしい名前ですね。でも、今の私は―幻想郷にいる私は“古城霙”です。」
「そう。なら連れて行ってあげる。」
「お願いします。」
「藍、お願いね。」
「分かりました。」
スキマの奥から藍が現れると霙をおぶり、スキマの中へと入って行った。
「…霊夢たちだけでは不安ね。久々にあの娘を目覚めさせようかしら。」
ついに明かされました。呪利殺女(じゅりあやめ)ですね。
霊夢たちは彼女にどう立ち向かうのか。
霙は魔界で何をするのか。
また、紫は何をするつもりなのか。
それでは、間違い等がありましたらご指摘のほどよろしくお願いします。感想も待っています。
ここまで読んでいただきありがとうございました。