突然と理由もなく消えた友達
納得のいかない事に憤りを覚え探すのだった。


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一話完結です


友探し

ある日友達の雨音(あまね)が行方不明になった。

一日目は風邪でも引いたのだろうと甘い考えをしていた。

二日目は風邪が長引いていると思っていた。

三日目はいくらなんでも心配になり、先生に尋ねた。すると先生は答えるかどうか躊躇っているのか返事が遅い。

 

「確か、十六夜(いざよい)とはかなり仲が良かったよね?」

 

先生の問いにはいとだけ答えた。

 

「実は、十六夜が今行方不明になっているんだ」

 

正直先生が何を言っているのか理解できない。雨音が行方不明?そんなの突然聞いて受け入れられるわけがない。雨音は真面目で人当たりもよくって、不満なんて抱いて居ないようにしか見えない。

 

「そこ様子だと、君も知らないようだね」

 

「はい」

 

雨音が行きそうな場所をしらみ潰しに探していくしかないか。

先ず、学校が終わったら思い出の場所を回ろうと思いつつ、授業を受けた。

そして、待ちに待った放課後が来た。自宅に戻ってから探すのは時間がかかる。

だから、そのまま探すことにした。始めは一緒に行った場所を捜し回り、見付からなかった。次は行きそうな場所を捜した。しかし見付からない。最後に帰り道を捜した。

だけれども見付からない。

 

「どこに行ったんだよ」

 

愚痴りながら、明日の事を考えた。明日は土曜日だから、遠いところも行ける。

今夜のうちから準備を整え明日に備えた。

そして、目が覚めると軽く体を動かしてから準備をした荷物を持ち、今日も太陽がない青空の下で言う。

 

「行くか」

 

自身を勇気づけるように言う。それは、心のどこかで怖いことを指している。

もしも、見付けても死んでいたら、見付けても拒絶されたら、そんなことを考えてている。

マイナス方向に考えるのは悪い癖だと理解していてもしてしまう。

先ずは近くにある廃れた場所に向かうことにしている。病院に廃校舎を二ついく予定だ。

最初は病院からだ。

 

「誰か入った形跡は…………あった」

 

しばらくの間、誰も入っていない施設にも関わらず、誰かの足跡が続いている。しかも複数。

 

「雨音の他にも誰か入ったのか、不良たちが入っているのか…………どのみち入るしか無いか」

 

独り言が多いなと思いながら廃病院に入っていった。病院内は予想通りと言うべきか明かりが僅かにしか差し込まず夜目が効かなければほとんど見えない状態だ。

夜目は少しばかり効くが輪郭がうっすらと見える程度で頼りにはほとんどならないが、決して明かりは持参しても使わない。その方が今は見えなくてもいいものが見えなくて済むからだ。

 

「(話し声が全く聞こえない。誰もいないのか?)」

 

少しの不安感から昨晩の内に用意していた塩水を口に含み行動することにした。

そうして数十分ぐらい過ぎたぐらいだろう。最後の部屋が開けられていると予想通りの展開がそこにある。

不良と思いしき人物たちは白目を向きながら気絶している。それを眺めている足が消えかけている幼そうな少女の幽霊もいる。

 

「(悪意は……僅かにある程度か)」

 

幽霊に気付かれぬように出来るだけ静かに行動する。悪意はそこまで感じられないが、出来れば関わりたくないので、極力静かに行動を意識する。

 

「あなた私が見えているわね?」

 

そう思っていた矢先、即行で見付かった。こうなっては静かにしていても意味がなさないので、塩水を飲んだ。美味しくない。

 

「あぁ、見えてるが、今は人探しをしているんだ。だからそんな長くは構ってられないからな」

 

「私と遊びましょ」

 

全く聞いてくれない。こうなることは見付かった時点で予測はしていた。そして、これを断るとどういう悲惨な事になるのかも知っている。幼くして亡くなった者は他者が生きることを純粋に妬む者も数多くいるが、何より遊び足りないので成仏が出来ずにいる。それで遊ばなければ祟られ最悪呪い殺される。軽くても目の前にいる不良と同じ道を辿るだろう。

 

「時間があまりないから手短にならいいよ」

 

「やったー!!それじゃ、こっくりさんやろ!」

 

幽霊がこっくりさんって、大丈夫かよ。まぁ道具はあるしいいか。

 

「「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください。もしおいでになられたなら“はい”にお進みください」」

 

幽霊と一緒にして動くわけが無い……動いてる。そう言えば、この幽霊は何を聞くんだろう。生前のやり残した事かな?

 

「こっくりさん、こっくりさん呪殺法教えてください」

 

「はぁ!!?」

 

幽霊が場違いな事に思わず声を上げた。その際、十円から指を放しかけるが、何とか止まると、こっくりさんが動こうとしたのを制止させる。

 

「狐、狗、狸どれか分からねぇが一旦待て。

おい、俺の質問を先に答えろ」

 

渋々といったような感じで、十円ははいに進んだ。

 

「目の前の幽霊が呪殺法を知ったら誰にかけるんだ」

 

十円はゆっくりとはいから移動を始め、“あなた”と移動して止まった。

そして、目の前の幽霊と目が合う。

 

「何で俺を殺そうとする」

 

「あなたには私が見える。それが気に食わない」

 

「そうかよ。ならこっくりさん共々祓ってやろうか?」

 

そう言うと、幽霊は十円玉から手を離し飛びかかってきた。それは乗り移ろうとしているのは見え見えだ。だが、幽霊には物理的な事は効かない。

避けるしか無いが、あえてその選択肢を選ばない。どのみちしつこく付きまとわれるのだからかわらない。

そうすると案の定とり憑いた。その証拠として、臓器が二重に感じ、嘔吐感が半端じゃない。だが耐えられない訳じゃない。

 

「実際、使いたくなかったんだよな」

 

ここまで来ては諦めるしかない。目の前で十字を切り、それを囲むようにひし形を作り、更にそれを囲むように正方形を作る。

そして、幽霊とこっくりさんに対しての呪文を唱える。

 

「我が御霊を使いて、輪廻天性から外れしもの、黄泉の扉から落ちしもの、この地に縛られしもの、呼び出されしものを黄泉の国に返したまえ。我が魂を使いて、成仏したまえ」

 

「うわー」

 

「うるせ!こっちだって恥ずかしんだよ!!」

 

そう言いきると幽霊は何も返さなくなった。諦めて成仏してくれるのだろうと思ったがどうやら違ったみたいだ。幽霊は体の中から出ていく気は無いらしい。

 

「言ったはずだ。祓ってやろうかって。

成仏しないなら、消滅させる。これが最期のチャンスだ。体から出ていくか成仏しろ」

 

幽霊からはやはりというべきか、返答はない。

奥の手とまではいかないがそれなりの秘策だったのをいきなり使うとは思わなかった。

 

「成仏するか、体から出ていくか、消滅するか、準備が終わるまでに決めとけ」

 

最期にそう言い残し、重たい体を動かして準備に取りかかる。

チョークを使って陣を大小二つ描き、小さい方には自分の分身とも言える人形を置き、大きい方には自分が入った。

 

「決めたか?」

 

そう訪ねるも幽霊からは返答はない。しかし、未だに体の中に居座られている。

 

「数多の霊よ、我が体内に居座りし他の者を消滅させよ」

 

そう唱えると、体内で暴れ狂っている感覚が残っている。この陣の中に入った者は例外無く千の霊の影響を受ける。だけど、こちらはの霊の影響は全て人形の方に行っている。

やがて体内の中に何かがいる感覚が無くなっていく。消滅か自分から出ていったのかは定かではないけど、体から確実に出た。

周りを見るとこっくりは居なくなってるけど、幽霊は苦しそうにまだいる。

 

「これ以上関わらないなら見逃す」

 

「あなた、何者なの?あんなの見たこと無いんだけど」

 

「十人十色、様々な人がいる内の一人さ」

 

そう言うと、幽霊に呆れたような顔をされた。そして、肝心な事を聞くのを忘れてた。

 

「なぁ、ここに雨音が来なかったか?たぶんお前を見ることができるやつだと思うけど……」

 

「んー、私を見たのはお兄さんが始めてだよ。だから、たぶんここには来てないと思うよ」

 

どうやらここは無駄足だったようだ。仕方ない、そう簡単に見つかるなんて思ってなかったしな。次は廃校舎に向かうとして、一つ確認しておくか。

 

「ここら辺に、幽霊が集まるような廃れた場所は無いか?」

 

「廃れた場所?んーと、ここ周辺だと廃校舎と山のなかに神社があったはずだよ」

 

神社と言われて、思い出した。ここには昔、美しい湖の近くに建てられ、彼岸花が一面に咲き、最も幽界(かくりよ)に近いと言われた神社があったことを。

今は、幽霊に感謝を伝えて廃病院を後にした。その帰り際に幽霊から“また、来てよー”と嫌な言葉を呟かれた。

そして、予定通り廃病院に着いたが、どこにも誰かが入った形跡は見付からなかった。念入りに入り口から割れた窓を見るも靴の跡が無かった。

 

「ここには来てないか…………物は試しで神社に行ってみるか」

 

一度も行った事がないが、なんと無く道は分かる。何百、何千人と歩かれた道は既に雑草だらけで道とは呼べるものでは無いが、通れる所は見える。

少しずつ空気が変わっていく。圧力がかかり、息苦しくなり、向かっている場所から拒まれているかのように、生温く嫌に湿っている風が吹き、これ以上は危険だと本能的に理解している。だけど、確かめる必要がある。この先に雨音が居るかどうかを。

あいつはこう言った感じる力は強い。それに加えて天才的に言葉を選び綴る。それが、念仏よりも聞こえがよく、聖的に感じる。あいつは言葉の重みを知りながらも、誰よりも軽く見ている。そして、幽霊が溜まりやすい場所に進んで向かう。

体が丈夫では無いことを知りながもだ。いつも無理をして、学校を休んでいる。いつも誰にも告げずにどこかに行って倒れている。だけど三日間空ける事はなかった。例え、熱を出そうが、インフルエンザにかかっていようが、無理にでも学校に来ていた。だから二日間ぐらい休んだって何とも思わなかった。

何も知らないやつからしてみれば、風邪を酷く拗らせたのだと思っているのだろうが、実際は違う。

俺と雨音の間に交わされた約束がどうにも、頭のなかで何度も響き、消える気配をみせない。

 

『三日間、出会わなかった探すな。言っても聞かないと思うから言う。三日会うことの無い相手は構わずに忘れろ』

 

その約束をしてからと言うもの、三日間出会わなかった事は無かった。雨音がそこまでして執着する約束、どれほど大切なのか未だに分からない。だから会って確かめたい。

そして、鬱蒼としていた道を抜けると、蔦に覆われた緑色の鳥居が見えてきた。

 

「ここが本当に誰も居ない神社か?」

 

自分の目を流石に疑った。いつしか神主も住職も誰も居ないと言われ、廃れていった神社だと思っていたが、現実は違った。誰かが確り管理しているようで、鳥居以外は手入れが行き届いている。しかし、何か違和感がある。

 

「手入れが行き届いているってよりは…………時間が止まってるみたいだな」

 

「あら、よくわかってるじゃない」

 

違和感について呟くと、右側から声をかけられた。それに反射的に向くと、美しい女性が立っている。常軌を逸していると思える程に美しい…………のだが、そんな人がここに居ることに違和感が先程よりも強く自己主張している。だけれども、ついつい見とれてしまう。

 

「あなた、可愛いわね。名前、何て言うのかしら?教えてもらえる?」

 

声が心地よく浸透していく、一挙一動の動きすら、華麗に見えている。しかし、それと共に恐怖が湧き出す。

そんな心を知ってか、女性は柔らかく微笑み、ゆっくりと近付いてくる。そして優しく囁きかける。

 

「そんなに怯えなくても大丈夫よ。私が何かすると思う?」

 

思わないと声に出そうとしたが、言葉になる前に消えていく。口は動いているのにも関わらず、音にならない。どうしてかは俺にも分からない。酸素は十分に吸い込まれて、進行形で呼吸はしている。なのに、音にならない。

それを見て、面白かったのか女性はクスクスと小さく笑っている。釣られて笑いそうになるのだが、何か笑えない。それどころが、本能は全力で逃げろと指示を出している。ここにいては死んでしまうと錯覚するほどに。

そして、少しずつ視界が暗くなり始め、平衡感覚が無くなり倒れそうになる。

かろうじで見えている視界で女性が俺に触れようとした瞬間、とてつもない衝撃が身体中に走り抗うことが出来ずに飛ばされた。

二度三度、地面に打たれたところで、反射的に体勢を立て直して衝撃が来た方に目をやった。

そこには、長い年月を太陽の元で使われ、色褪せかけているキャップボウを被った四日前に見た少年が立っていた。その少年の名前を思わず叫んだ。

 

「雨音!!」

 

「なんで…………なんで、この世界まで来やがった!!!

十六夜!!!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、自分のなかにあった何かが音をたてて崩れ去るのが感じられた。

十六夜雨音、それが探している友のはず。そして雨音が目の前にいるはずなのに、その人物がどうして、俺の事を十六夜と呼ぶのか理解が出来ていなかったが、歯車はそれでも勝手に回り始める。

始めて雨音が居なくなってから四日が経っているはずなのに、なぜか昔の事のように感じている。

 

「さっさと目ぇ覚まして、その記憶を剥がしやがれ!!!!」

 

「(あぁ、そういうことか)」

 

理解した。文字にしてみればそれだけだが、全て理解できた。回り始めた歯車に新たな歯車が追加された。噛み合わない、そんなことは無く、より効率的に歯車は回る。

 

『実は、伊空(いそら)君が今行方不明になっているだ』

 

『なぁ、ここに歩夢(あゆむ)が来なかったか?』

 

そうだった。俺が探していたのは自分じゃなく、親友の伊空だった。だけど、あの時はいくら探しても手掛かり一つ見付けることは出来なかったんだ。警察も探していたけど、最後に見た目撃情報以外、何も無かった。それから、数年が経って環境が変わった。伊空の家は大切な一人息子が突然の行方不明となり、警察からも見放され心中した。当時一番仲が良かったと言うことから、人殺しとまで呼ばれ陰湿な苛めが行われた。そして、転校とまでなった。

そこから数十年が経ち、ここに戻ってきた。

 

「待たせたか?伊空」

 

「漸く思い出したか」

 

「悪かったな。お前を見付けることが出来なくて」

 

「んなこと別に今はどうでもいい。

今の問題は目の前にいる化物だ」

 

伊空から手を貸り、正面を向いた。そこには女性はだと思われた者が、禍々しいものに変わりつつある。そして、神社には一面に彼岸花が咲き乱れていた。そんな時、伊空が声をかけた。

 

「おい、腕は鈍ってねぇだろうな」

 

「当たり前だ。それどころが上達してる」

 

「なら、一発であいつを仕留めんぞ」

 

「しくじるんじゃねぇよ」

 

そう言い返し、伊空と共に彼岸花を数本摘んだ。互いに彼岸花を正面と化物を囲むように投げ、確りと化物を囲うようになったのを確認すると、二人同時に詠唱に入る。

 

「我は夢を歩きし者」

「我は雨が奏でる音」

 

一節目で正面に置いた彼岸花が光始めた。何かを感知したのか、化物は攻撃を始めるが、見えない壁が障壁になって弾いている。

 

夢常(むじょう)の空を渡りし時」

響音(きょうおん)の夜を過ぎし時」

 

伊空との詠唱、三節ならこの次で完成させるが、アイコンタクトを入れ確める。その間に化物を囲うように置いた彼岸花が光始める。

 

「(まだ続けられるか?)」

 

「(そっちこそ大丈夫か?)」

 

「(だっら最後までやるぞ)」

 

一秒にも満たない時間で互いに何を考えているか共有できた。そして、詠唱の続きを綴る。

 

幽界(かくりよ)を越え友と詠う」

現界(うつしよ)を越え友と詠う」

 

四節以上は始めてやる事だが、不思議と何も不安は無かった。それどころが、失敗する可能性が何も見付からなかった。

 

「十六夜と伊空、我らが不浄の者を送る」

「伊空と十六夜、我らが不浄の者を送る」

 

最後の五節目が一番の重要、伊空もやはりと言うべきか、分かっている。だから、あることを目で訴える。わずかにだが、伊空の目に躊躇いが生じたが、すぐに決意を固め実行に移した。

 

「「彼岸へ花を手向けとし浄化されよ」」

 

五節はまだ、綴られる。表裏構成である五節は自然と次にに繋げる。ここからはアイコンタクトは不要、互いに背を会わせ詠唱を続ける。

 

「我が名は伊空歩夢、友を置き彼岸を渡りし者」

「我が名は十六夜雨音、友を見送り此岸に残りし者」

 

「友に無き罪を背負わせ、別れを告げられなかった」

「友を探す勇気を持てず、現から目を背けた」

 

「悔いて詫びよう、我が短き生」

「許しを乞おう、我が長き生」

 

「「友との再開を妨げる者よ退け!!!!!」」

 

前半の五節は送りを建前にしているが、そんなものが無い後半の五節には相手を思う気持ちを嘘偽りなく、伝える。

最後に正面に置いた彼岸花を二人同時に潰していく。そして化物を囲っている彼岸花を繋ぐように光が線となり、勢いが更に強くなっていく。それは直視出来ないほどに強くなり、光が収まる頃には化物は消えていた。

そこで大きくため息を付いた。

 

「はぁ、疲れた」

 

「疲れたじゃねぇよ!!バカが!!!

お前、何やらかしてんの分かってんのよ!!!?」

 

「あー、はいはい、怒鳴らない怒鳴らない。

記憶も確りしてるから、分かってるよ」

 

分かってる、分かっててここまで来たんだから。

 

「だったらなんで来たんだよ」

 

「決まってんだろ、俺はお前を連れ戻しに来たんだよ」

 

ここに来るまでははっきりと覚えていた目標。だけど、ここに来ると同時に忘れてしまっていた。

そういう場所何だろうな、ここは。

 

「…………お前は何無茶言ってんだよ。俺は既に死んだ身だぞ、それを連れ戻しても、どのみち幽界に戻ってくるだけだぞ?」

 

「何の宛もなくここに来て、そういうと思うか?」

 

準備を終えずに来るなんて事はしない。この日のために何度この世界、現界と幽界の狭間に存在する現幽界(げんゆうかい)の調査を重ねたことか、この場所を絞り混むのに何年かけたか、それも全て伊空が残したものがあるからだ。

 

「なぁ、覚えているか?これを」

 

そう言いながら、背負ったカバンから一冊のノートを取り出した。伊空は驚いた表情をする。そうだろう、このノートは伊空と二人で完成させた、かけがえの無いものなのだから。

ノートには子供の落書きとしか見られない模様が並んでいる。何度も似たような模様が並べられ、何を示してるのか分からないだろう。だけど、俺らには読める。一から作り上げた文字、二人で頭を捻り考えた唯一無二の文字、俺もそう思っていた。

あの日、伊空が居なくなって三日が経った日、机に入れられていたノート。それをカバンにしまって何度も読み返した。何かあるのでは探したけれど何も分からなかった。

 

「あの時からデキが違ってたんだな」

 

「お前は漸く俺に追い付いたみたいだな」

 

そう、気付いたのは引っ越した後だったが、読めるまでは至らなかった。長く考え、文字に隠された真意を読み取ろうとしていた。時には新しい考え方をして、時には過去を振り返って、一から組み直した。けど、解けなかった。何度心が折れそうになったか分からないほどに悩んだ。

そして見付けた時は流石に激怒した。

 

「まさか、一文字で読むんじゃなく二文字を合わせて一文字を表していたなんて」

 

「まだまだ、だな」

 

伊空が勝ち誇ったように笑った。そして、表情を真剣なものにして言葉を紡いでいく。

 

「分かったなら、大人しく帰れ。

ここはまだお前が来ていいような場所じゃない。今ならまだ間に合う」

 

伊空が残した思いとは、説得の言葉の数々だった。どれほど大切に思われ、気遣われていたのか、その時に気付かされた。だからこそ、

 

「そんなのは無用だ。俺は、伊空、お前とまた下らない事で笑い会う日々を過去に作りに行く」

 

「やっぱり、お前もそこに辿り着くか…………お前が何を望んでここに来たのか、どうやってその方法を知ったのかはこの際どうでもいい。

だけどな、俺はお前をこの先に通すわけには行かないんだよ」

 

今見えている太陽が完全に沈めばこれからやろうとしている事、過去へと魂、記憶を送る事が出来なくなる。現界でも幽界でも不可能だが、この現幽界ではそれが可能となる。

それで……

 

「伊空、お前も助かるのになぜ止めようとする!!」

 

「やっぱりお前じゃ、過去に行ったとしても何も意味をなさないか………………」

 

伊空は理由を答えようとせずに、自己完結したようだった。目の前の友を救うために、目の前にいる友を倒さなければならないかもしれない。そう思うと伊空が不意に呟き始めた。

 

「なぁ、一つだけ、話を聞いてくれ。それからお前が自分で判断しろ。

だがな、聞かないと言うなら、俺もお前を止める」

 

伊空は完全に腹を括っている。地力の差では互角かもしれないが、勝てない。心の奥底からそう感じている。勝負を始める前に心が敗けを認めた。そうなれば、勝負にならない。

 

「わかったよ、話を聞こうか」

 

そう言って、彼岸花が咲く場所に腰を下ろした。風に吹かれ彼岸花がかすかれに揺れる。

そして伊空が語り始める。

 

「先ず、お前が見た記憶は俺のだ」

 

最初の一言で思わず声を上げそうになるが、堪えて話を聞く。

 

「十六夜、お前がしようとしている事は既に俺がしていたんだ。俺は二つ目の人生を歩んでいた。それはお前を救うためにだ。

過去に戻れば救える命だったが、必ず戻った奴が死ぬ。これは何度も試された結果から来ているものだ」

 

伊空の言うことに信憑性は全く無い。だが、本当の事を言っているのだと、理解しかける。

 

「俺はお前に助けられ、お前は死んだ。

そして俺は今のお前と同じように過去を変えようと挑もうとした。だけど、今の俺と同じようにお前が立ちはだかり、この話をした。

俺たちは無限に繰り返し、死んで助けてを繰り返しているんだ」

 

「もういい、伊空、言いたいことは伝わった。だけど、それを知ったら助けに行かないわけは無い。俺はこの先に行く。例え何度繰り返そうが、何度死のうが俺はお前を助ける。ただそれだけさ」

 

もう既に決めていた事を言っているのに過ぎない。一度決めた道を違える事は何があってもしない。最後に伊空、お前に会えて良かったと思っている。だから聞かせてくれ

 

「お前は何で死んだんだ」

 

「…………………………………………」

 

伊空は沈黙した。自分の死を確められないほど間抜けな奴じゃない。何が原因で死んだのか、伊空ならわかるはずだ。

 

「お前が本当に伊空なら、どうして死んだのかわかるはずだ」

 

やはり、伊空は黙り続ける。答えを探しているようにも見えるが、見付かるはずがない。なぜなら、

 

「お前は伊空じゃない。形だけを真似たただの偽物だ」

 

「な、何を言うんだ!!」

 

「本物はどこにいる。答えろ、幽界の住人」

 

「………………本当に賢いんだな。話したことは全て伊空から聞いた本当の事だ。

それと伊空ならこの奥にいる。早く行ってやれ、きっと待ちくたびれてるぞ」

 

そう言うと目の前から姿を消した。本当に幽界に帰ったのだろう。

そして向かう。伊空が待っている湖に。

 

「来たか、雨音」

 

「遅れた、歩夢」

 

互いに決めた言葉を交わし、本人だと証明した。

やることは決まっている。

 

「俺は過去に戻ってお前を助ける」

 

「意思は変わらなかったか。だから、俺も覚悟を決められた」

 

何度も繰り返された時間で、何度同じような答えが出たんだろう。その度に、幽界の住人に頼み、記録を残して貰った。

現界と幽界の時の流れは異なるから、できたのだ。そして、今回は新しい試みを始める。今までどちらか一方だけが戻り、死ぬことを繰り返した。しかし、二人同時に戻ったのなら何が起きるのか、決められたレールから外れるが新しい道となる。二人とも死ぬのか、生きる残るのか、誰にも分からない。

 

「戻ろう、二人で」

 

「あぁ、何が起こるか分からねぇけど」

 

「「絶対に乗り越えるぞ」」

 

そう言って、俺らの旅がまた一つ増えるのであった。




まだ回収しきれなかった物もありますが、続編は無いつもりです。

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