僕の家族   作:詠符音黎

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マギルゥ・オンステージ!

「皆の者聞けぇ~いっ!」

 

 ベルベット達がくつろいでいる居間にマギルゥが大声で現れたのは、太陽の眩しい日曜日の昼頃のことだった。

 

「ちょっと何よマギルゥ、いきなり……」

 

 ベルベットが呆れた顔でマギルゥを見る。

 

「どうせまたくだらんことだろう」

 

 更に、アイゼンが同じく呆れた表情で言う。顔だけでなく、両の手のひらを上に向け、全身で呆れを表している。

 

「なんじゃないなんじゃいお主ら! いきなり扱いがひどくないかえ!?」

「そうだよ、本当に何か重大な発表かもしれないじゃないか! ……多分」

「坊や、その『多分』が一番傷つくぞえ……」

 

 自信なさげに言ったライフィセットに対し、マギルゥは肩を落としながら言った。

 だが、すぐさま姿勢を戻し、胸を張って居間の中に入ってくる。

 

「ふふふ、まあよい。いいかお主ら! なんと! この儂の公演が来月に開催されることになったぞー! 拍手ー!」

 

 マギルゥはその言葉と共に自分で自分に拍手を始めた。

 それを聞いた居間の面々は、へぇと驚いた顔になる。

 

「あら、本当にまともなことでしたね! おめでとうございます、マギルゥ」

 

 エレノアが笑顔でマギルゥを祝う。ちゃんとマギルゥに拍手をしながらだ。

 

「うむ、ありがとうありがとう!」

「へー、それで、一体どこで公演があるんだ?」

 

 ロクロウが興味津々にマギルゥに聞く。

 すると、マギルゥは待っていましたと言わんがばかりに、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ふふふ、それはななんと――」

「どうせ今度あるお祭りの出し物の一つとしてでしょ」

「な、何故それを!?」

 

 ベルベットの言葉にマギルゥは出鼻をくじかれ、必要以上に驚く。

 ベルベットは、そんなマギルゥを見てはぁとため息をついた。

「この家の主婦をやってるの誰だと思ってるのよ。回覧板とかでそういう町の情報は回ってくるのよ」

 

「な、なるほど……」

 

 マギルゥを始め他の面子もその言葉に納得する。ただ一人アイゼンが、

 

「その歳で主婦を名乗るのはいいのか?」

 

 と突っ込みベルベットに苦い顔をさせるのだが。

 

「まあそういうわけで、儂の久々の公演を来月の祭りですることになったんじゃよー」

「マギルゥの公演かぁ。そういえば、前の公演から結構時間経ってたね」

「そうなんじゃよーなぜか仕事がなかなか入らんでのー。儂も困っておったんじゃよー」

「困ってるならちょっとは働こうとしなさい。ずっと家でゲームばっかやってたのはどこの誰よ」

「儂は無駄なことに力を割きたくないんじゃよー」

 

 ベルベットの言葉にマギルゥはそっぽを向いて応える。ベルベットはそんなマギルゥに呆れたようにため息を付くことしかできなかった。

 

「公演ねぇ。ところでどんなことをやるんだ?」

「そう! それじゃよ!」

 

 マギルゥは待っていましたと言わんばかりに、質問してきたロクロウに指を指した。

 

「せっかくの久々の公演なんじゃ。こうド派手にいきたいじゃろう? というわけで、今回の公演お主らにも手伝ってもらうぞよ!」

「ちょ、なんでそうなるのよ!」

 

 ベルベットが驚きながら言う。マギルゥはそのベルベットにふふん、としたり顔を見せる。

 

「何故って、お主らはマギルゥ奇術団の一員じゃろ?」

「そんなものに入った覚えはまったくないのですが」

「まあそう言うなエレノア。儂らは死なばもろとも、一蓮托生の間柄ではないか」

「お前と一緒に死ぬのはごめんこうむる」

 

 アイゼンがぴしゃりと言う。

 それでもマギルゥは笑顔で話を続ける。

 

「まあとにかく! お主らにぜひ儂の公演を手伝ってもらいたいんじゃよ。ここでドッカーンと受ければ、次の仕事に繋がって儂のスター街道に繋がるんじゃて」

「……マギルゥのスター街道に繋がるかはともかく、穀潰しのマギルゥが少しでも忙しくなるなら手伝ってもいいのでは?」

 

エレノアがある種納得したように言う。

 

「穀潰して……」

 

 そのエレノアの言葉に、マギルゥは複雑な表情で答えた。

 一方ベルベット達も、「確かに」とエレノアの言葉に納得する。

 

「確かにマギルゥに少しでも働いてもらうにはここで協力するのもありっちゃありか……」

 

 ベルベットが顎に手を置きながらそう口にする。

 

「まあ悪くない話だと思うぜ。それに、少し面白そうだ」

「俺としてはただ面倒なだけだが……まあ昼間寝る時間にマギルゥがいてうるさくされるよりはマシか」

 

 ロクロウがニヤリとしながら、アイゼンが渋い顔で言う。

 

「はいはい! 僕は普通に手伝うよ! マジックの手伝いってなんか面白そう!」

 

 最後にライフィセットが手を上げて楽しげに言った。

 

「よし! これで決まりじゃな! マギルゥ奇術団の船出じゃー!」

 

 マギルゥは皆が乗り気になってくれたことに両手を上げ喜ぶ。

 

「で、どんなことをするわけ?」

 

 小躍りするマギルゥを半目で見ながらベルベットが言う。

 その言葉で、マギルゥは「そうじゃった」と動きを止める。

 

「ふーむ、皆にやってもらいたいのは二つじゃな。基本は儂が一人で進めるが、最後らへんにとっておきとして二つぐらい大掛かりな奇術をやるつもりでのう」

「へぇー、何と何?」

 

 興味津々に聞くライフィセットに、マギルゥはまたもやしたり顔になる。

 

「ふふっ、何を隠そう、空中浮遊奇術と人体切断奇術じゃよー!」

 

 マギルゥは大げさに両手を広げて言う。

 

「……それ大丈夫なやつですか? 危なくないですか?」

 

 と、そんなマギルゥの機嫌とは反対に、心配そうにエレノアが聞く。

 

「大丈夫じゃよー儂を信じるのじゃー」

「普段の行いから信用ができません!」

「ぐへぇ! エレノアは厳しいのう……」

「別にエレノアじゃなくても心配になるわよ。そもそも、ここにいる皆あんたのマジックの腕前よく知らないんだから」

 

 ベルベットがそう言うと、マギルゥは「そうなのかえ?」ときょとんとした表情で皆を見る。

 

「言われてみればそうだなぁ。俺あんまマギルゥのマジック見たことないな」

「俺もだな。そもそも、ロクにマギルゥが何かしている姿を知らん」

 

 と言うのはロクロウとアイゼン。

 それにベルベット、エレノア、ライフィセットもうんうんと頷く。

 

「ふーむ、そうか……なら、一度儂の奇術を皆に見てもらう必要がありそうじゃの。それ、皆の者庭に出い! 儂の奇術、たっぷり披露して見せようぞ?」

「えー面倒臭い」

「面倒臭いとはなんじゃベルベット! 知らないと言うたのはお主らのほうじゃぞ!?」

「見てみようよベルベット。面白そうじゃないか」

「まあ、ライフィセットがそう言うなら……」

 

 目を輝かせて言うライフィセットに、ベルベットは渋々と言った様子で頷いた。

 そうして、全員が外の庭に出る。そして、マギルゥが倉庫から持ってきたテーブルを中心に他の面子が囲むように座ったり立ったりなどした。

 なお、マギルゥはいつの間にか奇術用の派手な衣装――ピンクの帽子に、肩の露出した同じくピンクの衣装、本のスカートという奇抜な服装に着替えていた。

 いつの間に着替えたの? とベルベットが聞くと、「これも奇術師には必要なテクニックなのじゃよー」とはぐらかされた。

 

「それではまず景気づけに一発……そぉーれ!」

 

 マギルゥがそう言い帽子を振りかざすと、その帽子の中から何匹もの鳩が飛び出してきた。

 

「わぁ! 凄い!」

「おお手慣れたもんだなぁ」

 

 ライフィセットとロクロウが拍手する。マギルゥはそれに対し、とても得意げな顔をした。

 

「ふふ、そうじゃろそうじゃろ」

「……で、いいの? 鳩、どっかに飛んでっちゃいそうなんだけど」

 

 ベルベットがそう助言すると、マギルゥは「何ぃ!?」と言って飛んでいく鳩を見た。

 確かに、鳩は空に向かって元気よく飛んでいた。

「これお主ら! どこへ行く! 戻ってこんかーい!」

 

 結局、マギルゥがすべての鳩を回収するのに三十分近くかかってしまった。

 

「オイオイ大丈夫かいきなりこんなんで」

 

 アイゼンがいきなり失敗してしまったマギルゥに聞く。

 

「だ、大丈夫じゃ……今のは鳩が久々のことにびっくりしただけじゃて。今度はちゃんと儂の奇術を見せるぞ!」

 

 マギルゥは肩で息をしながら応える。

 そして、呼吸を整えながら姿勢を正した。

 

「さて、次に見せるはカードマジックじゃ! ここに取り出したのはなんの変哲もないトランプ!」

「おお、どこからともなくトランプが出てきたぞ」

「こういうところをさらっとやってのけるのも魅せる手段の一つなんでしょうね」

 

 ロクロウとエレノアが感心したように言う。

 しかしマギルゥは、完全に演者としてのスイッチが入ったのか、普段なら得意げになる二人の反応も気にせずに奇術を続ける。

 

「このトランプには何の仕掛けもない! ほれ坊や。確認してみぃ」

「えーと……うん大丈夫。特に変なところは見当たらないよ」

「よしよし。それでは坊。これから儂がこのトランプをシャッフルするので、好きな一枚を引くといい。そして、それにこのペンでサインをするのじゃ」

 

 マギルゥはまたどこからともなくペンを取り出してライフィセットに渡した。

 

「うん、分かった」

 

 ライフィセットは言われた通り、マギルゥがカードを混ぜるのを待つと、その山札のなかから一枚取る。そして、それに自分の名前を書いた。

 

「よくやったの坊。それでは再びこのカードを混ぜるとしよう」

 

 マギルゥは再び山札を混ぜた。そして、それを五つの束に分ける。

 

「さてここに分けましたは五つの山札。皆の者。それぞれてっぺんをめくってみるといい」

 

 ベルベット達はマギルゥに言われた通り、それぞれが五つの束のうち一つを選び、そして、その一番上のカードをめくる。しかし、

 

「……別に、普通のなんの変哲もないカードだけど」

「こっちもです」

「俺もだな」

「俺もだ」

「……僕も」

 

 別に正解のカードが出て来るというわけではなかった。

 

「オイマギルゥ、また失敗か?」

「おやおやおかしいのう? おや? 坊、そのポケットに入っているのはなんじゃ?」

「え?」

 

 ライフィセットはそこで初めて何かが自分のポケットに入っているのに気づいた。ライフィセットはまさかと思いつつもそのポケットの中に入っている物を出す。すると、それはやはり、ライフィセットがサインしたカードだった。

 

「え!? いつの間に!?」

「どうじゃ! これぞ儂のカード奇術! マギンプイ!」

「おお……!」

「……素直に凄いわね」

 

 両手の人差し指を横に向けるポーズを取って成功をアピールするマギルゥに、ベルベット達は素直に感心した。

 ロクロウとライフィセットなどは、先程以上に大きな拍手をマギルゥに向けている。

 普段無表情なアイゼンも、目を見開いて驚いているようだった。

 

「さてさてこれだけでは終わりません! マギルゥの大奇術は、これからが本番じゃー!」

 

 そう言って、マギルゥは様々なマジックをベルベット達に披露した。

 先程と同じくカードを利用したマジックに始まり、コインを次々に出してバケツに入れたり、ボールを宙に浮かせたり、無数の花を出したりなどした。

 そうしてあっという間に時間は過ぎていった。

 いつの間にか、ベルベット達はマギルゥの演目に魅了されていた。

 

「はい! これにてこのマギルゥのステージは終了! マギンプイ! どうじゃったかなー皆の者?」

 

 そして、ついにマギルゥのベルベット達に向けたステージが終了した。

 その終了と同時に、マギルゥに拍手が向けられる。

 

「凄かったよ! マギルゥ!」

「ええ! やればできるんですね!」

「おう! 楽しかったぜ!」

「ああ、マギルゥと侮っていたが、なかなか見事なものだった」

「……まあ、確かに凄かったわ。ちゃんと腕は一流なのね」

 

 それぞれがマギルゥを褒める。

 その褒め言葉に、マギルゥは少し顔を赤らめた。

 

「な、なんじゃいなんじゃい! 普段あれだけバカにしとるのに、そう素直に褒められると調子が狂うではないか!」

「あら? 照れてるの?」

「照れとらんわい!」

 

 ニヤニヤとした表情で見るベルベットに、マギルゥはプイとそっぽを向きながら言う。

 マギルゥが照れているのは誰の目にも明らかだったが、それ以上は誰も追求することはなかった。

 

「とにかく、これで儂の腕は分かったじゃろう? なら……」

「ええ、手伝ってあげる。皆もそれでいいわよね?」

「うん!」

「ええ」

「応!」

「ああ」

「うう……ありがとうのう皆」

 

 こうしてベルベット達はマギルゥのステージを手伝うことになった。

 その日から、マギルゥによるマジックの指導が始まった。

 せっかく五人が手伝ってくれるということなので、最初に予定していた演目よりも少し増やすことにしたマギルゥは、五人と色々話し合った。

 そして、その結果空中浮遊と人体切断マジックの他に、入れ替わりマジックをすることにした。

 箱に閉じ込めた人間の場所を入れ替えるというマジックだ。

 マギルゥは五人にそれぞれのマジックの種を明かした後、日夜六人でマジックの特訓をした。マギルゥの態度は笑いながらもとても真剣だった。少しの油断が大怪我につながりかねないと五人を注意し、五人もそれに従った。

 最初こそなかなかうまくいかなかった。

 

「これアイゼン! 無駄に洒落たトークを入れようとせんでいい! そういうのは儂の役目じゃて!」

「そうか? しかし芸をするとなると観客を暖めなければ……」

「だからー! そういうのは儂の役目じゃと言っておるのじゃ!」

 

 ときには前に出ようとするアイゼンを注意したり――

 

「これベルベット! リハーサルの段階から恥ずかしがってどうする!」

「だ、だってこういうのあんまり慣れないし……」

「お主には荒療治が必要じゃの……よし! 近所の公園で奇術をミニ披露するからお主ついてこい!」

「え……ええー……! い、いいわよ一人で行ってきなさいよ!」

「お主のあがり症を治すために行くんじゃろうが!」

 

 意外と緊張しやすいベルベットに苦労させられたり――

 

「ロクロウ!? 本物の刀を持ってきてどうするつもりじゃ!?」

「いやだって人体切断するなら刀が必要だろう?」

「それにはそれようの大道具があるんじゃよ! いいから戻してくるんじゃ!」

「いやでもこっちのほうが切れ味が……」

「本当に斬ってどうする!?」

 

 何かと刀を持ち出そうとするロクロウに辟易したりなどした。

 そんなこんなで六人の特訓は続いていき、ついに祭り前日となる。

 

 

「とうとう明日じゃのー、皆の者、準備はいいかえ?」

「うん、大丈夫だよ!」

「祭りの会場設営も手伝いましたし、準備は万端です!」

「いやー大変だったな。まさかあそこまで派手な舞台にするとは」

「他の演者も使うのにあそこまで派手に盛って大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃてー。運営委員会からもオッケーは出ておる」

 

 ライフィセット達の反応に、マギルゥは楽しそうな顔をする。しかし、一方でベルベットは不安そうな面持ちをしていた。

 

「どうしたベルベット? 今から緊張しておるのかー? ふふふ可愛いやつめ」

「そういうんじゃないわよ! ただ、天気予報が気になってね……」

「ほえ? 天気とな?」

「ええ。今日の夜、嵐になるらしいの。多分明日には晴れると思うけど、会場とか大丈夫かなって……」

「なるほど……まあ、明日になってみんとそこは分からんのぅ」

「能天気ねぇ」

「まーのー」

 

 ベルベットが呆れ顔になるが、マギルゥはそんなのお構いなしと応える。

 

「ま、確かに私達にできることはもうないわね。今日はゆっくり休んで、明日への英気を養いましょう」

「そうだね」

 

 ベルベットの言葉にライフィセットが応える。

 他の五人も頷き、その日は家でゆっくりすることにした。

 その夜のことである。

 

「……あー、やっぱり降ってきたわね」

 

 ベルベットが居間から窓の外を眺めながら言った。

 

「本当じゃのう。なかなかの風じゃ」

「明日、大丈夫かなぁ」

「ベルベットが言うには朝には晴れてるんだろ? なら大丈夫じゃないか?」

「そうだといいですが、やはり会場が気になりますね……」

「ふーむ……」

 

 一同に微妙な沈黙が流れる。

 その間にも雨風はベルベット達の家の窓を激しく叩いていた。

 

「ま、なんとかなるじゃろー」

 

 そんな沈黙を、マギルゥが楽観的な意見で打ち壊す。

 

「まったくあなたのステージなのに……いいの? そんな態度で」

「いいんじゃよー、今更焦ってもどうにもならないて。そうならば、楽観しておくのが精神衛生上的に良いと思うがのー」

「……ま、それもそうね」

 

 ベルベットはマギルゥに少し呆れながらも笑顔を見せた。

 

「じゃろー?」

「……ふふっ」

「ははっ」

 

 エレノアやライフィセット達もつられて笑顔になる。

 結局、その夜はそのまま過ごし、全員就寝することとなった。

 

 

 ――翌朝。

 

「……おはよう」

 

 ライフィセットは眠たい眼をさすりながら部屋から下の居間に降りた。

 

「あらおはようライフィセット」

「おはようベルベット。なんとか晴れてよかったね」

 

 外は晴れ晴れとした快晴だった。地面が湿ってはいるが、祭りを行うには問題ない天気だ。

 

「そうね、後は会場が影響なければいいんだけど……」

「おはようございます」

 

 そこにエレノアが降りてきた。

 エレノアはまだ眠たげなライフィセットと違ってしっかりと目が覚めていた。

 

「おはようエレノア」

「おはよう」

「おはようございます二人共。いい天気で良かったですね。ところでベルベット、マギルゥを見ませんでしたか?」

「マギルゥ? まだ寝てるんじゃないの?」

「いえ、私もそうだと思って部屋に行ったらすでにいなくて、下にいるものかと思い来てみたのですが……」

「ふむ……」

 

 エレノアの言葉に、ベルベットは少し考え込む。

 

「もしかして……」

 

 そして、何かを思いついたように目を光らせた。

 

「……エレノア、外にいるアイゼンとロクロウ呼んできて。庭で稽古してると思うから」

「え? ええはい。でもどうして」

「いえ、私の予想が正しければ、多分マギルゥは……」

 

 

 祭り会場。

 多くの人間が慌ただしく行き交うその場所に、マギルゥはいた。

 マギルゥは、大勢の人間に混じって、嵐によって壊れた会場の修繕をしていた。

 

「ふぅ、随分派手にやられたのぅ」

 

 マギルゥは壊れたステージの装飾を直しながら言う。

 

「むっ、ここなど新しい木材を打ったほうが早いかのう? おーい! 誰かトンカチと木材持って来てくれぬかー!?」

 

 マギルゥは叫ぶ。しかし、人手が足りないのかなかなかトンカチと木材がやってこない。

 なので、マギルゥは壊れた箇所を見ながら他の修繕について考えることにした。

 

「ふむ、ここを直したら次はあそこかのう? はぁ、大分大仕事になりそうじゃて……」

「はい、トンカチと木材」

「おお! これは助かる……って、なあああああああああああ!?」

 

 マギルゥは驚いた。

 なぜなら、そのトンカチと木材を渡してきたのが、ベルベットだったからだ。

 その後ろには、ライフィセット達もいた。

 

「お、お主ら!? 何故ここに!? まだ時間じゃないじゃろう!?」

「それはこっちの台詞よ。……あなた、なんだかんだで一番会場のこと心配してここにやってきたんでしょう」

「う……ち、違うわい! ただ朝の散歩に偶然ここによったら捕まっただけであって――」

「朝一番起きるのが遅いあんたが朝の散歩ねぇ、へぇ」

「うぐぅ……」

 

 マギルゥはニヤニヤと言うベルベットの言葉に、二の句を告げなくなっていた。

 そして、開き直ったように口を開く。

 

「そうじゃい! 儂は心配だったから来たんじゃい! 儂の久々の公演、しかもお主らと一緒に練習した公演じゃからの! ふいになったら悔しいではないか! これで文句あるかー! 小心者と笑いたければ笑うがいいー!」

 

 やけっぱちに言うマギルゥ。

 マギルゥは笑われるのを覚悟していた。

 しかし、いつまで経っても笑い声は飛んでこない。

 その代わりに、ベルベットが優しくマギルゥの手を包み込む。

 

「笑うわけなんてないじゃない。私達だって気持ちは一緒よ。行くなら一言相談してくれればよかったのに」

「そ、そんなの――」

「ま、できるわけないわよねぇあなたの性格から。あなた捻くれ者だもの」

「……ふん! 悪かったな!」

 

 マギルゥは顔を真っ赤にしながら明後日の方向を向く。

 そんなマギルゥの顔を、ベルベットは両手で挟んで顔を無理やり自分の方へと向かせた。

 

「へぐぅ!?」

「でも! 今回は相談して欲しかったわね。こんなすぐバレることせずにね。そうじゃないと、寂しいじゃない。私達、家族なのに」

 

 ベルベットは静かにマギルゥの顔から手を離して言った。

 その顔は、とても穏やかな笑顔だった。

 

「ベルベット……」

「さて、とっとと修繕片付けるわよ! いいわねあなた達!」

「うん! 任せてよ!」

「はい! 生徒会長としてこういう作業には慣れていますから」

「ハハッ、これは女子供に負けるわけにはいかないなぁ、アイゼン?」

「そうだな。こういう時こそ男の力が必要だろう。男はこういうときにこそ活躍することで価値が磨かれるというものだ」

「お主ら……ふ、ふん! あとで面倒と言っても儂は知らんからの!」

 

 マギルゥはそう言って、五人に背中を見せた。

 しかし、その口元はわずかに笑みを浮かべていた。

 そうして、六人は一緒に会場を修繕した。

 六人が加わったことにより、会場はあっという間に修繕されることとなった。

 そして、時間は流れ、祭り本番――

 

 

「さてお主ら、準備はいいかえ?」

「え、ええ……」

「あ、ベルベットまた緊張してる。大丈夫?」

「だ、大丈夫よ! そう、客はかぼちゃ、客はかぼちゃ……」

「あはは……まあ散々訓練しましたし、なんとかなりますよ」

「ふふ、俺の鍛え上げた県議を披露できないのは残念だが、そのかわり存分に切断されるぜ!」

「本当に客をトークで沸かせなくて大丈夫か? なんなら今からでも……」

「そういうのはいいですアイゼン」

「ふむ、大丈夫かのう……まあ、なるようになれじゃ! 行くぞ! お主ら!」

 

 そうして、マギルゥ達のステージが始まった。

 

「ようこそ! マギルゥ・オンステージへ! マギンプイ!」

 

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