しかし、そんなみほにはどうしても和解したいもう一人の人物がいた。
みほは、その人物との関係をギクシャクとしたままにしていたからだ。
だが、そんなみほの前に突然、自転車に乗って現れた人物がいた。
それは、みほが和解したいと思っていた、逸見エリカその人だった。
※このSSは、Pixivにも投稿してあります。
「うーんいい天気!」
私、西住みほは、すでに茶色くなり始めている草花に挟まれた小道で、大きく背伸びをした。
私は今、自分が通っている学校の母港である大洗ではなく、私の生まれ育った地元、熊本にいる。
なぜ私が熊本にいるのかと言うと、私はこの秋に、いわゆる秋休みと言うものを使って、実家に帰省したのだ。
秋休みは短い。でも、それでも私はその僅かな時間を実家で過ごしたいと思った。
それは、長い間ギクシャクとしていたお母さんとの関係を、どうにかしたいと思ったからだ。
お母さんには夏休みの最後にあった事件、廃校の危機と大学選抜戦で大きく力になってもらったと、お姉ちゃんから聞いた。
お姉ちゃんは口止めされていたらしいけど、こっそりと私に教えてくれたのだ。
それを知ったとき、私は思わず涙を流してしまった。だって、お母さんはてっきりもう私のことなんて嫌いになってしまったのだと思ったから。
でも、そんなことはなかった。お母さんは、私のことを、私の戦車道を認めてくれていたのだ。
私はお母さんの尽力を知ったことで、お母さんと仲直りをすることを決意した。
……仲直りなんて、なんだかおかしな言い方かもしれない。
西住流として見れば、悪いのは私なんだから。でも、私は私のやったことを後悔していない。
そのことが、お母さんにもちゃんと伝わったんだと思う。だから私はこうして熊本に来た。
そして、私は熊本の実家に返ってくると、お母さんと話し合った。
お母さんは最初知らないと言ったような顔をしたけど、すぐに私が全部知っているということを知ると、やれやれと言ったような顔を見せた後、こう言った。
「……みほ。あなたの道は西住の道ではありません。それは今も昔も変わらないこと。……しかし、あなたの戦車道は確かにあなたにとっての確かな道となっているようですね。私は、それを否定はしません」
それは、お母さんが私のことを認めてくれたということだった。
その言葉を聞いた瞬間、私は再び涙を流した。だって嬉しかったんだもの。お母さんが、私のことをちゃんと認めてくれるだなんて、もうないことだと思っていたから。
「……ありがとう、お母さん!」
突然泣き出す私を心配するお母さんに、私は笑顔で言った。するとお母さんもまた、静かに笑みを浮かべてくれた。
お母さんの笑顔だなんて、もう何年も見たことなかったのに。そのことが、ああ、本当にお母さんは私のこと認めてくれたんだなぁ、って再確認することができて、やっぱり嬉しかった。
それから、私は私とお母さん、それにお姉ちゃんとお父さんを交えてご飯を食べたり、一緒に出かけたりした。
その体験は、とてもじゃないけど語り尽くせないと思う。だって、今までずっとかなわないと思っていた家族らしい生活っていうのを、子供の頃以来に味わった気がするから。
そして、そろそろ秋休みも終わろうという日にちになってきた。
私はお母さん達に言った。
「私、今日は一人で家の周りを回ってみたいの」
「なぜ一人で?」
お姉ちゃんが聞いた。
「うん、私ってずっとお姉ちゃんにべったりだったでしょ、昔は。それになんの不満もないんだけど、たまには一人で散策したいな、って思うの。ほら、そうすることで懐かしい場所にも何か新しい発見があるかもしれないじゃない?」
私がそう言うと、お姉ちゃんは「なるほど」と頷いた。
そういう経緯があって、今私はこの小さなあぜ道を歩いているのだ。
一人での散策は、思った以上の発見があった。子供の頃には気づかなかった景色がいっぱい私の目に飛び込んできた。
風の音色が、虫の声が、心地よいハーモニーを奏でていた。それに一人で耳を傾けるなんて、ちょっとやんちゃだった昔では考えられなかった。
だから、私は今こうして一人を楽しんでいた。
きっと、この熊本旅行は私にとってのかけがえのない思い出となるだろう。そんなことを思いながら。
「……でも、どうせ仲直りするなら、お母さんだけじゃなくて……」
そう。確かに今回の帰省はかけがえのない思い出だ。だってお母さんとは仲直りできたもの。
でも、熊本、もとい黒森峰にはもっとたくさんのものを残してきている。それをどうにかできなかったのは、ちょっと心残りかな。
特に、あの人とは……。
私がそんなことを思っていたときだった。
そのとき私は、小さな十字路に差し掛かっていた。すると、ふと右のほうに小さな影が見えた。
それはどうも自転車のようだった。誰かがこの小さな道を、自転車を漕いで進んでいるのだ。
最初、私は近くの農家のおじさんかおばさんかと思った。
でも違った。その自転車の速さは、力強くペダルを踏んでいる速さだったから。
そして、だんだんとその影は私に近づいてくるにつれ、その姿をはっきりとさせた。
そして、その自転車に乗っている人物の姿がおぼろげながらに見えたとき、私は驚いた。
だって、その人影に私は見覚えがあったんだから。
風になびく銀色の髪、透き通った青い瞳、きりりと整った顔立ち。そう、その人の名は――
「……エリカ、さん?」
「……みほ?」
そこにいたのは、逸見エリカさん。かつての黒森峰での友達……だった人だ。
「き、奇遇だね! エ……逸見さん」
私はなんとか言い直した。危ない危ない。さっきはうっかり名前を呼んでしまったが、今度は大丈夫だ。
エリカさんとは、正直微妙な仲だ。
私は黒森峰から大洗に転校した。それは、正直黒森峰の人達から見れば裏切りに見えただろう。
特に、黒森峰時代、西住流というものに強く憧れを抱いていたエリカさんからしたら、きっと許せないものがあったんだと思う。
だから、久々にあったとき、あんなことを言われてしまったんだと思う。
『副隊長……? ああ、元、でしたね』
あのときのエリカさんは、とっても冷たくて怖かった。
その後、全国大会決勝戦と大学選抜戦を経て少しはわだかまりも溶けたとは思うけど、正直、今でもエリカさんと話すのは怖いところがある。
だって、またエリカさんと喧嘩になっちゃうかもしれないから。
「……エリカ、でいいわよ。昔みたいに。私もみほって呼ぶから」
でもエリカさんは、私のそんな心配をよそに、落ち着いた口調で私に話しかけてくれた。
しかも、呼び方を昔のままでいいと言う。
私は正直、驚きを隠せなかった。
「……なんて顔してるのよ。私があなたに喧嘩を売らなかったことが、そんなに意外?」
「えっ? そ、そんなことないよ!」
見透かされていた。
私は少し慌ててしまう。
でもエリカさんは、そんな私とは対照的にとても落ち着いていた。
「バレバレなのよ……もう、戦車に乗っているとき以外は本当にポンコツなんだから、あなたって」
「ポ、ポンコツって……」
「でもこんなところで会うなんて、本当に奇遇と言ったところね。あなた、一人でここを散歩しに来たの? というか、いつの間に帰ってきてたの?」
「う、うん……その、秋休みの頭から実家に帰ってて、そろそろ帰るから家の周りを散策してみようかなぁ、なーんて……」
私はなんとか笑顔を作りながら言った。ただ、私の笑顔は相当ぎこちないものだったと思う。
だって、そんな私の顔を見るエリカさんが、あからさまに呆れた顔をしているもの。
「はぁ……。ま、いいわ。なるほどね。確かにここ、西住本家と近いですものね。……この道はね、私のサイクリングロードなのよ」
「サイクリングロード?」
「ええ、私は実家に帰ったら、一度は自転車で自分の決めたサイクリングロードを走ろうって決めてるの。まあママチャリだけど自転車漕ぐの好きだし、いい運動にもなるから」
「へぇー……」
エリカさんの知らなかった一面を見れたような気がして、なんだか私は少し得した気分になった。
そうやって私が感心していると、エリカさんはじろじろと私の姿を見始めた。
「えっと……エ……逸見さん……?」
「だからエリカでいいって……まあいいわ。あなた、まだ時間ある?」
エリカさんは急に聞いてきた。
そのことに、私は驚いてしまう。だって、まるでこれから私に用があるみたいな聞き方じゃないか。
「えっ? ま、まああるけど……」
「そう。ならよかった。だったら、ほら、ここ乗りなさい」
私が応えると、エリカさんはポンポンと自転車の後ろ、荷台のほうを叩いた。
「えっと……乗れ、って、そこに?」
「他にどこがあるのよ。チャイルドシートはないわよ」
私は再び驚いた。
だって、あのエリカさんが、私のことで怒らないどころか、急に一緒に自転車に乗ろうだなんて言ってきたんだから。
私はどうしようかと迷った。
本当に乗っていいんだろうか? また、エリカさんの機嫌を損ねることにならないだろうか? エリカさんにまた、嫌な思いをさせてしまわないだろうか?
「えっと……」
「ほら乗るの!? 乗らないの!?」
悩む私をエリカさんは急かす。そして、私は腹を決めた。
「の……乗ります!」
私はエリカさんの自転車の後ろに乗ることを決めた。
だって、乗らないって言ったらもっとエリカさんの機嫌が悪くなりそうだったから。
私は荷台の上にお尻を乗せ、足をタイヤの横に垂らす。横向きに座っている形だ。
「それじゃあ、しっかり掴まってなさい」
エリカさんが言う。
私はエリカさんに言われたとおり、横向きになりながらも、エリカさんの腰に手を回した。
「それじゃ、行くわよ!」
エリカさんは自転車を漕ぎ始める。私は、ゴトゴトと揺れる自転車の揺れを感じながら、エリカさんの運転する自転車に運ばれた。
私達はしばらく無言で走った。エリカさんは何も話しかけてこないし、私も話すことが見つからない。
だから、お互い喋ることなくずっと無口なままだった。
ただ、それでも自転車に乗っている間は心地よかった。気持ちいい風が私の頬を撫で、軽快なリズムが体を揺らす。そして何より、少し肌寒いと言えなくもない秋の天気の下で、エリカさんの背中は、とても暖かかったから。
エリカさんはどう感じているんだろう? むず痒くないのかな? そんな心配を私がしているのを知ってか知らずか、エリカさんは振り向くことなく自転車を漕ぎ続ける。
やがて自転車は、私の見知った道を少し逸れ、より人通りの少なさそうな小道へと入っていった。
自転車の揺れが激しくなる。砂利をタイヤが踏んでいるらしい。
私は少し心配になったので、聞いてみた。
「逸見さん! 大丈夫!?」
するとエリカさんは言った。
「大丈夫! あなたは心配しなくていいの!」
私はエリカさんが大丈夫だと言うので、それを信じることにした。そしてまた、無言のサイクリングに戻っていった。
ただ、その時間はなんというか、とても心地よいものだった。
エリカさんと一緒だと、無言の時間も辛くない。そう思えた。
そうしてどれほど走っただろうか。エリカさんが、ふと自転車の足を止めた。
「ん? どうしたの逸見さん?」
「みほ。ここを登るわよ」
エリカさんは目の前を指差した。その先には、木々に囲まれた坂道があった。自転車で登るのは大変そうな坂道だ。
「あ、そうなんだ。じゃあ、私降りて……」
「降りなくていいの」
「え?」
「だから、あなたは降りなくていいのよ」
私は耳を疑った。この一人でも大変そうな坂道を、エリカさんは私を乗せながら登るって?
そんなの、無茶だと私は思った。
「でも……」
「でもじゃないの。私がそうしたいの。ほら、行くわよ、みほ!」
「え? うわっ!?」
エリカさんは自転車を立ち漕ぎにして急発進させた。私は危うくぐらつきそうになるのを、エリカさんにしがみついてなんとかこらえた。
エリカさんは、本当に私を乗せたまま坂道を登り始めた。
とても大変な坂道だ。地面はでこぼこだし、傾斜は急だ。とても自転車で無理して登るような坂じゃない。ましてや、人一人乗っけて走るだなんて。
「逸見さん、やっぱり私降りるよ……」
「だから! 降りないでって! 言ってる! でしょ! いいから! 私に! 任せないさい! って!」
エリカさんは息も絶え絶えになりながらも私に言った。
私は心配でならなかった。無茶をして坂道を登るエリカさんが。
そして不思議でならなかった。どうしてそこまでして私を乗せて登ることにこだわるのか。
ただ、私はエリカさんを信じることにした。だって、エリカさんがこんなに一生懸命になっているのには、何か訳があると思うから。
エリカさんは秋だというのにダラダラと汗を流している。本当に辛そうだ。
私は口に出すのが何か恥ずかしかったので、心の中でエリカさんを応援した。
頑張れエリカさん、頑張って、エリカさん!
そうしてエリカさんはたっぷりと時間をかけて自転車を漕いだ。坂道は長い。日はいつの間にか傾きつつあった。
そうして、木々に囲まれた坂道が少し陰りを見せ始めたときだった。
私とエリカさんは、とうとう坂道の上にたどり着いた。
「わぁ……!」
私は思わず声を上げた。
その景色が、本当に美しかったから。その場所は木々が晴れ、大きな広場になっていた。そして、広場の向こうは崖になっており、そこから見下ろす森は遠くまで広がっていた。それだけでも見応えのある景色だったのだが、何よりも、そこから見る夕日が美しかった。
真っ赤な夕日が山々の合間から輝いており、その温かみのある光を私達に届けている。その光景は、まさに絵画に描いたかのような芸術的なものだった。
「すごい……!」
私は言った。
するとエリカさんは、それまで続けていた立ち漕ぎをやめ、くたりと地面に足をついた。
そこで私は気がついた。エリカさんは、坂道を登っている間、一度も地面に足を漬けていなかったことに。
「ハァ……ハァ……もう、降りて、いい、わよ……」
エリカさんは息を切らしながら言う。
私はエリカさんに言われたとおり自転車から降りた。すると、エリカさんもまた自転車から降りる。
自転車はスタンドを降ろされ、坂道の近くに置かれた。
私とエリカさんは崖近くの柵まで近寄る。そして、私達は二人で一緒に夕日を眺めた。
「綺麗……」
「でしょ。私のとっておきの場所なの」
エリカさんは私の横に並んで言った。
そして、夕日を一瞥した後、私のほうに向き直って、話し始めた。
「……私ね、これをあなたに見せるのが、目的の一つだったの」
「一つ?」
「そう、一つ。もう一つは、ここなら正直になれそうだから連れてきたの。あなたを乗せて自転車漕いだのは、まあなんていうか、これから私があなたに言うことを言うための、験担ぎみたいなものかしらね」
「はぁ……?」
私はエリカさんが何を言いたいのかよくわからなかった。
するとエリカさんは、スゥー……と深呼吸をすると、キッと私のほうを見て、言った。
「みほ! 今までずっとひどい態度を取っていてごめんなさい!」
「え!? ええええっ!?」
私は今日何度目かわからない驚きに襲われた。
だって、突然エリカさんが謝ってきたんだから。
「私、自分のことずっと棚に上げてずっとあなたにひどいこと言ってた! 本当に悪いのは私なのに! 本当は、あのとき水没して助けてもらった恩があるのに! それなのに……本当にごめんなさい!」
エリカさんは私に対して頭を下げてきた。私はどうすればいいのか分からず、そのエリカさんを見続ける。
「今日あなたにあったとき、まず謝ろうって思ったの。でも、その言葉が口にうまくでなくて、ここならうまく出るかなって思って……本当に、ごめんなさい」
「……ううん。いいんだよ逸見さん……頭を上げて」
「……みほ」
エリカさんは意外そうな顔をした。やだなぁ。私が罵倒するとか思っちゃったりしてたら、ちょっとそれは私怒るよ?
「私ね、分かってたから。悪いのは私だって」
「いや、そんなことは――」
「ううん。そんなことない。私もずっと後悔してた。自分の勝手な判断で、逸見さん達に迷惑をかけてしまって。でも、逸見さんにそんな風に思わせちゃってたのも、やっぱり私が悪いよね」
「だから、そんなことないって! 悪いのは私なの!」
「ううん、悪いのは私」
「私だって!」
「私だよ!」
「私!」
「私!」
私達は一歩も譲らなかった。私達は互いに睨み合う。そして――
『……っぷ。あっははははははははは!』
お互い、同時に堰を切ったように笑い始めた。
「……なんていうか、私達、お互い様って感じだね」
「そうね。ふふふ」
私達はそれぞれ笑いから流れ出る涙を指で拭き取った。
そして、笑顔でお互い見つめ合った。
「……ありがとう、みほ」
「え? 何が?」
「私、あなたが戦車道を続けてくれていて、本当に嬉しいって、今では思ってるの。だからそのことをありがとうって」
「なるほどね。それは私もだよ逸見さん。私も、逸見さんが戦車道を続けてくれて、本当に良かったと思ってる」
それは私の心からの本音だった。
あの事故のとき、水没した戦車に乗っていた隊員は殆ど学校を辞めるか科を移動したと聞く。
私のせいで、彼女達をそこまで追い詰めてしまったことを、ずっと気に病んでいた。
でも、エリカさんは続けてくれていた。あの水没した戦車の車長という、一番辛い立場にありながらも、続けてくれていたのだ。
そのことが、私は嬉しかった。
「……みほ、私達、やり直せるかしら」
「……そんなの、聞くまでもないよ。だって私達は昔からずっと、友達だもん」
エリカさんが私に手を差し伸べる。
私はその手をそっと握った。そして私達は、静かに、だがしっかりと握手をする。
「これからもよろしくね! みほ!」
「っ!?」
そのとき、エリカさんが見せた笑顔が、太陽の輝きと混じり合って、とても美しいものに見えた。
その美しさは、今まで私が見てきた何よりも美しくて、可憐で、神々しくて……。とにかく、言葉に表せないほどに、素敵だった。
ああ、なんだろうこの胸の高まりは。
さっきまでなんともなかったはずなのに、今はエリカさんの顔を見てるだけで、どんどん体温が上がってくる。
顔が真っ赤になっている気がする。夕日でごまかせてるかな。エリカさん、変だって思わないかな。
あっ、私汗とかかいてないかな!? エリカさんに臭いって思われてないかな!? そもそも、今日ちゃんと髪とかしたっけ!? いや、とかしたはずだけど、万が一ってこともあるし……!
なんだかそんなとりとめのない考えが、私の頭の中をぐちゃぐちゃとかき乱した。
「……みほ? どうしたの?」
エリカさんが急に黙った私の瞳を覗き見てきた。エリカさんが顔を近づけている。エリカさんの瞳が、鼻が、唇が近くにある……!
私はそれだけでパニックになりそうになる。
でもここでパニックになってはいけない。私は咄嗟に笑った。
「は、あははははははは! な、なんだか改めて言うとちょっと恥ずかしいね!」
「ええそうね。なぁにみほ? 今になって恥ずかしがっているの? 可愛い子ね」
「か、可愛い……!?」
そのエリカさんからの「可愛い」という言葉で、私の頭は沸騰した。
そして、その瞬間理解した。
ああ、私、エリカさんのこと、好きになっちゃったんだ……。恋する女の子になっちゃったんだ、って……。
「いつ……エリカさん」
「あ、やっとエリカって呼んでくれたわね。嬉しい」
ああもう嬉しいとか言わないで欲しいな! それだけで、私は興奮が抑えられないんだから!
でも私はなんとかその気持を落ち着けて、言った。
「エリカさん。私、頑張るから。エリカさんに認めてもらえるように、頑張るから」
「ん? 何言ってるのよ。私はあなたのこと、とっくの昔に認めてるんだから」
違う。そうじゃないの。そういう意味の認めるんじゃないの。
でも、今はそれでいい。
いつか、エリカさんにも私と同じ気持ちになってもらうその日が来るまで、私、頑張るんだから!
「へへ、エリカさん……」
私はエリカさんの手を両手で握った。
本当は抱きついたりしたかったけど、さすがにそれははしたないからね?
「もう、どうしたのよみほったら」
「へへ、なんでもない……」
私とエリカさんは、時間が許す限り、そうしていた。
この日、私は恋する乙女になりました。
ああ、どうかこの恋が、いつか実りますように……。
私は沈みゆく夕日と、これから空で輝きはじめようとしている月に向かって、そう願った。