俺は通信機に向かって叫んでいた。
「今すぐ撤退するんだ!」
しかし、相手は「うん」とは言わない。
「このままだと鎮守府が、みんなが死んじゃう。だからどうしても止めなきゃいけないの!」
「まだ勝機はある!今すぐ撤退して戦力を温存するんだ!」
「いいや、私はまだ戦えるわ!」
くそ、どうしてこんなに頑固なんだ!このままでは、彼女は轟沈してしまう。
「早く撤退してくれ!」
「嫌よ!」
こんなやり取りが一時間ぐらい続けている。よく戦えるもんだ。って感心している場合じゃない。
「鎮守府正面より十二時の方向に新たな敵艦見ゆ」
突然、通信機からそんな声が聞こえた。陸からの偵察機からの情報だ。
「艦種は航空母艦二隻、戦艦四せk……敵機だ!早く逃げろ!早く!早く!はやk」
通信が切れた。
ってええええええええええええええええええええええええ!!!
俺はすぐ彼女に無線をつなげた。
「新たな敵がそっちに向かっている!お前の力じゃ無理だ!遠征部隊の帰還を待て!」
「何言ってんの!私はまだ無傷よ!」
「だから何だ!早く帰ってこい!命令違反にするぞ!」
「ふん。最初から帰ってくるつもりなんんてないわ!」
その刹那、無線からバーンと聞こえた。
「大丈夫か?被弾したのか?」
「ええ、本機がやられたわ」
本機とおは艦の推進力のかなめである。ここがやられると艦は推進力を失う。つまり、彼女は撤退することが出来なくなってしまったのだ。
「そんな・・・」
「なぁに、浮き砲台になって頑張るわよ」
撤退してほしい。しかしその可能性はなくなった。彼女は死の宣告を受け取ったようなもんだ。俺はうずくまった。
俺は無線機を取った。モールス信号を遠征部隊に送る。
「佐世保鎮守府陥落セリ。佐世保鎮守府陥落之警報ヲ受ケ取リ遠征部隊ハ直チ二呉鎮守府二帰還セヨ」
涙が出た。みんなで過ごしたこの鎮守府。ここがふるさとの艦もいる。まぁ、その艦も今は数えるぐらいしかいない。ああ、俺はもうこの立場にはいられないだろう。解雇だな。生きても居場所がない。
だから俺はここで最期まで指揮を執る。
「外はどうなっているのだろうか」
俺はここで一人だ。ただ艦の帰りを待つ。このむなしさが諸君にはわかるだろうか。
俺は男だ。男なのに最前線で戦うのは女だ。いや、今はもう人間ではない。兵器だ。
「おーい」
無線機から声が聞こえた。
「敵の総攻撃が始まったわ。私今から沈むね」
「ああ」
悔しい。こんなに悔しいことがあるだろうか。俺は女を最前線に立たせ死なせた。
元気に飴玉をくれた幼い艦もいた。
常に反抗的な態度だけれども心は優しい艦もいた。
婚約した艦もいた。
しかし、今は誰もいない。
俺ただ一人のみである。
俺は引き出しから愛用していた銃を取り出す。
すまんな、みんな。
俺は頭に銃を向け、引き金を引いた。
「陽炎、今行く」
刹那、目の前が真っ暗になった。