転生したらヤムチャがリボンズになった件   作:GT(EW版)

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1st season 【ヤムチャによる全宇宙への原作介入を開始する】
転生したヤムチャが変革しようとしている件


 転生したらヤムチャだった。

 

 その状況に陥った時、元少年は喜びに打ち震えた。

 トラックと衝突して事故死した筈の自分が、元の世界でないにせよこうして生きていることも喜びの一つだが、それがどうでも良くなるほど嬉しかったのは、生まれ変わった新たな世界が大好きなドラゴンボールの世界だったことと、その登場人物である「ヤムチャ」だったことに対してだった。

 

 ヤムチャ――言わずと知れた名作漫画「ドラゴンボール」において、その男の存在が何を意味するかはもはや語るまでもないだろう。

 

 狼牙風風拳。

 イケメンだが女にはウブいというチャームポイントで読者を魅了し、物語の最序盤から主人公である孫悟空と関わり続けたキャラクターだ。そんな彼は悟空最初のライバルであり、戦友だった。

 

 しかし残念ながらドラゴンボールの作風が冒険漫画からバトル路線が主流になっていくに連れて、次々と現れる強力なキャラクター達に押し流される形で彼の存在は厳しい立場となっていった。

 割と最初からかませ犬だったような気がするのは気のせいだ。

 

 そんなヤムチャは漫画界の筆頭ヘタレキャラとして扱われることが多く、近年では公式からネタにされ爆死体フィギュアやカードなんかが販売される始末である。

 

 それらのことを総括すれば、ヤムチャというキャラクターが色々な意味でファンから親しまれている愛すべき存在であることがわかるだろう。

 

 この時、ヤムチャに転生した少年もまたドラゴンボールのファンであると同時に、ヤムチャのファンでもあった。

 それこそヤムチャのグッズを率先して集めていたり、ネットの海を漁ってヤムチャに関連した二次創作物にも手を出したことは数多い。

 ドラゴンボールゼノバースでは各種族ごとにヤムチャを意識した自キャラを製作したり、ドッカンバトルではヤムチャを中心にしたデッキのみ扱っている。

 ドラゴンボールの華と言えば、やはり主人公の孫悟空やライバルのベジータといった「サイヤ人」であろう。最近ではそんな彼らよりも高みに立つ破壊神なども人気かもしれない。もちろん、悪役のカリスマ的存在であるフリーザも外せないだろう。

 

 しかし元少年は、数いる人気キャラ達の中でも特にヤムチャを愛し続けた。それはいっそ気持ち悪いぐらいのヤムチャガチ勢であった。

 

 そんな気持ち悪い少年がヤムチャに転生したとなれば、もはやガンダムバエルを手に入れたマクギリス・ファリドもかくやとばかりの絶頂状態である。状況を認識した際、高らかに笑い出した彼に相棒のプーアルが顔を引きつらせるのも道理だった。

 

 

 ヤムチャになった元少年は熟考する。

 自分はヤムチャに転生した。

 前世の記憶を思い出したのはつい先ほど、プーアルが「カモが来ました!」と可愛らしい笑顔で報告して来た瞬間である。

 そしてここは砂漠。ヤムチャが盗賊時代に根城にしていた隠れ家であり、彼もまた胸に「樂」と書かれた服を身に纏っている。

 

 ――そう、丁度ヤムチャが初登場した頃である。

 

 主人公の孫悟空は少年期。ブルマと出会い、ドラゴンボール探しの旅を始めてまだ間もない頃だ。望遠鏡を覗き込めば、こちらに向かってくる彼らの姿を確認した。

 

 ならばどうする?

 

 決まっている……

 

 

「ジェットモモンガを出すぞ、プーアル」

「はいっ!」

 

 ニヒルに笑んだ元少年の頭には既に、ヤムチャとなった自分が起こすべき百通りもの行動が思い浮かんでいた。

 

 ――彼はヤムチャガチ勢である。

 

 それも、二次創作を漁りに漁りまくったガチ勢だ。

 二次創作と公式の区別がついていないタイプの、気持ちの悪いヤムチャガチ勢であった。

 

 故に彼は生前、常日頃から考えていたのだ。

 ドラゴンボールという作品で、どうすればもっとヤムチャを活躍させられるかという難題を。

 

 あまりにもお留守な足元。恋人を寝取られる甲斐性の無さ。爆死ポーズetc……様々なネタ要素ばかりが注目され、もはやいじられネタキャラとして不動の地位を築いてしまったロンリーウルフ。

 

 しかし、ヤムチャは普通に強い。

 

 亀仙人から始まって地球の神、界王にも師事した彼の戦闘力は、最終的に純粋な地球人の中ではウーブやクリリンに次ぐ圧倒的な強さを誇っている。身体能力だけでメジャーリーグを無双するレベルなのだ。少なくとも俗世に紛れ込んだ場合には手の付けられないチートキャラであることは間違いない。

 彼の出ている作品がドラゴンボールでなければ……とまで言ってしまうとフォローにならないかもしれないが、ヤムチャとて途方もないポテンシャルを秘めた存在なのだ。

 全国の婦女子がたをことごとく魅了してみせた、あのゼロの執行人とて中の人は同じである。それの元ネタである白い悪魔も。もっと遡れば巨人の星だってそうだ。

 ならば同じ声を持つヤムチャとて、彼らやタキシード仮面様のようにカッコ良く活躍することが出来る筈である。

 

 そんな思いを常日頃から燻らせ続けていた元少年が「せっかくヤムチャに転生したのだからこのキャラクターを原作よりも活躍させてあげたいな」と、そう思うのは当然だった。

 

 二次創作界隈でも、ヤムチャを主役にした物語が最も好きだった少年だ。因みにそんな彼がリスペクトしている二次創作は、某掲示板で多くの有志たちが書き綴ってきた「たまにはヤムチャが活躍する物語を考えようぜ」SSである。中でもヤムチャが1000人になる話は痛快だった。

 

 閑話休題。

 

 元少年は考えた。

 一心不乱にネットの海を漁り続けていたあの頃、ヘタレキャラとして名高いヤムチャを一線級のキャラとして活躍させてきた有志たちの二次創作を思い浮かべながら、彼はこの転生で自分がなすべきと思ったことを理解した。

 

 そして――彼は至った。

 

 ヤムチャを活躍させる方法。

 ヤムチャをサイヤ人にも負けない超宇宙級の戦士にする方法。

 

 その為に必要な「願い」を彼は導き出し、顕現した龍の神様に向かって吐き出したのだ。

 

 

「俺の心を! 「ヤムチャ」の中にある俺の心を変革してくれ!!」

 

 

 それは本来であれば、ウーロンの願いによりギャルのパンティーになる筈だった。

 記念すべき、「ドラゴンボール」の作中で叶えられた最初の願いの原作ブレイクである。

 

 砂漠で孫悟空達と対面したヤムチャは、喧嘩素人故に原作よりも呆気なく前歯を折られてしまうというアクシデントがあったものの、プーアルの協力もあってか概ね原作通りの成果を挙げることに成功していた。

 悟空達がピラフ城へ入るまでは完璧なヤムチャムーブで見事な原作沿いを進めていた元少年ヤムチャであったが、その時をもって彼は初めて盛大な原作ブレイクを敢行したのである。

 

 ピラフ達がドラゴンボールを揃え、神龍を呼び出すまで茂みの中で息を潜めて待機していた彼は、原作で言うところのウーロンよりも早く飛び出して願いを横取りした。

 砂漠のハイエナと言ってはハイエナに失礼なセコさである。しかしヤムチャ――元少年にとってはどうしてもこのタイミングで自身の願いを叶えなければならなかったのだ。

 

 

 自分自身の心の変革――原作のヤムチャを超える為にはまず、ヘタレでグズな自分の心を抹消する必要があったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元少年は思う。

 

 ヤムチャは良いキャラだ。

 

 今のご時世、各界隈からネタキャラとして扱われることの多い彼だが、それは彼がありきたりなかませ犬キャラやライバルキャラにはない魅力を持っていることの証明でもある。

 その力は確かにベジータやピッコロといった異星人達には遠く及ばず、同門のクリリンにさえ随分と引き離されてしまったものだが――彼には、それでもなお彼らに負けない魅力があった。

 

 ――それは少年にとって他のどのキャラクター達よりも「親しみやすかった」ことだ。

 

 ヤムチャは悟空やベジータほどストイックな戦士ではないが、決して努力を怠るような怠け者でもない。

 彼もまた間違いなく超人の域にいる筈なのだが、ところどころ小物臭くてそれを感じさせない愛嬌があった。故にこそ、少年にとってヤムチャは他の登場人物よりも現実的な存在に見えて、自分との共通点を感じたのだ。

 

 そんなヤムチャだからこそ、元少年は小さな頃からヤムチャのことを応援していた。

 

 戦闘力のインフレについていけず一般人扱いされようと、餃子と一緒に置いていかれようとも。

 とうの昔に追い抜いていた筈の亀仙人にすら置いていかれようとも。

 爆死ポーズが公式から執拗にネタにされようとも。

 彼自身、それを見て「やっぱりヤムチャってヘタレだわ」と笑いながらも。

 

 それでも、元少年にとってヤムチャは永遠のヒーローだったのだ。

 

 元少年にとって、ヤムチャという男には見習うべきところが数多くあった。

 相対的に落ちぶれる形となり、周りに取り残されても、ヤムチャは現実の自分のように不貞腐れてはいない。

 悪意を持って足を折られても、折った相手を笑って許し、良き競争相手として認めていく寛容な心を持った武闘家でもある。もし自分がヤムチャと同じ目に遭ったなら、きっといつまでもネチネチと小言を言い続けていただろう。

 ヤムチャは器の大きい男だ。

 自分を殺した相手であるベジータと同じ家に住むことさえ許容し、その挙句に恋人を寝取られる形となっても恨み言を言わず、彼の息子に対して彼のことを手放しに称えることが出来る。その一方で、野球回では未練を隠しきれていない小市民さも残っていて……そんな彼の、何とも言えない人間らしい性格が元少年は好きだったのだ。

 

 漫画的に言えば、ヤムチャは確かにヘタレかもしれない。

 しかしその在り方は、生前の彼を何度も笑顔にさせてくれた尊いものだった。

 

 思えば彼自身も生前は周りから「ヘタレ」と呼ばれ、侮られ続けていた人生だったこともまた、彼にシンパシーを感じたのかもしれない。

 

 しかし、ヤムチャは本当にグズな人間である自分とは違う。

 

 時々及び腰になっても、彼もまた力及ばずとも勇敢に悪と戦っていた戦士なのだ。

 亀仙人からも太鼓判を押されている彼が、自分と同じヘタレである筈がない。

 

 足元がお留守? 俺なんか、頭の中も含めて全身お留守だ。

 爆死ポーズ? 俺だったら怖くて戦うことすらできないね。

 恋人を寝取られた? 俺はそもそも恋人ができなかったよ。

 

 ざっと見比べてみても、格の違いは次々と明らかになるものだ。

 そんな彼をあろうことに自分なんかが「原作より活躍させる」などと、その気になっていた俺の姿はお笑いだったぜ。

 冷静になれば、ちゃんちゃらおかしな話なのだ。そもそも喧嘩すらしたことのない小心者の自分がヤムチャよりヤムチャを強くするなど、原作のヤムチャを馬鹿にするのも大概にしろという話だ。

 

 ――そう、転生を自覚した瞬間から元少年は熟知していたのだ。

 

 確かに、自分がヤムチャになったことは嬉しかった。

 ヤムチャを活躍させるプランもまた、かつて漁りまくった二次創作知識や自分自身の考察などからいくつも割り出していた。

 しかしその計画には、いずれも「中の人が自分」であるということから致命的なまでに実現性に欠けていたのである。

 同じ一般人でも、彼は公式で出版されたヤムチャ転生の人のように勇敢ではなかったのだ。

 

 ――俺のようなスクールカースト最底辺のヘタレグズが、ヤムチャを活躍させられるわけないだろう!

 

 自分がどうしようもないグズなヘタレであることを自覚しているが故に、元少年が行き着いた考えがそれである。この男、目標に手が届かないことを一瞬で悟ってしまっていた。

 

 しかしそれは、至って現実的な意識である。

 仮に元少年の魂が宿った肉体がヤムチャではなく破壊神ビルスだったとしても、中の人が正真正銘のヘタレである自分では何の魅力も無いイキり猫太郎に落ちぶれるに違いない。良くて最初に超サイヤ人3と手合わせした時点で死ぬのが関の山だろう。

 それはグズなヘタレを自覚している元少年でなくとも、ついさっきまで日本で平和に暮らしていた少年がバトル漫画の世界で生きていくこと自体に根本的な問題があると言えるかもしれない。

 

 そんな現実的な問題を、妄想力豊かなくせして無駄にリアリストを気取る彼は理解していた。

 

 だからこそ、対策が必要だったのだ。

 ヤムチャというキャラクターを強化する以前の大前提として、自身の人格をこの世界に適応したものへ変えてしまおうと。

 

 それを行えば今の心が上書きされ、消滅することになるかもしれないが……元より、この身は死んだ身だ。

 

 ヤムチャとして生きるなら……ヤムチャをぼくのかんがえたさいきょうのヤムチャにする為ならば、ヘタレでグズな元の精神など邪魔なだけだとヤムチャガチ勢はヘタレのくせに割り切っていた。

 だから元少年は、自身が抱えている原作知識とヤムチャ強化プランだけをそのまま、ヤムチャという器からヘタレでグズな自分の心を変革することに決めたのである。

 

 それが今、ピラフからウーロンに変わって横取りした願い――「俺の心を変革しろ」の意味だった。

 

 

 

「承知した」

 

 彼の意図を齟齬なく受け取った神龍がその願いを聞き届けたと同時に、元少年の心はきれいさっぱり別の物へと「変革」されていく。

 神龍の力で自身の人格が決定的なまでに書き換えられていくのを感じながら、気持ちの悪いヤムチャガチ勢は最後に生の神龍を見れたことを喜びながら恍惚とした思いで消えていく。

 ヘタレでグズな元少年の心は、その瞬間から消え去った。

 ヤムチャを強くする為に邪魔な人格は消え、新たな心へと生まれ変わった。

 ある意味では、それこそが転生と呼ぶのかもしれない。

 

 そうして神龍によって正しく叶えられた彼の願いは、ヤムチャというキャラクターの中に新たな精神を爆誕させた。

 

 突然現れた謎の男に己の願いを横取りされ呆然とするピラフ達の前で、新たな「ヤムチャ」は薄く笑みながら端整な顔を上げた。

 いっそ不気味な微笑を浮かべた彼は、ヤムチャと同じ声でありながら、冷たい印象を与える声音で言い放つ。

 

 

「そうとも……ヤムチャを導くのはこのボクだ」

 

 

 何故か金色に輝いている虹彩を開きながらそう呟く彼は――なんか変な感じに変革していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 この後めちゃくちゃ暗躍した。
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