ビッグゲテスター・ヴェーダ。
悟空が「デカいタマネギみたい」だと評した機械惑星は、直径で月ほどの大きさがあり、星内には数多の工場区画が広がっていた。
トランクスはヤムチャアニューを助け出した後、この星のコアを目指して手当たり次第に探り回っていた。
「トランクス、あれ!」
「あれは……ドクター・ゲロ!」
襲い掛かる量産型人造人間と、狼牙風風拳を仕掛けてくるヤヤの軍勢を斬り落としながら、トランクスたちはやがて突き当たった区画で銀色の光沢を放つ機械仕掛けの科学者と対面した。
――アルケー・ゲロ。
「ここから先へは、行かせん」
「貴様……貴様のような奴に、悟飯さんたちは!」
トランクスにとって誰よりも因縁深い人造人間の――その製作者との戦いが始まった。
地球は、ヤヤの軍勢を前に窮地に陥っていた。
一体一体の戦闘力は気弾の一撃で破壊できるほど脆弱なものだが、彼らは接近した相手に狼牙風風拳を仕掛けた後、サイバイマンのように組みついて自爆するようにプログラムされているらしく、油断すれば超サイヤ人さえも手傷を負う火力が備えられていた。
クリリン、天津飯、悟飯たちは各地に散らばってその「ヤヤ」の撃退に当たった。
その際、ピッコロはもはやなりふり構っている場合ではないと神との同化を決意し、神もそれを了承。ドラゴンボール消滅のリスクを承知した上で神コロ様が誕生せざるを得ないほどに、ヤヤの軍勢は地球人類に対し甚大な被害をもたらしたのである。
「ちっ、ピーピーうるさいヒヨコ共め……まとめて挨拶してやらねぇとなぁ!」
「ハ、ハゲ……!」
「ナッパ、来てくれたのか!」
「隠れてなラズリ、ラピス。こういうのは俺の仕事だ!」
「か、かっこいい……」
ナッパは悟空の超サイヤ人ゴッド化に協力した後、脇目も振らずに双子たちの住む田舎へ戻り、その町に攻め込んでいたヤヤの軍勢を撃滅すべく得意技のフレイムピラーを放ち一掃してみせる。
かつて大勢の地球人を殺したその技が、双子を始め大勢の命を救うことになるとは因果なものだろう。
しかし、そんなナッパの攻撃さえも次から次へと襲い掛かってくる圧倒的なヤヤの物量の前では気休め程度にしかならなかった。
それほどまでに、数が多すぎるのだ。
「気功砲!」
戦力比はざっと見て100万対1と言ったところか。
空一面を覆い尽くすヤヤの軍勢は、歴戦の武道家である天津飯の精神力でさえも正気を保つのが一苦労な光景だった。
しかし、彼は退かない。亡き友と交わした約束を守る為に、この地球を誰にも奪わせるつもりはしなかった。
「守ってみせる……餃子が守ろうとした地球を!」
俺は地球を守る、鶴仙流の武道家だ! そう叫び、天津飯は師匠から授かった多彩な技と、友から受け継いだ超能力を持って敵の軍勢に挑んだ。
簡易生産型とは言えヤムベイドである「ヤヤ」の相手をするには、地球人戦士だけではあまりにも荷が重い。
しかし、ならばサイヤ人は何をしているのかと言うと、ベジータとバーダックの相手には本家ヤムベイドであるヤムチャヒリングとヤムチャリヴァイヴが立ちはだかり、彼らの動きを釘付けにしていた。
思うように動けない敵の鬱陶しさにベジータが苛立ち、バーダックが舌打ちした。
「ちっ、貴様ァ!」
「あんたの相手は、あたしらだって!」
超サイヤ人2のベジータでさえも、ヤムチャヒリングと戦闘能力はほとんど同じなのだ。
その上、隙あらばヤヤたちが後ろから自爆特攻を仕掛けてくる乱戦模様になっているともなれば、個の力では最も優れているバーダックさえも迂闊には攻められなかった。
「俺の超サイヤ人3は、こういう状況じゃ使いにくいな……」
ベジータ同様超サイヤ人2の状態でヤムチャリヴァイヴを相手取っていたバーダックは、自らのスタミナを考慮に入れて最善の選択を考える。
最も簡単なのは、この地球ごと諸共全てを吹き飛ばしてしまうことなのだが……自らの後ろでヤヤの軍勢相手に小さな身体で挑んでいる孫の姿を見てしまうと、バーダックには何故かそれを実行することができないでいた。
カカロットとの戦いに負けたことで、バーダックは彼らの生きる未来にある種の興味を抱いたのかもしれない。
ならば、この地球を滅ぼすわけにもいくまい。
「ヤムチャ!」
ほんの気まぐれか。それとも焼きが回ったのか。
気づけばバーダックはこの鬱陶しいヤムベイドやヤヤのベースになっている存在、ヤムチャに対して呼び掛けていた。
「どうしたバーダックさん?」
「ヴェーダへ行け」
「ヴェーダへ?」
「このままじゃキリがねぇ。アレをなんとかすれば、このゴミ共も止まるかもしれねぇからな」
ヤムチャリヴァイヴとの攻防の最中、背後から迫って来たヤヤの首を裏拳で砕き割りながら、バーダックが推奨する。
ヤヤの発生源であるビッグゲテスター・ヴェーダへ行く。そうすることで、手っ取り早くこの状況を打開できるのではないかと考えたのである。
そんなバーダックの言葉に肯定するように、メガネを掛けたヤムベイドが言い放った。
「……ヴェーダのコアを掌握し、コントロールを奪うんだ」
「リジェネ! お前大丈夫なのか!?」
「失敗作のプロトタイプが、無理をすればこうもなるさ」
「お前……!」
孫悟空を超サイヤ人ゴッドに仕立てた後、彼――セルリジェネはふらりと貧血を起こしたようにその場に倒れた。
ドクター・ゲロによって試作的に製作されたプロトタイプの人造人間である彼の身体には、様々な面で欠陥が多い。それこそ本格的な戦闘を行えばたちまちシステムに異常をきたしてしまい、人並みの「気」を放つだけでも体内のバランスを崩してしまうのだと言った。
故にこそ、彼はこれまでヤムチャから戦うことを止められ、自発的に「気」を消して活動していたのである。
そんな身体で超サイヤ人ゴッドの儀式に参加したことで、今の彼は当然のように身体の不調を起こしていた。
今にも倒れそうなセルリジェネを容態を心配し、ヤムチャが判断を鈍化させる。
ここで自分が抜けてしまったら、彼がヤヤに殺されてしまうのではないかと。
しかし、そんなヤムチャを一喝するように緑色の戦士が駆けつけてきた。
「何を躊躇している、ヤムチャ!」
「ピッコロ……!」
神と合体し一人のナメック星人に戻った彼の声に、ヤムチャは目を見開いた。
神殿から大急ぎで飛んできたのであろう彼は急旋回して周り込むと、ヤムチャに向かってくるヤヤの軍勢に向けて気攻波を撃って薙ぎ払う。
「生きる為に戦えと言ったのは、貴様の筈だぁ!」
それは、ピッコロからの叱咤と激励だった。
「自分の運命を呪っても純粋に生き続ける! それが、貴様の戦いだと!」
言うなり、彼の身体から潜在エネルギーが解放される。
本来の姿に戻った彼は、眩い「気」のオーラを纏いながら敵陣へと踊り込んでいく。
ピッコロの戦いぶりはこれまでのヤムベイド戦で役に立っていなかった鬱憤を晴らすかのように、まさに鬼神の如しであった。
紙一重で敵の狼牙風風拳を交わして反撃の蹴りを打ち込み、それに抉られた金属ヤムチャ体が爆発した頃には、既に次の目標に手をかざして気弾を放っている。
それほど俊敏に、鋭角的に、彼は老練かつ力強い戦闘スタイルで敵を破壊していく。
とは言え、敵は圧倒的な物量に任せて彼を取り囲んでいる。
彼が敵の包囲網に穴を空けても、すぐに別のヤヤが現れてその隙間を埋めるのだ。
くそったれめ!
そうピッコロが毒づいた瞬間、一体のヤヤが繰り出した狼牙風風拳の刃が彼の肩を切り裂いた。
身を乗り出しかけたヤムチャの耳に、再びピッコロの声が届く。
「行け、ヤムチャ! 生きて奴らをぶっ壊せ!」
「ピッコロ……」
ヤムチャは僅かに顎を引き、彼がどれほどの思いを込めてその言葉を放ったのか察する。
生きる為に戦えとは、第23回天下一武道会の二回戦で、かつてヤムチャが彼に贈った言葉だ。
その言葉を今になって蒸し返してきた意味を察し、ヤムチャは僅かに笑みを浮かべながら覚悟を決めた。
「死ぬなよ、ピッコロ、リジェネ」
「……当然だ」
「行きなよ、ヤムチャ」
「ああ、行ってくる」
そしてヤムチャは自らの額に指を当てると、ヤードラット星での修行で習得した「瞬間移動」を使ってその場から離脱していった。
ビッグゲテスター・ヴェーダから解き放たれたヤヤの軍勢は、この地球に対して未曾有の被害をもたらしている。
しかしそれさえも、リボーンズヤムチャにとってはささやかな余興に過ぎなかった。
所詮はこの戦いをより面白くさせる為の彩りの一つだ。リボーンズヤムチャの目的はあくまでも、赤く輝くサイヤ人の神との決着だったのだから。
共に雲の上へと飛び出すと、不遜な眼差しで見下ろしながらリボーンズヤムチャが語る。
「孫悟空、君たちは今まで自分の意思で戦い、これまでの人生を楽しく生きてきたつもりだろうけど……その人生は全て、一柱の神に敷かれたレールの上を渡らされているに過ぎない」
「おめえが、その神様だって言うのか?」
「そう、神そのものだよ」
「だからって、こんなことをしていい理由にはならねえ筈だ」
「そうかな?」
孫悟空の人生は全て、神である自分が思い通りに動かしてきたものだったのだと。
常に賽を振ってきたのは上位次元の存在であり自分であり、君たちは振られた賽の出目に従うことでしか生きられない哀れな存在であると、リボーンズヤムチャが断定する。
「救世主なんだよ、ボクは」
リボーンズヤムチャの手に掛かれば、この世界に生きる者たちは等しく駒に過ぎない。
殺すも救うも意のままであり、それが当然なのだと見下ろして嘲笑った。
「破壊神が自分たちの尺度で星を壊すのと一緒さ」
「なんだそりゃ……じゃあ、その破壊神っていうのは悪い奴なのか?」
「いいや、違う。神の破壊というものはいつだって、世界を救済に導くのさ!」
リボーンズヤムチャの突き出した拳が予備動作もなく襲い掛かり、超サイヤ人ゴッドの悟空がそれを右腕で受け止める。
受け止めながら足払いを掛けてきた悟空の蹴りを、リボーンズヤムチャがひらりと身を回転させていなし、振り向きざまに繰り出した左手の裏拳を悟空に浴びせ、体勢を崩させた。
「君がボクによって滅ぼされ、踏み台となるのもまた救済だ。こんな風にね!」
間髪入れず両足を叩きつけ、リボーンズヤムチャが悟空の身を雲の下へと叩き落していく。
自分が上であり、お前が下だと。それを見せつけるような位置取りで見下ろすリボーンズヤムチャの視線を受けながら、その身を数回転させて体勢を立て直した悟空が不敵に笑った。
「っ……へへ」
「何かおかしいかい? 孫悟空」
「わりぃ、ちょっと……おめえの言うことが、あまりにもわけわかんねぇからよ」
――ついつい、笑えてきちまったんだ。
姿が掻き消える。
その言葉と同時にリボーンズヤムチャの背後に回り込んだ悟空が、リボーンズヤムチャの背中を狙い、右肘を振り下ろしてきたのだ。
その攻撃を察知したリボーンズヤムチャは即座に重力に逆らった逆さの体勢へ身を傾けることで、彼の攻撃を両手で受け止めてみせた。
密着した体勢から、その目に静かな怒りの炎を燃やした悟空が言い放つ。
「おめえのおかげでみんなと会えたって言うんなら、感謝しねぇとな」
「ふふ……どうやって?」
超サイヤ人ゴッドの力で捻じ伏せようと力む悟空の両腕を抑えながら、リボーンズヤムチャが余裕に満ちた眼差しを向けて問い質す。
そんな彼に、悟空がカッと目を見開いて頭突きを喰らわせた。
「おめえより強くなったオラを見せてな!」
「……っ、それは傲慢だよ!」
戦闘が始まって以来、リボーンズヤムチャが悟空から初めて浴びたクリーンヒットである。
彼の頭突きによって密着した体勢が解かれたリボーンズヤムチャに向かって、畳み掛けるように悟空が拳を振るった。
「ゴーマンってなんだ?」「そうやって相手を見下して侮る、愚かな人間のことさ!」「おめえだなリボンズ!」「ボクは神そのものだと言った!」――そんなやりとりを交わしながら、互いに神の領域に至った者同士である二人の打ち合いが空を、大地を揺らしていく。
「でりゃあああっ!」
「ははは、そうだ……そうでなければここまで成長を待った意味がない! この戦いの意義も!」
「ぐっ……! おめえは、オラが倒すぞ!」
「しかし、それが本気なら君はボクを超えられない! いけ、
超サイヤ人ゴッドの力を限界まで引き出し、フルパワーで放つ拳をことごとく受け止められる悟空。
リボーンズヤムチャの拳もまた戦い慣れした悟空の体捌きを前に紙一重で届かず、二人はここまで一見互角に戦っているように見えた。
しかし徐々に……まるで今になって自分の身体が馴染み始めたとでも言うように、リボーンズヤムチャの動きは時間が経つほどキレを増していき、数々の技までも撃ち出してきた。
「うわっぐ! おめえ……ヤムチャの技も、使えるのか!」
「それだけじゃない! ボクは君たちが使う全ての技を知り尽くしている」
「ピッコロの……魔貫光殺砲っ」
ヤムチャの繰気弾に、ピッコロの魔貫光殺砲。
天津飯の気攻砲にクリリンの気円斬、さらにはターレスのキルドライバーやフリーザのデスビームなど、様々な技を見せつけるように放つリボーンズヤムチャの多彩さに悟空が唸った。
いずれも、これまでヤムベイドたちがビッグゲテスター・ヴェーダに蓄積させてきた戦闘データによって習得した技である。
リボンズヤムチャと合体したヤムチャキャノンは人造超サイヤ人であると同時に、ビッグゲテスター・ヴェーダに詰め込まれた全ての情報を戦闘能力に捧げた究極のメタルヤムチャでもある。
そのヤムチャキャノンの力を持つリボーンズヤムチャには、彼が知る限り全ての戦士の技を扱えるも同義だった。
「本当に神様みてぇな奴だな! だけど、オラだって……!」
負けちゃいねぇ! そう叫び、赤い光を纏った悟空が激しい弾幕を掻い潜りながら一撃、魂を込めた正拳突きをリボーンズヤムチャの額に喰らわせる。
しかしその瞬間、ダメージを受けた筈の彼が冷たく笑い、悟空がハッと愕然とした表情を浮かべた。
――戦闘開始から数十分が経過したことで、悟空が纏っていた赤いオーラがとうとう消失してしまったのである。
「残念だけど、時間切れだ!」
超サイヤ人ゴッドの変身が解けたのである。
そんな彼の姿を名残惜しそうに見つめながら、リボーンズヤムチャはそろそろフィナーレだと容赦なく拳を突き出した。
しかし、悟空は諦めなかった。
何故ならば背負うものがあったから。
負けられない理由があったから。
この地球に、守るべき者がいたから。
そして自分自身、ただただ純粋にこの戦いに勝ちたいと思ったから。
その為なら――!
「神様だって、超えてやるさああっ!」
黄金色の髪を逆立てた悟空が、自身の心臓を貫こうとしていたリボーンズヤムチャの拳に反応し、両腕をクロスさせて致命傷を避けてみせる。
勢いだけは殺すことができず悟空の身体はふっとばされ岩盤へと叩きつけられてしまうが、それでもまだ悟空には意識があった。
まだ、戦える。まだ勝てる。彼の血が、思いが、そう叫んでいる気がした。
そういう時は得てして、
「……やはり、ゴッドの世界を吸収したか。流石、孫悟空……物語の主人公だ。しかし……」
岩盤から素早く復帰して飛び出してきた悟空が、果敢に猛攻を仕掛け、鋭いラッシュを浴びせ掛かる。
繰り出す攻撃の威力は、超サイヤ人ゴッドの状態と比べてもほとんど低下していなかった。
そんな彼との戦いに、リボーンズヤムチャが始めは不快さを表し、次に冷笑へと立ち直る。
悟空が一瞬の間に打ち込んできた数百発もの拳を捌き切った後、リボーンズヤムチャは高らかに叫んだ。
「ボクが!」
「ぐっ……!」
一閃、悟空の左脇腹に蹴りを打つ。
「ボクこそが!」
一閃、腰の折り曲がった悟空の背中に肘打ちを叩き込む。
悶絶する彼を優雅に見下ろしながら、史上最強のヤムチャがハンマーパンチを喰らわせ、主人公の身体を地面へと叩き落した。
「リボーンズヤムチャだ!」
ヤムチャであってヤムチャではない。
我こそがこの世に唯一無二の存在たる、生誕した大地のヤムチャであると。
自らの存在が超サイヤ人ゴッドさえも凌駕したことを確信し、リボーンズヤムチャはまるで壇上で演説を行うように両手を広げて高説した。
「くっ……! なんて奴だ……」
陥没した地面からしばしの間を置いて復帰してきた孫悟空が、ボロボロになった上着を脱ぎ捨てて傷だらけの上半身を晒す。
超サイヤ人ゴッドの世界を吸収した悟空でさえも、リボーンズヤムチャとの力の差はあまりにも大きかった。
「はぁ……はぁ……っ、くそっ、界王拳だああッ!」
戦いの余波で受けたおびただしい地形変動によって、地面からマグマが噴き上がったと同時に超サイヤ人の悟空がゴッドとは違う「赤」のオーラを纏い、飛翔していく。
スーパー界王拳。超サイヤ人ゴッドでなくなってもまだ、打てる手を全て打ってみせるという闘志の表れだった。
彼が見せた諦めの悪い姿勢を前に、リボーンズヤムチャが愉快気に笑いながら気攻波を連射する。
「そうだ。足掻くがいい、抗うがいい! その自由は君のものだ」
「ぐううっ……ぐああああああっ!?」
「これがボクの力……! リボーンズヤムチャ!」
リボーンズヤムチャの容赦の無い凶弾が次々と悟空に襲い掛かり、崩れ落ちていく大地と共に悲鳴を上げていく。
絶え間のない嵐のような弾幕の前では、スーパー界王拳で上昇した速度を持ってしても接近するどころか回避さえ覚束なかった。
「さようなら、孫悟空」
リボーンズヤムチャが自らの勝利が間近に差し迫ったことを確信し、界王拳と共に超サイヤ人の状態ですらなくなった悟空が薄れゆく意識の中で自らの「死」を予感する。
――その時だった。
(? なんだ……?)
走馬灯というものなのだろうか。
どこからともなく、不意に多数の人々の「声」が聴こえてきた。
『うわああ!』
『悟飯! くっ、そまああああ!?』
際限なく現れる圧倒的な物量を持って襲い掛かる、無数のヤヤの軍勢。
その猛攻に悟飯が彼らの自爆攻撃を受けてしまい、その悟飯を庇う為にピッコロまでもが巻き込まれていた。
そんな二人の元へ容赦なく、後に続くヤヤの軍勢が滝のように襲い掛かっていく――。
(悟飯! ピッコロ!)
悟空が幻視したその景色に手を伸ばすと――次の瞬間には、別の場所で戦っている天津飯の姿へと切り替わっていた。
『はっ! はーっ! く、くそっ、身体が……!』
ヤヤの軍勢に対して新気攻砲を連射していた天津飯が、とうとう反動に耐え切れず地に落ちた光景である。
そんな彼の元へ、まるで死体に集る砂漠のハイエナのように迫っていくヤヤの軍勢――
(逃げろ! 逃げろ天津飯!)
『も、もうもたねぇ……』
(ク、クリリン!)
クリリンも、彼の援護に回っていた亀仙人も、絶体絶命の窮地だった。
そのまた別の場所では鶴仙人やサイボーグ桃白白、ギラン、ナム、パンプット、チャパ王など、懐かしい顔ぶれがヤヤの軍勢と戦い、追い込まれている光景が見えた。
それもまた一度超サイヤ人ゴッド――「神」になった影響なのだろうか、悟空はこの地球で戦うあらゆる人々の命を感じていた。
『くそったれがああ!』
体力の消耗によって、次第にヤムチャヒリングに圧され始めたベジータが怒りの叫びを上げる。
その後ろでは、いよいよ超サイヤ人3を解放するほど後がなくなったバーダックが、しきりにパオズ山の方角を守護しながら奮戦している姿が見えた。
見える。
聴こえる。
感じる。
チチ、ブルマ、牛魔王、ウーロン、プーアル、ウミガメ、カリン様、ヤジロベー、ミスターポポ。
この星で、今も戦っている人々の思いが。
悟空は自分の命が「死」に向かっているこの瞬間、消えゆく彼らの鼓動を感じ取っていた。
誰も彼もが追い詰められていた。
このままではみんな一緒に、死んでしまう。
「みんな……死んじまうんか……? このままいいように、踏み潰されちまうのか……」
悟空は自らの身を襲う気弾の嵐に対し、胎児のように身体を丸めながら呟く。
――違う! こんなものを見る為に、戦っていたんじゃねぇ!
仲間の死を、大切な人たちの最期を見る為に、超サイヤ人ゴッドになったんじゃない。
勝つ為だ。
負けない為だ。
守る為だ。
強くなる為だ。
そして、手に入れる為だ。昔、亀仙人のじっちゃんが言ってたような、面白おかしく暮らしていける人生を。未来を。
だから。
オラは――
「そんなこと……」
グッと血が滲むほど強く拳を握り締め、身体中の全てを振り絞って内なる力を解放する。
大きく目を見開いた悟空が、あらん限りの声で叫んだ。
「そんなこと……許さねぇぇーーっ!!」
瞬間、悟空の力が拡大した。
両目が超サイヤ人ゴッドの「赤」に輝いた直後――その色がさらにもう一段階変化する。
――それは、新たなる覚醒だった。
そして、超サイヤ人ゴッドに秘められた能力の解放でもあった。
悟空の身体を赤色化させていた輝きがさらに増大し、圧倒的な量の「青い光」が放出されていく。
その光景に、リボーンズヤムチャが驚きを隠せない様子で立ち尽くす。
「そんな……!」
放たれた青い光に煽られ、悟空の身体を襲っていたリボーンズヤムチャの気弾の嵐が押し返されるように吹き飛んでいく。
それだけではない。
悟空の身体から放出された青い光は龍のように天へ昇った後、地球全土へと拡散していき、地上を襲うヤヤの軍勢を次々と薙ぎ払っていった。
リボーンズヤムチャが今度こそ感情を剥き出しにした目で、青い光の中心部に立つ彼の姿を見据える。
超サイヤ人ゴッドよりも荒々しく、超サイヤ人よりも神々しい。
闘争への強い意志を漲らせた孫悟空が「神」たるリボーンズヤムチャと対峙する。
「……続きをやろうぜ、リボンズ。勝負はここからだ」
超サイヤ人ゴッドの力を持ったサイヤ人の、超サイヤ人。
伝説を超えた最強の戦士、
【最終話 転生したらヤムチャがリボンズになった件】
ヤムチャ、狼の名を叫ぶ――。