初めて、強敵と言えるようなキャラクターだった。
銃弾を受けても痛いで済まされる怪物少年孫悟空。そんな彼を空腹状態だったとは言え、一時は倒す直前まで追い詰めたのだ。作中初めて登場したイケメンキャラだったこともあり、コイツがライバルポジション、もしくは悪友的なポジションになっていくのかなと思った。
アニメ版の再放送から入った世代である彼は、最初にドラゴンボールを見たのが原作ではなく無印のアニメだったこともあり、ヤムチャにヘタレのイメージを持つようになるまでは意外にも時間が掛かった。
アニメ版のドラゴンボールでは、おそらくヤムチャもスタッフから気に入られていたのだろう。ウルフハリケーンという専用テーマソングを引っ提げて原作以上に天津飯と善戦する姿は実にカッコ良かったし、インフレ真っ只中のナメック星編や人造人間編でも、リクームを一対一で倒したりセルジュニアを相手に少しだけ粘っていたりする。それは決して派手とは言えないが、彼が活躍しているシーンは原作以上に多く見られた。特に美麗な作画でヤムチャの勇姿を見ることができる「ドラゴンボール 神龍の伝説」や「ドラゴンボール 最強への道」は大のお気に入りである。
原作も同様で、性格面は初登場から物語が進むに連れて元来の面倒見の良さが明るみになっていき、一介の盗賊に過ぎなかった彼が立派な武道家になっていく姿には胸が温かくなるものがあった。
そんな彼だからか、少年の中では彼をヘタレキャラの代名詞のように扱われることをどこか悲しくも思っていた。
少年はカッコいいヤムチャが好きだった。
しかしどうにも肝心なところで運が悪く、貧乏くじばかり引かされる彼は、そのせいで視聴者から不当に実力を過小評価されることが多い。某動画サイトでヤムチャのことを中傷するコメントを見た時は、まるで自分のことのようにはらわたが煮えくり返る思いをしたものだ。
特に「ヤムチャ視点」などという造語を見た時は「ヤムチャが実際に相手の動きが全く見えなかったシーンはあまりない」だとか、「つうかヤムチャの目ならこんなスピードぐらい、ハエが止まるようなもんだろう」だとか空気の読めないマジレスを入れたり、友人からは「あいつヤムチャの話になると早口になって気持ち悪いな」と陰口を叩かれたりしたものだ。
だが決して、ヤムチャネタを嫌悪しているわけでもなかった。
にわか知識でヤムチャをけなされた時には激しく憤りを感じることもあるが、ヤムチャを笑うネタに対して周りの友人と同じように笑っている自分も確かに存在していた。
彼自身、ヤムチャの爆死体フィギュアが販売すると聞いた時は即行で予約したし、趣味のネットサーフィンではヤムチャをネタ的な意味で活躍させる二次創作小説を好んで読み漁っていた。
ヤムチャのヘタレ伝説を面白おかしく書き綴ったファンブログなんかも閲覧したり、自分自身似たようなものを創作したことがある。
中でも「たまにはヤムチャが活躍する物語を考えようぜ」の作品群は、そんな彼の需要を完璧に満たした――まさに「光」だった。
カッコいいヤムチャも、カッコ悪いヤムチャも彼は等しく愛していた。
彼にとってヤムチャの存在は、ある意味では宗教的な神のような存在だったのかもしれない。
だからこそ彼は――ヤムチャに転生した少年は、ヤムチャを強くする為ならば倫理に反した計画さえ企てることができた。
彼の計画は今、リボンズヤムチャによってさらに歪んだ形で実現されているが……「最強の人造人間とポタラで合体する」という大まかな概要に、大それた変化はなかったのだ。
ある意味では彼も、悟空のように純粋な人間だったのかもしれない。
「そうか……ヤムチャになった少年は、こんなにもヤムチャが好きだったんだな……」
全てを理解したという面持ちで、ヤムチャが呟く。
クオリヤム・バーストによって機械惑星とのリンクに成功したヤムチャは、コアの位置を特定する過程でさらに一つ、重大な情報を手に入れていた。
ビッグゲテスター・ヴェーダのコアである一枚のコンピューターチップ――そこにはリボンズヤムチャによって、元少年の記憶が埋め込まれていたのだ。
リボンズヤムチャがそこに元少年の感情を収めたのは、おそらくはかつて地球の神様が自らを善と悪の二つに分けたのと同じようなものなのだろう。リボンズヤムチャは神龍によって生み出された人格であるが、何がきっかけで元の少年の影響を受けることになるのかわからない。そうならない為の保険として、彼はヤムチャを純粋に想っていた少年の記憶を科学的に自身から分離し、ビッグゲテスター・ヴェーダのコアへと封印していたのである。
コアと一時的なリンクに成功したヤムチャは、それらの情報を金色に光る虹彩で閲覧し、理解した。
元少年がヤムチャというキャラクターに抱いた、祈りにも似た愛情を。
彼はただ、ヤムチャを愛していただけだったのだ。
ヤムチャに転生した少年は、しかし転生したことによる自らの矛盾に悩み苦しんだ。既に違う命として生涯を終えている自分では、どうあっても本当の意味でのヤムチャにはなれないのだと。
そのことを理解したからこそ、この世界で生きていける本物の「ヤムチャ」を作りたかった。
彼は異物である自分によって、ヤムチャがヤムチャでなくなることを受け入れられなかったのだ。
「後に託すことで……自分から踏み台になることで、本物のヤムチャを作ろうとしていたのか……」
結果はこの始末だ。とてもではないが、目も当てられない現状である。
だが……そんな少年の思いを知ったヤムチャには、だからと言って彼の夢を全否定することはできなかった。
自らの祖に対して、ヤムチャはできの悪い子供を叱りつけるような目で振り向いた。
「俺はあんたに、なんて言えばいいんだ?」
ほんの少しの共感を覚えながら、困惑した顔で問い掛ける。
その言葉を受けたのは、ヤムチャの隣に立っていたセルリジェネだった。
「さあてね」
肩を竦めながら、セルリジェネが笑う。
「ただ……」
ヤムチャの目を一点に見つめて、彼は万感の思いを込めるように言い放った。
「
自らの一人称を「俺」と言った彼は、ヤムチャとの差別化の為に掛けていた伊達メガネを外し、それを無造作に放り捨てた。
セルリジェネ――その正体はドクター・ゲロがメタルヤムチャであるヤムチャ・ティエリアーデの細胞を基に、人造超サイヤ人のプロトタイプとして製作した人造人間だ。
原作のセルほどのキメラではないものの、彼がその身体に含んでいる細胞には、オリジナルのリボンズヤムチャの細胞も含まれていた。
そしてリボンズヤムチャの身体は、ヤムチャになった少年の細胞でもある。
故にセルリジェネは、リボンズヤムチャの細胞を介して少年の想いをその身に宿していた。リボンズヤムチャがこの場所に封印していた記憶を、少年の想いを、彼だけは持ち続けていたのである。
そんなセルリジェネが、ヤムチャに転生した少年としてヤムチャに告げる。
「こんなことになるなんて、思ってもいなかった……俺はただ、お前やリボンズにカッコいいヤムチャになってほしかっただけなんだ……」
「“――――――”……」
「……はは……懐かしい名前だな。ヤムチャに呼んでもらえて、感動したよ」
ヤムチャが彼を気遣い、少年の名前をフルネームで呼ぶ。
すると、彼は嬉しそうに穏やかに微笑みながら、「セルリジェネ」として言った。
「……行きなよ、ヤムチャ。僕は、ヴェーダのコアと融合する」
「いいのか?」
ビッグゲテスター・ヴェーダとリンクしたことによって、コアの位置は完全に特定した。
あとはコアの元へと赴き掌握するのみとなっていたが、その役目を、ヤムチャの代わりに彼がすると言ったのだ。
原作映画でクウラがやったように、自分自身がコアと融合することで機械惑星を支配下に置く。しかしそれをやってしまえば、セルリジェネは人の姿ではなくなるだろう。
「良いも悪いもないさ」
ヤムチャの問いに、セルリジェネが淡々と答える。
「どの道、この身体じゃそう長くは生きられないし……僕にも、生きている意味があった」
ドクター・ゲロによって作られ、生まれた時から少年の記憶を宿し、そしてヤムベイドとしての活動の裏で今日まで物語の行方を見守り続けていた彼。
そんな彼は今までヤムチャにすら気づかれることなく、その心の内で葛藤し続けていたのだ。
彼がヤムチャの肩に手を置くと、淡い光を放ちながら自らの「気」を送り込んでいく。
クオリヤム・バーストで消耗した彼の体力を、完全とはいかないまでも回復させてくれたのである。
ヤムチャに転生した少年の想いと記憶を持つ彼は、罪滅ぼしの為にリボンズヤムチャを裏切ってヤムチャに協力してくれた。
ヤムチャは決して聖人君子ではなく、このような厄介なことを引き起こした少年を憐み嫌悪する感情はある。
だが彼にとってはそれでもセルリジェネはセルリジェネという一人の人間であり、彼と同一視しているわけではなかった。
ヤムチャ自身、己が何者でどういう存在なのか、ずっと悩み苦しんできたのだから。
だがそれでも――そんな俺にも生きている意味があった。
「……またね」
「ああ、また会おうぜリジェネ」
特定したコアの場所へ向かっていった彼と別れ、ヤムチャは一人飛翔していく。
ヤムチャの放ったクオリヤム・バーストによって身体制御を奪われている今、機械惑星周辺のヤヤたちは一斉にシステムダウンを起こし、全て糸の切れた木偶人形のように動かなくなり、地球に襲い掛かる大軍の脅威は無風となった。
クオリヤム・バーストの残滓が消えればたちまち活動を再開するだろうが……それもセルリジェネがコアと融合することによって、直に完全停止する筈だ。
一転して静かになったビッグゲテスター・ヴェーダの内部を飛びながら、独語するようにヤムチャが言った。
「みんな同じか……」
それぞれに思惑があり、何かを追い求めている。
自分の存在意義に思い悩みながら、それでも答えを出す為に戦っている。
辛いことや悲しいこと、受け入れたくない現実は誰だって抱えている。
あの悟空ですら、大猿化した自分が祖父を殺してしまったのだと知った時は責任を感じ、堪えていたのだ。
だがそれでも、未来に進んでいける者といけない者の差ははっきりと現れる。
「なのになんで、こんなことになっちまうんだか……」
ビッグゲテスター・ヴェーダの一区画では、未来の孫悟飯のように目元に傷を負ったトランクスの身体を、労わりながら抱き起こしているヤムチャアニューの姿があった。
満身創痍の姿でも無事を知らしめるように微笑むトランクスの後ろには、リボンズヤムチャによって改造された身に引導を渡されたアルケー・ゲロの残骸が横たわっていた。
彼らも、決着をつけたのだろう。
善と悪が幾度となく戦いを続けるこの世界――ドラゴンワールド。
既に物語は変革され、どのような未来を辿るのかは想像もできない。
だが、未来のことがわからないのは当たり前だ。
酷く当たり前で、それが世界なのだと、ヤムチャは改めて身に染みる。
「アイツにも、教えてやらねぇとな……」
因縁に終止符を打ち、愛する女性と抱き合うトランクスの姿を見て刺激を受ける。
俺も負けてられないなと笑い、ヤムチャは二人に気づかれる前に額に指を当てて地球人の「気」を探り、瞬間移動の体勢に入った。
「楽しいことは、いくらでもあるってことを――!」
狼は牙を研ぎ澄ませ、最後の戦いへと赴いた。
荒れ果てた砂漠の大地と平行線を描くように、リボーンズヤムチャが飛翔していく。
動きは精彩を欠き、既に超サイヤ人ロゼの姿でなくなったことからも消耗の程が窺える。
「ふふふふ、ははははは……っ」
その傷だらけ姿で舞空術で飛びながら、リボーンズヤムチャは愉悦の笑みを溢した。
――勝った!
成層圏でぶつかり合った悟空とリボンズヤムチャの最終攻撃。
その爆発の煽りを受けて、二人の身は大気圏内に墜落し、それぞれ離れた場所に落ちていた。
しかし、リボーンズヤムチャはまだ生きている。
対して、彼の落ちていった場所から感じる悟空の「気」は既に風前の灯火だった。
その姿は見えないが、「気を感じる」ということは、彼の姿が超サイヤ人ブルーではなくなったということでもある。そしてその「気」が今も消滅に向かって弱まっているということは、リボーンズヤムチャの手によって彼が致命傷を受けたことの証でもあった。
「勝った……ボクは孫悟空を倒し、原作さえも超越した存在となった……!」
これが愉快でなければなんだというのだ。
本来の予定では超サイヤ人ゴッドとなった彼を圧倒的な力で踏み潰す筈であったが、その上の変身形態である超サイヤ人ブルーをも踏み台にできたのならば当初の計画以上の成果を叩き出したと言える。
リボーンズヤムチャは遂に悲願を成し遂げたのだ。
……いや、駄目だ。まだ、とどめを刺すまでは。
彼の愉悦の気分は、その身を襲う負傷の痛みによって中断させられた。
「くっ……ダメージが……!」
神次元でもない敵を相手にするならば致命的と言えるほどではないが、リボンズヤムチャも深手を負った身である。
舌打ちを鳴らす彼の目が、気絶している筈の孫悟空の姿を探し回る。
彼の「気」が弱々しくなって死に向かっている今、段々と感知するのも困難になっていた。
だが、油断はしない。この手でとどめを刺して死亡を確認するまでは、リボーンズヤムチャも血眼だった。
「どこだ、どこにいる? 孫悟空……!」
その時、リボーンズヤムチャが不意に知覚する。
――何かが来る……!
一瞬にしてこの地球に現れた大きな「気」が、こちらに向かって接近している。
バーダックか、ベジータでもやってきたのだろうか。
そう思い、リボーンズヤムチャは向かってくる大きな「気」へと顔を向ける。
ヤヤ部隊が消えたことによって見えるようになった、無数の星々が瞬く美しい夜空――その端から流れてくる、青白い光の軌跡を見つけた。
その「気」がはっきり感じられるようになると、リボーンズヤムチャは即座に自分が思い浮かべていた相手ではなかったことに気づく。
山吹色の道着を纏い、上着は破れたのか上半身を露わにしている地球人の戦士。
黒髪を逆立てた彼の頬には十字型の、右目には斜め一文字の傷痕が刻まれている。
青白い気のオーラを放出し迫ってくるその男の姿は――
「まさか……まさか!」
――そのまさかだった。
胸に「樂」と描かれた緑色の服を纏い、ポタラのようなイヤリングを両耳につけたリボーンズヤムチャの姿を見据えながら、「ヤムチャ」は拳を握り締める。
疲れているところ悪いが、今こそ決着をつけてやる!
「狼牙風風拳……未来を切り拓くっ!」
そんな彼の来訪に奥歯をぎり、と鳴らしたリボーンズヤムチャが、怨嗟の叫びを上げて振り向いた。
「この……ヤムチャ風情がああああああっっ!!」
「ハイィ! ハイハイハイィーーーーーッ!!」
お互いの咆哮が響き渡る夜の砂漠で、二人のヤムチャが対峙する。
ヤムチャは自身最大の得意技である狼牙風風拳を仕掛けながら、敵に向かって突進していった。
リボーンズヤムチャ――リボンズヤムチャはヤムチャにとって自らの作り出した存在であり、生みの親とも言える相手だ。
今の自分がこの世に生きているのも、彼がいたからこその命である。
それと戦うことに、何らかの感情が湧き立たなくもない。
だが、それがこの地球の――プーアルや皆の未来に立ちふさがると言うのなら、ヤムチャは自らの親をも倒す覚悟を背負っていた。
バーダックと死闘を繰り広げた、孫悟空のように。
こうしてヤムチャ同士の最終決戦は、奇しくも悟空とヤムチャが初めて出会った砂漠で行われたのである。
『そう言えば、ヤムチャさんはどうだったんですか? その……「ドラゴンボール」のヤムチャさんは』
三年前、初めて「物語」のことを仲間たちに明かした時、クリリンと行った会話が脳裏に過る。
『俺はな……』
リボンズヤムチャによって植え付けられていた原作知識、それを参考にしながらヤムチャは自分なりの「ヤムチャ」という登場人物への印象を告げた。
最初の一撃は、リボーンズヤムチャが突き出した右手の人差し指から放たれた。
デスビーム――フリーザが使っていた技でもあるその光線が夜空の闇を切り裂き、ヤムチャの身へと襲い掛かる。
ヤムチャは潜在能力を解放したスピードを持って降り注ぐ光線の間を掻い潜り、リボーンズヤムチャに向かって突進していった。
敵へと組みついたヤムチャが、そのままスピードを緩めず、リボーンズヤムチャを巨大なキノコのような形をした砂漠の大樹へと叩きつける。
『情けない奴だと言われる理由はわかるんだよなぁ……ロリコンじゃないからとか言って小さい頃のチチさんをぶっ飛ばしたり、天津飯に白目剥かせてやるって吠えた後、自分が白目を剥くことになったり……外から見てたら、ヘタレにも見えたさ。でも……』
リボーンズヤムチャもやられっぱなしではない。
ヤムチャの拘束を振り払うと右ストレートで弾き飛ばし、飛び退りながらデスビームを連射する。
しかし、ヤムチャには当たらない。
鋭角的な動きで光線の群れをかわし、ヤムチャがリボーンズヤムチャの後を追う。
ヤムチャが撃ち返した一発の気弾が、砂漠の砂を豪快に巻き上げた。
その砂煙で作った煙幕をヤムチャが突き抜けた直後、リボーンズヤムチャの右拳がヤムチャの頭部に襲い掛かる。
気弾戦から移行した突然の肉弾戦に、ヤムチャは即応しきれなかった。
『何度も負けて、負けまくって……それでも自分なりにできることを信じて、戦おうとする。足手纏いになるだけだとわかったら、悔しくても引き下がれる。そんな生き方は……どうしようもなく、憧れるんだ』
一発、二発とリボーンズヤムチャの剛拳がヤムチャの顔面を打ち据え、その度にヤムチャが口から血を噴き出す。
だが、ヤムチャの身体を界王拳の赤いオーラが包むと、その攻勢は入れ替わった。
ヤムチャは鼻面に急迫してきたリボーンズヤムチャの拳を両手のひらで受け止めると、足元がお留守だと叫んで足払いを掛け、体勢を崩した敵の身体を、絡め取った腕ごと地面へと投げつけてやった。
「おおおおおおおおお!!」
「っ……くっ……!」
一本背負いの要領で背面から叩きつけられたリボーンズヤムチャが立ち上がるよりも速く、ヤムチャは右腕を振り上げ、真っ直ぐ敵に向けて突き落とした。
リボーンズヤムチャは仰け反るようにその一閃から逃れたが、刃のような拳に胸元が抉られ、「樂」の一文字が切り裂かれた。
「ふん……!」
リボーンズヤムチャはその損傷に怯むことなく、右足を振り上げてヤムチャを蹴り飛ばした。
直撃を受けたヤムチャが、後方に飛び退くことでそのダメージを軽減させる。
おびただしい土煙を巻き上げながら着地したヤムチャが、その砂を握りしめるように片手で自らの身体を支えながら立ち上がる。
『小物臭くて、情けなく見えたりすることもあるけど……物語のヤムチャは、本当の意味で弱い奴なんかじゃない。ヘタレだって言われるところも、なんでか魅力的に見えたんだ』
ヤムチャとヤムチャ。
ヤムチャティエリアとリボンズヤムチャ。
二人はお互いの「気」が底を尽きかけていることを感じながら、その目で相手を睨みつけて相対した。
リボーンズヤムチャが破れた上着を脱ぎ捨て、神の気を解放しながら「狼牙風風拳」の構えを取る。
ヤムチャも左手を前に、右手を顔の横へとも構えて「狼牙風風拳」の体勢に入る。
睨み合う二人はもはや、何も言葉を交わさない。
ただ言葉も無く、これが最後の一撃だと示し合わせるように砂漠のど真ん中で対峙していた。
リボーンズヤムチャの姿が薔薇色に染まり、超サイヤ人ロゼの力が大気を揺らす。
ヤムチャの身体を覆うオーラが紫色に変わり、ヤムチャドライヴが唸りを上げる。
眩い光が地上に広がっていき、短く、長い時間が過ぎ去った。
『だから俺は、俺も……いつか、そんなヤムチャになりたいと思う』
二人が、同時に地を蹴る。
助走をつけるように数歩刻んだ後、二人のヤムチャが跳ぶ。
真っ直ぐにお互い譲ることなく突き進んだ二人は――激突し、二色の光が弾けた。
ヤムチャとヤムチャがぶつかり合った結果、倒れたのはヤムチャであり、残ったのもまたヤムチャだった。
決め手となったのは狼牙風風拳の締めの形である、両手で狼の口を象った最後の貫き手だ。
それを為したのは、ヤムチャでありながらヤムチャではなく、しかし誰よりも自分がヤムチャであることを望み続けたヤムベイド――ヤムチャ・ティエリアーデただ一人だった。
「……終わったぜ、みんな……」
その言葉を残して、ヤムチャもまた砂漠の地に倒れ伏していく。
ドラゴンボールファンからも、にわかなファンからも、はてはファンですらない者たちからも何度となくネタにされ続けてきたポーズを自ら取るように、ヤムチャは横たわった。
『だからどうか、お前らも俺を見捨てないでくれよ。笑うのはいいが、馬鹿にはしないでくれ……なんてな』
戦いは終わった。
地球全土で飛び交っていた閃光や爆発は既に無く、夜明けと共に地上は静寂を取り戻している。
人類とヤムベイド、どちらの陣営が消滅したからではない。
突如としてヤヤの軍勢が活動を停止し、かと思えば突然動き出して宇宙まで上昇していき、その全てが一方向に向かって集まっていったからだ。
満身創痍の戦士たちへの攻撃も停止し、悟飯や天津飯たちも、ブルマやチチたちもみな命を永らえた。
そこにいる者たちの視線が、夜明けの空の向こうへと集められる。
彼らの視線が向けられているのはヤヤたちが集合していった場所であり、ビッグゲテスター・ヴェーダが浮かんでいた場所でもあった。
彼らは呆然と、あるいは驚きや困惑を浮かべながらそれを見上げていた。
「ソンゴクウ、大丈夫か?」
「……あ……ああ、大丈夫だ。サンキューな、ハッチャン」
リボーンズヤムチャとの戦いで雪国まで落ちていった自分を介抱してくれた、北の村の青年――懐かしい再会をすることになったハッチャンに肩を貸してもらいながら、孫悟空はふらりとした足取りで外に出て、空を見上げる。
「見て!」
「あれは……」
「な、なんじゃあれは……?」
今はハッチャンの奥さんらしい、美人に成長していたスノが空の向こうを指差し、避難場所から出てきた他の住民たちがざわめく。
彼女らの視線が集中する、そこにあったものは――
「……やったんだな、ヤムチャ……」
集大成だった。
タマネギのような形ではなく、円の形になった機械惑星の姿。
そしてその円の真ん中で、集結したヤヤたちが変形し光を放ちながら文字を象っていた。
それは、悟空にとって馴染み深い一文字であり。
それは、彼にとっても馴染み深い一文字である。
――【亀】――
機械惑星を丸に、集まったヤヤたちを字に見立てて形成された新たな満月が、地球の夜明けを祝福した。
劇場版OOでクオリア流れた時のああ終わってしまったんだな感は異常。
次回のエピローグで本作は完結します。意味不明なお話でしたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました!