元少年が企てたヤムチャ計画。それを実行するべく、リボンズヤムチャによって各惑星に送り込まれたヤムベイドたち。
各々に特別な役割を持って生み出された彼らの行動は、時にリボンズヤムチャの想像を上回る事態を引き起こしてくれた。
最も驚いたのは、惑星シャモに送り込んだヤムベイドの行方だ。
その星で用心棒の仕事をしていた
元少年の知識によりゲーム「ドラゴンボールゼノバース」を知るリボンズヤムチャとしては、不測的に起こったその事象を大いに歓迎し、嬉々として送り込むことにした。
――惑星シャモ担当のヤムベイドが、タイムパトロール隊員となった瞬間である。
因みにそのヤムベイドは薄紫色の髪をした女性の肉体で作られている為、遺伝子情報こそリボンズヤムチャを基にしているがオリジナルのヤムチャとは似ても似つかない姿をしている。
もしもヤムチャが紫色の髪の女性と結婚したら、こんな娘が生まれるのではないかなぁと想像できる程度の類似点である。
言われてみればヤムチャの面影を感じさせるそのヤムベイドは、ヤムチャが元々美形であることもあり普通に美人だった。
コードネームは
タイムパトロールとなった彼女は未来トランクス(ゼノ)の元で貴重な経験を積み、やがて帰還するビッグゲテスター・ヴェーダの元へ大きな糧をもたらすだろう。
他にはターレスのクラッシャー軍団に加わったヤムベイド。スラッグやクウラ機甲戦隊等、劇場版ドラゴンボールに登場する敵キャラの一味となったヤムベイドたちがいる。
リボンズヤムチャ自身存在を確認した上で彼らを送り出したのだが、ビッグゲテスターの存在と言い、この世界に劇場版に登場したキャラが軒並み存在していることは幸運だった。
そして、地球。
そこではティエリアが大活躍をしていた。
ヤムチャ・ティエリアーデ。
ヤムベイドとしての記憶を封印されている彼は、自分のことを本物のヤムチャだと信じ込んだまま活動を続けている。
原作のヤムチャと同じ立ち回りをするべく、リボンズヤムチャが自身の身代わりとして地球に送り込んだ彼は、しかしリボンズヤムチャの想定を上回る活躍を見せてくれた。
その始まりは第21回天下一武道会である。
予選を難なく通過したヤムチャ・ティエリアーデは、原作通りジャッキーチュンこと亀仙人と対決した。
この戦いがまた予想以上に白熱したのだ。
彼を含め全てのヤムベイドたちは、本来ならばビッグゲテスター由来の強靭な肉体を持っている。原作で言うところの無印編では、指先一つでピッコロ大魔王を倒せてしまうオーバースペックだった。
しかし、あまりにも突出した身体能力は「技」の研鑽を怠る温床となってしまう。それ故にリボンズヤムチャはヤムチャ・ティエリアーデに対して、彼の肉体をストーリーの進行具合に応じて戦闘力の上限にレベルキャップが掛かるように設定していた。
ヤムベイドとしての記憶も封印されており、自らの正体を知らないヤムチャ・ティエリアーデ本人としては至って本気で戦っているつもりだろう。
ジャッキーチュンに対する演技の舐めプではありえない必死さもまた、彼の戦いを熱く演出していた。
ヤムチャ・ティエリアーデは拮抗した。
原作ではさわやかな風をプレゼントされ、ジャッキーチュンが触れるまでもなく完敗を喫してしまったヤムチャである。しかし、彼はその原作展開を見事に覆し、レベルキャップにより大幅な制限が掛かった戦闘力でありながらも、ジャッキーチュンにクリーンヒットを浴びせてみせたのだ。
それも、ヤムチャの代名詞である「狼牙風風拳」で。
戦闘開始当初はジャッキーチュンの圧倒的な戦闘技術を前に、原作通り劣勢に追い込まれていた。
しかし、土壇場で踏ん張ったヤムチャ・ティエリアーデは得意技の狼牙風風拳を仕掛けると、ジャッキーチュンから2カウントのダウンを奪ったのである。
「手負いの狼には気をつけろよ、爺さん!」
その拳で一矢報い、ドヤ顔で言い放った彼の姿を見て、観戦客のブルマが目をハートにしてときめく。
少年悟空やクリリンもヤムチャの実力を見て驚き、ジャッキーチュンもまたはっきりとその目つきを変えた。
――そこから、二人のハイスピードバトルはさらに加速していった。
ヤムチャの振るう狼の牙は試合時間が経過するほどに鋭く研ぎ澄まされ、技としてより美しく洗練されていった。
それに対して発破を掛けるように煽りながら、彼の攻撃を一歩も退かず捌ききってみせるジャッキーチュンの姿はまるで愛弟子に稽古をつける師匠のようだった。
「並外れた力じゃが、動きに無駄がありすぎるな! ほれ、足元がお留守じゃぞい」
「くっ……まだまだ!」
「ほら、また乱暴になっとる。喧嘩をやっとるんじゃないんじゃぞ」
「若者の足を引っ張ってんじゃないぞォォ!」
そんな言葉と拳の応酬をしながら、これがアニメなら挿入歌が流れるような勢いで二人の試合は猛り盛り上がっている。
その白熱ぶりは、後の決勝戦にも劣らなかった。
しかし結果的には、ヤムチャはジャッキーチュンに敗れ、原作通り一回戦で姿を消すこととなった。
決め手となったのはジャッキーチュンのかめはめ波だ。
試合の中でヤムチャの実力を認めたジャッキーチュンは、自らの正体が露見するのも構わずに亀仙人の必殺技を叩き込んだのである。彼もまた、禁じ手を使うほど追い詰められていたということだろう。
あるいは武闘家の大先輩として、ヤムチャという若者に期待を抱いたのかもしれない。
それは試合後に彼の正体を察したヤムチャから「貴方は武天老師様なのでは?」と問われた際、「そうじゃよ。みんなには内緒にな」と、あっさり真実を明かしたことからも窺えた。
亀仙人ほどの男だ。ヤムチャ・ティエリアーデの潜在能力を見抜いた上で、武道家としてはあまりに拙い戦闘技術の乖離に対して何らかの違和感を覚えたのだろう。
流石にビッグゲテスター・ヴェーダとの繋がりまでは知る由もないだろうが、彼は原作よりも早い段階でヤムチャに対し興味を持った様子だった。
原作ブレイクが起こったのはその時である。
大会が終わった後、変装を解いた亀仙人の方から「わしのところで鍛えてみんか?」と誘いを掛けてきたのだ。スケベだがスケベなりに俗世から離れ、積極的に弟子を取らなかった彼が孫悟空の時と同様の扱いをヤムチャにしたのである。
今はまだ自分がヤムベイドであることを知らないヤムチャ・ティエリアーデだが、それはリボンズヤムチャが思わず高笑いしてしまいそうなほど、ヤムベイドとして理想的な立ち回りだった。
それは、ヤムチャが原作よりも少しだけ早く亀仙流に入門できたことに他ならず、二つ返事で了承したヤムチャ・ティエリアーデの反応を見てリボンズヤムチャは「これは願ってもない収穫だ」と頷いた。
しかし、このヤムチャ・ティエリアーデ――原作ヤムチャのようにピラフ城でブルマと共に拘束されていない為か、未だ女性への免疫がゼロだった。ゼロの執行人である。
リボンズヤムチャにとってはどうでもいい情報だったが、原作よりも積極的に言い寄ろうとするブルマに反して二人の関係はあまり良くないようである。
それからも、ヤムチャ・ティエリアーデの「いい感じの原作介入」は続いた。
レッドリボン軍編では途中から孫悟空と合流。まるでエンテイの映画で駆けつけてくれたリザードンの如く、彼はいざという時に頼れる男ぶりを見せてレッドリボン軍壊滅に一役買った。
しかしその際、持ち前のあがり症が発症し、女性士官であるバイオレット大佐を前にまんまと一杯食わされてしまったものだがそこはまあご愛嬌である。
寧ろそういった、戦闘面では原作ヤムチャより活躍しながらもそこはかとないヤムチャらしさを見せる彼の働きには、ビッグゲテスター・ヴェーダを介してその様子を見ていたリボンズヤムチャをして花丸をあげたいところだった。
彼に与えられた役割もそうだが、1000体のヤムベイドの中で最もヤムチャしているのが彼だった。
続く占いババの宮殿では原作と同様の援護でスケさんを撃破し、続いて原作では敗北を喫したミイラくんを難なく完封してみせる。
さらにアックマンを速攻で蹴散らし占いババの度肝を抜いた彼は、惜しくも最後の番人である仮面の男こと孫悟飯には敗れたものの、ここまで一貫して「ちょっと強いヤムチャ」の活躍をしていた。
そして、第22回天下一武道会である。
レベルキャップが掛かっているものの、ビッグゲテスター・ヴェーダによって生み出された彼は原作ヤムチャとは比較にならない潜在能力を持っている。
そんな彼が、原作よりも早い段階からみっちりと亀仙人の教えを受けたのだ。
そうなれば、彼の戦闘技術はこれまでで最も高く向上していた。
しかし、ヤムチャ・ティエリアーデはまたも原作通り、一回戦で敗退した。
相手は天津飯である。
そう、結果的には原作通り、ヤムチャは負けてしまった。しかし、その試合内容は原作とは全くもって別のものだった。
新狼牙風風拳の高速戦法によって天津飯を翻弄し、追い詰めていながらも……ほんの些細なミスで、事故のような場外負けを喫したのである。
その呆気なさすぎる結末には、この時まだ悪人ぶっていた天津飯さえも納得していなかった。
「ルールなんだからしょうがないだろ」
「ふざけるな! もう一度俺と戦え!」
「あれ? あんた殺し屋なのに随分誇り高いんだな。そのまま武道家になった方がいいんじゃないか?」
「……っ」
そんなやり取りが二人の間で交わされ、後の天津飯の改心に一役かっていたりするがそれは別の話である。
因みに決勝戦の孫悟空対天津飯の試合では、原作で乱心した鶴仙人をかめはめ波で吹っ飛ばした亀仙人の役回りを、ここでは亀仙人ではなく先んじて動いたヤムチャが行なっている。
その後で「勝手な真似してすみません」と亀仙人に頭を下げる彼は、どことなく大物感が漂う食えないイケメンオーラを放っていた。
……この辺りから、なんだか彼はあまりヤムチャしなくなった。
ちょっとレベルキャップが緩すぎたかなと、リボンズヤムチャは彼に下方修正を掛けるべきか悩んだが、彼のヤムチャポイントが計画の支障を来すほど乖離しているわけではないこともまた確かだった。
寧ろ第22回天下一武道会の優勝者が原作通り天津飯になったことも含めて、ヤムチャ・ティエリアーデの行いは大筋に何ら変化を与えていないと言えた。
彼が何をしようと、結果はどこまで行っても原作沿いなのだ。
「まあ、いいか」
ビッグゲテスター・ヴェーダを介して地球の様子を窺いながら、虹彩を金色に輝かせるリボンズヤムチャはこれも一興だと許容することにした。
今更原作ヤムチャと全く同じ軌跡を辿られても面白くないので、リボンズヤムチャは余計な横槍を入れずに見守ることにしたのだ。
そして始まる、ピッコロ大魔王編。
クリリンの突然死から始まるシリアスバトルの幕開けは、「ドラゴンボール」という作品の路線が完全に定まった頃でもある。
原作のヤムチャとしては天津飯戦で足を折られた為に参戦することができず、終始戦力外だった闇の時代だ。
しかし原作と違って足を折られることなく、しかも強キャラ感を保ったまま場外負けするというある意味優勝するよりも美味しいポジションに立っていたヤムチャ・ティエリアーデは、このピッコロ大魔王編に参戦することができた。
彼は原作通り孤立したところを殺されてしまったクリリンを見て、激昂する悟空と共にタンバリンを追跡する。
しかし天津飯との決勝戦で力を使い果たしていた悟空はヤムチャの制止を振り切ってタンバリンに挑み、原作通りやられてしまう。
目の前で悟空を倒されたヤムチャは、人生最大の怒りを放つ。
万死に値する!――追い掛けてきたヤムチャを次の獲物と定め下りてきたタンバリンに対して、ヤムチャ・ティエリアーデは心からの憎悪で猛攻を仕掛けていく。
新狼牙風風拳を叩き込み、「何故人間にこれほどの力が……!?」と驚愕するタンバリンを圧倒。
その勢いのまま魔族をあと一歩のところまで追い詰めたものの、頭上から乱入してきたピッコロ大魔王の爆烈魔光砲によってヤムチャ・ティエリアーデは敗れ去った。
――ここに来て、最も盛大な原作ブレイクである。
ピッコロ大魔王が直々に来訪し、しかも老いた身体で爆烈魔光砲を撃ってまでヤムチャを殺しに掛かったことにリボンズヤムチャは驚く。
大魔王ともなれば、ヤムチャ・ティエリアーデの肉体が人間のそれではないことを見抜いていたのかもしれない。
しかしその状況――ビッグゲテスター・ヴェーダを介して眺めていたリボンズヤムチャの思考が、もしも変革前の元少年であったならば……間違いなくこう思っただろう。
――ヤムチャめちゃくちゃいいポジションじゃねぇか!
ドラゴンボールの作者、鳥山明氏が当時最終章のつもりで書いていたというピッコロ大魔王編。
そのラスボスたるピッコロ大魔王に自らの存在を誰よりも脅威と認識させ、彼を玉座から引き摺り出したのだ。
悟空でも天津飯でもなく、ヤムチャが。
ヤムチャが、大魔王の恐ろしさを良い感じに引き立てたのである。
不意打ちの形で、まともに戦えずにやられてしまったところがまた美しい。大魔王とヤムチャがお互いの格を保ったまま、スムーズに決着をつけたのだ。
他でもないヤムチャガチ勢だからこそ、そのヤムチャしている立ち回りには誰よりも感激するものがあった。
しかし、リボンズヤムチャはヤムチャガチ勢ではない。
その時の彼が抱いたのは「余計なことを……」と、ヤムチャ・ティエリアーデに面倒な攻撃をしてしまったピッコロ大魔王に対する苛立ちの気持ちだった。
老いてはいても、ピッコロ大魔王だ。
彼の最大の力で放つ爆烈魔光砲を諸に受ければ、地球の者では肉片一つ残らない筈だった。
……そう確信していたからこそ、ピッコロ大魔王もタンバリンも巨大な爆心地を見てヤムチャの生存確認はせず、その場を去っていったのだ。
王者故の慢心に助けられたと、リボンズヤムチャはポーカーフェイスの裏で安堵の息をついた。
爆烈魔光砲を受けたヤムチャ・ティエリアーデは――その身体に傷一つ負っていなかったのだ。
ヤムチャ計画の為、戦闘力にレベルキャップという制限が掛かっているヤムチャ・ティエリアーデだが、流石に死亡に直結するような事態を見過ごすことはできない。
それ故にヤムチャ・ティエリアーデを守る安全装置として、一時的に本来の能力が解放され、ピッコロ大魔王の攻撃からやり過ごしたのである。
ヤムベイドの肉体は進化したビッグゲテスター・ヴェーダによって、最後の融合ヤムチャに匹敵する戦闘力を宿して作られたものだ。
本来の力は超サイヤ人級であり、ピッコロ大魔王の必殺技でもかすり傷一つ負わなかった。
この時、幸いだったのはピッコロ大魔王たちが爆烈魔光砲から無傷で生還したヤムチャの姿を見ていなかったことと――ヤムチャ・ティエリアーデ自身、自分は死んだと思い込み、二日間意識を失っていたことだった。
目覚めたヤムチャ・ティエリアーデが口漏らした第一声は「俺……なんで生きているんだ?」という自身の身体に対する疑問の言葉であり、自らの力に気づいた様子はなかった。
彼が気づいたならば、この時点で彼のヤムベイドとしての記憶を復活させなければならなかったところだったが……そうせずに済んだのは、リボンズヤムチャにとっても喜ばしかった。
来るべき時ではない今、彼にはまだ原作ヤムチャのポジションに立ち、ヤムチャとしてヤムチャしてもらう必要がある。そういう意味では彼のヤムチャムーブは随分と怪しくなっていたが、見守っているリボンズヤムチャはまだ黙認することにした。
――そこからの展開の大筋は、概ね原作通りである。
ヤジロベーによって助けられた悟空がカリン塔へ赴き、超神水を飲んで覚醒する。そして原作通りドラゴンボールで若返り、キングキャッスルを落としたピッコロ大魔王に挑むと、主人公とラスボスは決死の攻防を繰り広げた。
少しだけ違ったのは、彼がピッコロ大魔王に最後の一撃を放つ瞬間だった。
「消えろ! ぶっ飛ばされちまえ!」
そこに、ヤムチャがいた。
「っ!? 貴様っ、なぜ生きて……!?」
「貫けぇーーっ!!」
「……! しまっ……」
全てを右手に懸けた悟空の拳と、フルパワーで放とうとするピッコロ大魔王の爆烈魔光砲。
その場面に颯爽と登場したヤムチャ・ティエリアーデが、下からかめはめ波を放ちピッコロ大魔王の注意を逸らしたのだ。
仮に彼が横槍を入れなくても、悟空は原作通りピッコロ大魔王の腹を貫いただろう。
しかし死んだと思っていた仲間が一番大切な時に助けに来てくれた形でのヤムチャの登場は、悟空に最大の勇気を与え、次なるピッコロ大魔王へのとどめの一撃となった。
――それは、ヤムチャのくせにどこか後のベジータのような立ち回りだった。
ピッコロ大魔王を仕留め、落下してきた悟空をその腕で抱き留めると、ヤムチャ・ティエリアーデは後から駆けつけてきたブルマと自身のことで心配を掛けてしまったプーアル、そして一部始終を見ていた天津飯に向かってグッと親指を突き立てた。
腹を貫かれたピッコロ大魔王は、悟空を見て「見事……というしかないな」と賞賛した後、次にヤムチャを見て「あれを恐ろしいと感じた私の胸騒ぎは……正しかったようだ」と呟く。
そして自らの怨念を込めたタマゴを放つ、彼は原作通り爆散していった。
――これにて、ピッコロ大魔王編は完結する。
ヤムチャ・ティエリアーデの出番は亀仙人や天津飯と比べればほんの僅かに過ぎなかったが、美味しいところを見事にかっさらっていったその活躍ぶりは間違いなく原作のヤムチャを凌駕していた。
それこそリボンズヤムチャの思考が元少年だったなら、この時点で満足していたところだろう。
しかし、リボンズヤムチャの焦点はあくまでもサイヤ人編以降に当てられたものであり、ここまでの展開はどこまでいっても自らの前座に過ぎなかった。
ヤムチャ・ティエリアーデもまた、所詮は自分がヤムチャの役割を与えたビッグゲテスター・ヴェーダ製の人造人間に過ぎない。
この世で本物のヤムチャはただ一人――自分だけだと確信していた。
「君も良い道化だね、ティエリア」
金色に輝く虹彩が、ビッグゲテスター・ヴェーダを介して全てを見通す。
その瞳はすっかりヤムチャとして悟空達に溶け込んでいるヤムチャ・ティエリアーデの姿を見据えながら、リボンズヤムチャは彼なりの労いを道化に贈った。それがエイジ753の5月9日――ヤムチャに転生した少年がリボンズヤムチャに変革してから、三年と半年が過ぎた頃である。
ヤムチャ計画の第三段階を実行するまで、まだまだ時間は掛かりそうだ。
それから三年が過ぎたエイジ756。孫悟空はすっかり青年の姿に成長し、第23回天下一武道会が開幕した。
当然ヤムチャ・ティエリアーデも出場しており、その技は今までよりも俄然磨きが掛かっていた。
一回戦の相手は、シェンこと地球の神。原作ではヤムチャが最も醜態を晒した相手と言えるだろう。「足元がお留守になっていますよ」はヤムチャファンの間では色々な意味で永劫に語り継がれている名言である。
しかし、その台詞がこの世界の暫定ヤムチャである、ティエリア・アーデに掛けられることはなかった。
何故ならば地球の神にそのような余裕はなく、酷く警戒した様子だったからだ。
ピッコロ大魔王の半身である彼もまた、ヤムチャ・ティエリアーデの肉体が自然の物ではないことに薄々勘づいていたのだろう。自分が赤子の頃に乗ってきた宇宙船を拾い、それを使って宇宙へ飛び立っていったリボンズヤムチャの存在までは気づいていないようだったが、彼は今までリボンズヤムチャが見てきた者にはない視点を持っていた。
「ふむ……正義感は強い。弱き者を助ける優しさもある。しかし何故でしょう……私は貴方に、なぜか得体の知れない恐怖を感じています。貴方自身……いや、その後ろに何かがいるように」
「っ……いい加減にしてくれ! 俺が何だって言うんだ!?」
「……失礼、忘れてください。今は試合に集中しましょう」
「言われるまでもありません!」
舞台の上で交わされた、シェンとヤムチャの会話である。その雰囲気は、とても足元がお留守だとかキンタマを鍛えているだとか言える雰囲気ではない。二人の間に漂っていたのは、極めてシリアスな空気だった。
明らかに違和感を感じている様子の神の姿を、リボンズヤムチャは「伊達に神を気取っていないね」と見下した目で見つめていた。
そうして始まったヤムチャ・ティエリアーデ対シェンの試合内容であるが、ここでも原作ブレイクが巻き起こった。
ヤムチャがシェンを倒したのである。
普通に。
力、技、どれもがシェンの一歩上を行く、ヤムチャの完勝だった。
シェンが観戦客のおっさんではなく本体の身で戦っていたのならば勝負はわからなかったかもしれないが、本来の目的がピッコロ大魔王の生まれ変わりを打倒することである以上、ここで潰し合い、お互い無理に消耗する必要はないと判断したのだろう。
そんな彼は降参を宣言すると、後を託すように言った。
「手合わせをしてみて、貴方が孫悟空同様素晴らしい武道家だということがわかりました。マジュニアの相手、任せましたよ」
「……あんた、一体……」
武舞台から立ち去るシェンを、茫然と見送るヤムチャ。
そのヤムチャが二回戦に戦ったのは、やはりクリリンを倒して勝ち上がったピッコロ大魔王の生まれ変わりたるマジュニア――後のピッコロさんである。
そして始まる、ヤムチャ対マジュニアの白熱した攻防。
二人の戦いは熾烈を極めた。ピッコロ大魔王をも上回るマジュニアの手数に対して、ヤムチャもまた新技を引っ提げて対抗した。
ヤムチャは新必殺技である繰気弾――それを改良し、手を振り回す必要無く自在に遠隔操作することができる「
試合の様子をビッグゲテスター・ヴェーダを介して眺めていたリボンズヤムチャが、最も驚いたのがその瞬間である。
これまで本筋はそう変わらないものの数々の原作ブレイクを引き起こしてきたヤムチャ・ティエリアーデだが、遂に原作にはない新技を編み出したのである。
しかもその威力と汎用性の高さは原作の「繰気弾」の比ではなく、真剣に焦った様子のマジュニアを見て「これは使える」とリボンズヤムチャは思わぬ収穫に喜んだ。
また一つ、ビッグゲテスター・ヴェーダに有用な情報が行き渡った瞬間である。
そして、ヤムチャ・ティエリアーデの新技はそれだけではない。
編み出したもう一つの新技も、繰気弾の応用によるものだった。
繰気弾を相手の肉体へ融合させることによって、相手の肉体を繰気弾のように自らの制御下に置く――「トライアル繰気弾」という恐るべき大技を披露したのだ。
ファングで相手を牽制し、トライアルで勝負を決めるという狡猾な戦術である。その上、相手側から無理に接近しようとすれば狼牙風風拳が待ち構えている。
冗談抜きで、この時点でのヤムチャ・ティエリアーデの戦闘技術には目を見張るものがあった。元々は原作のヤムチャと同じ立場に立っていた筈が、ここに来てヤムチャとは明らかに違う方向性を見せたのだ。
マジュニアとヤムチャの力量は拮抗しており、ヤムチャがトライアルで彼を制御下に置けるのはほんの一瞬だけだ。しかしそれだけでも餃子の超能力とは比較にならない効果をもたらし、僅かに動きを止めた一瞬で勝負を決めるだけの力が今のヤムチャにはあった。
ヤムチャ・ティエリアーデは動きを停止させたマジュニアに複数のファングを叩き込んだ後、満を持して狼牙風風拳を発動。マジュニアを一気に攻め立て、遂に勝利を掴んだのである。
「これが俺
自分をここまで鍛えてくれた亀仙人。クリリンや悟空、天津飯たち共に競い合うライバル。そして、いつも傍で支えてくれたプーアル。
一人ではない。彼らの存在こそが「ヤムチャ」というちっぽけな盗賊をここまで育てあげたのだと――それを拳で語るような、彼の一撃だった。
そんなヤムチャの牙は、復讐の為に生まれ、今日まで生きていたマジュニアに届き――彼の魂を揺さぶった。
「何故……殺さん……? 情けをかけたつもりか?」
「馬鹿、殺したら負けになっちまうだろ」
「……前のピッコロ大魔王も感じていた……貴様は、危険だ。俺は必ず、貴様や孫悟空を殺しにいくぞ」
「それは怖いけどな……つらくねーか? 顔も見てない誰かの為に、そうやって生きてんの」
「……なに?」
勝負がついた後、お互いに満身創痍の状態で睨み合いながら、ヤムチャが笑った。
「生きる為に、戦えよ」
そう言って、ヤムチャはこの戦いを楽しそうに見守っていた悟空を見て続ける。
「俺やアイツに勝ちたいなら、もっと純粋な気持ちで戦わねーとな」
「……ちっ」
これは……なんだ? 妙な感覚を覚え、リボンズヤムチャは怪訝な目をする。
リボンズヤムチャがどこか違和感を感じたヤムチャ・ティエリアーデの言葉に対して、ピッコロはぺっと心底不愉快げに唾を吐きながら武道会場を立ち去った。
決勝戦は、二人の激戦で崩壊した武舞台の上で行われた。
最後の組み合わせはヤムチャ対孫悟空である。
悟空はピッコロ戦で体力を消耗したヤムチャと戦うことに対し思うところがあった様子だが、そこはもしもの時に備えてカリン様から仙豆を持たされていたヤジロベーのおかげで事なきを得た。
ヤムチャは完全回復し、これで思い切りやりあえると悟空も喜ぶ。
師匠を超えた亀仙流同士の激突は、天下一武道会歴代最高の試合だったと後にレフリーのおじさんが語り継ぐこととなる。
結果は孫悟空の勝利である。
磨き上げた力と技の応酬によるギリギリの戦いは、二人の実力が完全に互角であることを意味していた。
これまでは技の面で貧弱なヤムチャだったが、「ファング」と「トライアル繰気弾」という新技は悟空ほどの天才をしても手を焼いていたものだ。
最終的にそれらの技をも攻略してみせた悟空だが、ヤムチャもまた悟空の手の内を知り尽くしていた。
同じ流派であり同じレベルの力を持つ二人に、お互いのかめはめ波は通じない。
ならばとそんな二人が共に考え至ったのは、自らの拳と蹴りによるシンプルな殴り合いだった。
狼牙風風拳対ジャン拳。
ヤムチャは伝家の宝刀を引き抜き、悟空は懐かしい技を引っ張り出してぶつかり合っていく。
その戦いの中で、「最初に会った時と同じだな!」と言い放つ悟空に対して、ヤムチャは「最初……? っ、なんだ……この感覚は……」と自身の頭に一瞬だけ走る違和感に眉をしかめる。
もしやと思ったが、ヤムチャ・ティエリアーデは自力を持って、薄々と自らの正体に気づき始めていたのだ。
予定よりも早かったなと、その様子をビッグゲテスター・ヴェーダを介していたリボンズヤムチャが呟く。
戦いの最中である為にヤムチャは即座にその意識を振り払うと、悟空との戦いに集中する。
そんな二人が繰り広げる永遠に続くかと思われた肉弾戦の果てに――最後に立っていたのは、「優勝したもんねー!」と高らかに叫ぶ孫悟空だった。
青年になっても、その笑顔は少年時代と何ら変わっていない。
そんな彼の足元で息も絶え絶えに横たわるヤムチャは、敗者とは思えない晴れやかな顔をしていた。
――大歓声が二人の武道家を迎え入れる。
この時、原作とは違いマジュニアが大々的にピッコロ大魔王の復活を宣言していなかった為、観衆は最後まで逃げずに彼らの戦いを見届けていたのである。
これにて第23回天下一武道会の優勝者は孫悟空に決まり、準優勝者がヤムチャとなる。
優勝が悟空という結果だけは原作通りだったが、三大会目にしてヤムチャが一回戦ボーイを返上するという原作とは違う結果も表れた。
――ああ、素晴らしい。
実に素晴らしい余興だった。
思わずリボンズヤムチャは誰もいない部屋で拍手を贈ると、ヤムチャ・ティエリアーデの活躍を適当な気持ちで祝福した。
そんなリボンズヤムチャが今いる場所は――フリーザの宇宙船の執務室だった。
私のヤムチャさんのイメージ・・・苦労人 運が悪い人 なんか負けそう 言うほど情けなくはないがやっぱりヘタレ ヘタレ界の神
私のリボンズさんのイメージ・・・苦労人 運が悪い人 いつもソファーで目を光らせてる くっそ強いけど慢心して足元をすくわれる イノベイド界の神
ヤムチャティエリアは正統派の魔改造ヤムチャをイメージしています。
次回はリボンズヤムチャがフリーザ様のエンジェルになります。