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ハーメルンでDB小説を漁ったことのある者ならば、このイラストがどのような意味を持つか理解できるだろう!
ということで超かっくいいアルティメットヤムチャのイラストです。カミヤマクロさん、どうもありがとうございます!
というわけでイラストを頂いたことで滅茶苦茶気分がハイになったので今日も投稿します。
今回はシリアスヤムチャです。
「タイムパトロールの仕事、本当はあまり好きじゃないでしょう?」
不意にそう訊ねられ、トキトキ都のタイムパトロール隊員であるトランクスが目を丸くした。
訪ねてきたのは、入隊してまだ間もない新任のタイムパトロール隊員アニュー。訊ねられた場所は、時間犯罪の影響を観測する施設、時の巻物が収められている「刻蔵庫」だった。
巻物の整理を区切りのいいところで終えて、トランクスが一人で休憩していた時のことだ。
トランクスは小首を傾げて薄紫色の髪の女性の目を見つめた。
突然そのような、「タイムパトロールの仕事、本当はあまり好きじゃないでしょう?」と訊ねられたことの意図が掴めなかったからだ。
しかしアニューの浮かべている微笑みはどこまでも柔和で、裏があるようには見えない。
トランクスは少しの戸惑いを抱きながら、逆に訊ね返してやった。
「何故、そんなことを聞くのですか?」
そう聞けば、面食らったような顔をした彼女が頬に指を当て、照れたような表情で答えた。
「ん~、何となく、でしょうか?」
「はは、そうでしたか。俺は別に、そんなことはありませんよ」
「そうでした? 変なことを聞いてすみません」
「いえ、そんな」
その時の会話は、単なるアニューの気のせいだったという体で終了した。
しかし、ふとトランクスが一人で仕事に取り掛かっている時、彼女の言葉を思い出してその意味を納得してしまった。
……そう、だったのか……
愕然としたのは、トランクス自身だった。
彼女の問い掛けが、タイムパトロールの仕事があまり好きではないということが――トランクス自身さえも今まで気づいていなかったとでも言うように、不思議なほど胸にすっぽりと収まっていたのだ。
「そんな、馬鹿な……」
トランクスはこの仕事を――自分がタイムパトロールの一員になることを受け入れていたつもりだった。
人造人間に滅茶苦茶にされてしまった世界。その未来を変える為、かつてトランクスはタイムマシンに乗って過去へ渡った。
「孫悟空の病死」という確定された歴史を変えることによって、何か一つでも希望を持ち帰りたかったのだ。
事実、トランクスは過去での修行によって自らも超サイヤ人を超えた力を手に入れることができ、未来の人造人間を打倒することができた。
過去の世界もまた孫悟空の生存によって多くの人々が救われ、地球は幾度となく危機を乗り越えることができたのである。
結果を見れば、トランクスが歴史を変えたことは世界に多くの光をもたらした。
しかしそれは、本来許されざる行いだったのだ。
歴史の改ざんは、重罪に相当する。
正しい行いをしたつもりだったトランクスは、後にそれを罪と咎められ、法廷に上げられることとなった。
今にして思えば、その場で処刑されたとしてもおかしくはなかっただろう。結果的に善行になったとは言え、トランクスの行いは間違いなく時空法の違反する悪行だったのだから。
そこで、トランクスに救いの手を差し伸べてくれたのがクロノア――今のトランクスの上司である、時の界王神様である。
そもそも彼のいた地球ではタイムマシンの技術自体が史上例のない代物であり、前提として時空法などという法律があること自体知る由がなかったこと。
時間を渡ったトランクスには決して悪意があったわけではなく、元をと言えば彼が時間を渡らざるを得ない状況まで追い込んだ「人造人間」などという悪魔を生み出した科学者にこそ問題があるのだと言い、彼を弁護してくれたのだ。
そんな時の界王神の恩情によって、法に裁かれる筈だったトランクスは救われた。
そしてその恩義に報いる為に、彼は今、彼女の下でタイムパトロール隊員として働いているのである。
そんな経緯を経て、タイムパトロール隊員になったトランクスだ。
全ては自らの意志で決めたことであり、この仕事にも何ら不満は抱いていない筈だった。
だが……
トランクスは目を瞑り、静かに仮眠の体勢に入る。
……正直に言えば、自らの犯した過ちを「罪」と認めていない自分も確かに存在している。
正しいことの為に時を渡って、大切なものを守る為に戦ったことの何が悪いのか?と。
自己弁護に過ぎないそれが、浅ましい感情だというのはわかっている。だから今まで誰にも口にしたことはなかったし、法廷に上がった時も自らの罪を受け入れた上でだった。
ただ、だとしても何故?
こうして指摘されなければ自分自身でも気づけなかったような感情を、何故新任のタイムパトロール隊員が気づけたのか。
そう思い始めてから、トランクスは――あくまでも仕事のパートナーに過ぎないと思っていた彼女のことが、日に日に気になっていった。
そして、気づいた。
彼女もまた、自分と同じなのだと。
時の界王神様や他の隊員たちと談笑している彼女の顔を見た時、トランクスはそのことに気づいた。
みんなの前で笑顔を浮かべている彼女の後ろで、そんな彼女を悲しげな目で見つめるもう一人の彼女がいるように見えたのだ。
それは、どんなに上手く取り繕っていても誤魔化せない小さな溝であり、どうしても周りに溶け込むことができない負い目にも似た影だった。
時の界王神様から仕事を押し付けられた時、困ったように笑う自分と同じだ。
それはトランクスが彼女のことを注意深く見ていたからこそ気づくことができた違和感であったが――もしかしたら彼女もまた、自分のことをよく見ていたから気づけたのかもしれない。
そう思った瞬間、トランクスはいつしか彼女のことを仕事のパートナーとしてだけではなく、一人の女性として惹かれていた。
「最近、感じるんです……貴方の視線を」
「えっ?」
ある日の休憩中、彼女からそう言われた時、ばくりと心臓が跳ね上がるような感覚がトランクスを襲った。
しかし直後の言葉で、その鼓動が微笑ましいものを見るように落ち着いていく。
「タイムパトロール隊員になって日の浅い私を、気に掛けてくれているんですよね? その、ありがとうございます」
無垢なる赤い瞳で見つめられれば、彼女に対して不純な気持ちを抱く自分が酷く申し訳なくなる。
トランクスは嘆息しながら、そんな彼女の純情さに訂正を入れた。
「アニュー、貴方は強くて聡明ですが、案外鈍いんですね」
「鈍い……ですか?」
「それはもう、相当に」
「どういう風に鈍いんです?」
「あー……それは、その……」
「なに言葉に詰まってるんですかっ」
「その、何と言いましょうか……」
顔が赤くなっているのが、自分でもわかる。
戦いでも至らないような熱気の中で、トランクスは回りくどい言葉を選び、彼女に告げた。
「俺はですね……本当は剣を使うより、拳で戦う方が得意なんだ」
「……あっ…………」
言い終わらないや、トランクスは行動に出ていた。
彼女の小さな背中を、そっと抱き締める。
彼女は拒まない。と言うよりも寧ろ彼女は、嬉し恥ずかしといった様子で喜んでいた。
トランクスは壮絶な生い立ち上、
そんな彼の起こした奇行は今にして思えばやんちゃが過ぎたが、後に謝れば彼女も望んでいたようなので良しとする。
彼女が訊き、トランクスが答える。
「私たち、わかり合えてたよね……?」
「ええ、もちろん」
――唇を重ね合ったお互いの気持ちが、嘘である筈がなかった。
トキトキ都。
同僚のタイムパトロール隊員たちによって集められた七つのドラゴンボールの前で、トランクスはあの時のことを思い出す。
アニュー――この世でただ一人、この心に燻っていた感情を見抜いてくれた大切な人。
その彼女を取り戻すことが、今のトランクスが抱える唯一の願いだった。
「……皆さん、ありがとうございました」
タイムパトロールの仕事の一つである、時空の捩れを修復する作業「パラレルクエスト」。歪んだパラレルワールドの一部にはドラゴンボールが落ちている場所があり、優秀な成績を収めたタイムパトロール隊員には特別にそれを回収し、願うことが許されている。
トランクスもまた、過去に一度だけそのドラゴンボールで願いを叶えてもらったことがある。
「俺と一緒に時間を越えて戦ってくれる、強い仲間を連れてきてほしい」と、その願いに応じてくれたアニューがトキトキ都に召喚されたのが、彼女との出会いの始まりだった。
そして、今また、トランクスは彼女のことで願おうとしている。
上司である時の界王神にも、老界王神にも黙って。
「私は別に、ボールの報酬に服を買ってもらいたかっただけだもんねー」
「渡したボールがどう使われようと、知ったことじゃないっすよね」
タイムパトロール隊員の同僚である、魔人の女とフロスト族の男が白々しい笑みを浮かべる。そんな彼の後ろでは、筋肉質なナメック星人の隊員が力強く頷いていた。
彼ら三人の協力がなければ、ドラゴンボールを集めることはできなかっただろう。
何せトランクスは前科者だ。大らかな時の界王神は見逃してくれても、他の神々からは常に厳しくマークされていた。
そんな彼の代わりに、この三人がパラレルクエストの合間にドラゴンボールを集めてきてくれたのだ。
全ては、トランクスの願いの為に。
「時の界王神様や老界王神様に聞かれたら、俺に脅されたと言ってください」
「ああ、俺たちの正義を為したんだってデカい声で言ってやる」
「っ……」
「みんな知ってるんすよ? トランクスさんがずっと、たくさんの人の為に頑張ってくれたこと」
「誰よりも真面目にね。アニューが羨ましいわ。こんなにいい男に愛されてるんだから」
あまりにも危険な橋だ。沈みゆくボロ船とも言える。
トランクスがこれから行おうとしていることは、向かおうとしている場所は、タイムパトロールの任務にはない明らかな職務放棄である。時空法に触れる時間犯罪にも値するだろう。だがそれでも、トランクスには譲れないものがあった。
数年前、ここでヤムチャが修行していた。
セルリジェネというアニューの同胞と会い、彼女がリボンズヤムチャという黒幕に操られているのだということを聞かされた。
修行を途中で打ち切ったヤムチャが、彼女のいる世界へ帰った。
ヤムチャは言った。「俺が彼女も連れてきてやるから安心しろ」と。
あちらの世界のことは、あちらで解決するべきなのだろう。
違う世界の人間である自分は、彼女を取り戻す為にあちらの世界に介入してはいけないのだろう。
だが。
だが、そんな道理は……
「罪だの罰だの言われたら、胸張って言い返すさ。俺は自分が守りたいものを守りたかっただけだってな」
「……ありがとう、ございます」
「だから、やっこさん連れて帰って来いよ。時の界王神様も、きっとそれを望んでいる」
「もちろんです」
……こじ開ける。
そんな道理、俺の無理で、こじ開けてやる。
同僚たちの甘美な言葉に熱いものを込み上げながら、トランクスは決意の目を見開いた。
「いでよ、神龍!」
七つのドラゴンボールから、龍の神様を呼び出す。
そして彼は、もはや何の躊躇いもなく願いごとを告げた。
「俺を、アニューのところへ連れていってくれ!」
「それは私の力を……」
「できないとは言わせない!」
「む……」
「……頼む。たとえ魂だけだろうと、俺を行かせてくれ。俺はもう失いたくないんだ……誰一人として」
彼女の元へ行く為なら、この身がどうなってもいい。
罪だと言われれば喜んで極刑も受け入れよう。
頭を下げ、必死に懇願するトランクスの姿を見て神龍が唸った。
「……わかった。成功は保証できないが、可能な限りやってみよう」
そしてトランクスは、トキトキ都から姿を消した。
そんな彼に取り残されるような形で、トキトキ都に残った三人のタイムパトロール隊員が口々に語る。
「行かせて良かったんですか? うちらも共犯者ですよ」
「……奴は初めて、自分の為だけに戦おうとしているんだ」
「未来を信じて戦ってる……私は後悔してないかな」
「ははは……みんな、考えることは一緒か」
バレれば即座に首が飛ぶだろう。時の界王神様は温情派の神様だが、他の世界に干渉するなど本来であれば物理的に辞任させられるとんでもない案件だ。
だがそれでも、彼らにはトランクスを手伝った自らの悪業に対し、後悔はなかった。
「神様にだって自分勝手に生きている奴はいるんだ。これぐらい、アイツには許される……許されなければならないと思う」
筋肉質のナメック星人隊員が言い、彼らは同僚が恋人を連れて無事に帰ってくることを、切に願った。
「ここは……」
神龍の力によって、トキトキ都のトランクスはヤムチャアニューが存在する時間軸へのワープに成功した。
神龍が言うにはこの世界はポルンガの力によって隔離されていたとのことだが、願いを叶えた彼もまた相当に頑張ってくれたのだろう。次元と次元の間に一瞬だけ空いていたほんの僅かな隙間を通して、トランクスを願い通りの場所へ連れていってくれたのである。
そんなトランクスがワープした場所はリボンズヤムチャの総本山、機械惑星ビッグゲテスター・ヴェーダの内部だった。
「随分時間が掛かってしまった……待っていろ、アニュー」
彼らの本拠地に単独で侵入したトランクスを始めに出迎えたのは、奥の方から猛進してくる数十体もの人型兵器だった。
人造人間――その姿はトキトキ都で見たことがある「人造人間19号」と似ている。さしずめ、量産型人造人間19号と言ったところか。
しかもそのスピードとパワーはビッグゲテスター・ヴェーダの技術を受けて作られている為か、本家の19号よりも遥かに強化されているように見受けられる。
「リジェネさんが言っていた通り、ドクター・ゲロもリボンズヤムチャに取り込まれているのか」
内部の警備にこれほど大量の戦力を蓄えていたとは、随分な施設である。
トランクスの侵入に気づいた量産型19号が、ゾロゾロとメタルクウラのように群れをなしながら彼の排除に動いた。
しかし、冷徹に見据えたトランクスの目には、塵一つとして恐れも油断もなかった。
「……で? それだけか」
一気に超サイヤ人2に変身したトランクスが、鞘から振り抜いた剣圧だけで前列の人造人間たちを真っ二つに切り裂いていく。
音を置き去りにする速度で後列の人造人間たちへと切迫すると、その首を、腹を、足を、一体ずつ拳をねじ込んでバラバラに砕き割ってやった。
相手が人間であれば、さぞスプラッタな光景が広がったことだろう。いや、仮に相手が人間だったとしても今のトランクスはすこぶる冷酷な目つきをしており、容赦がなかった。
あるいは人造人間に孫悟飯を殺された時と同じか、それ以上に冷静さを欠いていたのだ。
「どけ!!」
体内から黄金色のオーラを解放し、それを気合い砲に変えて周囲の人造人間たちを一斉に吹き飛ばしていく。
もう、どうでもいい。
この行動が犯罪かどうかなど、知ったことではない。もはや完全に吹っ切れてしまったトランクスは父ベジータを彷彿させる傲慢な瞳を映しており、自重をかなぐり捨てていた。
「未来トランクスだと……? だが、ここは通さん!」
「ヤムベイター……!」
量産型19号では数に任せても相手にならないと判断したのか、ヤムベイドの一人ヤムチャデヴァインが出現し、突き進むトランクスの前に立ちはだかった。
ヤムチャブリングと同タイプのヤムベイドである赤い髪の彼を見て、その容姿にかつての仲間であるヤムチャの姿がちらつく。が――今のトランクスには、何の動揺も走らなかった。
「邪魔を……するなぁ!」
「なに!?」
ヤムチャデヴァインはかつてターレスのクラッシャー軍団に潜入し、神精樹の実を喰らうことによってヤムベイドの力を超えたヤムチャマイスターだ。
その力はヤムチャブリングたちと同等であり、超サイヤ人を超える戦闘力を保有していた。
そんな彼の拳を額から諸に受けても、流血したトランクスはピクリとも怯まず彼の目を睨んでいた。
「貴様……!」
「俺が会いたいのはお前じゃない……消え失せろ!」
「ぐあああっ!?」
超サイヤ人2の黄金色のオーラの淵に、「青色の光」を纏ったトランクスが叫び、腕の一振りでヤムチャデヴァインの身体をドーム一戸分ほどの高さがある天井へと叩き込んでいった。
そして今しがた吹き飛ばした敵には目も暮れず、トランクスは目の前の壁を気攻波で粉砕し、自らが通る道を強引にこじ開けた。
感じる……この先に、彼女がいる。
トランクスが大切な人の「気」を追って穴の中に飛び込んでいくと、ほどなくして彼は対面した。
薄紫色の髪の彼女……アニューと。
「アニュー!」
「トランクス? どうして……どうして来たの!?」
トランクスが次元を越えてまでここに来るとは思っていなかったのだろう。彼女は彼の顔を見て驚いた表情を浮かべた。
しかし、直後に彼女の瞳が金色の虹彩を帯び、人形のように無機質な表情へと変わった。
「…………」
彼女がその手に一振りの青龍刀を構えると、おびただしい「気」を解放しながらトランクスに襲い掛かってくる。
華奢な体格からは考えられないほど鋭く、重い攻撃だ。
それを自らの剣で捌き受け止めながら、トランクスは彼女を操る裏の存在に対して激しい憎悪を燃やした。
――同じだ。
タイムパトロールで共に働いていた頃、彼女は突如豹変し、今回のように攻撃を仕掛けてきた。
彼女がタイムパトロールを裏切った時もまた、同じ反応をしていたのだ。
『彼女らヤムベイドは皆、ヴェーダの端末に過ぎない。だからそのヴェーダのコアを掌握しているリボンズが命令一つ下せば、彼女らはその身を操られ自由を失ってしまう。そういう風に作られている、「人造人間」なんだ』
今と同じ虹彩をした彼女をヤムチャリヴァイヴという男に連れ去られ、途方に暮れていたトランクスの前に、不意に現れたセルリジェネがそう語っていた。
『それでも彼女のことを助けたいのなら、リボンズ……リボンズヤムチャを打倒するしか方法はない。一応ヴェーダを破壊して強引にリンクを断ち切るっていう手もあるけど、ヴェーダのコアを壊すことで、ヤムベイドである彼女まで一緒に壊れてしまうかもしれないからね。それこそコアが破壊された途端、一斉に爆発していったメタルクウラみたいに』
トキトキ都で色んな次元の世界を見てきた君には、僕としても説明しやすくて助かるよ。そんなことを呟いて、セルリジェネはトランクスにリボンズヤムチャのことを――「ヤムベイド」の情報を教えた。
それにはリボンズヤムチャの野望を語る上で「ドラゴンボール」という物語のことも聞かされたものだが、そちらはトランクスにとってはやはりピンと来る話ではなかった。
彼の話によればその物語の中でのトランクスはアニューではなく、「マイ」という女性と恋仲になり添い遂げたという話だが……この世界に生きるトランクスからしてみれば、何の意味もなさない情報だったのだ。
この世界の正体が何であろうと、自分は自分だしアニューはアニューだ。
物語だろうと、ヤムベイドだろうと。
みんな……みんな同じだ。
生きている。
生きようとしている。
だから……
「決まっているだろう!」
青龍刀による彼女の猛攻を見切ったトランクスが、全てを刀身で受け流しながら叫びを上げる。「どうして来たの?」と問うた、彼女の言葉への返事だ。
彼女の技は全てわかっている。彼女が一番の得意としている、この青龍刀を使った剣撃も。
何故ならば彼女に剣技を教えたのは、トランクス自身だからだ。ある日修練に行き詰まったと言う彼女に教えを請われた時、トランクスは彼女に我流ではあるが剣技の手ほどきを行った。
トランクスにとって彼女は生まれて初めての恋人であると同時に、弟子であり、そして――
「君をもう一度、俺のパートナーにする!」
「っ……」
――
その彼女に、トランクスが負ける筈はなかった。
ましてや操り人形となり、彼女本来の実力を引き出せていない状態などに。
「嫌とは、言わせない!」
やがて黄金色の混じったものから完全な
しかし即座にその剣を投げ捨てると、トランクスは両手で彼女の身体を抱き締めた。
強引に、強く抱いて呼び掛ける。
「……俺はどうにも、感情が昂るとつい調子に乗って、色々と勘違いしてしまう性格になるらしい」
俺は父さんを超えてしまったんです――そのような勘違いをしたこともある自らの恥ずかしい思い出を振り返りながら、トランクスが笑う。
それを笑い話にできるほどに、今のトランクスはきっと救われていた。
そう言って、抱き締めたその腕から、彼女の身体に向かって自らの内包する「気」を丁寧に注ぎ込んでいった。
「勘違いでも俺は、君を攫っていく。たとえ君が……人造人間だとしても」
彼女らヤムベイドには、ビッグゲテスター・ヴェーダ――リボンズヤムチャの呪縛から逃れる方法が、一つだけある。
それは、そのヤムベイド自身がビッグゲテスター・ヴェーダの領分を大きく超えた存在になることだ。
老界王神に潜在能力を解放されたヤムチャ・ティエリアーデという男が、ヤムベイドの身体でありながらリボンズヤムチャとのリンクを断ち切ることができた事実をヒントに、トランクスは唯一の望みを掛けて実行に移したのだ。
自らの
そうすればきっと、今の彼女も正気を取り戻してくれる筈だと、トランクスは僅かな可能性に賭けたのだ。
そしてその賭けに――トランクスは勝った。
「トランクス……」
青く輝く光の中で、トランクスはアニューを抱きしめていた。
強く、強く。二度と離さないと誓った通り、手元へ留め置こうとするように大切な女性を抱き締めている。
トランクスはこの世界に来てより、冷酷に染まり始めていた自らの心が雪のように溶けていくのを感じながら、彼女の薄紫色の髪に手のひらを乗せ、感触を楽しむように優しく撫でた。
「ずっと……退屈だった」
そんな彼女が震えるように、しかし穏やかな顔を見せて想いを打ち明ける。
「ここには貴方がいなかったから、生きていて張りがなかったわ」
「アニュー……」
囁くようなアニューの声に、トランクスは慎重に腕の力を抜いて、彼女の顔を覗き込んだ。
お互いに目と目を合わせて、大切な人が微笑む。
切なげに、彼女が言った。
「ねえ……私たち、わかり合えたよね?」
トランクスは頷き、微笑んだ。
それはおそらく、彼がタイムパトロール隊員になってから初めて浮かべた――正直な笑みだった。
「もちろんだよ」
その笑みを見て、アニューが――今度こそ、安心しきったように破顔した。
「良かった……だって貴方ったら、いつも張りつめていたんだもの」
「ああ……」
「私の気持ちだって、いつ伝えればいいのかなって、ずっと悩んでいたわ」
「すみません……」
「ほら、そういうところよ?」
「自分を……なんていうか、受け入れられなかったんだ。ずっと誰かに負い目があって、何かを守らないとと思い続けていて」
「うん」
「タイムパトロールの仕事があまり好きではないのかって君に言われた時、俺は初めてそんな自分に気づいた。心が軽くなったんだ」
「ええ」
「俺は初めて……初めて自分の弱さを出すことができた……っ、初めて、俺が俺でいられるような気がしたんだ……!」
「私もよ、トランクス。私もずっと……使命なんか無くなればいいのにって思ってた。貴方の傍にいて、初めて生きているって思えたから」
出会えたことで、世界が一変したようだった。
二人はその胸の内を包み隠さず明かす。生きて、見て、聞いて、話して、触れ合う。
その実感を与えてくれたのは
だからもう、置いていくなとトランクスが言い。
願っても祈ってもつかまえていてと、アニューが笑う。
「俺たちは……」
「私たちは……」
そして、二人は――
「わかり合うことができたんだ……」
彼らは、お互いの矛盾を超越した。
……本当は原作通り爆発させる予定だったのですがトランクス氏があまりにも可哀想になってきたのでご都合入りました。一応言いますが、本作はスタイリッシュアクションシュールギャグ系のヤムチャ小説です。それはそうとタグを一つ追加しておきました。
今回のどの辺がギャグかと言うと、突然自宅に上がり込んできたシリアス野郎に壮大なエンダーイヤーを見せられたことに歯ぎしりするリボンズヤムチャとかそういうので……
というわけで、次回はリボンズヤムチャの計画が最終段階に移ります。
【次回予告】
激闘が始まり、命が消えかけていく中……超サイヤ人ゴッドの閃光が、新たな世界の産声を放つ。
次回、『YAMUCHA』
――ヤムチャ、神となる。