皆さんは嘘かと思うかもしれませんが、この物語の主人公の名前(といっても名字だけ)のモデルになった山本由伸選手が4/3のソフトバンク戦でえげつない投球をしていましたね。
野球をやってたとき山本由伸選手擁する都城高校さんと試合をしたことがありますが、手を抜かれた上で3打数2三振した記憶があります。
こいつヤベェとは思っていたんですが、それでもまさかこんな活躍されるとは思っていなかったのでとても嬉しく思います。ソフトバンクファンなのですがこの日ばかりはオリックスを応援してしまいました。
いい刺激になったので週1ペースを目指して書いていこうと思います。
次でようやく本選に……。
1
「大丈夫か先輩方?昨日からずっと暗いぞ?」
「丹波さんの怪我は確かに痛手だけど何とか本選途中には間に合いそうなんでしょ??そんなにショックがデカいのかな?頭に当たったのは確かにショックな出来事だったけど……勝てば済む話だよね」
「間違いねぇ」
チームプレーなんてものを碌にしていなかった二人は著しくチームメイトの離脱による士気への影響への知識が欠如していた、だからというか完全に丹波が復帰できないのではなく暫くはチームに合流できないだけなら何が問題あるんだ?と異常なくらいに楽観的だった。
もちろんある程度空気は読めるので小さな声での会話だったが、沈んでる3年生が不思議で仕方がないという風にトーナメント表を見ている。
片岡鉄心が口を閉じたまま立っていると、やがて自然に雑談の音は消える。部員全員が何かを察し、閑静になったところで片岡鉄心は口を開いた。
「お前らも聞いていると思うが、丹波の顎の骨にひびが入っている。幸い骨折には至らず、脳の方にも影響がないようだが、予選には間に合わないかもしれない。正直俺自身まだ戸惑っている部分もある、ようやくエースとして目覚めつつあっただけあって本人も悔しくて仕方ないだろう……これはチームの監督としての意見であり、決して一個人の感情で決めたわけではない…………エースナンバーは丹波に渡す!あいつが戻ってくるまでチーム一丸となって戦い抜くぞ!」
士気が落ちたチームを鼓舞する目的も含め、強い言葉で部員に意志を伝える。3年目にしてようやくエースとしての自覚が芽生えた丹波の代わりに他の選手にエースナンバーを渡すのは主力メンバーへの精神面に大きく影響してしまう。
それならば、復帰の望みがある丹波にエースナンバーを与え、これ以上チームに影響がないようにするのが得策だと考えた。もちろん、前置きで個人的な感情はないとは言ったが、あくまで方便に過ぎない。
そうやって意識しないようにしてはいるものの、片岡鉄心の丹波への期待と信頼は高かったのだ。
「その上で川上はもちろんだが、降谷・山元、そして沢村!この一年生たちの投手としての出番が回ってくる機会が多くなるだろう、その時は3年が中心となりバックアップをしてほしい……頼んだぞ」
「「「はい!」」」
そしてもちろん、丹波がいないという事で先発を任せられる投手が一人減ってしまったという事になる。丹波は自ら崩れることが多いがそれは大体7回あたり、投球数が100球を越えたあたりから。それを踏まえると6回までは充当に試合が作れる投手であると言える。
2年の川上は片岡鉄心の中では既にリリーフとしての役目を頼もうと決めてはいるが、そうなると先発を任せられるのは類まれな直球を持つものの制球難がある降谷か、制球にはある程度定評があるが未だ実力が計れない山元虹稀の2人しかいない。
直球一本、気持ちで投げる沢村を投入するのには半分博打のようなものだが、チームを鼓舞、雰囲気を変えれる投手と言うのは短期決戦において非常に大事になってくる。
そう言った意味で、序盤こそは良いが強豪校だけが残り試合感覚も短くなる決勝戦間近ではすべてお投手が鍵となる。
─丹波君が万全の状態で戻ってこれるかわからない、でも、こういうアクシデントが逆に選手の心を一つにすることもある。それが出来れば……
高島礼はそう望むが、現状では心は一つになってはいないとみていた。動揺の方が大きく見え、最上級生はあからさまに気落ちしている。実際この場の雰囲気がそうだ、3年生の絆は思いの外つながりが強かったのは良くも悪くも誤算だった。
「御幸、わかっていると思うがもう時間がないぞ。沢村と降谷は守備と制球力・山元は制球力とフォーム調整、無理なオーバーワークをさせない事に絞ってこの3人を鍛え上げるしかない」
3年で一番冷静だったのはクリス、丹波のを復帰させチームの戦力として合流させるにはそれまで負けることなど許されない。
「ですね」
必要になるのは負けない投手陣、既に5人(野手兼も含めて)もの投手がベンチ入りしている時点で継投して勝つというチームの方針は固まっていた。
「夏までに、間に合わせるぞ」
力強くクリスは宣言する、時間が足りないのはどのチームも同じ、その中でどれだけ最高の状態で夏を迎えるためにクリスは全身全霊を尽くし送り出そうと決意し、強く言い放った。
「というかですね、俺こんなことしてていいんですか?」
片岡鉄心の話があった次の日、虹稀は温水プールに浸かっていた。
「お前はまず疲れを取ることが先だ、このくらいが丁度いい」
場所はクリスの父の知り合いが経営しているプール付きのジム、クリスが虹稀の状態がどの程度か詳しく見てみたものの予想以上に全身が固まっていたため青道高校かかりつけの病院の医師と話し合いプールで体を解すという結論に至ったのだ。
「そういう事じゃなくて、なんか俺だけ特別にこんな事させて貰っていていいんですかね?」
とはいえ自分だけと言うのも少しだけ億劫であった、特別扱いされるのは嫌いではないがこうもあからさまだと申し訳ないという感情が少しだけ顔を出してしまうからでもある。
「これは俺の独断によるものだし監督やコーチにも了承は取ってある、2~3日はこのメニューで疲れをとる」
「え、2~3日っすか!?」
「そうだ、また無理な走り込みをさせるわけにはいかないからな」
クリスはどこか遠い目をして笑っていた。目を離せばすぐいなくなり、阿保みたいに走り込んでいる後輩を止めるのは大変だったなぁとしみじみと思い返していた。
「いやいや、もうしばらくはしませんよ。これからは持久力よりも瞬発力を重視してやっていくんで」
そんなクリスのこともいざ知らず、朗らかに笑いながらぷかぷかと水面に浮き虹稀は器用に話を聞いていた。クリスは肩まで浸かれと注意を促す、ほんの一言で大人しく応じる様子を見ると余計に頭が痛くなってきたので昔のことを思い出すのは止めた。
極端的過ぎる練習をしてきた虹稀の意見を聞くと苦笑を浮かべながら問う。
「となると、今度はまたダッシュをやり続けるんだろう?」
「……ははは、そんなわけないじゃないですかぁ」
この怪しい間をどうとっていいのかわからないが、気にすると負けだと思い一旦流す。
「だが、その考えは俺も賛成だ。闇雲に走るだけではなく下半身の瞬発力強化は俺たちも考えていたからな」
「ほー、じゃあ「だが、無理は絶対にさせない。こんなところでお前に変われてもらっては困るからな」」
「了解です、俺も折角メンバーに選ばれたんで怪我するわけにはいかないっすからね。その他諸々は試合中に身に付けていくしかなさそうですけど」
大分心にゆとりが出来た虹稀はこの時期に無理をする気なんて毛頭もない、一度失った光が見えてきたのだから躍起になって探しに行く必要が無くなったためだ。
「そうだ、時間がないのは前も言った通りだからな……まさかお前が、こんなに手のかかる奴とは思ってもいなかったよ。最初は一番手のかからないいい子だと思ったが、ふたを開けてみればとんだじゃじゃ馬だった」
「何ですか急に?まぁあの時は結構焦っていてどうにかしないといけない気持ちで周りが見えてなかったのは確かですけどね。その顔見ると色々と察します、お疲れ様です」
「だが、結果的にお前はようやく力を身に付けた。その点に関していえばお前はよくやったよ」
クリスは去年の11月のことを思い出した。初めて山元虹稀にあった日、未来のエース(仮)に小言を言うつもりで中学生に投げかけた質問に、斜め上の解答をされたのを覚えている。
稲妻が走る、とまではいかないが衝撃的な出来事だったのは今でも鮮明に脳裏に浮かぶ。
「そうですかね?正直実感は全くないですよ。ストレート、とは言っても癖のあるナチョラルムービングですけど、まっすぐ一本の沢村に結果は及んでませんし、降谷のような圧倒的なものも持っていない。川上さんのように積み上げた実績もないし、丹波さんのように行動だけで先輩たちの士気を挙げることも出来ないですから」
「お前は、自分に厳しいな」
飽くなき向上心、野球そのものが楽しくて仕方ないが誰よりも負けず嫌い、そんなことしかまだわからないけれども。
「何笑ってるんですか、結構これでも悩んでいるんですよ」
「いや、すまない。器だけならエース級かもしれないなと思ってな。やはり俺の目に狂いはなかったようだ」
「何ですかそれ」
こう見るとまだまだ中学を卒業したばかりなんだと実感させられる、十分に体が出来ていないまだ細い背中に全てが乗ると思うと少しばかり心許ないが……
「少なくとも俺は、お前の力を認めているからな」
「いったいさっきから何なんですか」
口ではとぼけているがわかりやすく喜ぶ姿はやはりマウンドとは別人だ、と改めてクリスは思った。
2
合宿に参加できたメンバーは丁度20人、ベンチ入りメンバーは確定しているとみてもいいが、いよいよ背番号を手渡されるとなるとチームの主軸以外のメンバーには緊張感が走っていた。
特に雨宮瑠偉、降谷暁、山元虹稀が(後ろ2人は兼業だが)参入し競争の激化した外野陣は心中穏やかではない。
「今から背番号を渡す、呼ばれたものから取りに来い。まずは背番号1……丹波光一郎」
戦列を離れている自分が……?そんな思いもあったが、片岡鉄心の表情には何の揺らぎも見えない、チームメイトも驚いた様子はなく、困惑しているのは丹波一人だけだった。
「どうした?早く取りに来い」
「は…はい……」
「焦らずじっくり治せよ……」
「つーかテメェ何で頭剃り上げてんだよ」
「いや……最後まで投げれなかったからな」
「まじめか!!」
「ヒャハハ!似合ってますよ丹波さん」
「マユゲは剃らないの?」
盛り上がりを見せる主力の面々だが当然のように切り替えも早い、片岡鉄心が目で制すまでもなく一瞬で静かになる。もっとも自分の背番号は不動のものだという自信と自負もあるからだろうが。
「……続けるぞ。背番号2、御幸一也」
「はい!」
「背番号3、結城哲也」
「つつしんで!」
「背番号4、小湊亮介」
「はい」
「背番号5、増子透」
「ウガ!」
「背番号6、倉持洋一」
「あざす」
「背番号7、雨宮瑠偉」
小さなざわめきが起こった。本来ならばそこは3年の坂井のポジション、だが今大会その背番号を背負うのは入ってきたばかりの1年生。だがしかし、背番号を奪われた坂井も、チームの面々も納得するしかなかった。
生意気、図々しい、協調性がない、だが結果を残していてチームと監督の信頼を実力ひとつで捥ぎ取った瑠偉を認めざるを得なかった。
「ありがとうございます!期待していてください」
「元気がいいのは良いが、追試は受けろよ。それと、今後こういう事は無いように」
「あはは、大丈夫ですって」
「笑い事じゃないぞ」
「……はい」
野球しかしてなかったせいか勉強の方は悲惨の一言だった、チームを代表し先輩を退けて一桁を背負っているのだからやれることはしっかりやれと釘を刺す。
もしも背番号登録の前にテストの結果が分かっていたならこの背番号は貰えていないだろう。
金丸や東条、小湊春市や沢村は必死に声を出さないように笑いをこらえている。まるで借りてきた猫みたいに本気で落ち込む瑠偉は場が場でなければ爆笑ものだった。
ただ、虹稀と吉川春乃だけは2人であれだけ教えたのになぜ?と瑠偉が赤点を取った理由を後で問い詰めようと決意していた。
一瞬で天国から地獄へ気が落ちた瑠偉を尻目に片岡鉄心は大きく咳ばらいをして仕切りなおす。
「背番号8、伊佐敷純」
「しゃらぁあ!」
「背番号9、白洲健二郎」
「頑張ります!」
「背番号10、川上憲史」
「はい!」
「背番号11、降谷暁」
「……!」
「追試は受けろよ」
まさか自分がこんなに早く呼ばれるとは思っていなかった降谷は驚きながら背番号を受け取った、自分ではなく他の3年生か、もしくは虹稀が取るとばかり思っていたこともあり、嬉しそうにホクホクしているが、瑠偉と同様に赤点を回避できなかったためしょんぼりしていた。
「背番号12、宮内啓介」
「ンフー!」
「背番号13、坂井一郎」
「は、はい……」
瑠偉に背番号を取られてしまった坂井は悔しさを噛みしめてその番号を受け取った。
「背番号14、門田将明」
「はい!」
「背番号15、楠木文哉」
「はい!」
「背番号16、遠藤直樹」
「はい!」
「背番号17、山崎邦夫」
「うすっ」
「背番号18、山元虹稀」
「ありがとうございます」
背番号18、それは甲子園のベンチ入りメンバーの最後の一人がつけれる番号でもありプロ野球ではエースがつける番号だ。片岡鉄心の意図は虹稀にはわからない、だが虹稀はギリギリ戦力になる程度の評価と受け取った。
虹稀自身も妥当な判断だと思うし、その評価にいちゃもんをつける気は毛頭もない。だが初めて大きな番号を受け取った虹稀は逆にメラメラと負けん気を燃え上がらせる。
「背番号19、小湊春市」
「はい」
「そして最後に背番号20、沢「はい!!」」
「……早いな」
「ありがとうございます!!」
合宿には参加できたが、自分の現在地点と実力を思い知った沢村は本当にもらえるのだろうか?と半信半疑になっていたが背番号20を大事そうに抱え込んで列に戻った。
各々が自分の背番号を見つめ気持ちに整理をつける間もなく片岡鉄心は言葉を繋げた。
「記録員はクリス……お前に頼む」
「はい……」
「それからマネージャー、お前たちも本当によく手伝ってくれた。お前たちもチームの一員としてスタンドから選手と一緒に応援してくれるな」
そう言って渡したのは、選手と同じユニフォーム。本来ならマネージャーは買う必要のない代物でマネージャー全員が持っていなかった。
そのことを把握していた片岡鉄心の粋な計らいは、藤原貴子の心を動かすには十分だったようだ。
「あ~貴子先輩泣いてる!」
「鳴いてない」
「わかります、私、わかりますよ」
「うるさい!」
マネージャーが戯れる様を微笑ましい目線で部員が見ていた。3年の藤原貴子が可愛らしく涙を流しながら怒っているところに自然と視線が集まる、時間が経ちようやく落ち着いたときには今度は耳を真っ赤にさせて顔を覆い隠していた。
逆にそれが部員たちの彼女に対する評価を上げたのだが本人は知る余地もない。
「みんなもわかっていると思うが、高校野球に次ぎはない……日々の努力も、流してきた汗も涙も、全てはこの夏のために」
「よし!いつものやついけ!!」
「はい!」
一年の5人はどうやるのか詳しくはわからず必死に周りを見て合わせる、たった20人だけが組む円陣で右手を他の上級生たちと同じ場所へ置くのを確認すると、結城哲也はそうだと言わんばかりにこくりと頷いた。
「丹波は大声出すなよ」
主将の結城哲也は、丹波に注意を促すと右手の親指を立て胸をトントンと叩く。そして、決して大きくはないが、厳格な声で切り出した。
「俺たちは誰だ───……」
「「「「王者 青道!!」」」」
「誰よりも汗を流したのは」
「「「「青道!!」」」」
「誰よりも涙を流したのは」
「「「「青道!!」」」」
「戦う準備は出来ているか!?」
「「「「おおお」」」」
「我が校の誇りを胸に狙うは全国制覇のみ!いくぞぉ!!」
「「「「おおおおおおお」」」」
東西合わせて260校、僅か3週間足らずの間に選ばれる代表校はたったの2校のみ。
名門復活を懸けた青道高校の夏、3年生にとっては後がない最後の夏、雨宮瑠偉と山元虹稀の最初の夏が始まろうとしていた。
夏の大会は私自身の見解を踏まえての内容が多くなってしまう部分もありますがご了承下さい。
やってほしいこと
-
恋愛
-
心理描写
-
日常会
-
試合
-
プロフィール紹介