ダイヤのエース Plus Ultra   作:奇述師

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夏の大会編
栴檀の双葉


 1

 

 青道高校の初戦は一回戦を既に勝ち上がった米門西高等学校に決定した。

 

 エースナンバーを背負うのは左のオーバースロー、菊永正明。急速は120km後半、変化球はカーブとスライダーの2つ。コントロールはさほど良くない、青道高校が攻略するのには何の問題もない普通の投手だ。

 

 チームとしてはバント多用で守りが固く、ワンチャンスをものにする守り抜く野球というのがクリスの分析結果だ。

 

「うむ、ご苦労だった。向こうは先に1勝を挙げ勢いがついている筈だ、油断だけは絶対に出来ん。どんな相手であろうと全力で挑め、そうすれば自ずと勝利はついてくる!!」

 

 負けたら終わりのトーナメントで油断だけは絶対にしてはいけない、特に初戦は万が一という事もありえなくはないので相手が格下であろうと全力で臨まなければ足元を掬われる可能性があるからだ。

 

「それから、初戦の先発だが……1年、山元。お前で行く」

 

 片岡鉄心は制球力に長け、格下相手には絶対的に強い虹稀を先発に選んだ。

 

 練習を見ていると川上は丹波がいないことでプレッシャーを感じエラーが多くなる気の弱さが垣間見える川上よりも、落ち着いてはいるがどこか抜けていて更には調子がいい日は良いが悪ければ四球を連発する安定感に欠ける降谷よりも、虹稀が初戦の先発にふさわしいと判断したのだ。

 

 今まで結構な試合で炎上してきたものの虹稀が炎上するのは決まって強豪校、期待の表れとして投げさせていたこともあり燃え上がった回数は数知れないが、2~3試合ほど投げている格下相手には未だ20イニング無失点という結果を残していた。

 

 そして大阪桐生戦での成長、現在時折投げるフリーバッティングでの球筋とその球を打った3年生の反応を基に決めたこと、だから主力メンバーは何も言わず納得の表情で先発が虹稀であることをすんなりと受け入れる。

 

 騒ぐのは練習のサポートよりも夏に向けての応援の準備やその他雑用の多い1・2年の選手が多かった。

 

「初戦の大切さは充分にわかっている、だが今年の夏を勝ち抜くためには継投せざるを得ない……川上!お前は試合中いつでも行けるように肩を作っておいてくれ」

 

「え……?」

 

「これだけ大事な役割を頼めるのはお前しかいないからな。頼むぞ」

 

「はい!」

 

 川上を先発から外したのは信頼していないからではなく、信頼しているからこそリリーフ経験が豊富な川上をあえて後ろに回したのだ。

 

 ずっと曇っていた川上の表情も役割が確定した為に心なしか明るくなっている。

 

 サインの確認と試合運びのおおよその流れを話した後でミーティングは終わった。

 

 大会で、しかも初戦で先発のマウンドを任されるという大役を任された虹稀は内心ウキウキで、それが顕著に外に漏れ出てベンチメンバーから少し激しい激励を受けていた。それが終わり部屋へ戻ろうとすると御幸に呼び止められる。

 

 御幸と虹稀、そして片岡鉄心と高島礼だけが残った食堂で、何をするのかと思えば言われたことはただ一つ。

 

「後ろに川上もいる、胸を張って堂々と投げろ。明日はお前がエースだ」

 

 と片岡鉄心は一言だけ檄を飛ばすと背中をポンと叩き食堂を後にする。

 

 中学まではチームを勝たせてきた、という意識が強かった虹稀。チームを勝たせるために、何かを背負ってマウンドに立つことはほとんど経験のないことだった。

 

 そのことは当然承知の上で、それでもチームの命運を託せる器があると判断して決めたのだから、背負ったものを力に変えることが出来る選手だと思ったから初戦を任せようと思ったのだ。

 

 だから、余計な心配など皆無。たった一言で充分だった。

 

 

 2

 

『ただいまより西東京大会2回戦青道高校対米門西高校の試合を始めます』

 

 両校のスターティングメンバーは

 

 青 道    米門西

 6倉 持  7蓮 沼

 4小湊亮  5蜂 田

 8伊佐敷  9嘉味田

 3結 城  6福 田

 5増 子  8宮 嶋

 2御 幸  4柴 田

 7雨 宮  1南 平

 9白 洲  3上 園

 1山 元  2林 田

 

 

 1回の表青道高校の攻撃から始まる試合、マウンドで投球練習をしているのはエースの菊永ではなく、背番号10の南島守。意表を突いたアンダースローの投手が先発だった。

 

「1年の時に投手として試合に出ていましたが、それ以降投手としての公式戦出場はありませんね……。まさかとは思いますが、この夏のためだけにアンダースローを習得してきたとしか……」

 

 クリスの予想は的中している、青道高校に奇襲を、データに全くない選手を送り込むことで情報戦では不利な戦いをさせようという米門西の戦略だ。

 

 甲高く全ての声援をかき消すようなサイレンが鳴り響き、プレイボールという宣告と共に試合が始まった。

 

「フハハハハハ!見たかあの顔!青道の奴らめデータにないこの状況に目を白くさせておるわ!!」

 

 米門西の監督、千葉は悪役じみた笑いとほとんど野次の大声をベンチから出している。

 

 横にいるマネージャーや部員はドン引きだが、実際に青道側が困惑しているのも事実。

 

─千葉流勝負の鉄則その1……どういう形であれまずは先手を取る。初戦で堅くなっている相手チームに少しでも動揺が生まれればしめたモンよ

 

 リードオフマンとして、積極的に打ちに行かず、データにない投手の球を少しでもみんなに教えなければならないという役目を担うと決意した倉持はあっという間に2ストライクに追い込まれる。

 

 格下相手とはいえど、初っ端の1番バッターから三振と言うのは出だしが悪い。避けようとすればするほど気付かないうちに力が入ってしまい本来のパフォーマンスからかけ離れてしまう。

 

 そして強豪校にいるがゆえに遅い球に対する免疫が薄いこともあってタイミングもあってなかった。

 

 ワンバウンドする変化球につい手が出てしまい先頭打者の倉持は三振で抑えられた。

 

「亮さんすいません!!」

 

「あの変化球を見れただけでも十分だよ」

 

 あっさり1アウトを取られるのを見送ると虹稀はもしかするとこの回の攻撃早く終わってしまうかもしれないと思い裏の守りに備えて準備を始めることにした。

 

「一也さん、一応キャッチボールやっときましょう」

 

「おう、いいぞ」

 

─体が温まって40球は思い切り投げていたな。最初からフルスロットルにギアを上げて投げるつもりか?まだ表情に出てないから分かんねーけど、多分大丈夫だろう。出来れば先取点取っておきたいんだけど

 

 続く小湊亮介は甘く入ったボールを十分に引き付けてはじき返すが、惜しくもサードのグラブに飛び込んでアウトがもう一つ積み重なった。

 

「右打席からだとあのアウトコースの球相当遠くに感じると思うますよ、あと想像以上に遅いっす」

 

「うむ……」

 

 倉持はなるべく自分が得た情報をメンバーに伝えようと数少ない特徴を拾い集めてアウトプットしている。

 

 続く3番の伊佐敷はいつもながら吠えて強振をする、大きな飛球がライト方向に上がり一瞬ホームランかと思われたが

 

─くそったれ……徹底してアウトコース勝負かよ

 

 あと一つ伸びが足りずにフェンス直前で捕球され青道の攻撃が早くも終了した。

 

 あっさり終わった1回表、攻撃力が持ち味の青道だが完全に相手の、千葉の想定通りに事を運ばせてしまう。

 

─相手を舐めていたわけじゃない、むしろみんなちゃんと自分の仕事をしようとした結果だ……けどやっぱり、先取点は欲しかったな

 

 1回の表に0という文字を見つめて御幸はないものねだりをしていた。

 

─山元、もしくは降谷が先発でどちらかがリリーフ、そして川上が抑え。これが現状のベストオーダー。最悪の場合、これで山元の立ち上がりが悪かったら……最悪のスタートになるぞ

 

 先取点を取るか否かで勝率にも影響してくる、特に先攻で初回に先取点を取ったチームは約53%、逆に無得点だと40%まで引き下がってしまう。

 

 これで後攻が先に先取点を獲得した場合、勝率は約65%。数字はあくまで統計的なものに過ぎないがこれで得点を取られると厳しい戦いをしなければならない。

 

「フハハハハハ、油断だよ油断。頭では分かっていても潜在意識の中でウチをナメてやがんだよ!だがそこにこそ弱者の内が付け入るすきがあ~~~る!!その証拠に見てみろ!!相手の先発は1年でしかも背番号が18だ!!いくら名門とはいえ大事な初戦に1年を先発させるかよ。フハハハハハ!!」

 

 大声で青道を煽る千葉に対抗したいのか、さらに煽りたいのか沢村も負けじとヤジを飛ばした。

 

「おい!お前が打たれてもいつでも俺が準備しているからな!!即 代われ!お前はえっと……」

 

「何もないんだね……」

 

「山元、ああ言われているが気にするな」

 

「ああ、別に気にしてないですよ。中学の時の方がもっと野次凄かったんで。それより、俺はこの試合5回で終わる予定なので、最初から本気で投げます」

 

「奇遇だな、俺もそう思っていたとこだ。全打者三振狙いで行くか?」

 

「いいっすね、それ」

 

 虹稀はロジンが付きすぎた指に息を吹きかけ余分な粉を落とす。帽子を少しだけ緩くしてプレートを踏んだ。

 

 気にしてはいないとは言うものの、虹稀は冷静を装っていただけで怒りは充分に持ち合わせている。

 

 サインに頷き大きく振りかぶる。

 

─付け入る隙?んなもんねーよ!

 

 気持ちのスイッチは既に入っていた。流れるような1連の洗礼された動作、力感のない体重移動。

 

 その腕から放たれたボールは放たれた瞬間、1番で右打者の蓮沼の頭を目掛けて飛んでいった。

 

 初球から抜け球とは思いもよらず蓮沼はボールを避けようと全力でしゃがみ頭に向かってくるボールを躱そうと試みる。

 

 蓮沼が目を切った次の瞬間、ボールはその様子をあざ笑うかのようにブレーキがかかりストライクゾーンへと吸い込まれていった。

 

「あんたらの監督、付け入る隙があるとか言っていたけど、そんなもんウチにはねーから」

 

 無様にしゃがみ込み、ストライク宣告を受け入れられない打者に向かい、御幸は審判に聞こえない程度の声で鋭く言い放った。

 

 頭に向かってきたはずのボールが、ストライクだった。

 

 その事実を飲み込めないまま1番の蓮沼を3球で仕留め1アウト。

 

「だからその球を!」

 

 2番、左打者の蜂田には、外角低めのストレートでファーストストライクを取り、2球目斜めに変化するカーブで2ストライク目を、最後にインコースを突き一球も振らせず見逃し三振。

 

「何故避けるんだーーーー!!!」

 

 3番の右打者嘉味田は2球続けてインコースを責めた後

 

「ストライーク!バッターアウト!」

 

 右打者には一度頭に向かって見え、そこから落ちる斜めのカーブで尻もちをつかせて見逃しの三振。

 

 三者連続3球三振、青道高校側としては最高の立ち上がりを演出した少年は何事もなかったかのようにマウンドを降りる。

 

 米門西のベンチは監督が大声で怒鳴りながら選手たちに守備につけと叫んでいるが、目の前の状況に呆気を取られしばらく動けなかった。

 

 その姿は堂々と淡々と、それでいて圧倒的。

 

 無名だった少年は、たった1度の登板で怪物になろうとしていた。

 

 

 3

 

 2回の表、最初の打者は4番結城哲也。ショートがセカンドベースの近くまで移動している極端な右シフトを敷いていることから徹底的にアウトコースで勝負する姿勢が垣間見える。

 

 虹稀の投球により盛り上がりを見せる青道スタンドからの応援はより一層熱を増し、相手チームに大きな重圧を与えている。そして、打者の結城は後輩の力投に応えるかのように打席へ臨んだ。

 

 まだ一回戦なので応援は野球部のみ、多少の女子生徒や男子学生はいるものの美しい管楽器の音も華やかなチアリーダーも当然いるはずなく、野太いルパン三世のテーマが球場を熱気で包んでいた。

 

 いやな雰囲気を感じ取った捕手はほとんど敬遠のつもりで厳しい所を突き続け、ダメなら歩かせるつもりでいたが、投手は厳しい所で勝負すると意見の入れ違いがあった。投手として打者から逃げるというのはあまり気持ちのいいものではない。

 

 投手の思考は強豪校の4番とはいえランナーはいない。

 

 それなら勝負しても大丈夫だろうという楽観的な考えが心のどこかにあった。際どいコースも堂々と見逃され頭に血が上っていた投手の少し甘く入ったボールを結城は一薙。

 

 いともたやすく外野の間をゴロで抜き青道高校初のヒットを2塁打で記録した。

 

 続く5番の増子も鋭い当たりで1・2塁間を破りライト前ヒット、その間に結城はサードに進みノーアウト1・3塁。

 

─狙い撃ち~

 

 自らの応援かを口ずさみ、打席に入った御幸は初球のコースと球種を見事に的中させて振りぬいた。

 

 バッテリーはスクイズを警戒して転がっても対応できるように緩い変化球を低めに落としたが、御幸の技術に軍配が上がりファーストの頭を軽々越えて外野へと運んでいく。

 

 その間サードランナーの結城は楽々ホームイン、ファーストランナーの増子も重い体を揺らし一気にサードまで走り切った。

 

 そして7番、瑠偉の出番が遂に回ってくる。公式戦初打席、打席に入りいつものルーティーンでバッターボックスを均すと慌てて思い出したように打席から外れ片岡鉄心の方を見てサインの確認をした。

 

 サイン自体を確認するのが久々だったため若干戸惑いつつも了解しました、とヘルメットの鍔を触り再び打席に入る。

 

─初打席は自由に振りたかったけど、まぁいいや

 

 サインはスクイズ、しかしこの男はただ転がすだけではなく自分も生き残ろうと考えた。

 

─球も遅いからその分状況判断の時間は多くとれる、狙いは前進してくるサードの横に強く!

 

 ピッチャーが足を上げた瞬間、瑠偉はバントの構えを、増子は走り出した。

 

 当然サードもその様子を見せ前進してくる。その姿を確認すると、狙い澄ましたかのようにバットを押し込みサードの横を抜いて行った。

 

 当然投手も前進してきているため急なプッシュバントに対応できず、結局はショートがボールを捕球し再びノーアウト1・3塁の状況へ。

 

 打力にものを言わせてぶんぶんとバットを振り回すベースボールでは無く、高いレベルで行われている野球の前に米門西は太刀打ちできない。

 

 その後5点を追加しスコアボードの2回の表に7という数字を刻んでようやく青道高校の攻撃が終了した。

 

 

「序盤は少し硬さがありましたが、山元のピッチングと結城のヒットで完全に勢いに乗りましたね。相手も山元の投球に手も足も出ていないようですし、このまま順当にいけば5回でコールド。最後まで山元で行けるんじゃないですかね?」

 

「いや、例え短いイニングでもこの夏は継投で行く。いつでも行けるように川上には伝えておけ。その上で……」

 

「おい、沢村!監督が呼んでるぞ!」

 

─なんだよ!人がいい気分で投げている時に!

 

 悪態をつきながら喧嘩腰で監督の元へ向かった沢村に告げられたのは、沢村にとっても、虹稀にとっても、チームにとっても意外な言葉だった。

 

「次の回行くぞ!沢村!」

 

「え!?」

 

「ちょっと、監督!」

 

「準備は出来ているんだろ?」

 

「はい!」

 

「ちょっと待ってください、俺はまだまだいけます!まだヒットも打たれてないし、球数もそんなに多くないです!」

 

「だからだ、これ以上お前の情報を無暗に他の高校に与えてやる必要はない」

 

「でも、いずれにしろそれは遅いか早いかの違いです。せめてあと2イニング」

 

「山元、これからお前の力に頼ることが多くなる。だから休めるうちに休んどけ」

 

 球数は確かに少ない、だがそれが全て全力投球であれば話は変わってくる。

 

登板前にブルペンで既に40球近くを全力で投げ、試合になると無理やりギアをフルスロットルへもっていった。

 

合計すると80球近くの全力投球をしたのだ、その影響は興奮した現在はまだわからないが、確かに虹稀の体に負担をかけていることには間違いない。

 

 更には緊張感が高まり疲労も割り増しで負担になる試合中で投げたボール全てが勝負球、厳しいコースに全力で投げ続ける精神的肉体的疲労、さらにはまだ抜けきっていない蓄積された疲れを片岡鉄心は見抜いていた。

 

「……っ、わかりました」

 

納得はいっていない、しかしこれからのこと、この先のことを考えたときに片岡鉄心の判断は正しい。それゆえに虹稀はそれ以上何も言うことはなかった。

 

 山元の代わりにマウンドに上がった沢村は意気消沈していた相手の心を燃え上がらせる付け入る隙として十分な機能を果たしている。

 

 故にその空気に一瞬のまれてしまったのか先頭打者にデッドボールを与えてしまった。

 

─死に物狂いで点を取りに来る相手にどういうピッチングが出来るか。監督は本気で戦いながら投手を育てていくつもりなんだ。沢村、気持ちで負けるなよ

 

 米門西の野球は勝つための野球ではなく、自分たちのやってきたことを貫く野球へとシフトしていた。

 

 点差は絶望的、望みはないに等しい。それでもランナーを1塁に置きバントの構えを2番打者蜂田は見せた。

 

 だが、出どころの見ずらい沢村の球に対応できず強いゴロが沢村の正面へ。

 

 短い期間だがしっかりと鍛えられたフィールディング、目での牽制をしていたため1塁ランナーが出遅れたことによりあっという間にチャンスの芽は潰れてしまう。

 

 

    12345678910 R

青 道 07532      17

米門西 00000      0

 

 コールドゲームの最終回、川上がしっかりと抑え17対0の完勝で青道高校は2回戦を突破した。

 

 山元虹稀の公式戦2回目の登板は3回被安打0失点0奪三振6。打者9人に対し僅か27球でマウンドを降りた。

 

 僅か3イニングで何かを決めるには早すぎる。しかし、第一印象を語るには十分だ。

 

 山元虹稀はあっという間に包囲網に囲まれた。

 

 

 

 

 

 

「ほら、あの子じゃない?」

 

「なんかマウンドと全然違うね、優男ってかんじ」

 

「でも本当にすごかったんだよ!もうネットニュースで見出しがつくくらい注目されてるんだもん!」

 

「もう決めた!私あの子応援する!」

 

「あ、ずるーい。私が先に目を付けたんだからね」

 

「彼女いるのかな~?」

 

「いても関係ないし!」

 

「うわ、怖っ」

 

「てか、囲まれてない?」

 

 毎年この時期になると青道高校の風物詩として知られる野球部バブルが勃発していた。全校生徒が応援する時期ではないにしろミーハーな女子高生たちの一部は球場に足を運び野球を観戦、もとい品定めをしていたのだ。

 

 その中でひと際大きな印象を残した虹稀を一目見に来ようと彼の教室の前には数人の上級生たちが教室の出入り口に集結していた。

 

 吉川春乃や他のクラスメイトは虹稀に上級生たちの毒牙にかからないように努めていたが虹稀はなんで俺の席にこんなにも群がられるのだろう?とその回答に行きつくことは暫くなかったという。

 

 

 







『3回を無失点、流石ですね!見に行けそうな試合は見に行きますからね!』

「受験勉強は大丈夫……?ま、無理がないように」

『私の声援って力になるんですよね!?先輩の力になれるなら行きます!』

「いや、多分スタンドからは聞こえないし……頼りになる人たちたくさんいるから別に大丈夫」

『人の心を弄んだ挙句、そうやって捨てちゃうんですか……』

「は?どういうこと?」

『もう知らないです!先輩のバカ!誑し!あんぽんたん!』

「冗談、冗談、本当に待ってるから!でもこんなことに時間割くより自分のために頑張ったほうがいいと思うのは本当だけど」

『はいはい、わかってますよ』







「……虹稀さんのバカ」

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