皆様、アンケートご協力ありがとうございます。準決勝はさくっと終わらせて決勝戦に時間をかけて書いていこうと思います!
ご要望の方があったので承ります。球種横の英語は球威、数字は変化量とさせていただいています。
参考までに降谷の能力を記載させていただきます。また、ご要望等あればメッセージを下さればある程度対応できると思うので何かあればメッセージでお願いいたします。
降谷暁
右投げ右打ち
183㎝→183㎝
65kg→64kg
球速151km/h→151km/h
コントロール40(E)→45(E)
スタミナ35(F)→45(E)
入学時……ストレート(A)
現在……ストレート(A)・スプリット(3・C)
山元虹稀
右投げ右打ち
173㎝→174,5㎝
60㎏→65kg
球速136km/h→143km/h
コントロール80(A)→75(B)
スタミナ68(C)→80(A)
入学時……ストレート(C)・ドロップカーブ(4・D)・カーブ(4・D)・カットボール(2・E)
現在……ストレート(B)・ドロップカーブ(6・C)・カーブ(5・C)・カットボール(5・C)
1
稲城実業の勝利で準決勝の組み合わせが出そろい、青道高校の準決勝の相手は泉仙学園高校に決まった。
部員数80名を超えるベスト8常連の強豪校、春の大会では青道高校が敗北した市大三高との投手戦の末、1点差の僅差で敗北している。
そして、もっとも特徴的なのは1年生の時からエースナンバーを背負い、その計り知れない将来性にプロも目を付けている大巨人・真木洋介
長身から投げ下ろされる角度のあるストレート、日本一高い所から放たれると言われるカーブ。
「明後日、準決勝の先発だが……俺は丹波で行こうと考えている。いけるな?」
初めてのエースの先発と聞かされ場は盛り上がる、3年生にとっては最後の大会でようやく青道高校の本来の姿での試合となるのだ。
怪我から復帰したのはいいが状態はベストではない、今大会ではまだ1イニングしか投げておらず決勝戦をかけた戦いで登板するのは客観的に見れば心中行為ともとれる。
本気で勝ちにいくのであればこれまでの試合好投を続けている降谷と山元虹稀を中心に組み立てるのがリスクの最も少ない最善手であるのは間違いない。
だが、頭角を現した1年生がいなければ、本当のベストメンバーで初めて試合ができる。アクシデントに見舞われ、悲観的な状況から復帰した同じ世代のエースの初めての先発はチームの士気を上げるのに充分だった。
「川上、大変だと思うがいつも通り準備していてくれ」
当然、丹波だけで1試合投げ切れるとは断言しづらい。そのためここからは特に投手陣に関していえば総力戦に突入していた。
「はい!」
片岡鉄心のプランとしてはもし、丹波が早々にマウンドを降りることのなった場合、次に任せるのは川上で試合運びを進めていこうという試合の流れを想定していた。
「沢村……そして降谷、山元。お前も機会を見て登板させる。準備しておけよ」
「「「はい!」」」
出来れば丹波・川上・沢村の3投手で試合を終わらせることが出来るのなら最高の状態で決勝戦へ臨める、だが相手はベスト8常連の強豪校。実力的に見れば優位に立つのは青道で間違いないが、一瞬たりとも気が抜けない。
「知らないうちに溜まっている疲れもあるだろう、長いイニングを投げている降谷と山元を休ませておきたい、頑張ってくれ」
トーナメント戦の特徴として勝てば勝つほど試合と試合の間隔も短くなる、リカバリーに当てる時間が短くなる中投手5人がベンチにいる青道高校としてはこれまで主に投げてきた2人の1年生に休みを与えることも勝ち抜いていくうえで大切な条件の一つでもあった。
その一方で想定外の危険な状況になったのなら、この大会主軸となっている2人の1年生を登板させることも考えている。
降谷は北海道から上京し、夏の暑さになれておらず試合中も全力で投げるので体力の消耗が激しい。
山元虹稀も薬師戦で100球近くほとんど全力に近い形で投げており、対戦相手がジャイアントキリングを繰り返していることもあり精神的に疲弊する状況にほとんど一人で立ち向かっていたため肉体的にも精神的にも疲労は溜まっている。
現実に降谷はウトウトしているし、虹稀も欠伸を噛み殺しながら話を聞いていた。
「レギュラー陣はこれで解散、早めに休んで疲れをとるように」
試合が控えているのは明後日、直接的には対戦したことのない相手エースの対策を各々で考える。ビデオを見たり、想像でどのような軌道で来るのか考えてみたりと三者三様に過ごしていた。
「山元は監督室へ来てくれ、少し話がある」
神妙な面持ち返事をして虹稀は片岡鉄心の後ろをついて行く、御幸やクリスが同伴ではなく太田コーチ、高島礼すらいないサシの状態で話すのは初めての事で落ち着かないまま歩みを進めた。
2
「疲れているところ悪いな、今日はナイスピッチングだった。立ってないで座っていいぞ」
監督と2人きりの状況、これ以上気まずいシチュエーションは野球をやっているものにとってはなかなかないだろう。
怒られる訳でも咎められるわけでもない、寧ろ褒められているのに自然と背筋は伸びてしまう。
直立不動で動かなかった虹稀は片岡鉄心に促されて初めてソファに座った。
「それでは失礼します……今日の試合に関していえば何とか務めを果たすことが出来て良かったです」
表情は晴れなかった、2失点に何とか抑えるも傷口を広げる可能性は十分にあった、実力差が明確に分かれていたのを知っていたのにもかかわらず、我を失いかけた。
結城哲也の助言が無ければと思うと当然表情は晴れない。
「一度は崩れかけたがその後の立て直し、轟雷市にこそ打たれたが素晴らしい……正にエースらしい立ち振る舞いだった」
納得いかない気持ちは片岡鉄心もよく分かっている、だがそこから、その後の投球は立派なものだった。会場全体が敵という中で潰されかけるも最後まで踏みとどまり、遂にはプレッシャーを跳ねのけチームを背負って投げ切った。
その姿をベンチを見ていた片岡鉄心は入学し僅か数か月しかたってない投手に理想の投手像を重ねてしまっていた。
故に、チームの命運を委ねる。
「……だからお前にだけ言っておく、まず次の試合は投げさせない」
「…………それは決勝戦に備えての調整をしろってことですか?」
状況の飲み込みは早かった、わざわざこのような話をされたのだから覚悟はしていたが次の試合を投げたい気持ちがないわけではない。
体力的にも、精神的にも戦闘準備は整っている。
「そうだ。丹波、川上、沢村が打ち込まれるような状況であれば準備を頼むかもしれないが基本的には体を休めておけ」
片岡鉄心もこの場面は腹を括った、決して手を抜くつもりはないが泉仙学園に最高のカードを使わずに勝たなければならない。
準決勝が終わって息もつかぬまま決勝戦を迎えることになる、最高のカードを切るのは決勝までに取っておきたいというのが理想。
それに、最高のカードでなくとも強力な手札で勝負できると踏んでいるからだ。
「了解しました」
「ここからは決勝戦の話だ。先発は降谷で行こうと思っている」
驚きの表情を虹稀は見せたが一瞬で繕う。
「…………なるほど」
いずれにせよ9回を稲城実業相手に投げたいという気持ちはあるが、実力から考えて抑える自信はない。
妥当な判断だと素直に思った。
「正直5回まで投げ切れるかわからん、この暑さも含め力押ししか出来ない降谷では長くはもたないだろう」
「つまりは、いつでも行ける準備をしておけと」
感情を抜きにして考えたときに、稲城実業に勝つ最も勝率の高い方法として、第一条件に如何に点数を取られないかが鍵になる。
誰しもが勝つことしか考えていない中、自らがエースナンバーを与えた選手を信じるのは当然のことだ。1番を背負う丹波は気持ちは強い、だが客観的に見たときに攻略するのは容易い投手であることは明確だ。
気持ちで補えるものは確かにあるが、実力が拮抗した場合でしか上回れないことが多い。
現実を前に盲目的に信じるという行為はあまりにも危険だ。
そうすると必然的に青道で最も力のある降谷、山元虹稀の2投手が4~5イニング全力で投げ試合を進めることが最も良い作戦だと言える。
虹稀も9回を無失点で抑える自信は無いが、5回もしくは4回ならばその自信はたっぷりと持っている。勝つための最善の作戦に私情を挟むつもりは欠片もなかった。
「ああ、そしてマウンドに一度上げたら俺はお前を下ろすつもりはない」
片岡鉄心の期待と覚悟だ。捉え方によってはお前と心中する、そう言っているのと変わりはない。
たった1人にしか話していない覚悟という作戦をぶつけた。
「まだ1年生のお前にとって重いかもしれないが、俺は出来ると信じている」
本来であれば……、片岡鉄心の脳裏に過るものはある。
しかし、目の前にいる投手は今まで見たどんな原石よりも光り輝いていた。
短期間での爆発的な成長、持っている潜在能力の高さ、チームを鼓舞する投球、そしてまだ内に秘められたままの底深い能力。
決勝戦の舞台でぶつけてみたかった、昇華するのか凡庸に成り下がるのか。
1年生に全てを任せる、酷なことだとわかっていながら片岡鉄心に迷いはなかった。
「もちろんやり切りますよ。あくまで目標は甲子園出場なんかではなく、甲子園優勝なので」
表情に迷いはない、あたかもそうなると解っていたかのように肝は座っていた。
「頼もしい限りだ、甲子園行きの切符を自分の手で掴んで来い」
「みんなの力で手に入れますよ」
3
試合を明日に控えた日の夜、安息日として練習を御幸とクリスの監視のもと本当に軽く終え、やることもないしストレッチでもしてみようかという時にバッタリ雨宮瑠偉にあった。
雨宮瑠偉としては探していたためタイミングは最良なため直ぐに話を持ち掛けた。
「虹稀、ちょっとボール投げてもらっていいか? あと確認して欲しいこともあるしな」
「轟の事とバッティングフォームのことでしょ? いいよ」
瑠偉が神妙な顔をして頼みごとをするというのは稀有なことだ、基本的に努力を人前では絶対にしないし、表に決して出さない。
才能だけでやっていける奴は良いよな、と誤解を受けることも少なくはない彼だが左掌のナイフエッジと呼ばれる場所にあるタコを見れば彼が如何にバットを振り込んだかは簡単にわかる。
まめが出来にくい体質と、必要最低限の力でバットを握り当たる瞬間だけ力を入れれる彼のスタイルでは轟雷市のような岩のような掌になることは無いけれども、見せないだけで努力の結晶として輝いている。
「話が早くて助かる、ちょっと薬師戦いいとこなかったからな。せめて決勝までには感覚掴んでおきたい」
「確かに……瑠偉には哲さんレベルになって貰いたいからね。時間がある限りは手伝うよ」
「ありがとな」
瑠偉が聞きたいのは実際に轟雷市と対峙しての感想と自分との比較、新フォームに取り組み完璧なものに仕上げるために投手の視点から見た虹稀にアドバイスをもらいたかったからでもある。
本来であれば自分で時間をかけて作り上げたいと思ったが如何せん時間がない、背に腹は抱えられないと思い1番頼れる虹稀に頼んだのだった。
「……とまぁ、こんな感じなんだが見てて気になることはあるか?」
1ケースに入った200近いボールを打ち終え、アドバイスを求める。
「う~ん、そうだね。バットが身体の連動に対して少し遅れてる気がする、テイクバックを浅くする、もしくは先に手から動かしてみたら?」
「成程、おもしろいなそれ」
良いと思ったら受け入れ違うと思っても一度は試し微調整を加えながら徐々に仕上げていく。
結城哲也のバッティングと轟雷市の打撃を何度も繰り返し見返し、ネットに上がっているプロ野球選手のフォームをくまなくチェックし頭に叩き込み自らの糧に変換する。
昼にあった片岡鉄心直々に真木洋介対策として投げた時も3年生に引けを取らず捉えれたのもあり、完成は近い。
お世辞にも頭は良いとは言えないため、感覚から入り辻褄合わせのように理論を組み立てるという手法で徐々にフォームを安定させ完成に近い状態に持っていく。
「そろそろ上がろうか、お風呂が閉まる時間も近づいて来てるし」
ボールを打った数は1000を超えるもフォームは崩れない、汗がトレーニングウェアを滴らせる頃にはほとんど完成に近い形まで昇華していた。
実戦で投手と相対した際に同じことが出来れば全く問題がないだろう。バットが風を切る音も、ボールを捉えた音も素晴らしいの一言に尽きる。
ただ時間は待ってくれない、このまま続けてもいいが集中力とパフォーマンスは近いうちに低下し、フォームを固めるという目的で行っているためこのあたりで切り上げるのがベストだと虹稀は考えた。
「おお、もうこんな時間か……サンキューな、おかげでだいぶ掴めてきた」
瑠偉も疲労がたまった下半身と腰を一度休めると時計を確認し納得した。
今までと全く違う打つ感覚になれながら全身を使いボールを捉えるフォームに手ごたえを感じている。重心の置き方、トップの位置、タイミングの取り方どれを取っても今のところは納得がいくとこまで突き詰めたことに安堵を覚える。
「全然いいよ、これでいい結果残してくれるならね」
虹稀から見てもしっかり練り上げられたものだと素直に感じた、以前やった時とは比べ物にならない。
もう一度勝負してみたいという感情よりも、これで打ってくれたらめちゃめちゃ頼りになるな、としか捉えていないが。
甲子園に向けてあと2つというところまできてより一層チームとして固まった今、仲間内で勝負をしたいという気概は流石に芽生えていなかった。
同じくして瑠偉も虹稀に対してはそのような気持ちは無かった。気持ちはチーム一丸となり見据えている場所は同じだからだ。
「プレッシャーかけんなよ……まさか1年目でここまで来れると思ってなかったけど。あと2つで甲子園、だな」
忘れていないよなと虹稀に目で訴えた。もちろん、とほほ笑んで答える。甲子園に出ることが目標じゃない、足元を掬われるといけないから一応確認しているけれども本来の目的を忘れていないよな? と互いに確かめ合った。
今はひたすら前を見ている、甲子園に出るためにはあと2つ必ず勝たなければならないためそこに集中をしているがあくまで通過点。
目的は日本一。頂点に立つために瑠偉は己の惚れ込んだ才能に自分の高校生活を全てオールインして青道高校に入ったのだ。
1番でレフトの定位置を掴み取った雨宮瑠偉、背番号は18番ながらその背中にエースの器の片鱗を見せ始めた山元虹稀。
鬼才と奇才、2人の傑物が飛翔する日は刻々と近付いている。
「ここまで来たら行くしかない、それに先輩たちと長く野球したいし」
「どうせなら笑顔で引退して欲しいもんな」
もちろん自分が出れているからではあるが、言葉に嘘はなかった。打算的な考えもなくは無いが、本当に実力があるチームの中でもっと野球をやっていたいというのが本音だ。
「間違いない、なんて言うか……初めて強いチームで野球やってさ、滅茶苦茶楽しいんだよね。そりゃ、迷惑かけることが多かったけど、無責任に好き勝手にやるんじゃなくて責任を持ったうえで常に緊張感のある試合をするってのはきついけど、凄く充実してる」
「俺はずっと2軍にいて、お前も1軍にいたものの結果は出ず。1年の夏はスタンドで応援かもしれないって本気で思った時期もあったよ」
過去を振り返る、2人とも初めての挫折を味わった。
実力がないままもがき続ける苦しみ、結果は出ているがなかなか認めてもらえなかったジレンマ、悔しさを発条にひたすら練習した。
誰にも負けないように走り続けた、バットを振り続けた。
才能があるからと陰口を言われる度に思った、言い訳する暇があるなら最大限やってから文句を言えと。
よくやるな、と笑われて思った。まだまだ足りないのになぜそう思うのだろうと。
互いに孤独な戦いを潜り抜けてようやくつかんだチャンスをしっかり握って話さなかったからこそ辿り着いた今がある。
まだまだ満足したわけじゃない、枯れることのない飽くなき向上心が2人の才能を生み出した。
「瑠偉、あと7つか8つ……勝つぞ」
「当たり前だ」
いざ口に出すと気恥しい、背中を向け合いボールを拾い上げて再び誓う。
運命は大きく胎動していた。誰かを祝福するかのように、夏の夜空に星々が煌めいている。
敗北か勝利か、試合の果てには結果という答えが待っている。夏が続くのはたった1校だけ、いかなる理由があろうとその柵からは逃れられない。
甲子園まであと2つ。
群雄割拠の東京で強者が散ってゆく中、運命の悪戯で巡り合った2つの一等星がどんな軌跡を描くのか、今はまだ誰も想像できない。
4
『ベスト8おめでとうございます』
『私の我儘もあって、調子を狂わせてしまったらどうしようと思いましたが、無事に試合に勝ててよかったです』
『次の試合も、その次の試合も、ずっと応援しています。頑張ってください』
【ありがとう、ここまで来たら行くとこまで行くよ】
【次の試合は投げないから時間があるんだったら決勝戦見に来なよ。めちゃくちゃ頑張る予定だからさ】
『是非とも行かせて貰います!』