もうしばらく短い間隔で投稿ができそうです。
1年の夏までは一先ず考えてはいるので今年度までには終わらすことを目標として頑張ります。
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3月16日、この日が基本卒業式で合格発表が3月19日頃になっていて、喜びと悲しみが、出会いと別れが盛んな季節だなぁと虹稀は子供らしくない達観したようすで地元を後にしようとしていた。
青道高校野球部に推薦で受かった虹稀は合格発表が終わり、その後に推薦で受かった者だけで行われる練習に参加しなければならなく明日から始めるその日に備えて向かわなければいけないのだ。
皆が別れを惜しみ泣いていたり、第2ボタンが何やらと言っている連中を傍目に野球と勉強、大きな行事しか記憶に残っていない中学校を振り替えることもなく、虹稀は1人だけいつもと変わらず立ち去った。
荷物の確認や色々な書類を確認するためであって別に皆との別れが悲しいわけでの惜しいわけでもない、ただ一つの心残りは周りのレベルに合わせることはなく多くの時間を個人練習に当ててしまったり、小さないざこざで揉めてしまい雰囲気を悪くしてしまった罪悪感が少しばかり。
そのなかでたった一つだけ、虹稀の胸にチームメイトの言葉があの日から返しのついた針のようにずっとくっついていて離れない。
──たった1人じゃ野球はできないんだ。
本当に1人で勝ってきたような山元虹稀はその言葉が気になって仕方がなかった、よく意味がわからなかった。
野球はチーム競技と言う名前の個人競技で、確かにチームプレイもあるがエンドラン、バント、中継プレーにしても結局そのプレーの良し悪しを決めるのは個人であり、マウンド、バッターボックス、守備位置にいるのはたった1人でやるものとばかり考えていた。
それゆえ、チームメイトの言った『仲間』という言葉も少々歯痒く感じ、恥ずかしくもあり、しかし結果として殆どそこにいるだけの最低限のことしかこなさない人達と些細な揉め事が絶えなかった。
何だかんだで青道高校への出発当日、見送りは姉1人だった。
別にクラスの連中や野球部だった頃の皆と仲が悪いわけではないが、特にいいわけでもない。それに虹稀は自分の進学先が青道高校野球部であることを教師以外には誰にも公言していなかったからでもある。
「じゃ、しばらくさよならだね。姉ちゃんも大学で頑張って」
「私も東京の大学行くんだし、さよならじゃないよ。あんたこそ身体には気を付けなさいよ、母さんや父さんだって心配してるんだから」
「まさか、見に来るとか言わないよね?」
「暇があれば見に来るかもね、試合とか虹稀が出るとこ見るの楽しいし」
「頼むから大学生らしくサークルだったり彼氏作ったりして来ないでもらえるとありがたい」
いい意味でも悪い意味でも目立ちまくる姉を多くの人に知られるのは色々と面倒くさいため、余計な揉め事を避ける意味でもあまりそういった行動は控えてほしいかったのだ。
とは言うが結果は殆ど目に見えているために半分諦めて注意のような感覚で一応言ってみたに過ぎない。
「ほら、すぐ生返事する!良くないよそういう癖」
過保護な心配から来る面倒くさい小言を条件反射的にはいはい言っていると喉仏を突いて意識をこちらに向けさせる謎の行為によって虹稀は咳き込んだ。
結局いつも通りギャーギャーワーワー騒いでしまう、だがそんな姉との絡みが暫く無いというのも少しばかり慣れないなと考えているうちに時間は出発20分前になってしまっていた。
暫くのお別れだと言うのにいつも通り話続ける姉の姿は少しだけありがたかった、虹稀を気遣っているのかそうでないのかは定かではないが。
「姉ちゃん、見送りありがとう。一回本気で勝負してくるわ」
このままグダグダしているわけにもいかず、虹稀は一区切りつけるように旅立ちの決意を一言呟くと電車に乗り込もうとする。
「…頑張って、最後に一つだけ言わして」
そう言って奏虹は言葉を詰まらせた。
「こんな時にも見送りする友達1人もいないって本当に悲しい学校生活送ってきたんだろうけど…グスッ……虹稀なら絶対上手くやっていけるから、めげないで頑張ってね」
嗚咽と共に吐き出された姉の言葉に虹稀はとてつもない誤解が現在生じていることを確認、まさかそんな可哀想な人だと思われていたなんて思ってもいなかった。
「ちょ、まっ」
て、と言う間もなく奏虹は虹稀に泣きっ面蹴ったりとばかりに追い討ちを叩き込む。
「…怪我したときお見舞いに誰も来ないし」
──いやいやいや、俺が入院してたとき家族以外面談禁止だったじゃん……まぁ来てくれるかどうかは実際に怪しかったけど
「…現にいまだって見送り来ないほど人望無いし」
──まぁ色々と揉めたからなあ
「…それに」
「もうやめてマジで、これ以上言われると流石に気持ちが下がる」
うんうん、辛かったんだねとばかりに勝手に納得され頭ポンポンされる始末、色々な意味で本当に泣きたかった。
『おい!やっぱりいたぞあの野郎!』
突如、奏虹の後ろに続々と現れる柄の悪い連中、奏虹も流石に後ろの騒がしさに気付き、あぁ成る程とばかりに横腹をつついてくる。
「言ってなかったんだ」
「その必要はないと思っていたからね」
「行ってきなよ」
その言葉を背中で受け止めて、虹稀は彼らの方へ重い足取りで歩み寄った、今さら話すことはないし雰囲気に感化されて感動の見送りとか無いわーと過剰な警戒をしながら。
「何でお前らここに?」
そんな疑問を皆に投げ掛ける、来る理由なんてないはずだと、意味なんてない筈だと。
「べ、別にお前を見送りに来たわけじゃねぇよ、お前のお姉さん見にきただけだ」
ツンデレは創作物のなかだけで十分だし、男がやっても気持ち悪ぃよ、そうジト目で訴えるとツンデレ発言をしたチームメイトが引き下がった。
そういえば目付き悪くて誤解されたことも少なくはなかったなぁ等と思い出していると嘗ての女房役が一歩前に出て緊張した面持ちで言った。
「確かに部活の時は足引っ張りまくったけどさ、お別れくらい普通にさせろよ」
「そうだぞ、水臭いな」
かつての野球部が口を揃えて口を言う、思いがけない雰囲気に戸惑いを隠せず虹稀は何をすればいいのかわからず狼狽えた、意味がわからなかった。
「お前とは色々あったけどさ、俺達、お前に認めてほしくて仕方なかったんだ。だからみんな必死に頑張って、でもお前は俺たちを信用することはなくてさ……色々衝突したけど仲間だと思っている」
──仲間?
「今まで色々迷惑かけてきたけど最後の夏、良い思い出ありがとな」
口々に愚痴や励まし、この事を叱咤激励とでも言うのかとばかりに言葉を投げ掛ける。気持ちが、感情が溢れ出すのを虹稀は止められなかった。
「みんなお前に感謝してるよ」
「頑張れよ、俺達のエース!」
自分勝手なことばかりやって来たし、チームメイトからは色物を見るような目で見られていたために避けられていると思っていて、自ら歩み寄ろうとはしなかった。
けれどもそうではなく、少しでも楽にさせてあげようと皆が頑張っていたからこそ、圧倒的な才能を目の当たりにしていたからこそ話しかけずらかったり、劣等感ゆえに食いついてしまったと知ることができた。
たった10分くらいの間互いに言いたいことを言い合い、なし崩し的に和解すると嘘のように、遠慮や負い目は消えていた。
そんな感動の別れも束の間、出発3分前になり電車へ乗り込こまなければ行けなくなる、既に電車の席は反対向きに変えられ後は時間の経過を待つだけだ。
「みんな来てくれてありがとう、俺も頑張るからお前らも頑張れよ」
これ以上言うことはないにもない、くるりと背を向けて決別しようとしたとき、後ろから引き止められた。
「今までお世話になったからな、これやるよ。ほら渡してやれ」
背中を押されたのは1つ下の学年の女子部員だった、マネージャーと言う立場での入部が何故か認められず部員と言う立場での練習とマネージャー業を一生懸命頑張っていたのは虹稀からみても好印象である。
話したことは試合中のイニングに投げた球数であったり、ありがとうやお疲れ様と言った最低限のことでもあったが刺々しい雰囲気の中、彼女の笑顔は癒しであった。
両手で差し出されたのはかなり大きめの紙袋、重さからして2キロ近くある物を急に渡され首をかしげた。
「これなに?」
「え、あ、私たちからのほんのお気持ちです!青道高校に行ってもエースになってください、応援しています!」
真っ赤な顔で俯く少女に対してどういう行動をとればいいのかわからない、なにか期待されているような気もするがその何かは考えてもわかるものじゃないし思考を放棄した。
代わりに、本音を、今までの感謝だけは伝えておこうと彼女と関わった約1年半を振り返り言葉にする。
「スコアブック、変な注文つけて大変だったと思うけどお陰でとても助かった。あとピンチの時はただの練習試合でも泣きそうな顔で見ているし、押さえたら馬鹿じゃないかなってくらい喜んでくれたり、失点したら俺よりも落ち込んでるし。今でも意味がわかんないけど……凄くありがたかった」
「あの……先輩、私は…………」
泣く一歩手前の潤んだ瞳は、言葉では表せない思いが溢れたもののように思えた。
口に出せないもどかしさ、悔しさ、そんな感情が漏れてしまう。
そんな少女の肩を軽く叩いて皆にありがとうと伝えると電車の中へ足を踏み入れた。
かける言葉がなかった、と言うのもあるが虹稀の思い浮かぶ範囲ではどんな言葉を伝えても本当に泣いてしまいそうだったから。
少なくともこの場で少女の涙だけは見たくなかった。
袋の中を確認する間もなく、出発のアナウンスがホームに響き、ドアが閉まり電車は重い音を作って走り出す。
「エースになれよ!」
「他のやつらに負けんじゃねぇぞ!」
口々に飛び交う声援を、激励を受ける、不思議と目頭が熱くなるのを感じた。
既に発車した電車を追いかける元チームメイトに向かい
「甲子園で会おう!」
仲間に負けないように大声で叫んだ。
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少しばかり早くついた虹稀は自宅送られてきた『修学旅行のしおり』と言う感じのいかにも『しおり』らしきものを頼りに自分の割り当てられた部屋へ向かう。
《青心寮》と書かれた門を潜り指定された場所へ向かう。時折干されている靴下や練習着の間を通り抜けると途中で悲鳴と笑い声が響き渡った。
手荒い歓迎を受けているなぁと自分に降りかかることがないとでも言うように他人事として捉え自分の配属された部屋を探していた。
ちょっとばかり探検する感じで遠回り、途中でほんとにどこかわからないとこへ出て本気で焦るが、無事部屋へ到達した。
山元虹稀はふぅと息を吐き緊張をほぐす、何せ先輩との共同生活、最初の印象が大事だ。
ノックをして恐る恐るドアを開け大きな声で…
「失礼しま…す」
「おう、お前が俺の同室の1年か、よろしくな。あれ、どっかであったけ?」
見覚えがあると言うのも、ちらりと見たことあると言う感じでどこか思い出せずにいたようだ。
「一度青道に来てますから、その時に見かけたんじゃないんですか?」
「あー……思い出した!今年の特待生か!俺は御幸一也、ポジションはキャッチャー、一応正捕手。よろしく」
「山元虹稀です。ポジションはピッチャー、青道高校にはエースになりに来ました。よろしくお願いします」
御幸は一瞬呆気にとられるがあまりにも真剣な顔を見るとニコリと笑う、それがどういう意味なのかわかっていないようで本質だけは捉えている覚悟の宿る表情は本気だった。
「いいね、嫌いじゃねえよ。ところでその荷物はなに?」
「地元出るときに貰ったんですけど、なんなんでしょうか?」
「まさかラブレターとか入ってるんじゃないんだろうな?」
その言葉に若干焦りつつ中を覗くと可愛らしい様子の小さな紙袋、長方形の段ボール、結構肌触りの良い生地の袋、正方形の分厚い紙、グラブオイル、それらをかき分け比較的可愛らしい小さな袋を確認すると何事もなかったかのようにそっと戻した。
「何も、ありません」
「絶対なんかあっただろ、よし先輩命令だ!その中身見せてもらうぞ」
「ちょっ、俺のプライバシー!」
「……山元、俺達はいずれバッテリーになるんだぞ?こういうこともキャッチャーとして知っておかないと」
「確かに……ってんな訳ないっすよ!」
「ハハハッ冗談だよ冗談、そんなに焦んなって、今日は歓迎会も含めて一緒にDVDみようぜ。良いものが手に入ったんだ、そこのテレビつけててくれねぇか?」
「わかりました」
嫌な予感がしつつ渋々とで電源をつけDVDレコーダーの電源をつけるとガサリ、と嫌な音と共に嫌らしい笑みを浮かべた御幸が山元虹稀の目にはいる。
「なになに?えっと『山元虹稀先輩へ、おはようございます?こんにちは?こんばんは?私には先輩が「ちょっとおぉぉぉおお!!!」」
強制的に距離が縮まった。
直ぐに噂が広がり(主に御幸のせいで)他の部屋の先輩達からも手厚くいじられる、1年生に人権はないのだとメッセージカードに書かれた黒歴史に近いものだったり、甘酸っぱいメッセージを音読されるという地獄を味わう。
先輩との親密度が深まったが大きな何かを失った虹稀の目から一筋の涙が流れ落ち、 ついでに嫉妬のあまり何人かの先輩も涙を流す。
暫くの間おもちゃにされたのにも関わらず御幸と一緒にDVDを観賞させられ夜遅くまで話し合あうことに、殆どが御幸によるいじりであったがその間山元虹稀は画面に写る美女と笑いあっていた。
面白い奴が来たと喜ぶ先輩と初日から選手寮での厳しさを目の当たりにして枕を涙で流す1年生の姿が、そこにはあった。
3
使い慣れた目覚まし時計が鳴る前のカチリ、と言う音でアラームを止めると言う離れ業を2回ほど繰り返すと、ようやく選手寮で生活をし始めたのだと思いだしガンガンと鳴り響いている頭痛を降りきって勢いよくベッドから飛び起きた。
どうやら電気をつけたまま寝ていたみたいで、目を開けようとするも蛍光灯から発せられる光が視界を塗り潰す、しかし時間のロスは許されないため布団のなかに時計を潜り込ませ時間を確認する。
案の定、しかし不幸中の幸いか急げばギリギリ間に合う時間が時計の針で指されている、
「御幸さぁぁん!何で起こしてくれなかったんですか!?下級生の失態は上級生の責任でもあるんですよ!」
「ん~………今何時?…っておい!何で起こしてくれなかったんだ!」
「こっちの台詞ですよ!」
夜中までDVDを見ていた二人、起きたのは集合時間20分前、着替えも込みでギリギリの時間に起床してしまう。
急げばなんとか間に合うのは不幸中の幸いか真っ白な練習着を速攻で身に纏い部屋を飛び出した。
「あちゃー、昨日の夜DVD見すぎちゃったかな~」
「早くしないと遅れますよ!」
ゆっくりと余裕かまして悠長にしている先輩は放っておき、念のため注意を促すことだけはする。
少し離れたグラウンドへ全力疾走で向かう、寝起きの全力疾走は体にくるものもあったが、なんとか間に合い適当に列を作っている所に入り込んだ。
ほっと一息をつく間もなく、息を整える間もなく、青道高校の監督である片岡鉄心が鋭い眼光を飛ばしていた。
堅気の人間ではない外見をしているのにサングラスが余計に印象を悪くする、只でさえ身の引き締まる気温なのに片岡鉄心の発する緊張感で1年生は体を震わせている選手もいた。
恐怖故か緊張故か寒さ故かはわからない。
「それでは順番に自己紹介をしてもらおう。じゃあ、左端から順に言って貰おう」
外見通りの声音が飛び出すと虹稀は圧迫面接ってこんな感じなのかなぁと覚醒しきっていない脳は的はずれなことを連想していた。
最初に片岡鉄心が目配せした先には1年生にしては堂々と、自信ありげに立つ1人の男だ。
一歩踏み出すと、胸を大きく反らせ閑静なグラウンドに響き渡る声で宣言する。
「平山東中出身!雨宮瑠偉!希望ポジションは特にありません!が、ポジションはどこでもこなせるつもりです!あと3ヶ月で先輩たち引き摺り下ろしてレギュラーの座をつかむ予定です!よろしくお願いします」
声音には緊張も自らを発奮させる意思もなく、当然のように告げるふてぶてしい1年生に対して歓迎ムードは一転し、1年坊主が調子乗ってるんじゃねえと口ほどに物を言う目が一転に集中した。
それでも萎縮する様子を見せず、飄々としていると一触即発しそうなムードになるが片岡鉄心が「次」と告げれば萎縮した他の1年が自己紹介を始めこの場は有耶無耶になった。
しかし雨宮瑠偉が目をつけられたのは間違いない。
虹稀は結局瑠偉がどこの高校に行くのかを聞かされていなかったため二重の意味で声を上げそうになったが流石に場所が場所だけに無言の叫びを上げる。
その後も徐々に和らぐ雰囲気になり虹稀が自己紹介をする番になった、視界の端で不敵に微笑む瑠偉が目にはいる。
だからこそテンプレートな発言ではなく、自分の意思を再確認するために確固たる意思で宣言した。
「桜ヶ丘北中出身!山元虹稀!ポジションはピッチャー!青道高校にはエースを貰いに来ました!よろしくお願いします!」
再びの険悪ムード、隣の選手が「勘弁してくれよ」と呟くが虹稀の耳には入っていない。
未知数の奇才を持つ異色の打者、雨宮瑠偉。
底知れぬ鬼才を秘める無名の投手、山元虹稀。
運命の歯車は音を立てて回りだす、2人の巻き起こす大きな流れが行き着く先は栄光か挫折か。動き出した大きな流れがもたらす結果は今はまだ、誰も知らない。
再編集前を読んでくださった皆様、前作の違いが今は少しですがこれからどんどん大きくなってしまうかもしれません。
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