ダイヤのエース Plus Ultra   作:奇述師

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出会い:沢村栄純

 

「あー!こいつ遅刻したのに列に紛れ込もうとしてるぞ―――!」

 

 山元虹稀、雨宮瑠偉の挑戦的な自己紹介により発生してしまったただならぬ緊張感を突き破ったのは呆然と立ち尽くす新入生、沢村栄純と彼を囮にして列に紛れ込み自分の遅刻をなかったことにしようとした御幸一也。

 

また沢村栄純同室の上級生が 責され、ただでさえ悪かった空気が最悪なものに変質した、まだ連帯責任で全員で何かをしなければいけないよりかは全然ましだと考える雨宮瑠偉は欠伸を噛み殺しながらグラウンドの設備を大勢の同級生と共に見て回る。

 

その後軽めに走ったところで寮で朝食をとるが、雨宮瑠偉と山元虹稀は慣れない視線に囲まれながら同級生より明らかに多い白米を掻き込んでいた。

 

「なぁ、なんで俺たちこんなにじろじろ見られているかわかるか?」

 

 先に疑問を口にしたのは瑠偉だ、まるで珍獣を見るような絡みつく視線に耐え切れずに胃の中のものが出そうになるのと同じくしてそのような疑問がポロリと漏れた。

 

「え?見られているって何が?」

 視線に気づいていなかった虹稀は目の前に置かれている大盛りのどんぶりと格闘しながらおかずが既にないことに嘆いている、ただ共通していることはどちらともその視線に対しネガティブな印象を持っていないという事だ。

 

 虹稀は気にしていないが瑠偉の言った言葉をなかなか呑み込めない口内のものと共に飲み込むと瑠偉の放った言葉の真意を理解してにやりと笑う。

 

「硬式出身のエリートさんが多い中で硬式野球より遥かにレベルの落ちる軟式野球から推薦・特待を貰ってきている俺たちは注目されて当然って訳ね」

 

「ああ、その通りだ。聞いたっつーか聞こえてきたっつーか、硬式野球の全国大会でベスト4に入ったチームの奴らも来ているらしいからな。この後能力テストがあるっていう話だからそこで品定めされるっていう訳」

 

「その通り、わかっているじゃないかお前たち」

周りから少し警戒、もとい避けられている節の合った虹稀と瑠偉の席は丁度2,3席ほど空いていた、そのため人が座れるスペースは充分にあったわけだが当人達をもってしてその男が座るとは予想をしなかった。

 

 ただその張本人自体も気まぐれのようなもので目についたか少しだけ話してみようという簡易な思い付きでもあるが。

「山元、隣いいか?」

 

「ええ、もちろん。というか一也さん何で遅刻したんですか?」

「いや~今日監督がいつもよりも早くてさ、時間は大丈夫だったんだけどシチュエーション的にアウト。沢村って1年を犠牲にしたのはナイスアイデアと思ったのに監督の目を欺くにはまだ何か足りなかったみたいだ」

 

 そう言えば最後辺りで列に割り込もうとした遅刻者がいて注目を浴びていたのを思い出した2人は、自分が助かるために何も知らない下級生を捨て駒にしたのに何の悪気もない先輩を目の前に苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 

「それはそうと雨宮?だよな」

 

「?そうですけど」

 

「お前入部早々先輩たちに喧嘩売ったらしいな!先輩たちみんなキレてたぞ」

 

 確かに、何を言っているんだこの1年は、と思われたことは瑠偉も重々承知している。

 

けれどもここは年功序列はさほど関係なく実力主義の学校、だから失態は直ぐに取り返せるだろうと、むしろ目に見える結果を見せつけ挑発や夢に近い言葉を本当の意味での宣戦布告に出来るだろうと踏んでいたのだ。

 

虹稀の場合は瑠偉に煽られるような形での発言だったために自覚はなかったが、後で御幸一也が指摘すると露骨に驚いていた。

「御幸一也さん、大丈夫ですよ。この後身体能力テストあるみたいなんで結果であの言葉が嘘ではないことを証明してみせます。俺は一刻も早くメンバーに入らないといけないので、それではお先に失礼します」

 

「おう、楽しみにしているぞ」

 

 好戦的に、狙っているかのように、周りに聞こえるような声で淡々と告げた。

 もう、朝のような好戦的な笑みは浮かべられることは無く、冷たく自分を律するように冷静な表情で食堂を後にする。その後ろ姿はどこか危なく御幸の目には映っていたが毎年の風物詩でもあるし自分もたどった道の一つでもあったので気にはしないことにした。

 

「言っていることはかっこいいんだけどな」

 

「言っていることは?」

 

「こっちの話だ。山元、何杯目?」

 

「……2です」

 

「まだまだだな、エースを目指すんだったらもっと食べろ。お前は線が細すぎる、そんな体じゃ上で通用しても長くは続かねぇぞ」

 

「うっ……はい、頑張ります」

 

最もらしい言葉で虹稀を発奮させる御幸だが虹稀が3杯目を注ぎに行くと幸せそうに顔を綻ばせた、御幸は自分が上級生になった時に食事で苦しむ1年を見るのが非常に楽しみであったために周りで悶えていたり、必死に喉を通らせているど真ん中で他人の不幸を、苦しんでいる姿をおかずにして幸せそうに食事を楽しんでいた。

 

 その催しは一人の選手の全てを賭けて行われたといっても過言ではない。初めは嘲笑とあいつ何をしているんだ?と初日からやらかしてしまった同級生を憐れみを含んで見下し無理難題をやろうとする一人の男の勝負が行われていた。

 

 その選手の名前は沢村栄純、高らかに自分の名前と出身中学・抱負を(遅刻してきて朝言えなかったからだろうか)宣言すると幾何かの助走をつけて玉を放った。

 

投げたボールは無情にも綺麗に曲がりフェンスギリギリまでコロコロと転がっていく、大爆笑が起こった後、監督からの無情な宣告。

 

当然泣きの一回などなく、取り残される沢村を見てただ、皆は同情するだけしかできない。

 

 瑠偉は大多数とほとんど同じだが沢村を嗤っていた、実力も把握していなくて無理なことをして自分の可能性を潰すという行為は最も馬鹿らしいことだと思っているし、やるべきことをやらずに自分の主張を押し通すのは可笑しいと考えているからだ。

 

 けれども、少しだけ評価というか瑠偉の記憶に沢村栄純という同級生が残ったのはいい意味でも悪い意味でも事実だ。

 ただ虹稀だけは少しだけ、ほんの少しだけ沢村の気持ちが、沢村栄純という選手をこの中で一人だけ認めていた。

 

 結果として80m程にしか到達しなかったボール、けれどもあんな癖玉で80m投げるのは、曲げながら投げるのは決して容易ではない。

 

感覚的で根拠はない、けれどもこの人はいつかきっと大きく成長すると感じ取る。

 それは、恐怖と楽しみが入り混じった複雑な気持ちだ。今はずっと自分の方が先を言っているという自負はしているけれども(身体能力、その中でも肩の強さ)すごい勢いで追い上げてきそうな予感がするからだ。

 

沢村以外で行われたテスト、テスト言っても野球の技術ではなく基本的な身体能力を見ることが大半だった。

 

・遠投

 

・50m走

 

・ベース間ダッシュ

 

・ロングティー

 

・マシン使ったバッティング

 

・ピッチャーはブルペンでの投球練習

 

・5000m走

 

と言う内容である。

 あくまでこれらは体力測定と同じようなもので直接的に野球の上手い下手を見るためのテストではないのだが監督直々に見ているために誰も彼もが必死にやる、だからかその後も覚えなければならないことや、同室の上級生の洗濯もしなければならないので、息をつく暇もない。

 

 青道高校野球部入部初日、特に何事もなく一日は終わろうとしている。

 

「雨宮瑠偉、それに山元虹稀、か」

 

 突出して抜けている数値の持ち主を片岡鉄心は静かに読み上げる。数値だけでは何も言えない、けれども思わず笑みが浮かんでしまう結果だ。

 

 早熟なのかこれからまだまだ伸びしろはあるのか、それは本人たちの努力次第でも資質の問題でもあるので定かではない。こうも面白い選手を見つけるのが得意なようだ、と呟くと高島礼は嬉しそうに微笑んだ。

 





今回は閑話みたいなものです。

これから細かいことを決めていくに当たり過程とか色々と考えないといけないことが多く自分の納得いくようにしていきます。

特にヒロインは既存のキャラクターにするのかオリジナルで出すのか……悩みどころです。

出来れば出したいんですけど、そのキャラクターのせいで振り回されるわけにはいきませんからね笑

今回もお読み下さってありがとうございます、なんとか年内に前作に追い付くようにしたいと思っていますのでまたお楽しみください。
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