寄宿学校の平等主義者 作:pepe
ノリと勢いで作ったので、誤字等が多いかもしれませんが暖かく見守ってもらえれば幸いです。
東和国とウェスト公国の中間に位置ダリア島。そこには、両国から学徒を募る学園があった。
その学園の名をダリア学園という。学園では、両国の生徒が共に認め合い、協力し切磋琢磨する素晴らしい学園。
それがダリア学園だ。
「「くたばれぇぇぇ!!」」
嘘である。
両国は今敵対状態であり、東和国専用寮
昼夜問わず何処かで代理戦争という名の闘争が行われる。それは、HRが行われる前の中庭でもだ。黒と白の制服が入り乱れながら、怒号と土埃が舞う中庭。それを廊下から見下ろす者がいた。
彼は黒の制服で身を包み窓枠に頬杖付いて、その闘争を見守っている。名は、
けれど、彼は白猫との争いに極力参加しない事は黒犬陣営の中でも異質であった。
闘争が激しくなるなかで彼は少しばかり顔をしかめる。彼の瞳にはジュリエット・ペルシアに警棒で殴られた犬塚露壬雄を映っていた。
殴られた彼は数メートル吹き飛び狛井蓮季介抱してもらっているものの、ダメージが残っているようで直ぐには立とうとしない。
より闘争が激しくなろうかというところで、教職員たちが中庭に現れて生徒たちの多くは逃走していた。
「すげぇな犬塚、俺なら泣くわあれ」
そんなことを呟いて司安は窓から離れ、教室へと戻っていく。教室には既に、黒犬と白猫の生徒合わせて十数名ほど生徒が集まっていた。
あと数分でHRが始まることを確認すると適当な椅子に腰掛けて、一限目の教科の準備を始める。そんな彼の隣には、初等部からの付き合いである歩米良仁愛が座っていた。
仁愛は司安の方に目を向けて「ねぇねぇ」と話しかける。一方で樽目はというとめんどくさそうにしながらも、仁愛の話に耳を傾けながら授業の準備を続けていた。
「今日も参加しなかったんだね」
「争いは嫌いなんだよ、痛いだろ。それに、俺は平等主義者だ。白猫とか黒犬とか関係ないんだよ」
当然だと言わんばかりの顔に仁愛は引いてしまう。黒犬は白猫と対立関係にあるにも関わらず、痛いからという理由と後は適当にこじつけた理由で参加しないのは一年男子の黒犬では司安だけだ。
「………あはは。でも、そろそろ参加しないと丸流になんか言われるんじゃないの?」
「そうかもな、あいつと犬塚は暴力的だからな」
「樽目は変わってるよね」
「そうかもな自覚はあるよ。ここにいる奴らは
司安の指すみんなの中に、
故に黒犬高等部の中では、司安を気にくわないと思うものも多かった。それでも彼にとってはどこ吹く風であり、それをやめようとはしない。
仁愛は、初等部から司安を知っているが理解はできなかった。それぞれ意思は違うものの、『白猫は敵』という共通認識が樽目には無かったからだ。
準備し終えた司安は、考え込んでいるのか動かない歩米良の方に目を向ける。その視線に気がついたのか仁愛は、慌てた様子でなんでもないと誤魔化した。
「まぁ、いいか」と呟いた彼は、ぞろぞろと乱れた制服をしている生徒たちが教室に入ってきていることに気がつく。中庭で争っていた生徒たちが戻ってきたのである。
「それより、狛井が戻ってくるかも知らんから離れてくれ」
「相変わらず蓮季が苦手だねー」
「うっせ、さっさとしろ」
笑いながら離れていく仁愛に入れ替わりで、後ろの席に座っていた獅子静香が彼の隣に座った。彼女は仁愛と蓮季の友人であり、司安にとっては天敵でもあった。
「お前今まで後ろに座ってたんだから聞いてただろ」
「いや、面白いかなーって」
「お前も歩米良も狛井と仲良いから困るんだよ。あいつ俺に当たり強いし」
「それは樽目が悪いよ。蓮季は、いつも黒犬の生徒たちのこと考えてるのに樽目は勝手なことばっかりするから」
「一匹狼っぽくてかっこいいだろ?」
「そういうところがダサいよ」
「……さいですか」と少し落ち込みながらも、司安はそそくさと先程準備した教科書とバッグをもって席から立ち上がろうとする。逃げようとしたのだ。ここで静香が離れるよりも自分が離れた方が早いと自覚しているからその答えに至った。
だが、静香はそれを逃さず両手を司安の両肩に置いて力ずくで座らせる。ズガッと椅子と床の摩擦音が教室の中に響き、辺りが二人を見つめる。当然その中には先程離れていった仁愛の姿もあった。
(やばい)
そう、司安が思った時にはもう遅かった。
「「あっ」」
蓮季の友人二人に拘束されている司安と、司安が友人二人を侍らせているように見える蓮季。経緯など知らないが蓮季が司安に起こるには十分な出来事だった。
「お前はいつもいつも!」
「お前には関係ないだろ。ついでに言うと、獅子がふざけただけで俺は悪くない」
「言い訳はダメだゾ」
司安が蓮季のことを苦手な理由の1つは、幼馴染という奴だからだ。司安の父と蓮季の父が友人だったこともあり、幼き頃から親交があった二人だが初等部まではこんな関係ではなかった。
蓮季は犬塚と関わるまで引っ込み思案だったし、司安は今と同じ平等主義だったが下級生を助けたりなどはしていなかった。2人の関係が大幅に変わったのは中等部に入ってからだ。
犬塚の隣に立とうと以前より明るくなった蓮季は、より黒犬の為に………いや犬塚の為に行動し始めた。司安はというと平等主義が加速して、黒犬や白猫関係なく関係を持ち始めた。
それらがきっかけで軋轢が生じ、彼らは互いを名前ではなく苗字で呼び合うようになったのだ。
「だいたい、いつもなんで関わってくるんだよ。お前は俺のオカンか」
「な!?私は仁愛と静香を心配してるだけだゾ」
「俺が2人に手を出したことなんてねーだろ」
「………それは」
言い淀む蓮季に司安は追い討ちをかけるように言葉を続ける。
「それに、もう俺はガキじゃねーんだよ。自分のことは自分で決めるし、もう関わってくんな」
俯く蓮季を背にして司安はそのまま席に座る。彼の隣に座っていた静香と仁愛は、いつのまにか離れてしまっていた。そして、教室の空気は最悪だ。普段は騒ぐ黒犬の男子たちも静かにしており、白猫の生徒たちも黙っている。そんな中、口を開いたのは犬塚だった。
「おい、司安」
「………なんだよ」
呼ばれて振り返った司安の肩を掴んで、犬塚は拳を振り上げる。司安は、防御の態勢を取ろうとするがそれすら遅すぎる。
「ちょっと、歯くいしばれ」
司安が放った最後の言葉は、隣に立っていた犬塚を怒らせるのには十分な理由になっていた。怒りのまま振り抜かれた拳は司安の頰に吸い込まれるように直撃し、彼の体が2,3メートル吹き飛ぶ。
「ぶへ!」
間抜けな声と共に机を巻き込みながら吹き飛んだ司安は、立ち上がる気配が無かったため周りの生徒たちのヒソヒソと話す声が爆発的に増えていく。
「死んだか?」
「あれは死ぬな」
「犬塚のパンチだもんな」
「振り向きざまに殴るとか犬塚鬼だな」
騒ぐ周りに対して犬塚はというと、自分の拳を不思議そうに見つめていた。先ほど司安を殴った時、感触が薄かったのだ。司安の吹き飛び方と拳に残る感触が全く比例してない。
(あの野郎後ろに飛んでダメージを受け流しやがった)
犬塚は直感で分かった。見た目に反して、ダメージは限りなく少ない。それに、あの寸前で防御から
「蓮季あいつ
「犬塚のあほ!樽目は喧嘩なんてしたことないんだ。それを、犬塚が殴ったりしたら死んじゃうゾ」
「で、でもな蓮季あれは」
狼狽えている犬塚を他所になまじ意識だけは残っている司安は、痛みと脳震盪による不快感と戦っていた。咄嗟に後ろに飛び、6割程度威力は殺したはずだった。
だが、それですら無意味。犬塚露壬雄のパンチはそれほど不公平なものだった。
(あのクソ馬鹿力が、受け流しても立てねぇじゃねーか)
ゆらゆらと揺れ霞む視界を我慢しながら、司安は椅子や机に体を支えながら立ち上がる。
「「「なっ!?」」」
周囲の驚きの声は司安の耳には届かず、よたよたと犬塚と蓮季に背を向けてそのまま教室から立ち去ろうとした。だが、完全には抜けきっていないダメージにより途中膝から崩れ落ちそうになる。
「司安!」
蓮季は咄嗟に叫び司安の元に向かうがそれは叶わなかった。
「あら?」
司安が出て行こうとしている扉から入ってきたペルシアが、床に膝をついている司安と目が合う。数秒の間2人の間には会話などは無かったが、ペルシアは教室の惨状を見る限り司安が殴られたのだろうということは理解ができた。
「………退いてくれ」
「嫌よ。こんなになってる人を放って置くのは貴族の名折れよ」
ペルシアはそう言って、司安の肩を担いでそのまま教室から出て行く。途中廊下をすれ違った教師は何があったのか忙しなく聞いてきたが、司安は喋る気力もなくペルシアはおおよその事情の予測を説明したのだった。
保健室まで運ばれた司安は、去って行くペルシアを呼び止める。本来ならば言葉を交わすことのない黒犬と白猫の生徒だが、この2人は別だった。
「………すまんな」
「別にいいのよ、怪我ぐらい誰でもするわ。あなたが怪我をするなんて想像もつかなかったけど」
「あいつが馬鹿力だったんだよ」
ペルシアは、ふふふと短く笑う。それに面白く思わない司安は少しばかり不貞腐れたように、……寝ると言って布団を被る。慌てたようにペルシアは謝るが、彼が布団から顔を出すことはなくため息をついてしまう。
「この学園で貴方とこんなに喋れるとは思わなかったわ」
それだけ告げると彼女は「それじゃ」と短く言い残して去って行く。ガラガラと保健室の立て付けの悪い扉の音を確認すると、司安は布団から顔を出してベットから起き上がる。
「同感だよペルシア」
そう言った彼は保健室の洗面台の鏡の前まで歩いて行く。その足取りは、よたよたとゆっくりだが確実に回復していた。ふぅ、とため息をついて自分の目に入っているコンタクトを取る。
ここで樽目家について少しばかり話をしよう。樽目家は、東和国の中でも名家である。
20年前、当主である司安の父はある女性と恋に落ちた。自由奔放で妖精のような彼女に男は惹かれ、また女も真面目で優秀な彼に惹かれていった。
だが、2人の間には大きな問題があったのだ。2人の国は敵対関係にあったからだ。迷った末に女は東和国に亡命した。
女は国を捨て名を捨て男についてきたのだ。女の覚悟を受け止めた男は、家族の反対を押し切って女と結婚し子供を成した。
それが、樽目司安だ。
(…………相変わらず似合わないなこの瞳は)
鏡に映る彼の