寄宿学校の平等主義者 作:pepe
HANEKAWA-san様と田中殿様
評価ありがとうございました。
こんな駄文ですが評価がされていて、それも9点や8点などの高い数字がつけられており、原作がいいものだから期待されているなと少々、プレッシャーを感じつつこれからも精進したいと思います。
他にも17名もの方にお気に入り登録してもらえて、この場を借りてお礼申し上げます。
まだまだ、物語は始まったばかりですがよろしくお願いします。
犬塚に殴られた日の夜、司安は赤く腫れた頬に氷で冷やしながら白猫寮まで来ていた。
なんでも、今日初等部の生徒が扉にラクガキをしたらしく、黒犬側が何もしないのは示しがつかないというわけで教職陣から信頼の厚い司安が駆り出されたのだ。
除去剤を大きく書かれたバカの文字に塗りながら、「はあ」と大きく溜息を漏らす。司安は優等生ではあるが、根っからの真面目では無い。
教職陣からの信頼は後々有利に働くだろうという一種の投資であり、こんな雑用は正直迷惑である。
(殴られるし、雑用頼まれるし災難だな)
再度溜息を漏らし、どんどんと薄くなってきているバカの文字にその憂鬱さをぶつけながら、除去剤の独特な匂いと格闘する。およそ一時間程度で文字が消え、扉の汚れ自体もだいぶ綺麗なっていた。
「はぁはぁ」と肩で息をし一時間にも及ぶ、自身の集大成を見つめながら安堵の表情を浮かべる。
(もう、こんなもんでいいだろ)
「あれ、黒犬の生徒がなんでウチの寮にいるの?」
間の抜けたような声とともに淡黄色の髪を三つ編みにした青年がふむふむと司安の方へと近づいて来る。
司安はその人物が誰か知っていた。いや、司安でなくともこの学園に通う学徒であれば、一度は目にする機会がある。
白猫監督生代表2年ケット・シィ。この学園の頂点の1人だ。
「挨拶がまだだったね。俺は2年のケット・シィ」
司安は普段目にすることが少ない白猫の代表に驚いたが、それでも容赦なくケットの攻撃………いや、口撃は続く。
「………こんにちんちん!!」
猛攻だった。
ズボンチャック所謂社会の窓から、拳を突き出すような変人。そんな者をこれまで見たことがなかった司安は思考回路がショートする。
「あ、はい樽目司安デス」
「あははは、ノリ悪いよ〜樽目くん。スベったみたいじゃん」
「………スミマセン」
口が裂けても「面白くない」の一言が言えなかった。相手は、監督生の代表。
この学園の半分を束ねる天才集団のトップである。もし不用意に「面白くないっすよ」などと言えば、司安は白猫を馬鹿にしたと言われるかもしれない。
そうなればまずい自分が引き金を引いたみたいになるのは、司安としては最も避けたい道であった。
「代表」
凛とした声とともに
白猫2年監督生アン・サイベルだ。
「あ、サイベルちゃん!見てよ樽目くんってば酷いんだよ」
「こんにチッ!!」
再度ネタをしようとしたケットに、サイベルの凶拳がなんども放たれる。
「痛い、痛い!痛い!!痛いよサイベルちゃん」
「代表が泣くまで、殴るのを辞めません」
何度も何度も放たれる拳は、的確にケットの急所を捉えている。司安は飛び火しないように存在感をできるだけ消し、それをただ見つめることしかできなかった。
ゴッゴッゴッと鈍く短い音とともに放たれる拳にどんどん弱っていくケットを、ただ見ていることしかできない司安。
「樽目くんサイベルちゃんを止め、止めてッ!」
「うるさいですよ」
制裁もひと段落した辺りで、燃え尽きているケットと凛と通常運転のサイベル、そしてそのサイベルに怯える司安。
三者三様ではあるが、確実にこの場を支配しているサイベルが司安の名を呼ぶ。
「樽目司安」
「は、はい!!」
軍人のように背筋を伸ばし敬礼する司安に、サイベルは淡々と告げる。
「きちんとラクガキを消せていますし、以前よりも扉を清掃している点については評価できます」
「ありがとうございます!」
「片付けはこちらがやっておくので、帰ってもいいですよ」
「はい。では、失礼します」
司安は、90度に腰を折りすぐさま走り去っていく。その様は脱兎の如くもし、サイベルやケットが捉えようとしても無理だろう。
司安が走り去って行った後、白猫寮の前に立つサイベルは隣で燃え尽きているケットを呼びかける。
「………代表、彼は行きましたよ」
スッと何事もなかったかの様に立ち上がったケットは笑いながら、
「一芝居打ってくれてありがとね。サイベルちゃん」
「いえ、芝居ではなく本気でしたよ」
「え!?」
「冗談です」
騒ごうとするケットに対して、彼女は「それよりも」と強引に話題を変える。
「あれが気にしていた樽目司安ですか?」
「うん、そうだよ」
ケットは樽目司安のことはすでに知っていた。白猫の生徒を初等部であっても、黒犬が助けるというのはイレギュラーであった。
そして、ケットは樽目司安という男を見極める為に、このラクガキの件を利用したのだ。
監督生代表が頼めば、教師達もそれに協力する。もし理由を聞かれても、優等生だからとでも言えば直ぐに納得してもらえる。
ケットは先ほどの僅かな時間司安を観察していた。それは、自身が殴られている間も例外ではない。ケットの目から見ても、彼は一般生徒にしか映らなかった。
(彼は何か隠している気がする。今は何かわからないけど、きっとそれは重大な何かであると思う)
だが、それが怪しいのだ。
普通、監督生代表が目の前に現れれば取り乱すだろう。それが、敵国の代表であれば尚のことだ。
それが、司安は圧倒的に短かったのだ。それだけしか今はまだ要素はないが、あとはケット自身の勘としか言いようがない。
「確信したよ。樽目司安は、何か企んでる!」
「私には、そうは見えませんでしたが」
「…………気がする」
ギュッ
「あれ!?なんで拳握るの!!」
「あぁ!やめてサイベルちゃん!!せめて、手をパーにしてそんなに握りしめたらっ!!」
ゴッゴッゴッと鈍く短い音が白猫寮からその後も響き続け、最初のうち聞こえてきた悲鳴も最後の方には聞こえなくなっていた。
***
所変わって、広場の噴水前。
今まさにここで決闘が行われている最中、不幸にも司安が通りかかっていた。
キンッキンッと鉄と鉄がぶつかり合う甲高い音とともに白と黒の制服が交互に、立ち位置を入れ替えて戦っている。
見るからに双方本気。
司安の位置からは顔までは見えないが、白い制服の方は長い
(うわ、こんなところで殺し合いかよ)
触らぬ神に祟りなし。そんなことを思いながら、司安はそそくさと退散しようと踵を返す。
(もし、明日学園から人が消えていても俺は何も知らん)
「好きだ!付き合ってくれぇぇ!!」
金切り音が激しくなる中、突如響く怒号に近い告白。
決闘というこの場において最も相応しくない愛の告白が、ただただ広場にこだまする。
「は?」
間抜けな声が司安から漏れ出る。
あの、二人は敵国同士だ。上手くいきっこない。バレれば破滅。もし、うまくいったとしても果ては、諦めるか全てを捨てるかの二択である。
歴史は繰り返される。
司安の父が母と出会った様に、人種が違えど恋に落ちることはあるはずだ。
その二人は茨の道だがその中に、幸せを見つけれるかもしれない。
だが、そこから生まれてきた子供はどうなる。
司安は知っている。その苦痛を。
自分1人が他者とは違うという苦悩を。
だが、司安は笑う。
(ようやくだ。ようやく、運が回ってきた)
司安は、自身の世代では絶対にないと思っていた。
特に仲の悪い自分たちの世代では互いに憎しみ合うことは出来ても、愛を囁くなんてことは絶対にできないと思っていたのだ。
だから、後々の世代でそれを作ろうと努力を続けた。
だが、自身の関与していないところでそれは芽吹き、願いが成就したのだ。こんなに笑えることはない。
「よ、よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ」
初々しい雰囲気に包まれる2人を打ち消す様に、
「あははははは!」
広場に響く笑い声に、ペルシアと犬塚は驚愕する。ごそごそと草むらをかき分けて出てきた司安は、驚きを隠せない2人に対して笑顔で放つ。
「覚悟はできているのか」
と、知る者だけが感じる重く冷たい言葉を。
「全てを捨てる覚悟があるのかと聞いているんだ。犬塚露壬雄、ジュリエット・ペルシア」
本当は先週の土曜に出そうと思っていたのですが、少々フィンブルを掘っておりました。
雫を炊いたら、グレイプニルとかいう斧がボコボコ落ち始め、フィンブル余裕などとのたまっている間に汁がどんどん消えていき、結局30近くのグレイプニルと5本のフィンブルを落とすことに成功いたしました。