寄宿学校の平等主義者   作:pepe

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UA3000超えましたありがとうございます!

ギャグというか、ほのぼのとした明るい描写っていうのが書けない。
そして、自分の作品を読み返していてやはり、万人向けのものじゃないなぁなんて思った今日この頃。

二話の前書きで記入し忘れていたのですが、感想でアンチヘイトについての指摘がありましたのでタグに追加させていただきました。
もし、不快な思いをされた方々がいるのであれば、この場を借りて謝罪させていただきます。


三話

 犬塚とペルシアが付き合い始めておよそ一ヶ月が経つ頃、司安はよく部屋に出入りするようになった犬塚に困り果てていた。司安自身なぜこうなったのか分からないが、あの日を境に犬塚は司安に積極的に関わるようになってきた。

 

 司安としては正直勝手に出入りして来る犬塚にうんざりしているのだが、嬉々としてペルシアのことを語る犬塚にどうも強く出れないでいた。

 

「それでな、司安!その後は………」

 

 興奮したように先日のデートの件を語る犬塚は、自分の彼女を自慢したくてたまらないのが目に見えて分かる。

 

 それに、犬塚は長年の想いがようやく通じた事もあって、浮かれ方が尋常ではない。

 

 何故なら、この話はこの部屋に入ってきてもう7度目だからだ。何を言ってもペルシアに繋げ最終的にデートの話に戻る。

 

 まさに、無限ループ。

 

(長年の想いが通じたんだし、浮かれるのも分からん事もないが)

 

 司安はそんなことを思うが、どうしてもため息が漏れてしまう。

 

 もう、お腹いっぱいだ。これ以上語ってくれるなと司安は目で訴えるが、等の犬塚はにやにやとリャマみたいな顔でノロケ話を続ける。

 

 恋は盲目というが、犬塚の場合は全盲かもしれない。

 

(ここまで浮かれるのは予想外だ)

 

 いつもの鋭い眼光で誰も近寄らせない孤高のリーダー犬塚露壬雄の姿は無く、鼻下を伸ばした間抜け面で彼女のノロケ話を永遠と語るただのうざい彼氏である。

 

 犬塚に一度負けた司安としては、こんな隙だらけの彼の姿など見たくはなかった。

 

「どうしたんだよ」

 

 司安は不思議そうに聞いてくる彼に、怒る気にもなれず「何でもない」と返す。それからまた長々と惚気られるのだが、それは語らないでおこう。

 

 数十分程度経ち犬塚も満足したところで司安の部屋を出ようと思い腰をあげる。

 

「んじゃ、部屋戻るわ明日ペルシアに会う予定だし」

 

「バレないようにしろよ。特に、監督生(プリフェクト)にでも感付かれたら逃げれねーぞ」

 

「そもそも、バレねーようにするから大丈夫だ」

 

 犬塚は、明らかに油断していて本来すべき警戒心は皆無であった。これでは、隠せばバレないものもバレてしまうのではないかと心配になる。

 

 司安としても、此処で二人の関係がバレるのは面白くない。聞く耳を持たないかもしれないが、犬塚に再度最終の注告をする。

 

「まあ、頭の片隅にでも入れとけ。天才集団(プリフェクト)は普通じゃないからな」

 

「お前案外いいやつだな」

 

 ニカっと子供のように笑う犬塚に、やはり警戒心はないのかと頭が痛くなる。『簡単に人を信じるものじゃない』と習ってきた司安にとって、犬塚が此処まで簡単に自分に近づいてくるのが不思議でたまらなかった。

 

 秘密の共有によって仲間意識でもあるのだろうかと疑問に思う司安であったが、こうも簡単に人を信じれるのも犬塚の良さなのかもしれないと思ってしまう。

 

「自分の為だよ、巡り巡って自分に返ってくる恩も仇もな」

 

「誰の言葉だ?」

 

「母親の口癖だ」

 

「いい言葉だな」

 

「そう、思ったことはないな」

 

 そう答えた司安の表情が少し暗くなる。瞳の奥にはどこか、諦めというか無気力さというか言葉で言い表せない様な虚無感が蠢いていた。

 

 はっと気を取り直し「なんでもない」と犬塚に告げ、私案はそのまま机に向き合う。その様子に犬塚の少し驚いてしまう。

 

「勉強するから帰ってくれ、集中できん」

 

「べ、勉強してるのか?」

 

「そりゃ、凡人だからな」

 

 そう皮肉の様に言う彼の顔は見えないが、その声音にはどこか悲しさを帯びていた。

 

「お前頭良かっただろ」

 

 司安の前のテストの成績は黒犬の中でno.2、学年では3位であった。学年1位であるペルシアと2位の蓮季には僅かに及ばないが、司安は天才といわれる部類だと少なくとも犬塚は思っていたのだ。

 

「さぁな、上には上がいるしな」

 

 例えば、狛井蓮季。彼女は、テスト期間中同学年の黒犬生徒たちに勉強を教えている。自分の勉強を蔑ろにしても、黒犬の皆に合格してほしい一心で頑張っている。

 

 それでも、彼女は2位を取れるのだ。確かに誰かを教えることは、さらに理解を深めることができる。

 

 だが、このダリア学園は、東和国とウェスト公国を合わせた幾つもの学園の中でもトップに位置する超名門校である。

 

 自分の時間を割いてまで誰かに勉強を教えて、そこで2位を取れるかと言われればそれは不可能に近いはずだ。

 

 それはもう、ある種才能である。

 

「狛井が多分全力で自分の時間を使えば、学年1位くらい取れる。下手すりゃ飛び級だってあり得るな」

 

「は、何言って」

 

「誰がなんと言おうと、あいつは天才だよ。でも、あいつが皆に勉強教えてなかったら、今頃黒犬の数は半分以下かもしれんけど」

 

 けらけらと笑いながらも決して、彼の右手に持たれたペンの走りが止まることはない。これまでも、きっとこれからも彼は努力を続けるのだろう。

 

 司安の後ろ姿はひどく酷く小さい。一人で抱え込んでいるとは分かっているだが、生半可な思いで彼に手を差し出すことはできないと犬塚は直感でわかった。

 

(似てるな)

 

 そして、それが少し眩しく見えた。さらには、自分の憧れたペルシアに在り方が似ているとさえ思ってしまうほどだ。だが、その考えをすぐさま否定する。

 

「さ、帰ってくれ」

 

「あぁ、邪魔したな」

 

「別に邪魔とは言わねーよ、面倒かっただけだ」

 

「お前友達いねーだろ」

 

「うっせ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝いつもより早く教室にいた司安は、席に腰かけ頬杖をつくいて教室を眺めていた。今日はいつも通りというわけではなくどこか慌ただしい雰囲気を白猫の生徒たちが出している。

 

 そこへドタドタと慌てた様子の白猫生がやってきた。は、は、は、と短く息切れをして喋りづらそうにしているが、数秒後には息も整い慌てていた理由を周囲に叫ぶ。

 

「大変だ〜!!シャル姫が復学されたぞ!!」

 

「な、あいつが!?」

 

 慌ただしさがドッと増した。当然だ、良くも悪くも彼女は一国の第一王女。白猫ならば羨望の眼差しを送り、黒犬ならば侮蔑の視線を送る。

 

(面倒なことになった)

 

 司安は、所謂家の事情というやつで、父の付き添いにウェスト公国訪れたことがある。そこで、彼はペルシアと件の彼女と出会ったのだ。

 

 少しの間ではあったが彼女らと関わった司安は、シャルに感謝しているがそれ以上に彼女を恐れていた。彼女に関わるということは紛争地にタンクトップとジャージで行く様なものである。

 

 気まぐれという名の流れ弾が拒否権なく行使される。まさに、地獄という他ない。

 

(まあ、あいつも人がいる時には関わってこないだろ)

 

 ワッー!と外から騒がしい丸でパレードの様な歓声が聞こえてくる。一目見ておこうと廊下に出て中庭にいる彼らを見下ろす。

 

 赤絨毯が敷かれた中庭を悠々と歩き白猫生たちに手を振る姿は、正しく臣民たちに手を振る王女のそれだ。だがそれも、ペルシアが彼女の前に現れるとそれまで進んでいた足取りはぴたりと止まる。

 

(よく見えん)

 

 何か一悶着あった様にも見えたが、それよりも彼女の関心はベンチに座っている犬塚を筆頭とする黒犬たちに向いていた。

 

 司安の位置からでは聞こえないが、シャルが黒犬たちを挑発しそれに乗せられた犬塚が飛びかかる。シャル姫と犬塚の直線上には誰もいない。

 

 膂力で勝る犬塚と正面から戦って、いくら運動神経抜群とはいえシャルが勝てるはずがない。ならば、何故その状況を作り出したのか。

 

 答えは簡単だ。

 

 弱みを握っているから。

 

 ピタッと殴りかかるモーションで静止した犬塚は急に後ろにひっくり返る。

 

「ぐわぁぁあああ!!や〜ら〜れ〜た〜!!」

 

「「!!」」

 

 そして仰向けに寝転がった犬塚に近づいたシャルは、ぼそぼそっと犬塚にしか聞こえない様な声で何かを伝える。犬塚は抗議したい様子ではあるが、あの様子ではそれは虚しく終わるだろう。

 

 司安が教室に戻ろうかとした時、ふと彼女と目があってしまう。彼女は一瞬だけ驚いた表情を浮かべ、その後ニヤリと不吉に笑っている。

 

(勘弁してくれ)

 

「シアン出てきなさーい!窓からコソコソ観察して何してるのかしら〜」

 

 にこにこと手を振るシャルの後ろには鬼の形相で肩を揉んでいる犬塚がいた。司安は、とんでもないところから飛び火してきたと思いながら廊下を駆け抜け中庭を目指す。

 

 対岸の火事を笑っていたら、対岸側の人間から松明を投げられた気分である。

 

 1分程度で中庭に着いた司安は、ゼェゼェと荒く息を乱していた。当然だ、普通ならば急いでも2分はかかる。文字どおり限界を超える勢いで限界を超えたのだ。

 

 先ほどまで肩を揉んでいたはずの犬塚は、蓮季にリンチされている。

 

「目を覚ましてー!!」

 

 胸に釣られた思っているのはあれだが、蓮季の行動は正しい。敵国の王女の命令を聞くリーダーなど認められるはずがない。

 

「犬塚のやつきっとあの胸に釣られてたんだぜ」

 

「慎ましい黒犬女子とは違うからな。豆鉄砲とバズーカぐらい差があるよな」

 

「「「あ!?」」」

 

 この場で黒犬の男子と女子の間に軋轢が生じたのは言うまでもない。

 

 中腰になりながら息を整える司安は顔だけでも睨みつける様に、シャルの方を見上げる。だが、彼女の笑みにはもっと明るくなっていた。何かを懐かしむ様に。

 

「相変わらず足速いのね〜」

 

「シャル姫、大声で黒犬の男を呼ぶなどはしたないですよ」

 

 酸素が脳に回らない状態の司安ではシャルに勝つことはできない。通常でもだいぶ怪しいのに、回復していない状況で戦えば敗北は火を見るより明らかだ。

 

(頑張れ)

 

「…………スコット今は機嫌が良いから何もしないけど〜、次喋ったらて・い・も・うさせるわよ〜」

 

「ヒィィ!!」

 

(もっと頑張れよスコット)

 

 そのスコットのおかげで息はだいぶ整ったのだが、次の一言が脳に酸素が行き渡らない事よりも彼の頭をショートさせる。

 

「そういえば昔黒い犬が欲しかったのよね〜。ねえ、シアン私のものになりなさい」

 

「は?」




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