「クソ、最悪だ。なにが神獣だよ、ただ呪いで獣以上神獣以下になっただけの動物じゃねえか」
黒髪に黒目、グレーのパーカーにカーキ色の長ズボンを来ている少年―――
肩から指の先まで真っ黒に色付き、赤い線が血管の如く走り、人間の頭蓋骨など簡単に握りつぶせる巨大な魔獣の腕を生やしていた。
透は依頼にあった神獣退治とは違い。呪具の効果なのか、はたまた自分達カンピオーネの仇敵のまつろわぬ神の呪いなどで神獣擬きにされた動物の退治をやらされた事にイラつきを感じながら悪態を吐き捨てた。
「
二分程度の一人言の間に透の周りには先ほど片付けた犬、猫、鹿、鳥、猿など、異常な成長を遂げた神獣擬きに取り囲まれていた。
「流石に残して帰るってわけにもいかないか。受けたからには片付けて帰らないと、っな!」
ドスン!と拳を握った魔獣の腕を地面に叩きつけ、砂煙を巻き上げながら飛びあがり、目の前にいた鹿の神獣擬きに向かって爪を振り下ろした。
この攻撃を皮切りに一人のカンピオーネ対神獣擬きの群れとの闘いが始まった。
十分も経たずして片付けた神獣擬き。
周りには気を失って、元の姿に戻った野生の獣達。
「やっぱり、呪具なのかな。にしてはそんな物があるって話は聞いてないし」
頭を掻きながら、山の頂上がある方向に目を向ける。
カンピオーネの獣や戦士の本能にはそれらしき気配は引っかからない。それに日本の呪術師を束ねる組織の日本編纂委員会でも知りえない情報もあるのだろう。
「終わったみたいですね、透さん」
木の上から聞こえてきた声の方向に視線を向けると木の枝に立っている少女が居た。
学校の制服の着用したままの俺の従者として一緒に行動している
「問題なくな、相手が神獣って聞いてたけど神獣じゃなかった。愛理は何か聞いてるか?」
「いえ、私も透さんの戦闘の気配が可笑しかったので様子見に来たのですが、確かに……野生の獣がそう簡単に神獣に近い力を得るなんて、そう簡単にはありません」
やっぱり無いよな。流石に気のせいだったでは済ます事ができない案件だ。
「一回、三橋に調べてもらわないといけないな」
ポケットからスマホを取り出し、数秒ほど画面を見つめると静かにスマホをしまった。
「すいません、透さん。少しばかり用事が入りました。今から向かわないといけませんので先に帰っておいて下さい」
そう愛理は口にして透の返事を聞くことなく別の木の枝へと飛び移っていった。
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「随分と不機嫌ですね、透さん」
運転席でハンドルを握り、車の運転をしている数分前にも何度か名前が上がっていた人物―――三橋
「愛理がな、何か隠し事してるっぽいんだよな。どうも今回の神獣擬きの件もあるし」
「……神獣擬きですか?」
「ああ、さっき相手にしたのは、野生動物が何等かの理由で神獣に近い状態になっただけの擬きだった。まつろわぬ神じゃないなら、正史編纂委員会の老人共が裏で手を引いてても可笑しくないだろ」
透がカンピオーネとしてロシアやアメリカなど外国を歩き回った際にも、カンピオーネの権力を利用しようとするバカが居た。勿論、そんな奴らにカンピオーネがそこらの呪術師に負けるわけはないが、それが続けば流石にうっとおしくもなる。
「三橋、京都に向かってくれ」
「京都ですか?何か用事でも」
「予感かな、愛理が途中でどっかに向かった。何か隠し事でもしている感じだった」
愛理は元は巫女が本職の副業忍者だったが、あるカンピオーネが起こした儀式のせいで巫女としての力を失い忍者としてのみ活動している。
「愛理さんですか……」
何か思い当たる節があるのかバックミラー越しに三橋を睨むと目を逸らした。
「三橋、正直に言うことを勧める。あと、今回の依頼についてもな」
手の甲から黒に赤い線が走る剣のようなものを後部座席から伸ばし、三橋の顔の横に添える。
三橋はチラッとだけ目を動かすと額から冷や汗を流す。
「……愛理さんの仕事については馨さんから軽くだけ聞いています。今回の依頼は神獣じゃなかったのですか?」
三橋なら何か知っていると思ったけど違うのか、今回あった神獣擬きの一件を詳細に伝えた。
「普通の獣が神獣擬きに……それは普通じゃないですね。その件は遠からず愛理さんの仕事に繋がるかもしれません」
「…どうせ正史編纂委員会のじじい共が何かしようとしているとか、それくらいだろ」
当たっていたのか、三橋は苦笑いしながらアクセルを踏み、車を加速させた。透の不機嫌が自分に被害を出さないために。