部屋を閉め切っている障子を蹴破り、部屋の中に押し入る。中には、膝をついた愛理と向かい側に座る女神―――キュベレーとそれに付き従う雌雄の獅子。
雪のように白い肌に身に纏う白いドレス、自然と目がいってしまう大きな胸と肌で感じる母性。それは大地母神としての特性なのかもしれない。
「おい、女神キュベレー。俺の女に気安く触れてんじゃねえぞ!」
叫びながら素早く走る事に特化した魔獣の脚から”魔獣の腕”へと形を変える。
「早い到着だな、神殺しよ」
フフフ、と待っていたものがやってきたと笑いながら指先を俺に向けると、吹っ飛ばした雌雄の獅子が再び、飛び掛かってきた。二匹の攻撃が直撃しないよう体を逸らし、戦いづらい部屋の中ではなく。戦いやすい野外へと逃げる。
数時間前に戦った神獣擬きとは違う。キュベレーによって召喚された正真正銘の神獣。
「「ガガァアアア!!」」
「邪魔だ!ライオン風情が!」
口から覗ける牙と手から伸びる爪を魔獣の腕で防ぎ。素早く殴り返す。
雌の獅子の顎を殴り砕き、バウンドしていき。雄の獅子はその隙に左腕に噛みついてきた。
「っい!ってぇな!」
人生で味わった事のない痛い顔を歪め、服に血が滲み黒く染まる。
腕に噛みついたまま睨んでくる雄の獅子。唸り声を上げながら一層、顎の力を強める。
「痛てぇっつってんだろ!」
右手で雄の獅子の頭を掴み、無理やり顎を左腕から引き離し。無理やり引きはがした雄の獅子の頭を握る潰す。
無理やり引きはがした左腕からはボタボタ、と血が地面に垂れるが、流石はカンピオーネの体。数分で血は止まった。
「『混沌獣』で治癒力が底上げされてて助かった。さて、次はアンタが相手かよキュベレー」
何時の間にか外に出てきているキュベレー。
「神殺し相手に獅子では、やはり足りぬか」
不敵に笑うキュベレーは流石は女神だ、美しく感じてしまう。が、それよりも倒せ、という本能の呼びかけの方が大きい。
「それで、獅子で手札は尽きたのか?」
「そんなわけがないだろうが!」
キュベレーはつま先で地面をコツン!と蹴る。すると、地面から伸びる緑の物体。
太さは人間の腕とほぼ同じサイズ。それが六本。
まるで、意思があるかのようにうねりながら迫りくるそれの正体はツタだ。
キュベレーは大地母神だ。
特に大地、谷や山、壁や砦、自然、野生動物、特にライオンを体現している。つまり、俺の立っているこの地、全てがキュベレーにとって武器となる。
「
蛇の如くうねるツタ。
ステップで躱すと元居た場所はツタによって地面が抉られ、もしも躱さずに居たのなら自分は串刺しになっていたことだろう。
キュベレーに視線を向けると、申し分ない威力に腹立つレベルのいやらしい笑みを浮かべ。再びツタを動かし始めた。
「クソ!再生は早すぎて破壊出来ないのか!」
迫りくるツタを躱しながら、横を移動するツタを爪で引き裂くもやはり植物。細胞分裂でも行われているのか数秒で元の状態に戻る。
その間にも、体を掠めていくツタ。直撃こそないが、地面を抉れる威力があるものをまともに食らえばただでは済まない。
何か手はないか、と案を考えながらツタの攻撃を躱していると動こうとした瞬間体が何かに掴まれる感覚に襲われた。
素早く足元を見ると攻撃を繰り返してきたいてツタとは、別のツタが新たに生み出され俺の足に絡みついていた。
ニヤリ、と笑うキュベレー。
六本のツタが一斉に迫りくる。
魔獣の腕じゃ防げない。
魔獣の脚でも避けれない。
なら……薙ぎ払うだけだ!
ズシャ!ズシャ!ズシャ!
六本のツタが透を突き刺そうと動く。
「透さん!」
部屋の影に隠れて見ていた愛理は叫んだ。いくらカンピオーネだろうと、同族とまつろわぬ神相手には命を落としてしまう危険があるからだ。
「終わりか、神殺しよ。所詮は子だな」
勝利を確信したキュベレーは再び、愛理を眷属にしようと行動を開始したが、キュベレーはあること失念していた―――神殺しが、カンピオーネという存在がどれだけ人間という種族からかけ離れているかという事を。
「殺し合いの最中に、敵から目を離すなんてやっちゃいけないだろ」
「っな!」
ツタが透を攻撃した事で出来た砂煙から飛び出してきた人影はキュベレーの横を通り過ぎると同時に、宙を舞った物がある―――キュベレーの左腕だ。
「っく!剣いや爪と呼ぶべきか」
斬り飛ばされた片腕があった箇所を片手で抑え、俺の手の甲から伸びる剣のように一本の
大半の生き物には爪がある。ライオンやトラ、鷲など爪を生きる為に武器にする生き物が沢山いる。人間は長い歴史の中でその爪を加工することで武器に転用してきた。砥ぐことで切れ味を上げ、削り形を変えることで一層、刃の通りをよくしてきた。俺がやったのはそれだ。
より鋭く。
より固く。
魔獣の腕は打撃に特化している。
魔獣の脚は速度に特化している。
今、作り上げた”魔獣の爪剣は、斬ること。対象を切断することに特化させたものだ。
両手から生えた爪剣を双剣の如く構える。
対するキュベレーは片腕を切り落とされながらも顔を歪めることすらしない。
「よいな、よいな。これ位はしてくれなくては張り合いがないというものだ」
キュベレーは裸足の足で地面を叩くと、六本のツタ以外にも地面が盛り上がり人型が形成していった。
「ゴーレムか」
無骨で人間とは言い難い形が3メートルあるその大きさからなる一撃は。人間など簡単に潰すことだろう。加えて、いくらいくら攻撃しても再生するツタ。
キュベレーにとっての武器は地面に自由に生やす事ができる植物。俺の所持する『混沌獣』という権能ただ一つのみ、だが、俺が自然と笑いがこみ上げてくる。神殺しをなす人間はズレていると言われるが理解できる。なにせ、いま俺は楽しんでいるからだ、このまつろわぬ神との殺し合いを。