かつて、欧州戦において『扶桑の若獅子』と言われた扶桑皇国海軍青年士官が居た。
彼は『ガリア撤退戦』において僅かな人員で数多の難民をブリタニアへ送り届け、その最中にもネウロイとの戦闘で負傷を負ったウィッチを幾人も助け、更に……魔法力が無いにも関わらず飛行型ネウロイ3機、地上型ネウロイ2体の計5体を単独で撃破する戦果を挙げる。(本人は無我夢中だった…と語る)
そんな青年士官はガリア撤退戦終結後、忽然と姿を消した……その青年士官は数ヶ月後、祖国扶桑皇国へと帰還していた。
しかも、意図的にその青年士官の報道は避けられ、主戦場が北アフリカ・地中海方面に移り変わると共に大半の人間の記憶から忘れ去られた。
そして、その青年士官は本土での勤務が決定し、広報課の窓際へ追いやられていた……本人は文句も言わずテキパキと仕事をこなし、表舞台に立つ事などあり得ぬ筈……だった。
だが……ブリタニアから伝わった、ある『噂』が彼を再び、克つ強制的に表舞台へと立つ事を決めてしまったのであった。
1944年 扶桑皇国 首都東京 海軍省広報課窓際の席
上官
「少尉、最近のヨーロッパの詳細報告は…」
「右の上から二番目の棚に纏めて置いてあります」
そう言って窓際席の大塚洋平(おおつかようへい)少尉は再び欧州・アフリカ方面からの報告の整理を続ける。
だが……この大塚少尉は他の周りの士官とは全く違う。
周りの士官との空気も違えば、感じも違う……大塚少尉だけ、戦場から帰って来た雰囲気だ。
しかも……周りに比べて若い。だが、醸し出す雰囲気から少尉である事に疑問すら抱く所だ。
しかし、本人はそんな空気の違いなど気にせず、山と積まれた書類や報告書を処理し、整理し、纏めていく。
その山が消え、大塚が一息吐いた時、広報課の扉が開く。
「洋平…ちょうどよかった、少し付き合え」
現れたのは元ウィッチで洋平の姉の大塚真姫(まき)大佐だった。
大塚
「えっ? 真姫姉さん…たしか、横須賀…」
大塚(真姫)
「細かい事はいいから、早く来い」
そう言うと真姫は洋平の首根っこを掴むと引き摺る様に広報課から引っ張り出した。
そして……同僚も上官も一連の事態をポカーンと見ていた。
とある一室
大塚(真姫)
「高野軍令部総長。失礼します」
「あぁ、待っていたよ、大塚大佐」
洋平を引っ張って連れて来た先には……現扶桑皇国海軍軍令部総長にして、扶桑皇国海軍ウィッチ隊結成の第一人者である高野五十六大将だった。
大塚
「……姉さん…どうゆう事…これ?」
大塚(真姫)
「高野総長がお前を呼んでいたんだ」
高野
「うむ、君の弟があの『扶桑の若獅子』と言われた人間だからね」
大塚
「……閣下、その渾名はちょっと…」
高野
「ほう…いいなかね? 君の一件を無理矢理出してヒューゴ・ダウディング大将を辞任に追い込んだトレヴァー・マロニー大将の事だよ?」
その名前を聞いた大塚は暫し考えて言った。
大塚
「……少しだけなら、お話を聞きましょう」
高野
「君は501航空隊を知っているな?」
大塚
「カールスラント・ガリア撤退後、欧州唯一の抵抗拠点であるブリタニアを守るウィッチ隊…隊名称は『ストライクウィッチーズ』。隊章は空飛ぶ箒によって作られた星…だったと記憶していますが…」
高野
「ほう…窓際に座らされても、情報収集は欠かしておらんな」
大塚
「勝手に入ってくるだけです……それでストライクウィッチーズとマロニー大将に何の繋がりが? 大将はどちらと言うと、501を毛嫌いしていた筈ですが…」
高野
「本当に勝手に入ってくるだけかな? まあ、いい。そこまで知っているなら話は早い。どうやら、マロニー大将は裏でウィッチに代わる新戦力を開発中…との噂が真しやかに流れている」
大塚
「新戦力ですか…まさか、501がそれに協力している…と仰るわけですか?」
高野
「いや、どちらかと言うと反対だ。その新戦力を出す為には、既存の501が邪魔で仕方ない。まあ、何処まで進んでいるかは解らない。よって、君にはブリタニアの501に赴任してもらい、それを探って欲しい」
大塚
「………えっ、ちょっと待って下さい。探って欲しいのは解りました。ですが、なんでそれがマロニー大将に毛嫌いされている501に赴任なんですか?」
高野
「その1、君を赴任させても何の問題も無い。その2、正体を隠し易い。その3、理由なんて幾らでも作れる。その4、近々501に新人が配属されるから…以上だ」
大塚(真姫)
「なお、配属される新人をスカウトしに来たのは坂本だ」
今まで黙っていた姉の真姫が補足を入れるかの様に言った。
大塚
「坂本美緒少佐ですか…なら、自分や真姫姉さんと顔見知りですから……ですが、怪しまれませんか?」
高野
「大丈夫だ。それを解って君を選んだのだからな。501での君の身分は『ウィッチ達のサポートの為に派遣された士官』と言ったところだ」
大塚
「主計科や医学科を混ぜた様な立場ですね……本当にそれで大丈夫なんですか?」
高野
「先程も言っただろう。君だからこそ、選んだのだよ。なお、階級は大尉に昇格。だが、権限は少佐並みにしておく」
大塚
「……死んだ時の二階級昇格では無いですよね?」
高野
「もちろん、違うぞ。なお、マロニー大将の新戦力開発の噂が本当ならば…」
大塚
「まさか、阻止しろ…なんて言いませんよね? 1人で出来る事は限られている上に、バレたら国際問題…ネウロイとの共同戦線にヒビを入れる様な物ですよ?」
高野
「はっはっは、そこまでは言わんよ。だが、もし、我が扶桑皇国の人員、並びに装備へ危害が及んだ場合は……容赦は要らん、マロニー大将を射殺しても構わん」
大塚
「………ある種の捨て駒ですね」
高野
「大丈夫だ。そんな事になればブリタニア側も色々と隠そうとするだろう。その時に上手く救い出す」
大塚
「……期待はしておきません。ですが、任務は了解しました」
高野
「うむ。後は君のお姉さん…大塚真姫大佐に聞いてくれ。では、頼んだよ」
そう言って高野大将は部屋から出て行った。
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