強キャラ物間くん。   作:ささやく狂人

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雄英体育祭編
プロローグ


時は雄英体育祭前。

 

雄英高校の職員室では、一人の男が、隣に座る男に分厚めの冊子を手渡ししていた。

 

「ほら、頼まれてたやつだ。で、なんでまた俺のクラスの名簿を?」

 

「悪いな」

 

1人は一年B組担任、管赤慈郎(かんせきじろう)。屈強な体格と、個性《操血》を持つ教師兼プロヒーロー。ヒーロー名“ブラドキング”。

 

「ついさっき、マイクに体育祭の実況の補助を頼まれてな。勿論断ったが。…まぁ、念のためだ」

 

もう1人は一年A組担任、相澤消太。個性《抹消》を持つ抹消系ヒーロー。ヒーロー名は“イレイザーヘッド”。

 

相澤の言葉を聞いた菅は、得心がいったように頷く。

 

「なるほど。B組について無知では実況する時に苦労するな」

 

「話が早くて助かる」

 

気怠そうな声で言葉を返しながら、相澤は受け取った冊子に目を通す。

 

「大体の事はこれにまとめてある。あとは俺の説明でも聞いていくか?」

 

受け取った紙にざっと目を通すと、顔写真付きで入学以降の印象や助言のメモがされている。また、“個性把握テスト”の結果やオールマイト担当の“戦闘訓練”の結果や感想付きだ。

 

「…相変わらずマメだな」

 

「テキトーなお前よりはマシだろう、イレイザー」

 

顔と鍛え上げられた筋肉に似合わないこの几帳面な性格は、毎年意外に思う。お互い、今日の分の業務は粗方片付けている。管に付き合ってやる時間はある。

 

「まず出席番号1番の男子。泡瀬洋雪(あわせようせつ)からだな。《溶接》は直接戦闘能力には乏しいがーーー」

 

自分の受け持つ生徒を得意げに話す管を見ながら、相澤は呆れる。受け持ってまだ日が浅いというのに、かなり入れ込んでいる様子が見て取れる。ただ、相澤もその気持ちが理解できないわけでもなかった、特に今回のクラスでは。

 

「………はぁ」

 

手短に頼む、という言葉を飲み込み、管のクラス愛に付き合うことに決めた。

 

 

 

 

 

「…………」

 

予想以上に一人一人の話が長く、ウンザリとした顔を浮かべ始めた相澤に構わず、菅は話を進めていく。

 

「ーーーー今後はこの大柄な体格を活かせるように鍛えさせる予定だ。さて…次は、18番だな」

 

相澤は渡されたプリントを1枚めくり、出席番号18番の少年についてのメモに目を通す。

 

「…ふむ」

 

出席番号18番、物間寧人。個性:《コピー》

触れた者の個性を5分間使い放題にできる個性。

 

ユニークな個性を持っているな、というのが第一印象だった。仕事柄、多種多様な個性を目にする相澤にとっても興味深い“個性”。

 

「初のヒーロー講義学…戦闘訓練で圧勝…か。個性把握テストの結果も中々だな」

 

“推薦入学者に引けを取らない程の実力者”というメモを見ながら、相澤は聞く。生徒は贔屓無しに厳しく接する“愛のムチ”のような教育方針の菅にとっては珍しいメモ書きだ。少なくとも、ここまでの評価を得ている生徒はこれまでの17人の中にはいなかった。

 

「随分とお気に入りなんだな?」

 

「優秀過ぎて困っているくらいだ」

 

困ったような、嬉しいような顔を浮かべ、嫌味を言うように、菅は相澤に続ける。

 

「入学式の日は()()()首席の爆豪君がいなくて、新入生代表の挨拶には困ったがな。()()の彼が代わりにスピーチしてくれたよ、まったく」

 

「…そいつは感謝しないとな」

 

軽く受け流すように、言葉を返す相澤。

 

“個性把握テスト”を入学式の日に決行したせいで、軽いお小言を言われるのは仕方ない事だろう、と自分を納得させ、(くだん)の物間についての話の続きを促す。

 

「中々に柔軟な生徒でな。協調性に乏しい点はあるが、状況を見極める力に長けている。その上“個性の扱い方”がかなり上手い」

 

「…“個性(コピー)の扱い方”か。どんな個性をコピーするべきか判断できる、って事か?」

 

「それもあるが…。まぁ、これに関しては実際の場面を見てもらうべきだな。俺の口からでは説明が難しい。それに…」

 

“実際の場面”…管が言っているのは雄英体育祭の事だろう。そう判断しながら、相澤は管に続きを促す。

 

「それに?」

「少々不思議に思う点もあってな。個性の使用中、新たな発見をしたように目を輝かせることが多いんだ。まるで──」

 

「────個性発現から間もない幼児、か」

 

「発現自体は、5歳に確認されているから、珍しいな、と思ってな」

 

「《個性》は上手く扱えていて、むしろ優秀、と。なら問題ないだろ」

 

物間寧人のこれまでの好成績を確認しながら、管にそう返す。俺の言葉に疲れたニュアンスが含んでることにでも気づいたのか、管は一瞬首を傾げ、すぐに答えにたどり着いた。

 

「あぁ、そういえばお前のクラスだったな。個性の発現が最近だった、珍しい生徒。確か名前は──緑谷出久、だったか。どうなんだ?彼の様子は」

 

「ま、先は遠そうだな。力の使い方に長けてるこの生徒とは真逆だ」

 

「はは、てことは、物間と気が合うかもしれんな。お前とマイクの凹凸コンビみたいに、な」

 

「…そうだな。不思議と俺も、そんな気がするよ」

 

そんな適当な答えを返しながら、次の生徒の説明に入ってもらうため、物間寧人のページを捲った。

 

 


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