強キャラ物間くん。   作:ささやく狂人

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気長に待ちますか。

「ーーーーワタシがメダルを持って来た!!!」

 

そんな声と同時に歓声があがる。お待ちかね、オールマイトの登場だ。閉会式のメダル授与が始まった。

 

オールマイトはそのまま3位と書かれた台の上にいる塩崎と轟に向かって口を開いた。

 

「塩崎少女おめでとう、君は強いな。戦いの中で成長するその姿、素晴らしかったぞ!」

 

「身に余るお言葉…光栄です。私は、級友(クラスメイト)の背を追いかけているだけですが」

 

「ハハハ!君は謙虚だな!」

 

塩崎と話しながら僕の方に一瞬目を向けるオールマイト。勿論それには付き合わない。塩崎との軽いハグを終え、次は同率3位の轟焦凍へ。

 

「おめでとう轟少年、保健室の時も思ったが以前よりもいい顔をしている。エンデヴァーも困惑してたぞ!何か、心境の変化があったのかい?」

 

轟はまっすぐオールマイトの目を見て呟いた。

 

「あなたのようなヒーローになりたかった。それを思い出しました。清算しなきゃならないモノはまだあるけど……この事に気づけただけでも、大きな一歩だと思っています」

 

「うん…やっぱり良い顔だ。深くは聞くまいよ。今の君ならきっと清算できる」

 

そう言って、轟とも軽いハグをした。筋肉が暖かそうだ。

 

「…そして、爆豪少年。開会式の宣誓通りには、惜しくもならなかったな!…にしても、意外だな。もっと暴れ狂うモノだと思ってたぞ!」

 

さも意外かのようにオールマイトが冗談を言うが、僕も同様に驚いている。野蛮かつ粗野の爆豪の事なので、表彰台ではあらゆる拘束具で暴走を抑える必要もあると思っていたのだが。

 

予想と反し、爆豪は静かだった。無言で、自分の負けを受け入れていた。

 

「…いらねぇ」

「おや?」

 

「二位のメダルなんか貰えるか!!俺は一位にしか興味ねぇんだよ!!」

 

「…負けは認めるが、二位は認められない…って事かな?ハハ、エゴイズムの塊だな!勿論、良い意味でな!…だがメダルは受け取っとけよ。自分の傷として!決して忘れぬよう」

 

「だからいらねーって!」

 

結局抵抗を続ける爆豪に、オールマイトは強引にメダルを受け渡し、優しく抱擁する。

 

…そして、僕の元へ。

 

「やぁ、物間少年。調子はどうだい?」

 

「…まぁ、立てるくらいには」

 

それもギリギリだけど、何とか。そう答えて、僕の首元にもメダルがかけられる。一位の、金メダルだ。

 

「どんな状況でも諦めないその強さ。トップヒーローには欠かせない要素の一つだ。これからも大事にしていけよ!…勿論、自分の身体もな!」

 

心配…してくれていたのだろう。目に見えてわかりにくいが、身体に負担のかかる大技を連発していたからなぁ。やはり、オールマイト程の猛者にはわかるのだろう。

 

僕は頷いて、その言葉に応じる。

 

「なんか、君も意外と大人しいな。…そういえば、いつものセクハラも今回は無いのかい?ワタシとしてはもう大丈夫なのだが…」

 

何故か先程よりも心配そうな表情を浮かべるオールマイト。セクハラとは心外だ、ただ会う度に身体のどこかに触れようとしただけじゃないか。

 

…ところで。もう大丈夫、とは何が大丈夫なのだろうか。少し疑問に思ったが、僕は質問に答える。

 

「もう当分オールマイトの《個性》は嗅ぎ回りませんよ、安心して下さい」

 

なんせ、僕の《コピー》が警報を鳴らしているのだ。今じゃない、と。当然僕は《個性》を信じる。

 

これは僕の予想だが、緑谷の《個性》に対してもこんな反応になるだろう。

 

それに、No.2の《個性》に苦戦していたようじゃ、No.1の《個性》に軽々しく挑戦しようとは言えない。当分は《コピー》の研究と、自分自身の鍛錬に集中するつもりだ。

 

「そ、そうなのかい?なんだか、触ろうとしてくれないのも、少し寂しいな…?」

 

変な感覚に陥っているオールマイトに引いていると、下の段から怒ったような声が届く。拗ねているのだろうか。可愛い奴め。

 

「おいオールマイト!コピー野郎との話だけ長えんじゃねぇのか!」

「うるさいなぁ。黙って見下ろされてなよ、僕に」

「ンだと…!殺すぞボケ!」

「君、いつか本当に爆豪少年に殺されそうだなぁ…!」

 

勝ちは勝ちだ。どんな試合内容であろうとも。

 

ヒヤヒヤしているオールマイトは僕にも優しい抱擁をして、観客に向かって告げる。まとめの言葉だ。

 

『今回の勝者は彼らだった!しかし皆さん!この場の誰にもここに立つ可能性はあった!』

 

『競い、高め合い、さらに先へと登っていくその姿!次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!』

 

『てな感じで最後に一言!皆さんご唱和下さい!せーのっ!…“お疲れ様でした”!…あれっ!?』

 

期待していたものとは違った観客からブーイングが起こるが、僕は当分“更に向こうへ(プルスウルトラ)”はしたくない。身体を大事にすると決めたばかりだし。

 

というわけで、お疲れ、自分。

 

そんなふうに自分を労っていると、僕より一段下にいる爆豪が声をかけて来た。一段下、これが重要だ。

 

「おいコピー野郎。あの技の名前教えろ」

「あの技って…最後のやつかい?なんで?」

「アレはお前が考案した技だろうが!名前くらい聞いてやるっつのボケ!」

「へぇ」

 

発案者の僕の技名を引き継ぐって事か。なんだ、意外と律儀というか芯が通っているというか。感心しながら、僕は技名を告げる。

 

「“ニトロ爆弾爆弾(ボムボム)フェスティバル2020”」

「ダサすぎんだろ!?却下だクソが!」

 

当たり前だ。僕が名前を真剣に考えるのは自分の技とB組の《個性》だけだ。爆豪の技なんてこれくらいで丁度いい。ダサい技を使えばいいのだ。

 

「いいや、ダメだね。結構汎用性は高いあの技は、“ニトロ爆弾爆弾フェスティバル2020”だ。これは譲れない」

「これ以上連呼すんじゃねぇ!俺が新しく名をつけてやる!」

 

そう頭を掻きむしりながら発狂する爆豪。

 

ニトロの“手汗”を轟の炎で発火させるなんて合わせ技(コンビネーション)もできるのだ、汎用性は高い。いつか、“ニトロ爆弾爆弾フェスティバル2020”でヴィランを倒すなんて機会も訪れるかもしれない。

 

そういう時はこの技名をしっかり宣言して欲しいものだ。

 

僕と爆豪のそんな言い争いの内に閉会式も終わり、体育祭は幕を閉じた。

 

 

⭐︎

 

 

「あの、物間くん!」

「…緑谷、くん?」

 

ブラド先生からの有難い解散の言葉を受け取った僕は、B組20人という大所帯で帰路につこうとしていた。実際は家に帰らず、どこかで打ち上げをするようだが。薄々感じていたけど仲良いよなぁ、このクラス。

 

そんな感じで雄英の敷地内を出ようとした時、A組の緑谷に声をかけられた。僕は目を細める。

 

何の用だろうか。僕はB組の面々に手を振って先に行けと促す。

 

残ったのは僕と緑谷のみ。

 

「き、急にごめんね!気を遣わせちゃって…。あ、優勝、おめでとう!」

 

少し申し訳なさそうだが、屈託のない笑みで僕の優勝を祝ってくれている緑谷。勿論それは有り難く受け取る。

 

「ありがとう。…それで、僕に何か用だった?」

 

「…うん。あの、物間君って、《個性》の使い方が上手いよね?初めて使う《ヘルフレイム》でも、“プロミネンスバーン”使ってたし…!かっちゃんの《爆破》の空中移動は上手く出力を調整しないとバランスが取れないから…!」

 

あぁ、うん。なんかどこかで見た事がある光景だ。僕と同じ匂いがする。拳藤達の気持ちが少し分かった気がする。

 

自分の話にのめり込んだ人は簡単には戻ってこないので、拳藤直伝のチョップで意識を戻させる。

 

「…それで、用は?」

 

「あ、うん。…その、僕の《個性》をどうすればいいか考えて欲しいんだ!見ての通り、まだ制御出来てなくて…」

 

「ーーーーなんだ。そんな事か」

 

「…へ?」

 

体育祭が終わってすぐの質問は、“強くなりたい”という気持ちが表れている証拠だろう。充分に伝わった。

 

ふむ。“自身を壊す程の超パワー”の悩みか。それを解決する方法は思いついていた。…が、1から100まで教えるのは彼の為にもならない。というわけでヒントだけ。

 

「僕と切島君の戦いを思い返すといいよ。彼に聞くのもアリだろうね」

 

「…へ?…いや、そうか。“一点鋼化”…。その()だ。参考にすべきは切島君や鉄哲君の方だ…!」

 

…気付くのが早すぎないか?というより、緑谷は頭の回転が僕と同じくらい速そうだ。

 

僕は正直、自分のことを賢い方だと思っている。それは成績の話ではなく考える力の話だ。《無個性》なりにどうにかしよう、という10年近くの特訓の成果だろう。まず考える癖がついている。そんな僕と緑谷は似ている。

 

…ふむ。この考えも、僕の仮説を後押しする。緑谷出久とオールマイトの《個性》についての仮説を。

 

こうして緑谷と話している間にも、僕の《コピー》は警報を鳴らしている。オールマイトへの対応と同じ…いやそれどころか。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ーーーー《個性》は“人生”。僕は口の中で反芻する。

 

…まぁ、当分僕は彼らの《個性》には関わらずに生きていくのだ。いつかは《コピー》する事になるだろうが、それは今じゃない。

 

だから、ぶつぶつと自分の話に熱中している緑谷にも興味はないし、彼の“新技”についても興味はない。ヒントを与えただけの僕に、ダサい名前をつける権利はない。残念。

 

「……行くか」

 

緑谷の用も終わったので、僕はバリアフリーを存分に考慮された雄英の校門をくぐる。

 

「よっ」

 

そこには、先に行った筈の拳藤が居た。僕を待ってくれていたのだろう。手を軽く挙げて感謝し、僕ら2人は歩き出す。そろそろ夕方だ、オレンジ色の夕陽が顔を出す。

 

「打ち上げ、駅前のカラオケでやるってさ。…物間は疲れてるし、行かなくてもいいと思うけど…」

「いや行くよ」

 

馴れ合いはそこまで好きじゃない、けど、嫌いでもないのだ。そしてB組の事は好きな方だ。なら、答えは決まっている。

 

こうして拳藤と話していると、障害物競走の時の会話を思い出す。

 

「…まさか、ホントに優勝するとはね。B組の為に」

「はは。信じてなかったのか?」

 

A組に対する不満が溜まっていたB組の為に、勝ち星をここであげときたかった。僕1人の優勝とはいえ、確かにB組はA組を上回った。

 

これで少しはB組の溜飲も下がるだろう。そういう思惑も、確かにあった。

 

B組といえば、僕と塩崎がメダルと共に表彰式から帰って来た時。

 

「…そういえば皆、僕の優勝に対する祝福が少なくなかったかい?塩崎ばかり褒めてたけど」

「あ、気付いた?」

 

悪戯がバレたような顔をしながら、拳藤が控えめに笑う。はて、ホームランを打った選手を祝わない野球のアレだろうか、名前は忘れた。

 

けど、どうやら違ったらしい。

 

「試合中はね、凄かったんだよ皆。喉大丈夫か、ってくらい応援してて」

「…ならどうしてカラオケに行くのか」

 

そんな僕の小さな疑問は無視し、拳藤は呟く。

 

「けど試合が終わったら、さ。パッと見普通なんだけど、よく見たら落ち込んでたんだよね、皆」

「……?」

 

どういう事だろう。僕の想定では、B組は皆僕の勝利を喜んでくれると思ったのだが。

 

「それで唯に聞いたらさ、“…悔しいな”って言ったんだよ。しかも、あの唯が少しだけ悔しそうな顔で!」

 

小大唯。拳藤と仲のいい女子の1人で、《個性》は《サイズ》。彼女の特徴といえば、あまり感情を表に出さず無口な所だろう。そんな彼女が、か。

 

「…………なるほど」

 

つまり、皆のあの妙に口数が少ない様子はーー。

 

「皆、物間との差を感じちゃって、落ち込んでたんだよね」

 

A組の八百万、切島、轟、爆豪。ボロボロだったが、仮にも全勝した僕の姿はそんな風に見えていたのか。少し驚く。

 

「…でも、もう()()、と」

「…うん」

 

落ち込んで()彼女らは、もう前を向いている。自分の弱さを受け入れ、僕に対して“悔しい”という感情を持つ。

 

ーーー僕を“ライバル”と認識し、奮起する。

 

「…はは」

 

僕は…いや。僕と拳藤は勘違いをしていた。

 

B組の殆どを弱いと断じて、ここで僕が手を差し伸ばさなければ、と。

 

けど、そんな必要は無かったんだ。

 

僕が手を差し伸ばさずとも、彼ら彼女ら高め合う。ここにいるのはヒーローの卵達だ。

 

勝手に火を付け合って、勝手に成長する。僕の手助けなんて特に必要としていなかった。

 

「…仮に、の話だけどさ。もし物間が爆豪に負けても、多分皆…」

「うん。ーーー爆豪をライバルと思って、また明日から頑張るだろうね」

 

そのライバルという存在が、僕になっただけ。僕と拳藤の心配は、全くの杞憂だったのだ。

 

まぁ、“もし”とか“仮に”なんて話はどうでもいいか。大事なのは今、今日という日が、無事ハッピーエンドを迎えた事だ。

 

「…で、拳藤も悔しいのかい?」

「そりゃあ勿論。当分は物間を超えるのが目標だよ」

「時間を無駄にするのは感心しないなぁ」

「ははっ、言うねぇ。でもまぁ、強くなりたいよ、私も。今日の評価次第で、職場体験(インターン)も決まるからさ」

 

プロヒーローに目をつけられ有名事務所で職場体験出来れば、必ず力になるだろう。

 

そうだなぁ…拳藤の《大拳》はパワー型の《個性》だし、フォースカインドの所とか良いんじゃないだろうか。あそこは切島や鉄哲も好きそうだし、友達がいれば楽だろう。そうだな、あとはーーー。

 

「ーーーーだから、負けないよ。物間!」

 

そんな事を考えながら歩く僕に向かって、拳藤が笑う。屈託のない、純粋な笑顔。一瞬、言葉を失った。

 

前の方で、B組の面々が見えた。僕らが合流しやすい様にゆっくり歩いていたのだろう。拳藤がその様子を見つけて、合流する為に小走りになる。

 

僕は拳藤の背中を見ながら、ぼんやりと思う。視界が、夕陽でオレンジに染まる。綺麗だった。

 

ーーーーそうだな、あとは。ウワバミさんの所とか、いいんじゃないか?

 

そんな事を考えながら、僕はB組の背中を見ていた。

 

 

⭐︎

 

 

ここからは後日談。体育祭以降、僕の生活で変化した事がいくつかある。それを紹介していこう。

 

まず一つ目。

 

「お、君、見たよ体育祭!エンデヴァーと仲良いんだな、アツかったよあの戦いは!優勝おめでとう!」

「がんばってね!ヒーローの卵、期待してるよ!」

「将来はエンデヴァーの相棒(サイドキック)か?」

 

こんな感じで、通学中に見知らぬ人に声をかけられる事が多くなった。正直に言うと悪くない気分だ。エンデヴァーと仲が良いと思われるのは少し嫌だけど。ごめんな、《ヘルフレイム》。

 

そして二つ目。僕はつい昨日の会話を思い出す。

 

『…ダメだ。悪いが俺はそこまで暇じゃないんでな』

『えぇ…。放課後の空いた時間だけでいいんです。僕なら1ヶ月もあれば大体出来るようになりますよ?()()()()()

『…お前なら本当に出来そうで怖いな』

 

これは職員室での僕と相澤先生の会話だ。僕はイレイザーヘッドのサポートアイテム、“捕縛布”の技術(スキル)を得る為、教えを乞うていた。

 

自分でも見様見真似で“真似(コピー)”しようと思ったのだが、やはりプロヒーローの技術は難しい。一筋縄では行かないと判断した僕は、直接指導してもらう事にしたのだ。

 

のにも関わらず、断られてしまった。

 

『…悪いが、()()がいるんだ。そいつへの指導がひと段落したら、お前にも教えるから。今は我慢してくれ』

『先約?じゃあ、その人と一緒に僕にも伝授して下さいよ』

 

誰の先約かは知らないが、まとめて同時に教えてもらえれば万事解決だろう。

 

『…はぁ。そいつは“普通科”なんだ。ヒーロー科とのカリキュラムの兼ね合いで、お前と同時は難しい。言っただろう、俺は暇じゃないんだ』

 

『…成る程。学科の違うそれぞれに教えるのは、()()()じゃない』

 

『そういう事だ。今回は諦めてくれ』

 

という会話を経て、不本意だが納得はした僕は引き下がった。

 

それにしても、“普通科”の男子か。イレイザーの“捕縛布”を扱うというのは常人には難しい。だって僕ですら難しいのだ。相応の覚悟がないと会得はできないだろう。

 

…そんな物好きが僕以外にこの高校にいるとは、不思議な事もあるもんだ。イレイザーの“捕縛布”講座はもう少し後になりそうだ。

 

「………ま、気長に待ちますか」

 

“捕縛布”も、彼も。

 

そんな昨日の事を思い返しながら、僕は体操服に着替えた。

 

最近妙に熱が入っていて、僕が狙われる事が多くなったB組の戦闘訓練に向かいながら。

 

ーーー僕はいつも通り、今日も勝つ為の作戦を考えていた。

 




これにて体育祭編、もとい《ヘルフレイム》編は終了です。

章ごとに同調で関わる《個性》もあるので、そこにも注目してくれると嬉しいですね。

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