強キャラ物間くん。   作:ささやく狂人

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奪りにいこう

雄英体育祭。

 

一見単なる運動会のような平和的行事に思えるが、そこらの行事とはまず規模が違う。

 

テレビ中継は当たり前。主に活躍するのがヒーロー科という事もあり、プロヒーローがスカウト目的で大勢観戦に来る。そんなプロたちにスカウトしてもらうため、僕ら可愛い生徒は必死にアピールする。例え将来有望な《個性》であっても認知されてなければ意味がない。全国規模での貴重なアピールチャンス、それが雄英体育祭だ。

 

そして今日は、その体育祭当日。

 

体育祭では義務化される体操服に着替え、僕はB組の集まる控え室まで移動する。もうみんな集まっている頃だろうか。つい時間ギリギリまで暇を潰してしまった事もあり、少し焦って小走りになる。

 

「ラストチャンスに懸ける熱と経験値から成る戦略とかで、例年メインは3年ステージだけど」

「今年に限っちゃ1年ステージ大注目だな」

 

「ねえ知ってる?今年の1年の中にエンデヴァーの息子がいるって」

「うっそマジで!?」

 

観客席へ向かう人混みをうまく避け、僕は控え室に向かう。思わず吐いてしまったため息は、A組目当ての声にかき消された。

 

「…どうしたもんかね、こりゃ」

 

状況は決して良いとは言えない。

 

 

 

 

「共同戦線?」

 

「あー…まぁそんな感じ。ほら、全員ライバルとかじゃなく、B組として勝つって感じでさ、サポートし合いながら」

 

B組クラス委員長、拳藤の提案に困惑の表情を浮かべる面々。控え室の隅で座る僕の視界には、殆どの人の表情を見渡せる。

 

そりゃそうだ。今日という日がヒーロー科にとってどれだけ重要か、わからない拳藤では無いだろう。

 

言い方は悪いが、他人を蹴落としてでも、プロヒーローへの道を切り開く。注目度でA組に劣っている分、アピールは人一倍頑張らないといけない。B組にとって、そういう行事になってしまっている。みんなで協力して。個人が埋もれてしまっては本末転倒だろう。

 

僕はみんなの様子を慎重に伺いながら口を開く。

 

「いいんじゃないかな。終盤はともかく、学年一つでもかなりの人数だ。予選でドジって落ちる可能性は、割とあるんじゃない?」

 

なんせ1学年だけでも普通科、サポート科と合わせて数百人だ。予選で150人ほどが失格となると見積もっても、その多数に自分は入らないと断言しにくいだろう。

当然これは序盤の話、勝ち進んでいくとまた話は変わっていくだろうが。安全に勝ち進むためには、この共同戦線は悪くない案だ。

 

「…成程。一理ある。仲間など必要ないが、利用するのも勝利の闇の手段。新生の未来へと希望を託すために」

 

僕の意図を汲み取ってくれたのか、言葉を返してくれた少年が1人。いや、本当にわかってるのかは不明。むしろ彼の言っていることがわからない。

 

「ま、そんな感じだよ、黒色(くろいろ)

 

「フム、面白い」

 

出席番号4番、黒色支配(くろいろしはい)。個性《(ブラック)》は、黒いものに溶け込むことができる。黒いものの中であれば自由に移動が可能であり、溶け込んだものが動かせるものであれば支配できる。真っ黒な肌と無造作な白髪、二重瞼が特徴的な少年だ。ちょっとだけ日常会話に不便な点はあるけど、かなり強力な《個性》を持っていることは確認済みだ。

 

 

黒色の賛成の言葉で、困惑していたB組の面々は、徐々に拳藤の案を肯定していく。元々、1人1人が気負いすぎなのだ。全員で協力となれば、少し気持ちも楽になる。拳藤の案を受け入れることで、プレッシャーも和らぐことだろう。

 

「まぁ、いいんじゃね?」

「心強いしね〜」

 

そんな面々の言葉を聞き、拳藤は深々と頭を下げる。その時、チラッと僕に目を向けたが、そっぽを向いて気づかないフリをしておく。

 

「…みんな、ありがと!みんなで勝ち残って、ブラド先生を喜ばせよう!」

 

うんうん、下手したら泣くんじゃないかな、あの人。今のとこ生徒の前では強面厳格教師を保ってるけど、もうすぐボロがでてきそうだな、と思い始めている今日この頃。

 

拳藤の感謝の言葉を受け取り、誰かの「そろそろ時間だ」という言葉を皮切りに、立ち上がる。

 

これでB組同士が対立して、余計な被害が出る事は無いだろう。つまり、“B組全体の勝利”にまた一歩近づいたと言える。いやぁ、よかったよかった。

そろそろ入場だ。控え室から出て、僕らB組は廊下で整列する。僕も並ぼうとしたところで、あの、と1人の女子に声をかけられた。

 

「ん、どうしたの?」

 

「…申し訳ありませんが、(わたくし)()()()()()()には賛成しかねます」

 

クラス全員の“賛成”という良い雰囲気を壊したく無いのか、秘密を打ち明ける様な小声で彼女は言う。

 

「…そっか。まぁそれは仕方ないよ、本来そーいう行事だからさ、塩崎」

 

 

出席番号8番、塩崎茨(しおざきいばら)。個性《ツル》髪の毛から生えているイバラのツルを操ることができる個性。

戦闘訓練時でも圧倒的な強さを見せつけ、入試でも4位という実力者。高い制圧力をもつ強力な個性と、誰に対しても慇懃な態度が特徴だ。

 

そんな事を整理しながら、僕は塩崎に続ける。

 

「ところで、なんで僕に言うのかな?僕から拳藤に言えって?」

 

「ええ、しっかりと発案者の方にお伝えしておこうと思いまして」

 

どうやら確信を持っている様で、僕は肩をすくめる。そこまで誤魔化す事でも無いので、あっさりと認める。

 

「まぁ、そうだけどさ。気づいた理由は?」

 

「慧眼な拳藤さんは最近のクラスの雰囲気の悪さに気づいておいででした。そこを考慮してこの案を出したのは納得できる話ですが…」

 

その通り。拳藤は気づいていた。B組全体がA組に勝つ、それがクラスにとって最も必要な事だと。自信を失わせない、最高の手段だと。

 

そんな拳藤を少し騙して、僕はこの案を提案させた。

 

「…物間さんに利益が多すぎると思ったのです。その…個性上」

 

ご明察。

 

僕の個性《コピー》はその名の通り、他者の個性をコピーする。つまり、他者がいないと只の無個性に成り下がる。

 

そして今、B組が協力する、という案が採用された以上僕は19の個性を得たと言える。

 

勿論こんな事せずとも、“個性を借りる”事くらい受け入れてくれたかもしれない。でも、B組の皆には重圧(プレッシャー)がある。

A組に劣っているという評価、世間からの注目度の低さ。クラスメイトに力を貸すつもりはないという考えに至ってもおかしくない、ある意味それが普通だ。

それらを考慮した結果、皆に前もって提案した方が、僕としては動きやすい。

 

僕の思惑の大体を見透かしている塩崎の言及に、僕は苦笑する。

 

「立場的に、僕から提案したら不満が出るかもしれないからね。切羽詰まってる拳藤を騙したのは悪いと思ってるけど…委員長の話のほうが耳を貸してくれそうでね」

 

「いいえ、責めている訳では御座いません。物間さんが提案すると、個性もあってより一層胡散臭く思えますから」

 

「今、個性抜きにしても胡散臭いって言わなかった?怒ってない?」

 

僕の言及に塩崎はいえいえ、と小さく笑って言う。

 

「決して悪い提案じゃありませんから。ただ貴方が大きく得をするだけで」

 

「へぇ、じゃあこの案に乗っかってみてもいいんじゃない?」

 

「いえ、それはないですね───貴方の得は、私にとって大きな損になってしまうので」

 

「……」

 

そう言い切る塩崎に、僕は一瞬黙り込む。

 

「どうやら、嫌われているわけじゃなさそうだね」

 

「…では、これで」

 

 

会話を切り上げた塩崎は小さくお辞儀し、前の方の列に加ろうとする。ちょっと待った、と僕は塩崎を呼び止め最後に小声で聞く。

 

「ちなみに、塩崎と同じように反対派は?」

 

「鉄哲さんと骨抜さんは同じ考えのようです、私が聞いた限り、ですが」

 

出席番号16番 骨抜柔造(ほねぬきじゅうぞう)

個性《軟化》触れたあらゆるものを柔らかくすることができる。生物は柔らかくすることができない。

 

そんな彼は天下の雄英に4人しかいない推薦入学生だ。かなりの実力者な事は周知の事実。

 

そしてもう一人鉄哲。

「運動会じゃねぇんだし、やりたい様にやるだけだ!」的な事でアツくなる彼を思い浮かべて、苦笑する。

 

戦いの時は対立し、仲間の時は協力する、そこの区別をつける程の単純さを持つ彼にとって、僕の提案は肯定できなかったのだろう。

 

塩崎が前の方へ並びに行くのを見送り、僕も列に入る。

 

すぐに入場の時間を迎え、僕らB組は歩き出した。

 

僕は歩きながら、思いを巡らす。

 

塩崎のあの提案を蹴った理由。仲間を騙した僕を怒ってるでも、嫌ってるでもない。あの発言の意図することはただ一つ。物間寧人を脅威に思っているからこそ、力を貸せない。そして同様に提案を蹴った骨抜と、あの控室で提案を聞いた直後、僕の反応を伺っていた数人も、同じ考えと見積もっていいだろう。

 

塩崎の言う通り、僕は大きく得をした。一つ目に、約15個の《個性》を取捨選択できる盤石な立場になったこと。二つ目に、B組全体での予選通過率が上がったこと。一応僕個人で脱落者が出ないよう手を尽くすつもりではあったが、クラス単位で協力することでさほど心配せずに済むことになる。そして三つ目に、僕を、そして僕が警戒するクラスメイトを見極めること。もとより油断はしないが、彼女らをより注意することは必須となった。

 

これが、あの控室で得た僕の“得”。

 

『刮目しろオーディエンス!群がれマスメディア!1年ステージ生徒の入場だ!』

 

マイク先生の声が、入場口にまで響き渡る。それに追随する様に、怒号の様な歓声が沸き起こる。

 

『ーーーーーーーつっても、やっぱ目当てはこいつらダロ⁉︎』

 

『敵の襲撃を受けたのにも関わらず、鋼の精神で乗り越えた、奇跡の新星!』

 

『ーーーヒーロー科、 1年A組ィ!!!!』

 

勝負がまだ始まったわけでもないこの段階から、ここまでする必要があったかどうかを考える。アナウンスを聞いて顔を強張らせたB組の面々を見ながら、すぐに答えは出た。──あるに決まっている。

 

この程度のプレッシャーに負けて、結果的に安全策に溺れたB組と、全員が最初から一位を狙いにくるであろうA組とでは意識の差が違う。問題はメンタル、意識の差だ。

だから、そこを叩き直すことから始めよう。

 

片やヴィランとの戦闘やプロヒーローの戦いを間近で見たA組。

 

そして殆どが“協力”という言葉に簡単に頷いてしまったB組。

 

どっちが優れているかなんて、明白だ。

 

『話題性では遅れを取っちゃいるがこっちも実力派揃いだ!ヒーロー科1年B組ィ!』

 

必ず一位を取るための(アドバンテージ)を、僕は逃さず取っていく。そして愚かなクラスメイトは勝者が決まったころに気づくんだ。自分たちに何が足りていなかったのかを。──僕の後ろ姿を見ながら。

 

A組より少しだけ小さい歓声に包まれながら、僕は薄く笑う。

 

さぁ、奪りに行こう、全力で。

 

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