強キャラ物間くん。   作:ささやく狂人

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来い

「ずいぶん遅かったじゃないか。バーからここまで5km余り。僕が脳無を送り30秒は経過しての到着…衰えたねオールマイト」

「貴様こそ何だその工業地帯のようなマスクは。だいぶ無理してるんじゃあないか?」

 

「おい、いつまで倒れてんだコラ」

「…ぐ」

 

近くにいる爆豪がオールマイトとオール・フォー・ワンの姿を見ながら声をかけてくる。僕はなんとか身体を起こして状況を把握しようと試みた。

 

「ーーーここは逃げろ、弔。黒霧、みんなを逃がすんだ」

「ちょ…アナタ!彼やられて気絶してんのよ!?よくわかんないけどワープを使えるならアナタが逃がしてちょうだいよ!」

 

オール・フォー・ワンの指先から飛び出した赤黒い針が伸び、横たわっている黒霧の身体を強引に起こす。

 

「?何ビビってんだお前」

「…トラウマでね」

「あぁ?」

 

その光景を見た僕は爆豪の背中に思いっきり隠れていた。ぐ…情けない。

 

「僕のはまだ出来たてでねマグネ。彼の座標移動と違い僕の元へ持ってくるか僕の元から送り出すしか出来ないんだ」

 

 

「ーーー《個性強制発動》」

 

黒霧の《ワープゲート》が発動し、ヴィラン連合にとっての脱出口が生まれた。

 

「先生は…」

「ーーー常に考えろ弔。君はまだまだ成長できるんだ」

 

そう言ってオール・フォー・ワンはオールマイトを迎え撃つ。戦いの場が、僕らから離れていく。

 

「行こう死柄木!あのパイプ仮面がオールマイトをくい止めてくれてる間に!駒持ってよ!」

 

Mr.コンプレスが気絶した荼毘を《圧縮》しながら、放心状態の死柄木弔に声をかける。そんなコンプレスの言葉は当然僕と爆豪にも聞こえていて。

 

「…駒って、君の事かい?」

「知るか」

 

そっぽを向く爆豪に苦笑いしながら、冷や汗を流す。連合の狙いは爆豪と共に脱出することだろう。

 

「マスキュラー!アンタも手伝いなさい!」

 

マグネ、と呼ばれていたヴィランが筋肉質な男…いや、最早筋繊維を身に纏った大柄な男に声をかける。

 

「あぁ?そいつはそのシルクハットの役目だろ」

「ダメです。あの人を寧人君に近づけたら私達もピンチになるので」

「トガちゃん…。オレにもリベンジの出番ってやつをさ…。オジサン悲しいよ」

「チッ、かったりぃ…」

 

マスキュラー、トガヒミコ、Mr.コンプレスの会話を聞き、僕はため息をつく。

 

トガヒミコの言い分は正しかった。僕がもし《圧縮》を《コピー》した時、この不利な状況の中でもヴィラン連合を一網打尽にできるチャンスが生まれる。

 

それを憂慮してMr.コンプレスを僕に近づけたくないだろう。

 

だが言い換えれば、僕と爆豪が別行動をとった場合。僕が“自分は狙われてないからええやん”と爆豪を囮にして1人で逃げた場合、Mr.コンプレスは出番を得る。

 

つまり、今僕が取るべき行動というのはーーー。

 

ヴィラン連合の面々に囲まれた僕と爆豪は、背中合わせになって戦闘態勢をとる。

 

「ーーー足引っ張んじゃねぇぞ」

「…やれやれ、世話が焼ける」

「あァ!?」

 

お互い決して本意では無くとも、爆豪と仲良く共闘するしかないわけだ。

 

僕と爆豪は同時に《爆破》を発動した。

 

 

⭐︎

 

 

「驚くくらい役に立ってねぇなぁ!?テメェ!」

 

爆豪が怒鳴り散らしながら僕の首根っこを掴み引き寄せる。無理やり移動させられた僕は結果としてトカゲのヴィランーーースピナーの攻撃を躱す事が出来た。表現を変えるなら爆豪に助けられました。

 

「いや、僕は予想通りだけど」

「お前が世話焼かれてんじゃねぇ!」

 

マグネの蹴りを躱しながら怒鳴る爆豪に、僕は心の中で言い訳する。

 

いや、だって右腕が使えないんだからしょうがないじゃないか。現在僕の右腕は骨折している。オール・フォー・ワンの心優しい配慮で麻酔が効いているものの、僕の右腕は使い物にならない。

 

当然、片手だけの《爆破》でヴィラン連合の攻撃を捌き切れる筈も無く。

 

「ーーーッ!一回死んでろ!」

「…りょーかい」

 

爆豪の言葉に、僕はしゃがむ。僕の背後から迫って来ていたトガヒミコの横振りのナイフは空を切り、爆豪の《爆破》でトガヒミコを退ける。

 

…意思疎通だけは完璧なんだよな。一旦“同調”で考え方を経験したから、だろうか。

 

丁度しゃがんだ体勢だったのでそのままトゥワイスの足をかけて転ばせ、《爆破》でマグネに牽制する。

 

遠くで戦いを見守っているMr.コンプレスに時折挑発してみるが、悔しそうに肩を震わせるだけで成果は無い。

 

まぁ、僕がこの場にいるだけでMr.コンプレスを抑えていると思えば、良い働きなんじゃないだろうか。

 

「ーーー余所見してんじゃねぇ!」

 

ぐいっ、と再び入院着の後ろの襟を掴まれた僕は爆豪に投げ飛ばされる。見ると、さっきまで僕が居た地面は“筋肉質な拳”で抉れている。

 

「筋肉ダルマが…!」

 

爆豪がそのヴィランーーーマスキュラーに向かって呟く。マスキュラーは残念そうに笑っていた。

 

「なんで抵抗すンだ爆豪!?一緒に緑谷についてもっと語り合おうぜェ!?」

「…え、そんなことしてたの?」

「な訳ねぇだろボケ」

 

僕のポロっと出た呟きに、爆豪は不機嫌そうに呟いた。心なしかげんなりしている。

 

「デクを意味不明なくらい褒めちぎってるイカレ野郎だ。話が通じるワケねぇだろうが」

「はぁ…?」

 

緑谷を強いと褒めるマスキュラーと、緑谷は弱いと貶す爆豪の論争がアジトではあったらしい。え、何それ。そっちのアジト楽しそうじゃない?こちとら悪の親玉と対峙してたんだけど?

 

このままでは攻撃を躱し切れないと悟った爆豪に抱えられながら、僕らは少しだけ移動する。そんな僕らをマスキュラーは嬉々として追って来た。緑谷の熱狂的なファンはしつこかった。

 

「で、なんでアレは緑谷を褒めてんの?」

「…デクに倒されたから、だとよ」

「…緑谷が、アレを?」

 

確かに、森で合流した緑谷は《ワン・フォー・オール》で身体を壊している状態だった。あの怪我はマスキュラーと交戦したものだったのか。

 

「…ん?じゃあなんでここにいるの?」

 

当然の疑問を、僕はトガヒミコのナイフを蹴り飛ばしながら爆豪に聞く。

 

「ーーーそこにいる黒霧ちゃんに回収してもらったのよ。私も、スピナーもね」

「なるほど…ねッ!」

「キャッ!」

 

僕の質問が聞こえていたのか、マグネが蹴りを繰り出しながら返事をくれた。僕はお返しに地面に向かって《爆破》を放ち、土煙をマグネに浴びせる。

 

そのまま後退して爆豪と再び背中を合わせる。

 

その時、爆豪はヴィラン連合に聞こえない声量で、こう呟いた。

 

「ーーーーーーー」

「は?どういうこと」

「文脈も読めねェのかテメェは!?…USJン時に俺が確認した、間違いねぇ」

 

その言葉を聞いて、やっとピンと来た。なるほど、確かに脱出方法がすぐ近くにあった訳か。

 

「…あ?テメェ、まさか気付いてなかったのか?」

「…まぁね」

 

そんな僕の言葉に、爆豪が怪訝な顔をする。

 

「おい、お前ーーーー」

 

「ーーーどうしたよ爆豪!?緑谷より強いって言ってる割には、逃げ回ってばっかじゃねぇか!?」

「めんっどくせぇ…!!」

 

何か言いかけた爆豪に、マスキュラーの猛攻が襲い掛かる。ギリギリで凌いでいる様子の爆豪を見て、戦いに巻き込まれぬよう一旦距離を離す。

 

トガヒミコが視界にいないと察した瞬間、僕は蹴りを後ろに放つ。

 

「ーーーわっ。バレてましたか、寧人君」

 

気配を消して背後から迫って来ていたトガヒミコは僕の蹴りを驚いたように躱して、一旦距離をとっていた。

 

「…そりゃ、2回目だからね」

 

気配を消して相手に迫るその技術。それは視覚誘導の一種な訳だから、視界に入らない場所からの奇襲が最も効率が良い。なら、攻撃される場所は予想できる。

 

「トガちゃん!助けに来たぜ!帰っていい!?」

 

トゥワイスが飛び込んで来たのを見て、僕は《爆破》を駆使して距離をとる。爆豪とマスキュラーの攻防が一息ついたのを確認し、すぐさま爆豪と合流する。僕を守ってくれ…!

 

と、情けなく爆豪の所へ向かうと、またもや爆豪とマスキュラーが話していた。

 

「緑谷が勝った俺に勝てねぇなら、お前は緑谷より弱ェって事だろ!?いい加減認めようぜ?自分に正直に生きようじゃねぇか!」

「あぁ…!?あのクソナードが俺より強ェ訳ねぇだろが…!!」

 

まるで緑谷を巡る論争みたいになっていた。この2人、ホントは仲良いとすら思える。共通の趣味が有れば仲良くなれるってのは本当だったか…。にしても、緑谷についてそんなに熱くなれるって事は。

 

「爆豪、君、ホントは緑谷の事結構好きなんじゃないか?」

「あ?殺すぞコラ。もうフォローしてやんねぇぞ」

 

そうドスの利いた声で言いながらも、僕の対処できなかったスピナーの攻撃を《爆破》で受け流す爆豪。なんだかんだ優しい男だ。

 

僕はそんな彼に本心から呟いた。

 

「それは勘弁。君ナシだったらいよいよ終わりだ」

 

ただの無個性で、この人数に対応できる訳がない。むしろ、こっちに爆豪という天才がいるから何とかなってるまである。

 

こういう考えでそう呟いたのだが、爆豪はまたもや怪訝な顔をこちらに向けた。

 

「お前、何腑抜けてんだ」

「………」

「普段のムカつくテメェなら、澄ました顔で虚勢張ってんだろが」

 

僕が1人では何も出来ないことを認めている態度を、爆豪は指摘した。

 

「…実際そうじゃないか。今こうやって、君に庇われて何とかなってる」

 

《爆破》で爆豪の方へトガヒミコを吹き飛ばしながら、呟く。その言葉にさらに険しい顔をする爆豪。

 

無理だよ、爆豪。ここまで心を折られて立ち直れるほど、僕のメンタルは強くない。独りで立ち向かったあの森の中で完全敗北し、オール・フォー・ワンに心を丸裸にされ、こうして君に頼らざるを得ない状況。

 

虚勢なんて張る気力もない。ただただ弱い自分を受け入れている。

 

…もし、もしも僕が。

 

僕が変な意地を張らずに、物間寧人を殺して《ワン・フォー・オール》を受け継いでいたら。

 

きっと今僕らを取り囲むヴィランも、そもそもあの森での悲劇も。圧倒的な力で解決していただろう。そんなハッピーエンド。

 

あぁ、ひどいなぁ、ナイトアイ。

あの人は、この状況になるのをわかっていたんだ。

僕が“特別”を捨てて、第二のオールマイトを受け入れる為に。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

悪魔だよ、あの人。

 

「ーーーもし」

「あ?」

 

僕は足を止め、僕を守り続ける爆豪の背中に声をかける。トガヒミコのナイフも、スピナーのゴチャゴチャした刃物も、全て《爆破》でいなし続ける天才へ。

 

「ーーーもしも君が、比喩も何もない、《個性》や性格すらも()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ーーーそんな自分を受け入れられるか?

 

僕は無理だと思った。《コピー》という個性と共に過ごしてきたからこそ人一倍募った思いが、“物間寧人という特別”を求めている。平和の象徴として君臨しても、その虚しさに耐える事は出来ないと思っていた。

 

 

「ーーーあ?何言ってんだテメェ」

 

Only.1のオールマイトに憧れた僕が、

No.1のオールマイトに憧れた爆豪勝己に共感を求める事は、間違っている。彼からしても意味がわからないと突き放すだろう。

 

そう、思っていた筈なのに。

 

「ーーー俺がいつ、オールマイトみたいになりてぇって言ったよ」

 

「…え?」

 

爆豪の言葉に、目を丸くした。

 

爆豪は僕の問いの前提、“君がオールマイトになったとして”を否定した。

 

そんな筈は無い。君はオールマイトに憧れ、オールマイトのようになりたいとーーー。

 

 

 

 

「ーーー俺の目標は、オールマイトを()()()No.1ヒーローだ。一位を超えねぇと一位にはなれねぇだろうが」

 

 

 

 

「………」

 

思わず、息を呑んだ。

 

その答えは、僕の予想とはかけ離れたもので。

 

爆豪勝己は、オールマイトのようになりたいのではなく、憧れだからこそ超えると言った。

 

妙に、心にストンと落ちた。

 

「…少しはマシな顔になったじゃねぇか」

「ーーー馬鹿言え。絶不調の時でも君の100倍マシだよ」

「へっ、言ってろ」

 

「ーーー勝とう」

 

少しだけ軽くなった身体を動かしながら、僕は《爆破》でトゥワイスを迎え撃つ。

 

ーーー自分でもわからないが、視界が広くなった気がした。

 

全てが終わった後に、この感情を整理しようと心に決めた。

 

⭐︎

 

反撃開始だ。

 

少しはマシになったらしい僕の思考は、この状況を打開する策に辿り着く。

 

「ーーー僕らがここで戦ってるから、オールマイトが全力を出せてない。ただ、逃げるのが困難なのも事実」

「わぁってら!だからテメェがーーー」

「後ろ、来てる」

「ックソが!」

 

すぐさま振り向いてスピナーに《爆破》を浴びせた爆豪の背中に自身の背中を合わせ、小声で告げる。

 

「作戦がある。君が囮になってる間にーーー」

「俺に命令すんじゃねぇ!」

 

「…はぁ。独り言だ、聞き流してくれていい」

 

僕はそうため息をつきながら、トガヒミコが投擲してきたナイフに《爆破》を合わせる。顔をしっかり狙ってくるところ、かなり容赦ない。

 

「一緒に戦ってるから僕も狙われてるけど、実際狙いは君なんだ。なら、君と別行動をとれば僕だけでも“目的”まで辿り着ける。問題は、君がそれまで耐えられるか、だけど」

「ハァ!?足手纏いがいなくなンなら余裕だわ!」

 

僕と別行動をとった時、爆豪はMr.コンプレスの《圧縮》にも対応しないといけない。あくまで彼にしてもらう事は“連合の目を僕から逸らす事”。時間稼ぎ程度に働いてくれればいい。

 

「…まぁ、問題はそれだけじゃないんだけど」

「あ?」

 

そう怪訝な顔で振り向く爆豪に、何でもないと返す。これは僕の問題だ。正確に言うならば、僕の“第六感”の。

 

「時間が惜しい。決行のタイミングはーーー」

 

次、僕らとヴィラン連合との距離が離れた時。

 

 

 

その言葉は、突如発生した音に掻き消された。

 

 

正確に言うならば、壁を破壊するような音と、氷を生成する音に。

 

 

突然その場に現れた巨大な氷。それは空に向かって伸びる道のようで、僕も爆豪も、ヴィラン達ですら目を奪われた。

 

その氷の上を猛スピードで駆け抜ける存在を見て、僕は呟いた。口元は、少し緩んでいたかもしれない。

 

「…バカかよ」

 

真ん中にいるのは飯田天哉。《エンジン》を駆使して氷上を突き進む。そんな彼の両端で、地上にいる僕らに向かって手を差し伸ばす存在。

 

切島鋭児郎と鉄哲徹鐵の大きな声を、爆豪と僕は確かに聞いた。その言葉の意味、ここにいる理由、全てを理解した僕はーーー。

 

「ーーー()()

 

爆豪の背中を押して、そう呟いた。一瞬爆豪が躊躇ったのを見て、僕は薄く笑う。

 

《爆破》での飛行性能なら、切島や鉄哲の手をとることは可能だ。だが、片腕でそこまで出来るかと問われれば、難しいだろう。

 

なら、僕と爆豪が手を取り合って《爆破》する事で何とかなるかもしれない。言い換えれば、僕がおんぶでもされて爆豪に連れて行ってもらう。まぁ、死ぬ程嫌だけど。

 

そもそも、そういう問題じゃないんだ。

 

助けなきゃいけない世話の焼ける奴らが、まだそこにいるんだ。

 

不本意だが、爆豪とは意思疎通だけは出来るので僕の意図を汲み取ってくれた筈だ。

 

「…しくじんなよ」

「誰に言ってる」

 

その会話を最後に、爆豪は《爆破》で空へと飛び立つ。それを見届ける事もなくーーー。

 

僕は“爆速ターボ”で()()()()()()()

 

⭐︎

 

 

「ーーー逃がすな!遠距離ある奴は!?」

「荼毘に黒霧、両方ダウン!」

「あんたらくっついて!」

 

目的である爆豪が飛び去った事から、彼を捕らえようと右往左往するヴィラン連合。マグネの《磁力》を利用して何とか爆豪を追おうとしてる連合の姿を確認しながら。

 

僕は“爆速ターボ”の出力を更に上げ、その分スピードは増す。左手だけの《爆破》でバランスは崩してしまい、地面に勢いよく転ぶ。膝を擦り剥いたかもしれない。

 

だが、今はそれどころじゃない。すぐさま体勢を整えて再び“爆速ターボ”を発動する。

 

ヴィラン連合の目的が爆豪勝己のように、僕にも目的がある。その目的に向かって一直線に、突き進む。

 

今、連合は爆豪に気をとられている。想定と違うが囮の役割は果たしてくれている。

 

今、爆豪勝己に意識を割いている分、ヴィラン連合は物間寧人を警戒しない。勿論、すぐに気付かれるだろうが、この今だけは僕に自由が生まれる。

 

その判断は、正しかった。

 

ヴィラン連合は物間寧人を警戒しない、その考えは間違っていなかった。しかし。

 

ただ1人だけ。爆豪勝己にも物間寧人にも執着の無い、イレギュラーがそこにはいた。

 

「ーーーそうだよなぁ!?来るよなぁ!信じてたぜェ!?お前ほどのヒーローが、救けに来ない訳ねぇもンなぁ!!ーーー緑谷ァ!」

 

「ーーーッ!させるかっ!」

 

“爆速ターボ”のスピードを上げ、氷結の発生地点に迷わず向かうマスキュラーの目の前に追いつく。

 

このぶっ飛んだ作戦。手の届かない空中から戦場を横断する考え方。粗は多い。

 

たとえば僕の右腕が折れていて空中性能が不十分な事。

折れた右腕の代わりに爆豪のサポートを得る程彼との仲は良くない事。

 

そして。鉄哲達ではない方…轟達が戦場から離れる目算が、甘い見通しな事。緑谷のヒーロー性に執着しているマスキュラーが、彼を見逃す筈がないという事。

 

こんな粗の多い、不十分な考え方。ーーー“救けたい”という強い想いが編み出した、悪くない作戦を目の当たりにして。

 

過程はどうあれ、気付く奴は気付く。実際、僕も、マスキュラーも気付いた。

 

「ーーーいるんだろうッ!?緑谷!」

「ーーーッ!」

 

そう叫びながら、僕は“閃光弾”でマスキュラーの足止めをする。太い腕で目を庇ったマスキュラーを見ながら、僕は言葉を続ける。

 

「ーーーこれから僕の《個性》で逃げる!そこにいる轟達も!」

「邪魔すんじゃねェよ…!今イイとこなんだからよォ!」

「ーーーー!」

 

マスキュラーの筋繊維で覆われた太い足が僕の横腹を捉える。なす術なく吹き飛ばされながらも、僕はマスキュラーの足下に《爆破》を放ち、土煙を巻き上げる。

 

大丈夫だ…!ここに轟や緑谷がいるって事は、この場所を突き止めた八百万もいる筈…!あの3人の頭なら、僕の意図を察せる!

 

そして、蹴り飛ばされた僕は、その勢いを殺す事なく目的まで辿りつくように《爆破》で調整する。

 

マスキュラーの妨害は成功、僅かな時間稼ぎになった。

 

受け身もとれず転ぶように着地した僕は、ふらふらと立ち上がりながら、ついに目的地まで辿り着く。

 

目の前で渦を巻く黒い靄。《個性強制発動》で開かれたヴィラン連合の脱出口。

 

それは人型という原型を留めておらず、僕の伸ばした手は一瞬躊躇する。触れればいい。《コピー》する為には触れなければいけない。

 

この《個性》で、黒霧の《ワープゲート》で僕らは逃げる事が出来る…!

 

だが、そこには問題がいくつかあった。

 

まず、黒霧に実体があるのかどうか。僕が触れたと認識出来ない場合、《コピー》は発動しない。この最初の難関をクリアしなければいけない。

 

僕は爆豪の言葉を思い出す。

 

『ーーー奴には本体がある』

『は?どういうこと』

『文脈も読めねェのかテメェは!?USJン時確認した、間違いねぇ』

 

この脱出経路を予め思い描いていた爆豪がくれた情報。USJ事件で交戦した経験からの知識だ、疑う余地は無い。

 

僕は黒く渦巻いているその中心に腕を入れる。その時、コツンと固い何かに触れた。すぐさま腕を引っこ抜き、黒霧から離れるように走り出す。

 

「ーーーー来い!!」

 

マスキュラーに追われながら姿を見せた緑谷、轟、八百万を見ながら、僕はそう叫ぶ。僕に気づき、こちらに走ってくる。

 

その時。

 

 

ドクン。

 

 

 

と、何かが這い寄ってくる感覚。わかっている。あの地獄を味わう覚悟はもう出来ている。僕はお前を受け入れる。お前が僕のストックを超えている事に、()()()()()()()()()()()()

 

だが、それは今じゃない。

 

まずは全員、ここから救ける。その後で、言いたい事は全部言え。見せたいものは全部見せろ。僕が全て受け止めてやる。

 

だから、今だけは…!この瞬間だけはーーー。

 

人間でもなく、実体もないモノ、という特殊なイメージは。

 

()()()()()()()()()()()()()。身体の一部を実体のない黒い靄へと変化させる。

 

苦しい。怖い。《ワープゲート》が、徐々に僕の心へ近づいて来る。蝕んでいく。“同調”が始まる予感、その恐怖に、僕のイメージは不安定になる。それにつれて、黒い靄も安定しない。今にも霧散しそうになる。

 

「ーーー物間くん!」

 

心配そうな顔を浮かべた緑谷が、轟が、八百万が僕の元へたどり着く。マスキュラーもじきにここに来るだろう。時間がない。

 

《ワープゲート》をコピー出来ないなんて考えるな…!

 

自分の原点を思い出せ。雄英(ウチ)の校訓を思い出せ。

 

()()()()()()()()()()()()()んだろう!?なら、ヴィランの《個性》を使いこなすヒーローにでも、脳無の《個性》を使いこなすヒーローにでもなってみせろ!

 

だからーーーー!たとえ脳無だろうと…!

 

 

「ーーー力を貸せッ!《ワープゲート》!」

 

 

 

目を見開いた緑谷の顔を視界に入れながら、僕らを取り囲み、そして捕食するように渦巻いた黒い靄に気付く。黒い靄が、僕らを呑み込んだ。

 

 

僕は確信したように、得意気に笑った。

 

 

⭐︎

 

 

それが、現実世界での最後。

 

 

気付けば、見慣れた黒い空間に居た。実体もない、喋る事もできない世界で。

 

『ーーー俺のゴーグル貸してやる。これなら目を守りながら近付けるだろ?』

 

怪人脳無の記憶を。

 

『ーーーこのゴーグルは俺とショータの友情の証!守り抜こうぜ!』

『…楽しそうだな白雲』

 

黒霧の記憶を。

 

『ーーー俺達三人なら、何でも解決できると思うんだ!』

 

そしてーーー倒壊する建物に巻き込まれた、呆気ない死を。

 

僕はその記憶を、声も出せずに、気付けば泣きながら視ていた。

 

悲劇に塗れた、白雲朧の人生を。

 

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