強キャラ物間くん。   作:ささやく狂人

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最高のヒーロー

細やかな雪が降りしきる、初冬の曇り空の下。薄汚れた川沿いで、二人の男女が向かい合っていた。見覚えのある痩せこけた頬と特徴的な髪形の青年と、今、僕の隣で同じ景色を眺めている彼女とまったく同じ風貌をもつ女性。そして、僕の声は届かない。

 

これは過去、さらに言うならば──。

 

『みんなで笑って暮らせる世の中にしたい。その為には象徴が必要です』

 

『象徴?』

 

『平和の象徴…この国から犯罪が減らないのは国民に拠り所がないから、頼れる柱が無いからです。ですから、僕がその柱となります』

 

『だからヒーローになりたいと?無個性なのに?……フフッ、八木俊典、だっけ?』

 

『──お前ホント面白いな、イカれてる』

 

 

オールマイトの原点(オリジン)だ。

 

 

『人を救けるって、その人は怖い思いをしたってことだ。命だけじゃなく、心も救けてこそ真のヒーローだと、私は思う──どんだけ怖くても、自分は大丈夫だって笑うんだ。世の中、笑ってる奴が一番強いからな』

 

オールマイトを奮い立たせてきた、いくつもの言葉。

 

『俊典、限界だって感じたら思いだせ。何のために拳を握るのか。原点…オリジンってやつさ。──そいつがお前を、限界の少し先まで連れて行ってくれる』

 

隣で、目を細めて懐かしむ彼女の口から出てきた言葉が、No,1ヒーローを支えてきた。

 

だからこそ感じずにはいられない。このまま、支え続けて欲しかったと。──この感情は、誰のものだ?《ワン・フォー・オール》の“同調”で共有される、オールマイトの願いか?無関係の僕が身勝手に作り上げた望みか?──どうだっていい、答えは出ない。それより、何があっても目を離すな。

 

 

『──あとよろしくな、空彦。そいつの夢、叶えてあげてくれ』

 

『お師匠!!──お師匠!!!』

 

 

 

『────素晴らしい喜劇をありがとう』

 

 

 

瞬きすら惜しんで、この最期を見届けろ。

 

 

 

 

 

「いやぁ、悪いねぇ。しんみりさせちゃって。私の最期が流れるのは予想外だった、やっぱ、こっちが自由に選べるって訳でもないのかね?」

 

全ての過去視が終わったあと、僕の隣にいた彼女──志村菜奈はそう口を開いた。対する僕の口元は黒く靄がかかっており、実体がない。当然言葉も発せないため、何の反応も返せなかった。

 

「──ってそうか、喋れないんだった。私も経験あるよ、何かもどかしいというか、落ち着かない感じだろう?」

 

もどかしい、という感覚はあるが、それ以上に困惑している。そもそもこの空間で人と会話すること自体が初めてなのだ。不便さを感じるよりも先に、疑問と混乱が僕を襲う。

 

そんな僕の感情を視線から読み取ったのか、志村菜奈は手をひらひらと振りながら言う。

 

「さっきも言ったろ?ロマンだよ。個性を通して、個性の中で出会えるこの空間。生きてるときも何度かあった。殆どは、おっさんに勝手に呼び出されるって感じだったけどな」

 

僕が相槌を挟もうとしても、それは声にならない。結果的に、志村菜奈が僕に一方的に話しかけるという構図が出来上がる。なるほど、これは確かにもどかしい。

 

「あぁ、稀に精神干渉系の個性が引き金になる、って例も聞いたかな?といっても、この《ワン・フォー・オール》の中で完結してたらしいけど」

 

「だから、お前みたいな奴は初めてってワケさ。個性に干渉する個性持ちの、《ワン・フォー・オール》とは関係ない他人がこの場に来るって例はね」

 

おわかり?とこちらの様子を窺う志村菜奈に、頷くモーションで返す。反応が返ってきたことが嬉しいのか、満足げに彼女はOK、と呟いた。

 

《ワン・フォー・オール》は受け継がれてきた個性、そして個性に刻み込まれた記憶や人生をのぞき込むことが可能な僕の《コピー》──なるほど、確かに理解はできる。志村菜奈がここに存在する理由、それは《ワン・フォー・オール》には記憶や人生と共に、その人格が受け継がれているという訳だ。

 

そして、彼女の発言から他の継承者も《ワン・フォー・オール》の中にいることが読み取れる。僕は辺りを見回すジェスチャーをしてみる。

 

「……?──あぁ、他の奴らは、って?もういないよ、全員荷造りもしっかり済ませて、次に行ってる。だから、ここにいるのは私だけだ。──なんでだろうな、最後の僅かな残り火になっても、ここを離れるのは名残惜しくてなぁ」

 

「俊典も、まだ私がここにいると確信してお前を寄越した訳だしな。く~、生意気な奴め!」

 

そう口を尖らせるが、想いが通じ合っていることを照れ隠ししているようにしか見えなかった。言葉が発せなくてよかった。余計なことを言って殴られそうだから。

 

「っと、そうか。本題がまだだったか。俊典の頼み、叶えてやらないとな。さて──」

 

志村菜奈はそこで一息ついて、真面目な表情で僕をまっすぐ見据えた。僕は身構える。

 

「──お前、これからどうしたい?」

 

───わからない。

 

間髪入れずに、心の中で呟いた。

 

 

 

「───?なんだ、その顔。じゃあ質問を変えるか…《ワン・フォー・オール》を受け取るか?ナイトアイの思い通りになるか、って話だよ」

 

──正しい選択がわからない。僕の判断一つで、ラグドールは個性を失い、ジーニストもギャングオルカも負傷し、オールマイトは引退した。何か、そうならない為に出来ることはあった筈なのに。

 

《ワン・フォー・オール》を受け継いだ僕は、全てを救うことが出来ただろうか。無力な僕は、ナイトアイの策を止めようとせず、守りたかった級友に救われ、No.1ヒーローを終わらせてしまったけれど。

 

全てを救えたか、それはもう答えが出ない問いだ。だが、今この最悪の状況よりかは、いくらかマシな結末を迎えたんだろうな、と思う。

 

「そうかそうか。なるほどな、私が思うに、お前───」

 

なら何故、今になっても僕は《ワン・フォー・オール》を受け取らないのか。

 

「──ビビってるだけだよ」

 

口元が黒い靄で隠れていて良かった、と思った。そのお陰で、情けない苦笑いをこの女性(ヒト)に見せずに済んだから。

 

⭐︎

 

「私はたった18年ちょっとしか生きてないけど、色んな人を見てきた自負がある。その経験を踏まえて言うと、お前みたいな奴は結構いる」

 

「個性ってのは幼少期からずっとついて回るものだろ?生活と切っても切り離せない身近な存在だ。そんな個性が、その人の人格を形成するなんてよくある話だろう?」

 

「例えば《浮遊》の個性を持つ女は、嫌なことがあれば空を飛び回ってスッキリする。そんな生活を続けてると、明るく笑顔の似合う人間性が出来上がったりもするわけだ」

 

「───無個性だった少年が、個性を持つヒーローに強く憧れを抱く。そんな夢見がちな性格を、無個性が形成するんだ。そして───」

 

「他者を頼る個性を持つ少年は、独りの限界に直面し続けて、自分の無力さを理解する。その分他人、若しくは他人の《個性》へ()()()()()、そして()()を向ける」

 

──“個性マニアだもんなぁ、物間は”。

 

「自分の器の小ささを決めつけて、力を手にする責任に臆している。そんな臆病な性格が、幼少期からの生活で刷り込まれていく。ま、自覚はあったみたいだけどな」

 

「つまり、お前は諦めてるんだよ。《ワン・フォー・オール》を受け継いでも、オールマイトのようにはなれない。自分が、こんな特別な個性を手にする器じゃない、ってな。いくら自信満々に虚勢を張ろうとも、体育祭で一位を取ろうとも、その本質はまだ変わってない」

 

耳が痛い話だ。僕の──物間寧人の本質を容赦無く言い当ててくる志村菜奈に、降参の意を込めて目を瞑る。お手上げのポーズでもしたいが、生憎黒い靄で動かすことが出来ない。

 

だが、それでも志村菜奈は言葉を止めない。むしろ、ここからが本題と言わんばかりに口を開いた。

 

 

「───お前、自分のことを脇役だと思ってるだろ?」

 

「他者無しでは生きられない自分と違って、俊典や緑谷出久のような奴が主人公と諦める。いやいや、責めてる訳じゃない。私らは個性と生きてるんだ、そう考えるのは寧ろ自然なことさ。お前の生き方なら尚更、な」

 

その2人以外にも貴方も、僕には輝いて見える。《ワン・フォー・オール》に選ばれたからってだけじゃない。この人の本質が、僕には眩しく見えるんだ。

 

「でも今、目を逸らして他人に選択を委ねるのは違うだろ、物間。たった一度の失敗で挫けて折れて、他者に依存する決断だけは許せない」

 

───わかってる。わかってるんだ。僕が決めないといけないんだ。この人にも、オールマイトにも依存しないで、僕自身が決めないと進めない。

 

だけど。

 

────僕自身の“底”なんて、僕が一番知っている。

 

自分のことなんて自分が一番わかっている。僕という人間がどの程度なのか、知り尽くしている。だからこそ僕は虚勢を張る。自分を欺き、他者の真似で取り繕う。

 

そんな僕の出す答え、それは───。

 

「依存する事と、他者を頼る事は全くの別物だよ、()()

 

「スーパーヒーローだって、脇役が居ないと成り立たない。なら、主人公の──緑谷出久の物語にお前は必要なんだよ。いや、そもそも緑谷出久だって脇役だ。なぜなら──」

 

 

 

「───“誰もが他人の人生の脇役であり、自分の人生の主役なんだ”」

 

その言葉を聞いた瞬間、僕の視界は一変した。

 

 

 

いや、世界すら変わった気がした。その言葉は確かに、僕の心に届いたんだ。

 

 

 

 

「───うん、いい笑顔だ」

 

そして気が付けば僕の目の前で。

 

日も暮れかかる夕方、窓から差し込むオレンジ色の光に照らされたオールマイトは、そう頷いた。

 

───この瞬間、僕が何をすべきか、何をしたいかが決まった。

 

ありがとう、志村菜奈。きっといつか、僕の力でまた会いに行く。そんな気がする。

 

 

⭐︎

 

 

中途半端に全部救おうとして、それでも力が及ばなかったから、神野の悪夢が引き起こされた。それは理解した、けど、そこで思考を止めるな。

 

僕は何を救おうとしたのかを改めて考える。真っ先に思いつくのは級友だ。戦いから遠ざけようと、僕が単独で動く事で守ろうとした。だが、それはあの襲撃自体を事前に防ぐ事でも達成できた筈だ。事情を教師陣に話す事で、対策も取れただろう。

 

けれどそうしなかった。それは何故か。──ナイトアイの策そのものが、最後の希望が成り立たなくなる、彼が救われない結末を嫌ったからだ。

 

だからこそ中途半端。ナイトアイも級友も、力が足りないのにも関わらず傲慢にも全て救おうとした。

 

なら、僕が必要なものは決まっている。──力だ。

 

「テキサスSMASH‼‼」

「──へぶっ!」

 

そんなことを再確認しながら、包帯が巻かれた細腕が、緑谷出久の頬を直撃する場面を眺めていた。

 

場所は市営多古海浜公園。オールマイトに緑谷を呼び出してくれと頼んだところ、彼が指定した場所だ。日も落ちて肌寒くなってきたな、と肩を少し震わせる。過去視の後はどっと疲れが来るのか、体調を崩しそうだな、とぼんやり心配する。殴られた緑谷は心配しない。

 

「君ってやつは本当に言われたことを守らない!全て無に帰るとこだったんだぞ。全く、誰に似たのやら…」

 

「すみません…」

 

あの神野で、僕と爆豪救出のために姿を現した件だろう。林間合宿中に僕が似たような指摘をしたからか、緑谷はなぜか同席している僕にもちらりと視線を向け、申し訳なさそうな表情を浮かべた。そんな緑谷に、オールマイトの話に集中しろ、と目配せを送る。師匠の言葉は、全部心に刻んでおいたほうがいいことを知っているから。

 

「──緑谷少年、ワタシね、事実上の引退だよ。もう戦える身体じゃなくなってしまった」

 

「だというのに君は毎度毎度、何度言われても飛び出していってしまうし!何度言っても身体を壊し続けるし!だから今回は!」

 

緑谷は叱られる、と思ったのかぎゅっと目を瞑った。だから彼からは見えなかっただろう、オールマイトの優しさに溢れた顔が。宝物を抱きしめるように、細腕が弱弱しく、とても大事そうに緑谷を包んだ。

 

「──君が初めて怪我をせず窮地を脱したことが、すごく嬉しい」

 

僕の場所からは緑谷の目が潤むのが見えた。だから僕は目を逸らし、海浜公園の入り口に目を向けた。そして、人影と目が合う。怒りと、絶望が入り混じったような表情のその人は、僕を睨みつけた。だが、僕も怯む気はない。

 

──これが僕の意志だ。

 

「君は本当に言われたことを守らないよ。その泣き虫、治さないとって言ったろう?」

 

 

「───なぜ」

 

 

 

その震えた声が、僕の耳に届いた。

 

 

 

 

「───なぜだ!オールマイト!どうしてまだ緑谷を選ぶ!」

 

緑谷の慟哭を遮るようなその声が海浜公園に響き渡り、オールマイトも緑谷も声の主に目を向ける。オールマイトが、久しぶりの再会を懐かしむように声を震わせてその名を呼んだ。

 

「……ナイトアイ」

 

憧れの人から名を呼ばれたのにも関わらず、ナイトアイは苦しそうに顔を顰めた。そしてオールマイトから目を逸らし、緑谷、そして僕に視線を向ける。

 

 

「今回の一件でわかった筈だ!緑谷には荷が重かった、譲渡する相手は他にいると!きっとまだ間に合う、考え直してくれ!もう今しかないんだ…!」

 

ナイトアイは苦しそうに、叫ぶ。

 

「──ここで未来を変えないと、待つのは破滅だけだ!」

 

「…それが、君の視た未来、か」

 

「──あぁ。すぐに使いこなせる者に譲渡すべきだ!あなただってそうだっただろう!?オールマイト!」

 

無個性だった八木俊典は、《ワン・フォー・オール》を使いこなす才能があった。そうして№1ヒーロー、オールマイトが誕生した。この流れを、ナイトアイはもう一度望んでいる。悪に対抗する強大な力が必要だと知っているから。

 

「ナイトアイ…。君の言うことは否定できない、確かに緑谷少年も未熟だし、ワタシは先生としても未熟だ。聡い君から見れば、間違った選択をしているんだろう。だが、君のそんな苦しそうな顔が正しいとも思えない」

 

「違う…!私の言うことを聞いてくれれば、全て丸く収まるんだ、オールマイト!」

 

「──違うのは貴方の方だ、ナイトアイ」

 

「…っ!物間…!」

 

僕はオールマイトとナイトアイの間に一歩割って入り、緑谷たちを庇うように立つ。ここからは僕の時間、ここが正念場だと気を引き締める。

 

「なぜ邪魔をする、物間!貴様も理解しているはずだ、緑谷はオールマイトのようにはなれない!そんな未来は存在しないと!」

 

「確かに緑谷は個性の使い方も全然わかってない、信頼も安心もできない未熟者だ。だが、そんな彼を見捨てるその判断、それこそが──」

 

「────()()()()貴方の過ちだ。それだけは繰り返しちゃいけなかったんだ」

 

「な……!?」

 

僕は過去視で視た、あの病院の廊下での場面を思い出す。

 

満身創痍のオールマイトが崩れ落ちないように支えながら、ナイトアイは必死に彼を引き留めていた。

 

『──オール・フォー・ワンがいなくなっても、すぐに後釜が現れるぞ』

 

『象徴論はわかる!敬服している!…けれど、当の貴方が全然笑えてないじゃないか!…もう一度言う、引退すべきだ』

 

そして、ナイトアイはこう言った。

 

『これ以上ヒーロー活動を続けるなら私はサポートしない。できない。──したくない』

 

()()だ。僕はここで強い違和感を覚えた。オールマイトを救いたいと強く願っているはずのナイトアイが、なぜオールマイトから離れる選択をとったのか。非合理的だ。そして、その答えにやっとたどり着いた僕は、今ここ、海浜公園で追及する。

 

「どうしてあの時、そばで支えなかったのか。なぜオールマイトから逃げたのか。僕はずっと考えていた。そしてオールマイトを見るその顔を見て、やっとわかった」

 

凄惨な死を予知したあの日から、ナイトアイはオールマイトから離れた。接触を断ったものの、後継者探しに必死になるほどオールマイトを諦めていない。そして、オールマイトと顔を合わせるたびに苦しそうな表情を浮かべるその反応から。

 

 

「──っ貴様にわかるのか!顔を見るたびに想起される、死に際の光景が!悪夢として私を襲い続けるこの苦痛が!」

 

──“心的外傷(トラウマ)”、それも重度の。だけど、ここで憐れむべきじゃない。情に絆されないで、今度こそ間違わない。

 

「──それでも支えるべきだった。本当に守りたいのなら、離れるべきじゃなかった」

 

「──っ!!」

 

その残酷な過ちを、どうやって証明しようか。志村菜奈と──そして爆豪と話してやっとわかった。

 

『俺がいつ、オールマイトみてぇになりたいって言ったよ』

 

『…え?』

 

『──俺の目標は、オールマイトを超える№1ヒーローだ。一位を超えないと一位にはなれねぇだろうが』

 

そう、だから。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……っ」

 

貴方の二の舞にはならない。今度こそ、支える人が必要だ。だから、僕は《ワン・フォー・オール》を受け継がない。貴方とは別の選択をする。

 

後ろにいるオールマイトと緑谷をちらりと見て、再びナイトアイと対峙する。

 

「僕は緑谷陣営(こっち)につくよ、ナイトアイ。貴方ができなかったことを、僕は成し遂げてみせる。緑谷出久の相棒(サイドキック)として、貴方を超える。そしていつか──」

 

「───その悪夢(トラウマ)からも、救ってみせる」

 

貴方が間違っていたことを証明して、そうして初めて貴方を救うことができる。そんな気がするから。

 

 

ナイトアイは動揺を隠しきれない震えた──そしてか細い声で呟いた。僕はそれに、はっきりと返す。

 

 

「不可能だ」

 

「いいや、できる」

 

「未来は変わらない。()()()、変えられなかった」

 

「変えてみせる。──そのために僕がいる」

 

「…………」

 

そして、ナイトアイはゆっくりと、力なく背を向けた。当然だ、今、僕の言葉で救われるというものでもないだろう。心の整理の時間が必要だ。未来を変える具体的な手段が思いついている訳でもないので、こちらにも時間が必要なわけだが。

 

僕は遠ざかっていく背中に声をかける。

 

「二学期のヒーローインターン、枠二つ用意しておいてくださいよ」

 

そこで、必ず未来を変えて見せるという意志を込めて。返事は来なかった。僕はその背中が見えなくなるまで、彼を見つめた。

 

……これで、僕とナイトアイの仮初の協力関係は完全に崩壊した。当分、連絡を取り合うこともないだろう。けどいつか、必ず僕の味方として引き入れてみせる。彼を、悪夢から解放した後に。…それに、新たな協力者を得たわけだし。

 

 

 

「……ありがとう、物間少年」

 

病院で僕の考えを前もって聞いていたオールマイトは、そう僕に笑いかけた。僕も笑顔でそれに応じる。

 

「まだ礼を言うには早いですよ。まだ何も始まってない。それに──」

 

「えっと…?オールマイト?物間君?」

 

そして、イマイチ話に付いていけてない緑谷出久に目を向ける。オールマイトは一歩離れ、僕らが話しやすい場を作ってくれた。ぐ…これは、改まると少し恥ずかしいな。けれど、避けては通れない。未来を変える為の一歩目だ。

 

「──まず、助けにきてくれてありがとう、緑谷」

 

「…うぇぇっ!?」

 

そう言って頭を下げた僕に、緑谷は大きく困惑した声を上げる。顔を上げた僕は、思わず苦笑いした。

 

「ご、ごめん!なんというか、意外で…というか、逆に僕が助けられた側だから、礼を言うのはこっちというか…」

 

そう言って慌てる緑谷を見ながら、僕は考える。緑谷があの神野に来たこと自体が、きっとオールマイトが後継者に選んだ理由の本質なんだろう。常軌を逸したほどの救ける想い。これが、彼が主人公の物語なんだろう。

 

だから、僕は彼の物語の脇役となる。ならせめて、どんな役を得るかは自分で決めようと思ったんだ。師匠や先生はオールマイトや相澤先生、友達や彼女(ヒロイン)は飯田天哉や麗日お茶子。ライバルは、爆豪勝己や轟焦凍だろうか。力がない僕は他人を頼らないと生きていけないから、支えあう関係が好ましい。そんな関係に、あえて名前を付けるとしたら──。

 

「緑谷。僕は君に力を貸すから、君も僕に力を貸してほしい。──僕の…そして君の、相棒として」

 

──主人公を支える(キャラ)として、君を支え続けよう。まだそんなに強くない、弱キャラかもしれないけど。

 

そんな僕の捻くれた考えなど露知らず、緑谷は呆然とした。そして僕の言葉を理解した彼は、嬉しそうに、頼もしそうに笑顔を浮かべた。──そうだ、次は僕らだ。

 

さぁ続けようか、僕の物語を。この個性に今も刻み込まれている、僕が主役の人生(物語)を。あぁ、言い忘れてたけど。僕も緑谷と同じ…いや、誰だって同じだ。誰もが、自分の人生の主役なのだから。

 

──()()()、僕が最高のヒーローになるまでの物語だ。

 

 

 

 

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