強キャラ物間くん。   作:ささやく狂人

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あとがきにてご報告があります。


仮免試験編
新生活


室内に入ったクラスメイト達は、それはもう興奮していた。

 

「す、すっげーーーーー!!!広っっっ!!?」

「おい!ソファー柔らけぇぞ!!!!」

「うっひぃ~、天井も高いね~」

「せんせー!首だけ切奈が上から見下ろしてくるの!」

 

雄英敷地内校舎から徒歩5分、築3日の学生寮『ハイツアライアンス』──夏休みが明けて、全寮制となった雄英高校を訪れた僕らは今日、クラス毎に用意された寮に初めて足を踏み入れた。それ自体は不思議なことでもないのだが、単なる学生の寮生活と思うことなかれ。

 

「…学生寮は1棟1クラス。右が女子左が男子と分かれてる。ただし1階は共同スペースだ。食堂や風呂洗濯などはここで行う」

 

僕らの担任、ブラドキングはこの興奮状態を予想していたのか、動じることなく手元のマニュアルを読んでいた。最悪、その冊子を置いて行ってもらえれば聞いてなくてもなんとかなるのだろう。

 

「部屋は2階からで、1フロアに男女各4部屋の5階建て。そして1人部屋──エアコン、トイレ、冷蔵庫にクローゼット付きの贅沢空間となっている」

 

とは言っても、話はしっかりと聞いた方がいいわけで。しかし目を輝かせた一部の生徒の耳に入っているかは怪しい。まぁ、気持ちはわかる、今日から親元を離れた新生活が始まるのだ。興奮するのも無理はない。

 

「アンタら…!いい加減静かに──はぁ、もういいや…」

 

なんと拳藤が諦めるほどだ。珍しい光景を見た僕は苦笑しながら拳藤を見る。そして、同じタイミングで僕の方を見た彼女と目が合う。いつもなら「物間も何か言ってやってよ」とでも言われそうなものだが、彼女は気まずそうにすぐ目を逸らした。……。

 

「──ふふ」

 

「……なにさ、塩崎」

 

「いえいえ、物間さんの珍しいお顔が見れたので」

 

「……む」

 

隣でクスクスと笑い出した塩崎にそう言われ、言葉が詰まる。どんな顔だった?とはなんとなく聞きたくないので、急いで不機嫌そうな顔を取り繕う。

 

「早めに話をしないと、このまま気まずいままですよ?拳藤さん、ああ見えて頑固ですから」

 

「いや、見たまんまだ。知ってるよ」

 

──林間合宿が襲撃されたあの日、僕は事情もあって単独で敵陣に突っ込み、あっけなく敗北。そのまま連合の大ボスの所まで連れていかれた…という事件があった。当然拳藤にも心配をかけたわけで、病院ではこっぴどく叱られた。その喧嘩が今日まで続いている、という訳だ。仕方ないじゃないか、あれ以降自宅待機が命令されてたんだから。

 

僕と塩崎は並んで階段を上る。僕は横目で、彼女が口を開くのを見る。

 

「──では、意外と傷つきやすいのも知っているのでは?」

 

「………」

 

僕は黙った。都合のわるいことは黙る都合のいい男なんでね。

 

「ふふっ。リーダー二人が元気ないと、私たちの気も沈んでしまいます」

 

「いや。めっちゃ今うるさいけど」

 

割り当てられた自分の部屋に向かって駆けるクラスメイトを指さしながら言う。まさに今、部屋に超夢中だけど。

 

「空元気、というものです。では、私も部屋が気になるのでこれで」

 

塩崎は二階で足を止め、そう小さく会釈した。僕は四階だから、当然ここで別れることとなる。言いたいことは言い終わったのだろう、くるりと僕に背を向けた。

 

「ねぇ塩崎、…何かいいことでもあったのかい?」

 

そんな背中に声をかける。僕が珍しい顔を見せたように、塩崎も今日は珍しく…かなり浮かれているように見えた。塩崎は振り向いてこう言った。

 

「愛する級友達との新生活ですから。ご存じありませんでしたか?私、このクラスが好きなのです──皆さんと同じように」

 

本当に上機嫌だな、と彼女の顔を見て少し驚く。僕も小さな微笑みを返した。

 

「……ん、そっか。悪いね、引き留めて」

 

「いえいえ、では」

 

丁寧にも再びお辞儀をした塩崎。彼女が部屋に向かって歩き出したのを見て、僕も階段を上り始めた。

 

「皆さんと同じように…ね」

 

塩崎の言葉を思い返す。襲撃事件を経て、僕の知らないうちにクラス間の絆でも強まったのかもしれない。確かに、皆夏休み前と比べて(たくま)しくなったように思う。良いことだ。

 

自室に着き、荷物を置いた僕は窓を開けて景色を眺める。日光の眩しさに目を細めた。──うん、天気も良い。

 

 

 

 

「──ま、こんなもんかな」

 

その日の夜、荷解きを終えた僕は部屋を出て、一階の共同スペースに行くため階段へ向かった。ソファに座ってあの大画面テレビで休憩しようと思ったからだ。テレビはあの一台しかない訳だが、この場合チャンネル権はどうなるのだろう、と階段を下りながら考える。多数決が無難なとこだけど、そうした場合僕の見たい『無個性ボクシング大会』は一生見れないだろう。なぜならニーズが少ないから。ま、いざとなったら持ってきたパソコンで見るか。

 

「……ん?」

 

そんなくだらないことをぼんやりと考えながら二階へ辿り着く。その時、二階の廊下で妙な光景があった。

 

「円場…と回原か?どうしたんだい?」

 

廊下で蹲ってて顔は見えない、様子がおかしいことはすぐにわかった。彼らに近づいた僕は、二人が肩を震わせていることがわかった。……笑ってる?

 

「も、物間か…。くく…この部屋」

「…部屋?」

 

笑いをこらえながら目の前を指さす回原。指の先あったのは部屋…クラスメイト、黒色の部屋だった。よく見れば、ドアが少し開いている。二人はこの中を見て爆笑していたとわかった。

 

「なんだそりゃ。…あほらし」

「──待ぁーてって物間!一目でいいからさ、覗いてみてくれよ!」

「黒色なら今風呂行ってるからさ!」

「余計ダメだろうが」

 

呆れて場を離れようとした僕をしつこく引き留める二人。面白さを共有したいのか、僕を開放してくれそうにない。

 

「…?まぁ、ちょっとなら」

 

さすがに妙だな、と感じつつ折れた僕は、ドアを閉めるついでに中を一瞬見ることにした。

 

ごめん黒色、と心の中で謝りつつ僕はそ~っと小さな隙間から部屋の中を覗く。そして、()()を目にした。溢れんばかりの、“闇”を。

 

───こ、これは……!

 

 

 

「────ば」

 

 

「───────ッ!!!!!!?」

 

 

予想以上の黒い部屋に絶句していると、その天井から逆さまの黒色支配が唐突に姿を現した。ドアの僅かな隙間から覗いていた僕の目の前に。僕の息が一瞬止まる。

 

そして後ろからパン!パン!とクラッカーの音二つ。

 

 

 

いや、…え?なにこれ。は?

 

言葉を発しようと口を開いてはいるものの、あまりの急展開に脳がついていけていない。今僕は随分と間抜けな顔をしている。塩崎が見れば吹き出すことだろう。──だって、目の前にいる三人が大爆笑しているのだから。

 

その光景を見て、僕は理解した。

 

「…なるほど、いい度胸してるじゃないか」

 

どういうつもりか知らないが、本当に唐突なサプライズドッキリという訳だ。三人は笑いながら言った。

 

「いや~、悲鳴上げるほうに賭けてたんだけどな」

「ヒヒ…俺の勝ち」

「あれは誰でもビビるって!くく…」

 

 

 

 

───上等だ、野郎ども。

 

 

 

「ほら、もう充分でしょ!落ちつけって…てい!」

 

「ぐふっ!」

 

背後からの手刀を食らい、僕は気を失っている円場の胸倉から手を離した。首をさすりながら後ろを見ると、あきれ顔の拳藤がいた。

 

「なにはしゃいでんのさ。あーあ、随分暴れちゃって。鉄哲と…宍田!三人を部屋までお願い」

 

拳藤は床に伏せている男子三人を見下ろしながらため息をついた。それから、いつのまにか集まっていた観客(クラスメイト)にてきぱきと指示を送る。

 

「一佳~。一応先生に報告する?」

 

「…ふん。ただのじゃれあいだよ取蔭。お互い個性も使ってない、ただの、ね」

 

「お、悪ガキ物間だ」

 

しし、と笑う取蔭。ふん、と頭を動かすと、頭突きしたせいか少し眩暈がした。近くにいた拳藤がそんな僕を支える。

 

「ったく、一体何をそんなに──」

 

と拳藤が顔を上げた時、至近距離でぱっちりと目が合った。

 

──近いな、と真っ先に感じた。次に、こんな距離感は久しぶりだな、と考え、最後に喧嘩中だったことを思い出す。あ、まずい、きまずい。

 

さーっと顔を青くした僕。するとなぜか顔がほんのりと赤くなった拳藤。僕の視界の隅に大勢いる観客が映り、何かが危険だと、僕の直感が理解する。

 

「拳────」

 

 

 

 

 

「─────わ、すごいノコ。黒色の部屋、まっくろ!」

 

小森希ノ子のその声を聞いた瞬間、全員の意識がそちらに向いた。

 

「へぇ~、特徴あるねぇ」

「ウラめしさ抜群で、悪くない」

「ん……」

 

つられて黒色の部屋を眺めた取蔭、柳、小大が三者三様の感想を漏らす。女子の食いつきがかなりいいことに気づいた僕は、さっき向かいの1年A組寮が騒がしかったことを思い出す。なるほど…これか…。

 

「物間悪ガキ事件も解決したことだし…。じゃさ、皆の部屋お披露目会しようよ。個性ありまくりじゃん?吹出とかさ~」

「oh、楽しそうデース!」

「───」

 

ニヤニヤと笑顔を浮かべた取蔭の提案に角取が元気よく賛成し、吹出漫我は顔の白コマに「マジでか…!」と浮かべた。泡瀬と麟の男子二人も冷や汗を流している。

 

「マジデース!さっそくイキマショウ!」

 

外国人の角取と漫画好きの吹出は日頃からアニメの話で盛り上がることが多い。その分気心知れた仲なのか、角取にはまったく遠慮がなかった。

 

ぞろぞろ、と吹出の部屋に向かって移動するクラスメイト達。楽しそうでなによりだ、とその背中を見送る。そういえば、拳藤がさっきから黙りこくっているな、とここで気づいた。そして、未だに彼女に支えてもらう体勢だったことに、遅れて気づいた。

 

「……拳藤。もう一人で立てるから──」

 

「──へっ!?あ、ごめん!」

 

「いや、それはいいんだけど」

 

「じゃ、私もあっち行こうかな…!アンタみたいに羽目外したら大変だし…」

 

「…ん、そうかい」

 

そう言って、お部屋お披露目大会の集団を追いかけようとする拳藤。一瞬引き留めようかとも思ったが、彼女の様子がおかしいのもあって、見送ることにした──その時だった。

 

「あちらのことはお任せください、一佳さん」

 

「…茨」

 

馬鹿二人が鳴らしたクラッカーのごみを回収していた塩崎が、拳藤を引き留めた。今この場に残っているのは三人だけだ。

 

「物間さんを四階まで送り届けてくださいませんか?階段で転んだら大変ですし…」

 

自分の頭を指さしながら、そう告げる塩崎。拳藤はうっ、と言葉に詰まった。僕はといえば身体の調子を確認し、問題ないな、と心の中で呟いた。“こっちは大丈夫だから”と僕が口を開こうとしたその時。

 

塩崎は小さくため息をついた。そして僕に、たった今回収したクラッカーのごみを見せつけてきた。──まさか。

 

「…拳藤」

「な、なに?」

 

「もしかして、クラッカーの音でここに来たのかい?」

「んーと、そうね。最初にパンって音がして、ドッタンバッタンってやかましかったから皆集まったわけだけど」

 

そんな僕らの会話を聞いて、塩崎は満足そうに頷いた。こ、これは…!

 

僕はがっくりとうなだれた。

 

仲直りの、()()()()をされているのか、この僕が。は、恥ずい…!

 

馬鹿騒ぎを起こして委員長モードの拳藤を呼び出すことで、僕らが話しやすいようになる、この状況。かなり気を遣われている…!

 

「──では、私はこれで」

 

塩崎の言葉に、僕は顔を上げる。一瞬目が合い、そのまま彼女は去っていった。

 

………。ここまで背中を押されて、チャンスを無駄にするほど僕も馬鹿じゃない。

 

「拳藤」

 

気まずい空気を吹き飛ばすように、静かに彼女の名を呼んだ。

 

「──な、なに」

 

少し緊張しているような声の拳藤に、僕はこう言った。

 

「少し、散歩でもしないかい?」

 

 

 

「さすがにちょっと寒い。もう夏も終わりかな」

 

玄関の扉を開き、そう拳藤に話しかける。その拳藤は向かいのA組寮を見て、あ、と声を漏らした。僕もそちらに目を向けると、A組の数人が寮の玄関前で何か話しているようだった。麗日と梅雨ちゃん、轟と飯田に、切島と緑谷の六人が集まっている。

 

その時、緑谷と目が合ったので、挨拶程度に僕は手を挙げた。緑谷は同じように返してくれたが、妙に表情が優れない。そもそも、なんだか場の空気が深刻そうだ。

 

「なにしてんだろ、麗日たち」

「さぁ…、でも、明るい話はしてなさそうだ。ま、少し歩こうか」

 

暗い話に僕らが関わる理由もないだろう、挨拶も程々にして、僕らは寮から離れるように歩きだす。ちらりと振り向くと、A組の面々は丁度話が終わったのか、寮に戻るところだった。唯一、緑谷が頑張ってね、というジェスチャーをしてきた。なるほど。

 

「…ちゃんとケジメをつけたわけだ」

 

あの日の、神野の悪夢でかけた迷惑や心配を、しっかりと。今度は僕の番、だな。

 

少し寮から離れて、レンガで造られた道を僕と拳藤は並んで歩く。涼しい風が軽く吹き、僕は足を止めた。一つ息を吸って、僕は口を開いた。

 

「今日さ、塩崎に言われたんだ。──このクラスが…B組が好きなんだ、って」

 

「…うん」

 

僕の言葉に、静かに相槌を打つ拳藤。僕は星空を眺めながら続ける。

 

「それで、その時思ったんだよね」

 

「…うん」

 

僕は一瞬目を瞑り、口を尖らせながら言った。

 

 

 

「“いや、僕の方が好きだけど”ってね」

 

「…うん?」

 

拳藤の相槌が疑問符を持った。僕は構わず言葉を並べ立てる。

 

「泡瀬はクラスの中でも判断力があって、僕らを見てくれてる。鎌切は好戦的で爆豪に近い危うさがあって、角取は日本語の覚えは早いし、笑えるくらい素直だ。柳に借りたホラー映画は外れがないし、小大は僕にいつも塩対応だ。それに──」

 

「はいストップ」

 

拳藤が心底呆れた顔でこちらを見る。僕は仕方なく口を閉じた。

 

「これ、なんの話?」

 

「──僕がどれだけB組を大事に思ってるかの話さ。危険を犯してでも守りたい、っていうね」

 

「………」

 

「───最初に興味を持ったのは“個性”だったんだ。ある人に言わせてみると、僕は他人の個性への憧れが強い生き方らしくてね。そして最近は、少し考え方が変わったんだ」

 

──個性には人格や過去が刻みこまれ、その人生を視ることができる。そう理解した瞬間、僕の興味の対象は個性だけに留まらなくなった。

 

「今は、他人そのものを理解したい、って気持ちなんだ。個性だけじゃなく、その人が何を感じ何を見て、何を楽しいと思うのかが気になった。──そうやって、僕はこのクラスを好きになっていったんだ」

 

「だからこそ守りたかった。誰も傷つけたくなかったから、君たちを遠ざけた」

 

そうして最後に、僕はごめん、と頭を下げた。

 

「……それは、わかってる」

 

拳藤は目を伏せながら、悔しそうにそう言った。

 

「何を抱え込んでたのかは知らないけど、私たちを守ろうとしてたのはわかるよ。素直にうれしいって気持ちもある」

 

「拳藤…」

 

「──ただ、一人でボロボロになるほど大変だったのに、頼ってもらえなかったことが悔しいだけ…!」

 

そう言葉を詰まらせる拳藤を、僕は静かに眺める。心の中で深呼吸をして、覚悟を決めた。力もないのに虚勢を張り続けて、一人で何とかしようとしたツケが、今ここで回ってきただけのこと。

 

「物間、アンタは強いから──」

 

「違うんだ、拳藤。僕は弱い」

 

それを聞いた拳藤は顔を上げた。目を見開かせて、何なら顔を青ざめさせている。その反応も当然だろう、以前までの僕なら絶対に言わない言葉だ。今でも、クラスメイトに、こんな情けないことはできることなら言いたくない。

 

それでも。僕の物語には拳藤一佳が必要だから。

 

「事情は言えないけど、何としてでも守りたいものがもう一つ増えたんだ。傍で見てやらないと危うい、手のかかる奴が。…僕はなんでも出来るわけじゃないから、いざという時はきっとクラスよりそっちを優先することになる」

 

両方大切だけど、僕には一人で全部救う力はない。だから。

 

「──君を頼りたい。君に任せたいんだ」

 

ぽかん、と口を開けて驚いている拳藤に、僕は笑う。本当に今日の僕は珍しい、こんなに本心をさらけ出したのは今日が初めてだ。──だがそうしないときっといつか限界がくる。1人で立てない時は、彼女に支えてもらいたいから。

 

「さっきも言ったけど事情は言えない。けど、僕が行き詰まったら、力を借りる時が来るかもしれない。だからその時は、B組ごと力を貸してほしい」

 

《ワン・フォー・オール》のことは、当然言えない。けど僕だけじゃどうにもならない時には、彼女たちに頼ることがあるかもしれない。B組が力を貸してくれれば、僕はなんだって出来る気がするから。

 

静寂。

 

僕は恐る恐る拳藤の様子を窺う。けど、僕は信頼していた。事情も説明できないこんな僕の意味不明なお願いも、彼女なら受け入れてくれると。なぜなら。

 

「──ふふっ、何それ。無茶苦茶だな」

 

そう笑う拳藤一佳を見ながら、僕は思う。

 

──なぜなら、彼女は皆が頼れる、一年B組の委員長なのだから。

 

 

 

 

「なんか妙なことに首突っ込んでんだ?」

 

和解も済ませ、話も落ち着いたので僕らは寮への道を引き返す。その道中、拳藤はそう僕に聞いた。僕は曖昧に頷く。

 

「うん、だからもし妙なことがあったら連絡してほしいんだ」

 

「妙なこと…って?」

 

「……まぁ拳藤にはクラスの事を見ててほしいんだ。みんなの悩み事とか、僕は気づいたりできなそうだし」

 

「?そもそも悩みを相談されるような立場じゃないでしょ」

 

「あれ?一応副委員長なんだけどな?」

 

どこで彼女と格差がついてしまったのだろう。日頃の行いでしょ、と彼女は呆れたように笑う。それもそうか。

 

「ま、クラスをよく見てほしいんだ。そしてなんか変だな、ってことがあったら僕に教えてほしい」

 

「物間のお悩み相談室でも開くんだ?」

 

「あぁ、すぐに解決してやるさ」

 

そんなくだらないことを話していたら、僕らは寮にたどり着いた。時間的に部屋披露大会は終わる頃だろうか、ちょうどいいな。けど、僕は玄関の前で足を止めた。

 

「あれ、入んないの?」

 

「あぁ、もう少し頭を冷やそうと思ってね。実はまださっきの喧嘩の熱が引いてないんだ」

 

「ふーん?ま、いいか。風邪ひく前に戻りなよ?」

 

そう言って、拳藤は寮に入った。僕はそれを見送ったあと、壁に背をもたらせ、腕を組んで考える。考える内容、それは──。

 

 

 

 

───内通者。

 

 

 

林間合宿襲撃を手助けした、連合の手先が、あのメンバーの中に潜んでいる。教師、プッシーキャッツ、そして生徒(ぼくら)の中に。当然これは、B組も例外ではない。簡単に尻尾を出すとも思えないが、拳藤を通して不審なことは僕に伝わるように手配できた。その分、僕は教師陣とA組を探る。立場上は緑谷やオールマイトの方が探りやすいだろうが、彼らにはなんとなく期待できなそうだ。

 

だが、収穫は恐らくないと考えているのも事実だ。

 

理由は二つ。一つ目は、先日大きく内通者として動いたため、当分は大人しく身をひそめるだろう、という予想。そして二つ目に、()()()()()()()()()()()()。僕の《コピー》の応用で使える“過去視”は、大まかにだが警察の塚内さんという方に明かしている。すると当然、関係者であるイレイザーやマイク先生にも伝わってしまったはず。ブラドキングメモにも追記されるだろう。つまり、雄英教師陣の間では、伝わっているわけだ。

内通者を追い詰めることができる、僕の力が。やましいことがない人間はそんなに気にしないだろう、すぐに忘れてしまうかもしれない。ただ内通者のみが恐れる、僕という存在を。

だというのに今日まで何の行動も起こさない内通者。ということは、教師の中にはいないと見ていいだろう。

 

となると内通者は──。

 

「──()()。けどそうなると…」

 

過去視は人生を覗き見る現象だ。特徴として、人生経験の少ない若者には作用しないことがわかっている。過酷な人生を送ってきたのなら、話は別になるだろうけど。

 

つまり、生徒から強引に聞き出すことはできず、手詰まりなわけだ。寮生活ということもあって、自由に動き回れないのもある。雄英側は、そうして内通者を対策しているわけだけど。

 

「そうなると今欲しいのは──信頼の置ける外部の協力者」

 

真っ先に思いつくのはサー・ナイトアイだ。《予知》を駆使すればほぼ確実に内通者を突き止めることができるはずだし、情報収集力にも長けている。生徒の過去を突き止めることもできそうだ、僕の中学の体力テストの結果まで知っていたわけだし。

 

「その為には、あの人を()()()こっち側に引きこまないと…」

 

無理やり協力を強いることは、不可能ではない。けど、あの人の根強いトラウマ…オールマイトの変えられない死を克服させてからでないと、僕の気が収まらない。つまり第一目標は──未来は変えられることの証明。そのあとで、内通者を捕らえることができるはずだ。オールマイトとナイトアイ、緑谷と僕(二代目)の4人なら。

 

それまでは、こちらから迂闊に探れない。どんな些細な動きも見逃さず、ボロが出るのを待つくらいしか。

 

「……疲れた」

 

考えがまとまったところで、僕はそう呟いた。

 

今日から始まった新生活、あの楽しそうにはしゃいでいたクラスメイト達。僕を励まそうとしていた馬鹿達や、背中を押してくれた彼女に混じって。

 

“敵”がいることを意識して、疑い続けるのはかなり疲れる。

 

もし。もしも。

 

あの中に──僕の愛するクラスメイトの中に“それ”が潜んでいた時、僕はどうするんだろう?

 

そこで考えるのを止め、僕は自室に戻る。そして、疲れた頭を癒すように眠りについた。

 

 

 




こんばんは。『強キャラ物間くん』について、ご報告があります。
本作では内通者関連の話を回収していくのですが、十中八九原作の内容とは違います。というか原作のは誰なんですか??と日々悶々としています。
オリジナル展開ですが、少しづつ、そっとちりばめていく伏線に読者の皆様が気づいて、予想したりと楽しんでもらえたらとてもうれしいです。
しかし、賢すぎる方もいます。そう、勘の良い方です。私は好きです。あ、わかっちゃった…という方は、ネタバレを避け、“天才だからわかりました”とコメントしてください。ニヤニヤします。
どうしても確認したい方は感想欄でなく、直接私に送ってもらえたら幸いです。間違ってたら笑います。

挑戦状のようになってしまいましたが、読んでくださること自体とてもうれしいです。
感想も返信できていませんが、全て目を通して励まされています。誤字報告にもいつも助けられています。ありがとうございます。

それでは。
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