強キャラ物間くん。   作:ささやく狂人

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本誌ネタバレ注意です。


絶望

「ム…必殺技ガナイ?…ナルホド、ソウカ」

 

雄英高校が全寮制に完全移行したあの日から、一週間が経過した。そんな中一学年ヒーロー科は兼ねてより林間合宿から計画されていたヒーロー仮免取得に向け、“一人最低二つ、必殺技の習得”というノルマが課せられた。そうして現在、僕ら一年B組はセメントス先生考案の施設、体育館γでその課題に取り組んでいた。

それぞれが自分の個性を考えて工夫し四苦八苦する生徒を、担任のブラドキングに加え、セメントス、エクトプラズム、ミッドナイトという豪華メンバーが見て回る形だ。そしてエクトプラズム先生が考え込んでいた僕に声をかけ、冒頭の議題となる。

 

「えぇ、僕の個性は状況によって左右されるので、必殺技もその場で編み出すってスタイルかな、と」

「ナラ、コノ訓練の趣旨トハ反スルガ、基本的ナ体術ヲ鍛エルカ?」

 

この場合の“必殺技”というのは自分の奥の手、という意識を持つことで試験や実戦で心の余裕を保つためのものだろう。同時に、ヒーローとしてのイメージを確立させるものでもあるが、生憎僕の《コピー》はどちらにも適していない。心の余裕も知名度もないヒーローになりうるという訳だ。まずいね。

 

「そうですね…。分身を二体お願いできますか?」

「ホウ、自信家ダナ。一体デハ余裕カ?」

「やだなぁ、単独で複数相手にする訓練をしておきたいだけですよ。周りに仲間がいない状況に備えて、ね」

「あら、仮免試験じゃその可能性は低いわよ?」

 

その時、僕らの会話が聞こえていたのだろう、ミッドナイト先生が口を挟んだ。

 

「仮免は受験者が多いから、どの学校もクラスまとめて同じ会場で一斉に受けるの。確かB組は…」

「国立舞鶴競技場ダ」

「そうそこ!ってわけで、クラスメイトと協力できるのよ。詳しい試験内容はわからないけど、物間君なら楽勝じゃないかしら」

「無駄ナプレッシャーヲカケルナ」

「はは…。ちなみに、B組の会場()ってことは、A組とは違うんですか?」

「そうね。あっちは国立多古競技場よ」

 

ふむ…。じゃあ緑谷とは違う会場ってことか。あっちが仮免取得してくれないと、後期のヒーローインターンの参加権すら無くなってしまう。そうならないために必要ならサポートしていこうと考えてたけど…こればかりはどうしようもないな。僕に有利な試験形式らしいが、慢心せず自分のことに集中することとしよう。

 

「ソレデ、訓練ハドウスル?」

「あ、それじゃ分身を──」

「待って物間君」

 

考え込んだ僕に、エクトプラズム先生が話を戻した。僕は当初の予定通り体術の訓練を頼もうとしたところ、ミッドナイト先生が声をあげた。僕とエクトプラズム先生は首を傾げ、彼女の言葉を待つ。そして、目をギラギラと少年のように輝かせたミッドナイト先生はこう言ったのだ。

 

「つくってみたらどう?──合体必殺技」

 

CASE.1 取蔭切奈の場合。

 

「ししっ。どう?女子になった感覚は?」

「…意味がわからない。というか意味がない」

「えー」

 

身体を分解することができる個性、《トカゲのしっぽ切り》で僕と取蔭はお互いの頭部を交換してみた。結果として、頭は物間寧人、身体は取蔭切奈の意味不明なモンスターが存在してしまった。なんだこれ。その逆を楽しんでいる取蔭と呆れている僕を見たミッドナイト先生は首を横に振った。

 

「ダメね。一発ネタ程度ってとこかしら」

 

こんなネタがあってたまるか。

 

「そもそも取蔭の身体の感覚はあくまで君が持ってるんだし、神経が繋がらないなら意味ないだろ、これ」

「二人三脚みたいに意思疎通しないと自然に動けないよね~やっぱボツ?」

「ならいっそ、不自然な存在になってしまえばいいんじゃないかしら」

「はい?」

「ほら──こんな感じで──」

「………」

 

ミッドナイトの指示に従い、僕と切奈は限界まで身体を分解する。そのパーツをミッドナイトがうんうんと唸りながら、プラモデルかのように組み立てていく。取蔭の分解された側頭部が冷や汗をかいているのを見て、彼女もこの先生のおかしさに気づいたようだった。

 

「ふぅ、こんな感じかしら」

 

結果として出来上がったのは、僕と取蔭のパーツを組み合わせ、一体の出来損ないロボットのような怪物だった。二人分の身体を一つに組み合わせ、腕が四本、僕の足のパーツは取蔭の足二本をサポートするように使われていた。

 

「──どうかしら?目を後ろにも設置したから、視界は360度見えるわよね?……それと、やる前には“──合・体!”って叫ぶといいと思うの。もちろん、声も揃えてね」

 

一体の怪物となってしまった僕と取蔭はミッドナイト先生にそう頼まれ、しばしの沈黙。何この人、こわいんですけど。マッド先生だろもはや。そうドン引きする僕の後ろから声がする。背後に組み立てられた取蔭の口が、こうつぶやいた。

 

「なるほど…。ついに物間と一つになっちゃったか…」

「全てを放棄したねぇ!?取蔭!?いや、取蔭さん!?」

「ちょっと動かないでよ~。一応当たってるんだけど?」

「そこの18禁ヒーローに言ってくれるかい!?そもそもどのパーツの感触かなんてわかんないし!」

「あら、できることなら味わいたかったようね」

「わ、スケベだ」

「黙って!?…ちょ、何か動いてるんだけど!何これ!?」

「ん、くるぶし」

 

くるぶし!?

 

CASE.2 円場硬成&宍田獣郎太の場合

 

「む…なんですかな物間殿。新たな特訓ですか?」

「ってかなんか疲れてね?」

 

なんとかミッドナイト先生を撒いた僕は、各自で必殺技考案に勤しんでいた円場と宍田を呼び出した。僕個人としてはさっきの件でモチベーションが全くないのだが、エクトプラズム先生の『将来ノチームアップノ予行演習ニモナル。一度経験シテミルトイイ』という言葉で、授業の一環として取り扱われている。あまり期待はできないが真面目に取り組むこととしよう。

 

「ん、まぁちょっと試したいことがあってね。君らの個性、貸してくれるかい?」

 

2人の了承を得て、僕の身体に《獣化(ビースト)》と《空気凝固》が宿る。2秒ほど目を瞑って予行演習(イメージ)、そして僕は息をおもいっきり吸い込む。

 

「──よし」

 

《獣化》した太い足で、僕は勢いよく跳躍。当然翼をもたない四足歩行の生き物はそのまま空中に留まることなどできやしない。だが僕なら、その不可能を覆せる。

 

「と、飛んでる…?おい、物間飛んでるぜ!」

「なんと、これは…」

 

呆気にとられる円場と宍田を視界に入れながら、驚くのはまだ早いと僕は笑う。

 

《コピー》は同時発動できない。《空気凝固》で空中に見えない足場を計算しながら配置し、すぐさま《獣化》に切り替えてその足元に飛び移る。空中を飛び回る獣は、その機動力の高さも相まってナイトアイの記憶の中にいたグラントリノのように動き回る。パフォーマンスを見せるように円場達の周囲を翻弄するように飛び回り、最後に軽やかに着地する。そんな僕を拍手で迎える二人。

 

「いやはや、さすが物間殿ですな。まさかこんな使い方があったとは…」

「空でも戦える宍田ってことだろ?けっこう強いんじゃねーのこれ…」

 

感心する宍田と驚きながらも引いた様子の円場に対し、僕は首を傾げた。

 

「なに言ってんの。けっこう強いから君たちに教えたんじゃないか」

 

宍田の機動力と攻撃力はB組内でもトップクラス。それを円場の《空気凝固》で最大限サポートするというスタイルは、簡単に対処できるものじゃない。

 

「僕が出来るってことは、二人にも出来るってことなんだから」

 

円場と宍田が顔を見合わせた。

 

「ま、僕一人だからこそタイミングよく足場を生成できるわけだし?二人の息が合えば、の話だけどね」

「今後の訓練次第、というワケですな」

「お前ばかり強くなってもらっちゃ困るしな!やってやろうぜ宍田!」

 

僕の挑発に笑顔でノッてきた宍田と円場。ま、こんなもんか。気合十分の彼らに背を向け、僕はその場から離れる。

 

「物間、サンキューな!」

 

僕の背中に声をかける円場。後ろを振り返らず、僕は手を軽く振って返す。ま、彼らのダサい技名でも楽しみにしておこう。

 

CASE.3 小大唯&柳レイ子の場合

 

「あれ、もしかして僕、いらない?」

「まぁぶっちゃけそうかも」

「ん」

 

僕が適当に見て回っていたところ、《サイズ》を使った小大が石ころを大きな岩に変え、柳が《ポルターガイスト》で的を模した壁に正確に当てている光景が目に入った。

 

出席番号19番、柳レイ子。ヒーローネーム“エミリー”の彼女の個性、《ポルターガイスト》は身近にあるものを操ることができる。制限としてはヒト一人分の重量までしか操れないことだ。外見は灰色の髪が片目を覆っており、確認できる右目の隈が特徴的だろうか。本人はその不気味さを狙って出しているのか、ホラー好きの側面もあって、より不気味である。あと拳藤と仲が良い。

 

「柳の操れる重量を完全に理解した小大が《サイズ》で重量を微調整しているのか。息の合ったコンビだね」

 

そういえば小大も拳藤とは仲が良かったな。日頃から仲良くしている分、こういう実践形式でも問題なく協力できるわけだ。

 

「そゆこと。で、なにしにきたの」

「ん」

「冷たいなぁ…」

 

ホラー映画を見ているときしか笑顔を見たことのない柳と、学年一のミステリアスガール小大は僕への対応が冷たい。柳はホラー系のビデオを貸してくれと頼めば嬉々として了承してくれるのでこれが素の対応だろうが、小大に関してはマジでわからない。常に僕を警戒しているような塩対応な気もする。ちょっと?君たちと仲のいい拳藤、僕とも仲いいよね?

 

「ま、ちょっとアドバイスかな。あ、エクトプラズム先生、こっちに一体お願いしまーす」

「イイダロウ」

「「?」」

 

たまたま通りかかったエクトプラズム先生に声をかけ、分身を一体もらう。

 

「で、これ倒せばいい?岩で跡形もなく」

「…ん」

「怖い一言を付け足すなよ。小大もかなりやる気だな?」

 

僕は二人を落ち着かせ、説明する前に彼女たちの個性を借りる。そうして、《サイズ》で手ごろな石を六つほど大きくし、《ポルターガイスト》で少し複雑に組み立てる。途中でエクトプラズム先生に中に入って寝ころんでもらった後、岩のいくつかを大きくして、重量を《ポルターガイスト》の範囲外とする。こうしないと簡単にクリアされちゃうからね。

 

「ナルホド、イイ考エダ」

「どーもどーも」

 

訓練と計算された岩の組み立て方に感心したエクトプラズム先生の言葉に、そう返した後、僕は小大と柳に改めて説明する。

 

「今からエクトプラズム先生は要救助者、この不安定な岩を取り除いて、中に埋まってる先生を助けるって訓練だよ。ミスったら崩れ落ちる」

「対敵じゃなくて、救助訓練てこと?」

 

僕は柳の問いかけに頷く。

 

「仮免ってことはヒーローとしてのあらゆる能力を見られるはず。戦闘能力に加え、授業でも取り扱ってる要救助者への対応、もね」

『今年ハ例外ダガ、基本ハ二年デ仮免取得ヲスル。ソノ分君タチハ授業デノ救助訓練ノ経験値ハ不足シテイル』

「──とのことだ。必殺技もいいけど、こういうのも意識しておいて損はないよ、って話さ」

 

岩に埋もれてくぐもった声のエクトプラズム先生の言葉を引き継ぐ。必殺技を編み出すメリットは多いものの、救助面ではカバーできないだろう。

 

「ま、僕からの挑戦状みたいなものさ。君らの力を合わせて、先生を救いだしてみるといい」

「…ん」

 

意外にも、僕の挑発にノり気だったのは小大だった。柳に目配せを交わし、一つの岩に触れる。さて、どうなるか。一応少しだけ、簡単にはクリアできないようにしたつもりだ。

 

『マテ、中カラ見テワカルガ、並ベ方ニ彼ノ性格ガニジミ出テイル。カナリ』

「ちょっと、ヒントはなしですよ先生」

『ナ二?…ダガ失敗スレバワタシガ──』

「ひっかけがあるんだって。唯、この岩じゃないんじゃない?」

「…ん」

「ここ先に小さくしたら…あっちが倒れそうじゃない?」

「…ん」

「あ、そこいいね。じゃあすぐ私がすぐどかすから、やっていいよ唯」

「ん」

「──あ」

『エ?』

 

南無。

 

 

「見てたわよ~?いい青春してるじゃない」

「…ミッドナイト」

「あら、呼び捨て?」

「いいように使いまわされたら、悪態もつきたくなりますよ」

「バレてたのね」

 

その後、何組か回ったものの、僕自身の必殺技を編み出すには至らなかった。そもそも、僕ができるということは同じ個性をもつクラスメイトにもできるのだから、オリジナルの個性をもつ彼らが習得した方が効率的なのだ。とんだ無駄足を彼女に踏まされた。どっと疲労が積もって休んでいるところを、ミッドナイト先生が声をかける。

 

「生徒に教師役をお願いするなんて、あまりおおっぴろげに言えないもの」

「ま、暇だったからいいんですけどね」

「お互い、いい刺激になったんじゃないの?」

「否定はしませんよ」

「あら、素直。にしても物間君、教師に向いてるんじゃない?オールマイトよりよっぽど向いてるわよ?」

「はは、あの人に比べれば誰だってそうですよ」

 

ミッドナイトの辛辣な言葉に、僕は思い出し笑いをする。

 

 

 

 

「──あら?物間君って、そんなにオールマイトと仲良かったかしら?」

 

 

 

「…最近、縁があるのか緑谷と喋ることが多くて。その関係で、オールマイトともよく話すんですよ」

 

一瞬言葉に詰まったものの、僕は用意していた言葉を紡ぎ出す。不自然さは残らなかったはず。

 

「あぁ、彼、オールマイトに憧れてるものね」

 

少々踏み込んだ会話だったが、特段怪しい反応は見られない。──念のため過去視を試すか?いや、過去視後は副作用として大きな疲労が僕を襲う。僕の力を知っている教師陣から見れば怪しく思われるだろう。僕自身が内通者でないことを証明できない限り、僕もあまり怪しい行動は避けたい。少なくとも、今ではない。

 

「そうだ、ついさっき、コスチュームの件が完了したって連絡が入ったわよ?まだ授業時間は残ってるし、受け取りにいってみたら?」

 

そう思い出したように告げたミッドナイト先生に、僕はそうします、と返し、運動場γを出る為ミッドナイトに背を向ける。視線を感じながら、僕はサポート科のパワーローダー先生がいる部屋、ディベロップメントスタジオに向かった。

 

 

 

「じゃ、ちょっと用あるから」

「オウ!」

 

その日の昼休み。鉄哲と学食を食べ、適当な理由を付けて別行動をとる。周りに誰もいないことを確認しながら約束の場所、仮眠室に足を踏み入れた僕は、すでに来ていたオールマイトの正面、そして緑谷の隣のソファに腰掛ける。

 

「お、物間少年がこっそり来たね」

「あれ、遅れました?」

「ううん、時間ぴったりだよ、物間君」

「そりゃよかった」

 

軽い挨拶はほどほどに、オールマイトが本題を切り出す。

 

「先日物間少年に言われたことを受けて、まだ途中だがまとめてみたんだ。──歴代継承者について」

 

そう言って、一冊のノートを取り出すオールマイト。

 

そう、この仮眠室の密会は僕にとって今日が二回目だ。その時は今持っている情報の共有と、自身の能力の説明を済ませた。その際、《ワン・フォー・オール》の中に、歴代継承者が生きていることを説明し、オールマイトに情報を求めたのだ。

 

僕と緑谷の真ん中にノートを広げ、大まかにだが目を通す。多少気にかかる点はあるが、ノート自体が未完成なら今追及することはないだろう。適宜確認していくとしよう。携帯で写真として残そうとも思ったが、あまり持ち運びたくない情報だ、控えよう。

 

「志村菜奈、《浮遊》…なるほど。ぴったりの個性だ」

「でも、ホントなんですか?この、《ワン・フォー・オール》の中でみなさんが生きてるっていうのは…」

 

僕が納得を示す隣で、緑谷が改めてそう疑問を抱く。オールマイトは困ったように頷いた。

 

「ワタシも先代との会話がなければ、そう簡単には信じられない話だ。それもなんとなくの“感覚”でもない、はっきりとした意思疎通ができるとはね…信じられないのも無理はないよ、緑谷少年」

 

確かオールマイトは、先代の志村菜奈と“ロマン”の話をしている。知らないおっさんが話しかけてきたという先代の体験談から理解もしやすいのだろう。

 

「すまないが、緑谷少年の為にももう一度説明してもらえないかい?物間少年」

「ごめんね、物間くん」

「ん、いーさ別に。前回の説明も完璧じゃなかったからね」

 

そうして、僕に矛先が向いた。二人に頼まれた僕は、改めて仮説を説明する。どこから話すべきか悩むが、まずは僕の個性の説明から入ろうか。

 

「僕の《コピー》は触れた人の個性を五分間使い続けられる、ってのは前言ったよね?」

「うん、発動系も異形系も使える、すごい個性だよね」

「そう、そこから使っていくうちに、僕の個性の本質は“他人の個性への干渉”ってことがわかったんだ。多分だけど、コピー能力はその副次的なものだと思う」

 

《ヘルフレイム》《予知》《ワープゲート》《改人脳無の大量の個性》と《ワン・フォー・オール》の残り火、では《コピー》を使って“同調(シンクロ)過去視(リコール)”が起きた。その経験からして、《コピー》は他人の個性に干渉し、過去を覗き見ることができると推測される。

 

「副次的って…コピーはついでってこと!?」

 

緑谷が僕の説明に目を見開かせて驚く様子を見ながら、僕は至って真面目に頷く。

 

「さらに詳しく言うと、多分“干渉”にも手順があるんだと思う。一度他人の個性を──正確には“個性因子”を複製して僕の中に宿すんだ。多分その個性因子(コピー)が、本来の個性因子(オリジナル)と全く同じ構造を持っていて、僕の中で“干渉”が発生するんだと思う」

「な、なるほど…。あれ?それじゃあ物間君が《ワン・フォー・オール》の中でオールマイトの先代に会ったってことは」

 

そう、緑谷はいい所に気が付いた。ここからが本題だ。僕はノートを見ながら言う。

 

「受け継がれる個性…《ワン・フォー・オール》には歴代継承者の個性因子までもが受け継がれている。そして個性因子さえあれば借りモノ(コピー)でも自由に扱える──この意味、わかるかい?」

 

ハッと僕の仮説に気づいた緑谷と、そんな僕らを静かに見つめるオールマイト。

 

一息ついて、僕はその仮説を口にした。

 

「緑谷、君にはこれから新たな個性が発現する。…あくまで、可能性だけどね」

 

そう一言添えて、僕の説明は終了した。

 

 

「少し、休憩を。…いや、もうすぐ昼休みも終わる。今日はこのへんで終わりにしようか」

「そうですね、混乱してる奴もいますし」

「ご、ごめん…」

 

そうアハハ…と笑う緑谷は席を立った。教室に戻るのだろう。

 

「あれ?物間君行かないの?」

「ん、一応時間ずらして戻るよ。一緒に戻るのもどうかと思うし」

「そ、そっか」

「ドライね、君」

 

オールマイトにそう指摘され、僕は苦笑いしつつ心の中で反省する。《ワン・フォー・オール》関連の話には慎重になりすぎている自覚はあった。緑谷との信頼関係が崩れるのは僕も避けたいところだ。

 

「それじゃ、先に行くね」

「……シュートスタイルに移行したんだって?今日、発目さんから聞いたよ」

 

仮眠室を出る直前の緑谷の背中に声をかける。

 

「──ま、悪くないんじゃない?オールマイトとは違うスタイルで」

 

緑谷の相棒としてナイトアイを超えようとする僕に対し、緑谷本人も独自のスタイルでオールマイトを超えようとしている。2代目コンビとしては、上々の滑り出しと言えるだろう。

 

「…!──ありがとう、物間くん!」

 

振り向き笑顔でそう言う緑谷に、はやく教室戻れとジェスチャーを送る。いや別に、照れくさいとかじゃないから。マジで。

 

「そういえば僕も聞いたんだけど物間君のコスチュームの時計、五分を測るんじゃなく、五分単位で測れるものにしたの!?それってもしかして──」

「ええい!いいからはよ戻れ!」

 

僕の注意に笑って頷き、やっと緑谷は仮眠室を出た。僕は時計を見ながら悪態をつく。あと五分くらいは時間がありそうだな、と横目で確認する。

 

「──ったく…」

「はは、うまくやっているようで何よりだよ」

「こちらこそ。そう見えて何よりですよ」

 

そう言い返しながら、僕はオールマイトにノートを返す。受け取ったオールマイトは笑顔を見せているものの、どこか浮かない表情だ。そういえば、さっきから口数が少なかったな。

 

「なにか問題でも?」

「…物間少年の考察を聞いてワタシも考えてみたんだが」

「…?」

 

僕は首を傾げながら、オールマイトの次の言葉を待つ。はて、何か説明不足なところがあっただろうか。

 

「君が“干渉”できるということは、恐らくだが奴も──」

 

あぁ、その話か、と僕は納得する。僕は確信を持って頷く。

 

「ええ、ほぼ確実に出来るでしょう。オール・フォー・ワンも」

 

僕が可能なことは、当然奴にも可能だ。“干渉”のロジックを鑑みても、奴の中に宿るあらゆる個性は生きているだろう。

 

「む…」

「そう気を張らないでくださいよ。元№1。奴は今身動きできないんでしょう?」

 

特殊刑務所、タルタロス。ヒーロー殺し、ステインも収容されているあの場所は死刑すら生温い極悪人が収容される、日本で最も危険で安全な刑務所だ。特にオール・フォー・ワンに対してなら厳重に拘束されていることだろう。収容されて日数も経過した、脱獄の恐れもないし、いざとなれば殺すことを国も躊躇わないだろう。

 

「そもそも、“干渉”できたところで奴は何も───」

 

 

 

『───()()()()()()()()()()()()()、だろうね』

 

 

「──────でき、な」

 

 

 

 

 

 

その時僕は、オール・フォー・ワンの言葉を思い出す。あの神野で奴が放った、あの時理解できなかった言葉。

 

“個性に宿る人格”

 

“奪い与える個性”

 

“死柄木弔”

 

そして──“干渉”。

 

僕の様子がおかしいことに気づいたオールマイトが、不審そうに僕の顔を覗き込んだ。

 

「物間少年?君…汗、すごいぞ?なにか悩みがあるなら──」

「──はは、なるほどなぁ…。ねぇ、オールマイト」

 

だから、“僕が脅威”、か。奴が僕を評価していた理由が、やっとわかった気がする。つい先日、命を賭してオール・フォー・ワンを倒した彼に聞くのはちょっと申し訳ないなぁ、なんて思いながら僕は言う。

 

 

 

 

 

 

「オール・フォー・ワン、どうやって倒しましょうか?」

「───what?」

 

ただ確実なのは、奴を倒すことができるのはこの世界でたった二人。──緑谷出久と物間寧人のみ、という事実だ。そしてなんとなくだが、その間、緑谷出久は死柄木弔と対峙する気がする。ということは、僕の敵は誰になるか。

 

まったく、絶望しかない。

 


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