強キャラ物間くん。   作:ささやく狂人

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激動の一日

「…え?」

 

パァン、と白色の手袋を付けた僕の手が、麗日さんの手元にあるオレンジ色のボールを弾き飛ばす。困惑の声を漏らす()()()()()姿()()()()()()に向かって、僕はこう告げた。

 

「ひょっとして、士傑の人ですか?」

 

問いかける形にはなったけど、半ば確信があった。僕と士傑の女性を取り囲むようにして陣形が組まれていた他校の生徒の前で、目の前にいる麗日さんは不用意に姿を現し、個性を発動させる素振りさえ見せなかった。だけど──。

 

「そんなの、僕の知ってる麗日さんじゃない」

「───気付いて助けたって事は、逆に利用しようとしていたの?」

「…そ、そこまで頭は回ってません。けど結果的に助けて良かった。麗日さんじゃないならあのまま落下して大怪我してましたから」

 

そう言いながら、麗日さんを形作っていたモノが剥がれ落ちていく。その異様な光景に動揺しながらも答えを返す僕に、彼女は笑ってこう言った。

 

「…それがキミの理由なんだね──()()()()()()()()()()、キミのコト」

 

 

⭐︎

 

 

 

同日。本土から約5km離れた沖に建造された収容施設───“対個性最高警備特殊拘置所”通称『タルタロス』───その最下層の一室。

 

「好意と理解の二つには近しいモノがある。そうは思わないかい?」

「…………………」

「好きな教科ほど成績が良くなるように、興味が有れば有るほどその対象に対して理解する事が出来る」

「…」

 

片方は言葉を続け、片方は無言を貫く。

 

「君は僕を嫌いのようだが、僕は君を好ましく思っている。だからこそ君が大切にしたいモノ、嫌がる事が手に取るように理解できる。それが、君と僕の決定的な違いさ、オールマイト」

「…良く喋るな」

「察してくれよ!久々に会話が成り立つんだ」

 

派手なヒーローコスチュームを細身の身体に纏うオールマイトは、鋭い視線で正面に居座る人物を射抜く。

 

「貴様は何がしたい?何がしたかった?人の理を超え、その身を保ち生き永らえながらその全てを搾取、支配、人を弄ぶことに費やして何を為そうとした?」

「今言った事が全てさ。どうせ君には理解出来ないのだから、意味の無い会話だ。…だがそうだな、強いて言えば君と同じだ。君が正義のヒーローに憧れたように僕は悪の魔王に憧れた。シンプルだろう?」

 

オール・フォー・ワンはそう多くは語らなかった。これが生産性の無い話題と確信しているように。だからこそ、別の話題を取り上げるのだろう。

 

「ところで…世間は君の引退にかなり動揺したと思うんだが、様子はどうだい?」

『外の情報は遮断しています』

「…だ、そうだ」

 

この面会を見守る看守(自分)から告げられた言葉、同じように拒否するオールマイト。そんな状況を意にも介さずオール・フォー・ワンは言葉を続けた。

 

「きっとこうかな?今頃メディアは君のいなくなった不安、そして新たなリーダーエンデヴァーへの懸念が重なりヒーロー社会全体の団結を訴えている───一方で、不安定になりつつある空気を察知してヒーローを支持しない、いわゆる日陰者が行動を起こし始める」

 

オールマイトは静かな表情でそれを聞く。自由に話す目の前の男を止める気配は一切無かった。この男から放たれる一言一句が、たとえ信憑性が限りなく低いとしても、情報の一つだからだ。

 

「弔たちはしばらく潜伏を続けるんじゃないかな。台頭する組織を見極めるためにね。どこも勢力を拡げたいだろうからヴィラン同士での争いも頻発するだろうね。つまりヒーローは、連合以外の組織にも目を光らせなければいけないわけだ」

 

僕の描いたシナリオが機能していれば、こんな感じかな、と話すオール・フォー・ワン。推測を話していたはずのその口振りには、何故か確信があるようだった。

 

「そんな混沌を巻き起こした原因の一つは間違いなく、君の偽りの姿と引退な訳だ」

 

ここで一呼吸置かれたその間は、オールマイトに言葉がじわりと染み込むように、よく聞かせるように。そんな意図が込められた話し方だった。

 

「今後君は人を救うこと叶わず自身が原因で増加するヴィランどもを指をくわえ眺めるしかできず無力さにうちひしがれながら余生を過ごすと思うんだが…教えてくれないか。どんな気分なんだ?」

『…っオールマイト、離れてください』

 

ガタン、とオールマイトが立ち上がるが、それを制止する。数秒動きを止め、冷静になったオールマイトは静かに口を開いた。

 

「貴様だけが全てわかっていると思うな。貴様の考えはよくわかっている。お師匠の血縁である死柄木に私あるいは私と少年を殺させる。そうだな?」

 

そう問いかけるオールマイト。ただの看守である自分には、彼が話した内容の全てを理解する事は出来ない。録音テープを回すと同時に手元のパソコンに会話内容を正確に打ち込むのが自分の職務だ。“お師匠”や“少年”といった言葉の意味を言及するのが、自分の仕事ではない事は確かだ。

 

「…………?」

 

そんな事を考えている間にも時間は過ぎているのだが、会話が途切れた事を妙に思う。そんな不自然な空白の中、私はオールマイトの様子がおかしい事に気付いた。次に待つオール・フォー・ワンの返答を心待ちにしているような、そんな“焦燥”。対して、その反応を楽しむようにオール・フォー・ワンはゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

────()()()()()()

 

 

 

 

 

「………ッ‼︎貴様はッ!その為の“後継”とでも言うつもりか!!」

「クク。神野(カミノ)で君が喜ぶ姿は、中々滑稽だったよ──()()()()()()()()()()()

 

 

 

激昂。両者の隔たりとして機能するガラスを叩くオールマイト。その姿と怒りを露わにした態度に息を呑む。そして会話の意味は理解出来ないが、これ以上オールマイトは冷静に奴と話せる状態ではないだけはわかる。他の職員に、オールマイトを退出させるように命じる。

 

「君では辿り着けなかった答えだろう?感謝するといい、()()1()()()()()に」

「……黙れ」

『オールマイト、退出を』

()は君には出来ない事を為せる。何故なら敵にも興味が有るから、さ。それは一種の好意であり、理解の手段だ。──本当に()()()()()()だ、そう思わないかい?」

「…黙れ!ワタシは、彼にそんな事を背負わせない!」

「舞台を降りた君では無理だ」

 

“まるで自分は降りていない”そんな口振りだった。

激昂するオールマイトを、先程指示した職員が強引に面会室から連れ出そうとする。引き摺られるオールマイトに向かって、オール・フォー・ワンは告げる。

 

「もう既に、僕と彼の戦いは始まっている」

「…!」

 

その言葉にオールマイトは目を見開き、言葉を失ったまま───面会室から退出させられた。会話相手を失ったオール・フォー・ワンは、今さっき閉じられた扉を見ながら付け足すように呟いた。その言葉を実際に聞いたのは、看守である自分だけ。

 

 

─────そして、終わっている。

 

 

 

⭐︎

 

同日。

 

 

──気分が悪い。

 

 

寮の自室で、メールで送られてきた内容に目を通した僕はベッドに伏せたまま頭を巡らすも、集中出来ない。うまく頭が回らない原因に夜食を口にしていない事に気付きながら立ち上がる。

 

机に無造作に置かれた、今日取得したばかりのヒーローとしての仮免許証を見る。ただでさえハードな1日だった。何百人も集まる中で勝ち抜いた仮免試験、当然僕の疲労も溜まっている。

 

それでも、疲れて休みたい気分じゃなかった。寧ろ、考えていないと気が済まなかった。

 

オールマイトから送られた、“オール・フォー・ワン”との面会内容の概略が、僕の心と体を重くする。僕が無理言って送ってもらったのに、変な話だ。当然、これは機密事項であり口外してはいけない…ましてや、僕のような高校生が知っていい内容ではない。それでもオールマイトは僕を事情を知る者として──いや、(れっき)とした関係者として託した。

 

そしてこれは僕の想定した中でも最悪の内容であり、僕だけが得る事の出来る新たな情報が含まれている。僕だけが、僕にしか気付けない事実。これは、オール・フォー・ワンから僕に向けた言葉でもあるのだろう。

 

遠く離れて、会話もせずに───それでも、僕と奴は戦っている。そしてこの戦場に、オールマイトは介入出来ない。

 

そういう意味ではオールマイトはオール・フォー・ワンの言葉を受け入れている。だからこそ僕にこんな機密事項を渡す。そうする事で、戦場との繋がりを得ようとする。正確に言えば、僕からも同じように情報を開示する事を暗に求めている。

 

その意図は理解している。だが情報を開示する内容、そして相手を選ぶ必要がある。───今日からは本格的に、オール・フォー・ワンが送り込んだ“内通者”を警戒しなければいけないのだから。

 

「──物間?いないの?」

 

とそんな時、ドアが開かれる。顔を覗かせた彼女は真っ暗な部屋で佇む僕を見つけ、驚いた顔をする。ノックくらいして欲しいな、と一瞬思ったけど、多分僕が気付かなかっただけなんだろう。

 

「…はいこれ。ランチラッシュさんが心配しててさ、持ってけって」

「ありがとう、…さすが委員長。助かるよ」

 

手渡されたのはラッピングされたおにぎりだった。食堂で勤務するランチラッシュの料理はどれも絶品だ。食欲はないがありがたく頂く。そして彼女は他に何も言う事なく、そして何も聞かなかった。

 

でも、きっと彼女は勘づいている。今日、一年B組が臨んだ仮免許試験、その最中に起きた“何か”が僕を追い詰めている事に。誰かに悟らせてしまう程、僕を動揺させる事実が明らかになった事に。

 

「できるだけはやく寝なよ。明日から新学期なんだから」

「わかってるよ。おやすみ」

「…ん」

 

それでも、拳藤はそれ以上踏み込む事はしなかった。一瞬見せた悔しそうな表情を不思議に思ったが、そのまま自室に帰ってくれた拳藤を有り難く思う。

 

また、1人の時間が生まれる。暗闇の中で、僕は計画を立てる。策を練る。巨悪と戦う覚悟はもう出来ている。あとは時間と手札があればいい。

 

時計の針は進む。今日が段々と終わりに近づく。それでも、僕を睡魔が襲う事は無かった。不安が僕の眠気を殺している事には、最後まで気付かなかった。

 

「仲間が…足りない。事情を理解してくれそうな奴が、せめてもう一人…」

 

思考の中、どこか遠くで爆発音が聞こえた。それは聞き覚えのある───自分でも使った事のある《個性》の音、そんな気がした。生徒が出歩くには遅すぎる時間帯なのに。

 

それを聞いた直後、無意識に安心したのか僕を眠気が襲う。僕の抵抗虚しく、瞼はゆっくりと重くなる。

そうして、激動の一日が終わっていく。

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