肉体の一部や全身を金属化する事ができる!最強の盾にも矛にもなる!
雄英生としての一年目、その半分の課程を終えた僕らは今日から後期を迎える。一年生にして仮免許取得、寮生活への移行。僕らの高校生活を取り巻く大きな変化。
「柱の喪失。あの事件の影響は予想を超えた速度で現れ始めている。これから社会には大きな困難が待ち受けているだろう。特にヒーロー科諸君…2~3年生の多くが取り組んでいる校外活動ヒーローインターンもこれまで以上に危機意識を持って考える必要がある」
教壇にちんまりと立ちながら、そんな環境の変化について言及するのは根津校長。
「暗い話はどうしたって空気が重くなるね。大人たちは今その重い空気をどうにかしようと頑張っているんだ─── 君たちは是非ともその頑張りを受け継ぎ、発展させられる人材になってほしい」
校長先生の鼓舞にも似た言葉は、僕らの気を引き締めるのに充分だった。その後、生活指導担当の教員であるハウンドドッグ先生からは、昨晩喧嘩した生徒がいた事に伴う注意喚起が行われた。ふむ、全く心当たりがないな。
⭐︎
「君タチまとめて、オレと戦ってみようよ!」
そんな始業式を終えて2日後の午後、体育着に着替えた僕ら一年B組は体育館γで雄英高校ビッグ3の一人、通形ミリオと対面していた。
「あの…私達、インターンの説明と伺っているのですが…?」
控えめに塩崎が疑問を溢す。そう、先日の始業式で根津校長も言及していたインターン活動、その説明を現地で活躍する雄英生に説明してもらうという趣旨でこの場に集められた。身体を動かす訓練のような時間とは思っていなかった彼女の反応は正しい。そんな彼女と対称的に、ミリオ先輩は元気よく、快活に返した。
「さっき別のクラスでやってみた感じ、座学より
「…いや、ミリオ…。1分で終わる話と評した子もいた」
「時間余ったら、この子達にも質問していいのかな?」
まさに自由人。陰で様子を見守る天喰環、波動ねじれが口々に呟く中、一年B組の態度は消極的だった。僕はその様子を黙って見守る。
「戦う…つっても…ねぇ?20対1って事すよね?」
「流石にそれは先輩殿でも…」
骨抜、宍田が遠慮の姿勢を示しながら、担任であるブラドキングに視線を向ける。ブラド先生は無言で頷くだけだった。そんな中、僕は挙手して口を開く。
「通形先輩。質問があるんですけど」
「HAHA!久しぶりの挨拶もナシかい!?思ったより元気そうだね、物間クン!」
通形先輩と関わるようになった切っ掛けはサー・ナイトアイ事務所での職業体験だ。その後、僕と爆豪は敵連合に拉致された林間合宿があったので、この人なりに僕のことを心配していたのだろう、と察する。心の中で感謝を唱えながら、僕は質問を口にする。
「戦うって言ってますけど、勝利条件は何ですか?」
「片方が戦闘不能になったら、では不服かい?」
「まぁ、それなら降参ですね」
「…ちょ、ちょっと!?物間!」
もう片方の手も挙げて降参のポーズを取る僕の肩を、拳藤が慌てたように掴む。勿論彼女の言いたい事はわかるが、これは言葉で説明したところで納得される内容ではない。僕はクラスメイトに伝わるように、はっきり告げる。
「先輩の“個性”を知ってる僕だからこそ言える。あの人を倒すには、20人じゃ足りないよ」
それほどまでに、僕らとは格が違う。僕がここまで言う事に驚いたのか、数人が息を呑む。まぁ確かに珍しい事だが、これに関しては認めざるを得ないことだ。
「…“ミリオに一撃を食らわせる”。それが彼らの勝利条件にしよう」
「意地悪だよねー、通形も。もう一つのクラスの子達は、それすら出来なかったのに」
そんな先輩方2人の言葉に、僕以外のクラスメイトが驚く。もう一つのクラス───一年A組が完敗したという事実に。…どうだろう、手合わせが明日だったら、A組が勝つ未来もありそうだけど。まぁ、考えても仕方の無い事か。
「うん!良い緊張感だ───ルールも決まった事だし…そろそろ行くよ!!」
林間合宿で初めて、僕らB組は敵と邂逅した。その恐怖、不安、緊張感…その経験が、僕らの意識を戦場のものに切り替えてくれる。
通形先輩が動くと同時に、僕ら全員が臨戦体制を取ることが出来た。うん、良い集中力…皆動けてる。
だからこそ、僕の指示も聞き逃さない。
「────後ろだッ!!」
「させるかよッ!“エアプリズン”!」
「下がって、唯!──“双大拳”!」
僕の指示に素早く反応した円場、拳藤が後衛組のカバーに入る。《空気凝固》で造りだす箱で逃げ場を無くし、着撃の瞬間に《大拳》を発動させる事でスピードと重量を殺す事なく高威力の一撃を繰り出す“双大拳”。
しかし、通形ミリオはそれら全てを《透過》する。そして意にも介さず後衛組へと接近していく。
「…《サイズ・大》」
「距離、角度良し…“
《サイズ》で巨大化させたビー玉を小大から受け取った庄田二連撃は《二重衝撃》で槍のように通形先輩に向かって放つ。狙いは顔。
だが、来るとわかっていればその部分のみを《透過》すればやり過ごせる。現に、ビー玉は通形先輩の顔を貫通して背後の壁にめり込む。だが裏を返せば───。
「不意を突いた遠距離攻撃なら、オレに一撃食らわせれるかもね!」
だからこそ、通形先輩は後衛組を優先して倒す事に決めた。だがその動きと傾向は、何度も手合わせした僕なら容易に予測出来た。
「───骨抜!」
「任せろっての!《柔化》!」
「……おっと!」
僕は後衛組のカバーに回る為に動きながら、骨抜に指示を出す。途端、通形先輩の足元が
「この場所に罠を仕込んでいたのか…!勘がいいのか、中々のやり手だね、キミ!そして──」
膝下まで埋まった通形先輩に向かって、柳の《ポルターガイスト》によって操られた、先程の巨大化したビー玉が襲いかかる。
その瞬間、通形先輩は姿を消す。正確に言えば、自ら地中へと潜っていった。ビー玉は誰もいない空間を横切り、僕らは彼の姿を完全に見失う。
「───やはりキミは良い司令塔だ!サーが気に入るのも当然!」
「今んとこ、不仲ですけどね───ッ⁉︎」
「HAHA!それもまた
それは、僕にとって予想外。先程までの後衛組を狙っていた動きから一変して、僕を──それも真正面から姿を現した。背後にも注意を割いていた僕は一瞬、反応が遅れる。腕によるガードは間に合わないし、意味が無い。
「キミが頭を使うように、オレも当然、使うんだよね!このクラス…先に君を崩せば、隙が生まれる!」
POWER‼︎‼︎‼︎
そう言いながら、僕の腹に通形先輩の拳が入る。腹パンによる強い衝撃。職場体験の時なら、ここで戦闘不能になっていた。
「…………い、」
一瞬の静寂の後、
「痛すぎるなぁ!!コレ!なんで!?」
「───ウラァ‼︎‼︎“俺拳”!」
赤く腫れた拳を冷やすようにヒラヒラとさせる通形先輩の背後から、全身を鋼鉄化させた鉄哲が姿を見せる。
「成る程ね!これはこれは…油断した!キミの《個性》か!!」
大きな隙を見せてしまった事を危ういと思ったのか、地中に潜って再び姿を消す通形先輩。仕切り直しを狙ったのだろうが、それは逆効果だ。三回目、《透過》の瞬間移動を使えば使うほど、貴方は自分の首を絞める。
今度は、僕の背後に現れた。それは予測出来た事だったから躊躇なく《
「“集中鉄化”───“シュートスタイル”」
「っと!!見覚えのある動きだ!!」
脚だけに集中して《スティール》で鋼鉄化させる事で、素早さを殺さず蹴りを繰り出せる。威力も反応速度も申し分無かったが、A組の誰かで経験済みの動きだったのか難なく反応された。
「これで隙だらけ、だね!!」
「───させっかヨォ!!」
無理に蹴りを繰り出したせいで僕の体勢が崩れ、通形先輩は反撃を繰り出そうとする。だが、僕と彼の間に鉄哲が割り込む事で動きが止まる。不用意に鉄の塊に手を出せば、痛い目を見るのは自分だからだ。
「──凄いな」
「ねー。あの2人、良いコンビになるんじゃないかな。息ピッタシだ」
「…熱血少年はまだ荒削りみたいだが…それをもう1人の彼が上手くカバーしている。最強の矛にも盾にもなる《個性》…二人いれば隙が無いな」
「すごいねぇ、通形と互角だなんて」
けど、決定打はお互いに無い。僕と鉄哲、通形先輩の近接戦は確かに完全な互角ではあったが、これを続けても仕方ない。どちらかが先に仕掛ける必要があり、先に動いたのは通形先輩だった。
「食らえ──“ブラインドタッチ目潰し”!」
「隙だらけダゼ!先輩ヨォ!!」
僕の目を狙った2本の指、思わず目を瞑りそうになるがそれは危険だと瞬時に判断。後ろに飛び退く事で安全を確保する。そして“目潰し”の隙を逃さぬよう鉄哲が突っ込む。
「───待て!」
「もう遅いさ!!」
僕の焦った声を掻き消すように声を張り上げた通形先輩は、接近してきた鉄哲の腕を
「打撃が通りにくいならそりゃあ、他の手も考えるよね!!」
そのまま力一杯投げ飛ばす。これで僕と鉄哲は完全に分断され、最強の矛と盾はバラバラに。
だが、投げ飛ばすという動作に伴う大きな隙を作ること。───それが、僕の計画だ。
「───今だよ、茨!」
「心得ています───“土遁・ドロローサ”」
そしてここからは、彼女の計画が機能する。
一撃を警戒していた通形先輩は、ただ殴り掛かっても意味がない。人間の反応速度を超える速さでは動けない以上、《透過》に躱されて終わりだ。
なら、どうするべきか?
地中から密かに機を伺っていた塩崎の《ツル》が通形先輩の両足を拘束する。これではまだ、一撃を加えたとは言えない。まだ、戦いは終わっていない。なのに───。
通形先輩は動きを止めた。《透過》を発動させる素振りも見せない。まるで時が止まったようだった。
「ねぇねぇ。なんで通形は動かないの?変なの」
「これは……!」
この静寂を不思議に思う波動先輩と、驚いたような天喰先輩の声。そしてビッグ3の三人目…通形先輩は───。
相変わらず両足の拘束から抜け出そうとせず、満面の笑顔で僕を見た。見事だ、と告げるように。けど、僕は首を振る。賞賛を浴びるべきは僕じゃない。
静寂の後、彼女が口を開いた。
「これで詰みですよね、先輩」
「キミは──拳藤一佳さん、だったよね!」
嬉しそうにそう言った通形先輩は、降参のポーズを取った。
⭐︎
「えー、なんでなの?天喰クン。通形ならあの《ツル》も《透過》で簡単に抜け出せるのに」
わからないことが不満なのか、通形先輩が負けたことが不満なのか、波動先輩はつまらなそうに溢す。そんな波動先輩の横にいる…未だ驚きを隠せない天喰先輩は“自分が説明してもいいのか”というように拳藤を見る。拳藤が頷いたのを見て、天喰先輩は説明を始めた。
「…確かに波動さんの言う通り抜け出す事は簡単だ。…だが、足を拘束されるのと腕を拘束されるのは決定的な違いがある。……正確に言えば、足を《透過》させると必ず“ある事”が起こるんだ」
「ある事って……あ、
波動先輩はパン、と手を叩いて正解を出す。そう、この戦闘で何度も見た、通形先輩が地面に潜る様子。長い付き合いの彼女達ならもっと見覚えがあるだろう。
「…足の裏を透過させる訳だから、当然ミリオは地面に潜らざるを得ない。そして《透過》を解除する事で地中に突如生まれたミリオという質量が弾き出され、再び地上へと姿を現す。これが“透過の瞬間移動”の原理だ」
「うんうん、それで?」
「彼らの…いや、彼女の計画はその“瞬間移動”を使わせる事だ。“瞬間移動”の直後は《透過》を解除している訳だからそこに一撃を叩き込む、それで彼らの勝利だ」
「へぇ〜。なんか、モグラ叩きみたいだね。……?でもそれって通形が出てくる穴がわかってないと、成立しないよね?」
ここで、天喰先輩はぐるりと見渡す。運動場γの全体を見るように。
「…言い得て妙だな。“穴がどこにあるかもわからないモグラ叩き”。彼女らは、この策を成し遂げたんだ」
天喰先輩が驚いた点。きっとそれは、気付けば視界に映る範囲に
僕と鉄哲と通形先輩──この3人の戦いに目を奪われる余り、他のクラスメイトが誰も介入してこない事を不思議に思うのが遅れていた。
拳藤が詰みを宣言したその時点で、拳藤は全てのクラスメイトに指示を出し終えていた。運動場γという範囲に限り、“瞬間移動”で出てきた通形先輩を“叩ける”ようにクラスメイトを
それに気付いた通形先輩は動きを止め、詰みを理解した。
「あー!なるほど!」
そこで、ポンと手を叩いて閃いた事をアピールする波動先輩。そしてその指は運動場γの天井へと向けられる。
「ずっと不思議だったんだよねぇ。なんで
「へへ。気付いてくれました〜?」
ニヤリと笑いながら長い緑色の髪を指でくるくるとする彼女──取陰切奈は自慢げに胸を張った。
「あれ、通形に伝えるためだったんだね。“もう逃げ場はないぞ〜!”って」
「そんな可愛い感じじゃないんすけど…」
照れ臭そうにそっぽを向く取陰をよそに、うんうん、と頷く波動先輩。《トカゲのしっぽ切り》で分離した目を上空で光らせておく事で、どこに逃げようとも視覚できる。まさに監視役の中心を彼女は担ってくれたんだろう。
「そしてオレ相手に時間稼ぎと隙を作った男子二人!見事だったね!打ち合わせ無しで前線を張り続けた判断も素晴らしい!少しでも撤退の意思を見せれば、オレももう少し早く異変に気付けたからね!」
僕と鉄哲を真正面に褒める通形先輩。鉄哲は褒められてむず痒そうだった。
「拳藤の意図は途中でわかったし…
「なんでか知らネェけど、物間とは戦いやすいんだよな!」
「ウン!良いコンビだ!!」
大きく頷く通形先輩に苦笑いを返す。口には出さないが、普段から鉄哲と共に過ごしている結果だろうな、と思った。
「あとは…《柔化》の彼も良かったね!あの時オレが少し焦ったのを見て、足の裏と“瞬間移動”の関係に気付いたようだしね!」
通形先輩が地上にいるという事は、足の裏は《透過》していないという事になる。これが明確にわかるシーンを作り出したのは、間違いなく骨抜の功績だろう。
「そして作戦の要である茨って呼ばれてたキミ!地中に《ツル》を潜める判断、作戦決行のタイミングも完璧だったよ!」
「…あざっす」
「拳藤さんの指示に従っただけですので」
褒められた2人…骨抜は軽くて浅いお辞儀を返す。対称的に、深く腰を曲げて賞賛を受け取る塩崎。
そうして満を持して、通形先輩は拳藤を見る。
「そう!間違いなく今回のMVPは彼女だ!奇抜な作戦というユニークさ!一つのクラスを纏め上げる指揮力と、それに至るまでの積み重なる信頼!そして───」
ここで通形先輩は一呼吸置き、僕ら全員を見渡した。
「───経験と推測!これが、オレたちが一番伝えたかった事なんだよね」
「時に物間君!キミはオレのパンチを受ける時、お腹に“集中鉄化”させていたね!それは何故だい?」
まだ仄かに赤い手を冷やすように振りながら、僕に問う。僕は求められた解答を考えようと思ったが、この人相手に小細工するのも時間の無駄だと思い、ありのまま答えた。
「職場体験で一緒になった時に、腹をたくさん狙われたからです」
天喰先輩が通形先輩を呆れた顔で見る。手加減はしなかったんだろうな…と言いたげな顔だったが、そんなの気にもせず満足そうに通形先輩は頷いた。
「そう、彼は過去のオレとの手合わせという経験から、今日の攻撃を推測した」
更に言うなら、後衛組を狙う判断や始めに背後を取る傾向なども以前の通形先輩との関わりから読み取った事だ。…僅かに僕の推測を外れたのは、通形先輩が僕の真正面から姿を現した事。背後を警戒していた僕にとって、逆を突かれた形になった訳だ。──つまり、彼は僕が予測すると予測した。計算外だったのは通形先輩が僕を思ったより高く買っていた事だろう。
そしてこれが、経験という糧になる。多少の悔しさを心に滲ませながら、僕は通形先輩の話の続きを聞く。
「拳藤一佳さん!キミはどうやってオレの“瞬間移動”のカラクリに気付いたんだい?」
「えっと…骨抜の《柔化》が効いて、“瞬間移動”で逃げた時…ですかね」
「そう!この戦いで2、3回しか使ってない技の原理を見て“経験”し、“推測”して策を立てた!─── 長くなったけれどコレが手合わせの理由。言葉よりも経験で伝えたかった!」
「…なんだか、先生方のする講評みたいになってたな」
「先生ごっこって感じで、私は結構楽しかったよ?」
“経験”と“推測”が雄英トップヒーロー『ルミリオン』の強さの秘訣。そう唱える理由の一つに、彼があの環境に感謝しているからだろう。彼を育てた師がいる、あの事務所に。
「インターンにおいて我々はお客ではなく1人のサイドキック、プロとして扱われるんだよね。それはとても恐ろしいよ。プロの現場では時に人の死にも立ち会う」
───わかっている。だからこそ、僕はあの人の強さが欲しい。ルミリオンが吸収したように、僕の“経験”と“推測”の力を育てたい。それが、巨悪に対抗する
「けれども怖い思いもつらい思いもすべてが学校じゃ手に入らない最高級の経験!俺はインターンで得た経験を力に変えてトップをつかんだ!──ので!怖くてもやるべきだと思うよ1年生!」
後期から始まるインターン、僕は───物間寧人はナイトアイ事務所に行くと決めている。彼を
クラスメイトと共に拍手をしながら、僕は自分の決意が固まった事を再認識した。
⭐︎
時間に余裕があったので、運動場γで個人訓練という名の自由時間が生まれた。通形先輩にインターンの件で改めて挨拶しようと思ったが、彼は今ブラド先生と話しているようだったので諦めた。
「ねぇねぇ、これって切れ目の部分はどうなってるの?痛くないの?」
「っあー…。自分トカゲなんで…」
辺りを何となく見回してると、珍しく気圧されている取陰を見つけて、少し笑いそうになった。その瞬間、僕の肩を誰かが掴む。それは腕の無い、手の平だけの状態だった。
巻き込まれそうな気配を感じ、僕は瞬時に目を伏せて取陰と波動先輩から距離をとる。だがそんな僕の抵抗虚しく、再び肩を掴まれる。
逃げられないか…そう半ば諦めながら振り返ると、そこにいたのは意外な人物だった。
「天喰先輩…ですよね」
「…すまない…少し聞きたい事があって」
俯きながら小声で僕に話しかける天喰先輩。あまり人と関わるのを好まない人だと思っていたため、僕は驚きながら彼の次の言葉を促す。意外と積極性もある人なんだな、と彼の性格を再分析しながら。
「…ミリオも波動さんも、今回の作戦の立案者はキミのクラスの委員長…拳藤一佳さんだと思ってるけど。いや、勿論俺もそう思う。でも正確には──」
「…………」
彼は俯いているから、僕の表情が見えない。
「───最初に思い付いたの、キミじゃないのか?」
「
自分で出した声が、思ったより無感情だった事に驚いた。けど、それに天喰先輩が気付く様子は無かった。人の視線は気にするけど、空気は読めない人だと再評価を下す。
「…勝利条件を変えた事、《柔化》の彼に指示した事。──目立つ事でミリオを前線まで誘き寄せた事。…まるで、彼女にあの策を
君は、最初から《透過》について知ってる生徒だからね。そう話す天喰先輩の推測に対し、僕は頭を下げる。
「ありがとうございます。
僕はその言葉を残し、彼の質問に答えぬまま背を向けた。
…やはり、聡い人には気付かれる。けど思い付きで考えたものにしては、良いシミュレートになった。反省点も見えた。天喰環という人物の評価──理解が間違いだった。見られる事を嫌うからといって──いや、だからこそ人の事をよく注視していた。
もし彼を予め“
全く、まるで全てを掌の上で転がす黒幕のような考え方だ。今回に限っては、天喰先輩が僕の掌から零れ落ちた訳だが。…同じ高校の先輩すら騙しきれないとはね。道は遠そうだ。
僕が未来で相手するのは正真正銘、最凶の“黒幕”だ。そんな奴相手に、物間寧人のまま立ち向かったところで自殺行為。
だからこそ、僕は思考を奴に近付ける。理解する。
『彼は君には出来ない事を為せる。何故なら敵にも興味が有るから、さ。それは一種の好意であり、理解の手段だ。──本当に似たもの同士だ、そう思わないかい?』
僕の武器である《コピー》と“理解”。その使い方も、奴はお見通しだった。目には目を、歯には歯を──黒幕には
戦い方を理解したあの日から、僕は。