強キャラ物間くん。   作:ささやく狂人

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4人の会議

「…“謹慎になったから会議出来ない”って知らされた時は、流石の僕も驚いたよ」

「あはは…ほんと、面目ない…」

 

もはや見慣れた会議室のソファに腰をかけながら、僕は正面に座る緑谷に向かって呆れた顔を向ける。彼の顔や腕には多少の傷が見られる。リカバリーガールに《治癒》してもらう事も禁止されてそうだな、と隣のクラスの担任の顔を思い浮かべる。

 

そして、僕はそんな緑谷の横──彼と同様に僅かな傷が《治癒》される事なく戒めのように残っている少年に目を向けた。

 

不機嫌そうな様子は見られるが、僕と視線を合わせる気は無いようだった。この場に僕が居る事に気まずさを感じているのか、落ち着かない様子にも見えた。

 

コホン、と僕の横に座るオールマイトが咳払いをした後、僕に向かって話す。

 

「では早速…数日前に連絡したが、物間少年には改めて説明しよう。先日の一件で───」

「俺がクソ緑谷(デク)の個性を問い詰めて、芋づる式でオールマイトから事情を聞いた。不満か?」

「…物間少年には急な話になって申し訳ないが、ワタシは彼も“緑谷少年の理解者”として相応しいと判断した」

「キメぇ表現…!」

「は、話のわかる人って、褒めてるんじゃないかな…。それで、どうかな…物間くん」

 

おずおずと進言する緑谷は、少し申し訳無さそうだ。秘密を守れなかった自身の不注意を反省しているようだった。僕はそんな彼の意を汲み取って、ため息を吐く。

 

「別に不満は無いさ」

「そっか…!」

「──ケッ」

 

ぱぁ、と顔を明るくする緑谷の横で、不満そうに顔を逸らす爆豪。態度は良くないが、確かに悪くない人材ではある。もっとも、僕が注目しているのはA組所属という点だ。緑谷のクラスメイトで協力者というのは、彼にとって精神的に助けられる面もあるし、他クラスである僕がA組について把握するのに割く時間も減るだろう。

 

「オールマイトから聞いた事を口外するようにも見えないし、問題は無いよ。──役に立つかどうかは別として」

「──あ?」

「も、物間くん…!」

 

自然と付け加えてしまった僕の減らず口に、爆豪が少し遅れて反応し、緑谷が焦ったように僕を呼ぶ。蛇足だったか、と一瞬後悔するが事実でもあると自分を納得させた。

 

先程述べたメリット、その根幹にあるのはA組所属という点だけ。逆に言えば、A組所属なら爆豪じゃなくても良かったという事になる。寧ろ、クラス内で緑谷の精神的な助けとなるような存在なら、絶賛不仲の彼では怪しい所でもある。

 

当然、これは“現状”の話だ。特にいてもいなくても関係の無い協力者という僕の評価が変化する事もあるだろう。実力を評価していない訳ではないが、僕が求めているのは()()じゃない。

 

口を滑らせた僕は意識を切り替える。嫌味を言うようにそれを指摘し、対抗心を煽る事で無理矢理にでも改善させる。最優先するなら人間関係の改善、性格の矯正。或いは、戦闘面への異常な拘りの矯正。

 

そうする事でやっと、爆豪勝己は僕にとって使える手札の一枚として数えられる。

 

「───物間少年」

 

名前を呼ばれて隣を見た。そして、僕の頭から血の気が引く感覚。憐れむようなその視線を、僕は見つめ返す事ができなかった。

 

───僕は何を考えていた?

 

役立つ?手札?…人間を利用価値で判断する考え方を、僕はどこから学んだ(コピーした)

 

以前なら…いつもの僕なら小さな失言もただの軽口として、爆豪なら尚更小言の言い争いに発展させればいいだけだった。そこに、何の目的も見出さなかった筈なのに。

 

奴の事を考え過ぎている弊害が、随分と早い段階で出たものだ。オールマイトはタルタロスでの面会から、僕のその危うさに注意していたようだった。

 

取り繕うタイミングを見失い、妙な重苦しい空気が会議室に漂う。それを判断した僕は爆豪に向かって言う。

 

「悪いね、言葉が足りなかった。少なくとも、“今回の件に限っては”役に立たないだろう、って言いたかったんだ」

「今回の件って?」

「インターン…仮免保持者だけが行ける校外活動だよ。そっちも説明はあっただろう?」

「うん…あ、でもかっちゃんはその日居なかったから」

「とっくのとうにプリント貰って破り捨てたわボケ!」

「ま、補講に備えた方がよっぽど有意義だしね。集中出来なくて落ちるなんて事になったら、目も当てられない」

「ソッコー受かるわ!!」

「まぁまぁ…」

 

爆豪の怒号を宥めながらオールマイトはお茶を啜る。

 

「しかし提案なんだが…爆豪少年を除け者にするのもなんだし、先に一度現状を説明するのも良いんじゃないかい?緑谷少年にはまだ話せてない事もあるし、ね?」

「良いですよ、じゃあインターンの話は後でにして───」

 

今日は爆豪を含めた4人の初めての密会。オールマイトの意図は単なる顔合わせだったようであり、情報の擦り合わせが目的だったようだ。特に断る理由も無いので僕は頷く。

 

さて、どこから話そうか。

 

「まず前提として、僕らはそんな壮大な事が出来る訳じゃない。たかが学生で、ヴィランと対峙するのにも許可や権利が必要な無力な赤子だ」

「テメーらしくねぇな。気に入らないからぶっ倒すくらい言うと思ったけどな」

 

僕が現状を説明するにあたり、爆豪が口を挟む。僕と爆豪は連合に攫われた事もあって、僕が奴らを倒す事を目標にしているとでも思ったのだろう。

 

「出来るならね。──けど、隣の大人が目を光らせている以上、無謀な挑戦はしないつもりだ」

「ワタシはそこまで背負わせたい訳ではない。死柄木達については、エンデヴァーや上層部に任せるべきだろう」

「ええ。だから、僕は自ら動くことはしないつもりだ」

()()っつー事は…」

「最優先は“自衛”…ってことだね…!」

 

僕は緑谷の言葉に頷く。

 

「雄英は連合に2回襲撃を受けている。今後もそれが発生するとなると…それを撃退する実力を付けてもらう事になる」

「ケッ──つまり、今まで通りってコトかよ」

「まぁね。だけど他にも僕らが出来る事はある。当然、学生の範囲内でね」

「…その一つが、このノートだ」

 

オールマイトはテーブルに一冊のノートを置く。《ワン・フォー・オール》の歴代継承者について記された本だ。

 

「未だ謎の多い個性、それを解明する事だね。もっとも、これは物間少年の発案だが」

「…受け継ぐ“個性”。僕の見立てだと、今までの継承者達がその中で生きているんだ。これは僕の《コピー》で偶然知った事実だけどね」

「それが個性に“干渉”する個性…ってヤツか」

 

《コピー》については緑谷から予め聞いていたのか、爆豪がつまらなそうに言う。

 

「僕の中に…この人達が…」

 

ノートをめくりながら呟く緑谷を横目に、僕は説明を続ける。

 

「オールマイトでも知らなかった発見だ。だからこそ、まだそこには“何か”あると僕は思う。自由に過去の出来事が会話で手に入れる事が出来るだけでも、貴重な情報になる」

「チッ…!けど現状手掛かりが得られるのは持ち主のデクだけなんだろ?じゃあ謎が解かれる事はねぇよ」

「勿論そう簡単にいかない事はわかってるよ、爆豪少年。この件に関しては長い目で見るとしよう」

 

オールマイトがそう話を一区切りさせ、僕は今日の本題にも関わる話を切り出す。

 

「あともう一つ。さっきも言った連合からの2回の襲撃…それにも関係するんだけど」

「USJ事件と、林間合宿の件だね」

 

と、一呼吸置く。緑谷が僕の言葉の意味を読み取り、話を改めて整理する。

 

「そこから明らかになるのは、雄英内部にいる“内通者”の存在だ」

「………」

 

一瞬驚きの表情を見せた爆豪が黙って僕の言葉の続きを待つ。

 

「根拠もある。USJに関しては彼らの狙いは一年A組…ひいてはオールマイトを狙い撃ちしたものだった。なら問題はその時間にその授業である事をどうやって知ったか、だ」

「カリキュラムをどうやって入手したか、だよね」

 

マスコミの撃退にも役立つ雄英バリア──それを突破された()()()()()()()、とオールマイトからの情報もある。

 

「だから外部からの侵入者の可能性は低い…ってか?それだけで決めんのは(はえ)えだろ」

「その通り。だからこそ二回目の林間合宿──その合宿場所が把握されてた事から学校側も問題視し始めた」

「───なるほどな、全寮制か」

「…話が早くて助かるよ」

 

そう、学校側である教師陣も動き始めた。内心ではお互い疑心暗鬼が渦巻くものの、この“内通者”に関し何らかの対策を練り始めている筈だ。

 

「で、俺らでその“内通者”を探すって話か?」

「さっきも言った通り“自衛”出来る中で、の範囲でね。緑谷やオールマイトに関する情報を与えないという意味で警戒するだけでも効果はある筈だ」

「つまりこちらからは極力手を出さない、という話だ。ワタシはこれでも教師だからね、危険を見過ごす訳にはいかない」

「言っちゃなんだが…(ヌリ)ぃな」

 

爆豪は僕とオールマイトに向かって失望の眼差しを向けながらため息を吐く。

 

「さっきの“個性の謎解明”を長い目で見るっつー話ならまだわかるぜ。だがこの“クソネズミ”は別だ。さっさとぶっ潰すべきだろうが…物間(テメぇ)にしては消極的過ぎてつまんねぇな」

 

そんな爆豪の言葉も当然わかる。僕らが学生で危険を冒せないからといって、何らかの行動を起こさないでは事態の変化は見込めない。だがオールマイトの言う通り、安全性は重視したい。

 

「…考えてることは、ある」

 

僕が前々から立てていた策。まだ実行するには重要な難関が待っているが。

 

「僕らが動くのがダメなら、安全に“大人”に動いて貰えばいい」

「…あ?」

「───サー・ナイトアイ。僕は彼の力が有れば、内通者問題を解決出来ると思っている」

 

オールマイトは無反応、緑谷はうん、と頷き、爆豪は少しだけ疑問の反応を見せた。僕はそんな彼に説明するように続ける。

 

「彼の個性である《予知》は、1日一回、触れた人間の未来を知る事が出来る。つまり、内通者が敵連合と接する()()()()未来の様子を彼なら視る事が可能なんだ」

「…じゃあ今すぐ呼べよ、そんな“制限”があるなら日数もかかるだろうが」

「…ワタシとナイトアイは元々チームを組んでいてね…7年程前、ワタシの未来を案じて彼はワタシと別の道へ進んだんだ」

「…元“相棒”っつーコトか」

「あの時も喧嘩別れだったが、最近再び衝突してしまったんだが…」

「──緑谷が継承者である事に不満らしい」

「……!」

 

オールマイトが言い淀んだのを見て、僕が続きを引き取る。すると、それを聞いた爆豪は何かを堪えるように口を閉じた。僕はその様子を見て感心する。

 

───「ソイツの言う通りだろ」とか言うと思ったけど…彼の中でもこの件について整理できていない様子だった。へぇ…詳しい内容は知らないけど、“緑谷との喧嘩”は良い方向に転がっているみたいだ。

 

そしてナイトアイの件に関して加筆すると、緑谷の件とは別にもう一つ問題がある。それは彼の《予知》を使用する事に対する恐怖だ。それを克服する事も目標にしなければいけないが…まぁ、爆豪にはここまで説明しなくてもいいだろう、どうせ来れないし。

 

「だから、まず彼を説得して正式に協力してもらう。そこから内通者探しを本格的に始めようと思う」

「クソデクを認めさせるってか」

「その通り。その為に───」

 

僕は緑谷の目を見る。少し遠回りしたが、これが今日の本題だ。爆豪は来れないが、彼は来る資格を持っている。

 

「インターンでは緑谷も“ナイトアイ事務所”に来て欲しい。彼を説得するチャンスはそう多くないからね」

「…全寮制になった事で、外部との交流は前より厳しくなったからね。さっきも言った通り、雄英は内通者の監視も目的にしている」

「えぇ。必要以上に動いて無駄に僕らが怪しまれるよりかは、こういうイベントを利用するしかない」

「───うん、勿論行くよ。ナイトアイとしっかり話してみたかったし───」

 

そこで、緑谷は僕を見て安心したように微笑んだ。

 

「『君“も”来て欲しい』って事は、物間君も一緒なんだよね?」

「……まぁね」

 

目を逸らしながら答える僕を見て、オールマイトは少し笑った。対して、爆豪はイライラを加速させたようだった。

 

「オレに関係無ぇ(ハナシ)すんじゃねぇよ……!」

「…だから言っただろう?今回の件じゃ戦力にならないって」

「クソが!帰る!」

 

爆豪は席を立ち、会議室から苛立ったように出て行く。それを呆れながら見届けた僕は、視線をそのままオールマイトへ移した。緑谷もさっきから気になっていたようだ

 

「…オールマイト?」

「で、何をそんなにニコニコしてるんですか?」

「───ん、なんというか…フフ」

 

先ほどから笑いを堪えるような顔を見せるオールマイトに問いかけると、彼はこう言った。

 

「会議中、爆豪少年がキミら2人の会話するトコを見て、戸惑っている様子が面白くてね」

 

そう笑うオールマイト、それはまるで教師が生徒の成長を見て喜ぶような笑顔だった。しかし、イマイチ要領を得ない。僕は首を傾げる。

 

「…あ、もしかして、僕と物間君の会話が物珍しかったんじゃないかな。僕もたまに、こうして物間君と喋ってる状況が信じられないって思うから…」

「…まぁクラスが違えば話す機会はないからね。内通者に不審がられても面倒そうだ」

 

なるほど、意外な交友関係に困惑してたってところか。他人の人間関係に興味を持つヤツとは思えないけど…それが爆豪なりの変化…ってトコロか。よし。

 

「───じゃ、追いかけようか」

「え?」

 

緑谷が目を白黒させながら声をあげる。僕はそんな彼の疑問を背に、爆豪が先ほど閉めたドアに歩みを進める。

 

いちいち困惑されるのも面倒だからね。

 

「───チームの一体感の為には、会話(コミュニケーション)が必要だろう?」

 

 

⭐︎

 

「───テメェら…オレの隣を歩くんじゃねぇ!!後ろ行けや!」

「…や、やっぱりこうなる…」

「ところで、君らのクラスは仮免どうだったの?試験内容とか…誰が受かった、とかさ」

「ぜ、全然気にしてない…!」

 

 

「───で、士傑の2年生の方だったんだ。麗日さんの話によると、僕と会う前に腕を引っ掻かれたみたいで…多分触れた人の姿になれる個性だったんじゃないかな」

「“多分”って…その後聞いてないのかい?君が?」

「いつもみてーにキショい行動力使えや」

「き、聞く前に帰っちゃったんだよ!体調悪かったらしくて…」

「士傑の生徒といえば…誰かさんが捕まって上鳴電気に助けて貰ったんだっけ?さぞ強い生徒だったに違いない」

「テメぇ、なんで知ってんだゴラ!」

 

 

「───も、物間君はどうだったの?B組の仮免試験は」

「それは勿論…全員合格──水が空いたね、A組」

「肩触んなそろそろ黙れや殺すぞ…!」

「そ、そっちには誰か手強い人とかいなかったの?」

「…そっちとは違うクラスの士傑生かな。彼()と出会えたのは収穫だったよ」

「…あ?強ぇ奴だったのかよ?」

「別に…単なる珍しい個性だった、ってだけさ。双子の個性なんて滅多に見られるモンじゃないからね…!」

「チッ…!個性マニアが…」

「あ、あはは…」

 

僕らは、廊下を騒ぎながら歩いた。ただ普通の男子高校生のように。僕も、これから待ち受ける困難の事も忘れて笑っていた。

 

その幸せを噛み締めるように、僕は歩いた。

 

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