榊遊矢が俺んちにきたようです。   作:ウェットル

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 ようするに。

 舞台から見れば、我々もまた役者なのですな!


深淵を覗いていると、深淵もまた覗き込む。

「佐奈川・・・・・・ニート?」

 少年がきょとんとした表情のまま、首を傾げた姿勢のまま名乗りを聞いて数分。

 そろそろ頃合いだろう、オレは両の腕を広げることをやめて腕を組み、右手で何かを企むように顎を擦る。

 

「その通り、我が名は佐奈川新斗。

 本名は伏せさせてもらうよ、一言で言うなら・・・・・・」

 

 さて、どういうセリフを言ってあげようか。

 一人称が自分も相手もオレでは面白みがない、どうせなら声優ネタを織り交ぜてジョークを言ってやるとしよう。仮に本物の榊遊矢であるならば、それなりに機嫌が良くなるような、それでいてこちらの本心でもあるセリフとなると。

 イギリスの魔法学園を舞台にした、名作児童小説シリーズの映画作品。

 主人公を皮肉りながらも、実は誰よりも主人公のことを気にかけていた男の名台詞。

 あれは本当に、後から読み直して感動したものだ。あれひとつで男のキャラクターが具体的に示されただけでなく、主人公からの第一印象さえも決定づけている。

 状況と関係性こそ全く違うものの、あの立ち位置は個人的に嫌いじゃない。

 オレは、いや、「私」は、右手の甲が下になるように少年を指差した。

 

「私にとって、君はデュエル界の・・・・・・そう、スターだな」

 

「スター? オレが!?」

 

 少年が目を見開いて、予想外な評価に戸惑いを隠せなくなっている。

 そうそう、そういう反応が私は大好きなんだ。

 あんまり自身のない子は男女問わず、こういうちゃんとした肯定を面と向かって言われると、自分自身へのマイナスイメージとのギャップや理想との一致に戸惑って、非常に初々しい反応をしてくれる。

 現実か否か、発言が本気で言っているのか否か。それらを確かめようという、不安からの勇気を示してくれる。こういう感情の波は好ましくて好きだ。

 

「そう、君はスターだ。

 この世界では『今の君』こそが最も注目されている君であり、そのエンタメデュエルへの情熱、熱意、何よりエンタメデュエルでの演出力から、アクションマジックという不確定要素とは別に極めて高く評価されている君でもある。

 いわば、『今の君』こそが最高の君であり、誰もが求めた榊遊矢だということだ」

 

 ボクの感動を伝えるべく、または彼の運命を憐れむことを隠しながらも暗に示しつつ、「世界」というワードを強く意識させるかのように左から右へと広く右腕を動かし、背筋と肘を伸ばす。

 もちろん、顔を下から上へと動かし、より「世界」を意識しやすいように全身を広げて大きく見せることも忘れてはならない。

 

「そ、そう言われるとなんか照れるなぁ・・・・・・!」

 

 彼からすれば、ただのデュエリストでしかなかった過去よりも、エンタメデュエリストとしての第一歩を踏み出した『今』こそが素晴らしい、と全力で肯定されているようなものである、嬉しくない訳がない。

 少年は初めての評価に、はにかんで頬をトマトのように染めた。

 うん、トマト頭で紅顔の美少年が赤面すると、字面の上でも赤色づくしで実に素晴らしい。

 小説を書く上でも参考にさせてもらおうか。

 

「あれ? なあ、あんた、なんでオレのことを知ってるんだ??」

 

 む、なんとも失礼な。

 そこはちゃんと名前で呼んでほしいものだ。

 

「年上には・・・・・・というより、初対面の相手には相応の敬意を見せたまえ。

 榊遊矢、以降は遊矢くんと呼ぼうか。君はなぜ、ベンチで寝ていたのかな?」

 

 はっ、と少年、遊矢くんが何かに気づくと、バツが悪そうに頭を下げる。

 うんうん、そうやって自分の非を認める姿勢は嫌いじゃない。

 

「悪かったよ、佐奈川さん。

 オレは、この次元・・・・・・って言って、信じてもらえるかはわからないけれど」

 

 おや、こちらの話を最初から聞いていたのだろうか。

 次元や異世界の話については、自己紹介の時に触れてはおいたのだが。

 ひょっとすると、佐奈川新斗という自分で決めた偽名が遊矢くんにとっては印象が強すぎて、その前後の話は頭の中から吹き飛んでしまったのかもしれない。

 

「この次元についてから、一緒に来たはずの仲間がどこにもいなくてさ。

 ずっと街中を探し歩いてたんだけど、どこに行っても誰もしなくて。

 昨日の夜、じゃなくて、今日の夜明けに疲れたから、この公園で横になって寝ようと思ったんだ」

 

 その間に警察官に捕まらなかったのか、物凄く興味がある。

 ここは一応、この公園の近くにある墓地を挟んで反対側に交番があり、夜の11時から深夜の1時くらいには巡回のコースとして、ここへ自転車に乗った警察官がやってくるはずなのだ。

 

 なんでそんなことを知ってるかって?

 

 暇人をナメないでもらいたい、深夜徘徊で犬の散歩をしつつエナジードリンクを買いに行くなどしょっちゅうだ。もはや犬の飼い主同士の深夜の挨拶は日課になってしまったほどに、よくこのあたりを散歩する。だからこそ知れたのだ。

 さて、大まかにズレがある理由としては、ここが東京の住宅街で細い道や細かい分かれ道などが多く存在し、肝心の交番が数百メートルほど公園から遠いこと。そして、交番と公園の間にある墓地があまりにも広大だからである。

 交番から墓地、いや、霊園の周りを通って巡回しようものならかなりの時間がかかる、

夜明けに公園で寝たということは、相当に時間が経っているとはいえ、それ以外の場所で警察官と顔を合わせることは可能性としてはなくもない。

 

 もっとも、一番感心したのは、仲間を探して三千里というわけでもないだろうが、この東京という街をぐるぐると歩き回って、場合によっては深夜の霊園などという極怖ホラースポットもおそらくは涙目で歩き回りつつも、時間とともに身体が冷めてお腹も空いていくだろうに、ランサーズの仲間と合流しようと動ける彼の「行動力と健気さ」なのだが。

 さすがにトマト可愛い談義は、帰ってから日記に書き留めるとしよう。

 

「そう、そこで違和感はあっただろう。

 これほどの広大な都市を歩き回りながらも、仲間の気配はどこにもない。

 さぞかし不安で恐ろしかったろうと思うと、ああ、もうちょっと早くに君に出会えるほどの幸運さえあれば・・・・・・」

 

 耳障りは悪くもない、相手を思うセリフを言いながらも、「お前のことはよく知ってるんだぞ」と思わせるような姿勢は忘れてはならない。

 こういう胡散臭さに耐えられないと、この世界では危なっかしいことこの上ない。

 

 榊遊矢を愛でるファンスレッド、なるものがネット上にあるのだが、これがまあびっくりするほどの魔境なのだ。ちょっと気持ちがわかるくらいには愛情の深いファンがほとんどなのだが、下手をすると自分の一番好きなキャラクターのファンスレッド並に魔境なのではないかと思わないでもない。

 

 いやまあ、本当に遊矢くんのファンスレッドは理解ができる範囲な分、ボクの好きな別作品のキャラクターのファンスレッドの方がずっと魔境どころか、魔窟、いや阿片窟なのではなかろうか。

 スレッド常連のボクが何を言っても、自分に向かって綺麗な軌道を描いた汚いブーメランが顔面に突き刺さりに来るだけなのだが。

 

「な、なあ、ここは何次元なんだ?

 もしかして、スタンダードに戻っちゃったの?」

 

「いいや、それよりもっと恐ろしい次元だよ。

 融合次元とも異なれば、侵略活動を受けたエクシーズ次元のどこかでもない」

 

 そして、ここでしっかりと、彼に不安を煽っておく。

 そう、しばらくの間かもしれないが、彼はボクの住まう次元に生きるのだ。

 ならば、まずは伝えなければならない現実がある。

 

「この次元は、いや世界は、君たちにとっては果てのない戦いを叶えうる次元にある。

 全ての人間が、全てのデッキを自由に組め、全ての可能性を探求でき、全ての強さに蹂躙されうる世界。全てのデッキが夢に消え、全てのデッキが夢を叶えうるような世界だ」

 

 この世界に特別なカードなんてものは数少ない。

 世界最強のデュエリストにのみ与えられるカードは、唯一無二の栄光のカード。

 たった一人の病に伏せる少年のために作られたカードも、その少年しか持ち得ない。

 大量に生産され、凄惨に焼却炉へと捨てられることなどザラにある。

 禁止制限ひとつで、1つのデッキが完全に消滅することすらある。

 高級なカードで作られた、特別なデッキなどないに等しい。

 あるとすれば、それは絶版のカードを寄せ集めたコレクター好みのレアカードのデッキ。年代物のクラシック・カードで作ったデッキだろう。

 または、映画館やゲーム購入特典でしか手に入らない特殊なカードを使うデッキ。

 あるいは、パックの封入率から単価が高くなっているだけのカードで組んだもの。

 本当の意味での世界で特別なカードなど、わずかな数しか存在しないのだ。

 強いていうならば、「値段が高いだけ」なのである。クラシック・カードで作ったデッキでもない限りは、もはや高級感も年代物としての価値もない。

 

「仮に名前をつけるならば、そう」

 

 そんなものは、デュエリストに希望を与えたりはしない。

 結局は金の力だ、などという答えなど、なにが特別だというのか。

 希望を与える特別なカードとは、まさに大会優勝・準優勝者特典や、ある少年にのみ与えられた伝説のカードのことを言う。そんなものは、一生かかって手に入るかどうか。

 ましてやオーダーメイド品や、デュエリスト自身が創造するカードなど存在しない。

 

 この世界のデュエルのあり方は、おそらく彼にとっては絶望的すぎる。

 ペンデュラム・カードを抜きにしても、自分と同じような特別を持つ人間など極僅かで、そのほとんどが実力で勝ち取ったもの。つまり、特別なカードには相応の実力が求められる世界であるということ。

 どんな使えないとされたカードでも、活かす実力と活かせるカードプールさえあれば誰しもが、どこにでもあるカードを「(実質その人にしか使いこなせない)特別なカード」に変えられる世界でもあるということ。

 

 

 これが”彼ら”に、どのような絶望感を味合わせるかは未知数だ。

 

 

 そして、そのような世界が我々にとっての「現実世界」だからと、この世界を「現実世界」と称するのは公平ではない。

 むしろ、彼らが現実とは認めがたい絶望が、そして希望が、ボクたちの世界には存在するのだから・・・・・・我々にとっての「そういう世界」もまた、存分にありうる。

 とすれば正しくは、こう呼ばれるべきなのではないだろうか。

 

「決闘者がたどり着く、希望と絶望を越えた場所。それらを越えねばならぬ次元。

 デュエルモンスターズ・エクストラ・ディメンション。

 ――――EX次元へようこそ、榊遊矢くん」

 

「エクストラ、次元。それが、この世界・・・・・・」

 

 

 

 

 くきゅるるる、と、目の前から何かの音が鳴った。

 少年は思わず頬を掻き、申し訳無さそうな表情に変わる。

 

「あっ、あはは・・・・・・実は、何も食べてなくってさ」

 

 

 

 ふむ、なるほど?

 話したいことは山ほどあるが、まずは腹ごしらえかな。

 




 以下、【(実質その人にしか使いこなせない)特別なカード】の例。

 通常モンスター
 《シーホース》     拾ったカードでデュエルした猛者のカード。
 《モリンフェン》    伝説の悪魔族カード。
 《ダーク・キマイラ》  ジャッジキルを狙えるレアカード。まさに悪魔。

 儀式モンスター
 《ハングリーバーガー》 ある意味で世界一のエンタメカード。

 効果モンスター
 《スクラップ・コング》 神を倒したゴリラ。
 
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