榊遊矢が俺んちにきたようです。   作:ウェットル

6 / 10
 ただいま。
 そして、あれこれ気にしちゃうひとは喜ぶがいい。
 こっちは真面目で真剣な会話ばっかりだぞ?


 ただし、佐奈川新斗の性癖は除く。


さあ、戦争の話を始めようじゃないか。

「佐奈川新斗って言ってたけど、本当の名前はなんなんだ?

 家の表札とか探してみたないし、もう教えてくれてもいいだろ?」

 

 カチャリ、カチャリ。

 ナイフが食器を鳴らす音を食卓に響かせる。行儀が悪いと思うかね。

 しかしだ、現実問題、日本人が食器を鳴らさずにフォークやナイフを使うなど、そんなことをする必要があるかないかでいえば、国際交流や日本に定住することを決めた稀有な方々を相手にした際でもない限り、そう気にする必要はない。

 

 相当な生まれや育ちを持つ異性を相手にするのであれば、話は変わるだろうがね。

 

「ん、表札の文化が君の世界にもあるのかね?」

 

「・・・・・・えっ、そういうところから違うのか?!」

 

「違うとも、カード1枚を語れば夜が明けるだろうね。

 そのくらい違うことは多いだろう、ちなみに表札がないのはパパの都合だよ」

 

「表札がないほうがいいの?」

 

「違うね、表札があるとお互いに困るのさ」

 

 カフェオレを煎れたピンク色のマグカップを遊矢くんの前に置く。

 先に父さんの都合がありきの事情とはいえ、やはり、ないならないで困ることは多い。郵便局や宅急便の職員さんにはご迷惑をおかけするが、おそらくは父さんが亡くなるまで表札はつけられないだろう。

 

「どんな物事も、意味合いをひとつ変えるだけで”変色”する。

 隣の国へと旅行をすれば価値観、額物の中の画風の違いに驚かされ、ときに目に見えたトラブルの種となり、ときに摩擦をきっかけとしてお互いに燻らせてしまうもの足りうる」

 

 ほんの少しカフェオレの香りを確かめる。

 うん、インスタントでも湯とミルクの濃度が大事だ、今日もできが良い。

 

「国だけですら左様に変わるのであれば、家や個人といったミクロ単位のもの。

 果ては世界や次元というマクロ単位でもすべての”配色”が違って当然だろう。

 コンビニでご迷惑をおかけした件から、君は薄々と察してはいるんじゃないかな?」

 

「あ、ああ。『デュエルの雑誌がない』だけじゃないなんて思わなかった・・・・・・」

 

 遊矢くんはコンビニから帰る道中の景色を思い浮かべたのか、マグカップを両手で掴んで水鏡・・・・・・もとい、湯鏡を見つめる。

 

「デュエルの広告もない、デュエル以外のカードのゲームの広告もあって、見たこともない漫画やアニメの絵がたくさんあって、でもそういうので一杯ってわけじゃなくて。

 本当にここって、【デュエルみたいな何か】が中心の世界じゃないんだな・・・・・・」

 

「強いて言えばマネーや宗教なんだけど、ゲームは別に世界の中心じゃないネ」

 

 我々の世界の始まりは、物々交換と宗教戦争だと断言してもいい。

 経済がお互いの国を保つこともあれば、相手の国を食いつぶすために利用されることもある。宗教戦争に至っては細かく言及するまでもない、日本がかろうじて島国だからこそ他民族宗教との縁が遠いだけで、はるか昔であれば同じ民族同士の宗教争い、宗派争いなんて決して珍しいものではなかった。

 

 かの織田信長は、宗教を前提とした僧兵たちを相手にするときには当初は容赦こそあれ、潰す際には遠慮がなく、逆に経済競争を起こしやすい『場』、楽市楽座を敷いて商人を集め領地内での流通を促進させる手を選んだ。

 一説には信心深い人物であったともされるが、同じものを信ずる者同士であってもルターのような宗教改革を志すものからすれば、その当時の信仰体系にこそ問題がある場合、正しい信仰の形を追求しようと働きかける際には邪魔な対象でしかない。

 織田信長もまた、ルターと似たような着眼点で当時の僧兵たちを見つめていたのかもしれない。そうであるがゆえの最終手段が殺害であったというだけかもしれない。

 

 そう、我々の世界の歴史とは、経済と信仰の歴史なのだ。

 争いとは、利益か信仰を実現するための手段に過ぎない。「戦争をして殺し合いたいから戦争を起こす」などという戦争馬鹿や解釈違いを起こしたも同然の、戦争とは何たるかも学ばない平和主義者もどきが忌み嫌う「戦争をする理由」は間違っている。

 本当の理由は信仰か経済的利益であるからこそ、ほとんどの戦争では戦う前から決着を付けるべく経済制裁や経済的攻撃が行われている場合は多く、逆に経済競争での敗北や受けた経済制裁を原因として、仕方なしに戦争を起こさざるを得なくなったという国もあるのだが・・・・・・その末路は、我々の国のかつての有り様を学べば、理解し今後推測することは簡単だろう。

 

「そんな我々からすれば、君らの戦争はずいぶんと妙ちきりんに見えるんだがね。

 経済のためでもなければ、宗教のためですらないのだから。

 一見すると、チグハグにも見える。信念を元に正誤を問うのであれば、まずは禅問答から始めるべきであって、戦いを先にするべきではない。

 それでも戦いを先にしてしまう短絡さは、我々と同一だ。

 だというにも関わらず、戦争を起こす者が『何も得をしない』ように見えてしまう」

 

「オベリスク・フォースが、アカデミアが、得をしない・・・・・・?」

 

「然り。彼らの信念を唯一とするための戦争であれば、まずは他の信念を成立させないことから始めなければならない。だが、別に彼らにそういった言動は見られない。

 むしろ後から、誰かの信念と交わった際、今さらのように嘲笑うことを始める。

 まるで、最初からは相手の信念など、考えたことも聞いたこともないかのように。

 否定や論破をするための戦争であれば、上層部が予めこう答えるべきだと指示書や教義を出しているはずなのに。相応のカンニングペーパーが用意されているはずなのにだ。

 あたかも相手が考える葦であることを、『今始めて知った』かのようにも見える。

 『そんな様子』をどこかで見た、あるいは体験させられたことはないかネ?」

 

「黒咲・・・・・・いや、黒咲は、アカデミアの在り方を否定するのが先だった。

 そう言われてみると、確かに素良やセレナの言ってることが変だったような気がする」

 

 顎に手を当てながら、遊矢は首をこてんと傾げた。

 いちいち虚空に目線をずらす仕草が大変可愛らしいと言うか、あざとい。

 そんなに同性愛を爆発させたいのかね彼は。いやそんな気がないことはわかっている、毎回思うのだが元より線が細めなのは大変えっ、いけないいけない、意識を彼に戻そうか。

 

「『楽しいからやってる』『正しいからやってる』って、おかしいんだよな?

 お金のためにも神様のためにもならない理由ばっかりで、別にあいつらは誰も否定してないし。言われてみれば、けっきょくカードにさせる以外、なにも得してない・・・・・・あ、やっぱり、それっておかしい! 何がしたいんだか意味がわからない!?

 佐奈川さんの言ってるとおりなのか!?」

 

「宗教戦争として捉えるには、あまりにも中途半端。

 となると経済を理由とした戦争であるはずなのだが、それにしてはコストが見合わない!

 他の国を無理に攻め滅ぼしてから地をならし、イチから新しく自国の色に染め直すには破壊活動が大雑把で、しかも破壊活動をしてしまえば復興のためのコストがかかって意味がない。電車とか電線とか、そういうのは壊さず残したままのほうが便利だろう?

 カネを埋めるための孔を自分で作るよりは、いっそ基礎的なインフラを、カネを置くための地面を維持させたまま勝利するほうがまだマシであるはずなのに・・・・・・だ!」

 

 びし、と、自分の分のホットケーキを指したフォークで、遊矢くんの顔を指す。

 ・・・・・・刺してはいないよ? 彼の柔肌に勿体ないことするわけないじゃないか。

 

「つまりだ、彼らの侵略活動には先がある。

 まるで、銃で人を殺すことの意味を知らない子供を騙したかのような、浅はかな動機で戦わせてカードにした人間を集めさせるに足るだけの、大きな利益があるのだよ。

 我々の世界との相違点は、敗北者をカードにすること。

 おそらくはカード化そのものに、大きな意味があると捉えてよかろうとも」

 

「カード化、そのものに・・・・・・!?」

 

 息を呑む遊矢くん。

 目がちょっと見開いているのもポイントが高い。

 うんうん、まったくもってリアクションが私好みだ。

 とても話す甲斐があるし、とても講義のやりがいがある。

 

「で、なんでそんなまでも、この私が知っているのか?

 それを今すぐに教えてしまうと・・・・・・まあ、うん、君が疲れると思うので」

 

 流石に喉が渇いてきたので、ここで一服。

 そんな感じに格好良く間を開けてから、緩やかにカップを置いて。

 

 

 

 

「まずは、その前に頭の柔軟体操と洒落込もうか。

 最も我々の世界との相違点である、『カードについて』から教えてあげよう」

 

 どうあがいても避けられない、デュエリストとしての彼我の違いから語ろうか。

 




 わりと、こっちの遊矢の性別は男で通すか、女だったで進めるかに困っちゃいるZE!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。