FFX スピラを旅する異世界人   作:カムパネルラ321

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サルベージ船⑦(修正済)

はやてにからかわれた事もあり、始めは黙ってはやての後ろについていくだけのユウナだったが、あれこれと買い物を進めていくうちにはやての人柄に慣れ、気がつけば買い物に夢中になっていた。何の変哲も無い果物や工芸品に驚いたり感心したりするはやてを眺めているうちに、緊張がほぐれたのだろう。

 

今は、はやてが持っていたリストを手に屋台の商品とにらめっこしていた。

 

「ユウナちゃん、そんなに真剣に選ばなくても大丈夫だよ。というか僕には違いがわからない」

 

屋台のカゴには謎の果実らしきものが山のように積まれていた。明るい緑色をしているソレは長い毛のようなものに覆われている。食べ物なのだろうが、はやてはその見た目で食欲は湧きそうに無いと感じた。

 

「いいえ、はやてさん!これはよくよく注意して選ばないと、とってもすっぱいものを買ってしまうこともあるんです! とっても、すっぱいんですよ!」

 

はやてに向き直りもせず、ひたすら謎の果実を睨みつけるユウナ。とても真剣に選んでいるその様子に、はやては肩を上げてみせ、自身は市場の人ごみに目を向けた。

 

「そっか。じゃあ、それはユウナちゃんに任せようかな。僕はユウナちゃんのお姉さんを探してみるよ」

 

目の前の屋台に来るまでは、ユウナとはやては「ユウナのお姉さん」について話をしていた。

 

曰く、とても博識で冷静な女性。

曰く、黒魔道士で、様々な魔法が使える。

曰く、綺麗な黒髪で、妖艶な雰囲気を纏う。

曰く、怒るととっても怖いけど、普段は優しいお姉さん。

 

ユウナが「姉」と慕う存在などいただろうか、はやては記憶を掘り起こしていたが、特徴を聞いてみればすぐにその人物に思い至った。おそらく、FFXのプレイアブルキャラクターの1人である【ルールー】のことを指すのだろうと、はやては予想した。というよりも、ほぼ確信している。

 

ユウナが言うには結構目立つ服装をしているらしいが、さもありなん、ルールーの服装はFFXのキャラクターの中でも一際目立つもので、1度目にすればしばらくは忘れられないものだとはやては記憶していた。

 

モニターを通してルールーの下半身を覆う大量のベルトを見たとき、この人は普段どうやって衣服の着脱をしているのだろうと色々と想いふけり、また姉弟たちと「ルールートイレどうしてるの論議」が白熱したのは今となってはいい思い出である。

 

ちなみに長い議論の末の結論は「ルールーはトイレをしない」というものだった。

ファンタジーである。

 

「あ、はい! お願いします! すぐに分かると思いますから」

 

「りょうかい」

 

「私はしっかり選んでおきますね! このモルモル!」

 

「待ってそれがモルモル?! 見た目と名前がリンクしすぎじゃない?!!」

 

「 ? 」

 

はやての衝撃などそっちのけに、ユウナはまた謎の果実、もといモルモルに向き直り、にらめっこを始めてしまった。少し呆然としていたはやてだったが、何かを吐き出すようにため息をつくと、改めて人ごみに目を向けてルールーを探し始めた。

 

はやての記憶にあるような装いをルールーがしているなら、ユウナの言う通りすぐに見つけられるはずだが、これが意外と見つからない。人が多いこともあるが、おそらくこの辺りにはいないのだろうとあたりをつける。

 

おそらくルールーもユウナを探し回っているのだろう。こういう時は、一ヶ所に待機している方が良い場合が多いため、買い物が終われば2人でどこか落ち着けるところで待機しておこうとはやては考えた。

 

ひとしきりルールーを探した後、ユウナに声をかけると、ちょうど最良のモルモルを選び終わったところだったらしく、いつのまにか屋台の店主にお金を渡していた。

「ユウナちゃん、お金は預かっているからユウナちゃんが払わなくても大丈夫だよ」

 

はやては店主にお金を手渡そうとするユウナの手を掴み、代わりに自身が支払いを終える。ついでに山の中からモルモルを一つ適当に選んで支払いをし、ユウナに手渡した。

 

「はい、こっちはお礼ね。ありがとう。僕の仲間もきっと喜んでくれる」

 

ユウナはハッとして、モルモルを受け取るとぺこりと頭を下げた。

 

「ご、ごめんなさい、選ぶのに夢中で…」

 

「いいよいいよ、それだけ真剣に選んでくれたってことだろうし。オススメの一品でしょ?」

 

「はい! これが一番熟れてて美味しいと思います!!」

 

目を輝かせてそういうユウナには、ゲームでは見られなかったような子供らしさが垣間見えた。いや、ゲームと比較してリュックが小さくなっていることを鑑みると、ユウナもいくらか幼いのだろう。

 

 

 

ああ、そうだ。

 

 

 

はやてはあることを思いつき、ユウナに尋ねてみることにした。

 

「ユウナちゃん、ユウナちゃんって今何歳なのかな」

 

「年齢ですか? ええっと、今年にはいって15になりました」

 

「15…ということは、そうか、2()()()()()()()()

 

「2年前、ですか?」

 

「ん。いや、なんでもないよ」

 

ゲームではユウナの年齢は言及されていなかったように思うはやてだったが、 設定上のユウナの年齢は覚えていた。中学生の頃にFFXをプレイしていた時、隣で見ていた姉が「ユウナと同い年?!! そんなバカな!!」と騒いでいたことがあったのだ。当時の姉は高校2年生で、何かにつけて17歳をアピールしていたから間違いない。

 

目の前のユウナは、ゲームのユウナより2歳若い。

この世界はゲーム本編開始から2年前であるという証拠だった。

 

思いがけない時に知れた事実。

はやてにとって、決して軽視できない情報だ。

 

「…? あ、ところではやてさん、買い物はこれで全部でしたっけ」

 

急に考え込んだはやてを不思議そうに首を傾げて眺めていたユウナだったが、手元のメモに目を落とし、さっきの買い物がリストの最後だったことに気がつくとはやてに次のことを尋ねた。

 

「あ、うん。そうだね。これで全部だ。ありがとう、本当に助かったよ」

 

そう言って笑顔をみせて、手にしていた袋をユウナに見せるはやて。そこにはアニキや仲間のアルベド族に頼まれて購入したものがしっかりと入っていた。

 

「ふふ、お手伝いできてよかったです」

 

まるで自分のように嬉しそうに笑うユウナをみると、はやてはふと、ゲームの中のユウナを思い出した。

 

どこのシーンだったか、とても綺麗な夕日が差していた。

主人公のティーダと共に、海岸沿いの崖に座り、何かを語っていた。

 

詳しい内容は覚えていない。

だけど、決して楽しい話や甘酸っぱい話ではなかった。

 

 

 

どこか、悲しい覚悟を感じられたのだ。

 

 

今思えば、おそらく今の時点で既にユウナは「覚悟」を決めているのかも知れない。

一朝一夕にできる覚悟ではない。長い時間をかけて、自分を説得しながら、あるいは騙しながら、来たる旅立ちの日に備えているのだろう。

 

困った人を見かけると放っておけない性格をしているユウナは、今、はやての前で明るく笑っている。しかし、ふとしたときに感じる重圧に、ユウナはどんな顔で耐えているのだろうか。

 

「あの、はやて…さん? って、あの、あああの、あのあの、」

 

しかし、はやては不思議と安心していた。

そう、この子はゲームのメインヒロインなのだ。

必ず救済される。

 

()()()()()()()()()()()

太陽のように明るい少年が、彼女の螺旋を断ち切るようになっている。

 

だから、はやては安心していた。

 

「あの、えっと、えっと、えっと」

 

だけど、彼女の幸せを願わずにはいられなかった。

 

きっと大丈夫。

いつか報われる。

幸せになれるはず。

 

言葉にはできない。すべきではない。

 

だから、ただ、はやてはユウナの幸せを願って優しく頭を撫でた。

 

「ユウナちゃん」

 

「えっとえっとえっとえっ、あっ、は、はい?!」

 

「………お姉さん、探そっか」

 

「え? あ、はい!」

はやてに頭を撫でられながら、ユウナはコクリと頷いた。

 

 

 

 

----

 

 

 

ルールーもユウナを探していることを考えると、目立つところで待機している方がかえって早く合流できるはずというはやてのアドバイスにしたがって、ユウナは少し市場から離れた小広場のベンチに座っていた。はやては飲み物を買ってくると言って、ユウナに荷物を預けてまた人ごみの中に戻っていった。

 

はー、と息を吐いたユウナは先程までのことを思い出していた。

 

最初は、からかわれたこともあり、恥ずかしいと思いながらはやてについていっていた。けれど、気がつけば色とりどりの屋台や商品に夢中になり、更にはやてが一つ一つ質問をして、素直に驚いたり関心してくれるものだから、気がつけばルールー探しもそっちのけで買い物を楽しんでしまった。

 

「反省しないと、だね」

 

それに、はやてが突然頭を撫でてくるものだから、混乱してしまい、いっぱいいっぱいになってしまった。

ルールーやワッカが余計な虫がつかないようユウナを守っていたことで男性に対して免疫があまりないユウナは他人の男性に触れられたことなどほとんどなかった。

 

そのせいで、色々と慌ててしまった。

落ち着きがない子だと思われなかっただろうか。

少し、心配になった。

 

「ユウナ」

 

ユウナが1人悶々としていると、聞き慣れた優しい女性の声が聞こえた。

声の方に振り向くと、探していたルールーがどこか安心したような顔でユウナを見つめていた。

 

「ルールー!」

 

ユウナは立ち上がり、ルールーのそばまで駆け寄る。

ルールーはふわりとユウナの肩を抱きしめた。

 

「ダメじゃない、勝手にどこかに行っちゃ」

 

「ご、ごめんなさい」

 

怒られるかも、少し身構えたユウナだったが、意外なことにルールーはユウナの顔を撫でて、優しく微笑むだけだった。

 

「…いいえ、私も悪かったわ。ごめんなさいね、置いてけぼりにしてしまって」

 

「う、ううん! ルールーは悪くないの! 私が、きちんとついていけなかったから」

 

「ふふ、じゃあおあいこね」

 

「…うん!」

 

事情を知らない者からすれば、互いの無事を喜ぶユウナとルールーは本当の姉妹のように見えるだろう。ルールーも、ユウナも、互いに心を開いている。

ユウナが幼い頃から面倒を見てあげているルールーは、姉でありながら母のようでもあり、ユウナにとってかけがえのない家族なのだ。

 

2人の間には、ただ血が繋がっているだけの姉妹よりも強い絆が結ばれている。

 

ようやく合流できたことを喜ぶユウナだったが、ふとルールーの表情が変わったことに気がついた。

 

「あら、でもよく考えてみたら、もう一つあなたに謝ることがあったわ」

 

「え? どういうこと?」

 

不思議そうにするユウナだったが、ルールーは何か含んだような顔を見せ、いたずらするように言葉を続けた。

 

「実は、あなたが彼といっしょに市場を周り始めたくらいから、離れたところで見ていたのよ」

 

「え? そ、そうなの?」

 

「ええ。 可愛くぴょんぴょんしていたからすぐに見つけられたわ」

 

「え、ええ!? どうして声をかけてくれなかったの?! 探してたのに!」

 

ルールーの言葉に抗議するユウナだったが、ルールーは微笑みながら首を横に振るだけだった。

 

「何言ってるの。あなた、屋台に夢中だったじゃない」

 

「……あ」

 

「あの人ごみをかき分けるのも大変そうだったし、それに…」

 

「それに?」

 

 

 

 

「男の人とのデートを邪魔するほど、野暮じゃないわ」

 

 

 

 

「………………え?」

 

 

 

 

「心配だったし、最初はすぐに声をかけるつもりだったのよ。最悪力づくであなたを彼から離すことも考えてた」

 

「……え? え? る、ルールー?」

 

そこでルールーは言葉を区切り、やれやれと言わんばかりに溜息を吐き、意味ありげにユウナへと視線を流した。

 

 

「でも、すごくいい雰囲気だったから話しかけづらくって」

 

ユウナはルールーが何を言っているのかすぐには理解できなかった。

 

「——っ、な、る、ち、ちがっ」

 

「あらあら、顔を真っ赤にしちゃって。妬けるわね」

 

くすくすと笑うルールーは本当に楽しそうに笑っている。

ユウナはルールーが重大な勘違いをしていると理解し、誤解を解こうと口を開いた。

 

 

「あ、ユウナちゃん。よかったね、合流できたんだ」

 

「——————っ?!!!!」

 

「あ、あれ…?」

 

はやての声が聞こえた瞬間、ユウナはびくっと大きく体を震わせて、反射的にルールーの背の後ろに隠れてしまった。

 

はやてが両手に飲み物を持って、戻ってきていたのだ。

 

「…もう、しょうがない子ね。ごめんなさいね、うちの……妹が。迷惑をかけたでしょう」

 

「ああ、いや、全然全然。むしろ買い物を手伝ってくれて助かったんだよ。ユウナちゃん、よかったね合流出来て。はいこれ、ジュース」

 

ルールーの背に隠れるユウナにジュースを手渡そうとするはやてだったが、ユウナはルールーの背中から出てこない。

 

「こら、ユウナ! ちゃんと受け取りなさい、ほら!」

 

「きゃっ! あっ、は、ひゃやてしゃん」

 

「ひゃやて」

 

「あっ、ちっちがっ!」

 

「ユウナしゃん、これあげる。モルモルのジュースだってさ。まったく味が想像できなくてつい買っちゃったけど大丈夫かな」

 

「あ、は、は、はいいぃぃ…」

 

顔を俯けながら、それでもちゃんと両手でジュースを受け取るユウナ。

 

「もう、ほんとにこの子ったら…。しっかりしなさい」

 

「だ、だってルールーが変なこと言うから…」

 

「変なこと?」

 

はやては何のことか分からないと聞き返すが、ユウナは顔を真っ赤にして俯くばかりで返事をしない。耳を澄ますとぽそぽそ何かを言っているように聞こえるが、肝心の内容は全く聞き取れなかった。

 

「気にしないであげて。それよりあなた、はやてといったかしら。ありがとう、この子の面倒を見てくれて」

 

そういってルールーは柔らかく笑った。

 

はやてにとって、それはとても意外だった。ゲームの中のルールーは、どこか冷たいイメージがあったのだ。まさしく「魔女」といったような雰囲気で、言葉も少しきつかったような印象だった。クールビューティといえば聞こえはいいかもしれないが、排他的な性格だと言えるような言動をルールーはとっていたように思える。

 

少なくとも、ルールーが今のように、見る人すべてを魅了するような、優しさに包まれるような笑みを浮かべているシーンなど、はやては全く覚えていない。

 

なるほど、ユウナも懐くはずだと思った。

 

「いいや、気にしなくていいよ。結局僕はユウナちゃんに助けてもらっただけで全然力なれなかったけどね」

 

「そんなことはないわ。少なくとも、変な虫は追っ払ってくれてたじゃない」

 

「……さすが、黒魔導士ってところかな。分かりやすかった?」

 

「魔力の流れが、ね?」

 

「勉強になります」

 

やっぱり分かる人には分かるのだろう。

ユウナに近づく輩はたまにいたが、そのたびに適当な魔法で追っ払っていた。黒魔導士としてのルールーにはそれが知覚できるのだろう。

 

機械に囲まれているサルベージ船内では気が付けないことだった。

 

「でも、それを見てたってことは割と早い段階で僕らを見つけてたんじゃないかな?」

 

「ええそうね、そのとおり」

 

「声をかけてあげればよかったのに」

 

「ふふ、なんというか、憚られたのよ」

 

「…ああ、そういうことか。あ、だからユウナちゃん」

 

「そういうことよ」

 

ルールーはユウナの頭をなでる。

いじわる、という小さい声が聞こえた。

くすくすと笑うルールー。

 

(イメージが違うな。下手すりゃキャラ設定が改ざんされたレベルだ。それとも僕の勘違いだろうか? ゲームでもこんな感じだったのかもしれない)

 

はやてはルールーの振る舞いに少し違和感を感じたが、ゲームとリアルの微々たる差異だと思いなおし、気にしないことにした。

 

「まあ、ちゃんと合流できたわけだし、いいんだけどね。じゃあ、僕は行こうかな」

 

はやてはユウナが座っていたベンチに近寄り、買い物袋を抱えて二人に向き直った。

 

「じゃあ、今日はありがとうねユウナちゃん。また、どこかで会えるといいね」

 

「ちょっと、ほら、彼が行くわよ。あいさつしなさいな」

 

「…え? あ、こっ、こちらこそ! 今日は本当にありがとうございました!」

 

 

ルールーに促されて我に返ったユウナは、いつの間にか帰る支度をしていたはやてに気が付いた。はやては何か可笑しそうに笑っていたが、うん、と一つ頷くと、踵を返して港の方まで歩いて行ったのだった。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

「引き留めなくてよかったの?」

 

「もう! ルールーのいじわる! 早く帰ろう!」

 

拗ねてしまったかわいい妹に、ルールーは心が温かくなりつつも、意外とあっさり去ってしまった男の事を思い出していた。

 

ルールーは、少しだけはやてに感謝していた。

最近のユウナは、時々、思いつめたような顔をしていることがあったのだ。それとなくユウナに声をかけることもあるが、そういう時のユウナは決まって、ごまかすような笑みを浮かべるのだ。

 

彼女の背負う使命とその重圧を考えると、何も言えなくなり、また召喚士として成就するためには避けては通れない道であることは重々承知していたため、ルールーはただユウナを信じてあげることしかできなかったのだ。

 

それがとてももどかしく、ルールーとワッカの最近の悩みの種だった。

今回の買い物も、わざわざ少し遠出したのはユウナの気分が少しでも晴れることを期待してのものだった。そしてそれは、とても良い結果で終わったのだった。

 

本当に楽しそうに笑ったユウナを見るのは何カ月ぶりの事だろうか。

 

知らない男にトコトコとついていくユウナを見たときは、ひどく焦り、あとで強く叱らないとと思いながら黒魔法の詠唱を始めたルールーだったが、その男がまたしても人ごみに攫われそうになったユウナを助けてあげたり、ユウナの為に歩きやすいようわざわざ人をかき分けたりする様子を見ると、少しだけ様子を見ようという気分になり、そしてユウナを気遣って屋台の果物や商品に一々大げさに驚いて見せ、楽しそうに屋台を巡るユウナを見守る姿を見てしまうと、何故だか、今だけは任せてしまおうという気分になってしまったのだ。

 

楽しそうに屋台を巡るユウナが、年相応に、幼く見えたのだ。

 

ただ、それでもルールーは気を抜くことができなかった。

はやてを取り巻く魔力の流れ、そして引き起こされる現象が異常だったからだ。

 

はやてがスリや暴漢に対し、ユウナに気づかれないよう魔法を行使していたことには気が付いていた。そのさりげなさと魔法行使の姿勢には関心したものだったが、しかし、はやてがどんな魔法を使ったのか、それがルールーには全く分からなかった。

 

ルールーにとって、いや、この世界の魔導士にとって、魔法を使うという事は空気中に解けている魔力の素を体内の魔力と練り合わせ、必要な手順の詠唱を踏んで、決まった現象を引き起こすというものである。

 

その熟練度によって行使できる魔法は変わるわけだが、どんな魔法を唱えるにしろ、その基本的な手順は変わらない。また、上級とされる魔法を唱えることはできなくとも、その手順を見て取ることは可能であるため、既存の魔法の存在とその効果の情報は、ほぼ全て開示されている。優秀な黒魔導士であるルールーにとって、今は技量不足で上級魔法を詠唱できなくとも、発現された魔法の種類と効果を見て取るくらい簡単なことだった。

 

しかし、はやての魔法の行使については、何一つ理解できなかった。

本来であれば外と内の魔力を練り上げて魔法は放たれるのだが、はやてが魔法を使った時、その周辺の魔力は全く変化していなかった。

 

これは魔導士にとって理解できないことだった。水面を叩けば波紋ができるように、魔法を行使すれば、必ず周囲の魔力も影響を受ける。

 

にもかかわらず、はやての周りには何の変化もなかったのだ。

 

しかし、魔法は間違いなく行使されていた。

ルールーも気が付いていたスリや悪漢は、急に歩けなくなったり、行動できなくなったりしたのだ。地面に縫い付けられたように、あるいは()()()()()()()()()()()されているように、スリや悪漢はとても不自然な形で動きを止めていた。

 

 

決まって、はやてが目を向け、指を向けたときに。

 

 

間違いなく、魔法は行使されている。

しかし、世の理から外れている。

 

 

そう気が付いたとき、ちょうどはやてがユウナをベンチに座らせてユウナから離れたため、ルールーは合流したのだ。

 

正体不明の男からユウナを取り返すために。

 

 

「ルールー? どうしたの?」

 

 

ユウナがルールーの顔をのぞきこんでいた。

ルールーは自分が考えにふけっていたらしいと気が付き、頭を振る。

 

「なんでもないわ。さあ、帰りましょう」

 

「うん!」

 

ユウナが嬉しそうに笑う。

 

(きっと、悪い人ではないのでしょうね)

 

ユウナを明るくしてくれたのだから。

ルールーのよく知るユウナが戻ってきたのだから。

 

(けれど………)

 

また会いたいとは、とても思えなかった。

 

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