FFX スピラを旅する異世界人   作:カムパネルラ321

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サルベージ船⑧(修正済)

サルベージ船に戻ってきたはやては、頼まれていた物資や雑貨をアニキたちに手渡した後、船内を歩き回っていた。はやてが戻ってきてすぐに船は出港したため、船内は少し慌ただしい状況にある。アニキに物資を渡した際に、はやてはこの船が次の目的地となる遺跡に急行していることを聞いた。アニキの話によると、その遺跡にある物は今後の探索に必要不可欠な「あるもの」を探すための通信機のようなものらしく、さらに、他のトレジャーハンターたちがすでに遺跡に乗り込んでいるとのことで、通信機が他の者に取られないよう、サルベージ舟は急いで向かっているのだった。

 

そのようなこともあり、はやては買い物を頼んできた仲間たちに雑貨をすぐに受け取れない者は自分の部屋の机の上に置いておくから落ち着き次第取りに来てほしい旨を伝え、自身も何か手伝おうと仕事を探して歩き回っていた。

 

しかし、船員としての専門知識などないはやてにできることなどほとんどなく、精々あちこちに移動しながら疲れた様子の者にケアルをかけたり、必要な人にはヘイストをかけて作業効率を上げたりすることしかできなかった。

 

はやては力不足を感じていたが、船員たちにとって、上陸後に遺跡を探索することを考えると「疲れない」ことは大変ありがたいことだったため、船員たちは皆はやてに感謝していた。

 

「あ! ハヤテン!」

 

船内を歩き回るはやてをリュックが見つけて声をかけた。

 

「リュック! 何か僕にできることはあるかい?」

 

はやてがサルベージ船に戻ってくる少し前まで、お姉さんたちと「大切なお話」をしていたリュックだったが、アニキから遺跡への急行命令が下されてからは、人一倍船内を駆け回って他の船員をサポートしたり指示を飛ばしたりしていた。

 

「えーっと実はもう上陸体勢に入るところだから、今は大丈夫かな? 遺跡に入ってから、ガンガン頑張ってもらうんだからね~!」

 

「そっか、うん、了解。魔法くらいだったら、いくらでもかけられるからすぐに教えてね」

 

そういってはやてはリュックにケアルをかけた。

 

「わっ! あ、なんだか疲れがとれたかも! ありがとね!」

 

えへへ~! と笑顔を咲かせたリュックははやてに抱きついた。

 

「じゃあ! デッキの人たちがたぶん疲れてるかも~だから、回復して…あげ……」

 

「ああ、そっか、デッキはすっかり忘れてた…って、リュック?」

 

抱き着いてはやてを見上げていたリュックだったが、急に押し黙ったかと思ったら、抱き着きなおし、今度ははやてのお腹に顔をうずめ、また静かになった。

 

「リュック? どうかした?」

 

「…………なんか、においがする」

 

匂い? と首を傾げたはやては問いかけた。

 

「そう? 僕は分かんないな…」

 

「するよ。なんか、香草みたいな、甘いみたいですっきりするにおい」

 

「え、するかなあ……? 僕の服からだよね?」

 

「そうだよ、ハヤテの服からしかしないもん」

 

香草というからには、臭くはないのだろう。ひとまず自身の体臭ではないようだとこっそり安堵するはやて。

 

「うーん。なんでだろう。あれかな、さっき市場の人ごみがすごかったから、どこかで誰かの香りが移ったのかもしれないね」

 

「……………ま、いっか! なんかモルモルっぽいにおいもするしね!」

 

「おぉ! やっぱり分かるのかな、モルモルジュースを飲んだよ。いやいや、見た目と名前の割には美味しかったなあ。りんごとマンゴーを足して薄めたみたいな味で…」

 

モルモルの味を思い出しているはやての顔を眺めていたリュックだが、はやての表情に納得したのか、一つうなづき、再度はやてに抱き着いて顔をはやてのお腹にこすりつける。

 

「んみゅむむむぬむむぬ」

 

「ちょ、な、なにしてるのかなリュックちゃん」

 

すこしくすぐったく感じたはやてだが、リュックはすぐに離れて、満足そうな顔をした後、装備を整えてくると言ってはやての下から離れていった。

 

リュックの言動に置いてけぼりにされたはやてだったが、ひとまずはリュックの言う通りデッキに向かって船員たちにケアルをかけてくることにした。

 

 

デッキに出て、皆にケアルとヘイストをかけたはやては、船の進行方向を眺めていた。遠くに、小さい島が見える。デッキにいた仲間に聞いたところ、その島が今回探索をする遺跡らしく、もうあと1時間もしないうちに到着するらしい。

 

はやてが船に乗り込んでから数時間しかたっていない。はやては思っていた以上に遺跡と先ほどの港が近いことに驚く。

 

「いや、この船が早いんか。なんというか高速船並みに出とるもんなあ、スピード」

 

それだけ急いでいるという事なのだろう。今回の探索に向けたアニキたちの強い想いが伝わってくるようだった。

 

「準備しとくか。せめてプロテクターくらいは装備せんとなあ」

 

はやては装備を整えるために自室に戻る。

 

重たい装備服を着ることに慣れないはやては、軽装で動くことを好む。しかし、アルベド族たちとは違って、身のこなしが軽いわけない。安全面から、リュックたちはたびたび重たい装備服を着るようはやてに勧めるが、慣れない装備を着て本来の力が出せなければ本末転倒であり、そもそも自分は魔法使いであるため軽装で十分だとはやてに逆に説得されては、リュックたちも何も言えなかった。

 

ならばせめてプロテクターを付けろと、アニキ直々に忠告されてははやても無下にもできず、遺跡探索に出る時は動きやすい服装の下にプロテクターをつけるという軽装備が、はやての常だった。

部屋で装備を整えていると船内放送で上陸までまもなくというアナウンスが流れた。はやては今一度装備と戦闘用メモを確認し、デッキに向かう。

 

デッキに出ると、遺跡がすぐそばまで見えていた。はやては首にぶら下げている双眼鏡で陸地を見る。

 

建物らしきものの残骸と、大きな洞窟らしき入り口が見えた。

洞窟内は本来暗いようだが、サルベージ船から射出された自立式投光機のおかげで、ある程度の明るさは確保されている。入り組んでいるようで、さすがに奥の方までは見えないが、各班に2台ずつ投光機がつくので、明かりの心配は必要なさそうだった。

 

ここから陸地まで、泳いでいこうと思ったら行けるなあとぼんやり考えながら、はやてはデッキ中央にあつまるリュックの班に合流した。

 

「あ! ハヤテ! おそ~い!」

 

「え、あれ? ごめん、遅れてた?」

 

「遅れてないけど、あたしたちは最初に乗り込むんだから、早く来ないとなんだぞ~!」

 

ぷんぷん! と怒って見せるリュック。

しかし班員含めた周囲はほわりとした笑顔だった。

 

「そうだっけ。ごめん、ごめん、気を付けるよ」

 

「そうしなさ~い」

 

そういってふんぞり返るリュックをくすくすと笑う周囲の仲間たち。手を振り回しながらハシ カナッセンオラ~!と抗議するリュックだが、どうも締まらない雰囲気だった。

 

そうこうしているうちに、サルベージ船はゆっくり停止し、船員たちはデッキから陸上に直接飛び移り始める。リュック班も飛び移ると、一度集合し、今回のミッション概要を共有する。リュックによると、自分たちの班は今回、めあての物の発見と遺跡内部の情報を持ち帰ることが最優先任務であり、魔物の生態調査やマッピングを機械で大まかに行いつつ、可能であればめあての物の捜索を行えれば十分とのことだった。

 

リュック班の後続は、持ち帰られた情報やマップを基に、より深い探索を行うらしい。

 

「つまり僕らの仕事は斥候のようなものかな」

 

「そうで~す! 今回は特に、戦闘にも時間を使わない方向でいくよ~」

 

詳細よりも素早さが最優先されるため、魔物との戦闘は極力避けるか、積極的に消耗品を用いて短期に戦闘を終わらせることが求められるとのことだった。

 

ブリーフィング中、はやては班員たちに、今回は最低限の会話ですませることを伝えた。素早さが求められるこの任務中はもたもたと話をするべきではないと考えたのだ。班員たちも二つ返事で了承し、基本的には単語単位の意思疎通か、リュックとの会話のみを行うことで合意した。

 

「ギャ、ミッセイモ~!」

 

3人2列を組み、遺跡へと進入するリュック班。入るとすぐに冷えた空気を肌身に感じた。寒いというほどではないが、外気温との差が大きい。水には濡れるべきではないなと思いながら、はやては班員と足並みをそろえた。

 

 

 

遺跡内ははやてが想像している以上に入り組んでいた。まさしくダンジョンというべきか、マッピング用機械がなければとっくに迷っているとはやては確信している。少なくともはやてはどのルートを通れば出口に戻ることができるのかよくわかっていない。万が一にも仲間とはぐれないように気を付けながら進む。そして、すぐに洞窟内の複雑さよりも厄介な問題が浮上した。

 

「くっ!ヨオクァール、ユモミボ!」

 

「ヤロフコ アハニ チョフニョル モ! ラテセ!」

 

遺跡内に生息している魔物たちが、予想以上に強かったのである。

 

リュック班は、はやての汎用性の高い魔法のおかげでほとんど魔物と戦闘することはなかった。しかし、通路上に立ちふさがっている魔物や、魔法で姿や足音を消してもなぜか感知して襲い掛かってくる魔物との戦闘は避けられず、リュックたちはやむなく戦うことになったのだが、その魔物たちが強力な攻撃を仕掛けてくるのだ。一度でもまともに食らえば、退却は免れない。

 

幸い、大きなけがをした班員はまだいないが、リュックたちの武器では歯が立たないことがほとんどで、攻撃ははやてに頼りきりという状態だった。魔物一体に対して班全体で対処する場合はともかく、複数の魔物に囲まれると、はやても仲間を巻き込まないように配慮しつつ的確に魔法を当てる必要がある。魔力に問題は無いのだが、戦闘回数が10回を超えると、はやても判断ミスをしてしまうようになった。

 

目測がずれて誤って魔物を回復したり、仲間を攻撃に巻き込みそうになったりするのだ。

 

班員が怪我をした場合、はやての魔法で治癒が可能だが、もしはやてが魔物の攻撃を受けて気絶などした場合、リュック班は一気に瓦解することになる。

 

リュック班の班員は皆戦闘能力が高いため、普段の探索では全滅を心配することなどまずない。精鋭の集まりといっても過言ではないこの班は、その能力とチームワークの高さから船内でも一目置かれているのだ。

 

しかし、それでもこの遺跡内ではリュックたちには少しの余裕もなかったのだ。

 

「ぅぐっ?!」

 

「——っ?! ケアルラ!」

 

「きゃああぁっ!!?」

 

「なに?! もう一体いたのか!」

 

「もっといる! ハヤテン! 囲まれてるよ!!」

 

「ちっ! ずいぶん賢く動きやがる!」

 

クァールに突撃された班員の一人が大きなうめき声をあげた。

はやてはすぐに回復させるも、今度は陰に隠れていた別のクァールの魔法によって、また別の班員が攻撃を受けた。魔法を直接受けてしまい、さらには威力も高かったのか、その場に倒れるように気絶してしまった仲間を、リュックは庇いながらクァールを牽制している。

 

リュック班は複数のクァールに囲まれてしまった。場所が視認できればはやての魔法で攻撃できるのだが、カエルへと変えられたクァールを見てた他のクァールたちは岩陰に隠れて移動したり、陰に潜むことで魔法から逃れようとしている。その上で遠距離から魔法を撃ってくるのだ。

 

はやては魔物の知性の高さに驚きつつ、クァールを牽制しながら気絶した仲間にアレイズをかける。仲間は目を覚ましたが、その動きは少しおぼつかない。

 

遺跡の深度は未知数。魔物の危険度は今までにないくらいに高い。回復はいくらでも可能だが、一撃でも食らえば戦闘不能に陥り、最悪の場合はやてを残して全滅ということも十分考えられる。

 

班員の一人がリュックに問うた。

 

「リュック、ゴフヌウ」

 

「……セッサミ。インハシ ユサネハミソ」

 

「セッサミ、ニョフアミ」

 

「セッサミ、ニョフアミ」

 

「セッサミ、ニョフアミ」

 

「セッサミ、ニョフアミ」

 

リュックは撤退の判断を下した。予想をはるかに超えて魔物が強靭だった。ここまで探索できたのははやての魔法があったからこそ。本来であれば、リュック班ですら進めなかったのだ。

 

このままではリュックたちの後に続く班が壊滅的な被害を受けてしまう。

ここまでの進度と魔物の情報を早急に持ち帰り、新たに作戦を考える必要がある。

 

「…ガダ ゴフキサコオア」

 

誰ともなく呟いた。

どこにいるのか分からないクァールに狙われている現状、背中を見せて撤退しようものなら間違いなく攻撃を仕掛けてくる。攻撃をいなしながらどうにか撤退したとしても、道中で別の魔物に遭遇してしまう可能性も十分すぎるほどある。

 

撤退するにしても、進むにしても、

この状況を打破しなければならないのだ。

 

「リュック、撤退するんだね」

 

はやてが闇を見つめながら命令を再確認した。

 

「うん、魔物が強すぎる。あたしたちははやてのおかげでここまで来れたけど…」

 

「他の班はそうもいかない、ってことか」

 

「うん、でも一回帰るにしても、こんなにクァールがいたら……」

 

「リュック」

 

「うん? なに?」

 

 

「撤退したとして、再攻略できる?」

 

 

「え、え~っと…」

 

 

はやては、リュック班からの情報を基に、サルベージ船のアルベド族たちが装備を整え、対策を講じたとしても、この遺跡を踏破できるとは考えにくかった。

 

今回の探索で最もネックになっているのは、魔物たちの強さそのものである。

戦闘を避けるにははやての魔法が最も効果的だという事はこれまでの探索で分かったことだ。はやての魔法以上に隠密性を持たせることができる方法などあるのだろうか。

 

なにより、はやてのステルス性を見破るほどの感知力と精鋭を一撃で倒してしまうほどの攻撃力を持つ魔物たちを退けながら、どこにあるとも分からない「めあてのもの」を探しまわることなど、とてもではないが想像できなかった。

 

はやては、班員たちに目を向ける。

 

誰もみな、心が折れていなかった。

任務のために、命を懸ける覚悟が感じられた。

 

「…その、できるかどうかは、わかんないけどさ。でも、きっとだいじょーぶ!」

 

リュックはぱっと明るい笑顔を見せた。

 

 

 

「あたしたちは、いつだって一緒に頑張ってきたんだから~!」

 

 

 

その言葉の中の記憶を、はやては知らない。

だが、リュックの笑顔の源になっているのなら、守りたいとは思った。

 

 

 

はやては深呼吸をする。

覚悟を決めた。

 

 

 

「と、とにかく、帰らないと! クァールたち、見逃してくれたりは……」

 

 

 

「リュック、めあてのものって、どんな形?」

 

「……え?」

 

「僕らが捜してるものだよ。通信機で、片手サイズの長方形ってのは聞いたけど、ほかにも詳しいことを知ってたら教えてくれる?」

 

「え? え、えと、通信機? えーっと、えっと、あ、たしかスフィアが埋め込まれてるはずってアニキが……」

 

「なるほど、了解」

 

はやては妙に落ち着いている。

 

「…で、で、で、でも、まずは帰らないと」

 

「大丈夫。すぐに帰れる魔法があるんだよ」

 

はやてはそう言って、さらに他の班員たちにも説明し、リュックを中心に小さく固まるように促した。

 

「リュック。たぶん大丈夫だけど、一応それぞれの服とか掴むように言っといてね」

 

「え、う、うん…」

 

「インハ リュック キッアニ ユアンベ」

 

「……ハヤテ、トヤネマ ゴフヌウユコニガ」

 

班員の中でもそれなりに年を重ねた者が、はやてはどうするつもりなのかと問う。

これまでに何度も感じてきた雰囲気をはやてから感じ取ったのだ。

 

それは「覚悟」を決めた者が纏う雰囲気。

 

「サンラル ユグテウ」

 

「だっ! だめだよそんなの!! なんで?!!」

 

はやては1人で探索を続ける。

そう理解した瞬間、リュックが考えるよりも前に、その口から勝手に引き留める言葉が飛び出した。班員たちは反射的にリュックを押さえた。

 

「だめ、絶対ダメ!! あぶないよ! みんなでかえろうよ! アニキと相談したら、きっっと…!」

 

「いや、リュック、勘違いしないで。何も別に対策が無いわけじゃないよ」

 

「ふぇ?」

 

リュックの必死の呼び止めに、はやてはあっけからんと答えた。

 

「うん、実は一人だったら、この状況も対処できるし、遺跡探索も安全かつ迅速にできそうなんだよね」

 

「え、ど、どういう…」

 

「詳しい説明は省くけど、そういう魔法があってね。ただ、全員分…というか同時に複数人へ魔法をかけ続ける管理が難しくて」

 

ようはバフ管理ってのが下手なんだよねえ、とのほほんとするはやて。

 

「まあ見せたほうが……いや、そう悠長なことも言えないか。とにかく、一人なら、攻撃を食らわないでこっそり移動しつつ探索できるんだ」

 

「え、で、でも、でも」

 

「このままだと後続の班が続く。リュックはそれを止めて、アニキに状況を説明してほしい」

 

クァールたちが少しずつ間合いを詰めてくる気配を感じる。あまりのんびり話はしない方がいいだろう。

 

「戻り次第、僕のトランシーバーにつないでくれる? リュックには船内から指示を出してくれるとありがたい」

 

はやてはなにも無謀なことをしようとしているのではない。

それに船に戻ってからも、リュックには、はやての為にできることがあるようだった。

 

「……‥ぜったい、けが、しないで帰ってこれる?」

 

「だーいじょうぶ。リュックも船に帰ったら通信よろしくね」

 

「……うん!」

 

まだ不安そうな顔をしている。

それでもはやてを信じることにしたのだろう。

自分の服のすそを悔しそうに握りながら、リュックは努めて笑顔を見せた。

 

「じゃあ、すぐ送るよ。クァールたちが今にも飛び込もうとしてるしね。えーっと………、エー…、あ、六式:テレポ」

 

光がリュックたちを包み、体が少し浮いた。

班員たちは不思議な力に戸惑っているが、リュックは気にせず口を開こうとする。

 

「ぜったい、かえってき…」

 

最後に何かを言いかけたが、言い切る前に、遺跡外へと転移した。

 

「……さて、と」

 

周囲に静けさが染み渡る。

聞こえてくるのはどこかで滴る水滴の音。

 

そして、獣のうなり声。

 

「僕の戦闘経験が足りないのか、もともと一人の方が都合がいいのか。万能そうに見えて、意外とそうでもないんだな、僕の能力は」

 

突然人間が消えたことにクァールたちは驚いて警戒していたものの、弱そうな人間一人が残ったことを認識すると、何匹かが岩陰からのそりと出てきた。

 

はやてをみて、隠れる必要がないと判断したのだろう。

 

「圧倒的に戦闘経験が不足してることにしよ。精神衛生的にその方が良さそうだ」

 

顎に手を当ててぶつぶつとつぶやくはやてに、危険性はまるで感じられない。そのうち、陰に隠れていたクァールが一匹飛び出した。豹のような見た目を裏切らないスピードで、あっという間にはやてへ飛び掛かる。

 

他のクァールたちは距離を開けて遠距離から魔法を撃ちこむ算段らしく、バチバチと辺りに放電しながらひげを持ち上げている。

 

飛び掛かろうとするクァールの爪が、はやてに届くその瞬間。

 

 

「七式:シールド」

 

 

ギャァン!?!

 

 

飛び掛かったクァールは、その爪がはやてに届いた瞬間、強く弾き飛ばされた。すぐに立ち上がろうとするが、もがくばかりで一向に立ち上がれていない。前足があらぬ方向に折れ曲がっていた。

 

「よしよし、物理はちゃんと反射されてるな」

 

はやてが納得していると割れんばかりの轟音と共に、はやての頭上に雷の塊が現れた。

しかし、すぐに雷ははやての身に溶け込む形で消えてしまう。

 

「で、魔法は吸収……してるのかこれ。特に変化は感じないけど」

 

何となくこぶしを作ったり開いたりしているが、何か変わった実感はない。

 

「究極の防御魔法は何か……ね。ま、確かにアイツの意見も分かる」

 

はやてが使った魔法は【シールド】と呼ばれる防御魔法である。FFⅦでのみ登場するその魔法の効果は絶大で、物理攻撃は受けなくなるし、魔法攻撃はすべて吸収してしまう。はやての弟はこの魔法をしばしば究極の防御魔法として話題に挙げていた。

 

「が、ゲームでこの魔法を入手できるのは最後の最後だし、鬼のようにMP消費するし、無属性で死ぬし……もっと良いのがあるのですよ」

 

はやては究極の防御魔法魔法として別の魔法を支持しているが、今はそれどころではないと考えなおし、クァールたちに向き直る。

 

「じゃ、試してみるか。七式:ファイア」

 

地面に倒れ込んだクァールに向けてファイアを放つ。1mほどの炎の塊が現れ、クァールの体を強く焼いた。クァールは辛そうな声を上げるが、それほど強い威力でもないようだ。

 

「七式:ファイア」

 

はやては再度ファイアを唱え、クァールを焼く。しかし今度は目を閉じて、その場でクルクル回りながら唱えた。

 

「…おー、目を閉じてもあたるのか。なるほどなあ。対象を空間にせんで魔物そのものに意識を向けたら魔法は当たるのか。便利だな」

 

トードでクァールの一匹をカエルにしてから、はやてが撃つ魔法はしばしば避けられた。リュックたちと遺跡を進みながら、その原因についてはやては考えていた。

 

(魔法が効かないことはよくある。けど、魔法が避けられることなんかあるのか?)

 

少なくともFFのゲームでは魔法そのものが外れることはなかったはずだった。

 

(………いや、ある。魔法が避けられることがあった。FFTがそうだ)

 

FF Tでは魔法を唱える際、その対象を2種類選択できる。

キャラそのもののを対象にする「ユニット」か、その場を対象にする「エリア」かだ。

魔法が避けられるのは、対象をエリアにした時だ。魔法が発動するまでにいくらか猶予があるFF Tでは、予測を見誤ってしまうと誰もいないエリアに魔法を発動したり、発動までに魔法の攻撃範囲からユニットが移動してしまうことがある。

 

こうしてFF Tでは魔法は発動しなかったり、避けられたりするのだ。

 

はやてはトードが避けられた原因はそこにあると考えていたのだ。

この世界に来て、初めて魔法を使った時は「空間」を対象として練習していた。それから攻撃魔法を発動させるときは無意識的に空間を対象にしていたが、実際はユニット、つまり魔物そのものを対象にする方が確実なのではないかと気が付き、目の前のクァールで確認してみたのだった。

 

「ふんふん、回復魔法もいけそうだ。早く気づけばよかったのに」

 

FFXで魔法が外れなかったのは魔物そのものを対象にしていたからだろうか。それともゲームの世界だからだろうか。いずれにせよ、これで魔法が外れることはなくなったわけである。

 

「じゃ、ぱぱっとやるか。ブリザガ」

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「よし、ひとまず落ち着いたかな」

 

 

魔法が的確に当たるようになってからは早かった。攻撃はすべてシールドによって無効化されるため、はやては固定砲台のようにひたすら魔法を放ちまくり、クァールを殲滅した。時々、クァールの鳴き声に誘われて他の魔物がやってくることもあったが、はやてはひたすら魔法を放ち、気が付けば周囲は氷の塊であふれていた。

 

リアルじゃ消えんのかと文句を言いながらファイラで氷を溶かしていると、トランシーバーに通信が入った。

 

「…もしもし、こちら、はや…」

 

『ハヤテッッ‼‼ 大丈夫⁈ 聞こえる!!?』

 

「んぅおあ⁉」

 

トランシーバーをONにした瞬間、リュックの叫び声があたりに響いた。耳のあたりに近づけていたため、リュックの声が右耳から左耳に突き抜けたように感じたはやてだった。

 

『ハヤテ! ハヤテ聞こえる?!!』

 

「ちょ、リュック、大丈夫大丈夫聞こえてるよ。ああ、びっくりした」

 

『けがはない?! 魔物は?!!』

 

「落ち着いて、リュック。クァールなら全部倒したよ。けがもなし」

 

『ほんと?!』

 

「ほんと」

 

『ほんとにほんと?!』

 

「ほんとにほんと。大丈夫だよ、リュック。傷一つない」

 

努めて安心させるように言うはやて。

 

『………』

 

「あれ? リュック聞こえる?」

 

『……………………』

 

「あれ? 通信状況悪いのかな… おーい」

 

『…………くすん』

 

すすり泣くようなリュックの声がかすかに聞こえた。

はやては大いに焦る。

 

( お、おかしい……。リュックの泣き声が聞こえる…… )

 

「ちょ、あの、リュックさん? あれ? 大丈夫? 何かあった?」

 

トランシーバーを手にあたりをフラフラと歩き回るはやて。

 

『………もう! 心配したんだからね~!』

 

すこし声が遠ざかっていたが、すぐに元の明るい声が聞こえてきた。

はやては心底ほっとして、トランシーバーを腰に括り付ける。

 

「言ったでしょ。一人の方が安全だってさ」

 

『そうはいっても心配は心配なんだよ~』

 

「まあまあ。でも、ありがとうね」

 

『いいよ! ハヤテも怪我がないなら! あたしだけじゃなく、みーんな心配してたんだからね!』

 

ホフガボー、という声が聞こえる。どうやら本当に皆に心配かけてしまったようだとはやては自覚した。嬉しいような、申し訳ないような、不思議な気持ちだった。

 

「そっか。みんなにありがとうって伝えておいてね」

 

『スピーカーに繋いでるから全員聞いてるよ』

 

「ワニダソフ インハ ワミキセウ」

 

『ちょ、な、なに、なにいってんのさ~!』

 

トランシーバーの向こうで野太い歓声と共に トエナコ ワミキセウゲネ~~!! というラブコールが響いている。悲しいかな、女性の声は聞こえてこない。ばたり、ばたりと何かが倒れる音がするだけである。

 

『カ、カアッセウッセーオ! ゼユシ ワアルハミ! ワアルハミッサナ~!』

 

「あれ? 遠くて聞こえませんよー? もしもーし?」

 

『キッソハンア キセハ~~~ミ!』

 

今度はきゃあきゃあと囃し立てる声とドタバタした音が聞こえる。

 

はやてが聞こえてくる喧噪に困惑していると、アニキが通信に出た。

 

〈 ハヤテ、事情は把握してるぞ。負担をかけて、すまん 〉

 

〈 アニキ。いや、問題ない 〉

 

〈 助かる。スムーズな通信の為にリュックを通すぞ 〉

 

〈 了解 〉

 

ある程度アルベド語が分かるようになったはやてだが、今はまだ共通語の方が誤解が少ない。早めにマスターして、皆と雑談に興じることが最近のはやての目標だった。

 

 

『はあ、はあ、はあ、ん、もう!』

 

 

「……リュック、大丈夫?」

 

『だ、だいじょ~ぶだいじょ~ぶ。えっと、通信手はあたしが担当するね!アニキからの指示をハヤテに伝えるから!』

 

「うん、了解。よろしくね」

 

『まっかせなさ~い!今はどういう状況?』

 

はやては簡単に状況を説明した後、遺跡をさらに進む旨を伝えた。はやての周囲に浮かんでいるマッピング用機械がリアルタイムで周囲の地形情報をサルベージ船に送信しているため、はやての位置も把握できているという。

 

はやてはリュックの指示に従って、遺跡を進み始めた。

 

『それにしても驚いたよ~。あたしたち、かなり深いところまで潜ってたみたい』

 

「ほー。まあ極力戦闘は避けてたしね。皆ヘイストかかってたし」

 

『うんうん。ただね、アニキが変だなあって』

 

「変? 遺跡が?」

 

「いや、あたしたちさ、ほかのトレジャーハンターを見てないじゃん?」

 

言われてみれば、確かに見ていない。

 

『外には結構いるんだ。でね、皆口をそろえて「帰ってこない」って言ってる』

 

「それって……」

 

魔物が強いこともある。

もしかしたら、そういうことなのかもしれない。

 

『たぶん。でも、かなりの人たちがいなくなってるのに、あたしたちは()()()()()()んだよ。班のメンバーに確認してみたけど、やっぱり誰も何も見てないって』

 

どういうことなのだろうか。

魔物に襲われたとしても、武器や防具などは落ちているはずだ。

人の痕跡は遺跡探索でも重要な手掛かりになるため、見落とすことが無いよう班員は皆目を光らせていたらしい。しかし、かなり深いところまで進んだリュック班が何も見つけることが無かった、というのは何を意味しているのだろうか。

 

『ハヤテ、気を付けてね。何か、いやな感じがする』

 

「ん、了解。会敵、プリン赤、8体。攻撃を開始する。ブリザガブリザガブリザガブリザガブリザガ…」

 

『れ、連発してる……』

 

深いところまで潜っているから誰とも会わないのか、それとも別の要因が働いているのか。いざというときはテレポで逃げられるよう、はやては改めて気を引き締めた。

 

「敵、全滅確認。探索を開始するよ」

 

『きをつけてね』

 

「りょうか……、うん?」

 

はやてが探索を続けようと歩みを進めようとしたその時、強烈な腐敗臭を感じ取った。

 

『どうかした?』

 

「いや、変な臭いがしたんだ」

 

『変なにおい?』

 

「何だろう、腐った肉と果実を混ぜ合わせたような」

 

『————っ?!! ハヤテ! 逃げて!』

 

切羽詰まったリュックの声と、うじゅる、と何かを引きずる音が同時に聞こえた。

はやてが正面に投光器を向けると、そこには…

 

『モルボルが近くにいる!!』

 

FFシリーズでも指折りの有名モンスター、モルボルがそこにいた。

 

彼我の距離は30mにも満たない。はやてが投光器を向けたことで、こちらにも気が付いたようだ。道をふさぐようにして立っている。しかも複数。

 

「…………会敵。モルボル、4」

 

原作で見た通り、数メートルを超える巨体で、上半身は大きな口、下半身は見るのもおぞましい触手になっている。FFシリーズファンが想像するモルボルそのもの。

 

だが、はやての記憶にあるモルボルとは少し見た目が異なっていた。

 

「えー…、なんか、()()()()

 

はやてがそうつぶやいた瞬間、モルボルたちが一斉に詰め寄り、【くさい息】を吐いた。

 

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