FFX スピラを旅する異世界人   作:カムパネルラ321

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オヒサシブリデス。
仕事の方がバタバタしておりましたが落ち着いたのでこっそり投稿…
また定期的に更新しますのでのんびりとお付き合いください。


サルベージ船⑨(修正済)

「うげええええええ!!」

 

はやてはモルボルグレートたちの「くさい息」を受けた途端、激しい嘔吐感を感じ、我慢する間もなく胃の中の物を全て吐き出してしまった。目が焼けるように痛み、開いているにも関わらず、視界は闇に包まれている。涙が止まらない。体が内側から破壊される感覚を覚え、胃腸が溶けるようだった。咄嗟にエスナをかけようとするが、なぜか魔法が発動しない。

 

「は、がっ、ぐぇ!」

 

何が起きているのか、何をすべきか、何故ここにいるのか。

意識ははっきりしているのに思考がまともにまとまらない。

 

モルボルグレートたちははやてに攻撃を加えているが、シールドがまだ効いているのか、物理的な攻撃はすべて反射されている。モルボルグレートたちははやてを警戒して距離を開けて様子を窺っている。逃す気はないようだ。

 

『ハヤテ!! 万能薬を飲んで!!!!!』

 

はやての嘔吐が聞こえたのか、トランシーバーからリュックの焦ったような声が響いた。音が脳内で重たく反響したように聞こえ、耳障りだと感じたが、万能薬という単語を拾えたはやては震える手で腰のポーチへと手を伸ばす。

 

どうにか万能薬を口に入れるが、すぐに吐き出してしまう。

胃液に交じって万能薬が地面に転がる。吐しゃ物に赤い液体が混ざっていた。

 

『ハヤテ! しっかり!! 万能薬を飲んだらこっちに帰ってきて!! ハヤテ!』

 

あぁ、うるさい。うるさい。うるさい。

 

足に力が入らず、膝から倒れ込んでしまう。

獲物が弱ったと感じたのか、モルボルグレートの一体がはやてに近づき、触手を大きく振りかぶって打ち据えた。

 

「ぶっ!!!!!」

 

シールドが何度か攻撃を反射していたが、ついに効果が切れたのか、はやては強烈な横なぎを受けて吹き飛ばされる。あちこちの岩に体をぶつけながら、遺跡の壁にぶつかるまで転がり続けた。

 

(がああぁぁ!! 痛ったい!!!!)

 

体のあちこちの骨が折れていることが分かった。攻撃されたことで頭が冴えたはやては、とにかく立ち上がろうと足に力を入れようとするが筋肉や関節が激しく痛んで倒れ込んでしまう。何も見えない。ただ、ぐずりぐずりとはやてにむかってモルボルグレートたちが寄る音が聞こえた。

はやては今までにないほど、命の危険を感じていた。

 

『ハヤテ! 死なないで! 逃げてハヤテ!!』

 

(エスナ、エスナ、エスナ…くそっ! 発動せん!!)

 

体中の痛みに耐えるため歯を食いしばるが、腹に力を入れると吐血してしまう。背中に感じる岩肌を頼りにどうにか立ち上がろうとするはやてだが、モルボルグレート達は追い打ちをかけるように「くさい息」と「消化液」を見舞う。

 

「げ、おぇぇ!!」

 

消化液がかかった肌が焼けるように痛む。鼻を突き抜けるような鋭い刺激臭がしたと思ったら、全身の皮膚に強いやすりで削られているような激痛が走った。皮膚が溶けているのか、炭酸水のガスが抜けるような、シューという音がする

 

吐血が止まらない。また頭がぼやけ、思考も不安定だ。三半規管がイカれたのか、脳が物理的に回転しているようだった。

 

 

 

モルボルグレートの一体が更に「くさい息」を吐いた。

 

モルボルグレートの一体が更に「消化液」を吐いた。

 

モルボルグレートの一体が更にはやてを打ち据えた。

 

モルボルグレートの一体が倒れ伏すはやてをつかみ、その口へと運んだ。

 

 

 

「ご、……こぽっ」

 

何も見えない。

まほうがでない。

 

全身があまりにも痛み、かえってどこが痛いのか分からなかった。。

 

両手両足は本来曲がらない方向へと曲がってしまっている。

目はうつろで、片方は潰れてしまっていた。ぶつぶつとうわ言のように何かを口にしているが、赤く染まった泡が口元に溢れて音が濁り、言葉になっていない。

 

『だめ! だめぇええ!!! ハヤテ!!! ハヤテを離せ!!』

 

通信機が割れんばかりにリュックは叫ぶが、リュックの声はモルボルグレートたちが暴れる音にかき消された。

 

はやてを触手でつかんだモルボルグレートは、ぐぱあ、と大きな口を開いてはやてを飲み込もうとしていた。

 

すると、別のモルボルグレートがその触手をつかみ、はやてを奪い取ろうとし始めた。

はやてを飲みこもうとしていたモルボルグレートはせっかくのエサを奪われまいとモーニングスターを振るように、はやてと触手を振るって、はやてを奪おうとするモルボルグレートを打つと、消化液で反撃される。反撃の余波を受けた別のモルボルグレートが驚き、反射的に関係のないモルボルグレートを攻撃してしまう。

 

いつの間にか、モルボルグレート同士での戦いが始まっていた。

同族間でわざわざ敵対こそしないものの、本来は群れる生物ではないのだ。

 

ハヤテを掴んでいたモルボルグレートに、2匹のモルボルグレートが噛みついた。あまりの痛さに、噛まれたモルボルグレートは必死に暴れて抵抗し、消化液をまき散らしながら触手を振り回す。はやてを掴んでいることも忘れて暴れまわったことで、はやてはその身を何度もモルボルグレートや地面に打ち付けられた。いつの間にか外れていたトランシーバーは、もみ合いになっているモルボルグレートたちに踏みつけられ、粉々になってしまった。

 

(あぁ……、死ぬ。何も見えない。痛みを感じない。死ぬ、死ぬ、死ぬ)

 

振り回されるはやては、すでに痛覚を感じなくなっていた。死に対する恐怖を感じる間もなく瀕死に追いやられ、魔法の使用を禁じられ、いま、はやては絶体絶命の危機に瀕していた。

 

(そう……か、「沈黙」か。く、そが、魔法し、か、使えない、と、こうなるのか)

 

はやてを掴んでいた触手が噛み切られた。はやては地面に投げ出され、ごろごろと転がり、壁にぶつかって止まる。モルボルグレートたちは互いに攻撃し合って、はやてに気が付いていない。

 

(……なにも、み、えないのは、「暗闇」のせい、か。…‥あぁ、思い出した、モルボルだ、「くさい息」だった、のか)

 

轢きつぶされたカエルのように、ぼろぼろの身になったはやては、今更ながら原作での「色違いのモルボル」との戦いを思い出していた。たしか、『シン』の体内で遭遇したことがあった。出合頭に「くさい息」を吐かれ、混乱したアルテマウェポン持ちのティーダによる同士討ちが原因で全滅したのだ。

 

(…………何も、できず、ずっとモルボル、のターンで、ただただ、自滅する、ティーダ達を、眺める、ことしか、できなかった、なあ)

 

『シン』の体内で見かけたはずで、本来のストーリー上ではほとんど見ることが無かった「モルボルグレート」。遺跡などで見たことなどなかったはずだが……と振り返るはやてだったが、すぐにこの世界はゲームのそれとは大きく違うのだと思いなおす。

 

この世界では強い敵などそこらに存在する。

 

当たり前のことだった。

 

(魔法は……だめだ。発動しない。沈黙は、自然回復、しないのか)

 

はやてにとって魔法は唯一の攻撃・回復手段だった。魔法を自由に使えるはやては、比類なき魔導士だった。それがたった一つのバッドステータスで、一般人以下になるのだ。

 

(使い、こなせないと、意味がない……。宝の、持ち腐れ)

 

もはや体に力が入らない。

挽回できる手段は思いつかない。

 

( ……………… )

 

これまでか。

 

いつだって詰めが甘いと反省し、地面の振動を感じながら。

はやては襲い来る、冷たくて仄暗い不気味な感覚に身を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走馬灯だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、

 

 

 

 

弟との思い出が頭によぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「けけけ、俺の白魔ちゃんは物理もいけるのだよ」

 

 

「お、PSPだ。なんのゲームして……いや、白魔導士の周りに敵の死体がたくさん転がってるけど、なにごと」

 

 

「引き出す」

 

 

「まさかの白魔侍」

 

 

「沈黙対策ね」

 

 

「【リボン】はどうした?????? 装備してないのか? 持ってただろ」

 

 

「そんなものは付けておらんでござる。こやつ、侍であるからして斯様なハイカラもんには興味ないのでござる。か弱くも美しい白魔少女と思わせといての切り捨て御免‼ 相手は死ぬ」

 

 

「いやいやいや、魔導士なんだから黒魔とか時魔とかあるでしょ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「けけけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄ちゃんさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体いつから─────()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

( …………………どや顔するなよ )

 

 

 

 

まったく、ふざけた自慢の弟である。

 

 

 

( ………T式:基本技【手当て】 )

 

 

はやての体から沈黙、毒、暗闇が消えた。

 

「七式:フルケア・レジスト・シールド」

 

完全回復し、状態異常の予防と完全物理・魔法防御を行う。

手足はビデオの巻き戻しのように元に戻った。はやては体の調子を確認するようにゆっくりと立ち上がる。多少ふらつくが、問題ない。

 

「T式:聖魔法【マバリア】」

 

リレイズ、プロテス、シェル、リジェネ、ヘイストがかかる。

立ち上がったはやてにモルボルグレートたちは気が付かず、仲間同士で攻撃し合っている。

いや、もともと仲間同士というわけではないのかもしれない。だが、モルボルグレートの生態などはやてにはどうでもよかった。

 

今はただ、殲滅するのみである。

 

「よくもやってくれたな、腐れ植物どもが」

 

絡み合うモルボルグレートたちに歩み寄るはやて。暴れまわっていたモルボルグレートの内の一匹がようやくはやてに気が付き、触手を伸ばすが巻き付く寸前で弾かれた。

 

異変に気が付いた他のモルボルグレートも、一斉にはやてに向き直る。

 

「ずたぼろにしてくれて。熨斗つけて返すとしよう」

 

ゆっくりと歩み寄るはやてに対してモルボルグレートたちは「くさい息」と「消化液」を撒き散らすが、まるで効いていないようだった。

 

 

 

「視野の狭さに対する反省として、それから自慢の弟への敬意を表し、」

 

 

 

濃密な殺気がはやてからあふれ出す。

 

 

 

「この世界にない【技】でぶち殺す」

 

 

 

モルボルグレートたちははやてに得体のしれない恐怖を感じた。

本能が逃走の一手をちらつかせる。だが、目の前にいる人間は先ほどまで死にかけていた獲物だ。生半可な知能が本能を蔑ろにしてしまい、はやてなど大したことはないと侮ってその場に留まってしまった。

 

はやては10mほど距離を開けてモルボルグレートたちと対面し、まるで話しかけるように話し始めた。

 

「FFのナンバリングタイトルは面白い」

 

「中でもこの世界は特に思い出がある。僕ら姉弟全員肩寄せ合ってクリアを目指した。僕らはFFXを神ゲー認定している」

 

 

話をしながら、はやては片手を上げていく。

モルボルグレートたちは一匹として退かず、ありとあらゆる攻撃を試みるが、はやてを守護するシールドとレジストが全てを反射し、無効化してしまう。いつしか、モルボルグレートたちには焦りが生まれていた。

 

 

「が、個人的に大好きな作品となると、別でね」

 

 

場の雰囲気に似つかわしくない、柔らかい笑みを浮かべる。

 

 

「実はFinal Fantasy Tacticsが一等好きでね? ラムザをオニオンナイトにするくらいにはハマってた」

 

 

「鬼のように時間をかけたわけだけど、理由があった」

 

 

はやての周囲を高密度の魔素が取り巻く。

濃密な魔素は圧縮に圧縮を重ねた結果、目に見えてはじける

 

 

「物語終盤で仲間になった【あるキャラ】を初めて戦闘に出したとき、少なくない時間をかけて育成したラムザより遥かに使いやすくてさ。なんか、時間を無駄にしたような、みじめな気分になってね……まあ、そのなんだ」

 

「超えてやりたいって思った。あの公式チートを。あの、バランスブレイカーを」

 

魔素がはやての挙げた手に集約し、音を立てて発光しはじめる。

 

 

 

「食らってみろ、神とも称された男の一撃を。理不尽な正義の力を! T式:聖剣技【無双稲妻突き】!!!」

 

 

 

はやてが手を振り下ろすと同時に、紫電がモルボルグレートの一体を襲う。割れるような轟音を立てて、モルボルグレートの全身を焼き尽くすと同時に、足元から突き上げる巨大な剣先が現れ、串刺しにした。モルボルグレートは叫び声をあげる間もなく絶命し、幻光虫と化して空気に溶けていった。

 

さらに倒されたモルボルグレートのそばにいた、他のモルボルグレートたちにも連鎖的に紫電が襲い、同じように足元から突き出た剣先が次々とモルボルグレートたちを葬り去っていく。

 

ひとしきり遺跡内に音が鳴り響き、いつしか静けさが戻ったころ。

はやては眉間に深いしわを寄せて、空中に揺蕩う幻光虫を眺めていた。

モルボルグレートなど、初めからいなかった。そう勘違いしてしまうほど、何事もなかったかのように、静まり返った空気と幻光虫だけがはやての周りに存在していた。

 

 

(永遠に続くかと思った地獄のような時間も、絶体絶命の状況も、これほどあっさり覆される。強い魔法を使えようが、「偶然」が戦況をあっという間にひっくり返し、あっけない決着を迎えることがざらにある)

 

静かな空間とは裏腹に、はやては心中煮えたぎるようだった。

 

(訓練が足りなかった。油断していた。大きな力に胡坐をかき! 中途半端な研究と訓練だけで満足した結果がさっきまでの僕だ!!! 生きて帰ることを少しでも諦めかけた、無様な僕だ!!!!)

 

「くそったれがあぁぁ!!!」

 

はやては激流のような怒りを抱く。当然、自分自身の情けなさに対してである。八つ当たり気味に壁を叩くが、ただ爪が割れただけだった。はやては手の傷に気が付いていない。

 

それほどまでに、怒りで我を失いそうだった。

 

(何をしても、何を犠牲にしても! 僕は元の世界に帰らないといけない!! この世界に来た時のまま、帰るんだ!)

 

二度と油断することがあってはいけない。

 

ただの意地かもしれない。

 

だが、はやては自分と姉弟たちに誓った。

絶対に元の世界に帰ることを。

 

 

あるがままの「はやて」として、姉の弟であるため、そして弟と妹の兄であるために。

 

 

 

二度と、諦めないと。

 

 

 

はやては深呼吸をして燃え上がる炎のような感情を抑え込んだ。

まずは、この遺跡の探索を終えなければ。

 

モルボルグレートたちが塞いでいた道の先へと目を向ける。先ほどの戦いで通信機を兼ねていたマッピング用機械が壊れてしまったため、サルベージ船との連絡が取れない。リュックから指示を飛ばしてもらわなければ、何かと手間がかかるだろう。一度帰還すべきかと考えるはやてだが、すでに遺跡深部まで潜っていること、この先はどうやら一本道であることなどを鑑みて、ひとまず足を進めて切りのいいところまで探索しようと決めた。

 

幸い投光器は生きている。光源さえあれば、それほど苦労しないだろうとはやては考えた。

 

「直接的な戦闘はできるだけ避ける方法でいこう。TA式:狙撃【潜伏】」

 

はやての姿が掻き消える。魔法ではなく、あえて「技」とされるアビリティを使った。魔法以外にも有効的な攻撃手段があることを自覚するためだ。

 

「FFT,FFTAのアビリティなら大体頭に入ってる。積極的に使おう」

 

 

 

はやては気を引き締めて、歩みを進めた。

 

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